報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

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( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

報道発表資料 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - ポイント 細胞内のイノシトール三リン酸(IP3) を高効率で可視化可能

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 20 日 独立行政法人理化学研究所 アルツハイマー病の原因となる アミロイドベータ の産生調節機構を解明 - 新しいアルツハイマー病治療薬の開発に有望戦略 - 高年齢化社会を迎え 認知症に対する対策が社会的な課題となっています 国内では 認知症

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2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3


化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

第三問 : 認知症の主な症状にどのようなものがあるか 下枠に二つ記入してください 例 ) 同じことを何度も言うなど ( 答えはたくさんあります ) 例 ) ささいなことで怒るなど ( 答えはたくさんあります ) 第四問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

報道発表資料 2006 年 4 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 躁 ( そう ) うつ病 ( 双極性障害 ) にミトコンドリア機能障害が関連 - 躁うつ病の発症メカニズム解明につながる初めてのモデル動物の可能性 - ポイント 躁うつ病によく似た行動異常を引き起こすモデル動物の開発に成功 ミト

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

の遺伝子の変異が JME 患者家系で報告されていますが ( 表 1) これらは現在のところ 変異の報告が一家系に留まり多くの JME 家系では変異が見られない もしくは遺伝学的な示唆のみで実際の変異は見つかっていないなど JME の原因遺伝子とはまだ確定しがたいものばかりです 一方 JME の主要な

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

報道発表資料 2002 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 局所刺激による細胞内シグナルの伝播メカニズムを解明 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 細胞の局所刺激で生じたシグナルが 刺激部位に留まるのか 細胞全体に伝播するのか という生物学における基本問題に対して 明確な解答を与えま

生物時計の安定性の秘密を解明

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

( 図 ) 顕微受精の様子

1. 背景コンピュータが目覚ましく進歩し 演算速度や記憶容量の大きさでは人の脳を凌駕するスーパーコンピュータも出現してきました しかし 言語を用い 直観を働かせ 抽象や概念を形成し 問題への解答を見いだし 自分自身を改善する 人間のような思考能力を持つ人工知能の実現にはまだ遠い道のりがあるように見え

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

報道発表資料 2001 年 3 月 8 日 独立行政法人理化学研究所 脳内の食欲をつかさどるメカニズムの一端を解明 - ムスカリン性受容体欠損マウスはいつでも腹八分目 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 脳の食欲をつかさどる情報伝達にはムスカリン性受容体が必須であることを世界で初めて発見し

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

学位論文の要約

平成14年度研究報告

論文の内容の要旨

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 12 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 DNA の量によって植物の大きさが決まる新たな仕組みを解明 - 植物の核内倍加は染色体のセット数を変えずに DNA 量を増やすメカニズムが働く - 生命の設計図である DNA が 細胞の中で増えたらどうなるので

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

Microsoft Word - tohokuuniv-press _03(修正版)

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図ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

函館市認知症ケアパス

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

報道発表資料 2008 年 7 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 単語やメロディーの切れ目に対応する脳活動の記録に成功 - 分節化進行過程の神経活動を 世界で初めて生理学的手法で観察 - ポイント 連続音声に含まれる単語やメロディーの切れ目だけに出現する脳波を発見 脳波の強さは音声分節化と統計

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

スライド 1

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

長期/島本1

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

1. 背景ヒトの染色体は 父親と母親由来の染色体が対になっており 通常 両方の染色体の遺伝子が発現して機能しています しかし ある特定の遺伝子では 父親由来あるいは母親由来の遺伝子だけが機能し もう片方が不活化した 遺伝子刷り込み (genomic imprinting) 6 が起きています 例えば

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ス ペ クト ドパミン神経の状態をみるSPECT検査 検査の受け方 診察を受けます 疑問や不安がありましたら 納得が 検査前 ス ペ クト いくまで確認しておきましょう 新しいSPECT検査 検査の予約をしてください 検査に使う薬は検査当日しか 使えませんので 確実に来られる 日に予約してください

