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1 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 から みた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 戴 二 彪 国 際 東 アジア 研 究 センター 主 席 研 究 員

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3 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 The Destination Choice Behavior of Foreign Tourists Visiting Japan:SomeImplicationsforPromotingtheMedicalTourismofKyushu 戴 二 彪 ( 国 際 東 アジア 研 究 センター 主 席 研 究 員 ) 目 次 Ⅰ. はじめに Ⅱ. 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 : 先 行 研 究 のレビュー Ⅲ. 本 研 究 の 所 用 データと 分 析 方 法 Ⅳ. 訪 日 アジア 観 光 客 の 推 移 と 旅 行 先 分 布 構 造 Ⅴ. 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 の 決 定 要 因 Ⅵ. 九 州 の 国 際 医 療 観 光 振 興 戦 略 への 提 言 Summary In 2009, the Kyushu Tourism Promotion Organization announced a plan to develop the entire Kyushu region as a special tourism zone for Asian tourists, while the medical tourism is expected to become one of the leading industries of this region. However, in term of the number of foreign visitors, Kyushu still ranked far behind the three Metropolitan Areas and Hokkaido region in Using a modified gravity model and the official data from the. Statistical Survey on Overnight Trip conducted annually by Japan Tourism Agency, this paper examined the underlying factors of destination choice of Asian tourists who visited Japan in 2010 and It is found that the size of tourist flow from a source country (region) to a destination prefecture is significantly affected by the number of source- country-born migrant residents in the destination prefecture, the travel time between two places, and two socio-economic variables of destination prefecture (Population Size and Per Capita GDP). In addition, compared

4 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 to the historic sites with oriental style buildings, natural sites in Japan seem to be more attractive to Asian tourists. Based on these analysis results, the author discussed the problems in Kyushu's strategy for promoting medical tourism and then made some corresponding suggestions

5 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 Ⅰ. はじめに 近 年 の 日 本 において, 経 済 の 低 迷 と 産 業 構 造 転 換 への 模 索 が 続 く 中, インバウンド 国 際 観 光 の 発 展 は 大 きく 期 待 されている 日 本 政 府 は, 2006 年 12 月 に 観 光 立 国 推 進 基 本 法 を 成 立 させた 地 域 経 済 の 活 性 化, 雇 用 機 会 の 創 出, 国 際 相 互 理 解 の 増 進 等 に 資 する 観 光 立 国 戦 略 は, 日 本 の21 世 紀 の 国 づくりの 柱 として 位 置 付 けられている( 観 光 庁 ホームページ, 2012) 政 府 の 観 光 立 国 戦 略 の 本 格 的 推 進 に 伴 い, 各 地 方 自 治 体 も, 外 国 人 観 光 客 の 誘 致 を 地 域 振 興 策 の 柱 の1つとして 重 視 しつつある 特 に, 13 億 の 人 口 を 有 する 新 興 経 済 大 国 中 国 をはじ め, 堅 調 な 経 済 成 長 を 維 持 し 続 けているアジア 諸 国 の 観 光 市 場 の 急 成 長 が 注 目 を 集 めている 2010 年 9 月 に, 九 州 各 県 や 経 済 界 でつくる 九 州 観 光 推 進 機 構 は 東 アジアの 医 療 ( 治 療 健 診 療 養 ) 観 光 拠 点 を 重 要 な 戦 略 目 標 とする 九 州 アジア 観 光 戦 略 特 区 構 想 を 打 ち 出 してい る 特 区 制 度 は 日 本 政 府 が 経 済 成 長 戦 略 として 力 を 入 れている 制 度 革 新 で, 九 州 がアジア 観 光 戦 略 特 区 として 認 定 されれば, 規 制 緩 和 や 九 州 とアジアの 連 携 の 促 進 によって, アジアの 成 長 活 力 をより 緊 密 な 形 で 九 州 に 取 り 入 れることが 期 待 できる しかし, こうした 期 待 が 高 まっているものの, 日 本 全 体 および 九 州 地 域 の 国 際 観 光 産 業 の 現 状 は 決 して 楽 観 できるものではない 訪 日 外 国 人 旅 行 者 全 体 におけるアジア 観 光 客 の 存 在 感 が 増 大 しつつあるとはいえ, アジアの 多 くの 国 地 域 にとって, 日 本 はまだ 最 重 要 な 観 光 目 的 国 になっていない たとえば, 2010 年 に, 中 国 は, アジア1 位 と 世 界 4 位 の 国 際 観 光 市 場 になり, 5,700 万 人 超 の 海 外 旅 行 者 を 世 界 140ヵ 国 に 送 り 出 しているが, その 中 で, 日 本 を 訪 問 した 中 国 人 旅 行 者 の 数 はわずか141 万 人 で, 全 体 の3% 未 満 にとどまっている 九 州 各 県 を 含 む 多 くの 地 方 自 治 体 では, アジア 観 光 客 の 誘 致 活 動 が 実 施 されているものの, 期 待 された 効 果 はまだ 十 分 に 現 れていない 2011 年 12 月 に 日 本 政 府 が 発 表 した 第 1 回 特 区 審 査 結 果 においても, 九 州 ア ジア 観 光 戦 略 特 区 は 認 定 されなかった 本 稿 は, 効 果 的 な 国 際 観 光 促 進 戦 略 の 策 定 のため, 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 に 着 目 し, その 旅 行 先 分 布 の 特 徴 と 影 響 要 因 を 明 らかにしたい 次 の 第 Ⅱ 節 では, 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 に 関 する 先 行 研 究 を 概 観 する 第 Ⅲ 節 では, 本 研 究 の 所 用 データと 分 析 方 法 を 説 明 す る 第 Ⅳ 節 と 第 Ⅴ 節 では, 訪 日 アジア 観 光 客 と 欧 米 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 の 特 徴 を 比 較 考 察 し たうえ, 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 の 影 響 要 因 を 検 証 する 最 後 の 第 Ⅵ 節 では, これらの 分 析 結 果 を 踏 まえて, 東 アジアの 重 要 な 医 療 観 光 地 を 目 指 している 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 につい て, いくつかの 提 言 をまとめる

