臨床研究企画開発学 -EBM とクリニカルクエスチョン - 北里大学医学部附属臨床研究センター (KCRC) 佐藤敏彦
医学研究の種類 臨床研究 ( ヒト ) 臨床観察研究 基礎研究 ( 動物 細胞 ) 臨床試験 治験 トランスレーショナル研究 疫学研究 ( 非臨床ー )
クリニカルクエスチョン 0. 疑問抽出 疫学研究によるエビデンス 1 エビデンス 2 Question? エビデンス 3 エビデンス 4 エビデンス 5 エビデンス 6 Answer 3. 適用 1. 収集 2. 評価
PECO & PICO EBM を実践する上で診療上の疑問 (CQ) では PECO(PICO) として明確化する Patient: 誰が Intervention/Exposure: どうすると Comparison: 何と比較して Outcomes: どうなるか例 ) 中高年男性の糖尿病患者において 強化療法を行った群は, そうでない群に比べて 5 年以内の合併症発生頻度が低くなるか
エビデンスを利用する側から 創る側へ クリニカルクエスチョンから リサーチクエスチョンへ
臨床研究における リサーチクエスチョン (RQ) クリニカルクエスチョンを文献検索によりこれまでの知見と照らし合わせ 研究をすることにより答えを求めるべき命題に再構築する 良い RQ とは シンプル : 幾つもの問いを含まない 明確 : 曖昧な言い回しを含まない 答えやすい :YES/NO その他 F easible I nteresting N ovel E thical R elevant Stephen B. Hulley
リサーチクエスチョンの種類 Diagnostic: 診断に関するもの Prognostic: 予後に関するもの Etiologic: 原因に関するもの Therapeutic: 治療の効果に関するもの
あえて分ければ 仮説検証型 探索型 仮設あり量的推測統計学検定あり厳密目標症例あり 仮説なし質的記述統計学検定なし柔軟目標症例なし Which or What
( 理想的な ) 研究の進め方 1. 研究テーマの案出 : クリニカルクエスチョンからリサーチクエスチョンへ あなたの疑問は解決済みではないのか? 研究で確かめることはできるのか? 2. 文献検索と批判的吟味 3. 研究チームの組織 4. 研究デザインの決定 5. 研究プロトコールの作成 6. 研究費の獲得 7. データの収集 8. 解析 9. 論文執筆
研究デザインの種類 観察 ( 記述 ) 研究 症例報告 症例対照研究 コホート研究 時系列研究 質的研究 介入 ( 実験 ) 研究 ランダム化比較対照試験 非ランダム化比較対照試験 統合型研究 メタアナリシス 決断分析 費用効果分析
バイアス ( 系統誤差 ) 真実の値から系統的に偏らせる要因 バイアスを減らすことがエビデンスレベルを高めることになる バイアスの種類 1. 選択バイアス 2. 情報バイアス 3. 交絡バイアス
エビデンスレベル - 研究が示すエビデンスの強さ バイアスの入り込む余地が少ないデザインほど強い とされる Ⅰa 複数の RCT のメタアナリシス Ⅰb 少なくとも一つの RCT Ⅱa 少なくとも一つの非ランダム化比較対照試験 Ⅱb 少なくとも一つの準実験的研究 Ⅲ コホート研究 症例対象研究 Ⅳ 症例報告等の記述研究 Ⅴ 専門家の意見 報告 しかし これはあくまでもデザインによる分け方 ダメなRCTは優れた症例対照研究に劣るかもしれない
structured abstract) JAMA こちらは普通の妙録
研究計画書に記載されるべき項 目 1. 背景と目的 ( 研究の必要性 妥当性 ) 2. 実施場所 3. 実施期間 4. 対象 ( 選択基準と除外基準 ) 5. 対象者数とその根拠 6. 方法 ( 研究デザインとデータ収集の手順と管理 ) 7. エンドポイント ( 何をもって結果を評価するか ) 8. 解析方法 9. 調査票またはデータシート 10. 倫理面への配慮 11. 研究組織 連絡先
対象を明確にすること 対象が均質なほど解析は楽で 多変量解析は後処理 対象が限られていると一般化は難しい 無視すればサンプリングバイアス 日本人における 女性における 40 歳代における 糖尿病患者における コントロール不良者における 合併症が無い者における
なぜ予め対象数を決めなければ ならないのか α エラーと β エラー α エラー = 第一種の過誤 (Type Ⅰ エラー ) β エラー = 第二種の過誤 (Type Ⅱ エラー ) 帰無仮説 :A と B に差があることを調べたいときに A=B とする 検定の結果帰無仮説が正しい帰無仮説間違い 棄却 Type Ⅰ エラー (α) 正しい ( 検出力 =1-β) 棄却できない正しい Type Ⅱ エラー (β) アルファはあわてんぼう= 偶然なのに真に差があるとしてしまう ベータはボンヤリ= 真に差があるのに差がないとしてしまう
仮説の検定 眼にした出来事は偶然か否か 出来事 ( イベント ) が起こる確率が何パーセント以下ならば偶然でないと断じることができるのか ( するのか )
真の平均値 100 と標準偏差 20 の母集団 95% 信頼区間 サンプル平均 標準偏差 サンプル数 10 の場合 :87.6~112.4 サンプル数 1000 の場合 :98.8~101.2 即ち 標準偏差が同じ 20 だとするとサンプル数が 10 だと真の平均値が 25 以上離れていないと有意な差 (5%) にならないのに対し 1000 だと 2.5 の違いで有意になる! 統計的有意差と臨床的有意差 ( 意味のある差は?)
研究デザインとデータ収集の方法 後向き ( レトロスペクティブ ) か前向き ( プロスペクティブ ) か 客観的データ ( 検査データ等 ) か主観的データ ( アンケートデータ等 ) か データベース化はどのようにするか 入力方法 誰がして どのように管理するか 情報管理者はバイアス制御の担保
倫理面への配慮 参加者への侵襲 ( 精神的 肉体的 ) 参加の自由意志 個人情報保護 研究実施の妥当性
臨床研究の 7 つのご法度 ( 福原俊一 ) データを取ってから研究デザインを考える リサーチクエスチョンが明確 具体的でない 対象が不明確 抽出方法 参入 除外基準を設定しない 主要なアウトカム変数を設定しない 変数の吟味しない 変数の測定方法の信頼性と妥当性を検討しない 解析計画を事前に作成しない サンプルサイズ パワー effect size を事前に設定しない 結果の解釈 統計的有意差のみで臨床的 社会的に意味のある差かどうかを検討しない
本日の一番重要なメッセージ 社会の役に立たないような ( エビデンスを生まないような ) 臨床研究は倫理的に問題がある 参加する患者さんは自分に不利益があるかもしれないのに社会の役に立つと思い研究に参加するのである 研究者個人の興味のみで臨床研究を実施してはならない 実施意義のあるしっかりとした研究計画をたてることが必要である