紀要　Ｖｏｌ　６.indb

Transcription

1 関 西 医 療 大 学 紀 要, Vol. 6, 2012 総 説 ヨモギの 抗 酸 化 作 用 についての 研 究 戸 田 静 男 関 西 医 療 大 学 保 健 医 療 学 部 要 旨 ヨモギ Artemisia vulgaris L. var. indica Maxim(=A. dubia Wall.)は キク 科 ヨモギ 属 の 植 物 である ヨモギは 世 界 各 国 に 生 息 している 草 で 主 に 野 山 に 広 く 分 布 している 多 年 草 であることから 雑 草 のごとく 生 息 しているといって もよいであろう このことから ヨモギは 多 面 的 な 要 素 を 持 ったかなりの 高 度 な 機 能 を 持 った 進 化 した 植 物 といえよう ヨモギは 古 来 より 葉 を 食 用 薬 用 美 容 灸 など 色 々な 方 面 で 用 いられてきた ヨモギのような 植 物 の 葉 が 光 合 成 によ り 酸 素 を 放 出 するようになったことから 空 気 中 に 酸 素 が20% 含 有 するようになった その 酸 素 を 動 物 は 利 用 して 莫 大 なエネルギーを 得 るようになった しかし 酸 素 による 様 々な 障 害 の 存 在 が 見 いだされた 酸 素 は ラジカル 化 して 遊 離 基 の 活 性 酸 素 となる 活 性 酸 素 は 脂 質 たんぱく 質 糖 質 のような 生 体 物 質 を 障 害 する そのことが 種 々の 疾 患 の 原 因 ともなる このようなことから 酸 化 ストレスという 語 句 がよく 用 いられる しかし ヒトは 酸 化 ストレス 障 害 を 防 御 するシステムや 抗 酸 化 物 質 を 持 っている 植 物 にも 同 様 なことが 言 える 植 物 は 常 に 大 気 や 日 光 にさらされてい る 大 気 中 の 酸 素 は 空 気 中 の 金 属 や 汚 染 物 質 太 陽 光 線 中 の 紫 外 線 や 放 射 線 などによって 活 性 酸 素 となりうる このよ うなことから 植 物 は 酸 化 的 ストレスを 受 けているといってもよい 植 物 にも そのための 抗 酸 化 システムがあり 抗 酸 化 物 質 が 存 在 している ヨモギの 化 学 成 分 は 精 油 フラボノイド ポリフェノールなどがある それらの 数 種 に 抗 酸 化 性 のあることが 認 められている ヨモギ 中 のポリフェノール 量 は 現 在 抗 酸 化 性 を 有 する 健 康 茶 として 用 いられている 様 々なハーブ 茶 と 匹 敵 するくらいの 含 量 であった ヨモギエキスの 抗 酸 化 ストレス 作 用 について 種 々の 検 討 がなされて いる その 結 果 ヨモギには 活 性 酸 素 除 去 作 用 抗 酸 化 抑 制 作 用 などのあることが 示 唆 された 活 性 酸 素 によって 生 じる 肝 障 害 に 対 しても ヨモギエキスは 抑 制 作 用 を 示 した その 他 に 抗 糖 尿 病 作 用 apoptosis 誘 導 作 用 免 疫 調 節 作 用 な どがある それを われわれ 人 類 は 古 来 より 利 用 してきたのであろう まだまだヨモギにわれわれの 知 られざる 機 能 があ るかもしれないし 成 分 があるかもしれない ヨモギは これからもいろいろな 方 面 から 研 究 をする 価 値 のある 興 味 深 い 植 物 といえる キーワード: 活 性 酸 素 抗 酸 化 作 用 抗 酸 化 物 質 酸 化 的 ストレス ポリフェノール ヨモギ 1. 緒 言 ヨモギは 世 界 各 国 に 生 息 している 草 といえよう 日 本 では 本 州 四 国 九 州 などを 中 心 として 主 に 野 山 に 広 く 分 布 している 多 年 草 であることから 雑 草 のご とく 生 息 しているといってもよいであろう 古 来 より そのようなことが 和 歌 などに 読 まれている たとえば 以 下 のような 和 歌 がある 後 鳥 羽 院 秋 の 歌 とて 秋 更 けぬ 鳴 けや 霜 夜 のきりぎ りすやや 影 寒 し 蓬 生 の 月 ( 新 古 今 和 歌 集 1) 西 行 これや 見 し 昔 住 みけむ 跡 ならむ 蓬 が 露 に 月 のかかれる ( 新 古 今 和 歌 集 ) 1) 石 野 広 道 蓬 生 の 宿 より 外 もかすむかと 出 でてや まみまし 春 のよの 月 ( 冷 泉 家 御 褒 詞 詠 藻 ) 2) このように 道 端 や 林 の 中 の 草 むらの 中 でひっそり と しかしたくましく 毎 年 生 えてくる 草 というような 印 象 がうかがえる 雑 草 のようなたくましさを 持 っているが 香 高 い 興 味 深 さも 持 ち 合 わせており 清 少 納 言 は 以 下 のように 枕 草 子 で 述 べている 清 少 納 言 節 は 五 月 にしくつきはなし 菖 蒲 蓬 などのかをりあひたる いみじうをか 20

2 ヨモギの 抗 酸 化 作 用 についての 研 究 し 3) このように ヨモギは 多 面 的 な 要 素 を 持 っているとい える ヨモギは 山 野 原 砂 漠 など 地 球 上 のいたると ころに 存 在 している そして 約 250 種 あるといわれて いる それらは 古 代 より 進 化 したものであり 帰 化 した 4, 5) ものもある 数 億 年 前 に 海 中 の 藻 類 や 菌 類 が 離 陸 上 に 進 出 して 植 物 になったといわれている そして それが 初 期 の 葉 脈 のような 形 態 から 現 在 のような 大 きな 表 面 積 を 持 つ 葉 に 発 達 した その 葉 の 形 成 によりたくさんの 気 孔 を 作 るこ とで 二 酸 化 炭 素 を 吸 収 し 太 陽 光 エネルギーで 光 合 成 を おこなうことが 出 来 るようになった 6) ヨモギはその ような 葉 の 形 態 をしているから かなりの 高 度 な 機 能 を 持 った 進 化 した 植 物 といえよう 植 物 は 光 合 成 により 酸 素 を 放 出 して 空 気 中 に 酸 素 が 20% 含 有 するようになった その 酸 素 を 動 物 は 利 用 し て 莫 大 なエネルギーを 得 るようになった すなわち 細 胞 内 のミトコンドリアで 酸 素 を 利 用 するTCAサイク ルのシステムでエネルギー 産 生 物 質 であるATPを 多 量 に 生 成 することが 出 来 るようになった このようなこと は 動 物 のエネルギー 獲 得 の 上 で 有 益 なことであった しかし 酸 素 による 様 々な 障 害 の 存 在 が 見 いだされた 酸 素 は ラジカル 化 して 遊 離 基 の 活 性 酸 素 となる 活 性 酸 素 は 脂 質 たんぱく 質 糖 質 のような 生 体 物 質 を 障 害 する そのことが 種 々の 疾 患 の 原 因 ともなる この ようなことから 酸 化 ストレスという 語 句 がよく 用 いら れる しかしながら 一 方 活 性 酸 素 は 殺 菌 や 細 胞 情 報 伝 達 のような 生 体 防 