海域 海洋保護区の効果と現状 向井宏 Marine Protected Area : the effects and the present Mukai, Hiroshi はじめに海洋の生物がいなくなったり 分布が変わったり 群集の組成が変化したり 漁業で獲られている魚や貝などが急激に減少したり 海

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1 海域 海洋保護区の効果と現状 向井宏 Marine Protected Area : the effects and the present Mukai, Hiroshi はじめに海洋の生物がいなくなったり 分布が変わったり 群集の組成が変化したり 漁業で獲られている魚や貝などが急激に減少したり 海洋の生態系が劣化もしくは悪化していると言われることが多くなった 生き物の変化だけではなく 海洋生物が棲んでいる環境が悪くなり もしくは無くなったりしている その大きい原因の一つは 開発という名の物理的な環境改変である 利用しやすい陸地を造成するための海の埋め立て 防災のためという海岸のコンクリート化などが 海洋環境の悪化を招き 海洋生物の絶滅を引き起こしている もう一つの原因は 漁業による乱獲が魚介類の極端な減少や地域的な絶滅を引き起こした また 養殖業は海域の環境を悪化させる結果を導いた それらの原因に海の水の水質悪化が重なっている 海洋の生態系は 漁業を通して食料としての水産物を供給してきた 海洋の生態系サービス (Millennium Ecosystem Assessment: ) は 食料だけではない そのほかにも 化学物質資源 観光資源 防災や運輸 そして気候への影響もある とくに気候に与える海洋の影響は きわめて大きい 海を見て心が癒されるという経験は誰もが持っているだろう 精神的な生態系サービスも実は大きい 海水浴や釣りなど そのほかにも多くの生態系サービスを人々は海から受け取っている その生態系サービスの生物に依存した面では 生産性と多様性がもっとも重要な生態系機能と言うことができよう 生産性と生物多様性が保証される海洋生態系が われわれの生活を考えるためにも 不可欠な海洋生態系機能と言うことができる その機能を保証するために われわれは何をしなければいけないか 海洋保護区 (Marine Protected Area) を設けて 人間の影響から生態系の劣化を防ぐ工夫が求められるようになってきた ここでは 海洋保護区の国内 国外の現状を紹介して 日本の海洋環境を守るために今後とるべき道を探ってみよう 1. 海洋保護区とは何か? 陸上海洋を問わず自然保護区について 世界自然保護連合 (IUCN) が設定したカテゴリーとして 以下のような管理目的別の分類がされている 1 むかいひろし ( 北海道大学名誉教授 京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授 )

2 カテゴリー 保護区の名称 管理の目的 Ia 厳正自然保護区 Strict Nature Reserve 主に科学的研究のみを目的とする管理 Ib 原生自然保護区 Wilderness Area 主に原生自然の保護を目的とする管理 II 国立公園 National Park 主に生態系の保護およびレクリエーションを目的とする管理 III 天然記念物 Natural Monument 主に特定の自然の特徴を保全するための管理 IV 生息地 種の管理区域 Habitat/Species Management Area 主に人間の管理介入を通じた保全のための管理 V 陸上 海洋景観保護区 Protected Landscape/Seascape 主に景観保全およびレクリエーションを目的管理 VI 資源保護区 Managed Resource Protected Area 主に自然資源の持続可能な利用を目的とする管理 この区分がもっとも適当かどうかはさておき 右欄のような保全のための管理が考えられている 2. 海洋保護区 (MPA) 設定へ向けての動き国際的な動向 1992 年リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議では 採択された アジェンダ2 1 で保護区の重要性がうたわれた その中に 海洋保護区を設けることにも言及している 同時に生物多様性条約 (CBD) が締結されて 日本も加盟した 現在では世界の 191 カ国が加盟しているが アメリカは未加盟 その条約には 保護地域の設定を柱とする生物多様性保全のための制度的な整備 をすることを要求した この CBD がこれ以降の世界の海洋保護区 (MPA) の転機をもたらしたと言って良いだろう MPA に関する論議がこれ以降盛んに行われるようになる 同じ年にカラカスで開かれた第 4 回世界公園会議では 海洋保護区について1 統合的管理を発展させる2 海洋保護区と陸域保護区の両方を主要なツールとすることが書かれたカラカス アクションプランが発表された 1994 年に海洋法条約が発効 その中に 海洋環境の保護および保全 が書き込まれた 21 世紀になって ミレニアム生態系評価が行われ 国際的に環境に関する動きが活発になってきた また IPCC による地球温暖化への警告があり 環境保全が国際的にも喫緊の課 2 むかいひろし ( 北海道大学名誉教授 京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授 )

