前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

博士の学位論文審査結果の要旨

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

平成14年度研究報告

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

PowerPoint プレゼンテーション

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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生物時計の安定性の秘密を解明

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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第6号-2/8)最前線(大矢)

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が


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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

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胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

学位論文の要約


平成18年3月17日

長期/島本1

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

Microsoft PowerPoint - 2_(廣瀬宗孝).ppt

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

< 内容 > 乳がんは女性の罹患率が第一位のがんで 日本人女性の約 11 人に 1 人がかかり 近年患者数は上昇傾向にあります 乳がんの約 60 70% は 女性ホルモンであるエストロゲンと結合して細胞増殖に働くエストロゲン受容体 (ER) を生産 ( 発現 ) しています そのため エストロゲンの

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

核内受容体遺伝子の分子生物学

平成 28 年 2 月 1 日 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦至 ( なつめあつし ) 准教授 及び東北大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 下瀬川徹

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

4. 研究の背景 : エストロゲン受容体陽性で その増殖にエストロゲンを必要とする Luminal A [3] と呼ばれるタイプの乳がんは 乳がん全体の約 7 割を占め 抗エストロゲン療法が効果的で比較的予後良好です しかし 抗エストロゲン剤の効果が低く手術をしても将来的に再発する高リスク群が 約

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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博第265号

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

病原性真菌 Candida albicans の バイオフィルム形成機序の解析および形成阻害薬の探索 Biofilm Form ation Mech anism s of P at hogenic Fungus Candida albicans and Screening of Biofilm In

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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革新的がん治療薬の実用化を目指した非臨床研究 ( 厚生労働科学研究 ) に採択 大学院医歯学総合研究科遺伝子治療 再生医学分野の小戝健一郎教授の 難治癌を標的治療できる完全オリジナルのウイルス遺伝子医薬の実用化のための前臨床研究 が 平成 24 年度の厚生労働科学研究費補助金 ( 難病 がん等の疾患

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再発した前立腺癌の増殖を制御する新たな分子メカニズムの発見乳癌治療薬が効果的 発表者筑波大学先端領域学際研究センター教授柳澤純 (junny@agbi.tsukuba.ac.jp TEL: 029-853-7320) ポイント 女性ホルモンが制御する新たな前立腺癌の増殖 細胞死メカニズムを発見 女性ホルモン及び女性ホルモン抑制剤は ERβ 及び KLF5 を通じ FOXO1 の発現量を変化することで前立腺癌の増殖 細胞死を直接制御している 前立腺癌の増殖抑制には FOXO1 の発現量を増加させる女性ホルモン抑制剤フルベストラント ( 乳癌治療薬 ) が有効 前立腺癌組織中の ERβ KLF5 の発現量と FOXO1の発現量及び癌発症後の生存率の相関を発見筑波大学大学院生命環境科学研究科の研究グループ ( 柳澤純教授 仲島由佳助教 ) は 東京大学大学院医学系研究科井上聡特任教授との共同研究により 女性ホルモン抑制剤による前立腺癌の進行制御メカニズムを解明しました 今回の発見により 初期及び再燃性前立腺癌に対する副作用の少ない新たな治療薬の開発につながる可能性が期待できます 前立腺癌は男性特有の癌で男性ホルモン ( アンドロゲン ) の影響で病気が進行します そのため 治療の第一段階ではアンドロゲン経路の遮断を目的としたホルモン治療が有効です ホルモン療法では 体内アンドロゲン濃度の低下を目的に女性ホルモン ( エストロゲン ) 剤が使用されることもあります しかし 女性ホルモン剤投与も含め ホルモン治療の効果は数年のうちに失われ 癌が再び活発に増殖するホルモン抵抗性再燃前立腺癌へと進行していきます この再燃した癌に対する有効な手立てはあまりありません 研究チームは 女性ホルモン抑制剤が再燃性前立腺癌に有効だという臨床試験知見に着目し その分子機構をアンドロゲン不応性の前立腺癌細胞及びマウスを用いて調査しました その結果 女性ホルモン及び女性ホルモン抑制剤が転写因子 ERβと癌抑制転写因子 KLF5 を介して下流遺伝子 FOXO1 の発現量を調節していることを突き止めました さらに 女性ホルモン抑制剤の中でも乳癌治療薬として開発されたフルベストラント (ICI182,780) が FOXO1 の発現量を増加させ 前立腺癌の細胞死 ( アポトーシス ) を誘導すること その結果として癌細胞に特有の足場非依存性増殖 ( アノイキス ) の抑制に有効なことを発見しました 今回の発見により 再燃性前立腺癌に対する副作用の少ない新たな治療薬の開発につながる可能性が期待できます 本研究成果は _Science Signaling_ 誌 4 月 12 日付に掲載されました なお 本研究の一部は 文部科学省 ターゲットタンパク研究プログラム 及び 革新的細胞解析研究プログラム ( セルイノベーション ) としておこなわれました 1. 背景

