GBRC Vol.41 No 軍艦島の最古の建物はこの191年に建設された30号 表-1 軍艦島構造物の概要 階数 補修歴 増設歴 号棟 年代 用途 B B1 +1B浴場 派出所

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1 試 験 研 究 軍 艦 島 の 構 造 物 群 の 劣 化 メカニズムと その 学 術 的 価 値 Deterioration mechanism and academic value of concrete structures in Gunkan Island 今 本 啓 一 *1 下 澤 和 幸 *2 吉 田 夏 樹 *3 1.はじめに 軍 艦 島 は 長 崎 港 から 南 西 約 19kmの 海 上 に 浮 かぶ 東 西 10m 南 北 480m 周 囲 1.2kmの 人 工 の 島 である( 図 -1) 正 式 名 称 は 端 島 であり その 形 が 軍 艦 に 似 て いた( 写 真 -1 図 -2)ことから 軍 艦 島 と 呼 ばれるよ うになった 以 下 本 報 では 軍 艦 島 と 記 す 明 治 23 年 (1890 年 )から 三 菱 の 経 営 により 海 底 炭 坑 の 島 として 開 発 が 進 められ 炭 鉱 の 開 発 に 伴 い 従 業 員 のための 住 宅 建 設 が 盛 んに 行 われた 大 正 5 年 (191 年 ) に 国 内 最 初 の 鉄 筋 コンクリート 造 高 層 集 合 住 宅 である 30 号 棟 が 建 設 され その 後 は 集 合 住 宅 公 共 施 設 を 含 め70 棟 を 超 えるRC 構 造 物 が 建 設 された 最 盛 期 には 人 口 が5000 人 を 超 え 高 密 度 な 住 環 境 を 有 する 島 となっ たが 国 の 石 炭 から 石 油 へのエネルギー 政 策 の 転 換 によ り 昭 和 49 年 (1974 年 )に 閉 山 し 現 在 は 無 人 島 とな っている 小 さな 島 に 人 々が 高 密 に 生 活 していたことや RC 造 黎 明 期 からの 集 合 住 宅 群 が 残 っていることから 近 年 軍 艦 島 は 文 化 財 観 光 資 源 としての 価 値 に 注 目 されてお り その 保 存 の 可 能 性 や 方 法 の 検 討 が 行 われている ま た 潮 風 高 波 台 風 等 過 酷 な 外 部 環 境 に 曝 されている 構 造 物 の 劣 化 状 態 を 知 ることが 出 来 る 点 においても 大 変 貴 重 な 研 究 資 源 である 軍 艦 島 構 造 物 の 建 築 年 代 および 概 要 を 表 -1に 示 す 日 本 建 築 学 会 軍 艦 島 コンクリート 構 造 物 劣 化 調 査 ワー キンググループ( 主 査 : 野 口 貴 文 東 京 大 学 大 学 院 教 授 ) は 長 崎 市 の 委 託 を 受 け 軍 艦 島 に 存 在 するコンクリー ト 構 造 物 等 の 劣 化 の 状 況 を 科 学 的 に 調 査 分 析 し 端 島 炭 坑 等 調 査 検 討 委 員 会 が 検 討 する 炭 坑 及 び 構 造 物 等 の 文 化 財 指 定 に 関 する 資 料 を 作 成 することを 活 動 の 目 的 として 材 料 施 工 本 委 員 会 下 に 設 置 された 建 築 後 劣 化 外 力 の 激 しい 海 洋 環 境 下 において 長 期 間 経 過 したコンクリート 構 造 物 の 実 態 およびコンクリート 構 造 物 に 直 接 作 用 する 劣 化 外 力 の 実 態 を 把 握 し 現 状 の 構 造 物 の 状 態 とその 劣 化 メカニズムを 把 握 し 今 後 コ ンクリート 構 造 物 の 延 命 化 や 適 切 な 維 持 保 全 のあり 方 を 探 るための 資 料 を 蓄 積 することが 調 査 の 目 的 であるが 本 稿 はその 概 要 について 紹 介 する 図 -1 端 島 ( 軍 艦 島 )の 位 置 写 真 -1 軍 艦 島 全 景 図 -2 軍 艦 島 構 造 物 群 の 配 置 *1 IMAMOTO Kei-ichi: 東 京 理 科 大 学 工 学 部 建 築 学 科 *2 SHIMOZAWA Kazuyuki:( 一 財 ) 日 本 建 築 総 合 試 験 所 *3 YOSHIDA Natsuki:( 一 財 ) 日 本 建 築 総 合 試 験 所 25

