古河電工時報 第124号

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Transcription:

SFP ONU as CPE for GE-PON 服部伸彦 * 尾高邦雄 * 中村尚人 * 下大迫和隆 * 2 網干勝也 * 2 Nobuhiko Hattori Kunio Odaka Naoto Nakamura Kazutaka Shimoosako Katsuya Aboshi 概要データ通信ネットワークの拡大の一役を担うべく,MSAとして標準化されているSFPトランシーバの形態を採用したGE-PON 用 ONU 装置の開発を実施した SFPインターフェースポートを有したネットワーク機器に本機をマウントすることで全体を GE-PON のシステム下に配置できる その一方でシステムの信頼性は高く, 例えばエンタープライズ用途の回線サービスなどへの適用, 更には新規 GE-PON 市場の開拓を担っていくことを期待している 本稿では, 伝送特性などの要素技術及びその特性を紹介する 1. はじめに アクセス系システムの拡充により, 個人ユーザでもブロード バンドサービスを受けることが可能となり, それがより高速なデータ通信ネットワークの拡大を推し進めている 各種アクセス系の中では, スループットや外来ノイズ耐性などの観点から FTTP(fiber to the premises) を中心とする光アクセスシステムがその中心を担っており, 特にギガビットイーサネットをベースとしたIEEE 802.3のGE-PONが主流となっている PON(passive optical network) は通信事業者の光伝送路を多数のユーザで共有しながら, その途中から, 光伝送路を無給電タイプのパッシブ光部品で物理的に分岐して各ユーザーへ分配してゆく光伝送路形態を採るため, 図 1に示すように通信システム形態としてはポイントツーマルチポイント (P2MP) 1) である これにより通信システムとして各種の非対称性が生じる 分かりやすい例としては, 下り, 上りといった区別が生じることや, 終端装置である通信事業者側機器 (OLT) と加入者側機器 (ONU) とにおける配置数量の違いが挙げられる 後者に着目すると, 多数側であるONUに新規性を持たせることで, 新たなGE-PON の市場分野を開拓できる可能性がある O 装置 図 1 下 U PON 形態のシステム System of PON configuration. * 研究開発本部ファイテルフォトニクス研究所 * 2 情報通信カンパニーブロードバンド製品部 ONU 装置 当社では以前から, 光サブアセンブリ (optical sub-assembly: OSA) や物理層 PMD(physical medium dependent) サブレイヤとしての光トランシーバモジュールなど GE-PONに関連した研究開発を実施しており 2), 事業としては GE-PON 関連装置を製品化している そこで我々は, これらで培った装置技術とサブレイヤのモジュール技術とを融合させ, 更に先の新規性の模索をしたうえで本装置の開発を実施した 本稿では, 個別の技術要素と開発品の特性などを解説する 2. 内部構成とその狙い工業製品全般に言えることであるが, 部品として使用される階層のものほどその形態が標準などで規定されることが多く, 部品やモジュールを実装する側の装置では, その形態に対する規定の意識は薄い 光ネットワーク分野においても同様で, 物理層 (physical layer:phy) サブレイヤの光トランシーバやそこに使用する部品である TOSA,ROSA などの光サブアセンブリでは, 標準化団体が策定した規格や供給者側が共通仕様として標準化する MSA(multi source agreement) などが存在する 3) 一方で, 例えば加入者宅内装置 (customer premises equipment: CPE) のONUなどでは形態に関する議論はなく, 規格化された入出力インターフェースを有していさえすれば一般的に形態へのこだわりは存在しない しかしながら, 形態に意味がある, とするところに今回の開発の出発点はある まずは順を追って説明する きょう体はSFPエンクロージャを採用した SFP(small form factor pluggable) とは物理層 PMD サブレイヤとしてのトランシーバを対象とした MSA で, SFP Transceiver の形で標準化されているものである PMDと付したことから分かるようにトランシーバとは, 情報信号の伝送において媒体依存をつかさどる部分であり, ビット単位で透過性をもつ忠実な変換機能ブロックである ここで注意しておきたいのは, SFP は 古河電工時報第 124 号 ( 平成 21 年 8 月 ) 18

