図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

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年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

第6号-2/8)最前線(大矢)

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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第86回日本感染症学会総会学術集会後抄録(I)

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

石黒和博 1) なお酪酸はヒストンのアセチル化を誘導する一方 で tubulin alpha のアセチル化を誘導しなかった ( 図 1) マウスの脾臓から取り出した primary T cells でも酢酸 による tubulin alpha のアセチル化を観察できた これまで tubulin al

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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平成24年7月x日

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 12 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 免疫の要 NF-κB の活性化シグナルを増幅する機構を発見 - リン酸化酵素 IKK が正のフィーッドバックを担当 - 身体に病原菌などの異物 ( 抗原 ) が侵入すると 誰にでも備わっている免疫システムが働いて 異物を認識し 排除するために さまざまな反応を起こします その一つに 免疫細胞である B 細胞が 異物と特異的に反応する抗体を産生する防御システムがあります この防御システムでは 進入してきた異物 ( 抗原 ) を B 細胞の表面にある抗原受容体 (BCR) が受け取り 細胞内でシグナルを発します シグナルは さまざまな経路を通って 細胞の核内に伝わっていき 細胞の機能や増殖 分化を決定する転写因子 NF-κB を活性化します さらに 活性化した転写因子は B 細胞自身を活性化し 免疫応答に必要な遺伝子を発現させます このように 転写因子 NF-κB は防御システムの要といわれています この転写因子を活性化する分子が欠けると 免疫不全症を引き起こし 逆に過剰になると自己免疫疾患やがんを発症します 理研免疫 アレルギー科学総合研究センター分化制御研究グループは この免疫防御システムの要となっている転写因子 NF-κB を活性化するシグナルを さらに増幅するフィードバック機構を発見しました この発見は 転写因子の活性化に関わっていたリン酸化酵素 IKK が 活性化シグナルのフィードバックを形成して シグナルを増幅するという新たなシステムです 発見したシステムは これまでまったく知られていなかった機構であり 転写因子を微妙に制御調節する可能性が示されました がんや自己免疫疾患 免疫不全などさまざまな疾患を制御する治療法を導く成果として期待されています

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2007 年 12 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 免疫の要 NF-κB の活性化シグナルを増幅する機構を発見 - リン酸化酵素 IKK が正のフィーッドバックを担当 - ポイント NF-κB 活性化に新しい概念を提唱 フィードバック機構の主役は IKK とアダプタータンパク質 CARMA1 自己免疫疾患やがん 免疫不全などへの応用に期待独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は 免疫細胞において 細胞増殖やがんの誘導に関わる転写因子 Nuclear Factor-κB (NF-κB) の活性化シグナルを増幅するフィードバック機構を発見しました これは 理研免疫 アレルギー科学総合研究センター ( 谷口克センター長 ) 分化制御研究グループの黒崎知博グループディレクターと篠原久明研究員らによる研究成果です 細菌などの病原体が身体に侵入してくると 免疫系がそれを異物 ( 抗原 ) として認識 排除するための様々な反応を発動します B 細胞による抗体の産生は その重要な反応のひとつです B 細胞の表面にある抗原受容体 (BCR) が抗原を受け取ると 細胞内でシグナルが誘導されます シグナルは 多様な経路をたどり 核内に伝わって 機能 増殖 分化を決定する転写因子を活性化します 活性化した転写因子は B 細胞の活性化や免疫応答に必要な遺伝子を発現させます 転写因子である NF-κB は このような B 細胞活性化の中心的役割を担っています したがって NF-κB の活性化に関わる分子が欠損すると 免疫不全を招き 逆に NF-κB の過活性は 自己免疫疾患やがんを誘導します このことから NF-κB 活性化の機構を理解し 適切に調節することが これらの病気を制御するために大切と考えられます これまで NF-κB の活性化には IKK というリン酸化酵素が関わることが知られていました 研究チームは B 細胞で NF-κB が活性化する機構を調べ IKK が NF-κB 活性化シグナルのフィードバックループを形成し シグナルを増幅していることを発見しました このような NF-κB 活性化の機構は これまで知られていなかった全く新しいものです NF-κB 活性化シグナルの増幅機構を調節することによって これまで困難であった NF-κB 活性の上昇や減少といった微妙な調節が可能となることが期待できます 自己免疫疾患やがん 免疫不全など様々な疾患を人為的に制御するために 有効なターゲットであると考えられます 本研究の成果は 米国の科学雑誌 The Journal of Experimental Medicine オンライン版 (12 月 17 日付け : 日本時間 12 月 17 日 ) に掲載されます 1. 背景細菌などの病原体が身体に侵入してくると 免疫系がそれを異物 ( 抗原 ) として認識 排除するための様々な反応を発動します B 細胞による抗体の産生は その