2 GBRC Vol.41 No 軍艦島の最古の建物はこの191年に建設された30号 表-1 軍艦島構造物の概要 階数 補修歴 増設歴 号棟 年代 用途 B B1 +1B浴場 派出所 公民館 B商店 半地下 +半地下商店 高床 高床 高床 年7 9階増設 1932年 1937年柱の巻き立て補強 柱梁補強工事 増し打ち 高床 年7 9階増設 1932年 1937年柱の巻き立て補強 柱梁補強工事 増し打ち 高床 1937年柱の巻き立て補強 柱梁補強工事 増し打ち 半地下 1925年 年5 7階増設 ル塗布 1928年柱梁補強 外壁に防水モルタル 1954年地階 4階鉄筋入替工事 棟 住戸数140 である 写真-2 が 下記の変遷から みても日本最古期の鉄筋コンクリート造建築物であるこ とが分かる 一方 この30号棟は下図に示されるよう 図 -3 にロの字型の平面計画が取られており 採光ついて 1937年海側ファサードを煉瓦 炭殻ブロックで充填 柱の巻き立て補強 柱梁補強工事 増し打ち 1937年海側ファサードを煉瓦 炭殻ブロックで充填 柱の巻き立て補強 柱梁補強工事 増し打ち 半地下 F商店 B商店 B商店 B浴場 B1 +1B浴場 病院 9 4 病院 5 北 B1 年8,9階増設 1947年 年8,9号棟の火災の延焼を受け けた 5 東 B1 1952年 年屋上に幼稚園増設 年8,9号棟の火災の延焼を受け けた 5 南 RC+S11 学校 191年 年7階 Ｓ造 増設 年8,9号棟から火災 躯体そのまま内外装のみ再工事 も一定の配慮がなされている 写真-3 年火災 建て替え 年火災 建て替え 写真-2 30号棟の外観 なお軍艦島は 2014年1月に 明治日本の産業革命遺 産 九州 山口と関連地域 としてユネスコ世界遺産セ ンターに推薦書が提出され 2014年10月に軍艦島炭鉱 跡が 高島炭鉱跡 として国史跡に登録された そして 2015年7月に明治日本の産業革命遺産の構成資産として 世界文化遺産に登録されたことは記憶に新しい 2 鉄筋 コンクリートの歴史 鉄筋コンクリートの歴史を辿るとおおよそ以下のよう になる B.C.7000年頃 イスラエル 建物の床 イフタフ遺跡 B.C. 2500年頃 エジプト ピラミッドの目地材 B.C.27 A.D.395年 帝政ローマ 建造物 1 図-3 30号棟の平面図 75年 水硬性石灰の発見 イギリス 1824年 ポルトランドセメントの発明 1853年 アメリカ Hyatt ハイアット による鉄筋コ ンクリート理論 橋の桁の補強鉄筋の提案 187年 フランス Joseph Monierによるモニエ式配筋 の発明 鉄網で補強したモルタル製の植木鉢 1905年 佐世保港内 潜水器具庫 主体構造は鉄筋コ ンクリート 柱間は煉瓦積み 1908年 神戸和田岬の東京倉庫 全て鉄筋コンクリ ート造 平屋建て 191年 端島30号棟鉱員社宅 鉄筋コンクリート造7階 建て 竣工当時4階建て 2 写真-3 30号棟の内部

