特論講座 ゴムの工業的合成法第 13 回エチレンプロピレンゴム 佐々 龍生 Industrial Synthetic Method of the Rubbers 13. Ethylene Propylene Rubber Tatsuo SASSA (Sumitomo Chemical Co., Ltd., Kitasode 2-1, Sodegaura-city, Chiba 299-0295, Japan) satsusa@ sc.sumitomo-chem.co.jp This article reviews the histories, manufacturing method, world-wide producers, and polymerization technology for Ethylene Propylene Rubber (EPDM) from industrial point of view. EPDM has over 50-years history. In this half a century, EPDM and its production process have been improved with the progress in catalyst technology. The catalyst technology influences on the production process and molecular structure of polymer. Key Words: Ethylene Propylene Rubber, EPDM, Ziegler-Natta Catalyst, Metallocene (Received on January 7, 2016) 1. EPDM とは エチレンープロピレンージエンゴム (EPDM) は, エチレンとプロピレンとの共重合体であるエチレン-プロピレンゴム (EPM) に, 少量の第 3 成分として非共役ジエンを共重合させ, ポリマー鎖構成単位上に二重結合をもたせ硫黄加硫を可能としたものである. 図 1にEPDMの化学構造式を示した. 過去, 種々の第 3 成分が検討 / 実用化されて (a) CH 2 CH 2 CH 2 CH CH CH x CH 3 y CH CH 2 CH CH 2 C CH CH 3 z Ethylene Propylene Ethylidiene-Norbornene (ENB) (b) (c) (d) ENB Dicyclopentadiene (DCPD) 1,4-Hexadiene いるが, 代表的な第 3 成分としてエチリデンノルボルネン (ENB),1,4- ヘキサジエン (1,4-HD), ジシクロペンタジエン (DCPD) などがあり, 現在では,ENBが主として用いられている. 触媒としては, チーグラー触媒を使うのが一般的であったが, 最近ではメタロセン触媒を用いて合成された EPDMが増えてきている. EPDMの特徴としては,EPMに比べ加硫しやすく, 容易に高強度の製品を得ることができること, ジエン系ゴムに比較して耐候性や耐熱性が優れていること, 電気的特性がよいなどがある. しかし, 加工する際に未加硫ゴムの粘着性が悪く, 加硫が比較的遅く, 加硫ゴム表面にブルーム 佐々龍生 ; 住友化学 千葉工場第三製造部合成ゴム課 ( 299-0295 千葉県袖ケ浦市北袖 2-1) 課長. 昭和 63 年, 名古屋大学大学院農学研究科林産学修了. 同年, 住友化学 入社, 現在に至る. 専門は, エチレンプロピレンゴムグレード開発およびプラントの運営管理. 図 1 (a)epdm の分子構造と (b)-(d) 第三成分種のジエン化合物 (21) 269
ゴムの工業的合成法第 13 回エチレンプロピレンゴム 日本ゴム協会誌 が発生しやすく, 耐油, 耐屈曲げ裂性に劣るなどの特徴がある 1). 2. EPDM の歴史 EPDM は,1955 年に G. Natta 教授とモンテカチーニ社 ( 伊 ) の研究グループにより, エラストマー状のエチレンプロピレン共重合体として合成されたのが始まりである. その後, 硫黄加硫を可能とすべく, 各種第三成分の導入が検討され現在に至っている. 製造プロセスとしては, 炭化水素溶媒中で重合し, ゴムを分離する溶液重合法が主流であるが, 歴史的には気相法の生産も行われている. 溶液重合では, チーグラー触媒が主流であったが,1996 年の DuPont Dow Elastomers 社によるメタロセンEPDMの商業化以降, メタロセン触媒により製造されるEPDMが増えつつあり, 現在, その割合は約 25% となっている 2). 