北 海 道 教 育 大 学 紀 要 ( 教 育 科 学 編 ) 第 64 巻 第 1 号 平 成 25 年 8 月 Journal of Hokkaido University of Education (Education)Vol. 64, No.1 August, 2013 中 国 における 大

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1 Title 中 国 における 大 卒 者 就 職 支 援 としてのへき 地 教 師 派 遣 制 度 : 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポスト 教 師 計 画 に 関 する 研 究 Author(s) 李, 沐 子 ; 添 田, 祥 史 Citation 北 海 道 教 育 大 学 紀 要. 教 育 科 学 編, 64(1): Issue Date URL Rights Hokkaido University of Education

2 北 海 道 教 育 大 学 紀 要 ( 教 育 科 学 編 ) 第 64 巻 第 1 号 平 成 25 年 8 月 Journal of Hokkaido University of Education (Education)Vol. 64, No.1 August, 2013 中 国 における 大 卒 者 就 職 支 援 としてのへき 地 教 師 派 遣 制 度 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポスト 教 師 計 画 に 関 する 研 究 * 李 沐 子 添 田 祥 史 北 海 道 教 育 大 学 大 学 院 学 校 教 育 専 攻 * 北 海 道 教 育 大 学 釧 路 校 A Study of Policy Implementation of Special-post in Rural Compulsory Education The Employment Promotion Strategies for College Graduates by the Chinese Government LI Muzi and SOEDA Yoshifumi Graduate school Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education * Department of Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education 概 要 中 国 では, 大 学 卒 業 者 の 実 に3 割 が 就 職 できない 現 状 にある こうした 状 況 に 対 して, 政 府 は, 都 市 部 の 余 剰 人 員 をいわゆるへき 地 に 公 務 員 や 教 師 として 短 期 派 遣 する 政 策 を 打 ち 出 した 本 稿 は,そうした 一 連 の 政 策 の 中 で, 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポスト 教 師 計 画 に 着 目 する 中 国 黒 竜 江 省 穆 棱 県 において,アンケート 調 査 と 面 接 調 査 を 行 った この 政 策 に 対 する 評 価 は, 派 遣 された 若 者 側 からも, 地 域 の 関 係 者 からも 非 常 に 高 かった へき 地 での 教 師 経 験 は,1 安 定 した 就 職 先,2 教 職 のやりがいを 実 感 でき, 専 門 性 を 向 上 させる 場,3 生 活 体 験 学 習 の 場, 4 農 村 地 域 への 愛 着 や 農 村 教 育 への 責 任 感 を 形 成 させている 場,となっていた この 政 策 は,1 学 校 教 育 の 格 差 問 題 の 顕 在 化 と 縮 小,2 農 村 の 伝 統 的 な 価 値 観 の 更 新 を 迫 る 新 たなロールモデルの 提 供,3 教 職 の 専 門 性 をもつ 意 欲 的 な 若 手 教 師 のリクルート,として 機 能 している 1 本 研 究 の 背 景 1-1 中 国 における 大 卒 者 の 就 職 問 題 本 稿 は, 中 国 における 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポ スト 教 師 計 画 の 運 用 実 態 に 関 する 事 例 研 究 であ る 1978 年 から 始 まった 改 革 開 放 政 策 に 伴 って, 中 国 は 計 画 経 済 から 社 会 主 義 市 場 経 済 に 移 行 し, 高 い 経 済 成 長 率 を 達 成 した 経 済 システムの 変 化 は, 教 育 にも 大 きく 影 響 を 与 えた とくに 高 等 教 育 の 大 衆 化 の 傾 向 は 顕 著 で, 1999 年 度 の 大 卒 者 は96 万 人 だったのに 対 して,そ の10 年 後 には610 万 人 に 達 した 急 増 する 大 卒 者 409

3 李 沐 子 添 田 祥 史 を 雇 用 市 場 は 吸 収 しきれずにいる( 馬 2000) 大 学 進 学 率 は22%に 及 んでいるが,その 就 職 率 は 70%しかない( 中 国 大 卒 者 卒 業 報 告 麦 可 思 研 究 院 MyCOS HR 2009, 2010) つまり, 大 学 は 卒 業 しても, 約 3 人 に1 人 は 就 職 できない 状 況 にあ る 事 態 の 打 開 策 として,2005 年, 中 共 中 央 国 務 院 から 高 等 教 育 の 卒 業 生 が 基 層 で 就 業 すること を 案 内 奨 励 することに 関 する 意 見 ( 関 于 引 導 和 鼓 勵 高 校 畢 業 生 面 向 基 層 就 業 的 意 見 ) が 提 出 さ れ, 都 市 部 の 余 剰 大 卒 人 員 を 活 用 する 政 策 が 次 々 と 進 められていく( 登 坂 2007, 楊 2010) 大 卒 者 農 村 地 域 就 業 プロジェクト はその 一 つで, 都 市 部 の 余 剰 大 卒 人 員 をいわゆるへき 地 に 公 務 員 や 教 師 として 短 期 派 遣 するもので( 江 口 2001), 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポスト 教 師 計 画 (2006 年 ), 農 村 の 教 育 医 療 農 業 を 支 援 し 貧 困 を 撲 滅 するという 三 支 一 扶 (サンシイフ) 計 画 ( 支 教, 支 農, 支 医, 貧 困 扶 助 )(2006 年 ), 大 卒 者 村 官 計 画 (2008 年 ) 等 からなる 1-2 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポスト 教 師 計 画 教 育 分 野 では,2006 年 から 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポスト 教 師 計 画 ( 以 下, 計 画 )が 実 施 された その 概 要 を 示 すと 次 の 通 りである 1 計 画 は, 高 等 教 育 修 了 者 への 公 募 を 通 じて, 西 部 地 域 及 び 両 基 2 推 進 地 域 における 学 校 で の 就 職 を 奨 励 することによって, 農 村 教 師 の 総 量 不 足 と 配 属 不 合 理 等 の 問 題 を 解 決 し, 農 村 教 師 の 全 体 的 な 資 質 向 上 を 行 う ことを 目 的 に,2006 年 から5 年 間 をかけて 実 施 された 派 遣 する 教 師 の 任 期 は3 年 間 である 予 算 については, 中 国 政 府 が 一 人 当 たり 年 間 1.5 万 元 の 特 別 予 算 を 計 上 する 3 また, 省 レベルの 財 政 関 係 部 門 は, 派 遣 する 教 師 ( 以 下, 農 村 特 設 ポスト 教 師 )の 社 会 保 険, 各 種 手 当 及 び 募 集 採 用 に 必 要 な 経 費 ( 交 通 費, 健 康 診 断 費, 着 任 時 研 修 費 )を 調 整 することになっている 住 宅 及 び 生 活 環 境 の 整 備 は, 地 域 と 学 校 がその 責 任 をもつこ とになっている 応 募 条 件 は, 1 高 等 師 範 学 校 と 一 般 大 学 の 新 卒 者 を 主 とし, 一 部 専 門 師 範 学 校 の 新 卒 者,2 教 師 資 格 を 有 し 教 育 実 務 経 験 がある30 歳 以 下 の 大 学 既 卒 者,3 大 卒 者 西 