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内容 1. 人工衛星によるリモートセンシングの 2. 衛星 SARの概要 3. 合成開口レーダ (SAR) の基礎 4. 合成開口レーダ搭載衛星とその運用状況 5. 合成開口レーダの地上分解能

TRIC 1. 人工衛星によるリモートセンシング

衛星によるリモートセンシングについて 人工衛星によるリモートセンシングでは 衛星に観測センサを搭載して地球を観測する技術 衛星に搭載したセンサは 地球上の陸域 海域 雲などが反射した あるいは自ら放射した電磁波 ( 光や電波 ) を観測 得られたデータを解析することにより 地表の土地利用 森林 農作物などの状況や 海面の温度や色 雲の状態や雨の強さなど 様々な情報が取得可能 例 : 我が国の 陸域 海域観測衛星 である だいち では 以下の 3 つのセンサーを搭載 PRISM: 可視域から近赤外域までの全ての光を観測し 対応する白黒画像を取得する高分解能 (2.5m) パンクロマチック ( 全整色 ) センサ AVNIR-2: 可視域から赤外域の複数の波長帯 ( バンド ) の光をバンド毎に分けて計測するマルチスペクトル ( 多波長 ) センサ 分解能 (10m) PALSAR: 衛星のアンテナよりマイクロ波を照射し その電波の反射強度を計測することにより 対象物 ( 地表面 ) の画像化を行うレーダセンサ 夜間や悪天候時であってもデータを取得することが可能 ( 分解能は 10m) 宇宙開発戦略本部リモートセンシング政策検討ワーキンググループ第 1 回会合資料より抜粋 RESTEC

センサの種類 (1) 光学センサ a) 可視 近赤外リモートセンシング太陽光が地上の物体で反射する可視光線や近赤外線をとらえて観測反射の強さより 植物 森林 田畑の分布状況 河川や湖沼 市街地等といった地表の状態を識別 b) 熱赤外リモートセンシング太陽の光を浴びて暖められた地表の表面から放出される熱赤外線をとらえて観測放射の強さにより 地面や海の表面温度 火山活動や山火事等の状況を計測 (2) マイクロ波センサ a) 能動型地球観測衛星に載せられたセンサからマイクロ波 ( 電波 ) を発射し 地表面から反射されるマイクロ波をとらえて観測地表面の状況や災害等の監視 降雨等の計測 b) 受動型地表面から自然に放射されているマイクロ波を観測自然に放射されるマイクロ波の強さは 海面温度 積雪量 氷の厚さ等を観測に最適 能動型マイクロ波センサマイクロ波散乱計土壌水分や雨などの情報 海上風の情報 代表的なマイクロ波散乱計 : TRMM/PR, SeaWinds, ADEOS NSCAT 合成開口レーダー (SAR; Synthetic Aperture Radar) 地形測量が可能 微小な地形変位を観測可能 代表的な合成開口レーダー : JERS1/SAR, ERS/SAR, RADARSAT, SIR-C その他 : マイクロ波高度計.( 通常のレーダーに近い )

マイクロ波バンド帯域 1mm~1m の波長の電磁波は マイクロ波と呼ぶが マイクロ波は さらに波長により P バンド L バンド C バンド X バンド等に分類されている 合成開口レーダでは このうち L バンド C バンド X バンドがマイクロ波リモートセンシングで使われている 低い周波数ほど透過能力が高く 雲だけでなく植生の中にも浸透する また X バンドなど高い周波数ほどターゲットの表面で散乱しやすくなる性質がある 一方 物体の大きさが波長に近い場合 共振を起こし 反射強度が強くなることがある したがって 観測しようとするターゲットの大きさと散乱性質や伝搬媒質の特徴を調べた上で レーダを設計し データを解析する必要がある 地上のより細かな状況を把握するためには 高地上分解能の実現が可能な X バンドが適していることが知られている C CCRS

