向 上 させるためには 何 が 必 要 で どのようにすればよいのかを 考 察 する 2 クラスの 構 成 本 クラスは 1 年 次 学 生 15 名 のクラスである の 両 年 度 は 25 名 を 上 限 とす るクラスであったが 2012 年 度 は 学 生 への 配 慮

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1 研 究 ノート 国 語 学 力 下 位 レベル 学 生 の 日 本 語 作 文 における 問 題 点 Issues of Japanese Compositions Written by Students Taking the Lower-Japanese-Competence Class 小 池 康 YASUSHI KOIKE ABSTRACT In this paper, we analyzed the issues of Japanese compositions written by the students attending the lower-japanese-competence class at Kanto Gakuen University using results of their Japanese compositions. We set the students two types of compositions; a topic composition and a composition requiring filling blank spaces with suitable words and phrases. Their features are as follows; They can not make a composition based on their free thinking. They can not understand contents or information of text correctly. They can not adapt sentences in a contextual situation. 1 はじめに 学 生 の 学 力 低 下 をケアもしくはサポートするという 目 的 で 本 学 では1 年 次 学 生 を 対 象 にいくつかのリメディアル 科 目 を 開 講 している そのうち 筆 者 は 国 語 ( 日 本 語 )の 学 力 が 本 学 の 同 学 年 生 の 中 で 下 位 に 位 置 づけられた 学 生 を 対 象 としたクラスを 受 け 持 ってお り 2012 年 度 で3 年 目 を 迎 える 筆 者 は すでに 小 池 (2011)にて 筆 者 作 成 の 日 本 語 能 力 試 験 を 再 構 成 したテストの 実 施 結 果 および 自 由 記 述 作 文 をデータとして 当 クラスの 受 講 生 の 国 語 ( 日 本 語 ) 学 力 の 傾 向 と 問 題 点 を 指 摘 した このうち 自 由 記 述 作 文 の 傾 向 と 問 題 点 としては 概 略 以 下 のものが 認 められた 自 分 自 身 のことについて 述 べることができない 内 容 に 工 夫 がない 読 み 手 のことを 考 えて 書 けない 誤 字 脱 字 が 多 い( 語 彙 不 足 ) 書 きたいことが 先 走 ってしまう 自 分 の 書 いた 文 を 読 み 返 さない 本 稿 では 2012 年 度 の 国 語 クラス( 以 下 本 クラス とする)での 作 文 活 動 の 結 果 と 上 記 の 先 行 研 究 の 傾 向 問 題 点 を 踏 まえ 国 語 ( 日 本 語 )の 学 力 が 下 位 の 学 生 が 作 文 能 力 を 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 87

2 向 上 させるためには 何 が 必 要 で どのようにすればよいのかを 考 察 する 2 クラスの 構 成 本 クラスは 1 年 次 学 生 15 名 のクラスである の 両 年 度 は 25 名 を 上 限 とす るクラスであったが 2012 年 度 は 学 生 への 配 慮 や 対 応 をしやすくするため 受 講 人 数 を 少 なくすることとなった [*1] 2012 年 度 は 男 子 学 生 12 名 女 子 学 生 3 名 で 全 員 日 本 人 の 学 生 である 3 分 析 対 象 - 課 題 作 文 と 補 充 作 文 - 本 稿 で 取 り 上 げる 活 動 は 作 文 である 作 文 の 実 施 形 態 としては テーマ 等 を 各 自 で 自 由 に 設 定 して 記 述 していく 自 由 作 文 と 教 員 の 設 定 した 課 題 に 基 づいて 記 述 