部 奉 仕 計 画 に 参 加 した 大 卒 者,もしくは 半 年 以 上 の 教 育 支 援 ボランティア の 参 加 経 験 のある 師 範 学 校 出 身 者 を 優 先 的 に 採 用 する,4 上 記 を 満 たし,かつ 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 任 職 条 件 に 適 する 者 となっている 各 省 ( 自 治 区, 直 轄 市 )は, 3 年 間 の 契 約 期 間 を 満 了 した 農 村 特 設 ポスト 教 師 が 地 域 に 根 ざす ことを 奨 励 する 政 策 と 措 置 を 検 討 し, 策 定 する ことを 求 めている 自 ら 留 まりたいという 者 に 対 しては, 当 該 地 域 の 正 規 の 教 師 と 同 じ 待 遇 を 保 障 しなければならない 中 国 では 農 村 地 域 と 都 市 部 とで 大 きな 教 育 格 差 を 抱 えており,とくに 学 校 教 育 の 質 の 低 さが 問 題 となっている( 何 2008, 仲 田 2010, 稲 井 2011) ここには, 校 舎 や 学 校 の 設 備 が 古 いということだ けでなく, 教 師 の 専 門 性 の 低 さと 力 量 不 足 に 起 因 する 教 育 上 の 問 題 もある さらに, 教 師 の 流 出 問 題 もある 農 村 部 の 教 師 の 給 与 は 都 市 部 と 比 べて 低 い こうした 労 働 条 件 を 嫌 い, 教 師 の 多 くが 都 市 部 へ 移 ることを 希 望 する その 結 果, 農 村 では 教 師 数 の 不 足 も 大 きな 問 題 になっている( 展 2009) こうした 農 村 部 の 教 育 問 題 と 先 にみた 大 学 卒 業 者 の 就 職 問 題 を 同 時 に 解 決 することを 試 み たのが 計 画 である 2010 年 現 在,この 制 度 を 通 して 約 15 万 人 の 若 者 が 農 村 に 教 師 として 派 遣 さ れている 2 本 研 究 の 課 題 と 方 法 2-1 先 行 研 究 の 検 討 管 見 の 限 り 計 画 に 関 する 日 本 国 内 での 先 行 研 究 は 見 当 たらない 中 国 国 内 においては, 計 画 に 参 加 する 若 者 の 動 機 に 焦 点 づけた 研 究 ( 廖 2011)や 現 行 の 計 画 の 課 題 を 抽 出 する 論 稿 ( 趙 2009, 彭 2010)などが 蓄 積 されつつある これら の 研 究 は, 地 域 を 特 定 しないマクロな 視 点 からの 制 度 分 析 であり, 計 画 がどのように 現 場 に 定 410

4 中 国 における 大 卒 者 就 職 支 援 としてのへき 地 教 師 派 遣 制 度 着 し, 運 用 されているのかをミクロな 視 点 から 検 証 していく 作 業 が 求 められるといえよう フィールド 調 査 をもとに 運 用 実 態 を 明 らかにし ようとした 研 究 には, 楊 (2009)による 中 国 河 北 省 での 調 査 報 告 がある 楊 によれば, 計 画 へ の 参 加 動 機 の 約 半 数 が 職 に 就 かなければならない という 周 囲 や 世 間 の 圧 力 であるという 計 画 によって 派 遣 された 若 者 の 多 くが, 機 会 があれば すぐに 転 出 したいと 考 えており, 将 来 の 就 職 への 架 け 渡 し 板 とみなす 現 場 の 声 を 紹 介 している しかし, 計 画 を 通 したへき 地 での 教 師 体 験 は, こうしたネガティヴな 評 価 だけなのだろうか 第 一 筆 者 の 李 の 友 人 には, 農 村 特 設 ポスト 教 師 を 務 めている 者 もいるが, 厳 しさの 中 にも 仕 事 にやり がいを 感 じ, 自 らの 成 長 を 見 出 しているようで あった 派 遣 された 若 者 の 自 己 形 成 や 大 卒 者 で 正 規 の 教 師 資 格 をもつ 若 者 が 農 村 地 域 の 教 育 に 携 わ ることの 意 味 からも 制 度 を 評 価 していく 必 要 があ ろう 計 画 による 効 用 を 明 らかにし,それを 最 大 化 させる 条 件 を 問 う 視 点 が 不 可 欠 であり,そ のための 基 礎 資 料 の 蓄 積 が 必 要 だと 考 える 2-2 課 題 と 方 法 本 研 究 は, 計 画 の 運 用 実 態 と 効 用 について 検 討 することを 課 題 とする とくに,へき 地 での 教 師 経 験 が 若 者 に 与 えた 影 響 と 大 卒 者 の 若 者 が 教 師 をすることで 当 該 地 域 に 与 えた 影 響 に 着 目 して データの 収 集 を 行 う 上 記 の 視 点 から2012 年 9 月 黒 龍 江 省 穆 棱 (ムレ) 市 にてフィールド 調 査 を 実 施 した 事 例 選 定 の 理 由 は, 典 型 的 な 農 村 地 帯 であるこ の 地 域 は 第 一 筆 者 の 李 の 出 身 地 域 であるために 調 査 協 力 が 得 やすいことと 前 述 したような 計 画 での 教 師 経 験 に 対 するポジティヴな 語 りが 散 見 で きたことである その 意 味 で, 本 研 究 は, 計 画 が 比 較 的 良 好 に 実 施 されている 場 合 の 事 例 研 究 と して 位 置 づけられよう 調 査 は 第 一 著 者 の 李 が 単 独 で 行 い, 全 体 傾 向 を 把 握 するためのアンケートと 個 別 具 体 的 なエピ ソードや 語 りを 収 集 していくことを 目 的 としたイ ンタビューを 実 施 した 4 アンケート 調 査 穆 棱 市 における 都 市 部 である 八 面 通 鎮 以 外 の 五 つの 鎮 と 三 つの 郷 に 勤 務 する 農 村 特 設 ポスト 教 師 60 名 全 員 を 対 象 とした( 無 記 名 ) 調 査 期 間 は 2012 年 9 月 17 日 ( 月 )に 配 布 し,9 月 21 日 ( 金 ) に 回 収 した 回 収 率 は33.3%であった 表 1に 回 答 者 の 基 本 情 報 を 示 した 男 女 比 は1:5, 当 該 地 域 で 働 く 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 男 女 比 は1: 5.6であり, 母 集 団 を 一 定 程 度 反 映 しているとい える 質 問 内 容 は,1 着 任 前 に 就 きたかった 仕 事,2 子 どもおよび 農 村 地 域 に 与 える 影 響 と 自 分 自 身 の 変 化 ( 自 由 記 述 ),3 計 画 への 要 望 と 進 路 ( 自 由 記 述 )の3 点 である 自 由 記 述 は, 次 の 手 順 で 分 析 した まず 自 由 記 述 の 回 答 全 体 を 通 読 し, 共 通 する 内 容 をキーワー ドとして 抽 出 した ひとつの 回 答 に 複 数 のキー ワードがあることも 多 数 みられる 抽 出 された キーワードを 基 にして, 元 データを 読 み 返 し,キー ワードに 重 複 や 漏 れがないかを 精 査 した 結 果, 理 論 的 飽 和 5 に 達 したとみなした 次 に,それらの 性 別 着 任 既 卒 新 卒 現 在 の 勤 務 独 身 既 婚 出 身 大 学 出 身 地 表 1 回 答 者 の 基 本 情 報 (N=20) 項 目 人 数 比 率 男 性 女 性 2009 年 ~ 2011 年 ~ 2012 年 ~ 新 卒 既 卒 中 学 校 小 学 校 独 身 既 婚 師 範 専 門 非 師 範 専 門 穆 棱 県 内 穆 棱 県 以 外 3 名 17 名 18 名 1 名 1 名 16 名 4 名 10 名 10 名 14 名 6 名 18 名 2 名 11 名 9 名 15% 85% 90% 5% 5% 80% 20% 50% 50% 70% 30% 90% 10% 55% 45% 411