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そのため 治療の第一段階では抗アンドロゲン剤の投与によるアンドロゲン経路の遮断が効果的です ( アンドロゲン除去療法 ) 女性ホルモン ( エストロゲン ) は体内アンドロゲン濃度を低下させることから アンドロゲン経路遮断に女性ホルモン剤が使用されることもあります しかし 女性ホルモン剤投与も含めアンドロゲン経路遮断効果は数年のうちに薄れ 再び活発に増殖するホルモン抵抗性再燃前立腺癌 ( アンドロゲン不応性前立腺癌 ) へと進行していきます 現時点では 再燃性前立腺癌に対する有効な治療方法は少なく 新た図 2 な治療薬の開発が待ち望まれています 図 2 近年 女性ホルモン抑制剤がホルモン抵抗性再燃前立腺癌の進行を抑制するという臨床学的な知見が見出され注目を集めています 女性ホルモン抑制剤とは乳癌 子宮癌の治療薬として開発された女性ホルモン ( エストロゲン ) の働きを阻害する薬剤です エストロゲンは エストロゲンに直接結合する転写制御因子エストロゲンレセプター (ERα 及び ERβ) を通じ下流の遺伝子発現を制御することで生理作用を発揮しています 図 3 女性ホルモン抑制剤は エストロゲンと競合して ERα 又は ERβ に結合し エストロゲンの作用を阻害します ERβは男性特有の臓器である前立腺の上皮細胞に発現し形態形成に関与していることが知られています しかし 乳癌や子宮癌の治療薬として開発された女性ホルモン抑制剤がどのように前立腺癌の進行を抑制しているの

記者会見日時 : 4 月 11 日 ( 月 )14:00 ~ 15:00 か その詳細なメカニズムは図 3 不明なままでした 2. 研究手法と成果 (1) 女性ホルモン ( エストロゲン ) や女性ホルモン抑制剤 ( フルベストラント ) はアンドロゲン不応性前立腺癌の腫瘍形成を制御する研究グループは 再燃性前立腺癌に対する女性ホルモン抑制剤の効果を明らかにするため アンドロゲン不応性の前立腺癌細胞を移植したマウスに 2 種類の ER リガンド [ エストロゲン 女性ホルモン抑制剤フルベストラント (ICI 182,780(ICI)) ] を投与し腫瘍の発達度を比較しました 一般に正常細胞は浮遊状態では増殖せず細胞死 ( アノイキス ) を引き起こしますが 癌細胞ではこの足場非依存的な細胞死は抑制されています ICI を投与したマウスでは細胞死が誘導され移植した前立腺癌が退縮していました 一方でエストロゲンを投与したマウスで図 4 はアノイキス誘導率が減少しており 前立腺癌の増殖が増大していました 図 4 これらの薬剤の効果は ER β 遺伝子の発現を抑制すると消失しました これらの結果より ER リガンドによる前立腺癌に対する異なる効果は どちらも ERβを介して発揮されていることが分かりました (2) 女性ホルモン及び女性ホルモン抑制剤は ERβ KLF5 を介し FOXO1 の発現量を変