する 課 題 作 文 が まずは 考 えられる さら に 文 章 中 に 単 文 もしくは 複 文 レベルでの 空 所 があり その 部 分 を 補 充 する 補 充 作 文 と 呼 びうるものもある [*2] 本 クラスの 作 文 活 動 では これまでのところ 課 題 作 文 と 補 充 作 文 を 行 なっており 本 稿 もこれらの 結 果 に 基 づいて 述 べる なお 自 由 作 文 を 含 めない 理 由 としては 本 ク ラスの 受 講 生 にテーマを 自 分 で 設 定 して 自 由 に 作 文 を 課 しても 何 を 書 いてよいのかわ からないと 言 う 学 生 や 書 けたとしても 数 行 ぐらいしか 書 けない 学 生 がほとんどであり 結 局 は 教 員 が 設 定 したテーマで 書 かせるという 方 法 を 取 らざるを 得 ず 受 講 生 に 自 由 にテー マを 設 定 させた 作 文 のデータが 収 集 できなかったためである さて 本 クラスで 行 なった 課 題 作 文 と 補 充 作 文 のうち 課 題 作 文 は 以 下 の 内 容 である 1. 自 己 紹 介 作 文 2. 漫 画 作 文 2a.4コマ 漫 画 作 文 2b.ストーリー 漫 画 作 文 1の 自 己 紹 介 作 文 は 毎 年 本 クラスの 初 回 授 業 時 に 課 している 活 動 で 自 己 紹 介 をテーマとして 自 由 に 記 述 させるものである 日 本 人 として 日 本 語 を 用 いて 日 常 生 活 を 営 んできた 受 講 生 たちが 自 己 の 半 生 をどの 程 度 描 写 叙 述 できるかを 確 認 するため に 行 なっている また 夏 期 休 業 開 けの 後 期 初 回 授 業 では 夏 休 みのできごとと 後 期 の 抱 負 をテーマと した 作 文 も 課 したが これも 自 己 の 経 験 抱 負 を 表 わすということでは 自 己 紹 介 に 類 した 内 容 と 考 えられるので これも1に 含 むこととする 授 業 の 進 め 方 としては 400 字 詰 原 稿 用 紙 を 両 面 印 刷 したものを1 枚 配 布 した 後 内 容 ( 何 を 書 かなければならないか 等 )に 関 する 指 示 はこちらからは 一 切 出 さず 自 由 に 作 文 を 書 くように 指 示 した 制 限 時 間 は 60 分 とした 2は 漫 画 を 主 体 とした 資 料 からどの 程 度 的 確 にその 物 語 の 筋 を 理 解 し 自 分 のことば 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 88

3 で 適 切 に 書 き 表 わすことができるかを 探 るために 課 したものである 2a は 小 池 (2011)でも 取 り 上 げられている 活 動 であるが 読 売 新 聞 連 載 の4コマ 漫 画 を 用 いて その 内 容 およびオチの 説 明 文 を 書 かせるというものである 4コマ 漫 画 は 四 つのコマの 漫 画 が 有 機 的 に 結 びついて 一 つの 物 語 を 構 築 していると 言 えるが 本 クラスでは まず4コマ 漫 画 の1コマ 毎 の 説 明 から 始 めさせ 次 いで4コマ 全 体 でどのような 物 語 となっているのかを 350 字 以 上 400 字 以 下 で 説 明 させる 文 章 を 書 か せた(400 字 詰 原 稿 用 紙 を 使 用 ) 両 方 とも 他 人 が 読 んだ 時 にその 場 面 や 状 況 が 思 い 浮 かぶように 工 夫 して 書 くよう 指 示 をした また 400 字 作 文 では 4コマ 目 の 面 白 いところ (オチ)もわかるように 書 くように 指 示 をした 使 用 した4コマ 漫 画 は 読 売 新 聞 朝 刊 に 掲 載 されている コボちゃん である( 具 体 的 な 作 品 については 後 述 ) 2b は 数 ページにわたる 内 容 ただし 結 びの 部 分 を 削 除 した 漫 画 を 読 ませ その 内 容 を 元 に 結 びの 部 分 を 考 えて 書 かせるものである 使 用 した 題 材 は 小 泉 八 雲 原 作 かけ ひき の 漫 画 版 [*3] である 漫 画 の 分 量 は 12 頁 あるが 受 講 生 には 扉 と 最 後 の 頁 を 除 いた 10 頁 分 を 配 布 し その 除 いた 最 終 頁 の 内 容 について 作 文 を 書 かせた 字 数 制 限 は 設 け なかった 次 に 補 充 作 文 であるが これには 日 本 語 教 育 用 の 問 題 集 である 日 本 語 の 作 文 技 術 中 上 級 ( 倉 八 順 子 2000 古 今 書 院 )に 掲 載 されている 2. 