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れいなかみこ
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1 Powered by TCPDF ( Title フランス文学という遊び Sub Title French literature at play Author 荻野, 安奈 (Ogino, Anna) Publisher 慶應義塾大学藝文学会 Publication year 2005 Jtitle 藝文研究 (The geibun-kenkyu : journal of arts and letters). Vol.88, ( ),p.118(193)- 126(185) Abstract Notes 2004 年度藝文学会シンポジウム : 文学における " 遊び " Genre Journal Article URL

2 フランス文学という遊び荻野安奈昨年の春金原亭馬生師匠に弟子入りし金原亭駒ん奈という名前をいただいた奇しくも文学における遊ぴのシンポジウム翌日が二つ目の襲名披露に当たっていたふつう入門から二つ目には数年かかる破格の大出世! の実体は親指小僧がゲタ十足はいて身長をゴマ化しているようなものだ文学の畑から落語の田んぼに出向いてフィールドワークに励んだご祝儀と理解している落語のマクラといえば小話である隣の空き地に固いが出来たね J へー J なんぞが代表的だが実は師匠によればこれでもまだ鏡舌すぎる短縮ヴァージョンを以下に記す空き地に固いが出来たね j へ- J 空き地に隣の j という形容がつけば聴く者の想像力が限定を受けるうちの隣には空き地はないぞj などと気を回して話に集中できなくなるその人にとっての空き地は千差万別で隣もあれば裏もある角の信号を曲がって百メートル先のこともある描写の省略が話者と聴衆双方の自由を保証してくれる以上が私なりのマクラだが後日談があるフランス文学の同僚がこの日の聴衆に即席でアンケートを試みた空き地 j だけがいいか隣の空き地 j のほうがいいか空き地 J 派のほうが隣の空き地 J 派より一名だけ多かった微妙な差は同僚の配慮かもしれない本来は師匠の話芸で比べるべき

3 ところだがこうして字面になってみると読者はいかなる印象を持たれただろうかそれはさておき落語に戻る文学はまだかと思われるかもしれないが私にとって落語と文学は地続きなのでもう少しご勘弁願いたい入門して初めて学習した私が周囲の迷惑かえりみずに飛ばすおやじギャグ J は語の本来的な意味でのシャレではなくまさにダジャレであったいわゆるシャレは江戸時代にはやった雑俳の流れをくむ同音反復を避け微妙に字句を変え語の頭にもってくるたとえば家にあるもの一切というお題が出たとするセンタッキーフライドチキン J なら洗濯機がケンタッキーに掛かり同音ではなく語頭にきているこれが由緒正しいシャレであるダジャレのほうはお風呂に入ってセントー開始銭湯と戦闘は同音おまけに位置がよろしくないシャレの他にも言葉遊びはゴマンとあって日本人なら耳になじんだ恐れ入谷の鬼子母神 j はちょっと町谷の満光寺 j 同様無駄口 J に分類される冠沓はもらったお題を冠 ( 冒頭 ) と沓 ( 末尾 ) に散らせて見せるアジサイならアジな色合い見事な色サイという具合雪隠しは下ネタを雪が月を隠すがごとくぼかして表現する( 例は省略 ) むろん言葉遊びは日本の専売特許ではなく人聞がいて言語が存在すれば遊びになるフランス語ならではをひとつ紹介する Javanais は語の中に av や va を挿入するかくして bonjour が bavo 吋 avour となりややこしくて舌を噛みそうだが隠語感覚を楽しめる Calembour は地口これの例として辞書にも載っているのが femme messe fesse ( お尻 ) の molle ( 柔らか ) な femme ( 女 ) の f と m を入れ替えただけで messe ( 教会のミサ ) の folle ( 狂った ) 女になるファムモルアラフェスファムフォルアラメスとリズムもたいへん結構だ以上生徒が教室で喜んでやるたぐいの遊戯と言われてしまえばそれまでだが文学はありがたいことに小中学生の教室とも地続きになってい