3 GBRC Vol.41 No 軍艦島の生活と歴史 1.はじめに でも述べたように 軍艦島のピーク時 ら高島 端島をつなぐ海底水道の敷設 一日5000tonの 送水が可能となる の人口は5000人超であり 東京の人口密度の約9倍に相 当する世界最高の人口密度をほこっていた 写真-4 また島には 学校 派出所 店舗 病院 寺院 宗派を 問わない全宗寺 映画館 遊園地が整備され 島内に おいてほぼ完結した都市機能を整備していた 写真-5 写真- 家庭内の様子 長崎市より提供 4 軍艦島構造物の目視劣化調査 島内において構造物の柱 梁部材を目視評価した 損 傷は主として鉄筋腐食 錆汁の状況を5段階で評価し た 鉄筋にひび割れおよび錆汁が見られるものをグレー ドⅠ 腐食した鉄筋が露出しているものをグレードⅢ 鉄筋が朽ちてその痕跡しか存在しないものをグレードⅤ 写真-4 当時の様子 長崎市より提供 とした 図-4 5参照 また中間的な劣化状態をそれぞ れグレードⅡおよびⅣとした 図-4 劣化グレード 写真-5 島内の様子 長崎市より提供 鉱員の賃金は高く 都心より家電製品 テレビ ラジ オ ステレオ 洗濯機 の普及が早いことも写真から伺 える 写真- 島での最大の課題は水の確保であった これは後述するコンクリート中の高濃度塩化物イオンと も関連するが 水の確保は大きく以下の3つの時代に分 図-5 軍艦島と一般構造物の劣化グレード 類される ①蒸留水の時代 明治24年から昭和年 島内には湧 5号棟3階の劣化度分布図を図- 1 20号棟 以下 水なし 水の確保は重要課題 海水を蒸留して飲料水を 日給社宅と記述する 3階の劣化度分布図を図-7 5号 確保していた 棟の外観を写真-7に示す 5号棟は終戦前後にわたって ②給水船の時代 昭和7年から昭和32年 三島丸 235t 建設された島内最大の建物であり 物資の不足する混乱 による一日一往復の給水 戦後は朝顔丸 298t によ 期の中で建設された点で特筆される建物の一つである る一日三往復の給水 海が荒れると欠航 給水船欠航時 用途は住宅であり 北棟が1945年 東棟が1949年そし は 共同浴場は海水風呂となる て南棟が年の順に建設され 建設年代による劣化 ③日本初の海底水道 昭和32年10月 長崎市三和町か の差が顕著に見られる 27

4 GBRC Vol.41 No 写真-7 5号棟 長崎市より提供 写真-8 日給社宅 長崎市より提供 図- 5号棟の劣化グレード 図-7 日給社宅の劣化グレード 5 材料詳細調査 日給社宅 写真-8 では 1号棟はその他の棟と比較 5. 1 調査対象と調査箇所 して構造体の劣化が進行しているが 屋内においても構 表-2に調査対象と調査箇所を示す 島内で最も古い30 造体の劣化が著しい 劣化が著しいのは建物の北面側の 号棟から 比較的新しい3号棟までの計棟を選定した 屋外面および開口に近い屋内の部材であり 中庭に面す た だ し 測 定 箇 所1外1F_N1お よ び1内3F_M1は る南面側では著しい劣化は少ない これは取り付けられ に増し打ち工事が実施された箇所である また ていた木製の雨戸や引き戸などが 風雨などで破損した 1内3F_N1は増設箇所であり 工事年は不明である ことにより 室内へ雨水や潮風が浸入し部材の劣化を進 行させたと考える 巻き立て補強が施された大廊下の柱 や 各棟の廊下に位置する柱は劣化の進行も少なく 比 較的健全なものが多いが 同様の補強が施された大廊下 表-2 調査部位の概要 棟番 号 30 建設年 仕上げ 191 無(N) と各棟を繋ぐ位置にある柱のみが劣化の進行が著しい 標高 調査箇所名称(棟番 図 8 における [m] 号 内外 階_仕上げ) 調査位置 9 30 外 1F_N1 ① 無 1 外 1F_N1 ② () 無 12 1 内 3F_N1 ③ モルタル(M)約 範囲があり 同じ環境下でも隣り合う部材に劣化度の違 1951 補修 10mm 12 1 内 3F_M1 ④ いがある 詳細な調査によってその原因を明らかにする 1951 補修 一方 17号棟では 梁が柱よりも劣化の進行が著しい ことが今後の課題である 補修 1 無 内 5F_N1 ⑤ タイル(T) 50 外 1F_T ⑥ モルタル約 10mm 外 1F_M ⑦ モルタル約 20mm 外 1F_M ⑧ 5 北 1945 モルタル約 10mm 5N 外 1F_M1 ⑨ モルタル約 20mm 5N 外 1F_M2 ⑩ 5 東 1949 モルタル約 10mm 5E 内 1F_M1 ⑪ モルタル約 20mm 7 外 1F_M1 ⑫ 5 南 モルタル約 20mm 5S 内 1F_M ⑬ 9 テラゾー約 10mm 内 1F_T ⑭ モルタル約 30mm 3 3 内 1F_M ⑮