定 義 と 量 の 変 化 の 説 明 および 5. 分 類 して 説 明 の 一 部 の 設 問 を 援 用 した これらの 設 問 は 図 表 および 文 字 情 報 とそれを 文 章 化 したものが 提 示 されているが その 文 章 の 一 部 が 空 所 となってお り 受 講 生 は 所 与 の 情 報 を 元 にそこに 語 や 文 脈 に 合 致 した 文 や 語 句 を 記 入 するという 形 式 となっている 4 傾 向 および 問 題 点 4.1 課 題 作 文 自 己 紹 介 作 文 自 己 紹 介 作 文 は 自 己 紹 介 をはじめ 自 分 の 経 験 や 抱 負 など 自 分 に 関 する 事 柄 をど の 程 度 的 確 に 叙 述 できるのかを 確 認 するために 課 している 課 題 である 小 池 (2011)でも 本 活 動 は 取 り 上 げられており そこで 指 摘 されている 特 徴 や 問 題 点 は 以 下 の 通 りである 1. 誤 字 脱 字 が 多 い 2. 語 彙 が 少 ない 3. 文 のレベルが 稚 拙 である 4. 事 実 だけを 皮 相 的 に 描 写 しており そこに 至 った 過 程 や 理 由 等 までは 書 けてい ない 5. 文 の 数 が 少 ない これらの 特 徴 は 2010 年 度 の 受 講 生 の 作 文 データを 元 にしているが 年 度 の 受 講 生 にも 同 じ 傾 向 が 見 られる そして 2012 年 度 の 活 動 より 見 出 された 特 徴 のうち 上 記 の 五 つに 関 連 したものとして 以 下 のようなことが 挙 げられる( 数 字 は 上 掲 の 番 号 と 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 89

4 関 連 していることを 示 す) 1'. 句 読 点 が 脱 落 している 2'. 使 用 語 彙 を 間 違 う 3'. 文 章 の 構 成 が 非 論 理 的 である( 論 理 の 飛 躍 が 多 い) 3'. 同 意 味 文 の 繰 り 返 しが 見 られる そして 新 たに 見 出 された 特 徴 としては 以 下 の 点 が 認 められた 6. 漢 字 を 使 えない 7. 文 体 を 混 用 する: 話 しことばを 用 いる デス マス 体 とダ デアル 体 を 混 用 する このうちのいくつかについて 解 説 と 考 察 を 加 える まず 3(3'も 含 む)の 文 のレベルが 稚 拙 である とは たとえば すべての 文 を 単 文 で しか 書 けていないもの 逆 に 長 い 文 ではあるが 論 理 関 係 がわかりづらく 何 を 述 べたいのか が 把 握 しづらいもの 日 本 語 教 育 初 級 レベルの 文 法 的 な 間 違 いがあるものなどである ま た 同 意 味 文 の 繰 り 返 しも 見 られた このうち 日 本 語 初 級 レベルの 文 法 の 誤 用 例 としては 出 身 は 青 森 県 から 来 ました ( 表 記 は 原 文 通 り 以 下 同 ) 私 の 十 八 年 間 新 潟 で 育 ちました などが 見 られた また 複 数 の 学 生 に 見 られた 誤 用 例 として 理 由 のノデを 用 いた 文 なのだが 前 項 が 後 項 の 理 由 とは 読 み 取 れない 文 を 書 く 者 があった: 今 では 大 学 でも 続 けているのでバドミントンが 誰 よりすごく 好 きです など 5の 文 の 数 が 少 ない は 小 池 (2011)では 開 始 20 分 が 経 過 しても1 文 も 書 けず 結 局 時 間 内 で6つの 単 文 しか 書 けなかった 学 生 の 例 が 挙 がっているが の 両 年 度 ではさすがにこのレベルの 受 講 生 はいなかった しかし いずれのクラスでも 400 字 詰 2 ページの 両 面 原 稿 のうち 400 字 以 上 書 けた 者 は 数 名 であり ほとんどの 受 講 生 は 400 字 以 下 であった 3 4 5の 結 果 より ある 程 度 のまとまった 内 容 を 叙 述 するためにはある 程 度 の 文 の 量 が 必 要 になるはずであるが その 文 の 量 が 少 ないということは 彼 らは 内 容 を 発 展 させる ( 膨 らませる)という 技 量 が 不 足 しているということが 考 えられる これは 毎 年 のこの 作 文 活 動 で 見 られる 傾 向 だが たとえばある 物 事 が 好 きだと 書 く 場 合 単 に が 好 きです としか 書 かず それが 好 きになった 経 緯 や 理 由 などについ ては 何 も 書 いていない 者 が 大 半 で 残 