4 る仏文学の園で大のオトナが遊び興じている中には javanais で一曲作ったシャンソン歌手のシャルルゲンズブールがいる 20 世紀のゲンズプールの隣には 16 世紀のフランソワラプレーがいて実は先ほどの地口いけいけ桃尻娘くるくるパープー娘 J ( 荻野訳 ) も彼の作中にある文学における遊び j というお題ならラプレーひとり出しておけば数時間どころか夜が深夜となり丑三つ時を過ぎて烏カーと鳴いて朝が来るまで発表し続けてもネタは尽きないラプレーはいわば遊びの一人百科事典なのであるシンガーソングライターならぬ修道士ドクターの彼は世界という本を読みつつ本物の本も読んださすらいのインテリで中世から当時に至る民衆の笑いを巷の泉から汲み上げると同時にギリシヤローマの海からも自作の中へ運河をヲいたラプレー百科をばらばらめくってみよう彼の初期作品は第二之書パンタグリュエル物語 ( 1532 年 ) と第一之書ガルガンチュワ物語 (1535 年?) 第二が第一より先なのは息子パンタグリュエルの物語がウケたために父ガルガンチュワにさかのぼって書いたためである共に騎士道物語のパロデイで主人公が巨人というのがすでに怪しいけれど家系誕生幼年時代修業時代そして活躍という筋立てはジャンルの要請に則っている遊びのテーマにひったりなのはガルガンチュアの子供時代に充てられた数章だろう第 11 章はチピ巨人の 3 歳から 5 歳までを描く彼は他のチピたち同様に飲んだり食べたり眠ったり食べたり眠ったり飲んだり眠ったり飲んだり食べたりしていた J 飲食眠のひとことで済むのが繰り返しで三倍に伸びているがまだ驚くのは早い鏡舌とはいえ説明的なつまり最低限の意味が保証された地の文から一挙にテンションが上がりテクストはナンセンスの祝祭に突入するく毎日のように泥水のなかを転げまわったり鼻面を真黒けにしたり顔を汚したり靴の腫を潰したり蝿を相手に欠伸を連発したり

5 欣んで蝶々を追いかけたりしていたが蝶々と言えば父君グラングウジエは蝶々国を支配していたのであるガルガンチュワは自分の靴におしっこをひっかけたり肌着のなかへうんこをしたり袖で鼻をかんだり肉汁のなかへ演を垂らしたりところかまわずに泥んこになって転げまわったり上靴で酒を飲んでみたりいつも龍の胴腹へ体を擦りつけたりしていた > これで全文といいたいところだが実は同じ調子で延々と引用部分の数倍は続き章の末尾に至ってようやく語りに戻るまだ分別を知らない子どもが演うんこ泥まみれで遊びまわる天下泰平の情景昔も今も変わらないと思わせる普遍性がこの場にはある読者も作者もガルガンチュワが王子であることをいったん忘れ j 夷垂れ小僧の活躍ぶりを半ば飽れ半ば愛でるつもりになる母親の洗濯物を増やすだけの悪戯の数々はひとつの表現にひとつの行為が対応し行為ごとにガルガンチュワが増殖していく観がある章が終わるころには画面いっぱいに点在するワルガキ軍団が自在に動きまわる絵が見えてくる同じ 16 世紀のブリューゲルの格言や子供の遊戯の群集にさも似たりというのは定説になっている画面のすべてが中心でもあり周縁でもあるようなブリューゲルをテクストに置換すればラプレーの列挙になる格言慣用句を敢えて文字通りに表現するワザもふたりに共通である格言は人称のない真理が一行に凝縮されている王子ガルガンチュワという三人称を捨てた無名の子どもが過去現在未来の子どもたちを一身に具現しお天道様めがけておしっこをしたり雨を避けに水へ潜ったり j 口唇期の肉体の太陽もおしつこも雨も泥もうんこも一緒くたの内と外が入り乱れて交歓する世界が輪郭をあらわにするこの手の格言の用法は日本ならば猿も木から落ちるを落下する猿で犬も歩けば棒に当たる j を棒に向かつて突進する犬で表すようなものだむろん落下する猿の比輸は日本語圏の外では意味不明になる