標準的には トランシーバ と結びつく用語であり, 本稿タイトルのように 装置 と結びつくことは想定されていなかった用語, ということである 更に, 利用しているのはエンクロージャだけではない 全体をブラックボックスとしてとらえた時に, 入力に対する出力の対応関係などが同一である まず PMD としての光トランシーバであるが, 一般的には図 2に示すような機能ブロックで構成される 片側では外部の光ファイバを介して光半導体素子が光信号を授受し, 反対側では光半導体素子とアナログ量で接するドライバとアンプが, 外部と電気信号でシリアル高速差動信号を受け渡しする 全体を入出力に着目して表現すると, 信号媒体に応じた信号形式の変換を行う機能ブロックである, と表せる ワーク機器があれば, そこに本装置をマウントすることで, 全体をGE-PONのシステム下に配置できる これは GE-PON システム導入の容易性を高める事につながる 本装置へはネットワーク機器から給電が行われる これは一般の ONU 装置への給電が商用電源の AC アダプタであることと比較すると, システムの信頼性向上に寄与する GE-PONシステムに付加されているセキュリティ性能などと考え併せれば, 本 ONU 装置を適用したシステムはその信頼性が高い したがって, その適用として例えばエンタープライズ用サービス, あるいは集合住宅用のMDU(multi dwelling unit) 向けなどに最適であり, 更には広範な新規 GE-PON 市場の開拓に期待をしている 3. ONU 装置としての信号伝送 OSA O S P OSA 図 2 A -O O 光トランシーバ機能ブロック Functional block diagram of optical transceiver. 図 2 で, 両端以外を GE-PON 用 ONU 装置の通信レイヤ, サ ブレイヤで記述した機能ブロックで置き換えたものが図 3 に示 す本 ONU 装置のブロック図である 中身は相異なるが信号媒体 に応じた信号形式の変換を行うことができる, という点で図 2 と 同じである すなわち,SFP モジュールが実装される側の SFP ポートに対するインターフェース条件をトランシーバと同一に 保てば両者は同等で,SFP トランシーバが実装されているのか, 本装置が実装されているのかを意識してもらう必要はない P OSA O S 図 3 A 810 P S P2MP MA 810 P S SFP 型 ONU 装置の機能ブロック図 Functional block diagram of SFP ONU. O -O 以上, 外形及び入出力の 2 点から, この ONU 装置は SFP ト ランシーバの形態として機能し得ることを述べた そこでの狙いは次の点にある ギガビットイーサネット対応のSFPポートを有したネット ここまで SFPトランシーバとの共通要素という点で述べてきた しかし, 使用形態は SFPトランシーバであっても, あくまでもONU 装置である すなわち, 信号媒体に応じた信号形式の変換をすると言う機能側面で言えば,ONU 装置では物理層 PMDサブレイヤよりも上位のレイヤの介在がある この点に着目しトランシーバとの違いを整理すると次のようになる 信号の伝送においては, トランシーバであれば当然有しているビット単位レベルでの透過性はない 光送出信号の出力タイミングは, 光接続先である OLT 装置のコントロール下にある これらの違いが発生する要因として, 前者は, 伝送する情報信号が上位のデータリンク層でフレームとして管理されているからである また, 後者は, 先に述べたようにシステムが P2MPでありONU 装置からOLT 装置へはTDMA(time division multiple access) となっているからである 上で信号形式の変換動作において物理層 PMDよりも上位のレイヤが介在することについて述べた これは, 信号形式の変換という観点で入力信号と出力信号を見た場合, 電気特性上, 互いがアイソレートされていることを意味する これは, 例えば一般的な光トランシーバと本 SFP ONU 装置とそれぞれに同一の入力パワーの光信号を入力し, そのパワーを変化させて信号波形を比較することで, 図 4のように違いが見て取れる PMDとしての一般的な光トランシーバでは光入力パワーが受信限界に近い時にはノイズの影響などで信号波形のタイミングが時間軸方向で揺らいでいるが,ONU 装置の場合にはそれが観測されない 逆方向も同様で, 例えば入力電気信号に時間的な揺らぎの差異を与えても, 図 5のように, 信号形式変換後の光出力波形に違いは観測されない 以上の2 点からアイソレートされていることが理解できる なお, 本装置において図 4, 図 5の観測をする場合には, GE-PON 用のOLT 装置と光接続してそのコントロール下に入っている状態で, 電気信号としてイーサネットのフレーム形式で信号を入力する必要があり, それが満たされないと光信号が送出されないことを注記しておく また, 信号伝送の信頼性評価として誤り率測定をする場合も同様で, 一般的な光トランシーバの時のようにビットエラー試験器を接続しても測定はできず, 図 6に示すようにGE-PON 用のOLT 装置を介してイーサネットテスタなどで測定をする必要がある 古河電工時報第 124 号 ( 平成 21 年 8 月 ) 19