りの 者 は 好 きになったきっかけは 書 いているが そ れをさらに 一 歩 深 めて その 物 事 の 良 い 部 分 や 魅 力 的 な 部 分 についての 自 分 の 意 見 や 感 想 およびその 理 由 までは 書 いていない つまり 仮 に 単 に が 好 きだとしか 書 けな いレベル( 第 1レベル) 好 きになった 理 由 やいきさつまでは 書 けるレベル( 第 2レベル) 好 きなものに 関 して 内 容 を 発 展 させて 書 くことができるレベル( 第 3レベル)の 三 つのレベ ルを 設 定 すると 本 クラスの 受 講 生 はよくて 第 2レベルまでの 発 想 しか 持 てていないので ある そこで 第 2 回 目 の 授 業 で 再 度 自 己 紹 介 作 文 を 書 かせ その 際 下 記 に 示 す 作 文 を 書 く 上 でのポイントを 板 書 した(ただし< > 部 は 除 く) 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 90

5 レベル1< 自 分 の 経 験 した 事 実 を 描 写 できる> 自 分 の 名 前 出 身 地 出 身 校 趣 味 好 きなことや 嫌 いなことなどが 書 けている レベル2< 事 実 を 詳 しく 説 明 できている> レベル1の 各 事 項 を 詳 細 に 叙 述 できている 出 身 地 はどういう 所 か 説 明 できている 出 身 校 の 特 徴 が 書 けている 趣 味 が 好 きな 理 由 好 きなことや 嫌 いなことの 理 由 が 詳 しく 説 明 できている 大 学 生 活 での 抱 負 が 書 けている レベル3< 読 み 手 へのアピールができる> 趣 味 や 好 きなことに 関 する 良 い 点 を 読 み 手 にアピールできている エピソードを 交 えて 書 けている 自 分 の 名 前 の 覚 え 方 といったような 読 み 手 の 印 象 に 残 ることが 書 けている レベル1は 最 低 限 必 要 な 書 くべき 事 柄 レベル2はレベル1を 膨 らませた 内 容 レベル 3は 読 み 手 へのアピールを 含 む 内 容 となることを 意 図 している この 結 果 2 回 目 の 作 文 では ほぼすべての 受 講 生 がレベル2までは 書 けるようにはな っていた しかし レベル3にまで 至 った 受 講 生 はほとんどいなかった このことより 本 クラ スの 受 講 生 たちは 読 み 手 にアピールをする 内 容 の 文 章 を 書 く 技 量 が 未 熟 であること および 内 容 を 膨 らませる 技 法 を 持 っていない( 教 員 側 が 提 示 しなければ 書 けない)ことが 明 らかとなったのである では どのようにすれば 彼 らが 自 主 的 に 膨 らませた 内 容 の 作 文 が 書 けるようになるの であろうか その 解 決 策 の 一 つとして 話 を 膨 らませる とはどういうことなのかを 示 し そ れに 沿 った 内 容 の 文 を 書 かせる 訓 練 を 行 なうといった 方 法 が 考 えられる 自 己 紹 介 作 文 という 課 題 において 内 容 を 膨 らませる 方 策 としては 大 きく 二 つの 方 法 が 想 定 できる すなわち 一 つのキーワードに 関 してそれを 深 めて 叙 述 していくというもの と そのキーワードと 関 連 した 事 項 を 列 挙 しつつ 叙 述 していくというものである 前 者 は 深 化 < 縦 の 拡 がり> とも 呼 びうるものであり 後 者 は 連 想 [*4] < 横 の 拡 がり> と 言 いうるも のである たとえば 自 己 紹 介 における 自 分 の 趣 味 はスポーツで 特 にサッカーが 好 きだ という ことを 述 べる 場 合 には サッカーに 関 することを 重 点 的 かつ 詳 細 に 述 べていくのが 深 化 であり サッカー 以 外 のスポーツについても 述 べていくのが 連 想 である この 深 化 と 連 想 を 訓 練 し それを 作 文 課 題 と 結 びつける 活 動 を 行 なえば 少 なくと も 作 文 で 何 を 書 いてよいかわからないという 問 題 は 軽 減 でき また 内 容 的 にも 豊 かなもの にできると 考 えられる [*5] 漫 画 作 文 a.4コマ 漫 画 作 文 4コマ 漫 画 作 文 は まず4コマ 漫 画 の 各 コマの 説 明 を 書 かせた 後 全 体 の 説 明 文 を 350 字 以 上 400 字 以 下 で 書 かせた 両 方 とも 他 人 が 読 んでその 情 景 が 浮 かぶように 工 夫 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 91