6 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 Ⅱ. 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 : 先 行 研 究 のレビュー 1. 旅 行 先 選 択 行 動 に 関 する 研 究 のアプローチ 国 内 旅 行 や 国 際 旅 行 において, 観 光 客 の 旅 行 先 は 常 に 一 部 の 地 域 都 市 に 集 中 していると 観 察 されるが, こうした 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 ( 空 間 構 造 )は, 主 に 観 光 客 による 旅 行 先 選 択 (Destination Choice)の 結 果 と 言 える このため, 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 に 関 する 研 究 は, 従 来 から 観 光 研 究 における 中 心 分 野 の 一 つとして 重 視 されてきた(Henshall, Roberts, and Leighton, 1985; Woodside and Lyonski, 1989; Crompton,1992; Nicolau and Mas, 2006) 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 に 関 する 研 究 は 数 多 くあるが, 研 究 のアプローチによって, 1ミクロ データ( 観 光 客 を 対 象 とする 個 々の 調 査 票 における 記 入 データ)に 基 づく 研 究 と, 2 地 域 ( 旅 行 先 ) 別 観 光 客 数 統 計 など 集 計 データに 基 づく 研 究 の2 種 類 に 大 別 することができる ミクロデータに 基 づく 研 究 では, 個 々の 観 光 者 の 旅 行 先 選 択 行 動 に 着 目 し, 旅 行 先 イメージ の 形 成 から 旅 行 先 選 択 の 決 定 までの 諸 段 階 における 関 連 要 因 の 影 響 が 検 証 されている(Um and Crompton, 1990; Keating and Kriz, 2008) 集 計 データに 基 づく 研 究 と 比 べ, 観 光 者 の 個 人 属 性 ( 文 化 背 景, 価 値 観, 年 齢, 性 別, 収 入, 教 育, 職 業, など)が 特 に 重 視 されている この 種 の 先 行 研 究 においては, 旅 行 先 イメージの 影 響 要 因 に 関 する 研 究 と 旅 行 先 選 択 の 影 響 要 因 に 関 する 研 究 は 別 々に 行 われているケースが 多 いが(Um and Crompton,1990; Uysal and Jurowski, 1993; Beerli and Martin, 2004), 一 部 の 研 究 では, 観 光 者 の 旅 行 先 選 択 行 動 を, 旅 行 先 イメージの 形 成 と 旅 行 先 選 択 の 決 定, という2 段 階 から 構 成 される 過 程 と 見 なし, 旅 行 先 イメージの 形 成 が 旅 行 先 選 択 の 決 定 に 大 きく 影 響 している, と 考 えられている Keating and Kriz(2008)は, 旅 行 先 イメージの 形 成 は, 主 に, 観 光 者 の 価 値 観 旅 行 動 機 個 性 から 発 生 するプッシュ 要 因 (Push factors)と 旅 行 先 の 観 光 資 源 観 光 関 連 施 設 などで 構 成 されるプル 要 因 (Pull factors)に 共 同 で 規 定 されるが, その 後 の 旅 行 先 選 択 の 決 定 ( 実 施 )に 当 たって, 旅 行 先 イメージのほか, 観 光 者 の 所 得 水 準 職 業 教 育 年 齢 などの 内 部 調 節 要 因 (Internal moderators) と 観 光 者 の 社 会 ネットワークや 旅 行 費 用 など 外 部 調 節 要 因 (External moderators)からも 影 響 を 受 けている, と 主 張 している こうしたミクロデータに 基 づく 研 究 の 分 析 枠 組 みは, 観 光 者 の 旅 行 行 動 に 沿 って 構 築 される もので, 進 歩 しつつあるミクロデータの 解 析 手 法 を 用 いて 集 計 データにない 豊 富 な 情 報 を 活 用 すれば, より 深 みのある 分 析 結 果 を 得 ることができる しかし, ミクロデータに 基 づく 研 究 を 行 う 際, 調 査 コストの 高 さが 阻 害 要 因 となり, 調 査 サンプルの 過 小 によって 生 じる 分 析 結 果 の バイアスがしばしば 問 題 視 されている 一 方, 集 計 データに 基 づく 研 究 では, 観 光 客 の 旅 行 先 別 地 域 分 布 ( 即 ち, 観 光 客 全 体 またはそ の 一 部 の 平 均 的 な 旅 行 先 選 択 行 動 )に 着 目 し, 旅 行 者 の 出 発 地 属 性 と 目 的 地 ( 旅 行 先 ) 属 性 および

7 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 両 地 域 間 の 連 結 要 因 ( 距 離, 言 語 文 化 歴 史 のつながり, 政 治 経 済 関 係 など)の 影 響 が 重 視 される その 代 表 的 な 分 析 モデルは, グラビティ モデルである グラビティ モデルでは, 2 地 域 間 の 人 流 の 量 を 被 説 明 変 数 に, 出 発 地 と 目 的 地 の 人 口 規 模 (または 域 内 総 生 産 )および 地 域 間 距 離 を 説 明 変 数 としたものが, 基 本 モデルになる 関 連 実 証 研 究 では, 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 パターンに 対 して, こうした 形 のグラビティ モデルがかなり 高 い 説 明 力 を 有 する, としばし ば 報 告 されているが(Smith,1996; Khadaroo and Seetanah, 2008), 被 説 明 変 数 に 対 する 説 明 変 数 の 影 響 経 路 が 不 明 確 で, 分 析 結 果 の 政 策 へのインプリケーションが 明 瞭 ではないという 欠 点 もよく 指 摘 されている 要 するに, 地 域 間 客 流 量 は, 旅 行 者 の 出 発 地 属 性 と 旅 行 先 属 性 お よび 両 地 域 間 の 連 結 要 因 によって 規 定 される, というこの 種 のモデルの 基 本 的 な 考 え 方 は 広 く 受 け 入 れられているが, 政 策 インプリケーションのあるモデルを 構 築 するためには, 観 光 者 の 旅 行 先 選 択 行 動 に 直 接 的 に 影 響 を 与 える 要 因 を 取 り 入 れる 必 要 があると 思 われる 2. 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 に 関 する 先 行 研 究 近 年 では, インバウンド 国 際 観 光 振 興 への 日 本 政 府 日 本 社 会 の 取 組 みが 進 むにつれて, 訪 日 外 国 人 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 への 関 心 が 高 まっている 政 府 系 の 関 連 調 査 報 告 書 や 調 査 データが 定 期 的 に 公 表 されているとともに( 日 本 政 府 観 光 局, 各 年 ; 観 光 庁 ホームページ, 2012), 大 学 研 究 機 関 による 実 証 研 究 も 増 加 している( 戴, 2011) 戴 (2011)は, 主 に 観 光 庁 の 宿 泊 旅 行 統 計 調 査 における 都 道 府 県 別 外 国 人 観 光 客 延 べ 宿 泊 者 数 の 集 計 データに 基 づいて, 訪 日 中 国 人 観 光 客 の 旅 行 先 別 地 域 分 布 の 特 徴 と 影 響 要 因 を 回 帰 モデルで 検 証 した その 主 な 分 析 結 果 は 次 のように 要 約 できる (1) 中 国 人 観 光 客 は, 大 都 市 や 富 士 山 など 日 本 を 代 表 する 有 名 地 を 選 好 する 傾 向 が 強 く, 東 京 圏, 大 阪 圏, および 富 士 山 周 辺 数 県 ( 静 岡 山 梨 愛 知 )が 最 初 から 三 大 人 気 旅 行 先 と なっている (2) 大 都 市 圏 を 中 心 とする 三 大 人 気 旅 行 先 以 外 の 地 域 においても, 特 色 のある 自 然 環 境 ( 雪 国 ) の 魅 力 と 人 気 映 画 の 影 響 で, 北 海 道 の 知 名 度 が 急 上 昇 し, 第 4 位 の 人 気 旅 行 先 になってい る (3) 2009 年 と2010 年 の 都 道 府 県 別 中 国 人 観 光 客 延 べ 宿 泊 者 数 データに 基 づく 回 帰 分 析 の 結 果 から, 中 国 人 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 は, 主 に 地 域 の 知 名 度 と 小 売 業 売 上 額 で 表 す 地 域 の 商 業 繁 華 度 に 大 きく 影 響 されていることが 明 らかである 一 方, 国 内 で 東 洋 的 な 歴 史 文 化 遺 跡 を 見 る 機 会 の 多 い 中 国 人 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 に 対 して, 地 域 の 重 要 文 化 財 の 数 を 表 す 諸 変 数 の 影 響 は, 統 計 的 に 有 意 ではない また, 日 本 全 国 の 安 全 性 が 高 く, ホ テル 客 室 価 格 の 地 域 間 格 差 も 縮 小 しているためか, 地 域 の 安 全 性 やホテル 客 室 価 格 を 表 す 変 数 の 影 響 も 有 意 ではない