御 系 や 生 体 調 節 機 能 系 に 機 能 してい る 過 量 な 活 性 酸 素 は 酵 素 やビタミンなどの 抗 酸 化 物 質 で 消 去 される 7) よって われわれは 酸 化 ストレス 障 害 を 防 御 するシス テムを 持 っているといってよい このことは 植 物 にも いえる 植 物 は 常 に 大 気 や 日 光 にさらされている 大 気 中 の 酸 素 は 空 気 中 の 金 属 や 汚 染 物 質 太 陽 光 線 中 の 紫 外 線 や 放 射 線 などによって 活 性 酸 素 となりうる この ようなことから 植 物 は 酸 化 的 ストレスを 受 けていると いってもよい 植 物 にも そのための 抗 酸 化 システムが あり 抗 酸 化 物 質 が 存 在 している ヨモギでもこのよう なことについて 現 在 までに 様 々な 研 究 がなされてき た 本 学 の 前 身 は 関 西 鍼 灸 短 期 大 学 である 筆 者 は 本 学 で 鍼 灸 研 究 の 機 会 を 得 現 在 まで 鍼 灸 の 基 礎 と 臨 床 の 両 面 から 研 究 を 行 ってきた 灸 療 法 は ヨモギから 採 取 さ れる 艾 (モグサ)を 用 いる ヨモギは 艾 だけでなく 薬 用 食 用 の 多 岐 にわたる 用 途 がある 従 って 酸 化 的 ス トレスに 対 する 抗 酸 化 物 質 になりうる 可 能 性 があると 期 待 される このようなことから ヨモギからの 抗 酸 化 物 質 の 探 索 および 抗 酸 化 性 について 検 討 し 論 文 発 表 してき た 本 総 説 では これらをまとめ 考 察 してみる 2.ヨモギの 植 物 学 的 考 察 ヨ モ ギ Artemisia vulgaris L. var. indica Maxim (=A. dubia Wall.)は キク 科 ヨモギ 属 の 植 物 である 別 名 をモチグサともよぶ 牧 野 富 太 郎 著 原 色 牧 野 植 物 大 図 鑑 によれば ヨモギは 本 州 四 国 九 州 小 笠 原 および 朝 鮮 に 分 布 し 山 野 にはえる 多 年 草 である 別 名 をモチグサとよぶのは 春 に 若 苗 を 採 って 草 餅 の 材 料 とするため 葉 裏 の 毛 からモグサを 作 る 切 り 傷 に 絞 り 汁 をつけるなど 民 間 薬 としての 効 用 は 多 い とされて いる 8) ヨモギ 属 には そのほかに ヤ マ ヨ モ ギ( オ オ ヨ モ ギ )Artemisia vulgaris L. var. vulgatissima Bess.(=A. montana Pampanini) オトコヨモギ Artemisia japonica Thunb. シロヨモギ Artemisia stelleriana Bess. イヌヨモギ Artemisia keiskeana Miq. ヒメヨモギ Artemisia lavandulaefolia DC. タカネヨモギ Artemisia sinanensis Yabe. サマニヨモギ Artemisia norvegica Fries.(=A. arctica Less.) アサギリソウ Artemisia schmidtiana Maxim. カワラニンジン Artemisia apiacea Hance クソニンジン Artemisia annua L. ハマヨモギ(フクド)Artemisia fukudo Makino などがある 8) 和 漢 薬 としては ヨモギの 乾 燥 した 葉 が 用 いられ 艾 葉 (ガイヨウ)とよばれる 李 時 珍 ( ) 編 著 本 草 綱 目 (1596)によれば 冰 臺 醫 草 艾 蒿 ともよばれるとしている 9) また 曲 直 世 道 三 ( ) 編 著 薬 性 能 毒 (1608)では 和 名 として 興 毛 岐 (ヨモギ) 毛 久 佐 (モクサ)が 記 載 されてい る 10) ヨモギは 草 餅 や 草 団 子 として 日 本 では 利 用 さ れてきた 丹 岳 野 必 大 ( ) 編 著 本 朝 食 鑑 (1695)では 蒸 て 糯 を 合 せ 搗 て 餅 となす 三 月 三 日 艾 餅 を 用 て 賀 祝 す あるいは 粳 米 粉 を 合 して 搗 て 団 子 と なし 焼 餅 となす とある 11) このように ヨモギは 薬 用 ( 和 漢 生 薬 )としてだけなく 食 用 としても 用 いら れてきた その 化 学 成 分 は 以 下 のようである 12-15) 精 油 21

3 関西医療大学紀要, Vol. 6, 2012 quercetin 3,3 -dimethyl ether essential oil としては 図１のように α -thujene α -pinene camphene sabinene quercetin 3-dimethyl ether β -pinene myrcene limonene 1,8-cineol qurcetin 3,7,3 -trimethyl ether p-cymene α -thujone β -thujone camphor quercetqgetin 3,6,7,3 -tertramethyl ether linalool terpinen-4-ol α -terpineol borneol quercetqgetin 3,6,7,3,4 -pentamethylether bornyl acetate geraniol eugenol caryophyllene などがある γ -cadinene また ポリフェノールとしては などがある caffetannin 3,5-dicafeoylquinic acid 3,4-dicafe- フラボノイドとしては oylquinic acid 4,5-dicafeoylquinic acid chlorogenic kaempferol 3,7-dimethyl ether quercetin acid などがある 図１ 図１ １ 艾葉の精油 22

4 ヨモギの抗酸化作用についての研究 図１ ２ 艾葉の flavonoid 図１ ３ 艾葉の polyphenol 戸田が ヨモギ中のポリフェノール定量を 常法で 行ったところ表１のようであった 16 総ポリフェノー ル total polyphenol は 4.5 ± 0.33 で あ っ た 縮 合タンニン condensed tannin は vanililin assay で は 0.61 ± 0.17 proanthocyanidin assay で は 0.14 ± 0.01 であった 現在日本国内で汎用されている健康茶 には かなりの種類がある その中でももっともよくつ かわれている健康茶 ジャスミン茶 ゴーヤ茶 大麦若 葉茶 ドクダミ茶 グアバ茶 杜仲茶 柿葉茶 ハトム 図２ ハーブ茶の総ポリフェノール量 ギ茶 ウーロン茶 プアール茶 クコ茶 の総ポリフェ ノール含量は 図２のようであった ジャスミン茶 グ アバ茶 ウーロン茶ほど多くはないが ポリフェノール ヨモギは 古来より存在しており古代中国の本草書 の存在が認められた 17 表１ 図２ 神農本草経別録 の中品に記載されている これは 表１ 艾のポリフェノール含量 Content Total polyphenol Condensed tannin Vanillin assay Proanthrocyanidin assay ３ ヨモギの本草学的考察 含量 4.58 ± ± ± 0.01 その他中国や日本の歴代の様々な本草書に取り上げられ ている たとえば 以下のような記載がある 本草綱目 では 諸々の病気の灸療法に用いられ 止血作用もあると記載されている ９ 気味 苦微温無毒 主治 灸百病 可作煎 止下痢 婦人漏血 利陰気 23