6 して 書 くこと また 400 字 作 文 では 結 末 の 面 白 いところ (オチ)もわかりやすく 書 くことを 指 示 した 使 用 した4コ マ 漫 画 は 読 売 新 聞 朝 刊 に 掲 載 されている コボちゃ ん [*6] である ( 図 1) さて まず 受 講 生 の 書 いた 各 コマの 説 明 文 よりうか がえる 問 題 点 としては 以 下 の 三 点 が 目 立 った 1. 場 面 状 況 を 説 明 する 語 が 不 足 している 2. 話 しことばを 混 用 している 3. 正 しい 解 釈 ができない 図 1: 作 文 課 題 まず1については 多 くの 作 文 は 絵 の 中 で 行 なわれ ているやり 取 りをそのまま 文 章 にしたものが 多 く 登 場 人 物 の 表 情 や 動 作 またセリフの 表 記 のしかた(1コマ 目 ウ~ や3コマ 目 ア~~ など)からうかがえる 登 場 人 物 の 精 神 状 態 のようなものまで 言 及 する 作 文 は なかった しかし 1で 特 に 問 題 があると 思 われるの は 説 明 文 において 提 示 すべき 必 要 な 格 が 脱 落 して いる 例 が 見 られたことである たとえば 2コマ 目 を おじいちゃんはぬりはじめまし た とのみ 書 いていて 何 をどこに が 抜 けた 文 を 書 い ているものがあった これでは 何 をどこにぬったのかが 文 を 読 んだだけではわからず 文 を 読 んだだけでそのコマが 想 像 できるように 書 くという 目 標 が 達 成 できていないということ になる このような 極 端 な 例 の 作 文 を 書 く 学 生 は 少 数 ではあるが 毎 年 必 ず 存 在 している この ような 学 生 は 当 該 の 絵 (コマ)の 説 明 を 求 められた 場 合 その 絵 の 内 容 ( 情 報 )を 言 語 化 する 上 での 必 要 な 情 報 量 の 多 寡 を 把 握 できず その 結 果 他 人 に 必 要 かつ 充 分 な 情 報 を 伝 えきることができないのだと 推 察 される 次 に 2の 話 しことばを 混 用 する という 問 題 点 に 関 しては たとえば4コマ 目 の 説 明 文 で おかあさんにはながされた 母 ちゃんにスルーされる などの 文 を 書 いた 者 が 見 られ た このような 例 も 毎 年 必 ず 見 受 けられるが このような 話 しことばと 書 きことばを 混 用 する 学 生 は その 他 の 作 文 課 題 を 見 ても そもそも 作 文 で 話 しことばと 書 きことばを 書 き 分 けな ければならないという 認 識 が 欠 如 しているような 文 を 書 く 者 が 多 い 問 題 点 の3 正 しい 解 釈 ができない では たとえば3コマ 目 を 口 に 中 に 食 べ 物 のかす がつまってかゆくなっている や 口 の 中 がかゆいけど 口 の 中 だからかけない といった 例 が また4コマ 目 では おじいちゃんが 塗 っていたクリームを 生 クリームが 効 くと 勘 違 いをし たコボちゃん などの 例 が 見 られた 意 外 性 のある 発 想 をしていると 言 えば 聞 こえはいい が 果 たして 図 1の 漫 画 を 読 んだ 人 がそのような 解 釈 を 受 け 入 れるかどうかは 甚 だ 疑 問 で はある 次 に 400 字 作 文 での 問 題 点 として 形 式 的 な 問 題 点 と 内 容 的 な 問 題 点 が 指 摘 できる 形 式 的 な 問 題 点 としては 段 落 頭 を 一 文 字 下 げてない 行 頭 に 句 読 点 を 書 く 等 といっ 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 92

7 た 原 稿 用 紙 の 使 い 方 が 守 られていないものが 非 常 に 多 かった また 2コマ 目 と3コマ 目 の 間 で 内 容 の 転 換 があるため 少 なくともここで 段 落 を 変 えて 欲 しいところであるが それ をせずにすべてを 一 段 落 内 に 詰 め 込 んで 書 いている 例 が 見 受 けられた 内 容 的 な 問 題 点 としては 多 くの 作 文 に 共 通 することであるが 4コマ 目 のオチに 至 る までの 説 明 およびオチの 説 明 が 適 切 にできていないということが 挙 げられる 4コマ 目 におけるコボちゃんのセリフ およびそれに 対 するお 母 さんのそっけない 反 応 がこの 漫 画 の 面 白 いところとなっていると 考 えられるが その 点 を 適 切 に 描 写 した 作 文 は 見 