8 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 ただし, 戴 (2011)は 中 国 一 国 のみからの 観 光 客 の 訪 問 先 選 択 行 動 を 分 析 したもので, 同 研 究 で 用 いられたモデルには, 観 光 客 出 発 国 の 特 徴 や 出 発 国 と 旅 行 先 の 間 の 連 結 要 因 ( 空 間 距 離 や 各 種 交 流 関 係 など)が 反 映 されていない また, 地 域 知 名 度 など 指 標 の 測 定 値 は, 使 用 言 語 が 異 な る 国 の 間 では 単 純 に 比 較 できない 面 がある このため, アジア( 他 国 ) 観 光 客 の 行 動 を 分 析 する ためには, 分 析 モデルの 再 構 築 が 必 要 である Ⅲ. 本 研 究 の 所 用 データと 分 析 方 法 1. データ 訪 日 アジア 観 光 客 の 観 光 先 選 択 行 動 の 特 徴 と 影 響 要 因 を 解 明 するために, 全 国 範 囲 の 調 査 データが 必 要 である 日 本 政 府 観 光 局 (JNTO)が 毎 年 実 施 している 訪 日 外 客 訪 問 地 調 査 ( 日 本 政 府 観 光 局, 各 年 )は, 全 国 範 囲 のアンケート 調 査 であるが, 回 収 されたアンケート 表 に 記 入 されているミクロデータは, 一 般 研 究 者 に 公 開 されていない なお, 訪 問 目 的 の 多 様 化 と 観 光 市 場 の 細 分 化 段 階 では, ミクロデータに 基 づく 分 析 がより 重 要 であるが, 現 段 階 では, アジア からの 大 規 模 な 訪 日 旅 行 はまだ 開 始 されたばかりで, 集 計 データに 基 づく 分 析 の 方 が, 逆 に 全 体 像 をつかみやすいという 利 点 がある 外 国 人 観 光 客 対 象 とする 全 国 規 模 の 調 査 の 集 計 データに 関 しては, 上 述 したJNTOの 訪 日 外 客 訪 問 地 調 査 の 集 計 分 析 報 告 書 が 公 刊 されているほか, 観 光 庁 が2007 年 から 実 施 している 宿 泊 旅 行 統 計 調 査 ( 観 光 庁, 各 年 )( 主 な 海 外 観 光 市 場 =アジア8ヵ 国 地 域 と 欧 米 7ヵ 国 からの 外 国 人 観 光 客 も 調 査 の 対 象 )のデータも 公 表 されている JNTOの 調 査 と 比 べ, 観 光 庁 の 調 査 は, 調 査 対 象 標 本 数 が 遥 かに 大 きいだけでなく( 前 者 は, 標 本 数 は 数 千 人, 調 査 地 は8つの 国 際 空 港 と1つの 海 港 = 博 多 港 後 者 は, 従 業 者 10 人 以 上 の 宿 泊 施 設 で 宿 泊 する 訪 日 外 国 人 客 の 全 体 お よび 他 の 宿 泊 施 設 で 宿 泊 する 外 客 の 一 部 ), JNTOのアンケート 調 査 よりも 信 頼 性 が 高 いと 考 え られる データ 状 況 と 本 研 究 の 目 的 により, 本 章 では, 主 に 観 光 庁 の 宿 泊 旅 行 統 計 調 査 における 都 道 府 県 別 外 国 人 観 光 客 延 べ 宿 泊 者 数 の 集 計 データに 基 づいて, 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 別 地 域 分 布 の 特 徴 と 影 響 要 因 を 検 証 したい 2. 分 析 方 法 多 くの 先 行 研 究 で 検 証 されたように, 観 光 客 の 旅 行 先 別 地 域 分 布 は, 旅 行 者 の 出 発 地 属 性 と

9 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 旅 行 先 属 性 および 両 地 域 間 の 連 結 要 因 ( 距 離 など)によって 規 定 される 本 章 では, 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 別 分 布 構 造 とその 影 響 要 因 を 解 明 するために, 上 述 した 集 計 データと 次 の 回 帰 モデル( 修 正 グラビティ モデル)を 用 いた M ij = a 0 +a 1 P i +a 2 PGDP i +a 3 P j +a 4 PGDP j +a 5 NFL j +a 6 NBLD j +a 7 TSNOW j +a 8 D ij +a 9 R ij (1) ここで 1), M ij : 国 iから 地 域 j( 各 都 道 府 県 )の 年 間 延 べ 宿 泊 者 数 ( 人 泊 ) P i : 地 域 iの 総 人 口 ( 千 人 ) PGDP i : 地 域 iの 一 人 当 たりGDP( 米 ドル) P j : 地 域 jの 総 人 口 ( 千 人 ) PGDP j : 地 域 jの 一 人 当 たりGDP( 米 ドル) NFL j : 地 域 jの 空 港 に 到 着 する 国 際 便 数 / 週 ( 便 ) NBLD j : 地 域 jの 国 指 定 文 化 財 ( 歴 史 建 造 物 )の 数 TSNOW j : 地 域 jの 年 間 降 雪 天 数 ( 日 ) D ij : 国 iから 地 域 jまでの 通 常 旅 行 時 間 ( 時 間 ) R ij : 地 域 jに 在 住 する 国 i 出 身 者 の 数 ( 人 ) a 0 : 定 数 項 中 国 ( 一 国 のみ)から 日 本 47 都 道 府 県 への 客 流 の 分 布 を 考 察 した 戴 (2011)において 用 いられた モデルと 比 べ, 式 (1)では, 観 光 客 出 発 国 の 属 性 変 数 ( 人 口 規 模, 所 得 水 準 )が 加 えられた また, 各 国 観 光 客 の 観 光 動 機 行 動 が 異 なるので, 旅 行 先 の 地 域 属 性 および 出 発 国 と 目 的 地 の 連 結 要 因 を 反 映 する 変 数 もかなり 変 えた ただし, 式 (1)において, 戴 (2011)で 統 計 的 に 有 意 と 検 証 さ れた 観 光 先 の 商 業 繁 華 度 要 因 および ( 出 発 国 における) 観 光 先 の 知 名 度 要 因 が 明 示 されて いないものの, 説 明 変 数 地 域 jの 一 人 当 たりGDP と 説 明 変 数 地 域 jに 在 住 する 国 i 出 身 者 の 数 )が 入 っているので, 両 要 因 をだいたい 反 映 できると 思 われる 1) 各 説 明 変 数 のデータは, 基 本 的 に 総 務 省 統 計 局 (2011)における 道 府 県 統 計 と 国 際 比 較 統 計 による た だし, NFLjは 国 土 交 通 省 (2012), Rijは 財 団 法 人 入 管 協 会 (2011)による Dijはフリーバード 社 (2012)のデー タに 基 づいて 計 算