5 関 西 医 療 大 学 紀 要, Vol. 6, 2012 生 肌 肉 辟 風 寒 使 人 有 子 煎 勿 令 見 風 搗 汁 服 止 傷 血 殺 蚘 蟲 主 衄 血 下 血 膿 血 痢 止 崩 血 腸 痔 止 腹 痛 安 胎 苦 酒 作 煎 治 癬 良 搗 汁 飲 治 心 腹 一 切 冷 気 鬼 気 治 帯 下 止 霍 乱 転 筋 痢 後 寒 熱 治 帯 脈 為 病 腹 脹 満 腰 溶 溶 如 坐 水 中 温 中 逐 冷 除 淫 薬 性 能 毒 でも 諸 々の 病 気 の 灸 療 法 に 用 いられる としている 10) やはり 止 血 作 用 のあることが 述 べら れている そして 多 量 に 服 用 すると 副 作 用 のあること が 述 べられている 能 百 病 に 灸 し 用 ゆ 一 灼 (ひとひ)を 一 壮 という なり 壮 はさかんとよむ 人 の 病 を 去 りて 健 かに 壮 にするという 義 なり 吐 血 下 痢 婦 人 の 漏 血 に 煎 じ 用 ゆ 風 寒 を 去 り 人 をして 子 あらしむ 腹 痛 を 止 め 蚘 虫 を 殺 し 胎 を 安 す 中 を 温 め 冷 を 逐 湿 を 除 く 春 の 嫰 き 艾 を 秉 搗 て 餅 と 成 し 乾 かしめ 生 姜 と 合 せ 服 すれば 泄 瀉 痢 病 産 後 の 血 を 瀉 するに 用 て 甚 だ 妙 なり 生 にて 用 れは 微 苦 大 辛 熟 して 用 れば 微 辛 大 苦 生 は 温 熟 は 熱 純 陽 なり 太 陽 の 眞 火 をとる へく 絶 とする 元 陽 を 囘 すべし 艾 を 服 すれば 三 陰 に 走 て 一 切 の 寒 湿 を 逐 ひ 毒 世 に 艾 一 味 を 常 に 服 すれば 虚 を 補 うといえリ されども 多 く 服 すれは 熱 気 となり 上 に 付 き 升 り 眼 を 損 す 食 物 学 的 本 草 書 である 本 朝 食 鑑 以 下 のように 記 載 されており ヨモギで 灸 をすれば 鍼 灸 で 言 うところの 経 絡 を 通 して 諸 病 を 治 療 できると 述 べられている 11) 気 味 生 は 則 微 苦 大 辛 温 熟 は 則 微 辛 大 苦 温 毒 なし 主 治 中 を 温 め 冷 を 逐 ひ 一 切 の 風 湿 を 去 り 一 切 の 血 を 止 む 之 を 灸 すれは 諸 経 に 透 し 百 種 の 病 邪 を 治 し 沈 痌 を 起 こす これらのように 東 洋 医 学 で 生 体 内 を 循 環 するといわ れている 三 大 要 因 の 気 血 水 のうちヨモギは 血 の 症 状 に 対 して 有 効 であることが 本 草 学 的 にうかがい 知 れる とく に 止 血 作 用 のあることは 注 目 するべきことであろう 民 間 薬 的 に 出 血 の 際 に 応 急 処 置 的 にヨモギの 葉 を 患 部 に 貼 り 付 けていたりしていたようである 以 上 のように 日 本 国 中 といってもよいくらいさまざ まな 地 域 に 生 息 しているヨモギは 古 来 より 利 用 されてき た なぜ 歴 史 的 の 長 い 間 現 在 まで 利 用 されてきたのか は 充 分 に 分 かっていない このようなことを 現 代 の 土 俵 で 解 明 することは 今 後 の 医 療 に 対 して 何 らかの 貢 献 が 出 来 るものと 思 われる 4. 活 性 酸 素 と 酸 化 的 ストレス われわれ 人 類 は 酸 素 呼 吸 をしている 酸 素 呼 吸 は 植 物 のような 二 酸 化 炭 素 を 利 用 することによる 無 酸 素 呼 吸 よりもエネルギー 効 率 が 高 い しかしながら 酸 素 呼 吸 することによって 人 類 は 酸 素 由 来 の 毒 性 を 受 けること になった 特 に フリーラジカルとよばれる 遊 離 基 の 酸 素 ( 活 性 酸 素 )の 生 体 内 での 存 在 が 明 らかにされ その 障 害 性 についても 研 究 されてきた 生 体 内 で 生 じる 主 な 活 性 酸 素 種 は 表 2のようである そして それらの 生 成 は 図 3のように 考 えられている 18) ( 表 2 図 3) O 2.- 表 2 主 要 な 活 性 酸 素 種 活 性 酸 素 種 活 性 酸 素 種 名 スーパーオキシド 1 O 2 一 重 項 酸 素 HOOH 過 酸 化 水 素 HO. ヒドロオキシルラジカル HOO. ヒドロペルオキシラジカル LOOH アルキルヒドロペルオキシド LOO. アルキルペルオキシルラジル LO. アルコキシルラジカル HOCl 次 亜 塩 素 酸 NO 一 酸 化 窒 素 ONO 二 酸 化 窒 素 ONOO. パーオキシナイトライト O 3 オゾン 図 3 活 性 酸 素 生 成 24

6 ヨモギの 抗 酸 化 作 用 についての 研 究 活 性 酸 素 による 様 々な 生 体 物 質 ( 特 に 脂 質 核 酸 たんぱく 質 糖 質 など)の 酸 化 すなわち 酸 化 的 ストレ スが 注 目 されるようになってきた それらをまとめたも のが 表 3である 脂 質 においては 脂 質 過 酸 化 物 である acrolein crotonaledehyde 2-hexenal 2-nonenal 4-hydroxy-2-nonenal 4-hydroxy- 2-hexenal malondialdehyde 4-oxo-2-nonenal regladine 化 合 物 などがある 核 酸 においては 核 酸 酸 化 物 である 8-hydroxydeoxyguanosine thymidinglycole 8-hydroxydexyadenosine などがある たんぱく 質 においては たんぱく 質 酸 化 物 であるカル ボニル 化 たんぱくがある また アミノ 酸 の 酸 化 生 成 物 として hydroxyleucine hydrovaline nitrothyrosine clothyrosine dithyrosine などがある 糖 質 では グルコースなどの 還 元 糖 とたんぱく 質 との 非 酵 素 的 糖 化 反 応 (メーラード 反 応 )による 終 末 糖 化 産 物 (advanced glycation end-products)がある 19) ( 表 3) 表 3 酸 化 ストレスによる 酸 化 物 脂 質 核 酸 生 体 物 質 タンパク 質 糖 質 酸 化 ストレスによる 酸 化 物 脂 質 過 酸 化 物 (acrolein crotonaldehy- de 2-hexenal 2-nonenal 4-hydroxy- 2-nonenal 