重要な反応のひとつです B 細胞の表面にある抗原受容体 (BCR) が抗原を受け取ると 細胞内でB 細胞の機能 増殖 分化などを決定するシグナルを誘導します シグナルは 多様な経路をたどり 核内の転写因子を活性化します 活性化した転写因子は B 細胞の活性化や免疫応答に必要な遺伝子を発現させます 転写因子である NF-κB は B 細胞の活性化に関与し この過程の中心的役割を担っています NF-κBの活性化に関わる分子が欠損すると 免疫不全を招き 逆にNF-κBの過活性は 自己免疫疾患やがんを誘導することが知られています このことから NF-κB 活性化の機構を理解し 適切に調節することが これらの病気を制御するために大切と考えられます B 細胞抗原受容体からどのようにシグナルが伝わって NF-κBの活性化まで至るのか この数年間に盛んに研究されてきました NF-κBの活性化には α β γの 3 つのサブユニットからなる IKK 1 というリン酸化酵素が重要です また 腫瘍形成に関与するとされるアダプタータンパク質 Bcl10 およびBcl10 と結合して複合体を形成し リンパ球の活性化に関わるアダプタータンパク質 CARMA1 2 が必須であることも明らかになってきました さらに 最近になって 研究チームは CARMA1 には Bcl10 の他にTAK1 という酵素が会合すること そして このTAK1 がIKKを活性化し その結果 NF-κBの働きが活発になる という経路を明らかにしました (J Exp Med, Vol.202 1423-1431, 2005)( 図 1) 本研究では さらに CARMA1 がどのようにIKKの活性化を調節するのか B 細胞を使って詳細に研究しました 2. 研究手法と成果 B 細胞の抗原受容体が抗原を受け取ると その刺激によって PKCβ という酵素が CARMA1 をリン酸化します PKCβ によってリン酸化した CARMA1 は Bcl10 や TAK1 と複合体を形成し 下流の IKK さらに NF-κB を活性化します ( 図 1) 研究チームは CARMA1 の役割を調べるため 機能的に重要ではないかと予測される部位に変異を誘導し 9 種類の変異型 CARMA1 を作製しました CARMA1 を欠損した細胞に これらの変異型 CARMA1 をそれぞれ導入し IKK の活性を測定しました その結果 IKK の活性化には CARMA1 の複数のアミノ酸部位のリン酸化が関わっていることがわかりました そこで これらの部位をどの酵素がリン酸化するのかを調べました PKCβ PDK1 IKKβ といったリン酸化酵素を欠損させた細胞で アミノ酸部位にリン酸化が起きるかどうかをそれぞれ観察しました この結果 意外にも IKKβ が上流の CARMA1 に 2 回目の活性化を起こすことがわかりました ( 図 2) IKK のサブユニット IKKβ は PKCβ とは異なる CARMA1 のアミノ酸部位 (578 番目のアミノ酸 ) を狙ってリン酸化していました CARMA1 の複数のリン酸化は IKK をさらに活性化します こうしたシグナルの増幅によって NF-κB を活性化するのに十分な IKK の活性を誘導できるようになる と考えられました このような NF-κB の活性化シグナルの正のフィードバックループは これまで全く考えられていなかった機構で NF-κB の調節に新しい概念をもたらすものです ( 図 1)

3. 今後の展開本研究で明らかになった NF-κB の活性化シグナルの増幅機構は 迅速な免疫反応を可能にするための生体メカニズムであるかもしれません この増幅シグナルを調節することで NF-κB の活性をやや上昇させる あるいはやや減少させるといった 微妙な調節が可能になると期待されます このように NF-κB の活性を適切に調節することは がんや自己免疫疾患 免疫不全など 様々な疾患を人為的に制御する上で 大変重要です 今後 この NF-κB の活性化シグナルの増幅機構は これらの疾患への治療応用に向けて有効なターゲットになると考えられます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所免疫 アレルギー科学総合研究センター分化制御研究グループグループディレクター黒崎知博 ( くろさきともひろ ) Tel : 045-503-7019 / Fax : 045-503-7018 横浜研究推進部企画課 Tel : 045-503-9117 / Fax : 045-503-9113 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 IKK リン酸化酵素セリンスレオニンキナーゼの種類のひとつ B 細胞が刺激を受け取ると IKKα IKKβ IKKγ 複合体が活性化し NF-κB のインヒビター (IκBα) をリン酸化する リン酸下を受けた IκBα が分解されることで NF-κB は核へ移行し 転写因子として活性化する 2 CARMA1 B 細胞のシグナル伝達を転写因子 NF-κB に結びつけるアダプター分子 B 細胞が刺激を受け取り CARMA1 を PKCβ がリン酸化すると CARMA1 は TAK1 Bcl10 と複合体を形成し さらに IKK 複合体とも会合して これを活性化する

図 1 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル B 細胞抗原受容体 (BCR) が抗原を受け取ると チロシンリン酸化酵素が活性化して PLC-γ2 をリン酸化し これによって PKCβ が活性化する 活性化した PKCβ は CARMA1 タンパク質をリン酸化する (1) TAK1 はリン酸化した CARMA1 タンパク質に会合し活性化する (2) 一方 IKK 複合体は Bcl10 を介し CARMA1 タンパク質に会合する (3 4) CARMA1 タンパク質と会合した TAK1 は同時に CARMA1 タンパク質と会合する IKK にアクセスし IKK をリン酸化して活性化する (5) IKK は NF-κB の核内移行 転写活性化を促進する (6) とともに CARMA1 タンパク質に第 2 のリン酸化を起こし NF-κB の活性を増幅させる

図 2 IKK による CARMA1 のリン酸化 IKK のサブユニット IKKβ は CARMA1 タンパク質の 578 番目のアミノ酸をリン酸化し 活性を増幅する ( 最上段右から 2 列目 )