5 キーワードを 元 に 回 答 者 の 意 図 を 反 映 する 内 容 に 再 現 できるモデル 文 を 作 成 した 最 後 に,そのモ デル 文 で 元 データにこめられた 意 図 を 反 映 できる かを 確 認 した なお, 配 布 と 回 収 においては 調 査 を 円 滑 に 行 う ために 次 のような 手 順 を 踏 んだ 穆 棱 市 教 育 局 担 当 者 から 事 前 に, 各 地 域 の 教 育 行 政 担 当 者 と 学 校 長 と 連 絡 をとってもらい,そこから 農 村 特 設 ポス ト 教 師 にアンケート 用 紙 を 配 ってもらった 回 収 の 際 も 各 学 校 の 校 長 に 集 約 してもらい, 穆 棱 市 教 育 局 担 当 者 を 経 由 して 筆 者 の 手 元 に 届 いてもらっ た したがって, 回 収 の 際 に 校 長 と 地 域 教 育 行 政 担 当 者 を 経 由 しなければならないことから, 上 司 の 目 に 触 れられるので, 好 意 的 な 回 答 が 多 くなる ことは 予 想 される 6 インタビュー 調 査 穆 棱 市 下 城 子 鎮 7 で 教 育 局 担 当 者 1 名, 小 学 校 校 長 2 名, 農 村 特 設 ポスト 教 師 3 名 への 聞 き 取 り 調 査 を 行 った 8 下 城 子 鎮 教 育 行 政 担 当 者 S 氏 か らM 校 長 とN 校 長 を 紹 介 いただき, 農 村 特 設 ポス ト 教 師 には 両 校 長 を 通 して 連 絡 を 取 った 9 聞 き 取 りは 校 長 室 で 行 った 農 村 特 設 ポスト 教 師 に 対 するインタビューは 一 対 一 で 行 ったが, 校 長 が 同 じ 部 屋 で 仕 事 をしていた それによりインタ ビューの 答 えに 少 なからず 影 響 したかもしれない ことを 付 記 しておく 下 城 鎮 教 育 局 担 当 者 S 氏 への 質 問 項 目 1 当 該 地 域 における 教 育 の 現 状 と 課 題 ( 学 校 数, 生 徒 数, 教 員 定 数 と 年 齢 比, 学 力 および 教 育 上 の 課 題 など) 2 当 該 地 域 における 計 画 の 運 用 実 態 ( 募 集 人 数 および 配 置 の 決 定 方 法, 農 村 特 設 ポス ト 教 師 の 待 遇 社 会 保 障 給 与 と 諸 手 当 等, 任 期 満 了 後 の 進 路 ) 3 農 村 特 設 ポスト 教 師 は 学 校 や 地 域 社 会 にど んな 影 響 変 化 をもたらしたか 4 農 村 特 設 ポスト 教 師 自 身 の 変 化 成 長 5 計 画 への 要 望 意 見 李 沐 子 添 田 祥 史 校 長 への 質 問 項 目 1 当 該 地 域 における 教 育 の 現 状 ( 学 生 数, 教 師 数, 学 校 の 歴 史 など)と 課 題 2 校 長 の 立 場 から 見 た 計 画 及 び 農 村 特 設 ポスト 教 師 に 対 する 評 価 ( 一 般 教 師 との 相 違 点 等 ) 3 農 村 特 設 ポスト 教 師 は 学 校 や 地 域 社 会 にど んな 影 響 変 化 をもたらしたか 4 農 村 特 設 ポスト 教 師 自 身 の 変 化 成 長 5 計 画 への 要 望 意 見 農 村 特 設 ポスト 教 師 への 質 問 項 目 1 基 本 情 報 ( 性 別, 年 齢, 出 身 地 域 大 学 で の 専 攻, 卒 業 年 齢, 家 族 構 成, 担 当 科 目 等 ) 2 農 村 特 設 ポスト 教 師 になるきっかけ 3 着 任 前 後 の 変 化 ( 農 村 に 対 するイメージ, 教 職 に 対 するイメージ, 計 画 に 対 するイ メージ) 4 現 在 の 仕 事 への 自 己 評 価 ( 勤 務 校 及 び 地 域 に 貢 献 できるかどうか,どんなところで 困 難 を 感 じたのか,ここでのやりがいを 感 じるか どうか, 途 中 でやめたいことがあるかどうか) 5 任 期 満 了 後 の 進 路 3 中 国 農 村 部 の 学 校 教 育 の 問 題 点 と 計 画 穆 棱 市 は 黒 竜 江 省 南 東 部, 牡 丹 江 市 に 位 置 する 県 級 市 で 六 つの 鎮 と 三 つの 郷 を 所 轄 する 2010 年 現 在 人 口 29.6 万 人, 市 の 東 南 部 と 東 北 部 はロシア と 接 している 市 のほとんどは 丘 陵 地 域 で, 冬 季 の 冷 え 込 みは 厳 しく 氷 点 下 20 度 を 下 回 る 日 が 続 く 年 間 平 均 気 温 は2.7 度 である 市 内 には, 小 学 校 56 校, 中 学 校 8 校,9 年 義 務 教 育 一 貫 制 学 校 9 校, 高 等 学 校 2 校, 職 業 技 術 専 門 学 校 1 校, 特 別 支 援 学 校 1 校, 公 立 幼 稚 園 2 園 がある 表 2は, 黒 竜 江 省 における 計 画 の 対 象 地 域 である 募 集 人 数 は,2009 年 1887 名,2010 年 808 名,2011 年 は853 名,2012 年 980 名 で,うち, 穆 棱 市 における 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 募 集 人 数 は2009 年 90 名,2010 年 は0 名 10,2011 年 20 名,2012 年 30 名 412

6 中 国 における 大 卒 者 就 職 支 援 としてのへき 地 教 師 派 遣 制 度 表 2 黒 竜 江 省 における 計 画 の 対 象 地 域 国 家 級 貧 困 県 延 寿 县, 泰 来 县, 甘 南 县, 拜 泉 县, 绥 滨 县, 饶 河 县, 林 甸 县, 杜 蒙 自 治 县, 桦 川 县, 汤 原 县, 抚 远 县, 同 江 市, 兰 西 县 辺 境 県 ( 市 ) 密 山 市, 虎 林 市, 鸡 东 县, 萝 北 县, 嘉 荫 县, 绥 芬 河 市, 穆 棱 市 ( 調 査 対 象 ), 东 宁 县, 爱 辉 县, 逊 克 县, 孙 吴 县, 呼 玛 县, 塔 河 县, 漠 河 县 両 基 堅 攻 県 富 裕 县 表 3 計 画 派 遣 教 師 の 募 集 人 数 黒 竜 江 省 における 募 集 人 数 穆 棱 市 における 募 集 人 数 小 学 校 中 学 校 小 学 校 中 学 校 2009 年 1104 名 783 名 30 名 60 名 2010 年 498 名 310 名 0 名 0 名 2011 年 452 名 401 名 10 名 10 名 2012 年 470 名 501 名 22 名 8 名 聞 き 取 り 調 査 をもとに 筆 者 作 成 である( 表 3) 穆 棱 市 においては,2009 年 9 月 から 着 任 した 農 村 特 設 ポスト 教 師 90 名 全 員 が 任 期 を 全 うした そ の 後 の 進 路 としては,77 名 (85.5%)がその 地 に 留 まり 正 規 教 諭 に 登 用 されている アンケート 調 査 によると,4 年 制 師 範 大 学 にお いて 教 員 養 成 の 専 門 教 育 を 受 けてきた 者 が9 割 を 占 めていた 既 婚 者 は3 割 ですべて 女 性 である 穆 棱 市 出 身 者 は55%,それ 以 外 の 出 身 は45%で あった インタビュー 調 査 によると 当 該 地 域 は 次 のよう な 学 校 教 育 上 の 課 題 を 抱 えているという 第 一 に, 教 育 経 費 の 確 保 である 中 国 の 義 務 教 育 制 度 は, 地 方 政 府 が 学 校 教 育 の 経 費 を 負 担 する ように 設 計 されている( 劉 2006, 柯 2009) 財 政 力 の 格 差 がそのまま 学 校 教 育 の 格 差 に 反 映 され, 特 に 都 市 部 と 農 村 部 の 格 差 が 顕 著 である( 沼 尾 2005) そうした 中 で,へき 地 で 働 く 教 師 の 労 働 環 境 は, 厳 しいものとならざるを 得 えず, 最 低 限 の 生 活 条 件 も 整 っていない (N 村 小 学 校 長 ) たとえば, 農 村 特 設 ポスト 教 師 のために 用 意 した 宿 舎 は 古 く, 暖 房 設 備 は 旧 式 の 石 炭 ストーブのま まなので, 都 市 部 での 生 活 に 慣 れた 若 者 には 厳 し い 環 境 であるという 第 二 に, 教 師 の 高 年 齢 と 低 学 歴 に 起 因 する 教 職 の 専 門 性 をめぐる 問 題 である 下 城 子 鎮 の 小 学 校 及 び 中 学 校 の 教 師 は 総 勢 216 名 ( 農 村 特 設 ポスト 教 師 含 む)である 年 齢 構 成 は23 歳 ~30 歳 5 名 ( 全 員 が 農 村 特 設 ポスト 教 師 ),31 歳 ~35 歳 18 名,36 歳 ~40 歳 28 名,41 歳 ~45 歳 41 名,46~50 歳 46 名, 51 歳 ~55 歳 42 名,56 歳 ~60 歳 36 名 である( 図 1) インタビュー 調 査 では, 年 配 の 教 師 の 教 育 経 験 は 認 めつつも, 知 識 の 更 新 ができていない (S 氏 ), 新 たに 教 育 課 程 で 必 要 とされる 歌 やダンス の 素 養 が 全 くない (N 村 小 学 校 校 長 )という % % % % % 図 1 下 城 子 鎮 における 教 師 の 年 齢 構 成 % % 413