4-hydroxy-2-hexenal malondialdehyde 4-oxo-2-nonenal regladine 化 合 物 ) 核 酸 酸 化 物 (8-hydroxydeoxyguanosine thymidinglycol 8-hydroxydeoxyguanosine) カルボニル 化 たんぱく アミノ 酸 酸 化 生 成 物 (hydroxyleucine hydrovaline nitrothyrosine clothyrosine dithyrosine) 終 末 糖 化 産 物 なぜ 注 目 に 値 するのかは 酸 化 的 ストレスによる 生 体 物 資 の 非 特 異 的 障 害 が 組 織 障 害 に 関 係 しているからであ る その 組 織 障 害 は 様 々な 臓 器 でおることから 種 々 の 疾 病 の 発 症 の 原 因 となっている 表 4ように さまざ まな 炎 症 アレルギー 虚 血 再 還 流 障 害 癌 老 化 動 脈 硬 化 脳 浮 腫 やパーキンソン 病 などのような 脳 神 経 疾 患 紫 外 線 による 皮 膚 疾 患 成 人 促 迫 症 候 群 のような 呼 吸 器 疾 患 虚 血 性 心 疾 患 のような 循 環 器 疾 患 さまざ まな 消 化 器 疾 患 腎 疾 患 糖 尿 病 のような 内 分 泌 疾 患 全 身 性 エリテマトーデスのような 自 己 免 疫 疾 患 などがあ る 19) ( 表 4) 表 4 酸 化 ストレスによる 疾 患 生 体 物 質 酸 化 ストレスによる 疾 患 炎 症 関 節 炎 肺 炎 腎 炎 血 管 炎 アレルギー 気 管 支 喘 息 虚 血 再 還 流 障 害 心 筋 手 術 臓 器 移 植 癌 発 癌 (DNA 障 害 発 癌 プロモー ター) 老 化 脳 神 経 疾 患 脳 浮 腫 パーキンソン 病 皮 膚 疾 患 皮 膚 紫 外 線 障 害 循 環 器 疾 患 虚 血 性 心 疾 患 消 化 器 疾 患 胃 疾 患 ( 胃 粘 膜 障 害 ) 腸 疾 患 ( 虚 血 性 大 腸 炎 ) 膵 疾 患 ( 膵 炎 ) 肝 疾 患 ( 肝 障 害 ) 腎 疾 患 腎 炎 内 分 泌 疾 患 糖 尿 病 自 己 免 疫 疾 患 全 身 性 エリテマトーデス 眼 疾 患 加 齢 性 黄 斑 変 性 症 ぶどう 膜 炎 われわれは 日 常 的 に 呼 吸 をして 酸 素 を 取 り 込 み 消 費 している そのことによる 過 量 な 活 性 酸 素 は 表 5のよ うなさまざまな 生 体 内 の 抗 酸 化 性 物 質 で 消 去 される 生 体 内 抗 酸 化 酵 素 であるグルタチオンペルオキシダーゼ ペルオキシダーゼ グルタチオン-s-トランスフェ ラーゼ カタラーゼ スーパーオキシドジスムターゼが ある 生 体 内 抗 酸 化 たんぱく 質 では トランスフェリ ン フェリチン ラクトフェリン セルロプラスミンが ある その 他 の 抗 酸 化 生 体 物 質 では カロチノイド ビ タミンC ビタミンE 尿 酸 ビリルビン ユビキノー ルなどがある 20) ( 表 5) 表 5 生 体 内 抗 酸 化 物 質 抗 酸 化 酵 素 抗 酸 化 タンパク 質 ビタミン その 他 グルタチオンぺルオキシダーゼ ぺ ルオキシダーゼ グルタチオン- s-トランスフェラーゼ カタラー ゼ スーパーオキシドジスムターゼ トランスフェリン フェリチン ラ クトフェリン セルロプラスミン カロチノイド ビタミンC ビタミ ンE 尿 酸 ビリルビン 25

7 関 西 医 療 大 学 紀 要, Vol. 6, 2012 一 方 活 性 酸 素 は 好 中 球 やマクロファージなどの 貪 食 細 胞 における 機 能 物 質 でもある たとえば 活 性 酸 素 が 出 来 ない 慢 性 肉 芽 腫 では 感 染 症 になりやすい また 細 胞 応 答 に 活 性 酸 素 はかかわっている たとえばNADPH オキシダーゼを 介 した 活 性 酸 素 である 過 酸 化 水 素 の 生 成 そしてその 細 胞 内 流 入 は 細 胞 内 たんぱく 質 を 修 飾 す る そして それはさまざまなシグナル 伝 達 経 路 を 活 性 化 すとされている また 転 写 因 子 であるNF-κBは 炎 症 や 免 疫 応 答 にかかわるが その 際 に 活 性 酸 素 の 関 与 が 認 められている 21) このように 活 性 酸 素 は 生 体 内 で 発 生 しそれなり 生 理 の 生 理 活 性 を 発 揮 し 過 量 の 活 性 酸 素 は 生 体 内 抗 酸 化 物 質 で 抑 制 されている しかし 今 日 的 に 紫 外 線 外 相 環 境 汚 染 物 質 ストレスなど 様 々な 外 的 因 子 により 活 性 酸 素 は 発 生 し 生 体 を 日 常 的 に 犯 していると 言 えるであ ろう 5. 抗 酸 化 物 質 の 探 索 近 年 酸 化 的 ストレスへの 大 いなる 注 目 から 抗 酸 化 物 質 の 関 心 が 高 まってきた 生 体 名 にはさまざまな 抗 酸 化 物 質 が 存 在 するが 酸 化 的 ストレスへの 予 防 的 見 地 か ら 天 然 物 からの 抗 酸 化 物 質 の 探 索 が 進 められてきた そ れらは 食 品 として 日 常 的 に 摂 取 され 食 品 加 工 の 上 で 抗 酸 化 防 止 剤 として 用 いられている また 従 来 から 用 いられてきた 薬 剤 の 中 にもプロブコール アロプリノー ル COX-2 阻 害 薬 などに 抗 酸 化 作 用 のあることが 認 め 19, 20) られている ( 表 6) 生 活 習 慣 病 の 予 防 は 国 家 的 目 標 である 政 府 は 健 康 づくりのため 様 々な 指 針 を 策 定 している たとえば 健 康 づくりのための 食 生 活 指 針 や 成 人 病 ( 生 活 習 慣 病 ) 予 防 のための 食 生 活 指 針 などがそうである そ れらの 指 針 は 野 菜 を 食 することをすすめている 野 菜 の 中 には ポリフェノール フラボノイド ビタミンな どが 多 く 含 まれている これらは 抗 酸 化 作 用 を 期 待 す 19, 20) ることが 出 来 る 天 然 物 からの 化 合 物 である ( 表 6) 生 薬 は 地 球 上 にある 有 用 な 植 物 動 物 鉱 物 の 有 用 な 部 分 を 用 いる それらを 有 機 的 に 組 み 合 わせて 治 療 に 用 いてきたものが 漢 方 薬 といえよう また 世 界 各 国 には 民 間 伝 承 的 に 天 然 物 が 用 いられてきている それら は 現 実 歴 史 的 に 民 間 薬 として 用 いられておる このようなものの 代 表 的 なものは 茶 やワインであ る 茶 には 多 様 なカテキンが 多 量 に 存 在 する また ワインには 多 様 なポリフェノールが 存 在 する そして これらは 世 界 各 国 に 存 在 し 古 代 から 飲 用 されてきてい る 19, 20) ( 表 6) 大 航 海 時 代 (15-17 世 紀 )は 金 銀 のような 貴 重 金 属 を 