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CFD を活用した攪拌装置の設計 Mixing Vessel Design Utilizing CFD Technology 高橋公紀 *1 渡邉実*1 Kiminori Takahashi*1, Minoru Watanabe*1 *1 技術開発本部技術開発部 *1 Technology Development Department, Research & Development Division 要旨近年 コンピュータの性能向上は著しい それに伴い攪拌装置を解析できるソフトウエアが開発されている このようなシミュレーション技術を活用した攪拌装置の設計手法が現実的なものとなりつつある 特に CFD (Computational Fluid Dynamics) は あらゆる運転条件において攪拌槽内部の流動や混合の状態を可視化でき 攪拌装置の最適な仕様を決定できる強力なツールである CFD を活用することにより 設計の信頼性を各段に向上することが可能となる Abstract: Mixing vessel designs utilizing appropriate and highly advanced simulation technologies are becoming more realistic because computer performance improved remarkably and useful software for mixing have been developed. In particular, CFD (Computational Fluid Dynamics) can visualize information on flow dynamics and mixing in an agitation vessel under almost all operating conditions. CFD is a powerful tool in determining important design specifications of a mixing vessel including necessary parts, and thanks to CFD, the reliability of mixing process designs can dramatically be improved. 1. はじめに石油化学 医薬および非鉄製錬などの分野において 攪拌操作は必要不可欠である 攪拌装置の設計手法は 古くから実験に基づく研究を通じて進歩を遂げてきた ここでは 攪拌機と攪拌槽および付属する機器類からなる構成を攪拌装置と呼ぶ 当社は EPC 事業 (Engineering, Procurement and Construction) の幅広い分野に CFD (Computational Fluid Dynamics) などのコンピュータ シミュレーション技術を活用している シミュレーション結果から得られる詳細な技術情報を基に 攪拌装置の最適な仕様を決定することによって 信頼性の高い攪拌装置の設計が可能となる 本稿では 攪拌装置設計のためのシミュレーション技術の概要と適用事例について紹介する 2. 攪拌装置の設計 2. 1 攪拌装置設計の重要性攪拌装置は 工業装置として幅広い分野で利用されている 攪拌装置が混合操作や反応工程などで使用される場合 攪拌性能は製品の品質に大きく影響をおよぼす したがって 攪 1

拌装置は非常に重要なプロセスの構成要素となる 攪拌装置を最適化することによって プラントの性能を向上させ コストの低減が可能となる さらに 長期間の安定運転が可能な攪拌装置を設計することによって プラント全体の信頼性を確保することも重要となる 2. 2 攪拌装置設計の実際攪拌装置設計の概略を以下に示す (1) 攪拌目的の決定攪拌装置は 製品を製造するための混合や反応など様々な目的に利用される装置である このため はじめに 混合 溶解 分散 反応などの攪拌目的を決定する (2) 攪拌条件の決定上記の攪拌目的に応じて 攪拌装置の仕様を決定する際に前提となる処理量 流体の物性 操作方法などの攪拌条件を決定する (3) 攪拌装置の仕様の決定上記の攪拌目的 攪拌条件を満たす攪拌槽の仕様 ( 型式 寸法 ) 攪拌機の仕様( 翼型式 翼径 回転数 ) などを決定する 2. 3 攪拌装置設計の信頼性向上次に 攪拌装置設計の信頼性を向上させるポイントを示す (1) プロセスとしての役割攪拌装置は プロセスの構成要素として要求される性能を満たす必要がある そのため 攪拌装置の仕様を決定し プロセスを構成する装置としての役割を確認しなければならない (2) 多様な条件における攪拌特性攪拌動力や混合時間などの攪拌特性 1)~6) を求めるために 永田の式 7) などの実験に基づく相関式がよく利用される しかしながら このような相関式が適用できない攪拌槽の形状 攪拌翼の型式および運転条件に対しても 攪拌特性を求める必要が生じる (3) 攪拌槽内の不均一性気泡や固体粒子を含む流体や反応を伴う流体を取り扱う場合 流体中の特定成分の濃度や温度が不均一となり その不均一性が攪拌装置の性能に大きく影響する その場合 流体中の特定成分の濃度や温度の分布を把握し 攪拌装置の仕様を決めなければならない 3. 攪拌装置設計へのシミュレーション技術の活用シミュレーション技術を活用することによって 攪拌装置設計の信頼性を向上することができる 特に近年のコンピュータ性能の向上により 攪拌装置を解析できるソフトウエアが開発されている シミュレーション技術としては プロセスシミュレータ 攪拌装置専用解析ソフトウエアおよび CFD が利用可能であり 以下にその概要を説明する 2