6 それでも落下猿やら棒犬やらが満載のテクストや画面は意味を超えた迫力を見るものに与えるはずであるこの場合満載というのが必要条件で風景画の片隅で猿が一匹ひそやかに落下していても迫り来るものはない要するに問題は質より量ということだ落語をネタに省略の美徳を説いておきながら今度は質より量では矛盾しているしかし矛盾も身のうち文学のうち金原亭の師匠の教えをメモしたノートには無駄があってはいけないそぎ落とす言葉を繰り返さない繰り返すときには意図がある j と記しであるそぎ落とす j はずの落語の名作のひとつが寿限無であるじゅげむじゅげむごこうのすりきれという超ビッグかつロングな名前の迫力が生きるのは迷惑な名前をつけられてしまったじゅげむ J 君に関して名前以外の要素が見事にそぎ落とされているからだ少年の身長体重顔立ち一切が話から抜けているじゅげむ J 君は鰻頭とせんぺいどちらが好みなのかいたずらっ子のようだがはたして女の子にはやさしいのか近代小説ならばさんざんページを費やすはずの部分がこの場合は無駄 j になるとここまで書いてあらぬことを思いついたもしもフランス 19 世紀の文豪パルザックが江戸の生まれで H 出家になっていたら恐ろしい彼の寿限無は少年の生まれた長屋の描写から始まるはずで路地の有様大家の性格近所の連中それからやっとじゅげむ J 家に移りおとつつあんのフンドシの汚れ具合からおっかさんの行李の中身まで 40 分ほど詳説した後でょうやく少年が誕生するおのれ亭ばるざっく先生大熱演だが仲間の日出家はあいつの芸は粋じゃない J と眉をひそめるお客は呆れてブーイングとトマトが飛んでくる江戸時代にトマトがあったらの話だがパルザックの長い長い描写とじゅげむ J の長い長い名前とどちらがホントに無駄なのか答えは簡単世間の常識からすれば両方とも無駄に決まっている就職活動中の学生が自己プレゼンでバルザックや寿限無をやったら自分で自分の首をしめているふざけるな j

7 病山脂似羅河疲円鱈M野の肉付陀川野ω萄1 そんなお遊びが実社会で通用すると思うなよ J 面接官は怒るはずそんなお遊びが文学だバルザックと寿限無ではジャンルが異なり簡潔と鏡舌のツボも異なるしかし落差からエネルギーを生む水力発電のような仕組みは基本として共有しているここでラプレーに戻るとしてじゅげむ J 様出梨士< 以で札野菜辛之助卑君もびっくりの名前の羅列\山一塩線凶川U兵牛太いん印餅一刷引箆叫問小J さねば塞底川実際はまだまだ先があるのだがそれこそそぎ落と川をお目にかけよう文研究がパンクする一章のほとんどを占める名前の中には豚脂美口封一臆似豚川目白スト歩抗葡郎やら [ 醤油駄目成 j 蔵押焼訓華ゎ労ナ汁同未み辛か礼川匙さ煎札怯こ演で司山川伸形叩人引け闘引泡了偉ぇう士山崎臥け肱州y入}一内人>抗やらカロリーと塩分の高そうなものが多いそれもそのはず全員が勇敢な料理番たち J でトロイの木馬ならぬ木豚に身を潜めワッと一斉に飛び出して敵に襲いかかるちなみに敵は人間ではなくソーセージの軍団 j 寧猛だが刃物には弱かったちなみに上の引用は第四之書パンタグリュエル物語 ( 1552 年 ) の第 40 章翻訳者の渡辺一夫は料理番の中に腸鍋津夫を忍び込ませわたなべかす読者にウインクを送っている作者と訳者が時代と言語の相違を超えて握手をした瞬間だ両者のダブルプレーは言葉遊びというゲームを超えてまさにプレー j の精神を体現している ( 英語で遊び J は規則アリの game と規則ナシの play に分かれることを踏まえて仏文の私も英文にウインクを送る ) ところで国文の落語愛好家ならばこう思うはずだたしかに料理番の羅列は全体としてじゅげむ J 君の名前より量があるしかし料理香は