求 めてヨーロッパの 各 国 が 海 外 進 出 をした それら の 各 国 は 貴 重 金 属 だけでなく 香 辛 料 も 求 めていたとい う 歴 史 的 事 実 がある それは 彼 らの 食 生 活 の 中 で 最 も 重 要 であった 肉 の 保 存 のためであった 香 辛 料 の 多 く は 天 然 物 である その 多 くには 防 腐 作 用 や 殺 菌 作 用 がある 防 腐 作 用 の 一 つとして 抗 酸 化 作 用 がある こ の 時 代 の 人 にとって 香 辛 料 は 食 糧 保 持 のための 切 実 な ものであったといえよう 事 実 として この 時 代 には 香 辛 料 が 商 業 貿 易 取 引 の 手 段 として 用 いられていた ま た それらを 獲 得 するため 戦 争 もあった 現 在 まで 香 辛 料 から 抗 酸 化 性 物 資 が 探 索 され オイゲノール ジン ゲロン チモールなど 数 多 くの 化 合 物 が 見 いだされ 実 用 されている 19, 20, 22) ( 表 6) 艾 葉 は 以 前 より 飲 料 食 料 生 薬 漢 方 薬 民 間 薬 と して 古 来 より 用 いられてきている その 目 的 はさまざま であり 抗 酸 化 性 については 充 分 の 検 討 はされていな い このようなことから 現 代 の 科 学 的 指 標 を 用 いて 検 討 する 余 地 はあるといえよう 薬 剤 食 物 表 6 生 体 外 抗 酸 化 物 質 プロブコール アロプリノール COX-2 阻 害 薬 種 子 穀 類 豆 類 野 菜 果 物 茶 (ポリ フェノール フラボノイド ビタミン) 生 薬 大 黄 桂 枝 甘 草 十 薬 五 味 子 人 参 (タ ンニン フラボノイド リグナン サポニ ン) 香 辛 料 生 姜 コショウ 薄 荷 ターメリック(オイ ゲノール ジンゲロン チモール クルクミ ノイド) 6.ヨモギの 抗 酸 化 性 物 質 の 抗 酸 化 性 を 知 るために 多 くの 場 合 フリーラジ カルに 対 する 抑 制 作 用 の 検 討 がなされる 最 も 簡 便 で よく 用 いられるのは フリーラジカルであるdiphenylpcryl-chloride(DPPH)を 用 いた フリーラジカル 消 去 能 試 験 である ヨモギは 図 4に 示 すように 低 濃 度 で 濃 度 依 存 的 に 消 去 活 性 作 用 が 認 められた このことは 艾 に 抗 酸 化 性 を 期 待 できるものである 23) ( 図 4) 26

8 ヨモギの抗酸化作用についての研究 レシチンは 細胞膜の主要な構成脂質である そのこ とから 次の段階の研究には 赤血球を用いて検討し た すなわち 過酸化水素と赤血球中ヘモグロビンの反 応による赤血球膜の脂質過酸化反応である 細胞膜に は catalase のような抗酸化酵素や NADPHoxidase の ような酸化酵素の存在している このようなことを考慮 に入れるべきであるが in vitro の実験としてこの実験 系を用いてヨモギの抗酸化能について検討がなされた その結果 図７のように低濃度で濃度依存的に抗酸化作 図４ DPPH ラジカルに対するヨモギエキスの抑制作用 用が認められた 23 図７ ヘモグロビンと過酸化水素によるレシチン 代表的 なリン脂質の一つ 過酸化反応は 図５に示すような Fenton 反応において生成する活性酸素による脂質過酸 化反応と考えられている 図５ この脂質過酸化反応 に対するヨモギの抑制作用すなわち抗酸化能を測定し た その結果 図６のように低濃度で濃度依存的に抗酸 化作用が認められた 23 図６ Fe3 O2. Fe2 O2 O2. 2H O2 H2O2 H2O2 Fe2 OH. OH Fe3 LH OH. L. H2O LH レシチン. 図７ 赤血球膜過酸化に対する艾エキスの抗酸酸化作用. L O2 LO2 LO2. LH LO2H. L. 以上の研究結果は in vitro でのものである その ことから この結果を in vivo で検証する試みがなされ 図５ ヘモグロビンと過酸化水素によるレシチン過酸化反応 た ラットに galactosamine Gal -lipopolysaccharide LPS を投与すると肝障害の発症することが認められ ている その発症は 活性酸素によるものであることも 認められている このことから Gal-LPS 投与による ラット実験的肝障害に対して艾が抑制作用を有するかが 検討された その結果が 図８ 図 11 である 24 図６ ヘモグロビンと過酸化水素によるレシチン過酸化反応に 対するヨモギエキスの抑制作用 図８ galactosamine Gal -lipopolysaccharide LPS 肝障害ラットに 対する艾水性エキス APP の抑制作用 血清 GOT GPT 27

9 関西医療大学紀要, Vol. 6, 2012 図８は 肝障害による逸脱酵素である血清の GOT 図 11 は 抗酸化酵素である glutathione GSH につ GPT についての検討結果である このように ヨモギ いて検討結果である このように 血清や肝臓いずれも 無投与群では GOT GPT の上昇が認められたが ヨモ ヨモギ無投与群では GSH の低下が認められたが ヨモ ギ投与群では低濃度で濃度依存的に低下していた すな ギ投与群では低濃度で濃度依存的に上昇していた すな わち ヨモギには抗炎症作用及び肝細胞膜保護作用のあ わち ヨモギには抗酸化作用のあることが示唆された ることが示唆された 図８ 図 11 図 ９ は 活 性 酸 素 で あ る superoxide の 消 去 酵 素 superoxide dismutase SOD について検討結果であ る このように 血清や肝臓いずれも艾無投与群では SOD の低下が認められたが ヨモギ投与群では低濃度 で濃度依存的に上昇していた すなわち ヨモギには抗 酸化作用のあることが示唆された 図９ 図 11 galactosamine Gal -lipopolysaccharide LPS 肝障害ラットに 対する艾エキス APP の抑制作用 血漿 肝臓 glutathione 以上のようなことから 活性酸素による脂質過酸化に 対しヨモギが抗酸化性を有することが示唆された 活性酸素によって たんぱく質の断片化が生じる そ 図９ galactosamine Gal -lipopolysaccharide LPS 肝障害ラットに 対する艾エキス APP の抑制作用 血清 肝臓 SOD れを確認するには カルボニル価を測定し SDS-PAGE により確かめることが出来る 特に銅と過酸化水素の共 存によって そのことが著明に出現する このシステム 図 10 は 脂 質 過 酸 化 の 指 標 の 一 つ で あ る malon- を用いて ヨモギの抗酸化性について検討した その結 dialdehyde MDA について検討結果である このよ 果 図 12 のようにカルボニル価を指標にした抗酸化能 うに 血清や肝臓いずれも艾無投与群では MDA の上昇 は低濃度で認められ濃度依存的に上昇していた また が認められたが ヨモギ投与群では低濃度で濃度依存的 SDS-PAGE の結果 図 13 から ヨモギはたんぱく質 に低下していた すなわち ヨモギには抗酸化作用のあ の断片化を抑制していることが示唆された 図 12 図 ることが示唆された 図 図 10 galactosamine Gal -lipopolysaccharide LPS 肝障害ラットに 対する艾エキス APP の抑制作用 血清 肝臓過酸化脂質 MDA 28 図 12 銅 過酸化水素によるたんぱく質断片化に対する艾エキスの抑制 作用 カルボニル化からの検討

