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1 NPO の Web サイト活用に関する一考察 i 石田修二 松井真理子 はじめに 2008 年 10 月末現在 を超える NPO 団体が法人として認証され 医療や福祉 環境 文化 芸術など さまざまな分野で活動している しかしそのうちの約 5 割は年間収入が 500 万円未満で 財政規模が小さな団体である NPO 法人の活動上の問題点は財政問題と人材問題と言われている 2006 年の内閣府調査を見ても 主に財政 人材の面で大きな課題を持ち 不安定な団体が圧倒的に多い 以上の状況を背景に 多くの NPO 法人は 助成金や会費 寄附金などの資金調達に関するスキルや活動の経営ノウハウのスキルの必要性を感じている その一方 組織の大小にかかわらず多くの NPO が情報公開の手段として自身の Web サイトを持っている そこで本研究ノートでは大規模でもなく 組織のスキルレベルが高くない NPO において Web サイトをどうやって財政問題や人材問題の解消に活用できるのか そのヒントを示すことを目指す そして実際の取り組みの例として 筆者たちが関わっている NPO 法人市民社会研究所での実際の経験を示す そしてその次に Web を使った寄附金集めのインフラ ( 出典 )NPO 法人データ分析 ( 1

2 1. NPO 法人市民社会研究所における取組み ここでは筆者も参加している NPO 法人市民社会研究所 ( 以下 SSK) の取組みにおいて 運用面における特徴を紹介したい SSK は 2007 年 11 月に設立総会が行われ 翌年 4 月 1 日には NPO 法人格を取得した 期間中の 07 年 12 月には Yahoo! グループを利用したメーリングリストを立ち上げた 現在も使われている 初期の段階においては会員間の意見交換 新規会員の紹介 イベントの案内などに用いられた ホームページが運用されている現在 以前ほど使われる機会は減少傾向にある ( 図参照 ) しかし 情報を会員のメールアドレス宛てに送ることができることもあり 依然としてイベントの案内等 ホームページに公開されている情報を補完する用途として使われている ( 図表 )SSK 会員向けメーリングリストの投稿数 (~2010 年 1 月 30 日現在 ) 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 1 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 ( 出典 )Yahoo! グループのデータを元に 石田が作成 2005 年 1 月にはホームページも開設された 筆者の一人で SSK の代表でもある松井が市販のホームページ作成ソフトを用い ジオシティーズというウェブサイト提供スペース上に公開した ii そしてそこには HTML 形式 PDF 形式の活動紹介や会合の資料のファイルがアップロードされている SSK がどういった活動をしており またどのような方針で活動しているかといった情報は公式ページを見たら ほぼ網羅されている それでもわからないことがあれば ホームページに記されているメールアドレス 電話番号に問い合わせればよいのである 組織が積極的に活動していることもあり コンテンツには事欠かないと言ってもよい またほぼ毎日 ページは更新されている 更新頻度が高い 情報量が多いことは当たり前のようなことにも思えるが NPO 関係にとどまらず 更新が滞るホームページが個人 企業 行政等々でも多いことを思えば ほぼ毎日更新が行われているというの 2

3 は特筆すべきことだろう 情報量の多さと更新頻度の高さに続く もう一つの特徴としては コンテンツの一つとしてインターネットラジオ番組の存在が挙げられる これは 文字のみによる情報発信にとどまらず メンバーの本音を発信するということで 2007 年 1 月から始めたものである 番組のタイトルは 本音でトーク市民のラジオ 活動紹介や その時々のニュース NPO における諸問題についてメンバー間で本音で楽しくおしゃべりするといった内容である iii 筆者の石田が提案者なのだが 文字だけの情報発信なら他の団体もやっているし 動画の公開もスキルがないといった状況のもとで 他の団体と差別化するかを検討して提案したコンテンツである 技術的には ライブドアが提供しているインターネットラジオサービス ねとらじ を用いている 技術力もなく またいつまで続くかどうかわからないことを考慮し コストをかけず 手軽に始められることから ねとらじ を使うことになった インターネットラジオというと自分でストリーミングサーバを設置し 運営することが考えるが 資金力も技術力もない組織であれば こういった ねとらじ のようなサービスを用いるのは極めて有効であろう マイクとミキサー パソコンがあればできるので ホームページを持っていなくても発信することができる なお 現在 SSK の 本音でトーク市民のラジオ は事情により休止している もっとも 自分の都合で中止することができるのもコストをかけずに運営しているからできるアクションであり この気軽さはメリットの一つとも考えられるだろう また 現在はラジオという手段を使っているが 映像の公開も以前と比べて簡単になっているので 近い将来は YouTube 等の動画共有サイトを使って情報を公開していくこともありうる 2. 問題点 成功ばかりではなく 失敗したコンテンツも存在する ここでは 電子掲示板 ネット 上での知識教育について述べる (1) 電子掲示板の運営情報交換や議論などを行う場として電子掲示板の存在がある 2 ちゃんねるがその代表であるし 阪神大震災の支援活動において パソコン通信の電子掲示板が安否状況の確認 ボランティアを必要とする地域からの支援要請などに活用されたのは有名な話である 市民社会研究所においても 会員間による情報交流を促すことを目的に 2005 年 7 月に電子会議室を設置した 無料で配布されていた Perl スクリプトをカスタマイズし 会員に安 3