3. EPDM の生産量とメーカー国際的な合成ゴム生産者団体である IISRP(International Institute of Synthetic Rubber Producers, Inc.) によると,2014 年のEPDMの全世界の生産能力は約 148 万トンであり,2015 年以降も大きくその生産能力は増強されるとしている ( 図 2) 2). エリア別にみると, 表 1に示すようにアジア / 欧州 ( 含ロシア ) 中東 アフリカ/ 北 南米が, それぞれ約 1/3 ずつ生産能力を有している. EPDMの主要用途は, 自動車のシール材やホース類であり, 今後の自動車生産台数の伸び如何によっては供給過剰になることも懸念される. 4. EPDMの製造法 1992 年に米国 UCC( 当時 ) により, 一時的に気相法プロセスが実用化されたが 3), その後 EPDMの生産には使用されなくなった.EPDMの粘着性によるプロセス内の塊化を回避するためにカーボンブラックや無機フィラーを EPDM 粒表面にコートする方法がとられていたが, 市場には合わなかったようである. 現在は, 前述のとおり炭化水素系溶剤を用いた溶液重合法が一般的に用いられている. 溶液重合法では使用される重合触媒により, 大きく二分される. 一つは, チーグラーナッタ系触媒でオキシ三塩化バナジウムや四塩化バナジウムにアルキルアルミニウムを作用させることにより重合活性が発現する. バナジウムの代わりにチタンを使用したチーグラーナッタ系触媒やその改良系であるチタン / マグネシウム系触媒によるEPDM の合成も報告されているが, それらは, プロピレンの共重合性が低いため, 得られるEPDMのエチレン結晶性が高い. そのため, ゴムとしての特性に劣るため一般的ではな kt 年 2) 図 2 EPDM 生産能力推移 270 Asia Europe/ Middle East/ Africa/ Russia North America/ Latin America 2) 表 1 エリア別 EPDM 製造会社と製造能力 Producer Country Capacity (Mt/Year) Remarks JSR Corporation Japan 36,000 Mitsui Chemical Japan 96,000 *75,000 Sumitomo Chemical Japan 40,000 Kumho Polychem Korea 160,000 SK Energy Korea 40,000 Shanghai Sinopec Mitsui Chemicals Co. China 70,000 * Petrochina Jilin Chemical Group China 45,000 Sub total 486,000 ExxonMobile Chemical France 90,000 Lanxess Germany 60,000 Lanxess Netherland 160,000 Versalis S.P.A Italy 85,000 NKNH Russia 20,000 Sub total 415,000 Dow Chemical USA 140,000 * ExxonMobile Chemical USA 115,000 ExxonMobile Chemical USA 90,000 * Lanxess USA 60,000 Lion Copolymer USA 130,000 Lanxess Brazil 40,000 Sub total 575,000 Grand total 1,476,000 *Metallocene Catalyst system (total 375,000) (22)
第 89 巻第 9 号 (2016) 佐々龍生 い. もう一つは, メタロセン触媒であり,1980 年代にKa- minskyにより発見されて以降, 配位子構造になどに改良が施され, 共重合性や高温での安定性などが改善されている. 特に,DuPont Dow Elastomers 社が世界最初のメタロセン EPDM 製造に適用した幾何拘束触媒 (Constrain Geometric Catalyst, CGC) 技術は有名である. 図 3 に CGCの一般的な構造式を示す. また, 各種触媒による重合反応の特徴を表 2にまとめた. 4. 1 バナジウム系触媒を用いた溶液重合プロセス製造工程は, 大きく分けて, 重合 / 未反応原料回収 / 脱灰洗浄 / 溶剤回収 / 脱水乾燥 / 成型の6 工程からなる ( 図 4 ). バナジウム触媒は, メタロセン触媒に比べて触媒活性が低く, 触媒残渣を水洗により除去する工程が不可欠である. 一方で, 触媒使用量が多く, モノマー中に含まれる水分などの触媒毒量に対して触媒量が多いため, 特段のモノ マーの精製を行うことなく使用することができる利点がある. 重合工程では, 重合反応容器に連続的に溶剤, エチレンやプロピレンガスモノマー, 第三成分モノマー, バナジウム触媒, 有機アルミニウム助触媒, 分子量調節剤が供給され, 重合溶液が連続的に排出される. バナジウム触媒は, メタロセン触媒に比べて高温に弱く, 高温では触媒活性が低下するため, 一般的には30 ~ 50 の重合温度が選択される 8). 分子量調節剤には水素を用いることが一般的である. 