8 総勢一五七人いっぽうじゅげむ j 君はたったの一人ではないか短めの単語を束にするより鶴の首よりも長い単語のほうが好きという向きにはやはりラプレーがおススメだ固有名詞ではないけれど同じ第四之書の第 15 章にフランス語でいちばん長い単語が存在する morrambouzevezengouzequoquemorguataasacbacguevezinema 飴 esse くぽかぽかどかどかびちゃぴちゃめりめりごりごりごつごつ殴って > 質より量の法則は健在で同様の長ふんどし語 j の反復がこの章のリズムを形作っているしわしわがたがためりめりがくがくぼろぼろのおんぼろ ( morderegrippipiotabirofreluchamburelurecoquelurintimpanemens) やらこちょこちょぽんぽんぱんぱんぐりぐりとやっつけた J mampenillorifrizonoufressure) やらアルファベットはたったの 24 個のはずがこういう使われ方をすると読者は目を殴られた感じになる音読しようとしても声を出す前に舌がこんぐらかる書き写しながらどこかで間違えているのではないかと不安になったがたとえ間違えても作者以外はいや作者でさえも分からないはずと思い直したそもそも翻訳など可能なのかいったいこちょこちょ J に根拠はあるのかといえば一応はあるのである ( のである ) こちょこちょ j されてしまったのは花嫁の陰部であり原語には trepignement ( 地団太 ) と penil ( 恥丘 ) と friser ( カールする ) と fressure ( モツ ) の 4 つの単語が透けて見えるこちょこちょ J ぽんぽんぱんぱん J ぐりぐり J の 4 つを対応させた渡辺訳は忠実のようでもあり半分訳者にダマされたような気もする半分どころか 8 割がたダマされていると思いたくなる例が先ほどのガルガンチュワの中にある第 11 章で飲んだり食べたり - H 民ったり J していたガルガンチュワ君は第 13 章でウンコをする飲食したら出るのは当たり前まるごと一章をヒリ出した少年はそのとき 5 歳になっていた知恵者の少年は今までなかったような最も殿様ら

9 しい最も素敵な最も工合のよいお尻の拭き方を発明 j したと父親相手に自慢するそのためにフン闘努力してマフラーや帽子など衣類バラやほうれん草など植物シーツなどインテリア関係その他身の回りのありとあらゆるモノをトイレットペーパーがわりとし生きた猫で拭いたらばアソコをヲっ掻かれて痛かったノリノリの少年はわが子の才能にカンドーする父に即興の詩を詠んで聞かせるくかみなどできたなきしりをふくやっはいつもふぐりにかすのこすなり > おフランスのラプレーがミソ一文字を詠んでいたらそれこそミソもクソもいっしょになる原文はどうなっているのかという当然の疑問には 2005 年刊行ホヤホヤの宮下志郎氏の新訳をぶつけてみる < 紙などでばっちいおけつをふいたとていつもふぐりにかすぞ残れり > 出版後すでに 60 年を経てそれ自体が古典と化した渡辺訳がばっちい J のひとことで現代日本語に蘇った観がある実はこの章を戯れに訳したことがあるのでドサクサに紛れて拙訳もお目にかけるく紙で拭くのは厚顔無知さあとに残るよ皐丸ウンチ > 三者三様ぱらぱらでひとつだけ明らかなのは原文が二行詩ということだテクストでは他に二つの詩形が試みられており中の rondeau ( 短い定型詩 ) を渡辺一夫は訳すに事欠いて漢詩に仕立て上げた 3 人の訳の出だしをちょっくら比べてみよう

10 < 先日脱糞痛感未払啓部借財同香而非同香濠気芥々充満 > < 先日われ脱糞しつつわが尻に残りし借財を感ずその香りわが思いしものにあらずしてわれその臭さに撃沈さる> くこの前クソして鼻にきたお尻の借りを返した臭いそのクサいこと想像以上おかげで全身ウン香漬け> やはり漢詩は格調が高いと中国文学にもウインクを送りつつ思い出すのは翻訳 ( 岡山由 ) とは裏切るほ油註 ) こと J という諺だ極端な裏切りを許すラプレーのテクストは懐が深いということだ遊び好きと言い換えてもよい遊び人は自由人でもある言葉という意味の機械を作動させながら意味という無粋なものを可能な限りぶっ壊す何のための力技かと問われれば遊びの目的は遊びそのもの ( ロジエカイヨワ ) と答えるそういう人に私もなりたいとうそぶいてお聞きにしてもいいのだが最後にひとつ告白する実はシンポジウムの席上で寿限無 J には言及していない宮下志郎氏の新訳も刊行前だった自分の発言をあらかた忘れてしまった後で原稿にまとめるとこうなるほんの貧の出来心と落語なら言うところ笑って E 午してくださいな

Powered by TCPDF ( Title 明治以前日本水害史年表 Sub Title A chronological table of flood disasters before Meiji era in Japan Author 高木, 勇夫 (Takagi,

Powered by TCPDF ( Title 明治以前日本水害史年表 Sub Title A chronological table of flood disasters before Meiji era in Japan Author 高木, 勇夫 (Takagi, Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) Title 明治以前日本水害史年表 Sub Title A chronological table of flood disasters before Meiji era in Japan Author 高木, 勇夫 (Takagi, Isao) Publisher 慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会 Publication year 004