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - 脳が次第に萎縮していき 記銘力の低下 記憶の低下 被害妄想 徘徊行為などと症状が進行すると 介護上大きな困難を伴うアルツハイマー病は 高年齢化社会が抱える深刻な問題となっています ドイツの精神医学者のアロイス アルツハイマーが 嫉妬妄想 記憶力の低下などに悩んだ患者を診断 症状などを 1906 年にドイツの精神医学会で発表し 世界に知られるようになりました 認知症の一つであるこの病気は 老化に伴って脳の嗅内野に 神経原繊維変化 と呼ばれる過剰リン酸化タウタンパク質の凝集体が形成され この凝集体が海馬や大脳新皮質まで広がって発症します 私たちは経験上 年をとると物忘れしやすくなりますが 過剰リン酸化タウタンパク質と記憶障害との関係は解っていませんでした 理研脳科学総合研究センターアルツハイマー病研究チームは 野生型ヒトタウタンパク質を発現するモデルマウスが 老化に伴って記憶障害を起こしていることを発見しました マンガン増強 MRI 法を使って神経細胞の活動を観察したところ モデルマウスでは 嗅内野の神経活動が低下していました ここでは神経原線維変化は見られず 過剰リン酸タウタンパク質が蓄積して 神経活動のもととであるシナプスの数を減少していることを突き止めました 今回 アルツハイマー病の発症に関与する過剰リン酸化タウタンパク質が 脳の老化に伴う記憶障害にも関係していることを世界で初めて明らかにしました リン酸化したタウタンパク質はリン酸化阻害酵素で普通の状態に戻すことができ 治療が可能です アルツハイマー病の早期発見や早期治療につながる研究成果と期待されます ( 図 ) 老年マウスの場所学習時の脳活動パターン

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタンパク質がシナプスを消失させ 神経機能が低下 早期記憶障害の発見が アルツハイマー病の診断 治療を可能に独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は 脳の老化に伴い記憶障害を起こすモデルマウスを用い アルツハイマー病発症に関与する過剰リン酸化タウタンパク質 1 が 脳老化記憶障害の機序にも関与することを解明しました 理研脳科学総合研究センター ( 甘利俊一センター長 ) アルツハイマー病研究チームの高島明彦チームリーダー 木村哲也専門職研究員らによる成果です ヒトでは 老化に伴って 脳の嗅内野 ( 感覚神経から記憶の中枢である海馬へ情報を橋渡しする領域 ) に 神経原線維変化と呼ばれる過剰リン酸化タウタンパク質の凝集体が形成されます アルツハイマー病では この神経原線維変化が 海馬や大脳新皮質にまで拡大し 記憶障害から認知症を引き起こすことが知られていますが 過剰リン酸化タウタンパク質と記憶障害との関連は不明なままでした 研究チームは 野生型ヒトタウタンパク質を発現するマウスを作製し 老化に伴う学習記憶機能を調べたところ このモデルマウスでは 神経原線維変化を形成することなく学習記憶障害が起きていることを発見しました この記憶障害の原因を機能的マンガン増強 MRI 法 ( 神経活動に伴ったマンガンイオンの蓄積を利用した機能的 MRI 法 ) を用いて調べ モデルマウスでは 老化に伴って嗅内野での神経活動が低下していることを明らかにしました さらに その神経活動低下の原因を調べてみたところ 過剰リン酸化タウタンパク質が神経細胞内に蓄積し 神経原線維変化以前に シナプス数の減少を引き起こしていることがわかりました このことは 脳の老化により嗅内野に過剰にリン酸化されたタウタンパク質が蓄積すると シナプスを消失させ それに伴って神経機能低下が起こり 記憶障害を生じるようになることを 世界に先駆けて実証した研究成果といえます 過剰にリン酸化されたタウタンパク質は リン酸化酵素阻害剤で普通の状態に戻すことができます 神経原線維変化以前の早期の記憶障害を見つけることができれば 治療が可能となり アルツハイマー病の早期発見 早期治療につながることが期待できます 本研究成果は 欧州の分子生物学会の学術雑誌 The EMBO Journal オンライン版 (11 月 15 日付け : 日本時間 11 月 16 日 ) に近く掲載されます 1. 背景過剰にリン酸化されたタウタンパク質の細胞内凝集 ( 神経原線維変化 ) は β アミロイドタンパク質 2 の細胞外蓄積 ( 老人斑 ) とともに アルツハイマー病脳で顕