3 題となった 2002 年に開催された 持続可能な開発に関するヨハネスブルグサミット (WSSD) の行動計画の中では 2012 年までに海洋保護区の設定 が明示された 2003 年には 第 5 回世界国立公園会議 ( 世界保護区会議 ) で 生態的に意義ある海洋保護区を公海上に少なくとも5つ指定すべきであると勧告が出され 2004 年の CBD の COP7 で 2012 年までに海洋を含む包括的効果的保護区制度を設置し維持すること を要求した これらは 2012 年目標 と呼ばれ 各国政府がそれを遵守することが求められている 世界各国における MPA の取り組みはどうか アメリカは CBD に加盟していないけれども MPA では先進国の一つである ハワイ周辺の海域では 広大な海洋保護区が設定された 現在は経過措置の期間であるが 数年後には漁業も禁止される海域が設定された またマーシャル諸島近海で世界最大規模の MPA が 2008 年に設定されている オーストラリアとカナダも MPA の先進国である オーストラリアはグレート バリアリーフに広大な MPA を設定するなど 世界でもっとも進んだ MPA 制度を持っている しかし 日本を始め アジア アフリカなどの途上国の国々は MPA の設定にはこれまでかならずしも積極的ではなかった 国内の動向日本国内では海洋保護区という考え方がこれまでほとんど無かったといって良い 2007 年 海洋基本法 が議員立法で制定された その付帯決議に 海洋の生物の多様性の保護のための海洋保護区の設置等 を講ずべきであることが書き込まれた 海洋基本法に基づき 海洋基本計画 が策定され 海洋保護区の設定のあり方を明確にした上で 設定を適切に推進する と明示された 2009 年 2 月 5 日中央環境審議会自然環境部会自然公園のあり方検討小委員会が 自然公園法の施行状況を踏まえた必要な措置について を答申した その中では 海域についてかなりの部分を割いている 現状と課題として 現在の措置では海域の保全を十分に担保できるものになっていないと批判し 今後講ずべき必要な措置として 漁業などの利用との調整や流域全体を視野に入れた保全を考えることを前提にして 国定 国立公園の区域指定の拡大を図り 海域に保護区を設定し 適切な管理を行うことを求めている とくに海域保全では別項を設けて 海中だけではなく干潟や砂浜のような海から陸に連続した保護 保全を取るように求めている この答申に基づいて 2009 年 3 月 4 日に自然公園法改正案が閣議決定された その改正案に 自然公園の中に陸上の特別保護区に対応する海洋特別保護区を設定できることが書き込まれたが 特別保護区を設定する上では 農水省との協議が必要となっている また 保護区が設置される以前から行われている産業上の行為については 何らの制限も受けないとされており 特別保護区の制定に大きいハードルがあるだけではなく 指定されたとしても大きい抜け穴がある 3 むかいひろし ( 北海道大学名誉教授 京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授 )