10 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 Ⅳ. 訪 日 アジア 観 光 客 の 推 移 と 旅 行 先 分 布 構 造 1. 訪 日 アジア 観 光 客 の 推 移 日 本 政 府 観 光 局 (JNTO)が 毎 年 発 表 する 訪 日 外 客 数 とは, 国 籍 に 基 づく 法 務 省 集 計 の 外 国 人 正 規 入 国 者 数 から 日 本 に 居 住 する 外 国 人 を 除 き, これに 外 国 人 一 時 上 陸 客 等 を 加 えた 外 国 人 旅 行 者 数 を 指 している 厳 密 に 言 うと, 発 表 される 訪 日 外 客 数 は, 1 観 光 客 (6~8 割 ), 2 商 用 客 (1~2 割 ), 3その 他 (1 割 程 度 ), の 三 部 分 から 構 成 されるが, その 全 体 の 数 を 広 義 の 訪 日 外 国 人 観 光 客 の 数 と 見 なしてもよい 本 節 では, この 訪 日 外 客 数 に 関 するJNTOの 統 計 に 基 づいて, 訪 日 アジア 観 光 客 の 動 向 を 考 察 する 訪 日 アジア 観 光 客 数 の 推 移 は, 東 アジアをはじめとするアジア 諸 国 の 経 済 発 展 に 伴 う 国 民 所 得 水 準 の 上 昇 や 各 国 のアウトバウンド 観 光 促 進 政 策 の 実 施 などの 要 因 のほか, 外 国 人 観 光 客 に 対 する 日 本 政 府 の 入 国 管 理 政 策 の 変 化 に 大 きく 影 響 される 過 去 10 年 間 に, 韓 国 台 湾 中 国 などの 旅 行 者 に 対 して, 日 本 のビザ 発 給 要 件 ( 観 光 ビザ 申 請 者 の 所 得 水 準 制 限 など)が 大 幅 に 緩 和 された こうした 国 内 外 の 変 化 に 伴 い, 訪 日 アジア 人 観 光 客 の 数 は 大 きく 伸 びており, 特 に 13 億 の 人 口 を 有 する 新 興 経 済 大 国 中 国 からの 訪 日 観 光 客 の 増 加 が 非 常 に 目 立 っている 訪 日 外 客 数 の 国 地 域 別 順 位 では, 中 国 が2007 年 に 米 国 を 抜 いて3 位 に 躍 進 し, 2010 年 にさらに 台 湾 を 超 え2 位 に 浮 上 した( 表 1) 訪 日 中 国 人 観 光 客 の 平 均 滞 在 時 間 が 長 く, 買 物 消 費 額 も 突 出 的 に 高 い( 日 本 政 府 観 光 局, 2010)といった 特 徴 を 合 わせて 考 えると, 日 本 にとって, 中 国 は 名 実 ともすでに 韓 国 に 次 ぐ2 番 目 に 大 きな 観 光 市 場 となっており, 徐 々に 最 大 の 観 光 市 場 になると 予 想 される 2) もちろん, 訪 日 アジア 観 光 客 規 模 は, 一 本 調 子 で 伸 び 続 けているわけではない アジアを 中 心 に 重 症 急 性 呼 吸 器 症 候 群 (SARS)の 感 染 が 拡 大 した2003 年 に, 日 本 などの 国 で 新 型 インフル エンザが 流 行 した2009 年 に 3), そして 東 日 本 大 震 災 放 射 能 漏 れ 事 故 があった2011 年 に, 訪 日 アジア 客 が 急 減 した また, 日 本 と 近 隣 国 の 外 交 関 係 または 国 民 間 感 情 が 悪 化 した 時 も, 同 様 な 減 少 傾 向 が 見 られる( 戴, 2011) 例 えば, 2010 年 9 月 に 中 国 漁 船 衝 突 事 件 が 起 きて 以 降 の 数 ヵ 月 間 に, 数 多 くの 訪 日 ツアーがキャンセルされ, 月 間 平 均 訪 日 者 の 数 は 事 件 発 生 前 の 半 分 以 下 に 急 減 した( 日 本 政 府 観 光 局, 2012) しかし, こうした 突 発 事 件 による 波 乱 があったもの の, その 影 響 はほとんど 一 時 的 なものにすぎなかった 2011 年 の 東 日 本 大 震 災 放 射 能 漏 れ ( 特 に 後 者 )による 影 響 は, 今 まで 最 も 深 刻 なものだったが, 長 い 目 で 見 ると, これも 短 期 間 の 波 乱 であろう 2010 年 7 月 に 実 施 された 中 国 全 土 の 訪 日 個 人 旅 行 の 解 禁 や2011 年 1 月 に 正 式 に 実 施 された 医 療 滞 在 ビザ ( 最 大 滞 在 時 間 :6ヶ 月 )の 新 設 など 制 度 改 革 効 果 の 現 れにつれて, 2) 延 べ 宿 泊 者 数 ( 単 位 : 人 泊 )ベースの 統 計 では, 2009 年 以 降, 中 国 人 観 光 客 の 年 間 延 べ 宿 泊 者 数 はすでに 韓 国 人 観 光 客 の 同 宿 泊 者 数 を 超 えている( 観 光 庁 ホームページ, 2012) 3) 2008 年 のアメリカ 発 の 世 界 金 融 危 機 による 影 響 も 大 きいと 見 られる

11 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 今 後, 訪 日 アジア 観 光 客 の 規 模 はさらに 大 きく 伸 びていくと 思 われる 表 1 訪 日 外 国 人 客 の 推 移 (1990~2011 年 ) 年 総 計 ( 人 ) アジア( 人 ) アジア(%) 韓 国 ( 人 ) 中 国 ( 人 ) 台 湾 ( 人 ) 香 港 ( 人 ) 米 国 ( 人 ) 1990 年 累 計 3,235,860 2,031, , , , , , 年 累 計 3,532,651 2,311, , , , , , 年 累 計 3,581,540 2,370, , , , , , 年 累 計 3,410,447 2,224, , , , , , 年 累 計 3,468,055 2,253, , , , , , 年 累 計 3,345,274 2,094, , , ,651 97, , 年 累 計 3,837,113 2,482, , , , , , 年 累 計 4,218,208 2,753, ,010, , , , , 年 累 計 4,106,057 2,539, , , , , , 年 累 計 4,437,863 2,832, , , , , , 年 累 計 4,757,146 3,048, ,064, , , , , 年 累 計 4,771,555 3,085, ,133, , , , , 年 累 計 5,238,963 3,417, ,271, , , , , 年 累 計 5,211,725 3,511, ,459, , , , , 年 累 計 6,137,905 4,208, ,588, ,009 1,080, , , 年 累 計 6,727,926 4,627, ,747, ,820 1,274, , , 年 累 計 7,334,077 5,247, ,117, ,675 1,309, , , 年 累 計 8,346,969 6,130, ,600, ,439 1,385, , , 年 累 計 8,350,835 6,153, ,382,397 1,000,416 1,390, , , 年 累 計 6,789,936 4,814, ,586,772 1,006,085 1,024, , , 年 累 計 8,611,500 6,528, ,439,764 1,413,097 1,268, , , 年 累 計 6,218,900 4,696, ,658,100 1,043, , , ,000 注 : 日 本 政 府 観 光 局 (JNTO)が 発 表 する 訪 日 外 客 数 とは, 国 籍 に 基 づく 法 務 省 集 計 の 外 国 人 正 規 入 国 者 数 から 日 本 に 居 住 する 外 国 人 を 除 き, これに 外 国 人 一 時 上 陸 客 等 を 加 えた 外 国 人 旅 行 者 数 を 指 している 出 所 : 日 本 政 府 観 光 局 (2012)のデータにより 作 成 2. アジア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 構 造 本 節 では, 観 光 庁 の 宿 泊 旅 行 統 計 調 査 における 外 国 人 延 べ 宿 泊 者 数 データを 用 いて, アジ ア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 の 構 造 と 特 徴 を 考 察 する 表 2は2011 年 のアジア8ヵ 国 ( 地 域 ) 観 光 客 の 延 べ 宿 泊 者 数 の 都 道 府 県 別 分 布 を 示 している 同 表 から, 次 のことが 分 かる (1) 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 構 造 は, ( 東 京 圏 と 関 西 圏 に 顕 著 に 集 中 している 欧 米 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 と 比 べ)やや 分 散 的 に 見 える 東 京 圏 と 関 西 圏 のほか, 富 士 山 ( 日 本 の 象

12 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 徴 ) 周 辺 数 県 ( 静 岡, 山 梨, 愛 知 ) 4), 独 特 の 自 然 環 境 を 有 する 北 海 道 ( 長 い 降 雪 期 )と 九 州 ( 温 泉 火 山 など)の 一 部 の 県 もアジア 観 光 客 の 人 気 旅 行 先 となっている また, 関 西 圏 は, アジア 観 光 客 と 欧 米 観 光 客 のどちらにとっても, 東 京 圏 に 次 ぐ 二 番 目 に 重 要 な 旅 行 先 であるが, 欧 米 客 は 文 化 古 都 京 都 を, アジア 客 は 買 い 物 しやすい 商 業 都 市 大 阪 をそれ ぞれ 選 好 している( 戴, 2011) (2) アジア8ヵ 国 ( 地 域 )の 内 部 においても, 国 ( 地 域 )によって, 旅 行 先 分 布 構 造 がかなり 違 う 雪 国 の 体 験 がほとんどない 低 緯 度 諸 国 地 域 (シンガポール, 台 湾, 香 港, マレーシア)の 観 光 客 にとって, 北 海 道 の 人 気 度 は 関 西 圏 の 大 阪 京 都 よりも 高 いが, 九 州 に 近 い 韓 国 の 観 光 客 にとって, 九 州 の 人 気 度 は 関 西 圏 に 近 いものである また, ほかの 国 地 域 と 比 べ, 中 国 タイ マレーシアの 観 光 客 の 場 合, 富 士 山 人 気 が 抜 群 的 に 高 く, 富 士 山 周 辺 数 県 で 宿 泊 する 割 合 がかなり 突 出 している (3) 2010 年 と 比 べ, 大 震 災 放 射 能 漏 れ 事 故 の 影 響 で, 2011 年 の 来 日 アジア 観 光 客 数 が 大 幅 に 減 少 したとともに, 旅 行 先 構 造 にも 変 化 があった 大 震 災 放 射 能 漏 れ 事 故 発 生 地 域 およびそれに 近 い 地 域 ( 東 北, 関 東, 中 部, 北 陸 )への 訪 問 の 割 合 が 減 少 したのに 対 して, 近 畿, 九 州, 北 海 道, 沖 縄 などの 同 割 合 が 上 昇 した( 表 3) 4) 一 部 の 国 ( 例 えば 中 国 )で 配 布 されている 現 地 旅 行 会 社 の 日 本 観 光 パンフレットでは, 大 阪 ( 関 西 国 際 空 港 ) 京 都 名 古 屋 富 士 山 東 京 千 葉 ( 東 京 ディズニーランド, 成 田 空 港 )といった 東 上 のルートか, または 逆 の 西 下 の ルートが ゴールデンルート( 黄 金 路 線 ) と 呼 ばれている このルートをたどることで, 買 い 物 から 名 勝 旧 跡 の 遊 覧 まで, 様 々な 経 験 ができるから, 訪 日 中 国 人 観 光 客 は, この 人 気 ルートを 選 択 し, 同 ルートにある 都 府 県 を 移 動 する 傾 向 が 強 い