5 GBRC Vol.41 No 図 -8 軍 艦 島 構 造 物 の 調 査 対 象 と 調 査 箇 所 5. 2 調 査 方 法 表 -2および 図 -8に 示 した 箇 所 においてφ80mmのコアを 採 取 し EPMAによる 塩 化 物 イオン 量 測 定 を 行 った EPMAにより コア 断 面 で 深 さ1mm 毎 の 区 間 にあるピ クセルのCl - 量 平 均 値 を 計 算 し 塩 化 物 イオンプロファ イルを 得 た また 中 性 化 深 さ 測 定 については JIS A 1152に 準 じて 測 定 を 行 った 5. 3 調 査 結 果 と 考 察 塩 化 物 イオン 量 分 布 塩 化 物 イオン 量 分 布 の 測 定 結 果 を 図 -9に 構 造 物 の 建 設 年 とJASS5における 塩 分 規 制 との 関 係 を 図 -10に 建 設 年 と 内 在 塩 化 物 イオン 量 との 関 係 を 図 -11に 示 す 設 計 上 鉄 筋 の 腐 食 発 生 限 界 濃 度 は1.2kg/m 3 とされてお り 5 号 棟 9 号 棟 3 号 棟 1 号 棟 5 階 以 外 は いず れの 深 さでもこの 値 を 超 えている 塩 分 濃 縮 や 骨 材 量 の 影 響 により 分 布 はばらついている 表 面 から0-85mm の 内 部 における 塩 化 物 イオン 量 を コンクリートの 初 期 から 存 在 する 内 在 塩 分 とすると 3つの 傾 向 すなわち 平 均 20kg/m 3 と 極 めて 高 いもの(30 号 棟 ) 3 ~ 10kg /m 3 程 度 のもの( 号 棟 ) そして 約 0.5 ~ 1.0kg/m 3 程 度 の 少 ないもの(5 9 3 号 棟 )に 分 類 で きる 骨 材 に 海 砂 もしくは 海 砂 利 ( 骨 材 量 :700kg/ m kg/m 3 含 水 率 10%( 吸 水 率 3%+ 表 面 水 率 7%) 海 水 の 塩 分 濃 度 4%と 仮 定 )が 使 用 されていた 場 合 約 3 ~ 7kg/m 3 の 塩 分 量 となる さらに 海 水 が 使 用 されていた 場 合 ( 単 位 水 量 を200 kg/m 3 と 仮 定 ) 8 kg/m 3 の 塩 分 量 が 加 わり 15 kg/m 3 以 上 となることも 推 測 される 内 在 塩 分 についてはJASS5の 塩 分 規 制 との 関 連 性 も 認 められ る( 図 -11) 図 -9 塩 化 物 イオン 量 の 分 布 図 -10 JASS5における 塩 分 規 制 の 変 遷 図 -11 建 設 年 代 と 内 在 塩 化 物 イオン 量 29

6 GBRC Vol.41 No 塩 化 物 イオン 量 分 布 と 中 性 化 深 さの 関 係 図 -12に 各 測 定 箇 所 の 塩 化 物 イオン 量 分 布 と 中 性 化 深 さの 一 例 (1 号 棟 50 号 棟 3 号 棟 )を 示 す 塩 化 物 イオン 量 が 中 性 化 領 域 においては 少 なく その 内 部 において 突 出 して 高 くなるのは 中 性 化 によるフリ ーデル 氏 塩 の 解 離 濃 縮 現 象 と 思 われる 中 性 化 は 多 くのケースでかぶり 厚 さに 達 していないことから 構 造 物 の 劣 化 の 主 要 因 ではなく 塩 分 濃 縮 を 引 き 起 こしてい る 点 で 付 加 的 要 因 として 位 置 付 けられると 推 定 される なお タイル 仕 上 げ(50 