7 李 沐 子 添 田 祥 史 声 が 聞 かれた また, 農 村 の 学 校 教 育 は 長 らく 民 弁 教 師 11 が 担 ってきた 歴 史 があり, 正 規 師 範 学 校 からの 教 師 が 必 要 今 の 教 師 たちは 専 門 性 が 足 りないため, 中 等 半 端 な 知 識 を 児 童 生 徒 に 教 え る 場 合 が 多 いので,もっと 専 門 的 人 材 がほしい (S 氏 )という 高 齢 の 教 師 が 退 職 しない 限 り, 新 しいポストが 生 まれない 厳 しい 財 政 の 中 で, 若 い 教 師 を 独 自 に 採 用 することが 難 しい 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 給 与 は, 国 の 予 算 から 支 給 される そうした 事 情 もあり, 農 村 地 域 では 農 村 特 設 ポスト 教 師 は 概 ね 歓 迎 されているようである 第 三 に, 教 師 の 流 出 問 題 がある 国 家 教 育 督 導 報 告 2008 によれば,9 割 強 の 農 村 において, 35 歳 以 下 の 若 い 教 師 の 流 出 が 生 じているという 流 出 した 若 い 教 師 の74.6%は 主 幹 教 師 であった 下 城 子 鎮 でも, この 十 年 間, 教 師 流 出 問 題 も 多 発 し, 農 村 教 師 の 教 師 従 政 ( 教 職 を 辞 して 公 務 員 になること) 教 師 従 商 ( 教 職 を 辞 してビジ ネスを 始 めること)などの 問 題 が 多 く 存 在 する (S 氏 ) 契 約 期 間 中 は 頑 張 って その 後, 様 子 をみて 転 職 を 考 えている 農 村 特 設 ポスト 教 師 も 少 なくないという(M 村 小 学 校 長 ) 農 村 特 設 ポスト 教 師 L 氏 は 人 往 高 处 走 水 往 低 处 流 ( 水 は 低 いところに 流 れ, 人 はより 良 いところを 目 指 す)という 格 言 を 用 いて, 機 会 があれば 都 市 部 の より 待 遇 の 良 い 学 校 への 転 出 を 考 えている 旨 を 話 してくれた 教 師 の 流 出 は,ただでさえ 過 重 な 仕 事 量 を 抱 え がちな 農 村 部 の 学 校 現 場 にとっては 打 撃 となる 教 師 数 の 不 足 によって, 複 数 の 学 級 を 担 任 したり, 専 門 外 の 科 目 を 複 数 教 えなければならない 現 状 が ある そうしたことを 苦 にして 若 手 教 師 が 流 出 し ていく こうした 負 のスパイラルに 農 村 部 の 学 校 現 場 は 悩 んでいる 以 上, 計 画 は, 農 村 部 の 学 校 教 育 上 が 抱 え る 諸 問 題 のいくつかの 側 面 に 対 して, 対 処 療 法 的 ではあるが 改 善 策 として 機 能 していると 言 える とくに 教 職 の 専 門 性 をもつ 若 手 教 師 の 確 保 という 意 味 での 現 場 からの 支 持 は 厚 く, 期 待 が 大 きいこ とが 伺 えた 4 農 村 特 設 ポスト 教 師 にとってのへき 地 で の 教 師 経 験 の 意 味 まず, 農 村 特 設 ポスト 教 師 を 対 象 としたアン ケート 調 査 (N=20)の 結 果 をみてみよう 着 任 前 から 教 職 を 第 一 志 望 としている 者 が9 割 (18 名 )を 占 め, 現 在 の 仕 事 に 高 い 満 足 度 を 示 し ている( とてもある 18 名, どちらとも 言 えな い 2 名 ) 任 期 満 了 後 の 進 路 についてはほぼ 全 員 が 派 遣 された 地 域 で 教 職 に 就 きたいと 答 えた (19 名 ) 自 身 の 存 在 や 仕 事 が 学 校 や 地 域 に 与 えた 影 響 に 関 する 自 由 記 述 を 分 析 したところ, 教 師 とのコ ミュニケーションが 増 えるので, 子 どもの 性 格 が 明 るくなった という 回 答 がもっとも 多 く, 約 半 数 強 であった また, 教 授 法 や 学 力 向 上 に 関 する 回 答 も 多 く, 新 しい 知 識 と 情 報 を 持 ってきたの で, 子 どもの 視 野 を 広 げた (11 名 ), 子 どもの 成 績 が 良 くなった (7 名 ), 都 市 と 農 村 の 教 育 格 差 の 是 正 に 貢 献 できた (7 名 ), 新 しい 授 業 のスタイルを 体 験 させ, 授 業 が 面 白 いと 感 じさせ た (6 名 )と 続 く 農 村 特 設 ポスト 教 師 を 経 ての 自 身 の 変 化 に 関 す る 自 由 記 述 の 分 析 では, 半 数 が 家 事 や 炊 事 等, 生 活 の 自 立 ができるようになった (10 名 )と 答 えていた その 他 の 回 答 としては, 教 師 として の 能 力 専 門 性 が 高 くなった (8 名 ), 職 場 の 同 僚 及 び 保 護 者 とのコミュニケーション 能 力 が 高 くになった (8 名 ), 一 生 涯 にわたって 農 村 教 師 の 仕 事 をやり 続 けることを 決 意 した (6 名 ), 農 村 地 域 への 愛 着 や 絆 が 生 まれてきた (4 名 ) があった 計 画 に 対 する 意 見 要 望 を 尋 ねたところ, 待 遇 の 改 善 (6 名 )と 任 期 を 短 くすべき (4 名 )といった 声 の 他 に, より 厳 しい 地 域 に 多 く の 農 村 特 設 ポスト 教 師 を 配 属 すべき (4 名 ), 募 集 人 数 を 増 やして, 後 輩 にもこの 仕 事 のチャ ンスを 提 供 するべき (1 名 )との 回 答 があった 414

8 中 国 における 大 卒 者 就 職 支 援 としてのへき 地 教 師 派 遣 制 度 以 上 をふまえると, 農 村 特 設 ポスト 教 師 にとっ てのへき 地 での 教 師 経 験 の 意 味 は, 次 の4 点 を 挙 げることができよう インタビューデータで 補 足 しながら 確 認 していくことにする 一 点 目 は, 農 村 特 設 ポスト 教 師 は, 若 者 にとっ て 安 定 した 就 職 先 を 意 味 する 大 卒 者 の 就 職 難 が 社 会 問 題 化 する 中 国 において, 農 村 特 設 ポスト 教 師 は 将 来 が 保 障 された 比 較 的 安 定 した 就 職 先 と なっている 3 年 間 の 雇 用 期 間 が 満 期 になった 農 村 特 設 ポスト 教 師 は, 勤 務 学 校 の 合 格 評 価 を 得 て, 正 規 教 員 として 採 用 される 道 がある また, 教 育 系 の 大 学 院 にも 入 試 免 除 で 推 薦 入 学 することがで きる インタビューに 協 力 してくれた 農 村 特 設 ポ スト 教 師 の 一 人 は, 特 に 教 師 になりたいわけで はない と 明 確 的 な 目 標 を 持 たず, 家 庭 教 師, レストランのホール,スーパーの 営 業 などの 仕 事 をやっていた と 不 安 定 な 職 種 を 転 々と 変 えた 結 果, 正 規 の 仕 事 に 就 きたい 思 いが 強 くなり, よ うやく, 正 規 教 師 の 仕 事 を 得 ることができたので, ここで 安 定 したい という 二 点 目 は, 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 経 験 は, 教 職 という 仕 事 のやりがいを 自 覚 し, 専 門 性 を 高 める 機 会 となっている 農 村 特 設 ポスト 教 師 は, 自 身 の 働 きかけによって, 子 どもたちの 成 績 や 性 格 が 変 化 したことにとくにやりがいを 感 じている 様 子 が 伺 える 地 域 や 子 どもたちに 必 要 とされている という 実 感 は, 一 生 涯 にわたって 農 村 部 での 教 育 に 従 事 したいという 思 いにつながる 場 合 もある 鎮 の 教 育 局 担 当 者 S 氏 は 次 のように 述 べている 農 村 特 設 ポスト 教 師 たちは, 研 修 期 間 と 比 べる と,3 年 間 後 には 格 段 に 教 育 能 力 