13 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 表 2 アジア8ヵ 国 地 域 出 身 観 光 客 の 延 べ 宿 泊 者 数 の 地 域 分 布 (%, 2011 年 ) 韓 国 中 国 香 港 台 湾 シンガポール タイ マレーシア インド 8 国 ( 地 域 ) 合 計 全 国 ( 人 泊 ) 2,428,190 2,633,930 1,263,330 2,325, , , , ,830 9,793,790 北 海 道 青 森 県 岩 手 県 宮 城 県 秋 田 県 山 形 県 福 島 県 茨 城 県 栃 木 県 群 馬 県 埼 玉 県 千 葉 県 東 京 都 神 奈 川 県 新 潟 県 富 山 県 石 川 県 福 井 県 山 梨 県 長 野 県 岐 阜 県 静 岡 県 愛 知 県 三 重 県 滋 賀 県 京 都 府 大 阪 府 兵 庫 県 奈 良 県 和 歌 山 県 鳥 取 県 島 根 県 岡 山 県 広 島 県 山 口 県 徳 島 県 香 川 県 愛 媛 県 高 知 県 福 岡 県 佐 賀 県 長 崎 県 熊 本 県 大 分 県 宮 崎 県 鹿 児 島 県 沖 縄 県 出 所 : 観 光 庁 ( 各 年 )のデータにより 作 成

14 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 表 3 東 日 本 大 震 災 後 の 外 国 人 観 光 客 の 延 べ 宿 泊 者 数 の 地 域 構 成 の 変 化 アジア8 国 ( 地 域 ) 欧 米 7 国 2010 年 2011 年 増 減 2010 年 2011 年 増 減 全 国 合 計 ( 人 泊 ) 15,786,110 9,793,790-5,992,320 5,536,310 3,469,370-2,066,940 北 海 道 (%) 東 北 (%) 関 東 (%) 北 陸 信 越 (%) 中 部 (%) 近 畿 (%) 中 国 (%) 四 国 (%) 九 州 (%) 沖 縄 (%) 出 所 : 観 光 庁 ( 各 年 )により 作 成 Ⅴ. 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 の 決 定 要 因 本 節 では, 第 3 節 で 説 明 された 修 正 グラビティ モデルに 基 づいて 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 の 影 響 要 因 を 検 証 する 表 4と 表 5は, それぞれ2010 年 と2011 年 のアジア8ヵ 国 ( 地 域 ) 観 光 客 の 都 道 府 県 別 延 べ 宿 泊 数 データを 用 いて 行 った 回 帰 分 析 の 結 果 を 示 している この2つの 表 からは, 次 のことが 読 み 取 れる (1) 2ケースに 対 応 する 決 定 係 数 (0.61~0.67)が 示 すように, 本 研 究 に 用 いられたモデルは, アジア 観 光 客 の 観 光 先 分 布 の6~7 割 程 度 を 説 明 できると 考 えられる (2) アジア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 は, 旅 行 先 の 諸 属 性 ( 繁 華 度 を 反 映 する 一 人 当 たりGDP 変 数, 旅 行 先 の 人 口 規 模 変 数, 週 間 国 際 航 空 便 数 変 数 ), および 観 光 客 出 発 国 と 旅 行 先 の 間 の 連 結 要 因 ( 観 光 客 出 発 国 から 旅 行 先 地 域 までの 時 間 距 離 変 数, 訪 問 先 に 在 住 する 出 発 国 出 身 者 の 数 変 数 )に 大 きく 影 響 されている これら 要 因 の 中 でも, (P 統 計 値 が 示 している 通 り), 旅 行 先 地 域 に 在 住 する 出 発 国 出 身 者 の 数 による 影 響 は, 統 計 的 に 特 に 顕 著 である なお, 2011 年 のアジア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 に 対 して, 週 間 国 際 航 空 便 数 変 数 の 影 響 は 統 計 的 に 顕 著 でなくなったが, 大 震 災 放 射 能 漏 れ 事 故 の 影 響 で, 首 都 圏 は 国 際 航 空 便 数 が 多 いものの, 敬 遠 されたからであろう (3) アジア 観 光 客 に 対 して, 地 域 の 伝 統 文 化 を 示 す 歴 史 建 造 物 の 数 変 数 の 影 響 は 統 計 的 に 有 意 ではない 京 都 や 奈 良 など 伝 統 文 化 都 市 における 東 洋 的 な 名 勝 旧 跡 は, 類 似 するも のを 見 る 機 会 の 多 い 東 アジアの 観 光 客 にとってそれほど 魅 力 的 ではないからであろう 一 方 アジア 観 光 客 に 対 しては, 旅 行 先 の 年 間 降 雪 日 数 変 数 の 影 響 が 統 計 的 に 顕 著 で はないものの, プラスの 影 響 を 与 えている

15 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 表 年 のアジア8ヵ 国 ( 地 域 ) 出 身 観 光 客 の 観 光 先 分 布 に 関 する 分 析 結 果 被 説 明 変 数 : Mij2010= 地 域 ( 都 道 府 県 ) jを 訪 問 した 国 i 出 身 者 の 年 間 延 べ 宿 泊 者 数 ( 2010 年 ) 説 明 変 数 係 数 標 準 誤 差 t 統 計 値 P 値 Pi 地 域 iの 総 人 口 PGDPi 地 域 iの 一 人 当 たりGDP Pj PGDPj NFLj NBLDj 地 域 jの 国 指 定 文 化 財 建 物 の 数 TSNOWj 地 域 iの 年 間 降 雪 天 数 Dij Rij _cons 定 数 項 標 本 数 : 376; 決 定 係 数 ( R 2 ) : 出 所 : 著 者 の 分 析 結 果 により 作 成 表 年 のアジア8ヵ 国 ( 地 域 ) 出 身 観 光 客 の 観 光 先 分 布 に 関 する 分 析 結 果 被 説 明 変 数 : Mij2011= 地 域 ( 都 道 府 県 ) jを 訪 問 した 国 iから の 年 間 延 べ 宿 泊 者 数 ( 2011 年 ) 説 明 変 数 係 数 標 準 誤 差 t 統 計 値 P 値 Pi 地 域 iの 総 人 口 PGDPi 地 域 iの 一 人 当 たりGDP Pj PGDPj NFLj 地 域 jの 空 港 を 到 着 する 国 際 便 数 / 週 NBLDj 地 域 jの 国 指 定 文 化 財 建 物 の 数 TSNOWj 地 域 iの 年 間 降 雪 天 数 Dij Rij _cons 定 数 項 標 本 数 : 376; 決 定 係 数 ( R 2 ) : 出 所 : 著 者 の 分 析 結 果 により 作 成 注 意 すべきことは, アジアからの 個 人 訪 日 観 光 は, ようやく 一 部 の 国 で 本 格 化 した 段 階 で, 中 国 など 新 興 国 の 観 光 客 の 主 な 観 光 形 態 は 団 体 観 光 である したがって, 旅 行 先 の 選 択 を 含 む 観 光 ツアーの 企 画 決 定 に 当 たって, 団 体 旅 行 業 務 を 取 り 扱 う 各 国 国 内 の 旅 行 社 が 個 々の 旅 行 者 の 代 わりに 旅 行 先 を 選 択 しているケースがほとんどである もちろん, 旅 行 社 の 観 光 先 選 択 行 動 は, 基 本 的 に 各 出 発 国 ( 地 域 ) 所 在 国 の 大 多 数 の 観 光 客 の 旅 行 先 選 好 を 反 映 していると 言 え るが, 経 営 上 の 要 因 にも 影 響 されていると 見 られる 今 後, アジア 諸 国 の 経 済 発 展 と 個 人 訪 日 観 光 客 の 増 加 につれて, アジア 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 ( 旅 行 先 選 択 行 動 )は 徐 々に 変 化 すると 思 わ れるが, これについて 注 意 深 く 見 守 る 必 要 がある