著に観察される病理的特徴です また 神経原線維変化の分布と認知障害の程度には相関があるとされています ヒトでは 老化に伴って 嗅内野と呼ばれる脳内部位で最初に神経原線維変化が観察され これが加齢に応じて老人斑の出現とともに脳全体に広がり アルツハイマー病に至るとされています 嗅内野における神経原線維変化は β アミロイドタンパク質と独立して形成されるため 老化が要因となって神経原線維変化を形成すると考えられます 脳老化は漠然とした現象で 何をもって老化とするのか明らかではありませんが 私たちは経験上 歳を取ると物忘れをしやすくなるということを感じます この脳老化の秘密を探る上で大きなヒントとなるのが 嗅内野で神経原線維変化が形成されるという病理的な観察結果と 私たちが感じている物忘れという現象です 神経原線維変化が起きるということは タウタンパク質が脳の老化に関与しているということを示し 物忘れというのは 記憶の形成と維持に重要な役割を果たしている嗅内野と海馬が関与していることを示しています これまでに これら二つの事象を結びつけた研究は行われてきませんでした その理由は 野生型のタウタンパク質を発現して加齢とともに記憶障害を示すモデルマウスがなかったこと また記憶活動をしている時の動物脳全体の神経活動を観察する手段がなかったことによります 研究チームはまず ヒト野生型タウタンパク質を発現するマウスを用いて 若齢期と高齢期の学習記憶行動を調べました さらに 機能的マンガン増強 MRI 法 ( 神経活動に伴ってマンガンイオンが神経細胞内に蓄積する現象を利用した機能的 MRI 法 ) を用いて 記憶障害を引き起こす原因となる場所を特定することができました そして その部位で起こっている病理学的変化 生化学変化を調べることで 脳老化の秘密に迫ることが可能になりました 2. 研究手法研究チームでは CAM kinase II プロモーター 3 によってヒト野生型タウ遺伝子を前脳特異的に発現するモデルマウス タウマウス を作製しました このマウスは 12 ヶ月齢までは行動異常を示さなかったので これまで FTDP17( 前頭側頭痴呆 ) 突然変異をもつタウ遺伝子を発現するモデルマウスの対照動物として用いてきました 今回 タウマウスの高齢動物をたまたま調べたところ 記憶障害を起こしていました そこで タウマウスの学習機能と神経活動の解析を行いました 学習記憶行動を確かめる実験には モリス水迷路を用いました この行動試験では 動物をプール内で泳がせ 周辺の風景を頼りに隠れたプラットホーム ( 足場 ) を探すトレーニングを行います 通常はトレーニングを行うと容易にプラットホームを探すことができるようになります この時 脳内で主に使われているのが嗅内野 海馬です したがって 嗅内野 海馬に障害が起こると プラットホームの場所を認識し記憶することができず トレーニングを行ってもプール内のプラットホームにたどり着けなくなります 神経細胞の活動の観察には 機能的マンガン増強 MRI 法を用いました マンガンは MRI の造影剤の 1 つで カルシウムチャンネルを介して神経細胞内に流入します 神経が活動するとカルシウムが細胞内に流入し 伝達物質の開口放出を行ったりします マンガン存在下では このカルシウムの流入時にマンガンも同時に神経細胞内に流入し 活動している神経細胞群を MRI で強調シグナルとして視覚化すること