号 棟 :50 外 1F_T:タイル 仕 上 げ)については 全 く 中 性 化 していない タイル 仕 上 げを 施 した50 号 棟 は 海 沿 いに 位 置 しているにも 関 わらず 同 様 の 立 地 条 件 の30 号 棟 や 号 棟 号 棟 と 比 較 して 塩 化 物 イオンの 浸 透 量 が 少 ないことから タイルによるコ ンクリートの 劣 化 抑 制 効 果 がうかがえる (3) 含 水 率 測 定 各 調 査 対 象 の 鉄 筋 位 置 付 近 からコンクリート 片 を 採 取 し 質 量 含 水 率 を 測 定 した 表 -3に 調 査 結 果 を 示 す 内 在 塩 化 物 イオン 量 は コア 表 面 から0 ~ 80mm 地 点 のものとした また コンク リート 内 部 の 湿 度 は 年 間 を 通 してほぼ 一 定 である 建 物 外 部 では 30 外 1F_N1 1 外 1F_N1 50 外 1F_ T1 25 外 1F_M1 57 外 1F_M1 5N 外 1F_M1 5N 外 1F_M2 7 外 1F_M1 建 物 内 部 では 1 内 3F_N1と1 内 3F_M1で 腐 食 発 生 限 界 濃 度 を 超 えていた しかし 鉄 筋 が 完 全 に 腐 食 していたもの( 写 真 -9)は 30 外 1F_ N1 5N 外 1F_M1の2 箇 所 のみであり 他 は な 腐 食 のもの( 写 真 -10)ばかりであった この 要 因 として かぶり 厚 さの 大 きさが 挙 げられる かぶり 厚 さが 大 きく 鉄 筋 がコンクリート 内 部 に 位 置 するほど 鉄 筋 腐 食 の 原 因 である 酸 素 が 供 給 されにくく 鉄 筋 腐 食 の 進 行 が 緩 や かになると 考 えられる また 雨 掛 りの 有 無 も 理 由 のひ とつと 考 えられる 雨 掛 りのある 場 所 においては コン クリートに 供 給 される 水 分 が 多 いため 鉄 筋 腐 食 が 進 行 しやすいと 考 えられる 表 -3から かぶり 厚 さが40mm と 小 さい 箇 所 で コンクリート 内 部 の 湿 度 が8% 以 上 ( 後 述 の 図 -13の 含 水 率 4 ~ 5% 以 上 に 相 当 )の 時 鉄 筋 の 腐 食 が 認 められる コンクリートの 含 水 率 は3.5% 以 上 に なると 鉄 筋 が 腐 食 環 境 に 入 る 2) とされており 今 後 は この 付 近 の 数 値 の 閾 値 としての 妥 当 性 を 検 証 したい 表 -3 調 査 結 果 一 覧 図 -12 塩 化 物 イオンの 分 布 と 中 性 化 深 さ コンクリート 内 部 温 湿 度 とEPMAおよび 鉄 筋 腐 食 表 -2および 図 -8に 示 した 箇 所 において 以 下 の 測 定 を 行 った (1)EPMAによる 塩 化 物 イオン 量 測 定 φ80mmのコアについて EPMAによりコア 断 面 で 深 さ 1mm 毎 の 区 間 にあるピクセルのCl - 量 平 均 値 を 計 算 し 分 布 を 作 成 する ただし 粗 骨 材 の 多 い 区 間 ではCl - 量 は 少 なく 計 算 されるため 断 面 の 粗 骨 材 量 の 影 響 を 考 慮 した (2)コンクリート 内 部 の 湿 度 の 計 測 2011 年 10 月 31 日 から2013 年 4 月 15 日 まで コンクリ ート 内 部 の 湿 度 を1 時 間 毎 に 測 定 した 測 定 には ボタ ン 電 池 型 の 超 小 型 温 湿 度 データロガーを 使 用 し コンク リート 表 面 から5 ~ cmのかぶり 厚 程 度 の 深 さに 設 置 し 湿 度 を 測 定 した 建 物 30 外 1F_N1 1 外 1F_N1 1 内 3F_N1 1 内 3F_M1 1 内 5F_N1 50 外 1F_T1 25 外 1F_M1 57 外 1F_M1 5N 外 1F_M1 5N 外 1F_M2 5E 内 1F_M1 7 外 1F_M1 5S 内 1F_M 9 内 1F_T 3 内 1F_M1 かぶり 厚 [mm] 写 真 -9 完 全 腐 食 鉄 筋 の 例 鉄 筋 位 置 塩 化 物 イオン 量 [kg/m 3 ] 湿 度 Ave [%] 含 水 率 [%] 総 細 孔 量 [mm 3 /g] 鉄 筋 腐 食 完 全 腐 食 完 全 腐 食 写 真 -10 腐 食 鉄 筋 の 例 30