16 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 Ⅵ. 九 州 の 国 際 医 療 観 光 振 興 戦 略 への 提 言 1. 九 州 の 国 際 医 療 観 光 産 業 の 発 展 ポテンシャルと 課 題 訪 日 アジア 観 光 客 の 数 は, 感 染 症 の 流 行 日 本 と 近 隣 国 間 の 外 交 摩 擦 東 日 本 大 震 災 などの 影 響 で 一 時 急 減 した 時 期 もあったが, 大 きな 流 れとして, 今 後 さらに 増 加 していくことは 間 違 いない 特 に, 九 州 地 域 は, 美 しい 自 然 環 境 と 日 本 一 の 温 泉 資 源, 優 れた 医 療 技 術 と 療 養 施 設, 及 び 東 アジアに 近 い 地 理 位 置 など 有 利 な 条 件 を 持 っており, 修 学 旅 行, スポーツ 訓 練 合 宿, 国 際 会 議 開 催, 環 境 モデル 都 市 観 光, 和 食 グルメツアー, など 通 常 の 観 光 分 野 の 他, 温 泉 療 養 健 康 診 断 精 密 治 療 を 特 色 とする 付 加 価 値 の 高 い 医 療 観 光 産 業 の 成 長 ポテンシャルも 非 常 に 高 い と 考 えられる このため, 前 述 したように, 九 州 では, 行 政 旅 行 関 連 会 社 医 療 機 関 が 連 携 して, 九 州 アジア 観 光 戦 略 特 区 構 想 を 打 ち 出 し, 東 アジアの 医 療 観 光 拠 点 を 目 指 してい る 九 州 アジア 観 光 戦 略 特 区 は, まだ 日 本 政 府 に 認 められていないものの, 九 州 地 域 内 各 自 治 体 は, アジア 客 を 主 要 対 象 とする 観 光 振 興 戦 略 を 実 施 し 始 めており, 特 に 医 療 観 光 産 業 に 対 して 大 きな 期 待 を 寄 せている しかし, 現 状 では, 東 日 本 大 震 災 をきっかけに, 日 本 の 他 の 地 域 と 比 べ, 国 際 観 光 市 場 におけ る 九 州 の 存 在 感 が 上 昇 しているものの, 九 州 を 訪 問 するアジア 観 光 客 の 規 模 はまだかなり 小 さ い 2011 年 の 外 国 人 延 べ 宿 泊 者 数 の 統 計 からみると, 訪 日 アジア 客 全 体 に 占 める 訪 九 (7 県 )ア ジア 観 光 客 の 割 合 は, 2010 年 の6.5%から 上 昇 したとは 言 え, まだ7.5%に 過 ぎなかった その 原 因 の 一 つは, アジア 客 の 観 光 地 選 択 行 動 はまだ 十 分 に 理 解 されていないからであろう 本 稿 の 第 4~5 節 の 分 析 結 果 は, もっぱら 医 療 観 光 者 を 対 象 とするものではないが, アジア 客 の 観 光 行 動 を 理 解 するためには 参 考 になると 思 われる これらの 分 析 結 果 および 一 部 の 国 ( 中 国 )の 国 際 旅 行 社 などから 聞 いた 現 地 観 光 客 の 要 望 に 照 らしてみると, 九 州 の 国 際 医 療 観 光 産 業 については, 次 の 課 題 があると 思 われる 1 九 州 の 知 名 度 はまだ 低 い 地 域 知 名 度 が 中 国 人 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 に 決 定 的 な 影 響 を 与 えていることは, 先 行 研 究 にお いて 確 認 されている( 戴, 2011) また, 本 研 究 においても, 地 域 知 名 度 変 数 をモデルに 明 示 していないものの, 観 光 客 出 発 国 における 旅 行 先 の 知 名 度 に 対 して 大 きく 影 響 していると 考 え られる 観 光 先 地 域 に 在 住 する 出 発 国 出 身 者 数 変 数 は, アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 に 顕 著 な 影 響 を 与 えていることが 判 明 した しかし, 九 州 はアジアに 最 も 近 い 日 本 の 地 域 ブロークであ るが, 医 療 観 光 市 場 の 最 重 要 ターゲットとされる 中 国 などアジア 諸 国 における 知 名 度 はまだ 三 大 都 市 圏 や 北 海 道 など 地 域 より 低 い( 戴, 2011) 2 東 アジア 医 療 観 光 拠 点 : 九 州 の 特 色 に 対 する 国 際 認 知 度 はまだ 低 い 九 州 各 県 や 経 済 界 でつくる 九 州 観 光 推 進 機 構 は, 未 来 の 九 州 を 東 アジアの 医 療 ( 治 療 健

17 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 診 療 養 ) 観 光 拠 点 ( 特 区 ) と 位 置 づけているが, その 特 色 は 鮮 明 ではない 最 近 の 中 国 語 のイ ンターネット 上 の 広 告 報 道 記 事 エッセイを 検 索 すると, 日 本 の 医 療 観 光 は 一 つのホット トピックとなっているが, 日 本 の 医 療 観 光 の 魅 力 について, 最 も 多 く 挙 げられているのは, 1 先 端 検 診 医 療 設 備 と 高 い 医 療 技 術, 2 ( 海 山 温 泉 青 空 新 鮮 な 空 気 安 全 な 食 品 など 構 成 される) 優 れた 自 然 環 境 療 養 環 境, の2 点 である しかし, これは, 日 本 全 般 に 対 する 評 価 であり, 九 州 に 対 するイメージは 必 ずしも 同 様 ではない そのうち, 2については, 九 州 の 素 晴 らしさが 認 知 されつつあるが, 1については, ( 東 京 大 阪 などと 比 べ) 九 州 に 対 する 認 知 度 はまだ 低 い 九 州 の 医 療 観 光 振 興 戦 略 では, 健 診 療 養 よりも, 治 療 を 重 視 しているよう だが, この 特 色 を 支 える 九 州 の 医 療 資 源 ( 優 れた 医 療 研 究 教 育, 豊 富 な 医 療 人 材, 先 端 医 療 施 設 など)について, 中 国 など 主 な 潜 在 市 場 に 向 けてもっと 積 極 的 にPRする 必 要 がある 3 医 療 観 光 産 業 の 発 展 において 重 要 な 要 素 の 一 つと 見 られる 言 語 サポート 環 境 についでは, 九 州 の 国 際 医 療 観 光 人 材 ( 通 訳 翻 訳, 患 者 出 身 国 言 語 または 国 際 公 用 語 の 英 語 を 自 由 に 使 える 医 者 看 護 士 行 政 職 員 法 律 関 係 者 )がかなり 不 足 していると 見 られる 九 州 を 含 む 日 本 各 地 は, 近 隣 の 韓 国 が 優 位 性 を 有 する 整 形 美 容 分 野 を 避 け, より 高 度 な 技 術 と 先 端 的 な 設 備 を 必 要 とする 治 療 を 最 重 要 な 推 進 領 域 と 位 置 付 けているが, 医 療 が 複 雑 化 するほど, 医 者 患 者 間 のコミュニケーション 及 び 言 語 サポート 環 境 が 重 要 になる 特 に, 日 本 の 医 療 観 光 の 最 重 要 市 場 と 見 なされている 中 国 の 医 療 観 光 客 から 見 ると, 中 国 圏 の 台 湾 シンガポールは, 九 州 ( 及 び 日 本 全 体 )と 比 べ, 少 なくとも 言 語 環 境 の 面 では 顕 著 な 優 位 性 を 持 っている そのうち, シ ンガポールは, アジアの 中 でも 早 い 時 期 から 国 際 医 療 観 光 を 推 進 しており, 豊 富 な 経 験 と 国 際 的 な 医 療 水 準 を 持 っている 一 方, 台 湾 では, 最 優 秀 な 学 生 が 医 学 を 志 向 する 伝 統 があり, 医 療 水 準 と 医 療 設 備 について 強 い 自 信 を 見 せている 最 近 では, 台 湾 の 医 療 機 関 行 政 観 光 事 業 者 が 連 携 して, 低 価 格 高 水 準 中 国 語 環 境 を 売 りに, 医 療 観 光 サービスを 中 国 市 場 および 諸 外 国 の 華 人 系 市 場 に 積 極 的 にPRしている こうしたPR 活 動 によって, 中 国 ( 本 土 )における 台 湾 の 医 療 観 光 への 関 心 が 急 速 に 高 まっている( 表 6) 表 6 中 国 における 東 アジア 諸 国 ( 地 域 )の 医 療 観 光 への 注 目 度 観 光 先 中 国 語 キーワード タイトルにキーワードが 含 まれるページ 数 韓 国 韩 国 医 疗 观 光 1,860 台 湾 台 湾 医 疗 观 光 1,230 泰 国 泰 国 医 疗 观 光 949 日 本 日 本 医 疗 观 光 819 シンガポール 新 加 坡 医 疗 观 光 30 香 港 香 港 医 疗 观 光 27 注 : この 表 における 数 値 は, 当 該 キーワードがタイトルに 含 まれる 簡 体 字 中 国 語 ウェブページの 数 であり, 2012 年 7 月 20 日 に 中 国 語 最 大 手 検 索 エンジン 百 度 で 検 索 した 結 果 である 出 所 : 筆 者 作 成

