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1 地球環境研究センターニュース 中国におけるデング熱に関する現地調査 小野雅司 環境健康部環境疫学研究室長 ( 地球環境研究センターニュース vol.9(10) に掲載 ) < はじめに > 地球推進費による研究 (B-10(2) 流行モデルによる 動物媒介性感染症の地球温暖化う拡大予測に関する研究 - デング熱 デング出血熱を中心に -) の一環として 3 年前より中国でデング熱に関する現地調査を実施している デング熱とは ヤブカの仲間であるネッタイシマカ (Aedes aegypti ) とヒトスジシマカ (Aedes albopictus ) が媒介するデング熱ウィルスによって引き起こされる熱症である デング熱の中でも 出血を伴う重症型のデング出血熱は熱帯 亜熱帯地域 特に東南アジアにおいて多くの小児の生命を脅かす非常に危険でかつ公衆衛生上も重要な病気となっている 現在日本にデング熱は存在 ( 常在 ) しない デング熱が流行するためには 1 病原体 ( デング熱ウィルス ) 2 媒介動物 ( ネッタイシマカ ヒトスジシマカ ) そして 3 ヒトと病原体を持った媒介動物との接触 が必須であるが 日本では幸いなことに これらの三要素すべてについてデング熱の流行を引き起こすに足る十分な条件を備えていないためである ただし 媒介蚊の一種ヒトスジシマカは現在も広く国内に生息しており また 海外で罹患した患者がデング熱ウィルスを持ちかえることも少なくない ことも事実である ( マラリアについても同様である ) このような状況のもと 地球の温暖化により 媒介蚊の生息域が北上 拡大し生息密度が増すと予想されることから デング熱あるいはマラリアについても温暖化による影響予測と対策についての検討が急務となっている デング熱 / デング出血熱の現状は WHOの報告 (World Health ) によれ Repor ば 現在 100 以上の国と地域で世界の総人口 58 億人のうち25 億人がデング熱の危険地域住んでおり 全世界で毎年 2 千万人が感染していると推定されている 従来 デング熱の流行の中心は東南アジア諸国とカリブ海沿岸諸国であったが 最近ではこれらの地域から中国南部 南太平洋地域 中南米へと拡大している ( 図 1) さらに 従来東南アジアに限局していた重症型のデング出血熱も1980 年代に入ってカリブ海諸国 南米へと広がりつつある file:///e /health(new)/dengue/denguej.html (1/5)2007/12/11 16:03:

2 < 中国におけるデング熱に関する現地調査 > 我々 ( 国立環境研究所 長崎大学熱帯医学研究所 ) は 地球温暖化に伴って予想されるデング熱 / デング出血熱の分布域を予測することを最終目標に デング熱媒介蚊の生態とデング熱流行の実態を把握すべく中国で現地調査を実施している 中国では熱帯から亜熱帯に位置する南部地域 ( 雲南省 広西壮族自治区 広東省 海南省 等 ) がデング熱の流行地域に属し 過去幾たびとなく流行を繰り返してきた 我々は中国預防医学科学院寄生虫病研究所の協力を得て これら流行地のいくつかで現地調査を実施することが出来た 中国においては 現地調査を円滑に進めるためには人的な繋がりが重要であり 過去 10 年近く共同研究を実施してきた中国預防医学科学院寄生虫病研究所の協力が非常に役立った 同研究所は中国における感染症 ( 寄生虫病 他 ) 研究の中心機関であることから 国内の関連研究機関との関係も強く 同研究所との事前の打ち合わせにより 中国国内のデング熱 / デング出血熱の状況はもとより 現地研究機関に関する詳細な情報 ( 共同研究の可能性 等 ) の入手でき 調査フィールドの選定さらには現地調査の実施 と円滑に進めることが出来たのは幸いであった また 現地の研究機関においては会話の問題が生じてくる 本来なら日本側研究者が相手国の言葉 ( 中国語 ) に習熟すべきとは思うが 現実には困難であり 英語での会話になる 一般に 現地の研究機関においては英語を話すスタッフは少なく ( 例外もあり 広西壮族自治区寄生虫病防治研究所では 主だった研究者の多くが英語を話し 10 名を超える研究者が海外留学経験 ( 主としてイギリス ) を持っている ) またフィールドで住民を相手にした調査となると尚更である 通訳を頼むこともあるが 専門用語など難しい問題も多い ここでも カウンターパート選びが重要になる 2 3 週間に及ぶ現地調査に同行し通訳兼研究調整 ( 現地研究機関との様々な交渉 ) 役を頼める研究者が必要となる 幸い 中国預防医学科学院寄生虫病研究所では私と同年輩の副所長が我々のプロジェクトに当初から付き file:///e /health(new)/dengue/denguej.html (2/5)2007/12/11 16:03:

3 合ってくれており この点も非常に幸運であった 断っておくが 言葉の通じない不便な奥地での調査生活も決してつらいことだけではない 調査のあとの食事も 例えば 日本ではまず口にしない料理 いわゆるゲテモノやかなりハードな乾杯の交換など 少々我慢すれば ( 私自身はあまり気にはならないが ) ほんとうに楽しいものである また写真 1 に示したように 前年度の記録写真などに子供たちが大喜びするのをみるのも楽しいものである 写真 1: 住民検診風景 ( 前年度にとった写真をパネルに展示 希望者に配布 ) さて本題に入り 現地調査について紹介する 現地調査は大きく以下の二つである まず第一は 中国国内における過去のデング熱 / デング出血熱の流行状況 媒介蚊の生息状況に関するデータと気象データの収集である もう一つは日本国内では実施不可能なものであり デング熱媒介蚊の生態に関する実験研究である 少し具体的に紹介していく 中国における情報収集は一般に困難である 報告書等で公表されたもの ( この中にも部外秘のものがかなり含まれる ) を除くと データの所在を含め収集には困難が伴う 特にオリジナルデータに関しては 入手そのものに困難を伴うことが多い 例えば気象データについてみても観測所が所有するオリジナルデータを入手するには しかるべき筋を通して かつそれ相応の料金を支払って ようやく入手可能となる 日本でも最近ではこの種のデータは有料頒布が当たり前になってきており 当然とは思えるが個別の交渉で料金が決まるなど 我々だけでは対応できない難しさがあるのが実状であり このような時には現地研究機関の関係者に出馬してもらうこととなる また デング熱やマラリアの流行に関するデータについても 場合によっては公に出来な file:///e /health(new)/dengue/denguej.html (3/5)2007/12/11 16:03:

4 いこともある 例えば 我々が数年来マラリア研究のフィールドとしてきた雲南省の西双版納では 観光に力を注いでいることもあり具体的な地名を出すことにクレームがつくこともあった ( 当時 ) 次に現地での実験研究であるが 一つは実験室内での媒介蚊の生育実験である 恒温 恒室の飼育室で飼育温度を変え ( ) 産卵から蛹 幼虫 羽化に至る経の観察 ( 発育実験 ) と 羽化後の生存期間の観察 ( 生存実験 ) を行った 結果の一部を図 2 に示したが 発育速度は従来の報告と比較的近いものであったが 生存期間については従来の報告を大幅に上回り数ヶ月に及ぶ結果となった 図 2: ネッタイシマカの気温別日生残率 ( 上図 : 雌 下図 : 雄 ) マラリアと異なり デング熱媒介蚊はネッタイシマカとヒトスジシマカの 2 種のみである 同一種であるにも関わらず実験結果に大きな違いが見られたのは 遺伝子レベルでの違いを含め系統差も考えられる マラリア媒介蚊の一種コガタハマダラカの遺伝子レベルの比 file:///e /health(new)/dengue/denguej.html (4/5)2007/12/11 16:03:

5 較研究も行われ 地域によりかなりの相違も報告されており デング熱媒介蚊に関しても今後の検討課題である 二つめの研究は marking-release & recapture method 光塗料で標識した媒介蚊を放逐した後 一定期間 ( 数日 ~10 日程度 ) 再捕獲を行い その結果から 野外における生存率等の推定を行うものである 環境条件をコントロールした実験室内での結果は野外での結果と異なることが多く このような野外実験が必要になる 媒介蚊の行動半径はそれほど広くないものの 放逐後の再捕獲率は極めて低い ( 数 % 以下 ) ため 数千匹単位での放逐 再捕獲となる 夜を徹しての 調査員自身を囮にしての調査 ( 写真 2) とその後の種別 雌雄の同定 と大変な調査である 写真 2: 蚊採取風景 ( テントの中に水牛を入れ 集まってくる蚊を採取する ) なお この実験 (marking-release & recapture metho ング熱 ( マラリアも同様 ) を媒介する蚊を野外に放逐するため 実験によるヒトへの影響がなく 環境への影響も最小限であることが要求される 具体的には 1 デング熱の流行がない ( 厳密に言えばデング熱ウィルスが存在しない ) と考えられる地域で 2 在来種が相当密度で生息しており 放逐による影響が小さい ことがあげられる そのため 対象地域における過去の記録 ( 患者発生の記録 媒介蚊のウィルス検査 等 ) を丹念に調べ 放逐による流行発生の危険性を回避する また 放逐する蚊も現地で採取し実験室で系代飼育したものを使用し 自然の生態系を乱さないよう配慮することが必要である もちろん居住地域で実施する場合には住民の了解 ( インフォームドコンセント ) が最も重要であることはいうまでもない ( 以上 ) file:///e /health(new)/dengue/denguej.html (5/5)2007/12/11 16:03:

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