SAR データの利用方法 SAR データの利用方法としては 以下の方法がある 散乱強度データの σ 0 の値を使い 判別等に使用 例えば 森林伐採や水稲の生長に伴い 反射強度が変化する 伐採監視や水田の面積を計測したりすることが可能 SAR のデータの 位相情報の利用 (Interferometry 解析 ) 地表の高度や地震による地殻変動 地下水のくみ上げによる地盤沈下等を観測 SAR のデータの 偏波の情報の利用 (Polarimetry 解析 ) 地表物からの散乱で偏波面が変化 地表物の分類 樹木の 高さと樹木の種類による偏波の反射の違いの利用 Interferometry と Polarimetry を組み合わせて バイオマス量の推定が可能 C JAXA

TRIC 2. 合成開口レーダ (SAR) の基礎

SAR 観測の基礎用語 (1) TRIC 3 4 1 2 5 1 Azimuth direction ( アジマス方向 ) SAR 搭載衛星の飛行方向 2 Slant range ( スラントレンジ ) SAR から地上の対象物までに引かれた線この線上に対象物から反射されたデータが記録される 3 Ground range ( グランドレンジ ) SAR 衛星の直下から地表面上の対象物の位置の方向 4 Swath ( スワス ) レンジ方向の画像シーンの幅 5 Range direction ( レンジ方向 ) 衛星の飛行方向から直角に対象物に向かう方向

SAR 観測の基礎用語 (1) TRIC 1 Azimuth direction ( アジマス方向 ) SAR 搭載衛星の飛行方向 1 2 Slant range ( スラントレンジ ) SAR から地上の対象物までに引かれた線この線上に対象物から反射されたデータが記録される 3 4 2 5 3 Ground range ( グランドレンジ ) SAR 衛星の直下から地表面上の対象物の位置の方向 4 Swath ( スワス ) レンジ方向の画像シーンの幅 5 Range direction ( レンジ方向 ) 衛星の飛行方向から直角に対象物に向かう方向

SAR 観測の基礎用語 (2) TRIC 衛星の進行方向後ろから見た図 1 2 5 4 地球は球形なので 2 入射角 >1オフナディア角となる 3 1 Off nadir angle ( オフナディア角 ) 衛星の直下と衛星から対象物を覗いた線とがなす角 2 Incident angle ( 入射角 ) 対象物の法線と対象物から衛星まで引いた線とがなす角 3 Far range ( ファーレンジ ) SAR が地表を照射する範囲のうち 衛星から遠い部分 4 Near range ( ニアレンジ ) SAR が地表を照射する範囲のうち 衛星に近い部分 5 Nadir ( ナディア ) 衛星から地表への真下の地点

合成開口とは レーダは 自ら電波を発出し 対象物から反射された電波を受信し映像化する 通常 レーダーで観測する場合 分解能を向上させるためにはレーダーのアンテナの指向性を絞って細いビームを照射すればよいが 指向性を高めるにはアンテナを大きくする必要がある 人工衛星からレーダー電波を照射して 地表で 10 メートル あるいはそれより高い分解能を達成するのに必要なアンテナの指向性を得るためには アンテナの大きさ 開口 が 1 キロメートルを越える 衛星に搭載する機器としては非現実的な大きさになるそのため 人工衛星の安定高速飛行を利用して レーダービームの幅全体を使用して連続観測を行う 連続観測したデータをドップラー処理することによって あたかも大きいな開口のアンテナで観測したように分解能を高めるように工夫したものが合成開口レーダである しかし 合成開口によって向上するのは衛星の進行方向 ( アジマス方向 ) の分解能だけである 直交方向 ( レンジ方向 ) の分解能を向上するにはパルス圧縮技術を用いる

合成開口の仕組み 人工衛星の安定高速飛行を利用してレーダービームの幅全体 ( 図の楕円の部分 ) を使って連続観測を行う 右の図の場合 軌道上 A から B まで 連続して観測が可能となる 地上の一点に注目した場合 SAR センサはその点からの信号を位相整合することにより 仮想的に長大なアンテナを合成することが出来る 2 3 A B 1: 地上観測点 2: 実開口レーダー 3: 合成開口レーダ 4: 地上分解能 1 4

