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あおしねごろ
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1 東日本大震災と学生の社会意識の変化東日本大震災と学生の社会意識の変化大浦宏邦 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は巨大な被害をもたらすとともに日本人の社会意識に大きなインパクトを与えたと考えられる本稿では 2010 年 4 月と 2011 年 4 月に学生に実施したアンケート調査を用いてこの変化を具体的に把握することを試みる 1 データ筆者は 2004 年度から毎年新年度の 1 回目の授業で受講生に概ね同じ内容のアンケート調査を実施しているこれは定点観測を行うことで学生の社会意識の変化をつかむことを目的としたもので信頼社会貢献意識自信他人指向権威主義興味関心領域環境意識環境行動メディア意識メディア接触といった変数を測定しているこれらの調査からネット利用の急速な増大やテレビ視聴のゆるやかな減少が見られる一方各種の社会意識変数は比較的安定していることが明らかとなっているその中で 2011 年 3 月 11 日に東日本大震災が発生した震災は大きな被害をもたらしたがその一方でボランティアや社会貢献意識結婚などの絆を求める心理愛国心の高まりなどをもたらしたという指摘もなされている ( 池上 2011 内橋 2011 日経新聞産経新聞など ) こうした変化は学生に対する定点観測のデータのなかにどの程度認められるであろうか本稿では特に 2010 年 4 月のデータと 2011 年 4 月のデータを比較してこの点を検討することを試みる 2010 年 4 月の調査は社会環境論社会調査論大衆社会論アンケート作成法の受講者のうち第 1 回の授業に出席した男性 189 名女性 119 名 33

2 不明 1 名計 309 名について行った 2011 年 4 月の調査は同じ科目の第 1 回の授業に出席した男性 251 名女性 126 名不明 3 名計 380 名について行った 2 年生と 3 年生が主な受講者で 4 年生は少ない科目の違いによる有意差はほとんどの変数について認められなかったので以下では各科目の受講者をプールしたデータについて分析を行うことにする 2 関心度の変化震災前後のデータを比較するとまず興味関心領域について大きな変化が見られた興味関心領域は個人的関心事項と社会的関心事項のうち学生の関心の高そうな 24 項目について特に関心のあるものに関心のあるものに全く関心がないものにをつけてもらうという形式で測定している具体的には音楽野球サッカー漫画ゲームファッション流行映画テレビ旅行食べ物占い恋愛結婚人間関係健康就職景気の動き政治経済犯罪災害環境問題テロ戦争から複数回答で回答をしてもらった回答はを 4 点を3 点印なしを 2 点を1 点とコードして分析に使用した複数回答の形式で擬似的に4 件法のデータを得ることができるので質問紙のスペースが少ないときに便利な方法である表 1に2011 年 4 月の結果を示す表の値は特に関心ありと関心ありの割合の合計で, 関心ありと答えた割合を示す学生にとって最も関心が高いのは音楽で 83% ついで漫画が 73% さらに就職が70% ファッションが 70% と続いている震災の直後であるが関心事項の上位を見る限り震災の影は認められない被災地ではない首都圏の学生の実態であろうただし震災の影響が全く無いわけではない図 1に2010 年と 2011 年の間の各項目の関心あり ( との割合の合計) の割合の変化を変化の大きい項目順に示す最大の変化を示す項目は災害で 2010 年と比べて16ポイントの増加となっている次に増加が大きいのが環境問題 (10 ポイント増 ) で経済 (8ポイント増) やサッカー (6ポイント増) が 34