18 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 4 九 州 及 び 日 本 の 医 療 観 光 戦 略 では, 中 国 の 裕 福 層 を 主 要 ターゲット 市 場 としているが, 中 国 の 場 合, 一 部 の 職 業 の 所 得 状 況 は 不 透 明 なので, 富 裕 層 という 概 念 は 非 常 に 曖 昧 である 大 雑 把 にいうと, 中 国 の 裕 福 層 は, 体 制 内 と 体 制 外 の2グループに 分 けることができ る 前 者 は, 主 に 政 府 機 関 幹 部 ( 中 上 級 公 務 員 ), 国 有 企 業 幹 部, 国 公 立 教 育 研 究 医 療 文 化 機 関 などの 管 理 者 上 級 専 門 技 術 者 から 構 成 され, 後 者 は 主 に 民 間 企 業 経 営 者, 芸 能 人, 外 資 系 企 業 の 幹 部 職 員 と 上 級 専 門 技 術 者, 海 外 華 僑 華 人 の 親 戚 などから 構 成 される 先 進 諸 国 と 比 べ, 中 国 全 国 の 平 均 医 療 水 準 はまだ 高 くないが, 多 くの 大 中 都 市 における 主 要 医 療 機 関 で は, 医 療 設 備 も 医 師 の 医 療 技 術 も 先 進 国 並 みの 水 準 に 達 している 問 題 は, こうした 高 水 準 の 医 療 サービスを 受 ける 機 会 は 平 等 ではないことである 1980 年 代 以 降 の 医 療 産 業 の 市 場 化 に 伴 い, 低 所 得 の 一 般 庶 民 は, 高 水 準 ( 高 価 )の 医 療 サービスにほとんどアクセスできなくなって いるに 対 して, 体 制 内 富 裕 層 は, ( 批 判 を 受 けながら), 計 画 経 済 体 制 時 代 のままで, 無 料 ま たは 低 料 金 で 最 高 水 準 の 医 療 サービスを 受 けている 一 方, 体 制 外 富 裕 層 は, 同 じ 水 準 の 医 療 サービスを 受 ける 場 合, 先 進 国 なみないしそれ 以 上 の 医 療 代 を 支 払 う 必 要 がある 九 州 ( 及 び 日 本 )の 医 療 観 光 に 注 目 してくれるのは, 主 にこれら 体 制 外 富 裕 層 だと 思 われる 5 九 州 の 経 済 規 模 人 口 規 模 が 相 対 的 に 小 さいので, 高 水 準 の 商 業 施 設 や 文 化 娯 楽 施 設 は 三 大 都 市 圏 ほど 多 くない 観 光 客 の 滞 在 時 間 を 長 くさせるためには, 各 種 観 光 資 源 の 開 拓 と 魅 力 的 な 観 光 コースの 開 発 が 必 要 である 6 国 際 交 通 の 便 利 さについて, 九 州 は, 徐 々に 改 善 されているが, 日 本 国 内 の 三 大 都 市 圏 や 韓 国 のソウル 首 都 圏, シンガポール, などにはまだ 及 ばない 医 療 観 光 を 含 む 九 州 の 国 際 観 光 全 般 を 促 進 するためには, 福 岡 空 港 を 中 枢 とする 九 州 の 国 際 国 内 交 通 ネットワークの 強 化 が 必 要 である 2. 九 州 の 医 療 観 光 振 興 戦 略 への 提 言 アジア 客 の 観 光 先 選 択 行 動 に 関 する 分 析 結 果 および 九 州 の 現 状 における 問 題 点 から 考 える と, 九 州 にとって, アジアの 観 光 市 場 ( 医 療 観 光 市 場 など)を 開 拓 するためには, 次 の 対 策 が 特 に 重 要 と 思 われる 第 1に, 九 州 在 住 アジア 出 身 者 の 活 用 によって 地 域 知 名 度 を 上 げる アジア 諸 国 における 九 州 の 知 名 度 を 上 げるためには, まず 日 本 の 九 州 でしか 見 られない 体 験 できないこと( 例 え ば, 熊 本 の 阿 蘇 活 火 山, 別 府 の 温 泉 群, 北 九 州 のエコタウン, 九 州 各 地 の 多 彩 な 祭 り)を 各 国 へ 積 極 的 にPR( 紹 介 )する 必 要 がある そして, 効 果 的 なPRを 行 うためには, 九 州 在 住 のアジア 出 身 者 ( 特 にインターネットを 通 じて 頻 繁 に 日 本 に 関 する 情 報 を 出 身 国 へ 発 信 する 留 学 生 )を 地 元 の 国 際 観 光 推 進 役 として 活 用 すべきである 日 本 九 州 とアジア 諸 国 間 の 未 来 関 係 の 構 築 発 展 における 留 学 生 のかけ 橋 としての 役 割 を 考 えると, 九 州 地 域 は, アジア 留 学 生 の 受 け 入 れ 規