4 環境省では 2010 年に名古屋で開かれる生物多様性条約 (CBD) の COP10 に向けて 海洋保護区の設定と SATOYAMA イニシアティブを目玉にしようと考えており なんらかの保護区の設定に向けて動き始めている 自然公園法の改正はその一環だが 制度ができても実際に効果を持った海洋保護区が設置できるかどうかは これからの住民の運動にかかっていると言える それではこれまで日本では海洋の環境保全についてどのような取り組みがなされてきたのだろうか 諸外国の取り組みに比べて日本の海洋環境保全への取り組みは非常に遅れていると言わざるを得ない 国内の海洋環境に関する法律としては 後述する自然公園法などを除くと わずかに 1970 年の 水質汚濁防止法 くらいしかない 個々の海域について問題が起こった時点で対策をするために作った法律として 1973 年の 瀬戸内海環境保全特別措置法 や諫早干拓事業による大規模埋め立ての影響と見られる有明海のノリ養殖に甚大な被害が出たことを受けて 2002 年に作られた 有明海 八代海再生特別措置法 などがある 海岸法や港湾法はながらく環境対応をしていなかった 近年 ようやく環境との調和をうたった改正がなされているが その中身は法律には書かれていない 海洋基本法が議員立法で成立し その中に環境保全という言葉が書き込まれたのは画期的であったが どのようにそれを生かしていくかは まだ手探りの状態である 3. 国内の 海洋保護区 とその現状これまで日本では 海洋保護区 と言える法的制度は 自然公園法に基づく 国立公園 と 国定公園 がまず挙げられる 海に関しては 自然公園の仲の 海中公園地区 という名前で保護区が設定されてきた その数は 国立公園の中に全国で 79 ヶ所が指定され 国定公園の中には全国 69 ヶ所が指定されてきた しかし これまでの自然公園法による国立公園などによる 海洋保護区 の設定は 主として景観の保護を主要な観点としてきたこともあり すべて公園の普通地域という設定であったために 海洋生物の保護という意味ではほとんど効果が無かった 普通地域では規制がほとんどなく 開発行為も届け出制による行為規制のみが行われているに過ぎず ほとんど保護区としての効果は認められない 瀬戸内海国立公園がありながら これだけ多くの開発や埋め立てや海砂採取を認めており 水質の悪化は日本全国でも有数であったように 自然公園法の失敗例としてしばしば挙げられる これらの批判に答えることをも意図して 1971 年に施行された自然環境保全法に基づいて 海中特別地区 が導入された 海中特別地区では 建築物の建築 工作物の建築 宅地造成 海底の形状変更 土石採取 環境大臣が指定する熱帯魚 珊瑚等の捕獲 物の係留について 環境大臣の許可が必要とされている しかし 陸上の特別区域と異なって 海中特別区域では 漁具の設置その他漁業を行うために必要とされるもの については対象外とした そのために 漁業による環境の悪化や生物の減少 局地的絶滅には対応できない さらに 比較的厳しく自然保護を要求できる海中特別地区の指定には環境省も慎 4 むかいひろし ( 北海道大学名誉教授 京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授 )

5 重にならざるを得なかったようで これまでに指定されている海域は沖縄県西表島西部の 崎山湾一ヶ所だけである ほとんど人のいない海域に一つだけしか指定できなかったこと からわかるように この法律は事実上海洋保護区の設定に失敗してきたと言えるのではないだろうか 一方 水産資源を保護するために 水産資源保護法に基づく 保護水面 が各地に設置されてきた 保護水面とは 水産動物が産卵し 稚魚が生育し 又は水産動植物の種苗が発生するのに適している水面 と規定されており 農林水産大臣もしくは都道府県知事が設定する 一般に自然公園法の保護区に比べて規模がかなり小さい また 特定の資源生物のみを対象としており 生態系保全という視点はまったく入っていない 保護区の管理も漁業者に任されており 場所によっては密漁などによって意味が無くなっている場合もあるという それではなぜ日本では有効な海洋保護区が設定できないのだろうか その大きい理由は漁業権との関係が整理されていないことによる 日本では 沿岸の水産業に関してはその多くが漁業権漁業として規定されており その管理は漁業者自身 ( 漁業協同組合 ) に任せられてきた 漁業者は 漁業協同組合を通して様々な形で水産資源の有効利用とその資源保護にも取り組んできている 例えば 網目規制 漁獲サイズ規制などによって一定以下の稚仔は獲ることを規制したり 禁漁期を設定して 年間に数ヶ月だけ漁獲を認めたり 場所を指定して漁獲を禁止する禁漁区を設定したり 一日のうちの一定時間の操業だけを認めたりしている 豊漁で漁価が低迷した場合には 操業を減らして生産調整を行ったり 減船によって資源の保護を行う場合もある このように多様な形で水産資源の保護がなされてきており それが漁民自身の自主的な取り組みでなされてきたことは 日本の水産資源保護の歴史で特筆されることである このような漁民の自主的な保護の取り組みは それなりの効果をもたらすことも少なくなかった しかしながら それでも現在の沿岸も海洋も水産資源の減少が止まらない 見方によっては もはやこのような自主的な取り組みでは対応できない事態になっていると言うこともできるのかもしれない 昔は漁業によって種を絶滅に追いやることはあり得ないと考えられてきた なぜならば 漁業は経済行為であるから 資源が減少すればその種をとり続けることは経済的に成り立たなくなるので 漁獲をやめるはずである というのがその理由であった しかし 漁獲技術が格段の進歩をし 高性能の魚探をどのような小さな船でも備える時代には その理屈はもはや通用しなくなっている 最後まで取り尽くすことが可能になってきた そのもっとも顕著な例が捕鯨である 銛による捕鯨から大砲式を取り入れ 鯨の発見に電子機器や人工衛星まで駆使できる技術改革の結果 鯨類は絶滅するまで取り尽くすことができるようになった 漁民自身の主体的な取り組みで問題になるのは この保護の取り組みが科学的な根拠に基づかない 漁業者の勘と経験に基づいた取り組みであることだろう データや科学的な予測のない規制の場合は それゆえにその効果も明らかではない 規制を加えた後に資源 5 むかいひろし ( 北海道大学名誉教授 京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授 )

