FTTH 光アクセスシステム技術アクセスサービス 多様化するサービスに向けたアクセスシステム技術 ふじもと藤 ゆきひろ 本幸洋 NTTアクセスサービスシステム研究所 プロジェクトマネージャ NTT アクセスサービスシステム研究所では,FTTH(Fiber To The Home) サービス提供のためのアクセスシステム技術の研究開発に取り組んできました. 本稿では, 商用展開されてすでに 20 年近く経過している FTTH のシステムの技術的特徴, および対象としてきたサービスを振り返ります. また, 多様化するサービスに向けたアクセスシステム技術の研究開発の方向性について述べます. アクセスサービスとシステム技術の変遷 商用初期のFTTH FTTH(Fiber To The Home) は, インターネットアクセスの普及に伴い拡大展開し, 現在日本全体で2600 万ユーザ以上が利用する通信インフラとしての地位を築きました. 日本におけるFTTHは1997 年に商用導入が開始され, 提供されるサービスやシステム技術もこの約 20 年の間大きく変わったものもあります. 初期のFTTHは, アナログ ISDN 電話系通信とアナログ多チャネル映像配信サービスを提供していました. 当時のアクセスシステムは, 電話系サービスのためのシステム (STM-PON: Synchronous Transfer Mode-Passive Optical Network) と映像配信サービスのためのシステム (SCM-PON: Sub-Carrier Multiplexing-PON) により構成され, 波長多重技術 (WDM: Wavelength Division Multiplexing) を用い同一の光ファイバ上で 2 つのサービスを提供していました (1). アクセスネットワークは, 光スプリッタを用いた32 分岐のPON 構成です. 当時 の通信系サービスは, 電話系に限られていたためFTTHシステムも 16 Mbit/s 程度の低速なものでした. しかし, WDMによる光信号の多重とPON 構成によるアクセスサービスの提供は, 現在のFTTHでも用いられている技術です ( 図 1). ブロードバンドアクセスとしてのFTTH 2000 年を境にアクセスサービスに大きな変化が起きました. 従来の電話系のサービスからインターネットアクセスへの変化です.2000 年初頭, 前述のSTM-PONを用い最大 10 Mbit/s の帯域を利用できるシステムの開発 導入も行いましたが,ADSLに代表される高速メタリック通信との速度的差別化を図るためにもFTTHシステムの高速化が求められました. そこで, 2002 年にATM-PONをベースにデータ通信のみに特化させ開発した B-PON(Broadband-PON) (2), さらに,2004 年にイーサネット技術をベースに開発されたGE-PON(Gigabit Ethernet-PON) (3) の導入を行いました. この間, アクセスシステムは, 2000 年初頭の10 数 Mbit/sの速度から数年で 1 Gbit/sの速度をサポートする までになりました. この大きな理由は, LANにおける高速化技術が市中技術として安価に利用可能となり, また, それまで比較的独自仕様であったインタフェース条件がIEEE802やITU-T (International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector) の標準化規格により規定され, 数多くのデバイス等が利用可能になったことも挙げられます (4). さらに, サービスをインターネットアクセスと限定することで, 複雑な電話系インタフェースの装置への実装を省くことにより大幅なシステムの簡略化もでき, システムコストの大幅な低減も可能となりました. FTTHによるブロードバンドアクセスの本格的な展開が進むと, 提供サービス拡張への対応 (NGN, マルチキャスト,BS/CS 信号 ), 大量開通の稼働削減への対応 (DYI 化,ONU 一体化 ), 提供エリア拡大に向けた対応 ( 長延化 ),ECO 化 ( 省電力化 ) などのシステム機能追加と改善へと研究開発の対象は移り, システムの成熟度を上げる技術開発を中心に現在まで行われてきました. これら技術開発は, 現在約 1900 万ユーザにサービスを安定的に 74
