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146 研究ノート Research Note 研究ノート 全面禁煙規制 分煙規制に対する経済的影響の事前評価 神谷伸彦平野公康望月友美子武谷香 要 約 英国 米国 カナダ ニュージーランド等多くの主要先進国では 規制導入の検討過程で 便益 費用の数量化による経済的影響の事前評価 (Regulatory Impact Assessment: 以下 RIA) が導入されている 英国では 2007 年より屋内公共施設 職場での喫煙が全面的に規制されているが 規制導入の検討過程で RIA が実施された その結果 全面禁煙規制を実施することで 社会全体に約 2,100 百万ポンド ( 約 3,000 億円 ) のプラスの経済的影響が発生すると推計された 今回 英国の RIA に倣って 我が国でも屋内公共施設 職場での規制に対して RIA を実施した 我が国では分煙を推進すべきだという声もあることから 全面禁煙規制を実施した場合と分煙規制を実施した場合それぞれの経済的影響を推計した その結果 全面禁煙規制を実施した場合は 4 兆 1,544 億円のプラスの経済的影響 分煙規制を実施した場合は 1 兆 2,628 億円のマイナスの経済的影響が発生すると推計された 分煙規制は 我が国が批准しているたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約 ( 以下 WHO FCTC) の目的に反しているばかりか 社会全体にマイナスの経済的影響を生じさせるため 全面禁煙規制の実施について前向きに検討するべきである 目 次 1. 背景及び目的 2. 主要先進国と比較した我が国のたばこ規制の現状 3.RIA の方法 4.RIA の結果 5. 考察

全面禁煙規制 分煙規制に対する経済的影響の事前評価 147 Research Note Preliminary Evaluation of Economic Effect of Control by Overall Nonsmoking/Separation of Smoking Areas Nobuhiko Kamiya, Tomoyasu Hirano, Yumiko Mochizuki, Kaori Taketani Summary In major advanced countries such as England, the United States, Canada and New Zealand, a preliminary evaluation of economical effects (Regulatory Impact Assessment: hereinafter referred to as the RIA)through quantification of benefit and cost has been introduced in the process of study on regulation introduction. In England, smoking in indoor public facilities and workplaces has been prohibited outright since 2007, and the RIA was implemented in the process of study on the prohibition. As a result, it was estimated that implementation of outright prohibition of smoking would bring a positive economic effect of about 2,100 million pounds (about 300 billion yen)to the whole of society. After the example of the RIA in England, this RIA was implemented for control in indoor public facilities and workplaces in Japan. Since there have been voices in Japan that separation of smoking areas should be promoted, the individual economic effects of outright prohibition of smoking and separation