パルス圧縮技術 合成開口技術だけでは 飛ぶ方向と直交する方向 ( レンジ方向 ) の分解能は変化しない 直交方向の分解能は アンテナと目標の間の距離分解能に依存する 高分解能を実現するためには 送信波のパルス幅を小さくすればよい パルスのエネルギーはパルスのピーク電力とパルス幅で定義されるが ピーク電力には限界があるので 必然的に パルス幅が広くなる レンジ分解能を上げるためにパルス幅を狭くするとパルスのエネルギーが小さくなり 信号対雑音比 (SNR) が低下する そこで パルス圧縮技術 ( チャープ変調 ) を用いて 送信電力を大きくしたまま見かけ上の送信パルス幅を小さくする チャープ変調とは 周波数を時間に対して直線的に変化させる変調方式である 合成開口とチャープ変調により 高高度から高い地上解像力を得ることが可能となる チャープ変調によるパルス圧縮

SAR のレンジ方向の分解能 通常レーダでは 右に示すようなパルス信号が使われてる 信号処理で重要なパラメータは パルス持続時間 (τ) とパルス繰り返し周期 T r である レンジ方向の分解能は パルス持続時間 (τ) に比例する 右の図は 左上から パルス持続時間 (τ) のレーダ パルスを照射し地上の A 点 B 点を観測しているとする この図では A 点と B 点からの信号の反射パルスは分離できるが C 点より内側は分離できなくなることがわかる 従って信号が分離できる限界はパルス持続時間 (τ) となることになる そこで SAR ではパルス圧縮技術 ( チャープ変調 ) を用いて送信電力を大きくしたまま見かけ上の送信パルス幅を小さくして分解能の向上を図っている

TRIC 3. 合成開口レーダ搭載衛星とその運用状況

SAR 搭載人工衛星一覧 現在運用している SAR 搭載衛星 ALOS-2( 日本 ) RADARSAT-2( カナダ ) TerraSAR-X Tandem-X( ドイツ ) COSMO-SkyMed ( イタリア )

ALOS-2 ALOS-2( 陸域観測技術衛星 2 号 だいち 2 号 ) は 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が 地図作成 地域観測 災害状況把握 資源調査などへの貢献を目的として開発した だいち の後継の地球観測衛星 高度 628km の太陽同期準回帰軌道を 14 日で回帰 地球観測用小型赤外線カメラ CIRC 船舶自動識別信号受信機 SPAISE2 を搭載することにより 海上における船舶の識別も可能 JAXA は尖閣諸島など領土の領有権を巡る問題への対応利用も視野 ( JAXA)

ALOS-2 搭載 PALSAR-2 の諸元 軌道高度周期軌道傾斜角赤道通過地方太陽時回帰 太陽同期準回帰軌道 628km 97 分 97.9 度 12:00±15min 14 日 観測モードスポットライトストリップマップ ScanSAR 周波数 1257.5 MHz L-band (22.9 cm wavelength) 高分解能高分解能高分解能広域観測 [3m] [6m] [10m] 1257.5 MHz or 1236.5 / 1278.5 MHz,selectable 帯域幅 84MHz 84MHz 42MHz 28MHz 14MHz 入射角 8 ~ 70 空間分解能レンジ アジマス 3 1m 3m 6m 10m 100m 観測幅レンジ アジマス 25 25km 50km 50km 70km 350km 観測可能偏波 SP SP/DP (FP: 30km) (FP:30 km) 5 ルック SP/DP/FP/ CP SP/DP/FP/ CP SP: 単偏波 (HH or VV or HV) DP: 2 偏波 (HH+HV or VV+VH 切替 ) SP/DP FP: フルポラリ (HH+HV+VH+VV) CP: コンパクトポラリ ( 試験モード )