先の上位レイヤを介した信号形式の変換という機能側面を確認するために, 信号伝送の安定性を評価した 試験系は先の図 6で,OLT から本装置への光入力レベルは光信号受信回路に おける信号対雑音比 (SNR:signal to noise ratio) の大きさに影響を受けない-20 dbm 程度とした 結果を表 1に示すが, 十分な信頼性が得られている これはビット誤り率に換算して少なくとも 10-14 のオーダ以下である G SFP ONU 表 1 信号伝送機能の試験結果 Results of transmission function test. Count item of tester Downstream Upstream 2 Frames sent 71,114,562,290 71,114,562,290 Valid frames received 71,114,562,290 71,114,562,290 Frames loss count 0 0 Frame construction:8 Bytes_Preamble + 64 Bytes 1 4. 光受信特性 28 図 6 図 4 電気出力波形の比較 Waveform comparison of electrical output. (E ) 図 5 O (O ) 光出力波形の比較 Waveform comparison of optical output. 1000- EU (SFP ONU) E A U O EPON-O 1000ASE-P 信号伝送試験系の構成 Test setup for measurement of signal transmission. 非常に微弱な光信号レベルまで扱うことを考慮した光ネットワークシステムの分野においては, 無線システムなどと同様で, 受信回路に対して妨害雑音となる各種信号のクロストーク成分を許容レベル以下に抑えておくことが重要である そのため, このあたりの検討は以前から広く行われている また, GE-PON システムは 1 本の光ファイバに双方向の光信号を伝送することを規定している そのため, 小型化の要求などと相まって,GE-PON 用途の光トランシーバモジュールにおいては, 送受信双方が一体となったOSAモジュールを採用する場合が一般的である そのような送受信一体型のOSAにおいても, 送受信間のクロストークに関してシミュレーションモデルを記述して理論検討が行われている 4) そのモデルにも記述されているが, 送受信一体型のOSAにおいては, 自らの光送信信号が光受信回路のフォトダイオードに光学的に直接カップリングする光クロストークが存在する このクロストークはOSAの内部構造に依存し, 場合によっては無視し得ない事があり,OSAの設計検討を進めていく上で重要事項の一つである そのためOSA 内部の光クロストークによる光受信特性の劣化について検討した 理想受信回路におけるビット誤りの一般的な理論モデルは, 図 7に示すように, ガウス分布 (σ) を示すランダム雑音が信号と相加されることで2 峰を示す確率密度分布で記述される 図 7では, 光受信信号を構成するHigh,Lowはそれぞれ同じ確率で出現している分布とした ただし, このモデルには光クロストーク成分は存在していない 光クロストークは受光素子に対する光のカップリングで, 干渉成分となるフォトカレントは直流領域から存在する この場合, 図 7において2 峰化された変位分布は, それぞれが再び2 峰化された分布となる このときの確率密度分布を一例として図 8に示す 図 7と同様に図 8でも, 限定した議論とするために干渉成分である自らの光送信信号はHigh,Lowそれぞれ同じ確率で出現している分布とした なお, 送受光の光ビート雑音は受信帯域外であるので考慮していない また,OSA 内部の光クロストークにはマルチパスで受光素子に到達する場合も考えられる この場合に考慮すべき項目は以下の2 点であるが, いずれも上記のモデルを覆すものではない 古河電工時報第 124 号 ( 平成 21 年 8 月 ) 20

2 P() 4 3 2 1 S 2 信信号 2 0-1 -12-9 - -3 0 3 () 図 7 光クロストークが存在しない時の確率密度分布 Probability density distribution without optical cross talk. 図 9 OSA 内部の光クロストークの影響 Effects of internal optical cross talk. 図 8 2 2 信信号 2 ク ストーク信号 2 ビットタイムレベル OSA の大きさと GE-PON 電気信号の 1ビットタイム (800 ps) を比較すれば, シングルパスで代表させればよいと判断できる 光キャリアタイムレベル 光クロストークの各成分の位相合成の仕方によりトータルのクロストーク量は違う値で観測されるが, ここで考えているモデルに対しては, トータルとしてシングルパスの結合度というパラメータに集約できる 両方の図を比較するために, 信号の振幅とランダム雑音の大きさとの比率は変えていない ビット誤りは, 信号にノイズが加算されたその変位が振幅確定のために用いるHighとLowの平均値であるしきい値をまたいだ場合に, 誤った振幅に確定されてしまうことにより発生する これは, 確率密度分布上では, 峰の裾野がしきい値をまたいでしまう部分に相当するが, それを両図で比べると,OSA 内部の光クロストークがあることで確率が高くなっていることが理解できる このように内部の光クロストークが影響するという考え方を検証するために, 劣化量のシミュレーションを行い, それと実測値とを比較した その結果を図 9に示す 図の横軸は, 