450 章皮膚の悪性腫瘍 3. 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫 adult T cell leukemia / lymphoma;atll 成人 T 細胞白血病ウイルス 1 型 (human T-cell leukemia virus type-1;htlv-1) による造血器悪性腫瘍. 紅褐色で半球状に隆起した硬い腫瘤が多発. そのほか, 紅皮症や落屑を伴う隆起局面など多彩な皮膚症状を呈する. 血清抗 HTLV-1 抗体陽性, 特徴的な末梢血中の flower cell の出現. 症状経過により, くすぶり型, 慢性型, リンパ腫型, 急性型, 急性転化型などに分類される. 皮膚症状は全 ATLL の約 60% でみられ, きわめて多彩な臨床像をとる. 直径数 mm 10 cm に達する大小さまざまの, 紅褐色で半球状に隆起した硬い腫瘤が多発する. また, 落屑を伴う紅褐色の浸潤性隆起局面や紅皮症を伴うこともある ( 図.39). このような腫瘍細胞の浸潤による特異的な皮疹 ( 特異疹 ) のほか, 免疫能低下による非特異的な皮疹も出現する. カンジダ症や帯状疱疹などの各種感染症, 図.391 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫 (adult T cell leukemia / lymphoma)
悪性リンパ腫および類縁疾患 / A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 451 ぎょりんせんしょうせき蕁麻疹, 後天性魚鱗癬, 掌蹠角化, 湿疹性病変などが出現する. さらに進行すると細胞性免疫が低下し, 真菌やウイルスなどによる日和見感染をきたす. 全身症状としてリンパ節腫脹, 肝脾腫, 発熱や倦怠感など. 高カルシウム血症をきたしやすく注意を要する. 疫学日本においては, 患者出身地が九州 63%, 北海道 東北 9%, 南紀 南四国地方 5% と地域性が強い. 感染から発病までの潜伏期は通常 40 年以上である. 抗 HTLV-1 抗体陽性者 ( キャリア ) は約 120 万人存在し, 年間 1,000 人に 1 人が ATLL を発症する ( 生涯発症率は 3 5%) といわれる. 世界ではカリブ海沿岸やアフリカの一部に多い. 感染経路としては, 母子間感染, 性行為感染, 血液感染が存在する. キャリアの大部分は, 母乳を介した母子間感染による. 成年期以降に性行為などで感染しても,ATLL を発症することはほとんどない. 患者の多くは 40 歳以上であるが, まれに若年発症も報告されている. 図.392 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫 (adult T cell leukemia / lymphoma) 病因 HTLV-1 はレトロウイルス (RNA ウイルス ) の一種で,CD4 + T 細胞に感染し, 逆転写酵素によってプロウイルス DNA がつくられ, 宿主 DNA に組み込まれる. 組み込まれる部位などの種々の要素を背景として, 単クローン性の増殖を引き起こすとされる.HTLV-1 は通常体内でウイルス粒子として検出されず, 血液, 母乳や精液中の感染 T 細胞が侵入することで, 感染が成立する. 検査所見 診断血清抗 HTLV-1 抗体が陽性を示す. 末梢血や皮膚組織などからサザンブロット法を行い,HTLV-1 プロウイルス DNA の単クローン性の組込みを証明する. 病型によっては, 白血球著増 (1 万 数十万 /ml), 異型リンパ球出現 花弁状腫瘍細胞 (flower cell), 図.40,LDH 上昇, 可溶性 IL-2 受容体上昇, 血清カルシウム上昇を認める. これらの変化の程度により病型を分類する ( 表.9). 治療 予後臨床症状を呈しない慢性型とくすぶり型に対しては, 急性転化に注意しつつ経過を観察する. 急性型やリンパ腫型, 急性転化型に対しては多剤併用化学療法 (LSG15 など ) を行うが, 予後は不良で 3 年生存率は 20 30% である. 造血幹細胞移植 図.40 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫の病理組織像
452 章皮膚の悪性腫瘍 皮膚型成人 T 細胞白血病 / リンパ腫 (cutaneous-type ATLL) 表.9 成人 T 細胞白血病 / リンパ腫の病型とその特徴 を行うこともある. 高カルシウム血症に対して輸液やカルシトニン投与などを行う. 図.41 原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫 (primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma) 4. 原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫 primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma CD30 + リンパ球の浸潤による皮膚 T 細胞リンパ腫. 多くは単発性の結節や丘疹で, 潰瘍化を伴うことが多い ( 図.41). 病理組織学的には大型の異型細胞が浸潤し,Hodgkin 病に類似した所見をとる. 抗 CD30 抗体 (Ki-1 抗体 ) が腫瘍細胞の 75 % 以上に反応する.CD30 + 細胞が浸潤していても, 菌状息肉症など他の皮膚リンパ腫が, 前駆あるいは現在の症状としてみ 図.421 リンパ腫様丘疹症 (lymphomatoid papulosis)