3 東日本大震災と学生の社会意識の変化表 2011 年 4 月の関心事項 n=380 音楽 83% 漫画 73% 就職 70% ファッション 70% 食べ物 67% テレビ 66% 映画 65% 人間関係 63% 恋愛 60% ゲーム 59% 旅行 57% サッカー 56% 環境問題 55% 健康 54% 災害 53% 景気 51% 流行 50% 野球 47% 結婚 44% 犯罪 44% テロ戦争 43% 経済 43% 政治 39% 占い 27% それについでいるこれらはいずれも統計的に有意な変化である未曾有の大震災発生による変化として災害への関心の高まりはきわめて順当なものであるちなみに 2008 年 2009 年は性格のビッグファイブ因子について質問を行ったので関心項目はきいていないそれ以前には地震について同様の質問をおこない 2006 年には 26% 2007 年には 12% の学生が地震に関心ありと答えていた 2010 年には項目を災害に変えて 37% の関心であったが地震より災害の方が広い概念なので関心の増加分の多くは概念範囲が広がった影響であろう過去における 2 割 3 割程度の災害関心の水準から見て 2011 年の 53% は破格の大きさであるといえるただ他の事柄の関心度と比較すると災害への関心は24 項目中 15 番目で決して高いものではない上位はさきに見たように音楽漫画就職ファッションといった項目で大震災や計画停電を経ても災害への関心は主要な関心事になっているわけではない震災の影響は巨大だが学生の関心構造を根本的に変えるものではないといえるだろう災害についで環境問題への関心が高まっているのは大量のがれきの発生や原発の事故が影響している可能性がある 2011 年のデータで環境問題への関心スコアと災害の関心スコアは相関係数で 0.52 の相関を持つので災害への関心の高まりが環境問題への関心を高めて 35

4 図 2010 年から 2011 年の間の関心量の変化いるのであろう経済への関心も災害への関心と 0.35 の相関を持つ震災の日本経済への影響が懸念されたこともあって学生の関心をひいたのかもしれないサッカーについては震災の影響ではない可能性が高い 2010 年の 4 月はワールドカップの南アフリカ大会前で日本代表チームの前評判は低く W 杯への関心もいまいちであったそれが蓋を開けてみると 1 次リーグ突破の快進撃で大いに盛り上がった余韻がサッカー関心の増加としてあとをとどめているのかもしないその他政治景気テロ戦争についても 3 ポイントほどの関心の増加が見られるが統計的に有意な違いではない関心が有意に減った項目としては結婚占い旅行がある震災後絆願望が高まり結婚件数が増えているという報道もあるが学生の意識では逆に結婚への関心は減ったようである災害への不安が結婚への意欲をそいでいるのかもしれないただ不安が原因とすると占いへの関心は高まってもよさそうなものあるがこれも減少している大きな災 36

5 東日本大震災と学生の社会意識の変化害を前にしてはテレビや雑誌の星座占いや血液型占いは色あせて見えるということかもしれない旅行に対する関心が減ったのは交通機関が寸断され計画停電でダイヤが乱れるのを目の当たりにして旅行する意欲がそがれた可能性が高いであろう当時みられた自粛ムードも若干は影響している可能性もある野球映画人間関係恋愛といった項目も 2 ポイントほど減っているが有意な変化ではないこうしてみると変化の見られない項目の方がずっと多くて 24 項目中の 17 項目 7 割に上っていることが分かる大きな震災であったものの学生の意識に与えた影響は限定的であったといえるであろう一方こうした項目と比較すると災害への関心の増加が巨大であることも分かる震災の社会意識に及ぼした影響は範囲は限定的だがその範囲内では巨大だったと考えられる 3 関心の構造の変化つぎに震災前後の関心の構造の変化を見るために 2010 年と 2011 年の関心マップを作成した 2010 年と 2011 年の関心のデータについてそれぞれ主成分分析を行い各項目の第 1 主成分得点を横軸第 2 主成分得点を縦軸にとって散布図を作成した関心の持たれ方が似通っている項目は似通った主成分得点を持つのでこのようにして作った散布図で近い位置にある項目同士は同じような人に関心を持たれていると考えられるたとえば 2010 年の関心マップを見ると真ん中の上方に政治と経済が並んでいるこれは政治に関心を持つ人と経済に関心を持つ人が似通っている言い換えると政治に関心を持つ人は経済にも関心をもっている可能性が高いしその逆も言えることを示しているちなみに項目名のあとの数字はその項目に関心を持つ人の割合で政治 36 は 36% の人が政治に関心ありと答えたことを意味する関心マップの右下に目を転じると流行ファッション恋愛結婚 37