光パワーの相対量で, 基準となる0 dbは, 内部の光クロストークが存在しない時にビット誤り率として10-12 が得られる光信号の光入力パワーで定義した これによれば, 実測結果とよく一致しており, 劣化モデ 2 2 光クロストークが存在する時の確率密度分布 Probability density distribution with optical cross talk. ルの妥当性は検証されたと考えられる このシミュレーション結果から -10 db 程度を OSA 内部の光 クロストーク限界目標値とした なお, 入力光信号に他波長の信号が混在してそれが光クロス トーク成分となる場合には, 信号対干渉信号比が常に一定であるため, 信号入力パワーを変化させた時の分布の変化の仕方が先の場合とは異なる また, 図 9の横軸は信号対干渉信号比ではない そのため, 図 9 をそのまま適用することはできない さて, 光受信特性におけるクロストークの影響について述べてきたが, 実際の信号復元においては, しきい値を使用した振幅確定の後にクロック再生機能ブロックが動作する その特性は, 一般的に信号波形のタイミングの時間軸方向の揺らぎ量であるジッタ (Jitter) で議論されている ただし,GE-PON 用の ONU 装置においては, 先に記したように上り信号が TDMAであるので, 上り信号が存在する期間がバースト的になる したがって光クロストークの影響によるジッタの議論については一定の注意が必要である 以上, 原理の面で述べてきたが, 以下では受信特性の評価結果についてふれる ここでは図 6において, フレームロス数から換算されるビット誤り率が10-12 を満足する光入力パワーレンジの最小点を受信感度と定める 表 2に, 上り信号を最大限に伝送させて測定した受信感度を, 図 10に温度特性の代表例を示す また, 上記光入力パワーレンジの上限点を評価するために, 図 6の光受信パワーを0 dbmの固定光パワーで入力し, 換算上のビット誤り率を測定した 結果を表 3に示す なお, 本装置における光受信特性の限界評価には注意すべき点がある 前述したようにこれら評価の時にも GE-PON 用のOLT 装置のコントロール下に入っている必要があるが, 光伝送路損失の設定の程度によっては上り方向のシステム限界が先にきてし 表 2 受信感度の室温測定値 Receiver sensitivity at room temperature. Item Value Sample size 47 Range(dBm) Average(dBm) -27.5 to -26.2-26.90 Std. deviation(db) 0.27 古河電工時報第 124 号 ( 平成 21 年 8 月 ) 21

() -23-24 -2-2 -2-28 -29 S EEE8023 0 3 0 () GE-PONに関連したサブレイヤなどの継続的な研究開発による技術蓄積の成果であると考えられる 5. 光送信特性光送信信号は,GE-PONシステムにコントロールされた光送信機能ブロックによって発光素子が駆動され生成される 代表的な光送信特性の温度特性を図 11 に示す IEEE802.3で定義される 1000BASE-PX10U/20U のスペックに対して充分に余裕のあることが分かる 表 3 図 10 受信感度の温度特性 Temperature dependence of receiver sensitivity. まいOLT 装置とリンクが張られているという条件が崩れかねない そのため,GE-PON 区間の光伝送路は下り, 上りと波長基準で分離し, なおかつ, 上りの伝送路損失は中間値程度に固定している 以上の結果から,IEEE802.3 定義の1000BASE-PX10U/20U のスペックに対して充分な余裕があることが分かる また, 本 ONU 装置の光受信機の機能として, 受信したイーサネットのフレームを電気信号として出力する以外にも, OLT 装置とのGE-PONリンクを維持し,OLT 装置のコントロール下に入り続けることが挙げられる そこで,GE-PON リンク限界点を把握する意味で, 図 6においてOLT 装置との GE-PONリンクが維持できなくなる最小受信光パワーを測定した 表 4にその結果を示す 前記受信感度に対してかなり低いパワーまで GE-PONリンクが維持されていることが分かる なお, ここでもGE-PON 光伝送路の下り, 上りの分離を実施して光受信特性のみに起因するようにして評価している 表 4 光受信レンジ上限側の評価 Evaluation of upper part of receiver range at room temperature. Item Input optical power GE-PON リンク下限点の室温測定値 Bottom value of GE-PON link range at room temperature. Item Value Sample size 10 Range(dBm) Average(dBm) Value 0 dbm Case temperature 0 35 70 Equivalent bit error rate < 10-12 < 10-12 < 10-12 Specified value of IEEE802.3 : -3 