7 GBRC Vol.41 No 軍艦島の局所環境 とは必ずしも妥当ではない 一方 鉄筋の最終的な腐食 図-13に吸着等温線およびコア試験体のコンクリート の鍵となるのは 水 と 酸素 の供給であることを 内部湿度と質量含水率の比較結果を示す なお 図中の 鑑みると 図-14 この水分の浸入を遮断することは構 湿度30%および0%チャンバー は 試験長さ10cmに 造物の保存 改修の一つには十分になりうる そこで筆 切断した採取コア試験体を 表面から5 cmのかぶり 者らは 軍艦島において 各種の表面含浸材等 図-15 厚さ程度の深さまで削孔し 前述の超小型温湿度データ について暴露試験を行い 現時点において 写真-11の ロガーを設置し その試験体を庫内温度20 湿度30% ように表面含浸材等の効果を確認している コンクリー と0%の簡易環境チャンバー内に常置したコア試験体内 トの外観を変化させずに水分の浸入を抑制する新たな視 部の結果である また 測定箇所1外1F_N1のコンク 点の改修方法が 今後 歴史的建造物の保存 改修の分 リート試験片から 水蒸気等温吸着試験を実施した こ 野で重要な技術となろう の時 試料を0.15mm以下に微粉砕し 105 乾燥機に よる絶乾状態から試験を行った 図より 各棟の相対湿度と質量含水率は 吸着等温線 の吸着側に沿う形となり コンクリート内部湿度と質量 含水率には高い相関が認められる すなわち この島の 構造物群は 長期間を経て 局所環境としての相対湿度 とコンクリートの含水率の関係としての 壮大な吸着等 温線 を創り上げていたことを示している 軍艦島全域 の他の構造物が 全てこの曲線上にプロットされるか否 かは今後の調査を待たねばならないが 鉄筋腐食の重要 な要因となる含水率を 相対湿度と材料の吸着等温線か 図-14 鉄筋の腐食メカニズム 表-4 表面含浸材等の種類 種類 ら評価できる可能性を示すものであると考える 主成分 分 記号 シラン シロキ サン SS-1 SS-2 S-1 シラン S-2 S-3 表 表面含浸材 ケイ酸塩 塩 アクリル カ カリウ ム ナトリウ ウム 水性アクリルシ 表 表面被覆材 リコン 無塗布 K-1 K-2 AKN E-AS N 図-15 表面含浸を塗布したコンクリートの外観 図-13 相対湿度と質量含水率と等温吸着曲線 7 今後の改修方法 一般に 有害物質を含む場合の補修方法は それを除 去することが補修対策となる しかしながら 文化財や 歴史遺産に相当する構造物に この手法を当てはめるこ 写真-11 軍艦島での暴露状況 材齢4年 31

8 GBRC Vol.41 No 軍 艦 島 建 造 物 の 世 界 的 な 視 野 で 捉 えた 場 合 の 建 築 材 料 学 的 価 値 軍 艦 島 に 残 存 する 構 造 物 (ほぼ 鉄 筋 コンクリート 造 ) は 世 界 的 にも 貴 重 な 研 究 資 源 であるといえる これほ ど 長 期 間 厳 しい 自 然 環 境 に 曝 され 極 限 まで 劣 化 して しまった 鉄 筋 コンクリート 構 造 物 が 多 数 まとまった 状 態 で 存 在 しているのは 世 界 全 体 でも 軍 艦 島 をおいて 他 に は 類 を 見 ないであろう 臨 床 医 学 はある 意 味 末 期 患 者 の 存 在 によって 発 展 し てきた 面 が 多 分 にあるが 建 築 学 における 