6 図主成分得点による関心項目の散布図 (2010 年 ) 映画流行占い音楽テレビ食べ物人間関係といった項目が固まっているこれはこれらの項目に関心を持つ人が似通っていることを示しているしこれらの項目が政治や経済と遠くはなれた位置にあることから政治や経済に関心を持つ人と流行やファッションに関心を持つ人は大きく異なっていることがわかるこのような方法で 2010 年と 2011 年のマップをつくった結果まず 2010 年のマップでは真ん中上方に政治経済という社会全体にかかわる項目右下にファッション流行恋愛旅行音楽映画テレビ食べ物といった身近な人や娯楽に関わる項目が配置された前者を社会への関心後者を身の回りへの関心と呼ぶことができるであろう他の項目は概ねこの両者の中間に位置しているまず景気テロ戦争環境問題災害犯罪への関心が社会的関心の極からやや身近な関心よりの場所に位置している 38

7 東日本大震災と学生の社会意識の変化図主成分得点による関心項目の散布図 (2011 年 ) これらの事柄が社会的な要素を強く持ちながらも身近な要素も持つものとして意識されていることを示すと考えられるこれらよりもっと身近な関心よりの場所に就職と健康が位置している就職は身近な関心事ながら社会的な要素をもった事柄として認識されているためと考えられる健康も自分に関わることながら社会的な側面を持つ事柄と思われているのかもしれないゲームについての関心は社会的関心身近な関心の軸から大きく離れたところに位置しているこの場合のゲームはパソコンや据え置き型のゲーム機あるいは携帯ゲームなどのことを意味していると思われるがこれらのバーチャルな世界に対する関心の持たれ方は現実社会に対する 39

8 関心の持たれ方と大きく異なっているのであろうゲームと身近な関心対象の中間に野球漫画サッカーが位置しているがこれらもある程度のバーチャル性を持つ事柄として関心を持たれていると考えられるちなみに横軸の得点については政治経済も野球や漫画とほぼ同じ値を示している政治や経済も学生にとってはかなりバーチャルな存在なのであろうこのように 2010 年の関心マップでは横軸がリアルバーチャルの軸縦軸が社会的関心身近な関心の軸になっていると考えられるこの構造は 2011 年の関心マップでもほとんど変わっていない 2011 年のマップでも真ん中上方に政治経済が位置し右下方面にファッション流行食べ物恋愛など身近な関心事が位置しているそれらの中間にテロ戦争景気あるいは就職健康などが存在しているまたゲームが左側のバーチャル領域に存在することも共通しているこのように基本的な関心の構造は 2010 年も 2011 年も変わっていないことが確認できるがいくつか相違点もみられるまず占いが 2011 年では大きく左下に離れたところに移動した去年は身近な関心領域にあったのですが今年はよりバーチャルな事柄として関心を下げたのかもしれない結婚も去年より関心を下げながら左の方向に移動しているし野球もゲームの近くに移動している一方震災後に関心の増した災害と環境問題は去年に比べて右下に移動した去年は社会的な事柄としての位置づけが濃かったこれらの事柄がより身近でリアルな事柄として関心を集めるようになったと考えられるこれらに比べると結婚や野球はよりバーチャルな事柄として関心度が下げたと解釈できるだろうこのように主成分分析から推察される関心の構造に与えた震災の影響はやはり限定的である基本構造は維持しつつ災害や環境問題が身近でリアルな問題として関心を高めその分若干の項目がバーチャルな事柄として関心を下げたというのが震災が社会意識に与えたインパクトであると考えられる 40