6 が増加した場合は その規制に効果があったと結論づけられることが多いが その規制が無くても増加したかもしれない 科学的な根拠の薄い規制では 効果的な保護政策をとることはいつまでも困難なままになる そしてもっとも問題なのは 漁業者自身による資源保護は 常に経済的な目的で行われることである 彼らはけっして資源生物の貴重さから保護をするものではない 経済的に利益がないと考えれば 保護をする動機は簡単に無くなるのである それゆえに 保護は特定の水産資源生物を対象とする 食べられない生物 お金にならない生物を保護しようとはならない また けっして生態系の保全や保護にはかれらのインセンティブは向かない それゆえに 漁業協同組合による自主的な保護の手法は 海域全体に網をかけるような海洋保護区の設定方法とは相容れない場合が多い そのために 漁業権漁業が行われている海域では 漁業者の反対によって海洋保護区を設定できなかったのである 設定した場合でも 漁業者の行為はすべて容認せざるを得なかったため 漁業者自身による自主的な漁業規制にさえも劣る保護区しかこれまでは設定できなかったのが現実である 海洋のうちでも沿岸の都市周辺の海岸域では 開発や防災との関係が問題になる 海岸の保全は 海岸法に基づいて行われるが 海岸法などでいう 保全 と環境 保全 という場合の 保全 では まったく意味が異なる 前者の保全は土木工事などによって海岸線を維持することを 保全 というのに対して 後者では土木工事などの開発行為を排除して自然の海岸を守ることを 保全 と言っているので 注意が必要である なぜなら 国交省などが受け持つ海岸管理には 最近まで 自然環境の保全 という概念はまったく入っていなかったから 保全 とは常に前者を指していた 海岸法は 津波 高潮 波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するとともに 海岸環境の整備と保全及び公衆の海岸の適正な利用を図り もって国土の保全に資することを目的とする と第 1 条に規定している もともと 海岸法の目的は 海岸の防護と国土保全にあり 環境 や 利用 の観点は入っていなかったが 環境破壊が目に余る海岸 保全 工事への批判から 1999 年に海岸法を改正し 防護 環境 利用が調和した海岸づくりを目指すように目的に加えられた しかし 現在でも海岸法に基づく様々な事業では 基本的に土木工事を中心に 自然再生 事業が行われており 沿岸域に海洋保護区を設定する方向には向いていない 土木工事による海岸 保全 を基本とする海岸法のさらなる見直しが MPA の設定には不可欠なのではないだろうか 4. 公海上の 海洋保護区 とその現状 1982 年国連海洋法条約 (UNCLOS) が締結される 2004 年の国連総会で 国家管轄権の区域を越える海洋の生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する問題を研究する ad hoc open endid working group の設置が決まった その後 2 度の会議が開催されている 6 むかいひろし ( 北海道大学名誉教授 京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授 )