軍 艦 島 の 位 置 付 けはこれに 近 い すなわち 対 象 に 試 験 的 なアプロー チを 施 すことによってその 反 応 応 答 から 多 くの 知 見 を 獲 得 するという 点 で 臨 床 医 学 と 建 築 学 には 共 通 性 がある が 建 築 分 野 の 場 合 第 三 者 への 安 全 性 などの 観 点 から 末 期 に 至 る 前 にこのような 状 況 の 建 物 は 一 般 に 解 体 処 理 される これがある 意 味 建 築 物 の 耐 久 設 計 において 究 極 を 目 指 すほどに 不 確 定 性 が 増 す 遠 因 かと 思 われる 軍 艦 島 を 対 象 とした 調 査 研 究 が 継 続 されることにより こ の 分 野 の 耐 久 性 の 研 究 が 長 足 の 進 歩 を 成 し 遂 げることは 明 らかである さらに 末 期 症 状 のRC 建 築 物 としての 軍 艦 島 建 造 物 を 診 断 し 最 後 の 活 用 更 正 ( 生 き 返 らせ ること) ひいては 安 楽 死 のあり 方 を 建 築 レベルで 考 察 し その 技 術 開 発 を 検 討 することにより 建 築 分 野 の 新 領 域 を 開 拓 することも 可 能 になろう 2015 年 月 に 軍 艦 島 の 上 陸 を 前 提 とした 国 際 会 議 を 開 催 した( 図 -1) この 会 議 には 約 250 名 の 技 術 者 研 究 者 が 参 加 し 軍 艦 島 の 上 陸 を 果 たした( 写 真 -12) 軍 艦 島 が 鉄 筋 コンクリートの 耐 久 性 に 携 わる 全 世 界 の 研 究 者 技 術 者 の 貴 重 な 研 究 資 産 として 位 置 づけら れ やがて 全 世 界 の 鉄 筋 コンクリートの 耐 久 性 研 究 のメ ッカになることを 期 待 する 謝 辞 写 真 -12 記 念 撮 影 ( 朝 日 新 聞 池 田 良 氏 撮 影 ) 本 調 査 は 日 本 建 築 学 会 軍 艦 島 コンクリート 構 造 物 劣 化 調 査 WG 他 多 くの 関 係 各 位 により 実 施 された またデ ータの 取 りまとめにあたっては 元 東 京 理 科 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 建 築 学 専 攻 の 楠 麻 希 さんのご 助 力 を 得 た 付 し て 謝 意 を 表 する なお 写 真 は 長 崎 市 の 特 別 な 許 可 を 得 て 掲 載 したものである また International Conference on the Regeneration and Conservation of Concrete Structures (RCCS) 国 際 会 議 の 開 催 にあたり 長 崎 市 の 絶 大 なるご 助 力 をいた だくとともに 公 益 財 団 法 人 前 田 記 念 工 学 振 興 財 団 お よび 公 益 財 団 法 人 大 林 財 団 の 助 成 をいただいた さら に24 社 の 企 業 展 示 および 社 の 企 業 ロゴ 掲 示 による 協 賛 をいただいた ここに 付 して 謝 意 を 表 する 参 考 文 献 1) 阿 久 井 嘉 孝, 滋 賀 秀 實 : 東 京 電 機 大 学 出 版 局, 軍 艦 島 実 測 調 査 資 料 集, ) 古 賀 一 八, 林 典 男, 平 田 延 明 : 高 濃 度 塩 化 物 イオン 含 有 RC 建 築 物 の 含 水 率 および 鉄 筋 腐 食 調 査,コンクリート 工 学 年 次 論 文 集 Vol.30,2008. 執 筆 者 *1 今 本 啓 一 *2 下 澤 和 幸 *3 吉 田 夏 樹 (IMAMOTO Kei-ichi) (SHIMOZAWA Kazuyuki) (YOSHIDA Natsuki) 図 -1 軍 艦 島 国 際 会 議 32