4 心して発言できるよう 公開範囲を会員に限定して公開したのである 情報交換 議論の場として提供されたにもかかわらず 現在に至っては書き込みもアクセスもほとんどない状態が続いている 議論を行う場として機能していないと言われれば何も反論できない ( 図 )SSK 電子掲示板 2007 年 1 月 ~2010 年 1 月までの書き込み数 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 1 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 合計 ( 出典 ) 電子掲示板のログを元に石田が作成 盛り上がりに欠ける要因としては文章を書くことができる人間が出なくなったことが挙げられるだろう もっとも メンバーは 日常的には別な仕事を持っているケースも多いので 掲示板ばかりにかかわっているわけにはいかない しかし 電子掲示板に悩みを書けば もしかしたら別の人からいい解決方法が提案されるかもしれない また それが蓄積していけば立派な問題解決のためのデータベースにもなりうる 電子掲示板はナレッジマネジメントにおいて重要なインフラといえる アクセスが多い月の内容を観察してみるとメンバーが共感できるようなテーマが多い 具体的には 自治会 行政への不満 大々的に報じられている時事的なニュース といったテーマである こういったテーマが読み手に 私だってひとこといいたい 気分にさせ 結果として 書き込みが増える要因となっているようである 当分は 活動に積極的な会員に書き込みをお願いをするのが最も効果的であるようだ 4

5 (2) ネット上での学習基盤作り 2008 年 1 月から 市民社会クイズ というコンテンツの提供を始めた 政治や法律 経済の基本的な知識を学ぶということで 毎週 1 問 メンバーが交代で問題を作成し 選択問題を提供するというものである 技術的な基盤も大したものは使っていない 無料の JavaScript プログラムをダウンロードし それを SSK のデザインに合う形にカスタマイズしただけである コストはほとんどゼロに近い 開始当初は 利用の度合いも二桁のアクセス数を確保したものの 問題作成者は次々と抜けてゆき またアクセスも減っていったため スタートから 1 年 4 カ月後の 09 年 3 月末をもって終了となった 私個人の評価としては 方向性としては悪くなかったと思う 用語の意味を問うといった知識伝授 確認のスタイルから入った方がシステム導入にあたっての敷居が低いため うまくいけばシステムとしては長続きする したがって 教材に工夫をする 作成者の分担をきちっと守らせるなどすれば成功する可能性はあるだろう 市民社会クイズは残念な形で終わってしまったが 広い意味での学習基盤作りではうまく行っているのではないか SSK のホームページには 現実に施設で行われている研修の資料が公開されており それを見ることで参加者は復習ないし予習をすることができる つまり 講義を補完する点での学習基盤は作られていると言ってもよい 3. 今後の展望 (1) CMS の導入 SEO を意識した Web サイト作りブログやアンケート ファイルの共有ページを簡単に設置できるシステムとして CMS (Contents Management System) というものがある これを用いることで 1 権限の異なる複数の管理者 あるいは投稿者がウェブブラウザからサイトへコンテンツをアップロードする 2 任意のキーワードでサイト内のコンテンツを検索する 3モジュールまたはプラグインを追加してシステムを拡張する といったことが可能になる 現在 XOOP Drupal OpenPNE Moodle といった多くの CMS が無料で配布されている サーバーへのインストールや初期設定等面倒なことはあるものの 一旦稼働し始めれば 編集作業は簡単である HTML エディタが付いているので ワープロ感覚でページを生成することができる いくら CMS を入れて素晴らしい Web サイトを構築しても 検索エンジンの検索結果の上位に自分の団体の Web ページが出なくては露出効果は大きく削がれる したがって 検索エンジンの上位に自分の Web サイトを載せたいというのであれば SEO( 検索エンジン最適化 ) 対策も意識しなくてはならない 検索エンジン各社はどのようにしたら上位に表 5