10 ヨモギの抗酸化作用についての研究 のような研究結果で示唆された ヨモギエキスは 培 養 L6 筋 細 胞 の 細 胞 膜 に 対 し て glucose transporter GLUT4 を上昇させる ヨモギエキスは 5 -amino5-imidazolecarboxamide-riboside AICAR と同レベ ル で AMP-activated protein kinase AMPK の リ ン 酸化を惹起する このようなことから ヨモギエキスは glucose transporter 4 translocation を介して培養 L6 筋細胞の glucose の uptake を上昇させると思われた 27 ヨモギエキスから見出された flavone である eupatilin は 2 型糖尿病マウスのインスリン分泌を上昇させなが ら肝臓および血液中の糖代謝を活性化させる重要な役割 を持っている 28 ヨモギには apoptosis 誘導作用のあることも 認め られている ヨモギエキスから見出された flavone で あ る eupafolin は Hela 細 胞 に お け る apoptosis を 誘 導 し た そ れ は mitochondrial membrane potential 図 13 銅 - 過酸化水素によるタンパク質断片化に対する 艾エキスの抑制作用 SDS-PAGE による検討 １ 無処理 ２ 血清アルブミン 銅 過酸化水素 ３ 血清アルブミン 銅 過酸化水素 艾水性エキス DeltaPsi(m) の BcL-2-dependent な減少によって起こ る caspase の caspase-dependent pathway を 介しているものと思われる 29 ヨモギ水性エキスは ヒト breast cancer MCF-7 cell の apoptosis を誘導した それは breast cancer 治療に このように ヨモギには活性酸素除去作用 抗酸化抑 対して有効な adjuvant となりえると思われる 30 制作用などのあることが示唆された これらのことは また ヨモギは免疫系にも有用であることが以下の 活性酸素による種々の疾患に対してヨモギが有効である ように認められている ヨモギエキスは 炎症性 T 細 ことを示唆している 胞の増殖を阻害 antigen-stimulated CD4 CD25 T 細胞による炎症を抑制 expanded regulatory T 細胞の活性上昇をさせる このことから ヨモギエ ７ 考察 キスは 自己免疫疾患や臓器移植拒否反応の治療に有 これらの研究結果以外にも活性酸素の一つである 用と思われる 31 ヨモギエキスから見出された flavone nitric oxide 関連物質に対して ヨモギに生成抑制作 で あ る eupafolin は Ca2 流 入 を modulate さ せ る こ 用 の あ る こ と が 認 め ら れ て い る ヨ モ ギ エ キ ス は と で resting T 細 胞 に お い て pro-apoptotic 作 用 が あ peroxynitrite ONOO スカベンジャー作用のあるこ り activated T 細胞に immunosuppressive 効果をもた とが認められた このエキス中の有効化合物は 3,5-di- らすと思われた 32 ヨモギは ovalbumin 誘発喘息マ O-caffeoyl-muco-quinic acid 4,5-di-O-caffeoylquinate ウスの血中 IgE 値を低下させた さらに ヨモギは肺 であった ヨモギエキスから見出された jaceosidin の IgE IL-6 値を低下させた そして ヨモギは IgE- は 共役ジエンの生成 relative electrophoretic mobi- induced RBL-2H3 cell の mrna の発現を抑制した こ lity 銅による LDL 酸化による apob-100 断片化に対し のように ヨモギは proinflammatory cytokine におけ て 抗 酸 化 作 用 を 示 し た ま た jaceosidin は nuclear る IL-6 や TNF-alpha の 生 合 成 を regulate す る も の と factor-kappa B NF-kappaB の regulation に よ っ て 思われる 33 ヨモギ中の有効物質である eupatilin と 生じる活性酸素の生成を阻害した jaceosidin は LPS jaceosidin は IgE-madiated の皮膚アレルギー疾患で 誘導 RAW264.7macrophage の NF-kappaB 活性 nitric 出 現 す る passive cutaneous anaphylaxis PCA や oxide NO 産 生 を 阻 害 し inducible nitric oxide itching 反応予防に有用であることが示唆された 34 synthetase inos の発現を抑制した 26 以上のように ヨモギには抗酸化作用だけでなく抗糖 抗酸化性以外にもヨモギは 多様な作用を有してい 尿病作用 apoptosis 誘導作用や免疫調節作用のあるこ る たとえば 糖尿病に対して有用であることが以下 とが認められている ヨモギは 古来より変異 進化し 25 29

11 関 西 医 療 大 学 紀 要, Vol. 6, 2012 てきたものと 思 われる そのことによって 多 機 能 を 持 つことが 出 来 たと 思 われる それを われわれ 人 類 は 古 来 より 利 用 してきたのであろう まだまだヨモギにわれ われの 知 られざる 機 能 があるかもしれないし 成 分 があ るかもしれない ヨモギは これからもいろいろな 方 面 から 研 究 をする 価 値 のある 興 味 深 い 植 物 といえる 謝 辞 本 総 説 は 筆 者 が 関 西 鍼 灸 短 期 大 学 関 西 俊 灸 大 学 関 西 医 療 大 学 ( 開 設 当 初 から 現 在 まで)で 行 ってきた 研 究 をまとめたものである 発 表 論 文 で 述 べ 足 りなかった ことも 今 回 補 足 した 現 在 まで 本 学 および 学 外 の 先 生 方 からたくさんのさまざまなご 教 示 を 頂 いた 深 く 感 謝 したい 参 考 文 献 1) 峯 村 文 人 : 校 注 訳, 新 古 今 和 歌 集 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 61, 小 学 館, 東 京, ) 金 子 金 治 郎, 雲 英 末 雄, 暉 峻 康 隆, 加 藤 定 彦 : 校 注 訳, 連 歌 集 俳 諧 集, 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 61, 小 学 館, 東 京, ) 松 尾 聡, 永 井 和 子 : 校 注 訳, 枕 草 子, 新 編 日 本 古 典 文 学 全 集 18, 小 学 館, 東 京, ) 北 村 四 郎 : 本 邦 産 ヨモギ 属 の 分 類 および 分 布. 