られなかった 多 くの 作 文 が 単 に 各 コマの 場 面 を 描 写 し それをつなげているだけ で どうして4コマ 目 でコボちゃんは この 生 クリームがきくんだ と 言 ったのか それによっ て 何 をもくろんでいたのか そしてその 時 にお 母 さんはどうしてそっけない 反 応 しか 示 さな かったのか 等 にわたる 解 釈 が 書 いていないのである その 一 方 で 自 分 の 勝 手 な 解 釈 をはさみ 込 んだ 作 文 は 多 く 見 られた 特 に3コマ 目 を 描 写 した 文 で コボちゃんは 急 に 口 の 中 がかゆくなってしまい とてもつらい 顔 をして 口 の 中 をかきたいと 思 いました とか コボちゃんもなんだか 口 の 中 がかゆくなってきて( 以 下 略 ) など 本 当 に 口 の 中 がかゆくなったと 解 釈 した 文 も 見 られた 確 かに コボちゃん が 本 当 に 口 の 中 がかゆくなったと 解 釈 することも 可 能 ではあろうが この 漫 画 の 中 ではあく までもケーキを 食 べるための 方 便 と 見 るべきであろう これらのことより 4コマ 目 のオチが 理 解 できていない またたとえ 理 解 できていたとして も それを 適 切 に 説 明 もしくは 表 現 できないということがうかがえるのであり そのことはこ のたった4コマしかない 漫 画 の 内 容 も 的 確 に 理 解 はできていないということを 表 わしている のである b.ストーリー 漫 画 作 文 漫 画 作 文 とは 数 ページにわたって 物 語 が 展 開 される 漫 画 を 読 み その 結 末 がどのよ うになっているかを 考 えさせ 作 文 を 書 かせるものである 使 用 した 題 材 は 小 泉 八 雲 原 作 かけひき の 漫 画 版 である かけひき のあらすじ は 以 下 の 通 りである ある 男 が 手 討 ちをされることとなった しかし その 男 は もし 自 分 の 首 を 切 っ たならば その 恨 みで 仇 を 返 すと 騒 ぎ 立 てた それを 見 た 殿 様 は 男 に その 証 拠 として 首 が 切 られた 後 で 男 の 前 にある 飛 び 石 に 噛 みついてみせろと 言 った 果 た して 手 討 ちにされた 男 の 首 は 前 にある 石 にしっかり 噛 みついたのだった その 後 家 中 では 家 来 や 召 使 いの 者 たちがいつも 何 かにおびえるようになっ ていた その 理 由 を 男 の 怨 念 だと 考 えた 家 老 は 殿 様 に 男 の 供 養 を 申 し 出 る し かし 殿 様 はその 必 要 はないと 答 える 殿 様 の 言 った その 理 由 とは... この 最 後 の 部 分 について 漫 画 全 体 の 物 語 の 流 れから どうして 殿 様 は 男 の 供 養 が 必 要 ないと 言 ったのか その 理 由 とそう 考 えた 理 由 を 書 かせる 問 題 を 課 した 字 数 制 限 は 設 けなかった なお 殿 様 の 答 えた 理 由 とは 概 略 < 男 は 死 ぬ 間 際 には 石 に 噛 みつくことにのみ 囚 わ れ その 時 点 ではそれまで 抱 いていた 怨 念 の 気 持 は 忘 れ 去 ったと 考 えられるから 男 の 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 93

8 怨 念 などは 存 在 せず したがって 供 養 などする 必 要 はない>ということである さて 受 講 生 たちの 作 文 を 見 ると まず 上 記 の 理 由 を 書 いた 学 生 は 一 人 もいなかった 中 には 石 をかむことに 夢 中 していれば 首 を 切 られても 痛 くない とか きる 人 がわざと 石 に 向 かってきりつけたから 殿 は 気 にしていない といった 解 答 も 見 られた 分 量 も 数 行 程 度 しか 書 けず 理 由 も 上 述 のような 突 飛 な 解 釈 のものが 多 かった また 10 行 以 上 書 けていたとしても 書 かれている 理 由 は 突 飛 な 解 釈 のものや 論 理 的 ではない ものが 多 かった つまり 分 量 の 多 寡 に 依 らず 論 理 立 てた 日 本 語 の 文 章 が 書 けていな いものがほとんどだったのである 特 に て や 連 用 中 止 形 の 乱 用 による 一 文 の 長 文 化 およびそれに 伴 う 論 理 構 造 の 破 綻 が 顕 著 であった このことより 内 容 も 適 切 に 理 解 でき ていなければ 自 分 なりの 解 釈 も 他 人 に 伝 わるようには 書 けていないことが 明 らかとなった のである この 