支えています ( 図 2). アクセスシステム技術開発の現在の取り組み トラフィック増加に向けた技術 FTTHの本格展開から今日に至るまで, ブロードバンドトラフィックの伸びは過去 10 年間で14 倍となっています ( 図 3). この傾向は高精細映像などのリッチコンテンツの普及に伴い今後も増加することが容易に予想されます. 一方, 移動体通信のトラフィックは, スマートフォンなどの普及に伴いここ数年, 毎年 50% 以上の大きな伸びをみせており, 移動体ネットワークのバックボーンの帯域増強は大きな課題です. 現在の光アクセスネットワークは, 移動体基地局のバックボーンとしても利用されており, バックボーンの帯域増強への対応が求められます. このようにブロードバンドアクセスと移 動体通信のトラフィックの伸びに対応したアクセスシステムの高速化が必要な技術の 1 つであることはいうまでもありません. アクセスシステムの高速化は, 現在,10 Gbit/sの速度を伝送するPONシステムが技術的に確立 特 集提供する通信インフラとしての役割を されており,IEEE802, および ITU-Tにおいても規格化されています (5). しかし, 爆発的なトラフィックの伸びと, 高速光アクセスシステムの適用先の多様化を考慮した場合, より柔軟な運用を可能とするシステムが求 75
められます.WDM/TDM(Time Division Multiplexing)-PON (6) は, 複数のTDM-PONをWDMにより同一 PON 上に複数多重化するシステムです ( 図 4). この仕様は, 現在,ITU-T においてNG(Next Generation)- PON2として規格化が進められています. それぞれのTDM-PONは2.5 10 Gbit/sの速度のものが用意され, TDM-PONを 4 波多重することにより最大 40 Gbit/sのPONとして運用することができます. また, 任意の OSU(Optical Subscriber Unit) の通信波長をONUへ動的に割り当てることにより, 柔軟な速度設定や故障時の変更等が可能となります. また, ポイント ツー ポイント (P2P) 型の通信波長を同時にWDMオーバレイさ せることにより,PONとは独立した占有型の通信の多重も可能となります. このような柔軟性は, 同一のアクセスネットワークで一般向けサービスとビジネス向け, モバイル向けアクセスサービスを同時に提供することを可能にすると考えられます ( 図 4 ). モバイルフロントホール利用に向けた技術モバイルフロントホール (MFH: Mobile Front-Haul) は, 基地局となるBBU(Base Band Unit) *1 とアンテナとなる RRH(Remote Radio Head) *2 が離れて設置される場合のリンク区間を指します.MFHでは無線の信号を光デジタル信号へ変換するにあたり, CPRI(Common Public Radio Interface) に準拠したインタフェースを用います.CPRIは無線電波をそのままデジタル化するため, 通常無線 *1 BBU: デジタル信号処理, バックボーンネットワークとの接続等を行います. *2 RRH: 無線信号と光信号の変換等を行います. 76
となります. したがって, 光伝送システムによるCPRIの伝送には, 非常に高速なシステムが求められます. 今後, 移動体通信は現在のLTEやLTE-Aから,10 Gbit/sをサポートする5Gへと移行するにあたり,CPRIのままではアクセス区間に100 Gbit/sを超えるシステムをMFH 投入しなければならず, 経済的なRRHの展開のハードルとなることが予想されます ( 図 ₅). そこで, 将来の移動体通信の高速化に対応した経済的なMFHを実現するために, 従来のBBUの物理層の機能構成を見直し, よりデータレートに近い速度の信号を光信号として伝送する技術を開発しています (7). 具体的には, 基地局の各機能構成を分解し, 現在のCPRI で行われている基地局間の密な協調が可能であり, かつ, 帯域幅を大幅に削減可能な部分を新たなインタフェース として定義し, 従来のCPRIと比較して90% 以上の帯域削減が可能となるようにします. これにより高速化する移動体基地局に対し, 経済的なMFH のシステム化の実現が期待されます. 例えば, 将来の5GのMFHであっても, 商用のLANなどで用いられている 10 Gbit/sの光インタフェースが利用できるため, 現在安価に入手可能な商用技術を用いたシステム化が可能となります. さらに,MFHをPONへ収容する形態も可能となり, さらなる経済化と効率的運用も期待できます. 次の研究 技術開発領域に向けて 新たなサービスとネットワークこれまでの人と人を中心とした通信に加え, この数年,M2M(Machine to Machine) やIoT(Internet of Things) といったモノとモノ, 人とモノをネットワークでつなぐことに関する議論が 16 倍以上の帯域が必要集の伝送速度の さかんに行われており, 新しいサービ スやビジネスがすでに創出されつつあ ります. 