7 MPA を直接扱った条約はまだ無い CBD の COP9(2007; ボン ) では 国連海洋法条約を基本として CBD が公海上の海洋保護区を設定に寄与すると言う合意が得られており 新しい条約を作るという動きにはなっていない 公海上の国際的な海洋保護区の最初の例は 国際捕鯨委員会 (IWC) によるインド洋保護区の設定 (1979 年 ) による商業捕鯨の禁止である 5. どのような保護区が必要か現状の保護区には既述したように多くの問題点を含んでいる 効果のある保護区があまりないのが現状であり 水産資源のみならず多くの海産生物が減少し 多様性が失われていることの歯止めになっていない 2010 年に生物多様性条約 (CBD) の締約国会議 COP10 が名古屋で開かれる そこで開催国の日本の姿勢が問われることになる 環境省は 今年 (2009)3 月に自然公園法を見直した改正案を閣議決定した これから国会に改正案が提出される 漁業者を説得させることができる持続的な利用を可能にする MPA を作るには 次のよう な点が考慮される必要があるだろう まず MPA 案に科学的な根拠を与えること 科学的 な調査に基づき 生物多様性や生産性への予測を行った上で MPA 案を示さねばならない そのためには 詳しい生物と地質 水文学的な調査を積み重ね 専門家会議による検討を おこない MPA 案をつくることが必要である MPA 案は これまでの自然公園の海域指定のように 海岸線から一定距離をすべて含む というような画一的な設定をしないことが重要である 海域のうち なるべく多くの海産生物 ( 有用生物を含む ) について その生活史 ( どこでどのくらいの期間何を食べてどのくらい生き残るか ) や他の種との相互関係を明らかにした上で それらの生活史を妨げないような利用の仕方と保護のあり方を考えた MPA が提案されるべきである さらに 沿岸生態系は陸からの水 栄養塩 有機物 土砂の流入に基づいて作られる複雑な生態系であることから 陸上の利用形態や環境改変が与える影響を考えれば 沿岸生態系の保全のために陸上の流域の主要な部分をも含んだ保護区が必要になる そのような広域環境管理システムによる統合的沿岸管理を目指さねばならない そのためには これまでの行政の縦割りを超える思考と行政努力が必要である 海洋基本法に基づいた一元的な行政対応を求められて内閣府に海洋政策本部が設置された 行政の縦割りの弊害をなくすための組織のはずであるが 実際は十分な人がおらず 大枠だけを決めて各省庁に実施を依存し さらに都道府県や市町村に下ろすという体制をとろうとしているようだ これでは省益による調整をしないという本来の目的をかなえることはできないし 海洋保護区の設定には 結局いままでのような省益のぶつかり合いで 何が海洋環境の保全にもっとも良い保護区のあり方かという議論ではなく 力の強い省庁の意見が通る構造が温存されてしまう懸念が強い 7 むかいひろし ( 北海道大学名誉教授 京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授 )

8 それでは MPA を設定するためにもっとも必要な住民や漁業者に納得させる説明を徹底 することはできない 住民 漁業者が納得する MPA をどうやって作るかは 行政主導では なく科学主導で行われるべきだろう おわりにこれまで等閑に付されてきた海洋の保全政策が ようやく動き始めたようだ しかし これまでの水産行政との整合性をとりながら進めるのでは なかなか進展が望めない 一方 水産資源の枯渇 減少も著しく 沿岸域においてこれまでとは異なった何らかの対策を立てないではいられない事態が迫っている 折からの温暖化の波も押し寄せており このままでは日本の水産業も危うい 今こそこれまでのやり方に固執しない新しい統合的な沿岸域の管理が求められている しかし その視点での日本の研究はほとんど無かったといって良いだろう 早急にこの分野の研究を進める必要がある また NGO による取り組みがいろんなレベルで始まっている 行政も研究者も NGO の活力をどのように取り込み 生かしていくか 研究や行政の取り組みを NGO や市民にどのように説明していくのか その間をつなぐ手法の向上も不可欠である 文献中央環境審議会自然環境部会自然公園のあり方検討小委員会 : 自然公園法の施行状況等を踏まえた必要な措置について ( 答申 ) 2009 年 2 月 5 日 pp.15 IUCN : Guidelines for protected area management categories. IUCN Commission on Natural Parks and Protected Areas with the assistance of the World Conservation Monitoring Centre. (1994) 田中則夫 : 海洋の生物多様性の保全と海洋保護区ジュリスト, 1365:26-35 (2008) 8 むかいひろし ( 北海道大学名誉教授 京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授 )

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