が 向 上 していま す 生 徒 と 保 護 者 への 対 応 もうまくなり, 一 人 前 の 教 師 になっていきます 一 部 の 特 設 ポスト 教 師 は 一 生 涯 をわたって 教 育 現 場 で 努 力 を 尽 くすこと を 決 めました 三 点 目 は,へき 地 での 教 師 生 活 は, 都 市 部 のラ イフスタイルを 相 対 化 させる 生 活 体 験 学 習 の 場 と なっている 農 村 特 設 ポスト 教 師 W 氏 は, 自 炊 もしたことがなく,ゼロから 始 まる ことがほと んどで, 石 炭 ストーブに 火 を 灯 すといった 生 ま れて 初 めての 体 験 もあったという 物 にあふれ た 都 市 部 の 生 活 とは 一 変 して, 毎 晩 早 起 きして, 自 分 で 弁 当 を 作 るのが 日 課 になっているという また, 農 村 特 設 ポスト 教 師 L 氏 は, 毎 日 の 暮 らしの 中 で 身 近 な 困 難 に 直 面 し,それを 乗 り 越 え ないといけない ので, 仕 事 の 熟 練 とともに 生 活 の 自 立 も 達 成 できた 苦 労 もするけど, 楽 しい ところもある と 述 べている 食 材 は 週 1 回, 市 街 地 にまとめ 買 いに 行 くが, 夏 季 はそれでは 間 に 合 わない そこで, 勤 務 校 の 校 長 の 許 可 を 得 て, 官 舎 付 近 で 野 菜 作 りを 始 めることにした このようにへき 地 での 教 師 生 活 は, 若 者 に 自 立 した 生 活 スキルの 獲 得 を 否 応 なしに 求 める こう した 経 験 は, 都 市 部 での 暮 らし 方 を 相 対 化 させる 学 習 機 会 となっているともいえよう 四 点 目 は, 農 村 地 域 への 愛 着 や 農 村 教 育 への 責 任 感 を 形 成 させている アンケート 調 査 では 実 に 9 割 がそのまま 留 まって, 当 該 地 域 の 教 育 に 従 事 したいと 答 えた インタビューでも, 同 様 の 声 を 聴 くことができ た M 村 小 学 校 校 長 は, 当 初, 村 民 の 方 言 を 理 解 できなかった 農 村 特 設 ポスト 教 師 が, 地 域 の 言 葉 を 理 解 しながら 保 護 者 や 住 民 との 関 わっていく 姿 を 紹 介 してくれた 鎮 の 教 育 行 政 担 当 者 S 氏 は, 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 存 在 は, 地 域 学 校 子 どもにとって 掛 け 替 えのない 存 在 と 述 べた 地 域 での 立 ち 位 置 や 存 在 意 義 が 確 立 されるにした がって, 地 域 への 愛 着 が 大 きくなっていく 農 村 特 設 ポスト 教 師 L 氏 は 次 のように 語 った ここ の 子 どもの 将 来 を 考 えたら, 辞 められません せ めて 私 のクラスの 学 生 たちが 全 員 進 学 できてから そうしたことは 考 えます 校 長 先 生 と 地 域 住 民 に 大 変 お 世 話 になっていて, 皆 が 優 しいから, 生 活 は 厳 しいけれども, 楽 しいところも 感 じています 5 中 国 農 村 部 の 学 校 教 育 における 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 役 割 と 機 能 以 上 をふまえて, 最 後 に, 中 国 農 村 部 の 学 校 教 育 に 農 村 特 設 ポスト 教 師 が 果 たしている 役 割 や 機 415

9 李 沐 子 添 田 祥 史 能 について 考 察 してみたい 第 一 に, 農 村 特 設 ポスト 教 師 は, 学 校 教 育 の 格 差 問 題 を 顕 在 化 させる 役 割 を 担 っている 1986 年, 義 務 教 育 と 青 少 年 の 文 盲 撲 滅 を 目 標 とし て, 全 国 で 義 務 教 育 制 度 が 導 入 された 同 時 に, 地 方 の 責 任 による 分 級 管 理 体 制 が 創 設 された 義 務 教 育 予 算 を 地 方 政 府 の 責 任 としたことによ り, 経 済 的 に 豊 かな 都 市 と 財 政 の 厳 しい 農 村 との 間 で 教 育 予 算 に 大 きな 差 が 生 まれている 沿 海 部 と 内 陸 部, 東 部 と 西 部, 省 と 省 との 間,そして 同 じ 省 内 の 県 と 県 との 間 でも, 義 務 教 育 経 費 の 投 入 に 不 均 等 が 生 じている 状 況 にある( 展 偉 静, 2009) 鎮 教 育 局 担 当 者 や 校 長 へのインタビューでは 度 々, 学 校 教 育 の 格 差 問 題 への 言 及 がみられたが, 農 村 特 設 ポスト 教 師 も 同 様 の 認 識 にあることが 伺 えた むしろ, 都 市 部 の 大 学 を 卒 業 後, 農 村 の 教 壇 に 立 つ 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 方 が, 一 層 都 市 と 農 村 の 格 差 を 体 感 しやすい 立 場 にあるといえるか もしれない 農 村 特 設 ポスト 教 師 W 氏 は 次 のよう に 語 った 大 学 時 代 に 教 育 実 習 で 行 っていた 市 内 の 学 校 と 今 の 学 校 と 全 く 違 いますね 教 育 環 境 も, 教 育 設 備 も, 教 師 の 給 料 も 違 います この 学 校 では 土 のグランドしかないです 学 校 に 運 動 場 とバスケット 場 があるのは 当 然 だと 思 っていまし たけど,この 学 校 では 運 動 器 具 が 一 切 ないんです よね 第 二 に, 農 村 特 設 ポスト 教 師 は, 学 校 教 育 の 格 差 問 題 を 縮 小 させる 役 割 を 担 っている 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 配 置 は, 専 門 性 のある 若 手 教 師 を 求 める 農 村 の 学 校 現 場 に 歓 迎 されていた 今 回 の 調 査 からは 農 村 特 設 ポスト 教 師 が 農 村 の 学 校 教 育 の 質 的 向 上 に 貢 献 していることが 伺 え た 農 村 特 設 ポスト 教 師 を 対 象 としたアンケート 調 査 やインタビュー 調 査 には, 自 分 が 赴 任 したこ とによって, 子 どもの 成 績 が 良 くなったという 認 識 がみられた 鎮 教 育 局 担 当 者 も 格 差 を 縮 める ことができた と 述 べている M 村 小 学 校 校 長 は, ここの 子 どもを 大 学 に 進 学 させる と 意 欲 を 持 ち, 将 来, 都 市 部 の 子 ど もに 負 けないように 責 任 を 持 って 教 えている と 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 仕 事 ぶりを 評 価 して, 次 の ように 述 べている W 先 生 は 発 音 から 教 え 方 ま で, 前 の 先 生 よりうまくてやる 気 もあります 農 村 特 設 ポスト 教 師 がこの 地 域 に 新 しい 知 識 と 活 力 をもたらしてくれています 彼 女 たちの 考 え 方 と 価 値 観 はとっても 新 しい 古 い 教 師 と 全 く 違 う しかも 非 常 に 優 秀 で,やる 気 も 責 任 感 も 他 の 教 師 よりもあります 第 三 に, 都 市 部 での 生 活 経 験 をもち,IT 等 の 情 報 操 作 にも 長 けた 農 村 特 設 ポスト 教 師 たちは, 農 村 の 伝 統 的 な 価 値 観 の 更 新 を 迫 る 新 たなロール モデルとなっている 鎮 教 育 局 担 当 者 S 氏 によると, 都 市 部 から 遠 く 離 れた 農 村 部 の 住 民 は, 農 民 の 思 考 に 縛 られて, 視 野 が 限 られ ており, 目 の 前 しか 見 ないし, 長 い 目 でも 見 られ ず, 部 分 を 見 て, 全 体 を 見 ない という 都 市 部 の 保 護 者 と 違 って,ほとん ど 子 どもの 教 育 に 関 心 を 持 ってないという そう した 現 状 に 農 村 特 設 ポスト 教 師 が 風 穴 を 開 けてく れたとN 村 小 学 校 校 長 は 述 べる 農 村 特 設 ポスト 教 師 たちが 地 域 と 信 頼 関 係 を 築 きつつ, 子 どもた ちの 良 きロールモデルとしてふるまってくれたお かげで, 保 護 者 にも 子 どもの 成 績 や 進 路 に 関 心 の 芽 生 えが 出 てきたという 農 村 特 設 ポスト 教 師 にもそうした 役 割 への 自 覚 はみてとれる 私 たちはこの 学 校 で 初 めての 正 規 大 卒 教 師 です 地 域 に 対 する 貢 献 といえるかは わからないけども,この 地 域 に 新 しい 希 望 をもた らしたと 思 います 私 は 教 科 書 の 知 識 だけではな く, 大 学 で 学 んだことと 自 分 の 経 験 も 含 めて 子 ど もたちに 教 えたい そうすることで 生 徒 たちの 視 野 も 広 がっていくと 思 います ( 農 村 特 設 ポスト 教 師 W 氏 ) 第 四 に, 計 画 は, 教 職 の 専 門 性 をもつ 意 欲 的 な 若 手 教 師 をリクルートする 機 能 がある 農 村 特 設 ポスト 教 師 に 応 募 する 若 者 の 多 くが 農 村 教 育 に 関 心 をもっている 当 該 地 域 近 辺 の 出 身 者 も 少 なくない 穆 棱 県 では 派 遣 された90 名 の 農 村 特 設 ポスト 教 師 のうちに77 名 (85.6%)は 農 村 地 域 に 416