19 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 模 の 拡 大 にさらに 力 を 入 れる 必 要 がある なお, PR 策 として, 北 海 道 の 例 は 参 考 に 値 する 中 国 語 圏 諸 国 地 域 における 北 海 道 の 知 名 度 急 増 のきっかけは, 人 気 映 画 のロケ 地 となったことであるが, 九 州 には, アジアの 低 緯 度 国 観 光 客 に 好 かれる 雪 国 風 景 こそあまりないものの, 温 泉 海 火 山 のほか, 東 アジアの 近 代 史 を 語 るときに 欠 かせない 日 清 講 和 の 会 場 遺 跡 ( 下 関 の 日 清 講 和 記 念 館 )や 古 代 中 国 から 日 本 への 壮 大 な 人 的 交 流 を 想 像 させる 徐 福 上 陸 遺 跡 ( 佐 賀 の 徐 福 長 寿 館 )などがあり 5), 各 ジャ ンルの 映 画 ドラマのロケ 地 になりえるところがかなり 多 い 九 州 を 舞 台 とするアジア 映 画 ドラマの 撮 影 チームに, ロケ 地 の 提 供 などについて 協 力 すれば, 予 想 以 上 のPR 効 果 が 得 られる 可 能 性 がある 第 5 節 で 分 析 したように, 日 本 における 一 般 的 な 歴 史 建 造 物 など 歴 史 文 化 系 観 光 資 源 に 対 するアジア 観 光 客 の 関 心 度 は, 欧 米 観 光 客 ほど 高 くない しかし, 映 画 ドラマ( 特 に 観 光 客 出 身 国 と 関 連 するもの)のロケ 地 などになると, 単 純 な 歴 史 建 造 物 にストーリ 性 と 親 近 感 が 加 わり, 当 該 地 域 の 知 名 度 と 魅 力 がともに 大 きく 向 上 すると 考 えられる 第 2に, 日 本 全 国 の 各 種 医 療 観 光 推 進 機 構 と 連 携 して, 日 本 と 九 州 の 高 い 医 療 技 術 と 医 療 施 設 をアジアなど 海 外 諸 国 に 積 極 的 にPRする 九 州 では, 一 部 の 医 療 機 関 ( 例 えば, 心 臓 カテーテ ル 手 術 などの 分 野 で 国 際 的 に 高 く 評 価 されている 小 倉 記 念 病 院 )はすでに 中 国 ( 遼 寧 省 )の 有 力 病 院 で 院 内 医 院 を 設 けているが, 広 く 知 られるためには, インターネットや 映 画 ドラマなど よりパワフルなメディアを 活 用 するべきである なお, こうしたPRを 通 じて, PR 対 象 国 から の 反 応 需 要 を 収 集 分 析 しながら, 九 州 の 医 療 観 光 の 特 色 を 徐 々に 明 確 しなければならな い 美 しい 自 然 環 境 日 本 一 の 温 泉 地 長 寿 地 域 といった 九 州 のイメージが 東 アジ アに 定 着 しつつあるので, 治 療 検 診 療 養 の3 分 野 のうち, 順 番 として, まず 療 養 検 診 を 重 点 的 に 推 進 すべきであろう 東 アジアの 療 養 観 光 拠 点 としての 九 州 の 知 名 度 が 上 がれば, 高 度 な 先 端 医 療 技 術 を 有 する 九 州 の 国 際 治 療 観 光 事 業 も 徐 々に 拡 大 できると 考 えられる 第 3に, 医 療 観 光 を 含 む 九 州 の 国 際 観 光 戦 略 を 効 率 的 に 推 進 するために, 重 要 な 市 場 ターゲッ トに 絞 ってPR 活 動 マーケティング 活 動 を 展 開 する 例 えば, 中 国 の 場 合, 現 行 の 医 療 福 祉 制 度 が 改 革 されない 限 り, 当 面, 体 制 外 富 裕 層 ( 民 間 企 業 経 営 者, 外 資 系 企 業 幹 部 職 員 専 門 技 術 者, 芸 能 人, 華 僑 華 人 の 親 戚 など)を 主 要 ターゲットにすべきである 中 国 語 サポート 環 境 がまだ 十 分 に 整 備 されていない 現 段 階 では, 日 本 語 日 本 文 化 を 理 解 する60 万 人 超 の 在 日 中 国 人 移 民 の 親 戚 関 係 者 及 び 数 万 社 に 達 している 在 中 日 系 企 業 中 国 人 管 理 職 経 験 者 ( 数 十 万 人 ) が 特 に 重 要 なマーケットになると 考 えられる 5) 中 国 の 史 記 では, 徐 福 は, 2,200 年 前 の 中 国 ( 秦 の 時 代 )に 生 まれた 人 物 で, 秦 始 皇 ( 中 国 を 統 一 した 始 皇 帝 ) の 許 可 を 得 て, 不 老 不 死 の 薬 を 探 すために, 五 穀 や 技 術 工, 3,000 人 の 若 者 をひきつれて 大 船 団 で 東 海 にある 蓬 莱 の 島 への 旅 に 出 たが, 中 国 に 戻 らなかった, と 記 載 されている ここの 蓬 莱 の 島 は 日 本 を 指 していると 見 ら れるが, 日 本 全 国 には, 青 森 から 鹿 児 島 まで 徐 福 伝 説 が 約 30ヵ 所 ある その 中 で, 佐 賀 は, 徐 福 船 団 数 千 人 の 中 の 多 数 が 上 陸 した 場 所 である 可 能 性 が 高 いと 指 摘 されており, 現 在, 県 内 の 金 立 町 にある 徐 福 長 寿 館 を 訪 ねる 中 国 人 日 本 人 観 光 客 が 増 えつつある( 佐 賀 市 徐 福 長 寿 館, 2012)

20 第 12 號 海 峽 圈 硏 究 第 4に, 医 療 観 光 客 をできるだけ 九 州 で 長 く 且 つ 快 適 に 滞 在 させるために, 九 州 特 色 のブラ ンド 観 光 コースの 開 拓 と 造 成 が 必 要 である 第 5に, 医 療 観 光 者 の 親 族 など 関 係 者 が 頻 繁 的 に 出 入 国 する 可 能 性 があるので, より 便 利 な 国 際 国 内 交 通 ネットワークの 整 備 が 必 要 である なお, アジア 諸 国 において, 日 本 はアジアの 最 先 進 国 であるというイメージがあるので, アジアの 流 行 をリードする 日 本 でのショッピング は, 来 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 活 動 の 重 要 な 一 環 である ただし, 九 州 では, 三 大 都 市 圏 と 比 べ, 大 型 商 業 施 設 と 専 門 店 の 数 が 相 対 的 に 少 ない このため, 今 後, 日 本 製 の 人 気 商 品 と 九 州 の 地 域 特 色 を 反 映 できる 観 光 記 念 品 を 集 中 的 に 購 入 できる 商 業 施 設 の 増 設, およびこれら 施 設 のブ ランド 化 が 必 要 である 参 考 文 献 観 光 庁 ( 各 年 ) 宿 泊 旅 行 統 計 調 査 ( 国 土 交 通 省 (2012) 平 成 22 年 空 港 管 理 状 況 調 書 ( 財 団 法 人 入 管 協 会 (2011) 在 留 外 国 人 統 計 佐 賀 市 徐 福 長 寿 館 (2012) 徐 福 百 科 ( 総 務 省 統 計 局 (2011) 日 本 統 計 年 鑑 2011 戴 二 彪 (2011) 訪 日 中 国 人 観 光 客 の 旅 行 先 分 布 と 影 響 要 因 訪 日 中 国 人 の 旅 行 先 選 択 行 動 (ICSEAD 調 査 報 告 書 10-07) 国 際 東 アジア 研 究 センター,pp.1-29 日 本 政 府 観 光 局 (2012) 訪 日 外 客 統 計 ( data.html) 日 本 政 府 観 光 局 ( 各 年 ) JNTO 訪 日 外 客 訪 問 地 調 査 (2009, 2010, 2011)( 財 ) 国 際 観 光 サービス センター 発 行 フリーバード 社 (2012) オンライン 国 際 線 時 刻 表 ( Beerli, A., and Martin, J. (2004). Factors influencing destination image. Annals of Tourism Research, 31(3), Crompton, J. (1992). Structure of vacation destination choice sets. Annals of Tourism Research, 19(3), Henshall, B., Roberts, R., and Leighton, A. (1985). Fly-drive tourists: Motivation and destination choice factors. Journal of Travel Research, 23(3), Keating, B. and Kriz, A. (2008). Outbound tourism from China: Literature review

21 訪 日 アジア 観 光 客 の 旅 行 先 選 択 行 動 からみた 九 州 の 医 療 観 光 戦 略 の 課 題 と 対 策 and research agenda, Journal of Hospitality and Tourism management, 15(2), Khadaroo, J. and Seetanah, B. (2008). The role of transport infrastructure in international tourism development: A gravity model approach. Journal Tourism Management, Vol.29, No.5, Nicolau, J. and Mas, F. (2006). The influence of distance and prices on the choice of tourist destinations: The moderating role of motivations. Tourism Management, 27(5), Smith, S. L. J. (1996), Tourism Analysis: A Handbook, Longman, Harlow Um, S., and Crompton, J. (1990). Attitude determinants in tourism destination choice. Annals of Tourism Research, 17(3), Uysal, M., and Jurowski, C. (1993). An empirical testing of the push and pull factors of tourism motivations. Annals of Tourism Research, 21(4), Woodside, A., and Lysonski, S. (1989). A general model of traveler destination choice. Journal of Travel Research, 27(4),

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