9 東日本大震災と学生の社会意識の変化 4 社会貢献意識の変化次に震災前後における社会貢献意識の変化をみてみよう 2010 年 4 月調査と 2011 年 4 月調査で社会の役に立つ活動に寄付をする機会があればいくらぐらいしたいと思いますかという質問をおこなっているここではこの寄付意図金額を測度として社会貢献意識の変化をみることを試みる図 4に2010 年と 2011 年の寄付意図金額の分布を示す 2010 年は月 100 円程度 (25%) と月 500 円程度 (23%) にピークがある二山型の分布を示していたが 2011 年は月 100 円程度のピークが消えて月 500 円程度 (30%) をピークとする一山型の分布に変化した平均金額は 2010 年が月 433 円 2011 年が月 684 円で月 251 円の増加となった割合にすると 57% の増加で劇的な増加といえる 2010 年は 1 円も出したくないという人が 18% いたが 2011 年はそういう人が 9% となり半減した月 100 円程度という人も 25% から 12% とやはり半減している震災を受けて何もしないではいられないという心理が生じていると考えられるそれではどの程度貢献しようとしているのかというと月 500 円程度が23% から 30% へ 3 割の増加月 1000 円程度が 14% から 28% へほぼ倍増している月 2000 円程度も 2% から 5% へ倍増しているが絶対値としては大きくない多くの学生が月 500 円月 1000 円程度の貢献をしようと考えているようだこのあたりが上限なのであろう別の調査で学生が 1ヶ月に自由に使える金額をきいたところ平均 4.2 万円という結果が得られているこの数字を分母とするならば 2010 年の寄付意図金額 433 円は可処分所得の 1% ということになるこれが 2011 年には 684 円となり可処分所得の 1.6% に増加したことになる 6 割近い増加は大きいが可処分所得に占める割合は決して大きいとはいえない社会に対して通常時で 1% 程度非常時で 2% 弱の貢献意図を学生たちは持つことが推定できるこれはたとえば産経新聞の記事に見られるこれから取り組 41

10 図社会に役立つ活動に寄付したい金額の変化みたい社会貢献として節電が 69.3% 寄付つき商品を買いたいが 48.9% 寄付募金が 41.3% であった ( 全国 15 歳以上の 720 人を対象にネット調査 ) という結果とも整合的といえる自らのリソースの 1 2% 程度を使って無理なく行える社会貢献が選好されているのであろう 5 まとめ筆者が定期的に行っている学生を対象としたアンケートを用いて震災前後における学生の社会意識の変化の検討を試みたその結果災害や環境問題に対する関心が大きく増加する一方で結婚や占いに対する関心は有意に減少していたまた社会貢献意識については社会に役立つ活動に対する寄付意図金額に 6 割程度の増加がみられた一方主成分分析で得られた関心の構造には震災前後で大きな変化は見られず関心項目の 7 割については関心度に有意な変化が見られなかった最も関心のある項目は震災後も音楽や漫画であるまた寄付意図金額も可処分所得の 2% には達せず小さなレベルにとどまっている 42

11 東日本大震災と学生の社会意識の変化このように震災の影響で通常の世論変動によっては生じないような急激で大きな社会意識の変化が見られる一方でその影響は限られた範囲にとどまることが明らかになった震災で日本人の意識が根本的に変化したとする論調が見られることがあるがそれは過大評価である可能性がある今回みられた限られた範囲での巨大な変化を適切に評価することが後の日本社会を考察する上で重要であろう文献池上彰文藝春秋編東日本大震災心をつなぐニュース. 文藝春秋日本経済新聞やっぱり結婚震災で強まる絆志向産経新聞震災後の商品購入意識社会づくり重視 3 倍に内橋克人編大震災のなかで私たちは何をすべきか. 岩波新書 43

スライド 1

スライド 1 問 1 プロ野球への関心問 1-1 直接野球場に足を運ぶのは若い年代の性が多い実際に割合を見ると年代別性別共に差がことがわかる特に年代別では顕著な差が見られのほうが直接割合が高い n=110 27.3% 72.7% n=204 22.5% 77.5% n=155 n=135 14.8% 15.6% 85.2% 84.4% n=198 14.6% 85.4% n=400 18.5% 81.5%