dbm, Sample size : n=5-31.5 to -30.3-30.99 Std. deviation(db) 0.40 以上述べてきたように, 満足な受信特性が得られている こ れらは, 極度に小型化していることと併せて判断すれば A () E () E () 4 3 2 1 0-1 -2 20 18 1 14 12 10 8 4 100 80 0 40 20 0 S EEE8023 0 3 0 () S EEE8023 0 3 0 () S EEE8023 0 3 0 () 図 11 代表的な光送信特性の温度特性 Temperature dependence of typical optical transmission characteristics. また,GE-PON 用のONU 装置の上り方向はTDMAであるので, 上り光信号を送出する時間は,OLT 装置に管理されバースト状になる 上り方向の情報送出量をランダムに変えてこのバースト光信号を観測した結果を図 12に示す 縦軸方向が光パワーに相当するが, 各バーストの光パワーを比較しても変化がなく安定していることが分かる これを定量的に評価するためにバースト区間の立ち上がり後 0.6 µs ~ 2.6 µs の時間区間の 古河電工時報第 124 号 ( 平成 21 年 8 月 ) 22

光平均パワーを平均電圧に変換して測定し, その測定の1000 掃引分のトレンドを横軸とした結果を図 13に示す 図の縦軸方向は, スケール2 mv/div, センタライン166 mvである 図で示された変動量は, センタラインに対して1 DIV 以内であるので,± 0.05 db 以内に相当する 測定器が自身でひいたバスタブ曲線から上記 TJを導き出す 図 14では, 上側のプロットがバスタブ曲線 ( 図中, 茶色 ) 及びバースト区間ごとの TJ の 1000 回分のトレンド ( 図中, 青色 ) であり, 下側プロットはある瞬間のバースト光信号である トレンドグラフの縦軸方向は, スケール 10 ps/div, センタライン 100 psである また, トレンドグラフから計算されたTJの平均値は104 psである バーストごとに比較しても安定しており特性としては充分である ただし, バースト光信号のジッタ評価系に内在しているジッタの増分として, 連続発光信号の評価系に対して +40 ps 程度が見込まれると考えているので, 実力的には TJ で 65 ps 程度と想定している 図 12 光送信機のバースト光送信信号 Outgoing burst signal made from optical transmitter. 図 14 バースト光信号で測定した TJ TJ measured in optical burst signals. 6. おわりに 図 13 バースト区間各先頭部の光平均パワーの推移 Trend chart of optical average launch power at the beginning of each burst span. 最後に, 送信光信号の時間軸方向のタイミングの揺らぎであるジッタに関してふれておく 先に記したように光送信信号はバースト状である しかし, 送信信号自体のタイミングは装置内部の送信用クロックに同期している このクロックには連続発振動作をさせておりバースト動作ではないので, 各バーストの光信号のタイミングは連続動作で安定しているクロックに基づいていることになる したがって, 本 ONU 装置の光送信信号のジッタは, 連続発光で動作している一般的な光通信装置における設計の考え方と基本的には相異なることはない OLT 装置に情報送出をしている時のバースト光信号のジッタ測定結果を, 一例として図 14 に示す 求める測定値は,10-12 BERで規定する TJ(total jitter) 1) である ここでは図 14に示すように, PMD サブレイヤの技術を応用して SFP 型の GE-PON 用 ONU 装置を開発した 本装置は,SFPトランシーバのエンクロージャを利用していることからも理解できるように,ONU 装置の機能を光トランシーバのサイズに集積している これは単純比較は難しいものの, 当社の通常のONU 装置との単純体積比で1/80 程度である 加えてその形態が故の特徴を有している それを生かして広範な新規 GE-PON 市場の開拓を担っていくことに期待している ETHERNET / イーサネットは富士ゼロックス株式会社の 登録商標です 参考文献 1) IEEE std 802.3-2005 2) 岩瀬正幸他 : GE-PON FTTH システム向け光トランシーバモジュール, 古河電工時報第 116 号, 古河電工, (2005), 14 3) 赤津祐史 : 光ネットワーク用光モジュール技術の研究開発動向, NTT 技術ジャーナル, 電気通信協会, Vol.18-No.7 (2006), 42 4) 森和行, 赤司保, 竹内真一, 椿一成, 河合正昭, 田中一弘 : 下り 155 Mb/s 622 Mb/s 共用化 ATM-PON 用 OLT 光モジュール, 信学技報, 電子情報通信学会, Vol.100-No.611 (2001), OCS2000-97, 37 古河電工時報第 124 号 ( 平成 21 年 8 月 ) 23