ができます 学習記憶行動の前のマウスにマンガンを注射し その後 学習記憶行動を行います 学習記憶行動時に活動した神経細胞群には マンガンが流入し細胞内に溜まっています これを MRI によって観察し 活動した部位の画像を取得します 本研究では 行動学 機能的マンガン増強 MRI 法 生化学解析 病理学的解析を用いた統合的な解析によって 過剰にリン酸化したタウタンパク質が嗅内野の神経活動低下を引き起こすことを見いだしました 3. 研究成果タウマウスでは ヒトタウタンパク質を発現していないマウスに比べ 老化に伴った記憶障害が促進されていました ( 図 1) この時 機能的マンガン増強 MRI 法を使って神経活動を観測したところ 嗅内野神経活動が不活性化していました ( 図 2) さらに 嗅内野を詳しく解析すると 神経原線維変化や神経細胞の脱落は観察されず 過剰リン酸化されたタウタンパク質が神経細胞内に蓄積し その部位のシナプス数を減少させていることを見いだしました ( 図 3) シナプスとは 神経細胞同士の連結する構造であり シナプス数の減少が この部位の神経活動低下を引き起こしていることが示されました 重要なことに このモデルマウスにおけるシナプス数の減少は 神経細胞数の減少によるものではありませんでした これらのことから 過剰にリン酸化されたタウタンパク質は 直接シナプスの減少を引き起こし 加齢依存的な記憶障害を誘導していることが示されました このことはアルツハイマー病における最初の記憶障害がタウタンパク質の過剰リン酸化で引き起こされていることを示唆します この一連の研究は 脳の老化に伴って嗅内野に蓄積するタウタンパク質と記憶障害の関係を世界に先駆けて実証する成果となりました 4. 今後の期待過剰にリン酸化されたタウタンパク質は リン酸化酵素の阻害剤で普通の状態に戻すことができます 今回の成果から 神経原線維変化ができる前の早期の記憶障害を見つけることができれば治療が可能となり アルツハイマー病の早期発見が早期治療につながることが示されました さらに このモデルマウスを用いることで 老化 またはアルツハイマー病の初期の記憶障害の治療薬の開発に寄与することができると考えられます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センターアルツハイマー病研究チームチームリーダー高島明彦 ( たかしまあきひこ ) Tel : 048-467-9704 / Fax : 048-467-5916 脳科学研究推進部嶋田庸嗣 ( しまだようじ ) Tel : 048-467-9596 / Fax : 048-462-4914

( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 タウタンパク質微小管結合タンパク質の一つ アルツハイマー病の脳では過剰にリン酸化されたタウタンパク質の沈着物 ( 神経原線維変化 ) が神経細胞内に観察される 2 β アミロイドタンパク質 39-42 個のアミノ酸よりなるペプチド 大脳皮質で 老人斑を形成する 3 CAM kinase II プロモーター CaM kinase II は 前脳特異的に発現しており その発現制御領域 ( プロモーター ) を用いることで外来性のタンパク質を前脳特異的に発現させることができる 図 1 モリス水迷路による学習機能の評価 失敗の程度は ネズミが不可視プラットホームに到達するまでの間違いの多さを示す 老年正常マウスでは学習によって間違いが減少したが 老年タウマウスでは減少しなかった タウマウスは 老化に伴って場所学習に障害を受けることを示す 用いたネズミはそれぞれ 15-25 匹

図 2 老年マウスの場所学習時の脳活動パターン タウマウスでは 老化に伴って嗅内野の神経活動が抑制されていた (A C) マウス脳の冠状断面 (B D) マウス脳の水平断面 rf: 嗅脳溝 図 3 老年タウマウスにおける学習レベルと嗅内野の神経活動 老年タウマウスにおける学習レベルと嗅内野の神経活動はよく相関しており ( 図右 : 赤が相関の高いところ 黒は相関の無い領域 ) このことから嗅内野の神経活動の低

下が 場所学習障害の主要因と考えられた また 過剰リン酸化したタウタンパク質の蓄積は嗅内野に見られた ( 図左 : 赤くなるほどタウタンパク質が過剰にリン酸化されていることを示す )