of smoking areas were estimated. As a result, it was estimated that a positive economic effect of 4154.4 billion yen would be generated in the case of outright prohibition of smoking and a negative economic effect of 1262.8 billion yen would be generated in the case of separation of smoking areas. Control by separation of smoking areas not only defeats the purpose of the World Health Organization Framework Convention on Tobacco Control (hereinafter referred to as the WHO FCTC)which Japan has ratified, but also generates negative economic effects on the whole of society. Therefore, implementation of outright prohibition of smoking should be studied progressively. Contents 1.Background and Purpose 2. Current Status of Tobacco Control in Japan in Comparison with That in Major Advanced Countries 3.RIA Method 4.RIA Result 5.Consideration

148 研究ノート Research Note 1. 背景及び目的 WHO FCTC の締約を機に 現在 主要先進国でたばこの規制に向けた取り組みが強化されている 中でも英国では 2007 年より屋内公共施設 職場での喫煙が全面的に規制されているが 規制導入の検討過程で RIA *1 が実施され 全国的な完全禁煙を行った場合 地方の規制に委ねた場合 例外を設けた全面規制を行った場合 自主努力に任せた場合 ( 現状維持 ) の 4 つの政策オプションが比較された 1) その結果 全国的な完全禁煙を行った場合 社会全体に約 2,100 百万ポンド ( 約 3,000 億円 ) のプラスの経済的影響 1) が発生すると推計されたことから 政府の白書で支持された 例外を設けた全面規制 を上回って 例外のない 全国的な完全禁煙 のオプションが議会によって支持され 最終的に選択された 英国以外でも 米国 カナダ ニュージーランド等多くの主要先進国で 規制導入の過程において その規制による社会的な影響 ( 便益 コスト リスク等 ) の事前評価が導入されている そこで 我が国においても 屋内公共施設 職場における全面禁煙規制と分煙規制 *2 の RIA を実施して 政策選択の判断材料として提出することを目的とした 2. 主要先進国と比較した我が国のたばこ規制の現状 WHO FCTC 第 8 条 ( タバコの煙にさらされることからの保護 ) についてはガイドラインが策定され 100% 禁煙を法的に実施することが求められていることから 主要先進国では全面禁煙規制の流れが大勢を占めている 特に アイルランド 英国 イタリア フランス等では 屋内公共施設 職場での喫煙を全面的に規制し 受動喫煙の防止に努めている 具体的には フランスでは 店頭販売を除くあらゆる形態のたばこ広告が禁止されているのに加え 公共の場所での喫煙が複数の法律によって厳しく規制されている [1] 英国での取り組みは前述の通りである 一方 我が国では 1990 年代半ばより 屋内公共施設 職場における受動喫煙防止のための規制について議論されているものの 健康増進法 及び 快適職場指針 では努力義務にとどまっている また たばこ規制に対して RIA が実施されたこともなく 我が国のたばこ政策は他の主要先進国と比べて不十分であることは否めない 2010 年 4 月 1 日 ようやく神奈川県で民間企業も含む屋内施設での喫煙を規制する 受動喫煙防止条例 が施行されたが あくまで分煙規制にすぎない 我が国は WHO FCTC の締約国として 国民の健康増進のために主要先進国と共通した対策を実施するとともに 国内事情で対策が遅れている領域について国際的な水準に引き上げることが求められている *1 RIA とは 行政府が規制を導入しようとする際に 事前に その規制を導入する 必要性 や 代替案 導入及び実施に要する 費用 と期待される 便益 等を分析して 立法者や利害関係者 国民等に提示し対話することで 規制導入に向けた 共通の理解 を図るための分析手法である 2) 本稿における 便益 費用 は行政府 ( 政府 ) の立場から見たものとする * 2 分煙規制は 全事業所に対して喫煙所の設置を義務付けるものであるが 飲食店 宿泊業に対しては 従業員によるサービスの提供が可能な喫煙室の設置を認めるものとする