6 示されるのか そのアルゴリズムを公開していないので これが答えだというものはないのだが 一般的には PR したいキーワードをページ上に埋め込む 頻繁に更新する アクセス数を増やすといったことが挙げられる たったそれだけでも 検索エンジンにおける順位を少しぐらいは上げる効果がある (2) 寄附金集めの手段としての活用昨今 Web の活用として注目されているのが e フィランソロフィー ファンドレイズ ( 資金開拓 ) の仕組み作りに Web を活用しようというものである 寄附を募るためには NPO 自身への信頼がなければならない そこで 組織の事業紹介 合意形成等情報を積極的に Web 上に公開し 信頼の向上につなげる 信頼の向上が 寄付者の満足度アップとなり 寄付行動につながる Web 上で寄付者への感謝 感謝の気持ちのオープン化も満足度の向上に効果があるとの報告もある 寄附金の決済については 現在 金融機関の店舗や ATM から振り込んでもらうという形が最も多いが 営業時間に左右されるという欠点がある これに対して インターネット寄付では 24 時間 パソコンさえあれば寄付できる さらに言えば 決済方法をクレジットカードによるものにすれば面倒ではあるが 寄付者の情報を集め データベース化するには有効である データベース化することで 寄付者に応じたきめ細かい活動報告といった CRM(Customer Relationship Management) 的な取り組みも可能になる システム構築方法としてはレンタルサーバのショッピングカート機能を使うことで 実現することができる レンタルサーバによっては 低コストでショッピングカート機能を提供しているところもあるので それを利用すればよい 寄付者はショッピングカート機能によって ネットショッピング感覚で寄付することができる デメリットとしては運用する側にとって手間がかかることであろう ネットショップを開設しているのと同じであるため 当然 送料の表示等 ネットショップ同様の法規制を受けることになる また クレジットカード決済を導入する場合 カード会社との加盟店契約 審査がある これを通らないと原則カード決済ができない これが NPO 法人にとっては大きなハードルになる インターネット寄付の処理 管理には NPO の IT 能力 事務処理能力が大きく問われる 具体的には導入のためのコスト セキュリティに精通していることが重要である 6

7 ( 図 ) インターネット募金の例 - 認定 NPO 法人難民を助ける会の募金ページ iv ( 図 ) クレジットカードも使用できる寄附システムの例 ( 注 ) 寄附ページの URL はちゃんと https になっており 基本的なセキュリティ対策もなさ れている 7

8 (3) 人材育成以上を実現するにあたって最大の問題は こういった事情に精通した人材育成できるかという点であろう 現在 NPO のホームページの多くは一人ないし ほんの数名で作成しているというのがほとんどと思われる 資金に余裕があれば サーバーの管理を含め 完全に外部に発注するということもできる しかし 外注するにしても理想としては ホームページの運用 コンテンツの企画といったことについては NPO 自身が中心になって関わっていくことが望ましい 当事者がホームページの内容を管理し 更新することにより 利用者のニーズに合ったコンテンツを迅速に提供できる ただ その際 ある程度の技術力 情報リテラシー力が必要なのは言うまでもない 理想としては 外注先と協議し 運用管理の役割分担 専門的な支援の方法 トラブル時の対処のルールの策定 ユーザビリティ アクセビリティに精通した人がいるのが最も望ましい このような能力を持った人材の育成は また 掲示板の運営 資金調達の方法では求められる能力も異なるので 複数いることが望ましい また トップの IT への理解も不可欠である 管理職には情報通信機器の操作に疎い人が多いのも事実である そして疎い人の多くは情報通信技術について間違った認識を持った人も少なくはない SSK でも実際 代表が NPO における情報機器の利活用に対して理解を示していることが組織の情報戦略において大きな力となっている これをさらに推進していくためには トップを補佐する CIO(Chief Information Officer) 的なスタッフを用意する必要があるだろう そういった人たちを中心にして NPO における情報政策全般の企画 立案 情報政策の実施におけるメンバー間の調整 情報インフラの決定及び統一 情報リテラシーの設定および向上に向けた研修などの実施が考えられる まとめ以上 私たちが関わっている NPO 法人における取り組みを紹介することで 小さな NPO 団体でも実現できる Web サイトの活用法について示してみた SSK の Web サイト戦略は基本的にお金のかかるものはないので参考になる点も多いと思われる しかし 一番大事なのは IT に強い人材育成である これは組織の大きい 小さいは関係ない できれば一人ではなく複数人のスペシャリストを養成してもらいたい 技術面での知識はもちろん必要なのだが それだけで十分なのではない トップをどう補佐していくか そして他のメンバーにどう教育していくか そして調達するかの能力である そのことを特に強調したい 8

9 参考文献 金安岩男 長坂俊成 新開伊知郎 NTT データシステム科学研究所 電子市民会議室のガイドライン ( 学陽書房 2004 年 ) 野口悠紀雄 ホームページにオフィスを作る ( 光文社 2001 年 ) 吉田民雄 都市行政の新しい設計 ( 中央経済社 1995 年 ) 安井秀行 自治体 Web サイトはなぜ使いにくいのか ( 時事通信社 2009 年 ) 山内直人 NPO 入門 第 2 版 ( 日本経済新聞社 2004 年 ) 山田肇 榊原直樹 遊間和子 小林隆 関根千佳 C&C 振興財団 市民にやさしい自治体ウェブサイト 構築から運用まで (NTT 出版 2005 年 ) i ii 本学非常勤講師 URL は iii 詳細については 参照 iv 9