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書籍紹介 ステファン =S= イェーガー著 パウル = ティリッヒにおける信仰と説教ならびに 浄土真宗における信心と法話 宗教解釈学研究 ( ティリッヒ研究シリーズ第 2 巻 ) ベルリン / ボストン 2011 年. Stefan S. Jäger, Glaube und religiöse Rede bei Tillich und im Shin-Buddhismus Eine religionshermeneutische Studie 江田昭道 EDA Akimichi 本書は 20 世紀を代表するキリスト教プロテスタント神学者の一人 パウル=ティリッヒ (1886-1965) にとっての 信仰 と浄土真宗の 信心 が 説教 および 法話 のそれぞれの機能 意義とどのような関係にあるのかというテーマを扱ったものである ここで浄土真宗の比較の対象となっている神学者パウル=ティリッヒは カール=バルト ルドルフ=ブルトマンらと並び 20 世紀のプロテスタント神学に大きな影響を与えた人物である 彼の自伝的文章のタイトル 境界線上に立って (On the Boundary) が示すように 彼の思索は神学のみにとどまらず 哲学 心理学など 多くの領域に及びつつ 神学とそれら他の領域との境界線上で行われたことが知られている 浄土真宗では 法話と聴聞が重要視されているため 本書に興味を持つ人が少なくないと思われるが ドイツ語で著された 600 ページにも及ぶ大著であるため 残念ながら ほとんどの日本人にとっては その内容の 27

ステファン =S= イェーガー著 パウル = ティリッヒにおける信仰と説教ならびに 浄土真宗における信心と法話 宗教解釈学研究 ごく一部を知ることすら難しいと思われる 評者の専門は 浄土真宗の教学でも キリスト教神学でもないが 本書の内容をここに簡単に紹介しておきたい まず 拙訳によって目次を示すと 以下のとおりである ( 節以下の見出しや附録などの翻訳は省略 ) 第 1 章序論第 1 部本論 : パウル=ティリッヒの信仰と説教第 2 章越境と橋渡し第 3 章ティリッヒの哲学的神学の文脈における信仰の概念第 4 章パウル=ティリッヒの説教理論第 5 章抜粋した説教の分析第 6 章結論第 2 部本論 : 浄土真宗における法話と 信心 第 7 章浄土真宗に関する基本的な情報第 8 章親鸞と浄土真宗における宗教上の根本経験としての信心第 9 章宗教経験を仲立ちする解釈学としての巧みな手立て (upāya) 第 10 章浄土真宗における法話と信心第 11 章大谷光真の法話における信心の表現に関する疑問 形式と内容の観点から抜粋した法話の分析第 3 部本論 : 歴史 比較宗教の観点から見た浄土真宗とプロテスタント神学の出会いに関して第 12 章浄土真宗とプロテスタントの信仰 出会いに関する短い話第 13 章浄土真宗における 信心 と法話と パウル=ティリッヒにおける 信仰 と説教 本書の著者のステファン=S=イェーガー氏は本書の元になった博士論文により 2011 年 マールブルク大学の福音主義神学部 (Fachbereich Evangelische Theologie) で学位を取得 2015 年現在 ドイツ ヴッパー 28