全面禁煙規制 分煙規制に対する経済的影響の事前評価 3 RIA の方法 英国の RIA に倣い 我が国の RIA で算出する項目を検討 決定する 表 1 本研究では が付された項目についてのみ対象とし はデータ不足のため算出しない なお は対象となり得ない項目である そして 各項目について我が国に適した試算方法を 用い 我が国の屋内公共施設 職場における全面禁煙規制に対して RIA を実施する なお 分煙規制については 英国を初めとする主要先進国で事例がないものの 我が国に おいては採用 実施される可能性がある なぜなら 2006 年 3 月には効果的な空間分煙対 策推進検討委員会による報告書が出されていたり 前述の神奈川県 受動喫煙防止条例 に 分煙が盛り込まれていたりするからである そのため 分煙規制に対しても RIA を実施す る必要があると判断する 表 1 算出項目一覧 項番 便益 損失 算出項目 1 受動喫煙による死亡の防止 2 直接喫煙による死亡の防止 3 医療費の削減 国庫負担の減少 4 喫煙者の喫煙による疾患の休業時間の削減 5 喫煙者の喫煙休憩時間の削減 6 火災による財産損失 死亡 負傷の防止 7 たばこのために要する清掃費の削減 8 規制実施のために要する費用の増加 9 規制未実施の施設に対する執行費用の増加 10 規制実施のために要する教育費の増加 11 たばこ税収の減少 12 たばこ関連産業の売上の減少 13 意図しない結果 14 従業員の屋外喫煙増加による喫煙休憩時間の増加 15 顧客の屋外喫煙増加による飲食店の売上の減少 禁煙 分煙 作成 三菱総合研究所 表 1 の項目ごとに経済的影響を推計するための算出式を設定する 表 2 他の設定は以 下の通りである まず対象年齢について 喫煙開始年齢から喫煙関連疾患発症までのタイムラグを喫煙関連 疾患にかかわらず一律 25 年と仮定し 15 歳以上の未成年のうちに開始した喫煙に起因する 部分も含めて 原則として 40 歳以上を対象とする なお 表 1 の項番 4 5 6 の項目につ いては全年齢を対象とする 根拠データについては 主要な統計データの最新版が得られることを考慮し 原則として 2005 年時点もしくは 2005 年に最も近い時点のデータを使用する なお 喫煙率については 前述のタイムラグを考慮し 1980 年時点のデータを使用する 対象場所については 屋内公共施設 職場とする なお 分煙規制については 事業所の 物理的な制約を考慮し 従業員数 1 9 名の事業所を分煙規制の対象から除外する 規制によるたばこ消費量の減少については まず屋内公共施設 職場における喫煙割合を 33 全面禁煙規制によるたばこ消費量減少率 を 90 と仮定し 両者を乗じた値 29.7 149

150 研究ノート Research Note を 全面禁煙規制実施による効果発現率 と定義する また 従業員数 1 9 名の事業所を 分煙規制の対象から除外するため 全面禁煙規制実施による効果発現率 に全事業所のう ち従業員 10 名以上の事業所の割合 64.4 2 を乗じた値 19.1 を 分煙規制実施による効 果発現率 と定義する なお 分煙規制を実施しても 喫煙室でのサービスの提供を強制さ れる飲食店 宿泊業の従業員はたばこの煙からの曝露を免れないため 全産業の雇用者数を 飲食店 宿泊業の雇用者数で除した値 4.9 3 を 分煙規制控除率 とする 労働力損失については 総雇用者報酬 4 を総雇用者数 3 自営 家族従事者を除く で除して算出した 1 人 1 年あたりの雇用者報酬 をベースにして算出する ただし 死亡 による労働力損失を推計する場合 従業員の将来的な生産分を現在価値で示すために 将 来分を一定の割引率 3 で割り戻す方法 Human Capital Approach を用いる また 喫煙による平均損失年数を 12 年 火災による平均損失年数を 15 年と仮定し 平均損失年数 間の雇用者報酬を毎年一定とする 受動喫煙肺がん死亡者数については 医療経済研究機構 3 の算出方法を用い 2005 