植 物 分 類 地 理,5,83-100, ) 北 村 四 郎 :ヨモギ 属 の 区 分. 植 物 分 類 地 理,8,62-66, ) 三 村 芳 和 : 酸 素 のはなし. 中 央 公 論 社, 東 京, ) 浅 田 浩 二 : 活 性 酸 素 の 生 成 消 去 作 用. 蛋 白 質 核 酸 酵 素 臨 時 増 刊 活 性 酸 素 生 物 での 生 成 消 去 作 用 の 分 子 機 構, , ) 牧 野 富 太 郎 : 原 色 牧 野 植 物 図 鑑 第 3 版,579, 北 隆 館, 東 京, ) 李 時 珍 : 本 草 綱 目 復 刻 版 , 文 光 図 書 公 司, 台 北, ) 曲 直 世 道 三 : 薬 性 能 毒 復 刻 版. 臨 床 本 草 薬 理 学 選 集,6, ,オリエント 出 版 社, 大 阪, ) 丹 岳 野 必 大 : 本 朝 食 鑑 復 刻 版. 食 物 本 草 本 大 成,9, , )Mohamed AE-H., EI-Sayed M A., Hegazy M E., Helaly S E., Esmail A., Mohamed N.: Chemical constituents and biological activities of Artemisia herb-alba. Rec. Nat. Prod., 4, 1-25, )Nisra L N., Singh S P.:?-thujone, the major component of the essential oil from Artemisia vulgaris growing wild in Nilgri Hills. J. Nat. Prod., 49, , )Nikolova M.: Infraspecific variability in the flavonoid composition of Artemisia vulgaris L. Acta. Bot. Croat., 65, 13-18, ) 奥 田 拓 男, 波 多 野 力, 縣 功, 西 部 三 省, 木 村 康 一 :オオ ヨモギ,ヨモギ 及 び 近 縁 植 物 のタンニンについて. 薬 誌, 106, , )Toda S.: Inhibitory effects of polyphenols in leaves of Artemisia princeps PAMP on protein fragmentation by Cu(II)-H2O2 in vitro. J. Med. Food., 7, 52-54, )Toda S.: Polyphenol content and antioxidant effects in herb teas. Chinese Med., 2, 29-31, ) 江 口 裕 伸, 藤 原 範 子, 大 河 原 知 永, 鈴 木 敬 一 郎, 谷 口 直 之 : 酸 化 ストレスと 健 康. 生 物 試 料 分 析,32, , ) 倉 林 昌 彦, 山 岸 昌 一 : 酸 化 ストレスナビゲーター.24-41,メデイカルレビュー, 東 京, ) 吉 川 敏 一 :フリーラジカル 入 門.10-22, 先 端 医 学 社, 東 京, ) 西 田 基 宏 : 活 性 酸 素 のシグナル 伝 達.ファルマシア,48, 9-14, )J. M. ロバーツ, 金 原 由 紀 子 訳 : 世 界 の 歴 史 6 近 代 ヨー ロッパ 文 明 の 成 立, , 創 元 社, 大 阪, )Toda S.: Antioxidative effects of polyphenols from leaves Artemisia princeps PAMP. On lipid peroxidation in vitro. J. Food Biochem., 29, , )Toda S.: Antioxidative and hepatoprotective effects of polyphenols from leaves Artemisia princeps PAMP. Nat. Prod. Comm., 2, , )Nugroho A., Lee K R., Alam M. B., Choi J. S., Park H. J.:Isolation and quantitative analysis of peroxynitrite scavengers from Artemisia princeps var. orientalis. Arch. Pharm. Res., 33, , )Kim M. J., Han J. M., Baek N. I., Bang M. H., Chaung H. G., Choi M. S., Lee K. T. Sok D. E., Jeong T. S.: In vitro antioxidant and anti-inflammatory activities of Jaceosidin from Artemisia princeps Pampanini cv. Sajabal. Arch. Pharm. Res., 31, , )Yamamoto N., Ueda M., Kawabata K., Sato T., Kawasaki K., Hashimoto T., Ashida H.: Artemisia princeps extract promoted glucose uptake in cultured L6 muscle cells via glucose transporter 4 translocation. Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, , )Kang Y. J., Jung U. J., Lee M. K., Kim H. J., Jeon S. M., Park Y. B., Chung H. G., Baek N. J., Lee K. T., Jeong T. S., Choi M. S.: Eupatilin, isolated from Artemisia princeps Pampanini, enhances hepatic glucose metabolism and pancreatic beta-cell function in type 2 diabetic mice. Diabetes Res. Clin. Pract., 82, 25-32,