現在自動運転の研究が多方面 で行われていますが, 仮に日本国内の 自動車がネットワークに接続されると 8000 万台の 端末 が新たに生まれ ることになります. また,2020 年ま でに世界中で約 500 億個以上のセンサ などのデバイスが 端末 化されネッ トワークに接続されるといった予測も 出され, それでも全体の数 % にも満た ないといわれています. このような莫 大な数のデバイス 端末がネットワー クに接続される世界では, アクセス ネットワークの構成もこれまで構築さ れてきたFTTHとは大きく変わる可能 性があると考えられます. 例えば, M2Mにおけるアーキテクチャの中で 定義されている M2Mエリアネットワー クや基幹ネットワークは, これまでの アクセス 中継といった区切りとは異
なるものかもしれません. また, 適用されるネットワーク技術に関しても, 1 つに集約できるものでもないようです ( 図 6). さらに, モノが送受信する情報の特性がどのようなものになるのかも多種多様な議論があります. このように,M2M,IoT 時代のネットワークをどう実現するか, どのようなアクセスサービスとして提供できるかは, 非常に大きな研究開発テーマであり, 次に向けた新たな領域になると考えています. 部品としての技術の適用 NTTアクセスサービスシステム研究所では, 現在に至るまでさまざまな技術を開発してきました. 各々の技術に関して接近してみると, ネットワーク以外の領域に利用できる技術もあるかもしれません. 例えば, 光ファイバの損失を測定するOTDR(Optical Time Domain Reflectometer) は, 光ファイバネットワークの故障を探索するだけでなく, 光ファイバの物理的変化を観測できるといった特徴を活かし, 河川堤防の状態や構造物の歪みなどの観測にも用いられています (8). 同 様に,PONを構成する個々の技術を 部品 としてみなし他の分野への応用 ( 光信号の衝突回避制御が物流の制御に利用できる等 ) も十分考えられると思います. 逆に他分野で利用されている技術を 部品 とみなし, ネットワーク技術の不足する部分への組み込みも考えられます. 今回のつくばフォーラムでは, アクセスシステム技術 オペレーション技術 ネットワーク技術 基盤技術 として研究所で開発されている技術が紹介されていますが, この技術分類にとらわれない 部品 として, 何に利用できるかも考えていきたいと思います. 同時に各方面からの意見交換などを通し, 新たな領域でのコラボレーションも積極的に進めたいと考えます. 今後の展開 多様化するサービスの創出には, これまで以上に研究開発のテーマの多様化が必要となります.NTTアクセスサービスシステム研究所では, 高速 広帯域化のアクセスシステム技術開発に加え,M2M,IoTに向けた新しい視 点での技術開発, さらに, これまでの領域を超えたところでの応用など, 幅広い研究開発にチャレンジしていきたいと思います. 参考文献 (1) http://www.ntt.co.jp/rd/ofis/active/1998pdf/ tn.pdf (2) http://www.ansl.ntt.co.jp/history/access/ ac0109.html (3) 落合 立田 藤本 田中 吉原 太田 三鬼 : Gigabit Ethernet-PON(GE-PON) システムの開発, NTT 技術ジャーナル,Vol.17, No.3,pp.75-80,2005. (4) Y. Fujimoto: Application of Ethernet Technologies to FTTH Access Systems, IEICE Trans. Commun., Vol. E89-B, No.3, pp.661-667,2006. (5) 可児 鈴木 : 次世代 10G 級 PON システムの標準化動向, NTT 技術ジャーナル,Vol.21, No.9,pp.90-93,2009. (6) 浅香 可児 : 次世代光アクセスシステム (NG-PON2) の標準化動向, NTT 技術ジャーナル,Vol.27,No.1,pp.74-77,2015. (7) 宮本 桑野 寺田 木村 : PON を適用した将来モバイルフロントホールの光伝送容量に関する一検討, 信学技報,Vol.114,No.119, CS2014-18,pp.7-12,2014. (8) 藤橋 宮本 奥津 奥津 : 光ファイバセンシング技術を用いた防災分野への取り組み, NTT 技術ジャーナル,Vol.19,No.9,pp.52-56,2007. 問い合わせ先 NTT アクセスサービスシステム研究所光アクセスサービスプロジェクト TEL 046-859-5280 FAX 046-859-5514 E-mail fujimoto.yukihiro lab.ntt.co.jp 78