3. 1 プロセスシミュレータプロセス内の連続攪拌槽型反応器 (CSTR:Continuous Stirred Tank Reactor) の検討には プロセスシミュレータ (PRO/Ⅱ R Aspen Plus R など ) が利用される CSTR における流体の流入条件や反応条件などを選定し 槽内の反応物質の平均濃度や平均温度などのマクロな情報 ( 熱収支 物質収支 ) を得るための計算をおこなう こうして プロセスの要求を満たす攪拌槽の容量 必要な熱の供給量 除去量などを求めることができる 以上のように プロセスシミュレータを利用することにより 2.3 (1) 項で紹介した プロセスとしての役割 に対応可能となる しかしながら 攪拌装置内のミクロな情報はプロセスシミュレータでは得られない 3. 2 攪拌装置専用解析ソフトウエア攪拌装置の設計に特化したソウトウエアとしては イスラエルの VisiMix 社によって開発された VisiMix R がある 図 1 VisiMix の入力画面の一例 図 2 VisiMix の計算結果表示画面の一例 VisiMix 社より許可を得て ソフトウエア画面を掲載している 図 1 に示すように VisiMix ではあらかじめ用意された多種類の攪拌槽の形状 攪拌翼の型式や邪魔板などから目的に合ったものを選択し 攪拌槽や攪拌翼などの寸法 流体の物性値 運転条件を入力する 図 2 に示すように 計算結果は表 グラフ 図により 分かりやすく表示される なお 液 - 液 気 - 液 固 - 液の混相流 伝熱なども取り扱うことができる それぞれの現象に応じ 液滴径 気泡径 物質移動係数 伝熱係数などが実験に基づいた相関式によって幅広く推算できる 8) すなわち 攪拌装置をより現実に即した形でモデル化し 容易に攪拌装置の仕様を決定できる 以上のように VisiMix を利用することにより 2.3 (2) 項の 多様な条件における攪拌特性 に対応可能となる しかしながら 近年ますます多種多様となっている攪拌装置すべてに VisiMix を適用することは難しく 対応不可能なケースもある 3

3. 3 CFD 従来の攪拌装置の設計では 攪拌動力や混合時間などの攪拌特性は実験に基づいた相関式によって求められる 一方 CFD においては 流体力学の基礎方程式に基づき計算し 攪拌槽内の流動を再現する 図 3 に示すように 多数の格子を用いて攪拌槽や攪拌翼の形状をほぼ実物どおりに表現し 各格子点における速度 圧力 温度 濃度などの値を計算する また 攪拌翼の回転数 加熱 冷却 ガスの吹込み量などの運転条件も考慮できる 計算結果は 3 次元で分かり易く表示でき 攪拌槽内の流動 温度 濃度などの分布を詳細に把握できる さらに 攪拌翼の圧力から計算される攪拌軸に加わる力を基に 攪拌動力図 3 CFD による格子構造の一例を求めることができる また CFD は実験と同様に混合時間を求めることができる 以上のように CFD を利用することにより 2.3 (2) 項の 多様な条件における攪拌特性 と 2.3 (3) 項の 攪拌槽内の不均一性 に対応可能となる 4. 攪拌装置への CFD 適用事例 4. 1 適用実績攪拌装置は反応器として利用されることが多い その場合 ガスの吹き込みやスラリーなどを取扱う場合があり 対象となる流体の物性値も広範囲におよぶ したがって 攪拌装置においては 流動のみならず 反応 伝熱 液体 気体 固体粒子の共存 高粘性や非ニュートン性などを考慮しなければならないことが多い 当社は 以下のような対象を取り扱う攪拌装置に CFD を幅広く利用している 1 発熱を伴う化学反応 2 高粘性 非ニュートン流体 3 ガス吹き込みを伴う微生物培養 4 固体粒子を伴う流体 ( スラリー ) 5 晶析 4. 2 計算結果の検証 CFD を活用するためには 計算結果が 絵に描いた餅 にならないように注意を払う必要がある そのためには 実験や実機から得られた測定データを用いて検証し 計算結果および解析手法の信頼性を確認する必要がある 以下に検証事例を示す 4

(1) 実験に基づく相関式を用いた攪拌動力と混合時間の検証攪拌装置の性能を表わす主要な特性に 攪拌動力と混合時間がある 公開文献あるいは自ら実験により求めた相関式を用いることによって 攪拌動力と混合時間の値が推算できる CFD では 攪拌翼が受ける圧力から攪拌軸に加わるトルクが計算され 攪拌動力が求められる 混合時間は 実験と同様に槽内の一点にトレーサー物質を注入してから 槽全体でトレーサー濃度が均一になるまでに要する時間を測定することによって 求めることができる ある攪拌装置の攪拌動力と混合時間について CFD から得られた計算値と相関式から得られた推算値を比較した 攪拌動力の比較を図 4 混合時間の比較を図 5 に示す 横軸と縦軸の値は 相関式による推算値の最大値で無次元化した CFD による計算値と相関式による推算値が一致する場合は 一点鎖線の上に示される 攪拌動力と混合時間について CFD による計算値は相関式による推算値と約 ±20% の範囲内で一致した 図 4 攪拌動力の比較 ( 推算値の最大値で無次元化 ) 図 5 混合時間の比較 ( 推算値の最大値で無次元化 ) (2) 実験による混合時間と微生物培養の検証当社では 必要に応じ既設の実験装置あるいは新たに製作した装置を用いて実験データの取得を行っている すなわち CFD の結果と実験データを検証することにより 攪拌装置解析の信頼性の向上を図っている 以下に 既設の実験装置を使用した混合時間と微生物培養の検証事例を示す 混合時間 図 6 に示す容量 150 L の実験装置にて 混合時間を実測した 攪拌翼と邪魔板を有する実験装置を 図 7 に示すように CFD を用いてモデル化した 図中の左上部よりトレーサー物質を注入し 1 2 3の位置においてトレーサー濃度を測定した 5