悪性リンパ腫および類縁疾患 / A. 皮膚 T 細胞リンパ腫 453 られる場合は本症と診断しない. 放射線療法や外科的切除が行われ, 予後は一般的に良好である. 5. リンパ腫様丘疹症 lymphomatoid papulosis 直径数 mm 1 cm までの鱗屑を伴う紅褐色丘疹が体幹や四肢に出現し, 中心に壊死や痂皮を伴うこともある. 個疹は 2 3 週間で軽度の瘢痕, 色素沈着を残して自然退縮するが, 年余にわたって繰り返し, 新旧の皮疹が混在する ( 図.42). 病理組織学的に CD30 陽性の大型異型細胞に加え, 赤血球漏出, 好酸球浸潤などを認める. 未分化大細胞型リンパ腫と同一スペクトラムにあると考えられる. 臨床的には良性疾患に近く, 自然消退しない際にはステロイド外用,PUVA 療法を行う. 6. 節外性 NK/T 細胞リンパ腫, 鼻型 extranodal NK/T-cell lymphoma,nasal type 図.4 リンパ腫様丘疹症 (lymphomatoid papulosis) 主に NK 細胞の増殖による悪性リンパ腫.NK/T 細胞リンパ腫の大部分は鼻咽頭領域に生じ, 転移巣として皮膚病変を形成する ( 続発性皮膚リンパ腫 ) が, 皮膚原発のものもある. いずれも EB ウイルスの関連が示唆される. 体幹や四肢に, 潰瘍を形成しやすい局面や皮下結節を生じる ( 図.43), 眼瞼および顔面や口唇の腫脹, 口唇アフタ, 凍瘡様皮疹などをみることもある. 病変が多発した場合や多臓器浸潤のある場合には予後不良. 7. 種痘様水疱症様リンパ腫 hydroa vacciniforme-like lymphoma 従来, 原因不明の光線過敏症とみなされてきた種痘様水疱症 (13 章 p.219 参照 ) であったが, 大部分の症例で EB ウイルス感染と NK/T 細胞の増加がみられ, 皮膚リンパ腫の一種ととらえることができる. 中心臍窩や壊死を伴う丘疹や水疱が日光露光部である手背や頬部に生じ, 眼瞼や口唇, 顔面に浮腫がみられる. 血管免疫芽球性 T 細胞リンパ腫 (angioimmunoblastic T-cell lymphoma) 図.43 節外性 NK/T 細胞リンパ腫 (extranodal natural killer/t cell lymphoma)
454 章皮膚の悪性腫瘍 8. 皮下脂肪織炎様 T 細胞リンパ腫 subcutaneous panniculitis-like T cell lymphoma;sptcl 図.44 皮下脂肪織炎様 T 細胞リンパ腫 (subcutaneous panniculitis-like T cell lymphoma) 結節性紅斑に類似した脂肪織炎様の臨床像を呈する ( 図.44). 従来, 予後不良な W ウェーバー eber-c クリスチアン hristian 病や細胞貪食組織球 性脂肪織炎 (cytophagic histiocytic panniculitis) と診断されていたものは, 本症に含まれる可能性が高い. 腫瘍細胞は CD8 + 細胞傷害性 T 細胞由来であり, 皮下で脂肪細胞を取り囲むように浸潤する (rimming). また, 核破砕物を貪食したマクロファージ (bean-bag cell) を認める. 血球貪食症候群を生じると予後不良となる. B. 皮膚 B 細胞リンパ腫 cutaneous B cell lymphoma;cbcl a b 図.451 原発性皮膚辺縁帯 B 細胞リンパ腫 (primary cutaneous marginal zone B-cell lymphoma) 診断時, 皮膚のみに病変が限定したものを原発性皮膚 B 細胞リンパ腫 (primary cutaneous B cell lymphoma;pcbcl) という. 分類を表.6 に示した. 紅色から紫紅色の局面, 結節ないし腫瘤が限局性に生じる. 多発性の丘疹や結節, 湿潤性紅斑がみられる場合もある. 皮疹が潰瘍化することは少ない. 表皮は正常で, 表皮直下にリンパ球浸潤の乏しい層 (G グレンツ renz zone) をみる. 真皮を中心にびまん性のリンパ球浸潤を認め, 深部ほど浸潤が強い傾向にある (bottom-heavy appearance).b 細胞の特異抗原を発現し,T 細胞の表面抗原は検出されない ( 表.10). 免疫グロブリン遺伝子の単クローン性が顕著となるため, 遺伝子再構成解析も確定診断に役立つ. 治療は放射線療法や外科的切除が主体であるが, 多発した場合は化学療法やリツキシマブ投与なども行われる. 1. 原発性皮膚辺縁帯 B 細胞リンパ腫 primary cutaneous marginal zone B-cell lymphoma 体幹, 四肢に好発する ( 図.45). 辺縁帯を形成する成熟 B 細胞や形質細胞様細胞が腫瘍を構成する.CD5 陰性,CD10 陰性.5 年生存率はほぼ 100% である. 切除や放射線療法が行われることが多い.2008 年の新 WHO 分類では, 節外性辺縁帯リンパ腫 (MALT リンパ腫 )(extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue) のなかにまとめられた.