日経メディカルの和訳の図を見ても 以下の表を見ても CHA2DS2-VASc スコアが 2 点以上で 抗凝固療法が推奨され 1 点以上で抗凝固療法を考慮することになっている ( 参考文献 1 より引用 ) まあ 素直に CHA2DS2-VASc スコアに従ってもいいのだが 最も大事なのは脳梗塞リスク

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Transcription:

CHA2DS2-VASc スコア / HAS-BLED スコア (101105) 欧州心臓学会 (ESC2010) で 新しい心房細動 (AF) ガイドラインが発表された CHADS2 スコアにやっと慣れつつあったところだが CHA2DS2-VASc スコアやら HAS-BLED スコアなんて言葉が並んでいて混乱 どうやら CHADS2 スコアが 0~1 点の場合でもリスクを評価して抗凝固療法に結びつけるという流れのようだ 脳梗塞の低リスク患者であればある程 抗凝固療法は脳出血などの重大イベントとの相対的な効果の比較が必要だと思う 具体的な数字で説明できないと 自分自身も 患者も納得できないだろう CHADS2 スコアと日本人のデータ も参照を http://rockymuku.sakura.ne.jp/zyunnkannkinaika/chads2sukoatonihonnzinnnode-ta.pdf ガイドライン ( 参考文献 1) は 60 ページ以上あって通読するのが難しいので 日経メディカルの記 事 ( 参考文献 2) のポイントになりそうなところを簡単にまとめてみる これまでの ESC の心房細動ガイドラインは 米国心臓協会 (AHA) や米国心臓学会 (ACC) と共同で作成されていたが 今回から初めて ESC 単独のガイドラインとなった 2) 新ガイドラインで特に注目されるのは AF 患者の脳卒中リスクを評価するための CHADS2 スコアに加え 新しい CHA2DS2-VASc スコアの使用を推奨している点 2) 従来の CHADS2 スコアでは スコアが 2 以上の場合に抗凝固療法を必須としていた しかし スコアが 0 または 1 の場合には抗凝固療法は必要ないのかという点については 統一した見解は出ていない状況だった 2) CHADS2 スコアが 0 または 1 の場合に さらにきめ細かくリスクを層別化するために CHA2DS2-VASc スコアが新ガイドラインに導入された 2) ESC の心房細動ガイドラインに導入された CHA2DS2-VASc スコアと抗凝固療法の適応の判断の 流れ ( 参考文献 2 より引用 )

日経メディカルの和訳の図を見ても 以下の表を見ても CHA2DS2-VASc スコアが 2 点以上で 抗凝固療法が推奨され 1 点以上で抗凝固療法を考慮することになっている ( 参考文献 1 より引用 ) まあ 素直に CHA2DS2-VASc スコアに従ってもいいのだが 最も大事なのは脳梗塞リスクの評価だと思う 以下の通り 0 点では 0% 1 点では約 1% 2 点では約 2%3 点では約 3% 4 点では約 4% であり このあたりの点数までは点数がほぼ年間の脳梗塞の発症頻度と同じなので覚えやすい この数字が抗凝固療法による出血リスクに見合うだけのリスクかどうかが問題なわけだ ( 参考文献 1 より引用 )