10 中 国 における 大 卒 者 就 職 支 援 としてのへき 地 教 師 派 遣 制 度 留 まり, 正 規 雇 用 されて 教 壇 に 立 っている また, 校 長 をはじめ 学 校 現 場 も 農 村 特 設 ポスト 教 師 にその 地 で 留 まってもらえるように 心 配 りを している うちの 村 は 貧 しく, 教 育 現 場 の 条 件 も 非 常 に 悪 いけれども, 村 長 と 学 校 の 先 生 方 とと もに, 出 来 るだけ 農 村 特 設 ポスト 教 師 のために 良 い 条 件 を 作 り, 彼 たちが 働 き 続 けられる 職 場 を 作 っていきたい (M 村 小 学 校 長 ) おわりに 本 稿 は, 計 画 の 運 用 実 態 と 効 用 について, 黒 龍 江 省 穆 棱 (ムレ) 市 でのフィールド 調 査 の 結 果 をもとに 検 討 してきた とくに,へき 地 での 教 師 経 験 が 若 者 に 与 えた 影 響 と 大 卒 者 の 若 者 が 教 師 をすることで 当 該 地 域 に 与 えた 影 響 に 着 目 して データの 収 集 分 析 を 行 った 本 研 究 の 成 果 は 次 の 点 にまとめることができる 第 一 に, 計 画 に 対 する 評 価 は, 派 遣 される 若 者 側 からも, 地 域 の 関 係 者 からも 高 いという 実 態 を 明 らかにした アンケート 調 査 では, 実 に9 割 がその 地 に 留 まり 教 職 を 続 けたいと 回 答 してい る 調 査 方 法 上 の 制 約 を 加 味 しても, 極 めて 高 い 数 値 である 計 画 への 参 加 動 機 の 約 半 数 が 職 に 就 かなければならないという 周 囲 や 世 間 の 圧 力 であるというが( 楊 2009), 今 回 の 調 査 では,9 割 が 着 任 前 から 教 職 をめざしていた さらに, 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 多 くが 仕 事 にやりがいを 感 じ ており, 中 には 農 村 の 教 育 向 上 に 強 い 使 命 感 を 抱 いている 者 もいた 農 村 地 域 の 学 校 現 場 では, 教 育 経 費 の 確 保, 教 師 の 流 出 問 題, 教 師 の 高 年 齢 と 低 学 歴 に 起 因 する 教 職 の 専 門 性 をめぐる 問 題 など に 直 面 しており, 農 村 特 設 ポスト 教 師 は 大 きな 期 待 をもって 歓 迎 されていた 第 二 に, 農 村 特 設 ポスト 教 師 にとってのへき 地 での 教 師 経 験 はどういう 意 味 をもつかについて 明 らかにした 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 経 験 やへき 地 での 生 活 は,1 若 者 にとって 安 定 した 就 職 先 を 提 供 している,2 教 職 という 仕 事 のやりがいを 自 覚 し 専 門 性 を 高 める 機 会 となっている,3 都 市 部 の ライフスタイルを 相 対 化 させる 生 活 体 験 学 習 の 場 となっている,4 農 村 地 域 への 愛 着 や 農 村 教 育 へ の 責 任 感 を 形 成 させている 第 三 に, 農 村 部 の 学 校 教 育 における 農 村 特 設 ポ スト 教 師 の 役 割 と 機 能 について 明 らかにした 農 村 特 設 ポスト 教 師 は,1 学 校 教 育 の 格 差 問 題 を 顕 在 化 させる 役 割 を 担 っている,2 学 校 教 育 の 格 差 問 題 を 縮 小 させる 役 割 を 担 っている,3 都 市 部 で の 生 活 経 験 をもち,IT 等 の 情 報 操 作 にも 長 けた 農 村 特 設 ポスト 教 師 たちは, 農 村 の 伝 統 的 な 価 値 観 の 更 新 を 迫 る 新 たなロールモデルとなってい る,4 計 画 は, 教 職 の 専 門 性 をもつ 意 欲 的 な 若 手 教 師 をリクルートする 機 能 がある 本 研 究 は, 中 国 黒 竜 江 省 の 農 村 における 事 例 研 究 であった とくに, 当 初 から 計 画 に 対 する ポジティヴな 評 価 を 耳 にしていた 地 域 を 対 象 に 調 査 研 究 を 行 なった その 意 味 で, 本 研 究 は, 計 画 が 比 較 的 良 好 に 実 施 されている 地 域 の 事 例 研 究 と いえる したがって, 計 画 遂 行 に 困 難 を 生 じ ている 地 域 においても 調 査 を 蓄 積 していく 必 要 が ある また, 一 口 に 中 国 のへき 地 と 言 っても, 義 務 教 育 の 普 及 の 度 合 いは 異 なる また, 最 貧 地 域 の 多 くは 少 数 民 族 の 問 題 も 抱 えている そうした 地 域 では, 公 教 育 制 度 の 普 及 をめぐる 文 化 の 均 一 化 と いう 問 題 が 生 じていると 考 えられる こうした 視 点 にたつ 分 析 も 必 要 である 今 後, 計 画 修 了 者 の 追 跡 調 査 と 該 当 地 域 の 経 年 変 化 に 関 する 検 討 を 視 野 に 入 れつつ, 上 記 の 課 題 に 取 り 組 んでいきたいと 考 える 引 用 文 献 日 本 語 文 献 稲 井 富 赴 代 2011 中 国 の 貧 困 農 村 における 義 務 教 育 につ いての 考 察 高 松 大 学 研 究 紀 要 第 号 江 口 伸 吾 2011 中 国 農 村 地 域 におけるアクターと 統 治 の 再 編 村 官 政 策 の 動 向 をめぐって 総 合 政 策 論 叢 第 21 号, 島 根 県 立 大 学 柯 勁 松 2009 現 代 中 国 の 農 村 教 育 改 革 に 関 する 考 察 へき 地 教 育 研 究 第 63 巻, 北 海 道 教 育 大 学 417

11 李 沐 子 添 田 祥 史 何 曉 毅 2008 中 国 の 義 務 教 育 における 格 差 についての 実 例 研 究 大 学 教 育 第 5 号, 山 口 大 学 大 学 教 育 機 構 蘇 于 君 2011 中 国 における 農 村 教 育 の 発 展 とその 課 題 鶴 山 論 叢 第 11 号, 神 戸 大 学 趙 偉 紅 2007 中 国 農 村 教 師 政 策 の 現 状 と 課 題 日 本 のへ き 地 教 育 政 策 との 比 較 を 通 して 北 海 道 教 育 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 修 士 論 文 展 偉 静 2009 中 国 農 村 中 学 校 の 高 退 学 率 現 象 と 生 徒 およ び 農 村 の 学 校 教 育 観 東 北 部 農 村 地 区 での 実 態 調 査 に 基 づいて 比 較 教 育 学 研 究 第 38 号, 日 本 比 較 教 育 学 会 登 坂 学 2007 中 国 における 高 等 教 育 普 及 と 就 職 難 九 州 保 健 福 祉 大 学 研 究 紀 要 第 8 号 仲 田 陽 一 2010 中 国 農 村 教 育 改 革 と 教 育 格 差 問 題 熊 本 大 学 教 育 実 践 研 究 第 27 号 馬 志 遠 2000 中 国 の 大 卒 