年時 点のデータ 5 6 に置き換えて算出する 対象疾患及び寄与危険度については 医療経済研究機構 3 に準じる 表 2 算出式一覧 項番 算出式 1 受動喫煙肺がん死亡者数 1 人あたりの雇用者報酬 全面禁煙規制 分煙規制 実施による効果発現率 100 分煙規制控除率 2 40 歳以上の総死亡者数 7 寄与危険度 1 人あたりの雇用者報酬 全面禁煙規制実施による効果発現率 3 ① 40 歳以上の悪性新生物国民医療費 8 受動喫煙肺がん死亡者数 全悪性新生物死亡者数 7 全面禁煙規制 分煙規制 実施による効果発現率 ② 40 歳以上の国民医療費 8 寄与危険度 全面禁煙規制 分煙規制 実施による効果発現率 100 分煙規制控除率 4 ①悪 性新生物による年間延べ入院日数 9 受動喫煙肺がん死亡者数 40 歳以上の悪性新生物死亡者数 7 1人1日あたり の雇用者報酬 全面禁煙 分煙規制 実施による効果発現率 100% 分煙規制控除率 ② 40 歳以上の年間延べ入院日数 9 寄与危険度 1 人 1 日あたりの雇用者報酬 全面禁煙規制 分煙規制 実施による効果 発現率 5 総雇用者数 3 平均喫煙率 10 年間平均労働日数 11 職場 1 日あたりの平均喫煙本数 3 たばこ 1 本あたりの平均 喫煙時間 4 1 人 1 時間あたりの雇用者報酬 全面禁煙規制によるたばこ消費量減少率 6 ① 火災による財産損失額 12 たばこが原因の割合 13 ② 火災による死亡者数 12 たばこが原因の割合 13 1 人あたりの雇用者報酬 ③ 火災による負傷者数 13 たばこが原因の割合 5 火災負傷者の年間延べ入院日数 9 1 人 1 日あたりの雇用者報酬 7 8 総事業所数 2 分煙設備未設置率 14 1 事務所あたりの分煙設備費用 15 9 総人口 6 1 人あたりの執行経費 16 10 分煙規制対象の事業所の全従業員数 3 1 人あたりの広告費 6 11 たばこ税収の合計 17 18 19 全面禁煙規制実施による効果発現率 12 たばこ販売代金 19 産業連関表 20 の 非食用作物 の割合 卸売 の割合 小売 の割合 全面禁煙規制実施によ る効果発現率 13 14 総雇用者数 3 平均喫煙率 10 年間平均労働日数 11 職場 1 日あたりの平均喫煙本数 3 たばこ 1 本あたりの平均 喫煙時間の増加分 7 1 人 1 時間あたりの雇用者報酬 100 全面禁煙規制によるたばこ消費量減少率 15 注 内は分煙規制の場合 作成 三菱総合研究所 3 6 本と仮定 4 5 分と仮定 5 6 7 火災による死亡者のうち たばこが原因の割合 を代用 500 円と仮定 5 分と仮定

全面禁煙規制 分煙規制に対する経済的影響の事前評価 4 RIA の結果 全面禁煙規制を実施する場合 たばこ税収の減少 7,242 億円 従業員の屋外喫煙増加に よる喫煙休憩時間の増加 3,390 億円 等のマイナスの経済的影響が発生する一方 喫煙者 の喫煙休憩時間の削減 3 兆 506 億円 直接喫煙による死亡の防止 1 兆 7,956 億円 医 療費の削減 3,552 億円 等のプラスの経済的影響が発生し 合計 4 兆 1,544 億円のプラス の経済的影響が発生すると推計された 表 3 また 分煙規制を実施する場合 受動喫煙による死亡の防止 214 億円 等のプラスの経 済的影響が発生する一方 規制実施のために要する費用の増加 1 兆 2,604 億円 等のマイ ナスの経済的影響が発生し 合計 1 兆 2,628 億円のマイナスの経済的影響が発生すると推計 された 全面禁煙規制と分煙規制でこのような差が発生するのは 分煙規制では喫煙による労働力 損失の防止効果が生じないことに加え 分煙設備の設置に必要な経費が生じるためである また 全面禁煙規制に対する RIA の結果について英国と比較すると 直接喫煙による死亡 の防止 喫煙者の喫煙休憩時間の削減の項目で差が生じている 表 3 RIA の結果 単位 億円 項番 便益 禁煙 分煙 1 受動喫煙による死亡の防止 349 2 直接喫煙による死亡の防止 17,956 3 医療費の削減 国庫負担の減少 4 喫煙者の喫煙による疾患の休業時間の削減 5 喫煙者の喫煙休憩時間の削減 6 火災による財産損失 死亡 負傷の防止 7 たばこのために要する清掃費の削減 小計① 項番 損失 8 規制実施のために要する費用の増加 9 規制未実施の施設に対する執行費用の増加 214 3,552 34 783 9 30,506 55 53,200 禁煙 257 分煙 12,604 53 53 228 228 10 規制実施のために要する教育費の増加 11 たばこ税収の減少 12 たばこ関連産業の売上の減少 13 意図しない結果 14 従業員の屋外喫煙増加による喫煙休憩時間の増加 3,390 15 顧客の屋外喫煙増加による飲食店の売上の減少 7,242 744 小計② 11,657 12,885 合計 ① ② 41,544 12,628 作成 三菱総合研究所 151