12 ヨモギの 抗 酸 化 作 用 についての 研 究 29)Chung K. S., Choi J. H., Back N. I., Kang E. K., Chung H. G., Jeong T. S., Lee K. T.: Eupafolin, aflavonoid isolated from Artemisia princeps, induced apoptosis in human cervical adenocarcinoma HeLa cells. Mol. Nutr. Food Res., 54, , )Sarath V. J., So C. S., Won Y. D., Gollapudi S.: Artemisia princeps var orientalis induces apoptosis in human breast cencer MCF-7 cells. Antiocancer Res., 27, , )Chang S. H., Jung E. J., Park Y. H., Lim D. G., Ko N. Y., Choi W. S., Her E., Kim S. H., Choi K. D., Bae J. H., Kim S. H., Han D. J., Kim S. D.:Anti-inflammatory effects of Artemisia princeps in antigen-stimulated T cells and regulatory T cells. J. Pharm. Pharmacol., 61, , )Kim Y. D., Choi S. C., Oh T. Y., Chun J. S., Jun C. D.:Eupatilin inhibits T-cell activation by modulation of intracellular calcium flux and NF-kappaB and NF-AT activity. J. Cell Biochem., 108, , )Bae E. A., Min S. W., Lee B., Kim N. J., Baek N. I., Han E. J., Chung H. G., Kim D. H.: Antiasthmic effect of fermented Artemisia princeps in asthmic mice induced by ovalubumin. J. Microbiol. Biotechnol., 17, , )Lee S.H., Bae E. A., Park E. K., Shin Y. W., BaekN. J., Han E. J., Chung H. G., Kim D. H.: Inhibitory effect of eupatilin and jaceosidin isolated from Artemisia princeps in IgE-induced hypersensitivity. Int. Immunopharmacol., 7, , 太 文 字 の 文 献 は 戸 田 が 発 表 したものである 31

13 関 西 医 療 大 学 紀 要, Vol. 6, 2012 Review Research on Antioxidative Effect of Yomogi Shizuo TODA Department of Health Sciences, Kansai University of Health Sciences Abstract Yomogi(Artemisia vulgaris L. var. indica Maxim)is in Artemisia of Asteraceae. There is Yomogi in fields and mountains in worldwide. It is a perennial plant and grown as weeds. As it has been varied and evolved from ancient time, human has been using it with its multiple functions. Its leaves have been using as food, medicine, cosmetic, moxibustion. As the leaves as Yomogi release oxygen by photosynthesis, there has been 20 % oxygen in the air. The animals have acquired much energy by using oxygen. However oxygen has induced various injuries. Oxygen progresses to be reactive oxygen species as free radicals. Reactive oxygen species injury the biochemical products, lipid, protein and glycoside. The injuried substances induce various syndromes. Such oxidations have been called as an oxidative stress. However Human has antioxidative system. Plants have similar systems and antioxidative products. Chemicals in Yomogi has been determined as essential oils, flavonoids and polyphenols Some of them have antioxidative effects. Polyphenol content of Yomogi is similar to the herb teas as healthcare teas which have antioxidative effects. There have been research reports about anioxidative stress. It demonstrated that Yomogi has scavenging and anxioxidative effects to reactive oxygen species, and suppressive effects liver injury induced by reactive oxygen species. Other effects have been suggested that Yomogi have anti-diabetic, inducing apoptosis and immunomodulating effects. There seems to be unknown effects and chemicals in it. Yomogi is an interesting plant to research from various sides in future. Keywords:Reactive oxygen species, antioxidant, antioxidative effect, oxidative stress, polyphenol, Yomogi 32