目的とするEPDM 構造を得るために, これらの供給比率や速度は, 厳密に制御される. 重合溶液の濃度は, 重合温度の不均一化による構造変化や溶液粘度の上昇に伴う送液不良などのトラブルを防ぐために制限されており,10 % 未満が一般的である 6). 未反応原料回収工程では, 重合溶液を減圧 / 加熱することによりガスモノマーが回収される. 回収されたガスモノマーは重合工程に戻され再使用される. 脱灰洗浄工程で, Z Y R 2 M X X M = Zr, Ti, Hf Cp 環置換基 ( ) = H, アルキル シリル架橋基 (Z) = 種々の長さのアルキル アリル シリル配位基 (Y) = アミド フォスファイド アルコキシドなど配位基に結合する置換基 (R 2 ) = H, アルキル アリル シリルなど 4) 図 3 幾何拘束型のメタロセン触媒 (CGC) の一般的な構造 5) 表 2 メタロセン触媒とバナジウム (V) 触媒の特徴比較 メタロセン触媒 既存 V 触媒 δ -TiCl 3 / Et 2 AlCl 分子量分布 狭い 狭い~ 広い 広い ランダム性 環状ジエンの共重合性 高級 αオレフィンの共重合性 触媒活性 ( 中心金属 ) 重合温度 高温可能 60 以下 高温可能 : 高い 優れている, : 低い 適さない, : 中程度 図 4 EPDM 製造フロー例 ( バナジウム触媒 ) (23) 271
ゴムの工業的合成法第 13 回エチレンプロピレンゴム 日本ゴム協会誌 重合溶液を水洗し製品に残る触媒残渣を低減させている. 一般にEPDM 中のバナジウム残渣は,50 ppm 以下程度である. 溶剤は, 重合溶液をスチームと共に容器中に吹き込むスチームフロック法により分離回収され精製 / 再使用される. スチームフロック法は, 後述する脱揮押出機を用いる直脱法よりも適用製品範囲が広い. 溶剤が分離された EPDMは, 温水中に分散された形で脱水 / 乾燥工程に送られる. 脱水 / 乾燥工程ではエネルギー効率よく乾燥するために, まず絞り乾燥機にて物理的に水を絞った後に加熱乾燥される. 図 5に触媒種とEPDMの分子量, 組成分布構造を示した. ポリマーの分子量, 分子量分布, 立体規則性, 化学構造, モノマー配列, 分岐度, 組成分布, 末端構造などの分子構造は, 重合条件を選択することである程度制御することができ, 製品の種類や目的に応じて調整する. 制御因子 は, モノマー比率, 第三成分種, 触媒種, 重合温度, 濃度, 分子量調節剤濃度などである. バナジウム系触媒では, バナジウム化合物や有機アルミニウムの種類により, 得られる共重合ゴムの構造 ( 分子量分布など ) が異なることが明らかにされており, 用途 / 目的に応じて分子構造設計がなされている. 特に, ロール加工や押出加工特性に優れる特徴あるグレードのゴムが製品化されている. 4. 2 メタロセン触媒を用いた溶液重合プロセスメタロセン触媒を使用するプロセスの特徴は, 図 6に示すようにバナジウム触媒プロセスに比較して脱灰 洗浄工程がなくシンプルなことである. これにより建設コストや用役コストの面で有利になる. メタロセン触媒は, バナジウム触媒に比べて高温に強く重合温度は,80 ~ 120 程度が選択されるようである. より高温で重合できるため溶液粘度が低下し, 高濃度重合が可能であり, 一例では, 16.4% とされている 7). また, 触媒洗浄工程を必要としな AlEt 2 Cl AlEt 1.5 Cl 1.5 AlEtCl 2 VOCl 3 VO(Oi-Pr) 3 VO(OBu) 3 VO(Ot-Bu) 3 図 5 触媒種と EPDM の分子量, 組成分布構造 1) ( 横軸 :Log MW, 縦軸 : プロピレン含量 ) 図 6 EPDM 製造フロー例 ( メタロセン触媒 ) 272 (24)
第 89 巻第 9 号 (2016) 佐々龍生 a 表 3 メタロセン EPDM とバナジウム EPDM の特性比較 メタロセン EPDM メタロセン EPDM-2 既存 EPDM ムーニー粘度 (1+4)150 70 60 65 エチレン含量 (wt%) 51 54 54 ENB 含量 (wt%) 5.8 6.3 6.5 b C2'- 化学組成分布 6 1 5.7 加硫トルク (MH) 56 60 55 300% モジュラス (MPa) 15.5 9.6 9.5 破断点強度 (MPa) 9.6 15.6 15.9 破断点伸び (%) 15.5 385 400 表面硬度 ( ショアA) 66 66 65 圧縮永久歪 (125,70 h)(%) 63 60 65 a 配合処方 : ポリマー (100)/ ステアリン酸 (1)/IRB6(80)/ オイル (50)/MBT(0.5)/TMTD(1.0)/ 硫黄 11) (1.5). プレス加硫条件 :170, 20 分. 