RADARSAT-2 RADARSAT-2 は カナダ宇宙局 (CSA) と MacDonald, Dettwiler and Associates Ltd.(MDA) が共同で開発 2007 年 12 月の打ち上げ以降 すでに 6 年の運用実績 氷 環境モニタリング 災害監視 海洋での原油の流出や海上探査 洪水や積雪エリアのマッピング 地表状態 ( リニアメント ) の把握が可能 SAR は斜め方向にマイクロ波を発射し観測するが RADARSAT-2 号では左右どちらの方向にも傾けることが可能 MDA

RADARSAT-2 搭載 SAR の諸元 軌道高度周期軌道傾斜角赤道通過地方太陽時回帰 太陽同期準回帰軌道 798km 100.7 分 98.6 度 18:00( 赤道を南から北へ通過 ) 24 日 周波数 帯域幅 観測モード 5.405 GHz, C-band (5.5 cm wavelength) 11.6, 17.3, 30, 50, or 100 MHz 次のスライドに記載

RADARSAT-2 搭載 SAR の諸元 Beam modes Nominal swath width Incidence angles Nr. of looks to left or right Range x Azimuth side Spatial resolution (m) Swath coverage left or right (km) Standard 100 km 20º - 49º 1x4 25 x 28 250-750 Wide 150 km 20º - 45º 1x4 25 x 28 250-650 RADARSAT-1/2 modes with selective polarization Transmit H or V Receive H or V or (H and V) Low incidence 170 km 10º - 23º 1x4 40 x 28 125-300 High incidence 70 km 50º - 60º 1x4 20 x 28 750-1000 Fine 50 km 37º - 49º 1x1 10 x 9 525-750 ScanSAR wide 500 km 20º - 49º 4x4 100x100 250-750 ScanSAR narrow 300 km 20º - 46º 2x2 50 x 50 300-720 Polarimetric: transmit H, V on alternate pulses Receive H, V on any pulse Selective single polarization Transmit H or V Receive H or V Standard Quad polarization Fine Quad polarization New RADARSAT-2 modes (beyond those offered by RADARSAT-1) 25 km 20º - 41º 1x4 25 x 28 250-600 25 km 20º - 41º 1x1 11 x 9 400-600 Multi-look fine 50 km 30º - 50º 2x2 11 x 9 400-750 Ultra-fine 20 km 30º - 40º 1x1 3 x 3 400-550

TerraSAR-X TerraSAR-X はドイツ政府機関のドイツ航空宇宙センター (DLR) とヨーロッパの大手航空宇宙企業 EADS 社傘下の EADS Astrium 社との官民連携事業によって開発され運用されるドイツの衛星 さらに 2010 年に打ち上げられた同型の衛星 TanDEM-X( タンダムエックス ) と連携した観測を行うことで高精度の 3 次元の地形データも取得可能 衛星の運用は科学研究と商用事業に半分づつ使われる形で稼働時間をシェア これらのスケジュールされたサービスの他に TerraSAR-X は突発的な災害 自然現象への対処 DLR

TerraSAR-X SAR(TSX-SAR) の諸元 軌道高度周期軌道傾斜角赤道通過地方太陽時回帰 太陽同期 514km 94.85 分 97.4 度 18:00±15 分 ( 赤道を南から北へ通過する時刻 ) 11 日 周波数 帯域幅 観測モード 9.65 GHz, X-band (3.1 cm wavelength),31.25 81.25, 100, 150, or 300 MHz 次のスライドに記載