結 果 より 本 クラスの 受 講 生 がこれまでの 学 校 教 育 において 物 事 を 論 理 立 てて 考 え それを 叙 述 する 訓 練 を 積 んでこなかったことが 明 らかなのであるが 逆 に 言 えば そのような 訓 練 が 必 要 だと 考 える( 感 じる)ことなくこれまで 過 ごしてきたこと また 過 ごせて きたことに 問 題 の 根 の 深 さが 感 じられる 4.2 補 充 作 文 補 充 作 文 は 図 表 や 文 字 情 報 を 文 章 化 したものの 一 部 が 空 所 となっており そこに 図 表 等 を 元 に 適 切 な 文 言 を 記 入 するという 課 題 である 本 課 題 の 結 果 より 認 められる 問 題 点 としては 文 脈 に 合 致 した 文 の 作 成 ができない ということが 挙 げられる 以 下 3 分 の2 以 上 の 受 講 生 に 見 られた 誤 答 例 の 具 体 例 をいく つか 挙 げてみる(< >は 設 問 が 含 まれている 文 を 示 す) 1. 述 語 が 欠 落 している デアル 体 の 文 章 での 空 所 補 充 で < 日 本 で 学 ぶ 留 学 生 は 平 成 11 年 現 在 >(p.19 のa)の 下 線 部 に 55,755 人 とのみ 書 き 込 んで おり いる のような 述 語 を 補 って 記 入 していない 例 が 見 られた 中 には 55,755 と 数 字 のみを 書 き 込 んでいる 者 も 複 数 いた 2. 適 切 な 接 続 表 現 が 使 えない センツァイ < 中 国 料 理 は 地 域 によって4つに 分 けられる 四 川 省 の 川 菜 山 東 省 の ロ ツ ァ イ エツツァイ ミンツァイ 魯 菜 広 東 省 の 粤 菜 福 建 省 の 閩 菜 である 各 菜 について 簡 単 に 説 明 する >(p.60 のd ルビは 原 文 のまま)には 以 下 では ( 正 答 例 )や 以 下 といった 接 続 表 現 を 入 れなければ 据 わりの 悪 い 文 となるが 空 所 のま まとなっている 解 答 が 見 られた 3. 文 体 を 統 一 させていない デス マス 体 の 文 章 中 にダ デアル 体 を 書 く または ダ デアル 体 の 文 章 中 にデス マス 体 を 書 く さて 以 上 の 誤 答 例 のように 受 講 生 が 文 脈 に 合 致 する 文 の 作 成 ができないということ 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 94

9 の 要 因 について 彼 らの 補 充 作 文 に 対 する 取 り 組 み 方 を 踏 まえて 推 察 してみると 彼 らに は 次 のような 思 考 や 行 動 の 流 れが 存 在 しているように 思 われる まず 簡 単 な 図 表 でもその 情 報 を 的 確 に 読 み 取 ることができない そして 情 報 が 読 み 取 れないということと 共 に 語 彙 不 足 文 法 力 不 足 早 合 点 注 意 力 不 足 ( 欠 落 )ということ が 加 わり 説 明 文 の 内 容 が 理 解 できない しかし 空 所 には 何 らかの 文 言 を 入 れなけれ ばならないため 自 分 のわかる 範 囲 内 (もしくは 勝 手 な 推 察 )で 文 や 語 句 を 記 入 する そ して 一 回 書 き 入 れたらそれで 満 足 してしまい 再 確 認 をしない そのため 文 脈 に 合 っ ていない 内 容 や 文 体 の 不 統 一 などに 気 づかないし 気 づかないことが 憂 慮 すべき 問 題 だ とも 思 っていない この 流 れは 単 に 2012 年 度 のクラスだけから 導 き 出 されるものではなく 3 年 に 渡 って 担 当 した 国 語 クラスの 作 文 課 題 より 見 出 されるものである また 補 充 作 文 の 課 題 だけに よって 導 き 出 されるものでもなく 他 の 課 題 を 通 しても 垣 間 見 られる 問 題 なのである 5 まとめ- 問 題 解 決 に 向 けて 年 度 の 国 語 下 位 クラスの 作 文 課 題 を 通 して 見 出 された 国 語 の 学 力 が 下 位 の 学 生 の 作 文 に 見 られる 特 徴 および 問 題 点 を 抽 出 し その 要 因 を 考 察 した 本 稿 で 特 に 重 視 した 問 題 点 を 改 めて 提 示 しておこう 1. 内 容 を 膨 らませて 書 くことができない (4.1.1) 2. 内 容 や 情 報 を 正 しく 理 解 できない ( ) 3. 