図 6 実験装置 図 7 CFD によるモデル化 図 8 に CFD によって得られた各位置におけるトレーサー濃度の経時変化を示す 実験によって得られた混合時間は 13 秒であった CFD によって得られた混合時間もほぼ同様となることから 混合時間について CFD と実験の結果がよく一致することを確認できた 図 8 CFD によるトレーサー濃度の経時変化 (1,2,3 は図 7 参照 ) 微生物培養 微生物培養を生物反応として表現し コンピュータ上で仮想的な培養を行うことのできる解析手法を CFD により構築した 当社は 本手法をインシリコカルティベーションと命名し登録商標を取得した (2009 年 4 月 ) 以下 インシリコカルティベーションの適用事例について概説する 実験では 図 6 に示す実験装置を用いて 空気吹き込みによる酸素供給条件下で大腸菌の培養を行った 培養液は一定時間間隔でサンプリングし 菌体 菌体の栄養分となる基質および菌体が生産する代謝物の濃度を測定した 6

CFD では スパージャーからの空気の吹き込み 空気から培養液への酸素の溶解を考慮した さらに 菌体が基質を消費し代謝物を生産するという生物反応をモデル化した 図 9 に 培養液に対する空気の体積割合分布を示す 空気の体積割合分布は全体的にはほぼ均一であるが 攪拌翼の下側の部分において空気の体積割合が局所的に高い 図 10 に 培養液中に溶解した酸素の濃度分布を示す 攪拌翼の下部に空気が保持され 空気に含まれる酸素が培養液に溶解するため 攪拌翼の下部の酸素の濃度が高くなる 攪拌によって 培養液に溶解した酸素は槽全体にくまなく分布し 生物反応に必要な酸素が槽内に十分供給される 図 11 図 12 に 培養液中の菌体および代謝物の濃度分布を示す 培養液中の菌体および代謝物の濃度は 槽内でほぼ均一な分布となる しかしながら 攪拌翼の直下では空気が保持され培養液が存在しないため 菌体および代謝物の濃度は局所的に低下する 低い 高い 図 9 培養液に対する空気の体積割合分布 図 10 培養液中の溶存酸素の濃度分布 図 11 培養液中の菌体の濃度分布 図 12 培養液中の代謝物の濃度分布 図 13 に 培養開始から終了までの菌体 基質 代謝物の各濃度の経時変化を示す 時間の経過とともに菌体が基質を消費して増殖し 代謝物を生成する様子がわかる CFD の結果は実験結果と良好に一致した 7

図 13 菌体 基質 代謝物の濃度の経時変化 今回の解析対象は 攪拌槽内の溶存酸素 菌体 基質 代謝物の分布がほぼ均一となる系であった このような系では CFD を利用する効果が小さい 一方 攪拌槽内に不均一性が生じる場合には CFD を利用する効果は大きくなる CFD は 攪拌槽内の不均一性を伴う反応挙動を予測することが可能である したがって 反応速度が著しく速い反応の場合において あるいは高粘性で物質移動律速となる場合において CFD はその威力を発揮する 5. おわりにシミュレーション技術を活用する攪拌装置の設計手法として プロセスシミュレータ 攪拌装置専用解析ソフトウエアおよび CFD について概説した CFD は 攪拌槽と攪拌翼の形状 運転条件を忠実にモデル化し コンピュータ内で仮想的に攪拌装置を運転することができる 攪拌槽内に不均一性が生じる場合 CFD によって局所的な分布を把握できる これらの点で CFD は画期的な設計ツールである 当社は 数多くのプロジェクトにおいて多数の撹拌装置の設計 納入実績を有する 加えて CFD を活用することによって より短期間で設計を行い 撹拌装置の信頼性を格段に向上することを可能としている 参考資料 1) 化学工学会編 ; 化学工学便覧改訂六版 (1991) 2) EKATO; Handbook of Mixing Technology (1991) 3) EKATO; Handbook of Mixing Technology (2000) 4) LIGHTNIN; A Guide To Fluid Mixing (1990) 5) R Dogra and Ruszkowski; Design Guide for IMPELLER POWER NUMBERS, BHR Group Limited (1993) 6) 佐竹化学機械工業株式会社編 ; 攪拌技術 (1992) 7) Shinji Nagata; MIXING Principles and applications, KODANSHA LTD. (1975) 8) VisiMix Ltd.: VisiMix 3.02+ Review of Mathematical Models (1999) 8