文献 9 より転載.b エチレン 3 連鎖濃度 いため, 脱溶媒工程はスチームフロック法ではなく, フラッシュドラムと脱揮押出機の組合せが選択されている. これはスチームフロック法では溶剤回収に必要なエネルギーに加えて, 水分を除くためのエネルギーも必要になるためである. フラッシュドラムでの流下速度が生産速度を支配するため, 流下速度が低くなる非油展高分子量グレードや加工性を追求して多くの分岐を与えたグレードの生産性は低くなる. また, メタロセン触媒は均一系触媒と云われるが如く, その特徴として分子量分布が狭く組成分布に偏りの無いポリマーを与える. この特徴は, 引張強度など物性面では有利に働くが, 加工性面ではロール粘着性の低下や高速せん断域の押出し成形品の肌荒れといった不利な面もある. 重合の多段化や分岐付与用の第四成分の共重合 8) といった工夫により, 加工性を向上させることが試みられている. 表 3にメタロセン触媒により得られたEPDMとバナジウム触媒により得られたEPDMの力学特性を示した 9). 組成やムーニー粘度が同等であれば, 得られる加硫ゴムの力学特性もほぼ等しいようである. 5. ポストメタロセン触媒 2013 年 10 月のダウエラストマー社プレスリリース 10) によると2016 年にポストメタロセン触媒による高ムーニー粘度のEPDM 製品生産に乗り出すとしている. プロセスの詳細や触媒構造, ポリマー分子構造の詳細は不明であるが,EPDM 製造の新たな展開として今後も注目すべきであろう. また, 電気自動車や燃料電池車の普及といった市場の変化も, 求められるEPDMに影響を与え, 牽いては将来のプロセスにも影響を与えると思われる. 6. EPDM プロセスの動向 従来からのバナジウム触媒を用いたEPDMとメタロセン触媒により得られるEPDMの特徴から二極分化 ( 多様な高機能 EPDMと汎用 / 廉価なEPDM) に分かれていくことが想像される. それぞれが長所を追求するとともに短所を補うプロセス技術開発が進んでいくであろう. References 1)Nakano, S.; Sassa, T.: Nippon Gomu Kyokaishi, 79, 537(2006) 2)IISRP: Worldwide Rubber Statistics 2014, IISRP, Huston, p.10(2014) 3)Stakem, F. G.; Paeglis, A. U.; Collins, J. D.; Union Carbide Gas- Phase EPM and EPDM Rubber 142nd Technical Meeting of the ACS Rubber Division, ACS, p.95(1992) 4)Komatsu, K.; Ono, S.; Imaizumi, F.: Metallocene Syokubai de tsukuru Shin-Polymer Kougyo-Chyosakai, p.29(1999) 5)Hannou-kougaku kenkyukai Report: Metallocene Syokubai ni yoru Polymer no Seizou, Soc. Polym. Sci. Japan, p.121(1997) 6)Shwaar, R. H.; Chien, C.: SRI Report 4B, Ethylene-Propylene Terpolymer Rubber, Process Economics Program, California, p.88(1981) 7)Chin,Y.: SRI Report 4D, New Generation EPDM Technologies, Process Economics Program, California, 5-2(1998) 8)Nakatsuji, R.; Takehara, A.: Jpn. Koukai Tokkyo Koho 2013-234289(2013) 9)Sugi, M.; Kawasaki, M.: Nippon Gomu kyokaishi, 70, 100 (1997) 10)http://www.dow.com/japan/news/2013/20131007a.htm 11)Kakugo, M.; Naito, Y.; Mizumuma, K.; Miyatake, T.: Macromolecules, 15, 1150 (1982) 日本語表記参考文献 1) 中野貞之, 佐々龍生 : 日本ゴム協会誌,79,537(2006) 4) 小松公栄, 小野文武, 今泉進 : メタロセン触媒でつくる新ポリマー, 工業調査会 (1999) 5) 反応工学研究会レポート メタロセン触媒によるポリマーの製造, 高分子学会 (1997) 8) 中辻亮, 竹原明宣 : 特開 2013-234289(2013) 9) 杉正浩, 川崎雅昭 : 日本ゴム協会誌,70,100 (1997) 10) ダウ ケミカル日本ホームページ :http://www.dow.com/japan/news/2013/20131007a.htm (25) 273