152 研究ノート Research Note 5. 考察 WHO FCTC は たばこの消費及びたばこの煙に晒されることが健康 社会 環境及び経済に及ぼす破壊的な影響から現在及び将来の世代を保護すること を目的としている 4) この目的に並列的にあげられている たばこの消費 と たばこの煙 を考慮すると 職場環境の整備において 直接喫煙の抑制 と 受動喫煙の防止 の両方に資する施策が検討されるべきである 上記の RIA の結果を見ると 全面禁煙規制を実施した場合 受動喫煙の防止 と比較して 直接喫煙の抑制 の方が約 51 倍のプラスの経済的影響があると推計されている これに加え WHO FCTC の目的である 健康 社会 環境及び経済に及ぼす破壊的な影響 を考慮すると 直接喫煙の抑制 に主眼を置く必要性が高いと考えられる しかしながら 我が国では 受動喫煙の防止 に主眼が置かれている 受動喫煙の防止 いう対象設定は たばこの消費 を対象から除き たばこの煙 のみに課題を矮小化しているといえる これでは条約の目的の一部をカバーするにすぎない 主要先進国では 禁煙化 の取り組みが検討 推進されており 我が国の 分煙化 議論は課題の矮小化に基づいた歪んだものといわざるを得ない また 上記の RIA の結果を見ると 分煙規制よりも全面禁煙規制を実施した方が 喫煙者の健康及び社会全体の生産性の向上に資すると考えられる 以上より 規制影響の観点からは 受動喫煙の防止 に主眼を置いた分煙規制よりも 直接喫煙の抑制 に主眼を置いた全面禁煙規制の実施を前向きに検討するべきである

全面禁煙規制 分煙規制に対する経済的影響の事前評価 153 参考文献 [1] 厚生労働省 WEB サイト : 最新たばこ情報 [2] 総務省 : 平成 18 年事業所 企業統計調査 (2007). [3] 総務省 : 平成 17 年労働力調査年報 (2006). [4] 内閣府 : 国民経済計算(2010 年 6 月 10 日公表値 ) (2010). [5] 厚生労働省 : 平成 17 年国民健康 栄養調査報告 (2007). [6] 総務省 : 平成 17 年国勢調査 (2005). [7] 厚生労働省 : 平成 17 年人口動態統計 (2006). [8] 厚生労働省 : 平成 17 年度国民医療費 (2007). [9] 厚生労働省 : 平成 17 年患者調査 (2006). [10] 日本たばこ産業株式会社 : 全国たばこ喫煙者率調査 (2005). [11] 東京都 : 中小企業の賃金事情( 平成 17 年版 ) (2005). [12] 消防庁 : 平成 18 年版消防白書 (2006). [13] 消防庁 : 平成 17 年 (1 月 12 月 ) における火災の概要 ( 概数 ) (2006). [14] 厚生労働省 : 平成 19 年労働者健康状況調査 (2008). [15] 日本たばこ産業株式会社 WEB サイト : SMOKERS STYLE [16] 千葉県千葉市 : 平成 20 年度路上喫煙等防止事業年間経費 (2009). [17] 財務省 : 平成 17 年度租税及び印紙収入決算額調 (2006). [18] 総務省 : 平成 19 年版地方財政白書 (2007). [19] 社団法人日本たばこ協会 : 平成 17 年度紙巻たばこ販売実績について (2006). [20] 総務省 : 平成 17 年産業連関表 ( 確報 ) (2009). 引用文献 1) Department of Health:Final Regulatory Impact Assessment for Regulations to Be Made under Powers in Part1, Chapter1 of the Health Act 2006(smokefree premises, places and vehicles)(2007). 2) 荒川潤 : 規制インパクト分析 事前シミュレーションを活用した合意形成 SRIC report Vol.7 No.1,41(2001). 3) 油谷由美子 : たばこ税増税の効果 影響等に関する調査研究 ( 厚生労働科学研究 ), 医療経済研究機構 (2002). 4) たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約 (2003).