TerraSAR-X SAR(TSX-SAR) の諸元 撮影モード偏波標準シーンサイズ 空間分解能 レンジ アジマスプロダクト Staring SpotLight (ST) 単偏波 (HH 又は VV) 4 km 3.7 km 0.6 0.24 m 0.9-1.8 m 高分解能 SpotLight (HS) 300MHz 高分解能 SpotLight (HS) 単偏波 (HH 又は VV) 5-10 km 5 km 0.6 1.1 m 1.1-1.8 m 単偏波 (HH 又は VV) 10 km 5 km 1.2 1.1 m 1.4-3.5 m 二重偏波 (HH/VV) 10 km 5 km 1.2 2.2 m 2.2-3.3 m SpotLight (SL) 単偏波 (HH 又は VV) 10 km 10 km 1.2 1.7 m 1.7-3.5 m 二重偏波 (HH/VV) 10 km 10 km 1.2 3.4 m 3.4-3.5 m StripMap (SM) 単偏波 (HH 又は VV) 30 km 50 km 1.2 3.3 m 3.3-3.5 m 二重偏波 (HH/VV 又は HH/HV 又は VV/VH) 15 km 50 km 1.2 6.6 m 6.6 m ScanSAR (SC) 単偏波 (HH 又は VV) 100 km 150 km - 18.5-19.2 m Wide ScanSAR(WS) 単偏波 (HH 又は VV) 270 km 200 km - 40 m

COSMO-SkyMed COSMO-SkyMed はイタリアの軍事研究所と国防省が資金を出し イタリア宇宙機関 (ASI) が実施している主に地中海盆地地域を観測するための地球観測衛星システムを構築する 4 基の衛星の名称 軍民両方の使用を意図 4 基の中型衛星は高度 620km 回帰日数 16 日の太陽同期準極軌道に投入し地球全域をカバー 関心のある地域の観測はどのような天候でも 1 日に数度繰り返し観測可能 映像はイタリアやその他の国の安全保障 地震災害の解析 環境災害の監視 農業マッピングに利用 ( ASI)

COSMO-SkyMed(Synthetic Aperture Radar-2000) の諸元 軌道 太陽同期ダウンダスク軌道 高度 619.6 km 周期 97.1 分 軌道傾斜角 97.86 度 赤道通過地方太陽時 6:00 ( 赤道を南から北へ通過 ) 回帰 16 日 (4 機コンステレーションでは数時間以内に同一地点の観測が可能 ) 周波数 帯域幅 9.0 GHz, X-band (4.6 cm wavelength) 11.25, 30.0 41.25, 80.25, 108.75, 176.25, or 180.75 MHz 観測モード観測幅解像度偏波 Spotlight 10 km 10 km 1 m 以下 HIMAGE (Stripmap) 40 km 3-15 m WideRegion (ScanSAR) 100 km 30 m HH, VV, HV, または VH( いずれか 1 つ ) HugeRegion (ScanSAR) 200 km 100 m Ping Pong (Stripmap) 30 km 15 m HH, VV, HV, または VH( いずれか 2 つ )

TRIC 4. 合成開口レーダの地上分解能

合成開口レーダの地上分解能 ここでは SAR の分解能の理論式は省略し 結果を示す アジマス方向の分解能 :R a アジマス方向のアンテナ長を l [m] とすると R a = l 2 m レンジ方向の分解能 :R r チャープ信号の帯域幅をB Hz 光の速度をc m/s とすると R r = c 2B m グランドレンジの分解能は :R g 入射角をθ とすると c R g = 2B sin θ m 地上分解能を向上するのは帯域幅がキーとなる

X-Band 衛星搭載 SAR の使用帯域と 9 GHz 帯の周波数割当 TerraSAR-X 中心周波数 帯域幅 9.65GHz 300MHz COSMO-SkyMed 中心周波数 帯域幅 9.0GHz 180.75MHz 航空無線航行 (PAR) 各種レーダーシステム 9000 9100 9200 9300 9400 9500 9600 9700 9800 9900 10000 SAR センサは単バンドであるが 昼夜 天候にかかわらず孤高分解能のデータが取得できる利点を持つ DEM の作成 安全保障 地震災害の解析 環境災害の監視 農業マッピング等の SAR データの主利用目的には高分解能でさらに精度の高いデータが必要と考えられる 高分解能データにより SAR 画像特有のスペックルノイズの改善のためのルック処理の効果が向上する ユーザーの立場としては SAR の高分解能化は解析精度を向上のための急務であると考える