市 場 改 革 開 放 路 線 下 の 就 職 難 IDE 現 代 の 高 等 教 育,IDE 大 学 協 会 劉 占 富 2006 中 国 における 教 員 給 与 政 策 東 京 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 行 政 学 研 究 室 紀 要 第 25 号 中 国 語 文 献 廖 朝 華 2011 西 部 农 村 地 区 特 岗 教 师 职 业 状 况 调 查 报 告 以 云 南 省 鲁 甸 县 为 例 基 礎 教 育 彭 佑 兰 许 树 沛 2010 美 国 TFA 计 划 及 对 我 国 特 岗 计 划 的 启 示 教 育 発 展 研 究 10 期 楊 凤 勇 王 锃 池 溢 2010 来 自 特 岗 计 划 教 师 的 调 查 报 告 以 2009 年 河 北 省 首 批 特 岗 计 划 教 师 为 例 教 育 和 職 業 第 1 期 楊 廷 树 楊 颖 秀 2010 西 部 农 村 学 校 特 岗 教 师 现 状 调 查 与 思 考 基 于 贵 州 省 Z 中 学 的 个 案 研 究 教 育 理 論 与 実 践 23 期 6 調 査 を 行 った2012 年 9 月 は, 反 日 デモが 一 番 激 しい 時 期 であった 日 本 の 大 学 に 調 査 されること 自 体 に 強 い 警 戒 感 をもたれており, 今 回 のように 現 場 関 係 者 に 調 査 用 紙 の 配 布 と 回 収 を 協 力 してもらう 方 法 以 外 での 実 施 は 難 しかった 7 下 城 子 鎮 は 穆 棱 市 の 中 部 に 位 置 し,17 村 を 管 轄 して いる 面 積 391キロ 平 方 メートル, 人 口 は34647 人 である 農 村 人 口 は2.7 万 人 で77.14%を 占 める 鎮 内 には 小 学 校 7 校, 中 学 校 1 校, 小 中 一 貫 校 2 校 があり( 今 年 10 月 から 中 学 校 部 分 をやめ, 一 般 小 学 校 になる) 児 童, 生 徒 の 総 数 は2780 人 である 8 インタビューは2012 年 9 月 14 日,17 日 に 実 施 した 9 M 村 は 人 口 3886 名,889 世 帯 である M 村 小 学 校 の 児 童 数 166 名, 学 級 数 は13クラスである 教 師 数 は30 名 で, うち 農 村 特 設 ポスト 教 師 は3 名 である N 村 は 人 口 約 4000 人,N 村 小 学 校 の 児 童 数 は193 名 である 教 師 の 平 均 年 齢 は48 歳 で, 教 師 23 名 のうち 農 村 特 設 ポスト 教 師 は2 名 である 10 各 県 の 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 募 集 人 数 の 確 定 は, 県 の 教 育 局 が 募 集 計 画 を 策 定 し, 省 教 育 庁 に 提 出 する 省 教 育 庁 は 監 査 を 行 い, 最 終 の 募 集 人 数 を 確 定 する 2010 年 は, 穆 棱 市 の 農 村 教 師 の 数 が 足 りていたので, 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 募 集 計 画 を 提 出 しなかった 11 民 弁 教 師 とは, 通 常 は 中 学 校 卒 もしくは 高 卒 の 学 歴 を 有 する 地 元 出 身 者 であり, 学 校 あるいは 村 の 下 部 組 織 ( 生 産 大 隊 )などから 指 名 され, 県 などの 教 育 行 政 部 門 の 審 査 及 び 承 認 を 経 て, 教 師 に 任 命 されたも のである ( 李 沐 子 釧 路 校 大 学 院 生 ) ( 添 田 祥 史 釧 路 校 准 教 授 ) 1 中 国 中 央 教 育 部 財 政 部 農 村 地 域 義 務 教 育 段 階 農 村 特 設 ポスト 教 師 計 画 の 実 施 に 関 する 通 知 (2006 年 ) による 全 訳 を 資 料 として 巻 末 に 添 付 しているので 参 照 されたい 2 9 年 の 義 務 教 育 普 及 することと 青 年 及 び 成 人 の 非 識 字 者 を 一 掃 をめざした 二 つの 基 礎 教 育 拡 充 政 策 を 両 基 と 呼 ぶ 転 じて, 両 基 が 実 現 していない 地 域 のことを 指 す 用 語 としても 用 いられる 3 当 該 地 域 の 普 通 教 師 の 給 与 水 準 よりも 上 記 の1.5 万 元 の 報 酬 が 低 い 場 合 は, 地 方 政 府 が 補 填 することになっ ている 4 本 調 査 は, 李 沐 子 の 修 士 論 文 のための 調 査 として 実 施 された 本 稿 は,その 成 果 に 加 筆 修 正 したものである 5 そのカテゴリーの 諸 特 性 をそれ 以 上 発 展 させること できない 状 態 に 到 達 する 時,そのカテゴリーの 理 論 的 飽 和 が 起 こったとみなされる(グレイザー&ストラウ ス1967=1996) 418

12 中 国 における 大 卒 者 就 職 支 援 としてのへき 地 教 師 派 遣 制 度 資 料 2006 年 5 月 15 日 ( 2006 年 度 教 育 公 報 より: 李 沐 子 訳 ) 教 育 部 財 政 部 人 事 部 中 央 編 弁 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポスト 教 師 計 画 の 実 施 に 関 する 通 知 中 共 中 央 国 務 院 により 新 しい 社 会 主 義 農 村 建 設 の 推 進 に 関 する 意 見 ( 中 発 号 ) と 高 等 教 育 の 卒 業 生 が 基 層 で 就 業 することを 案 内 奨 歴 することに 関 する 意 見 ( 関 于 引 導 和 鼓 勵 高 校 畢 業 生 面 向 基 層 就 業 的 意 見 ) ( 中 弁 発 号 )を 基 づき, 農 村 義 務 教 育 段 階 特 設 ポスト 教 師 計 画 ( 以 下, 計 画 )を 策 定 した 一. 計 画 の 目 標 と 任 務 ⑴ 高 等 教 育 修 了 者 への 公 募 を 通 じて, 西 部 地 域 及 び 両 基 推 進 地 域 における 学 校 での 就 職 を 奨 励 することによって, 農 村 教 師 の 総 力 不 足 と 非 合 理 的 な 構 造 等 の 問 題 を 解 決 し, 農 村 教 師 の 全 体 的 な 資 質 向 上 を 行 う ⑵ 計 画 は2006 年 から5 年 間 をかけて 実 施 す る 特 設 ポスト 教 師 の 任 期 は3 年 間 である 二. 計 画 の 対 象 地 域 と 予 算 措 置 ⑶ 計 画 は 国 家 西 部 地 域 両 基 堅 攻 計 画 の 実 施 対 象 地 域 を 主 とする 加 えて, 国 家 西 部 大 開 発 計 画 の 対 象 地 域 となってい る 中 部 地 域 の 少 数 民 族 自 治 区 及 び 国 境 に 隣 接 し た 貧 困 地 域 と 少 数 民 族 自 治 区 を 対 象 とする チベット 地 域, 双 語 教 育 地 域, 少 数 民 族 集 住 地 域 への 対 応 に 比 重 を 置 く ⑷ 計 画 の 予 算 は, 中 央 政 府 を 中 心 として, 地 方 政 府 とともに 担 う 中 央 政 府 財 政 部 はそのために 特 別 予 算 を 設 定 し, 一 人 当 たり 年 間 1.5 万 元 (20 万 円 )とする 地 方 府 は 実 施 実 績 にもとづいて 中 央 政 府 に 対 し て 決 算 を 行 う 特 設 ポスト 教 師 は 任 務 期 間 にお いて, 国 の 統 一 された 賃 金 制 度 の 基 準 に 従 う 他 の 補 助 金 等 の 活 用 は, 当 該 地 域 の 普 通 教 師 の 給 与 水 準 と 中 央 政 府 の 補 助 金 を 総 合 的 に 勘 案 し て 実 施 する 当 該 地 域 の 普 通 教 師 の 給 与 水 準 よ りも 上 記 の1.5 万 元 の 報 酬 が 低 い 場 合 は, 地 方 政 府 が 補 填 してもよい 省 レベルの 財 政 関 係 部 門 は, 特 設 ポスト 教 師 の 社 会 保 険, 各 種 手 当 及 び 募 集 採 用 に 必 要 な 経 費 ( 交 通 費, 健 康 診 断 費, 着 任 時 研 修 費 )を 調 整 する 三. 