化させることで再発した前立腺癌の増殖 細胞死を制御している 次に研究グループはこの作用機序に関わる因子の決定を試み ERβ に結合する因子を検 索しました その結果 前立腺癌抑制遺伝子として知られている転写因子 KLF5 を見出し ました KLF5 遺伝子の発現を抑制すると ICI エストロゲンの前立腺癌に対する効果が 消失しました また ERβ 存在下において ICI は KLF5 依存的な遺伝子発現を増加さ せ 一方でエストロゲンは KLF5 依存的な遺伝子発現を減少させました ICI がアンドロ ゲン不応性の前立腺癌細胞を退縮させ エストロゲンがその増殖を抑制するという 先の 発見と合わせ 研究グループは ER リガンドが KLF5 依存的な遺伝子発現を通じ 前立腺 癌に作用していると考えました この仮説を証明するため 研究グループは ER リガンド 投与もしくは KLF5 遺伝子発現抑制したアンドロゲン不応性細胞における遺伝子発現を マイクロアレイ法により計測し 標的となる遺伝子を検索ました その結果 細胞死誘導因子 FOXO1 を見出しました 前立腺癌細胞内での FOXO1 遺伝子の発現量はエストロゲン投与により減少し ICI 投与により増加しました ER リガンドによる FOXO1 の発現変動は KLF5 と ERβの発現抑制により消失しました これらの結果は ER リガンド投与による FOXO1 の遺伝子発現変動が KLF5 と ERβを介して発揮されていることを示しています (3)ERβ 及び KLF5 は FOXO1 のプロモーター領域に結合し その発現量を調節している次に研究グループは 前立腺癌における FOXO1 の役割を検証しました 前立腺癌細胞内における FOXO1 の発現量を増加させることにより アノイキスが誘導され 前立腺癌の腫瘍形成は抑制されました 一方 FOXO1 の発現量を低下させると アノイキスは抑制され 腫瘍形成は促進されました これらの結果から FOXO1 は前立腺癌腫瘍形成を抑制する因子であることが明らかになりました また ERβが KLF5 を介して FOXO1 のプロモーターと呼ば図 5 れる転写制御領域に結合することを見出しました さらに 共役転写活性化因子 (CBP) は ERβを介して FOXO1 プロモーター上に結合していました この ER βと KLF5 を介した CBP の FOXO1 プロモーターへの結合は ICI 投与により増加ました 一

方 エストロゲン投与により ERβ KLF5 CBP は FOXO1 のプロモーター上から解 離しました 以上の結果は ER リガンドによる FOXO1 の転写への影響は ERβ と KLF5 を介した CBP の FOXO1 プロモーターへのリクルート制御によることを示しています 図 5 (4) 前立腺腫瘍組織における ERβと KLF5 の発現量は生存率と正の相関を示す成人男性の正常時の体内エストロゲン濃度では ERβ 依存的な KLF5 の転写抑制は認められませんでした そこで 研究グループは ERβまたは KLF5 の前立腺癌組織における発現量の違いにより前立腺癌患者を 4 グループ (ERβ/KLF5; 陽性 / 陽性, 陰性 / 陽性, 陽性 / 陰性, 陰性 / 陰性 ) に分類し FOXO1 のタンパク質量及び生存率を測定しました その結果 ERβ KLF5 双方とも陽性の患者群の前立腺癌組織における FOXO1 の発現量は 他の群の患者組織におけ図 6 る発現量よりも多く さらに 生存率も高いということが分かりました 図 6 このことは ER リガンドが ERβと KLF5 を通じ FOXO1 の発現を制御すること さらに その結果生じる FOXO1の発現変動が 前立腺癌の予後に影響を与えることを示しています 3. 今後の期待今回 乳癌治療薬フルベストラントによるアンドロゲン不応性再燃性前立腺癌の抑制メカニズムが解明できたことから 副作用の少ない新たな治療薬開発 新たな治療法の確立が期待できます ( 本研究についての問い合わせ先 ) 筑波大学大学院生命環境科学研究科教授柳澤純電話 :029-853-7320 E-mail: junny@agbi.tsukuba.ac.jp ( 報道担当者 ) 筑波大学戦略イニシアティブ (A) 遺伝情報ウェブと生命制御拠点 新道真代電話 :029-853-7320 E-mail: masa@sesame.selfip.met