山下先生 ( 参考文献 3) の本によると 適正に抗凝固薬がコントロールされた場合の脳出血の頻度は 0.6%/ 年であり ワーファリンによる脳梗塞の RRR は 70%(ITT)~90%(PPS) とされているから CHA2DS2-VASc スコアが 1 点 2 点のときの脳梗塞 + 脳出血のリスクは以下の様に計算できる CHA2DS2-VASc スコアが 1 点の時 脳梗塞 1.3% 1.3 0.3= 0.39% 脳出血 0.6% 合計 0.99% CHA2DS2-VASc スコアが 2 点の時 脳梗塞 2.2% 2.2 0.3= 0.66% 脳出血 0.6% 合計 1.26% つまり CHA2DS2-VASc スコアが 1 点の時にはリスクとベネフィットが同じくらいで 2 点の時には 脳卒中全体のリスクを 1%(RRR は 50%) くらい減らすということだ このように考えると ガイドライ ンの推奨もなんとなく納得できる ところで 今後発売されるダビガトランを用いると脳出血などの出血性の副作用が減ることが期待されている そうなると より低リスクの患者でもベネフィットが相対的に増す可能性がある 具体的に以前勉強したダビガトランの研究で出血性脳卒中の頻度を確認してみる この研究の中ではワーファリン群の出血性脳出血の頻度が 0.38%/ 年であったのに対し ダビガトラン群では 0.10 ~0.12% であった 単純に 1/4~1/3 の頻度だと考えると CHA2DS2-VASc スコアが 1 点であっても 相対的効果は期待できると思う (1.3% 0.59%) 心房細動の治療 :Dabigatran( ダビガトラン ) versus Warfarin を参照 http://rockymuku.sakura.ne.jp/zyunnkannkinaika/dabigatran%20versus%20warfarin.pdf 出血のリスクに関しては HAS-BLED スコアというスコアも紹介されており このスコアが 3 点以上 だと 厳格な経過観察と定期的な抗凝固療法の見直しが推奨されている ほんとうは リスク別の

出血イベントの層別化が行われていればよいのだが こちらに関しての記載はガイドラインにも掲 載されていない ( 参考文献 2 より引用 ) 参考文献 3 には 危険因子別の大出血のハザード比が掲載されている これによると 年齢 1.05(80 歳以上と未満で区切ると 2 倍以上の別の研究もあり ) 心不全 1.43 糖尿病 1.44 肝 腎疾患 1.93 初発心房細動 1.30 と紹介されている 仮に 複数の危険因子により出血リスクが 3 倍程度まで増えたなら CHA2DS2-VASc スコアが 2 点であっても相対的な効果はほとんど期待できないことになる CHA2DS2-VASc スコアが 2 点の時 脳梗塞 2.2% 2.2 0.3= 0.66% 脳出血 0.6% 0.6 3= 1.8% 合計 2.46% このガイドラインでは 出血リスクが低い (HAS-BLED スコア 0~2) 場合には dabigatran 150mg を HAS-BLED スコアが 3 以上の場合には同 110mg を推奨している ワーファリンでなく ダビガトランを使用する場合には 患者の出血リスクが 3 倍程度であっても 薬の出血リスクが 1/3 程度とすれば CHA2DS2-VASc スコアが点でも相対的な効果は期待できるかもしれない 脳梗塞のハイリスクであればそれほど迷うことは無いと思うが 脳梗塞がローリスクな患者ほど 脳出血リスクの評価は必要と思う 今後も知識を整理したり アップデートしていきたい

参考文献 1. European Heart Rhythm Association; European Association for Cardio-Thoracic Surgery, Camm AJ, Kirchhof P, Lip GY, Schotten U, Savelieva I, Ernst S, Van Gelder IC, Al-Attar N, Hindricks G, Prendergast B, Heidbuchel H, Alfieri O, Angelini A, Atar D, Colonna P, De Caterina R, De Sutter J, Goette A, Gorenek B, Heldal M, Hohloser SH, Kolh P, Le Heuzey JY, Ponikowski P, Rutten FH. Guidelines for the management of atrial fibrillation: the Task Force for the Management of Atrial Fibrillation of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J. 2010 Oct;31(19):2369-429. Epub 2010 Aug 29. 2. 友吉由紀子. 特集大きく変わる! 心房細動患者の抗凝固療法 Vol.3 欧州が独自の新 心房細動ガイドライン. 日経メディカルオンライン 2010. 10. 13 3. 山下武志. 心房細動に出会ったら. 東京, メディカルサイエンス社,2008.