TRIC 補足

インターフェロメトリ処理 SAR によって観測されるデータには 後方散乱の情報に加えて 軌道上の SAR と地上の観測対象との間の距離に依存するマイクロ波の位相情報が含まれている インターフェロメトリ処理とは 軌道上にある衛星に搭載された SAR が極めて近い位置から観測した 2 つの観測データを干渉させて位相情報の差を解析するものであり 標高データの作成や地形の変移を計測する手法 なお 干渉させる 2 つの SAR 画像のうち 一方を マスタ画像 もう一方を スレーブ画像 と呼ぶ インターフェロメトリ処理を行うことで 標高データの算出が可能 差分インターフェロメトリ処理を行うことで 地形変移を抽出することが可能 標高データ算出処理の概要 SAR のインターフェロメトリ処理による標高データの算出の幾何学的な原理は以下の図に示す図より 標高 (h) は以下の式で算出することができる h = H - r cos θ ここで 衛星の高度 (H) と 衛星と観測対象の距離 (r) は衛星の軌道や姿勢データから取得それより θ( オフナディア角 ) の値を求め 標高 (h) を算定するこのオフナディア角を r に起因する 2 つの SAR 画像の位相差から算定することが SAR インターフェロメトリ処理による標高データ算出の原理であるなお 衛星の高度 (H) と 衛星と観測対象の距離 (r) を正確に定めることが 標高データの精度に大きく影響するよって 衛星の軌道データや姿勢データの精度は SAR インターフェロメトリ処理による標高の算出に極めて重要な要素となる JAXA

TerraSAR-X TanDEM-X コンステレーションシステム 近接した軌道をフォーメーション飛行する 2 機 SAR 衛星によるコンステレーション (TerraSAR-X TanDEM-X) TerraSAR-X TanDEM-X コンステレーションシステム ( 右上 ) タンデム軌道 ( 右中 ) 取得した DEM で作成した Iceland の鳥瞰図 ( 右下 ) DLR

TerraSAR-X TanDEM-X 解析例 資源監視 TanDEM-X Digital Elevation Model Brown Coal Mining Hambach, Germany DLR

TerraSAR-X TanDEM-X 解析例 海氷の観測例 ( 精度検証 ) DLR

TerraSAR-X TanDEM-X 解析例 DEM の精度の比較 SRTM: 2000 年の STS-99 ミッション スペースシャトルに搭載したレーダーで 地球の詳細な数値標高モデルを作製することを目的としたミッション SRTM(2000) TanDEM-X (2013) WorldDEM: NASA TerraSAR-X TanDEM-X で作成した 12 (m) 解像度の DEM

COSMO-SkyMed コンステレーションシステム 4 機コンステレーション 同一軌道上に 4 機の衛星を配置することで高い撮影頻度を実現している COSMO-SkyMed constellation in nominal configuration( 図上 ) Tandem-like interferometry 一日後の観測データをペアで使用可能 Tandem interferometric configuration in different orbital planes ( 図下 ) (image credit: ASI)

COSMO-SkyMed 解析例 1 差分インターフェロメトリ処理による地形変移抽出例 A magnitude 6.0 earthquake struck southern Napa county northeast of San Francisco, CA, on Aug. 24, 2014 COSMO-SkyMed interferogram showing the South Napa earthquake deformation field (image credit: ASI, UB, NASA, ARIA)

COSMO-SkyMed 解析例 2 高い撮影頻度を生かした災害 事故等の監視例 The ocean liner hit a reef on January 13, 2012 and tipped over. The Costa Concordia was carrying about 3,200 passengers and a crew of 1,000 when it ran aground, according to news reports. The accident killed 11 people, with more than two dozen others still missing (as of January 20, 2012). COSMO-SkyMed radar image (left) showing the catastrophy of the Costa Concordia ship on the island of Giglio, Italy (image credit: ASI)