文 脈 に 沿 った 文 が 作 れない (4.1.3) これらは いずれも 所 与 の 情 報 を 正 確 に 理 解 することができず またそれに 適 合 させる 能 力 (adaptability)も 未 熟 であることを 表 わしていると 考 えられる この 未 熟 さ は 受 講 生 たちがこれまでの 学 校 教 育 を 経 た 上 でも 改 善 されることなく 現 在 に 至 ったことや 彼 ら 自 身 がそれほどこのことが 問 題 だと 自 覚 していない 現 状 を 鑑 みる と 即 座 に 改 善 することは 困 難 だと 思 われるが 少 なくとも 改 善 のヒントはあると 思 われる たとえば 話 を 膨 らませて 書 くことができないのは 膨 らませるという 発 想 がそもそもない からであって それを 養 うためには で 提 案 した 深 化 と 連 想 の 訓 練 を 行 ない さら にそれを 実 践 で 応 用 させる 訓 練 を 継 続 していくことで 少 なからず 問 題 軽 減 の 糸 口 には なるであろう そして そうした 活 動 を 通 して 語 彙 を 増 やし 様 々な 表 現 を 訓 練 すること で 逆 に 文 章 を 正 確 に 理 解 する 力 も 上 昇 すると 思 われるし さらには 文 脈 に 即 した 文 章 も 書 けるようになることが 期 待 される 今 後 は この 深 化 と 連 想 を 通 じた 実 践 訓 練 を 行 ない 受 講 生 の 日 本 語 作 文 能 力 の 向 上 に 努 めていきたい 注 *1 受 講 生 の 選 抜 方 法 については 小 池 (2011)を 参 照 のこと *2 英 語 教 育 や 日 本 語 教 育 では 文 章 中 の 空 所 に 適 当 な 語 や 文 字 を 入 れて 意 味 の 通 る 文 章 を 完 成 させるテスト(クローズ テスト cloze test)がある 採 点 法 としては 原 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 95

10 文 にある 語 を 用 いた 場 合 にのみ 得 点 を 与 える 原 文 法 (exact word method)と 文 脈 に 適 した 語 を 正 解 と 見 なす 文 脈 法 (appropriate word method)がある( 米 山 2011 近 藤 小 森 2012) 本 稿 における 補 充 作 文 は テストではなく また 空 所 の 設 定 もクロ ーズド テストに 準 じているわけではないが 評 価 については 文 脈 法 の 観 点 を 取 り 入 れた *3 ぎょうせい 刊 新 装 版 文 芸 まんがシリーズ 怪 談 (2010) pp *4 association. ある 語 ( 句 )が 与 えられた 時 その 語 ( 句 )によっていくつかの 他 の 語 ( 句 )が 心 に 思 い 浮 かんでくる 現 象 ( 現 代 言 語 学 辞 典 p.48) *5 本 稿 での 連 想 と 似 た 概 念 のものとして mapping(マッピング)がある( 佐 野 編 2005 西 隈 2009) 西 隈 (2009)は 本 クラスでも 実 施 したことはあるが その 時 の 活 動 と 作 文 とを 結 びつける 活 動 は 今 後 実 施 する 予 定 である *6 植 田 まさし 氏 原 作 で 1982 年 より 同 新 聞 朝 刊 に 掲 載 されている 図 1の 作 品 は 芳 文 社 刊 新 コボちゃん5 (2005) の 29 頁 より 引 用 なお 作 文 課 題 として コボち ゃん を 使 用 することに 関 しては 工 藤 ( )を 参 照 のこと 参 考 文 献 工 藤 順 一 (1999) 国 語 のできる 子 どもを 育 てる 講 談 社 現 代 新 書 1468 工 藤 順 一 (2010) 文 書 術 読 みこなし 書 きこなす 中 公 新 書 2073 小 池 康 (2011) 国 語 学 力 下 位 学 生 に 見 られる 日 本 語 能 力 の 一 側 面 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 19 pp 近 藤 安 月 子 小 森 和 子 編 (2012) 研 究 社 日 本 語 教 育 事 典 研 究 社 佐 野 正 之 編 著 (2005) はじめてのアクション リサーチ 英 語 の 授 業 を 改 善 するため に 大 修 館 書 店 西 隈 俊 哉 (2009) やさしい 論 理 的 思 考 トレーニング アルク 米 山 朝 二 (2011) 新 編 英 語 教 育 指 導 法 事 典 研 究 社 関 東 学 園 大 学,2013. 関 東 学 園 大 学 紀 要 Liberal Arts 第 21 集 96