計 画 実 施 における 原 則 及 び 手 順 ⑸ 地 方 政 府 の 権 限 を 変 更 せずに, 新 しいシステ ムの 構 築 をめざす 計 画 は 中 央 政 府 が 西 部 農 村 貧 困 地 域 における 教 師 問 題 を 解 決 するため の 支 援 を 行 うものであり, 当 該 地 域 の 権 限 を 変 更 するものではない この 計 画 が 実 施 され る 地 域 は, 教 師 の 配 置 数 が 不 足 しており, 非 合 理 的 な 構 造 と 財 政 難 など 深 刻 な 問 題 を 抱 えてい る 地 域 でなければならない 計 画 を 実 施 す る 期 間 は, 他 の 形 で 新 しい 教 師 を 採 用 してはい けない 各 省 ( 自 治 区, 直 轄 市 )は 規 定 の 教 師 配 置 の 総 数 を 超 えないよう, 特 設 ポスト 教 師 を 採 用 すること ⑹ 計 画 は 中 央 政 府 が 統 括 し, 地 方 政 府 が 実 施 する 教 育 部, 財 政 部 は, 全 体 計 画 と 年 次 計 画 を 策 定 し, 特 設 ポスト 教 師 の 総 数 を 設 定 する 地 方 政 府 は, 計 画 の 内 容 と 実 施 方 法 を 慎 重 に 検 討 し, 実 施 する 計 画 を 実 施 する 地 域 は, 特 設 ポスト 教 師 の 日 常 管 理 と 評 価 を 担 い,まと めた 結 果 を 省 レベルの 関 連 する 部 門 に 報 告 する ⑺ 特 設 ポスト 教 師 の 配 置 は, 比 較 的 集 中 させ, チームで 取 り 組 ませる 特 設 ポスト 教 師 の 配 置 は 当 該 地 域 のニーズに 注 意 を 払 う 必 要 があり, カリキュラムの 構 造 にしたがって, 配 置 する 管 理 を 容 易 にするために, 分 散 的 な 配 置 を 避 け, 比 較 的 集 中 した 配 置 を 行 う 一 般 的 には, 一 つ の 県 ( 市 )に100 名, 各 学 校 に3-5 名 を 配 置 する ⑻ 中 学 校 を 中 心 とするが, 小 学 校 にも 配 慮 する 特 設 ポスト 教 師 の 配 置 校 は 原 則 として 県 レベル 419

13 李 沐 子 添 田 祥 史 以 下 の 農 村 中 学 校 である 人 口 の 少 ない 国 境 付 近 の 県, 少 数 民 族 県 及 び 少 小 民 族 県 は, 県 中 央 部 の 中 学 校 であっても 農 村 部 の 学 生 が60%を 占 めていれば 配 置 を 認 める ⑼ 一 部 の 地 域 で 試 行 し, 徐 々に 展 開 する 計 画 はまず 一 部 の 地 域 で 試 行 し 徐 々に 広 げる 特 設 ポスト 教 師 は,2006 年 に2~3 万 名 と 設 定 され た 教 師 不 足 が 深 刻 な 地 域 と 国 家 西 部 地 域 両 基 堅 攻 計 画 の 対 象 地 域 において 実 験 地 域 を 設 定 して 行 う 2007 年 から2010 年 ま では,その 経 験 に 基 づいて,また 中 小 学 校 の 学 生 数 に 応 じて, 毎 年 の 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 募 集 数 を 設 定 する 中 央 政 府 財 政 部 は 実 際 に 採 用 された 人 数 に 応 じて 予 算 措 置 を 行 う 四. 特 設 ポスト 教 師 計 画 の 募 集 ⑽ 特 設 ポスト 教 師 の 募 集 は 公 募 で 行 い, 契 約 関 係 を 結 ぶ 契 約 書 には 雇 用 者 と 学 校 の 両 方 の 権 利 と 義 務 を 詳 細 に 記 入 しなければならない ⑾ 募 集 は, 省 レベルの 教 育, 人 事, 財 政, 編 弁 などの 関 連 部 門 が 行 う 募 集 は, 公 開, 公 平, 自 主, 択 優 ( 優 秀 な 人 材 を 選 ぶ) また 三 定 と 呼 ばれる 定 県, 定 校, 定 崗 の 原 則 に 従 う 実 施 の 手 順 は1 担 当 部 局 が 要 件 を 公 開 する,2 応 募 者 が 自 主 的 に 登 録 する,3 資 格 審 査 を 行 う, 4 試 験 を 実 施 する,5 研 修 を 行 う,6 資 格 を 認 定 する,7 契 約 を 結 ぶ,8 仕 事 を 始 める 募 集 は, 大 学 内 での 募 集,オンライン 募 集, 特 別 説 明 会 の 開 催 等, 多 様 な 方 法 を 用 いる ⑿ 応 募 条 件 1 高 等 師 範 学 校 と 一 般 大 学 の 新 卒 者 を 主 と し, 一 部 専 門 師 範 学 校 の 新 卒 者 2 教 師 資 格 を 有 し 教 育 実 務 経 験 がある30 歳 以 下 の 大 学 既 卒 者 3 大 卒 者 西 部 奉 仕 計 画 に 参 加 した 大 卒 者, もしくは 半 年 以 上 の 教 育 支 援 ボランティアの 参 加 経 験 のある 師 範 学 校 出 身 者 を 優 先 的 に 採 用 する 4 上 記 を 満 たし,かつ 農 村 ポスト 教 師 の 職 務 内 容 に 適 する 者 五. 計 画 と 関 連 する 保 障 政 策 ⒀ 特 設 ポスト 教 師 は 中 共 中 央 弁 公 庁 の 通 知 ( 中 弁 発 号 ) 及 び 人 事 部 等 によって 発 令 された 大 卒 者 は 農 村 地 域 の 教 育 農 業 医 療 と 貧 困 撲 滅 を 支 援 するに 関 する 通 知 ( 関 与 組 織 開 展 大 学 卒 業 生 到 農 村 基 層 従 事 支 教, 支 農, 支 医 と 扶 貧 工 作 的 通 知 )( 国 人 部 発 号 )の 各 優 遇 政 策 の 対 象 となる 各 省 ( 自 治 区, 直 轄 市 )は, 上 記 の 優 遇 政 策 を 具 現 化 しな ければならない ⒁ 農 村 学 校 教 育 学 修 士 育 成 計 画 と 関 連 づけ て,その 応 募 条 件 を 満 たす 特 設 ポスト 教 師 は, 推 薦 を 受 けて 修 士 進 学 試 験 が 免 除 される ⒂ 当 該 地 域 の 教 育 行 政 部 門 は, 特 設 ポスト 教 師 の 業 績 を 追 跡 的 に 評 価 し, 優 れた 業 績 を 挙 げた 者 を 表 彰 する 他 方 で, 特 設 ポスト 教 師 の 義 務 を 遂 行 しない 者 には, 教 師 という 仕 事 から 退 出 させ, 受 けてきた 優 遇 政 策 を 中 止 する ⒃ 各 省 ( 自 治 区, 直 轄 市 )は,3 年 間 の 契 約 期 間 を 満 了 した 特 設 ポスト 教 師 が 地 域 に 根 ざすこ とを 奨 励 する 政 策 と 措 置 を 検 討 し, 策 定 する 自 ら 留 まりたいという 特 設 ポスト 教 師 に 対 して は, 当 該 地 域 の 普 通 教 師 と 同 じ 待 遇 を 保 障 する 今 後, 都 市 部, 県, 鎮 の 中 心 部 にある 学 校 が 教 師 を 募 集 する 際 には, 特 設 ポスト 教 師 を 優 先 的 に 採 用 するように 努 めなければならない 特 設 ポスト 教 師 が 務 めた 地 域 は,その 者 が 新 しい 仕 事 を 探 すことに 対 して 必 要 な 支 援 と 便 宜 を 図 るように 努 めなければならない 西 部 地 域 ( 自 治 区, 直 轄 市 )においては, 計 画 実 施 と 同 時 に, 教 師 が 農 村 教 育 を 支 援 する ことを 推 進 し, 過 去 の 代 用 教 師 問 題 と 合 わせて 解 決 にむけた 具 体 策 を 検 討 すべきである 六.その 他 の 関 連 事 項 ⒄ 省 レベルの 行 政 機 関 は, 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 戸 籍 と 档 案 を 管 理 する 原 則 的 に, 档 案 は, 配 置 された 学 校 が 所 在 する 地 域 の 県 レベルの 教 師 人 事 档 案 管 理 部 門 が 管 理 する ⒅ 計 画 が 実 施 される 地 域 と 学 校 は, 農 村 特 設 ポスト 教 師 の 住 宅 及 び 生 活 環 境 を 整 備 に 努 め なければならない ⒆ 計 画 が 実 施 される 各 省 ( 自 治 区, 直 轄 市 ) は, 地 域 の 実 情 にあわせて, 具 体 的 な 実 施 計 画 を 作 成 し, 実 施 の 成 果 を 中 央 政 府 教 育 部 及 び 財 政 部 へ 報 告 しなければならない ⒇ 計 画 実 施 に 伴 う 解 釈 は, 中 央 政 府 教 育 部 及 び 財 政 部 が 行 う 420