タールにある ヨハネウム 福音主義 ( プロテスタント ) 高等教育機関 (Evangelische Hochschule Johanneum) で教鞭をとっているという なお マールブルク大学は 1527 年に開学した 最古のプロテスタント系大学であり 大谷大学との間で キリスト教と浄土真宗の宗教間対話に関する学術交流を行っていることでも知られている 本書の本論は 3 部構成になっている 第 1 章の序論につづいて 第 1 部 ( 第 2 ~ 6 章 ) では プロテスタントにおける 説教 が ティリッヒの信仰理解と説教での伝達に基づいて分析される (21 頁 ) つづく第 2 部 ( 第 7 ~ 11 章 ) では 浄土真宗の教学における信心と説教に関する分析が行われる そして 最後の第 3 部 ( 第 12 ~ 13 章 ) では プロテスタントと浄土真宗との宗教間交流に触れながら 第 1 部 第 2 部の考察を基に ティリッヒと浄土真宗それぞれにおける 信仰 / 信心と説教 / 法話の位置づけの比較等がなされる また 上の目次には含まれていないが 巻末には 分析の対象となった ティリッヒの説教 大谷光真 浄土真宗本願寺派前門主の法話 ( 注釈つき独訳 ) 大谷派の布教師 2 名の法話 ( 独訳 ) などが附録として付されているほか 固有名詞 事項に関する索引も完備されており 関心のある個所を探し出すのに便利である 以下 各章ごとの内容を簡単に紹介したい 序論にあたる第 1 章では 本研究の目的 先行研究 方法論が述べられる 第 2 章では まず ティリッヒにとっての キリスト教と仏教との宗教間対話の内実が明らかにされる 続いて 彼が残した 説教 を概観し ティリッヒの神学において 世俗化する時代の中でキリストの教えをどのように伝えることが出来るかということが大きな課題として捉えられていたことを示す 第 3 章では ティリッヒの神学において 究極的な関わり という 彼によって再解釈された 信仰 の概念が 弁証の企図や 説教理論と密接な関係を持っていることが示される 第 4 章では ティリッヒの説教理論に関する先行研究を概観し 関連す 29

ステファン =S= イェーガー著 パウル = ティリッヒにおける信仰と説教ならびに 浄土真宗における信心と法話 宗教解釈学研究 るテキストの分析を行う 第 5 章では ティリッヒの 信仰 概念がどのように説教へ影響を与えているかを見るため 彼が残した 5 つの説教を分析 その際 伝記的背景についても触れられている 第 6 章では これまでの議論を受け ティリッヒにおける 説教と信仰の関係に関する概説がなされている 第 7 章では 浄土真宗の教え 歴史などが概説される 仏教全体の歴史において 浄土真宗がどのような位置にあるのかということや 現代世界における宗勢についても触れられている 第 8 章では 親鸞と本願寺派の伝統にもとづいて 信心という概念の基本構造が示される また その上で 信心 という言葉の翻訳につきまとう問題についても考察が加えられている 第 9 章では 宗教的コミュニケーションの上で非常に重要な 方便 ( 巧みな手立て ) という概念が取り扱われる まず 仏教一般における 方便 の概念 それに続いて 浄土真宗における方便理解が取り扱われている 第 10 章では 江戸時代以降の説教のスタイル 位置づけなどの変遷を概観し 法話の根本原則が 自信教人信 という教えにあることなど 浄土真宗における法話の理論が叙述されている 第 11 章では 大谷光真 浄土真宗本願寺派前門の法話集から抜粋された法話の分析を通して 信心という表現がどのように位置づけられているかについて分析を加えている 最後には 第 2 部 ( 第 7 ~ 11 章 ) の議論の要点が 10 か条にまとめられている 第 12 章では まず 浄土真宗に関するこれまでのプロテスタント側の解釈の試みが叙述される ただし 本論の枠組みでは 時代も地域も異なる神学者たちにもとづいて その背景が例示的に取り上げられる 最後には 大谷大学とマールブルク大学とで開催されているルドルフ=オットー シンポジウムと その報告書にもとづいて 学術面で 浄土真宗とプロテスタントがどう交わっているかについて叙述する 30

第 13 章では 様々な論点に関して 第 1 部と第 2 部の考察で得られた結果に基づき 浄土真宗とティリッヒの対比がなされている 先述した通り 法話と聴聞は 浄土真宗の宗教的実践において重要な要素とされているが 著者が指摘している通り 体系的かつ 他宗教との比較の視点を含むような 浄土真宗の法話に関するまとまった研究は存在していない (343 頁 ) 著者も言及するエリザベス =ハリソン氏や関山和夫氏らによる研究はあるものの この分野に関する研究が極めて少ないことは その重要性を鑑みると驚くべきことである 本書は そうした欠を補うべく 浄土真宗の中における 法話 の位置づけを体系的に明らかにし プロテスタント神学者であるティリッヒの思想との比較を通して 浄土真宗 ティリッヒそれぞれの思想の中での法話 / 説教の位置づけの特徴を明らかにしている 著者も述べているように こうした対比は 自らの伝統や 現在行われている実践をより深く知ることにつながる (491 頁 ) 浄土真宗の伝道のあり方を考えるにあたって 本書は ユニークかつ 重要な視座を提供してくれている 31