■審査官の人材育成に関する最近の取組について

Similar documents
人材育成 軟な審査体制の構築に向けて 担当技術分野の変更や拡大の機会が増えていることから 審査官のニーズに応じた技術研修を一層充実させるとともに タイムリーに受講できる環境を提供していきます 2. 審査の国際化への対応英語 PCTの拡充 国際特許分類の調和プロジェクトへの対応など これまで以上に審査

審査の品質管理において取り組むべき事項 ( 平成 27 年度 ) 平成 27 年 4 月 28 日 特許庁 特許 Ⅰ. 質の高い審査を実現するための方針 手続 体制の整備 審査の質を向上させるためには 審査体制の充実が欠かせません そこで 審査の効率性を考慮しつつ 主要国と遜色のない審査実施体制の確

各国特許審査に関する情報の一括提供サービス ( ワン ポータル ドシエ (OPD) 照会 ) グローバルな IT システム連携によるユーザーサービスの実現 Global Dossier Information Reference Service for the Public Users 特許庁総務部

平成18年度標準調査票

NICnet80

1. はじめに 本格的な地方分権の時代を迎え 市民に最も身近な地方自治体は 市民ニーズに応じた政策を自ら意志決定し それを自己責任の下に実行することがこれまで以上に求められており 地方自治体の果たすべき役割や地方自治体に寄せられる期待は ますます大きくなっています このような市民からの期待に応えるた

Microsoft Word - 10_資料1_コンピュータソフトウエア関連発明に関する審査基準等の点検又は改訂のポイントについてv08

~この方法で政策形成能力のレベルアップが図れます~

プロダクトオーナー研修についてのご紹介

チェック式自己評価組織マネジメント分析シート カテゴリー 1 リーダーシップと意思決定 サブカテゴリー 1 事業所が目指していることの実現に向けて一丸となっている 事業所が目指していること ( 理念 ビジョン 基本方針など ) を明示している 事業所が目指していること ( 理念 基本方針

1. 狙い グローバルな産業構造や競争環境 競争ルールが大きく変化している中で グローバルに産業形成を主導していく事業戦略が求められており そのために知的財産や標準化の新たな戦略的活用が求められています 本研修プログラムでは それらの事業や知的財産における新しい潮流を様々な視点 ケースを通じて学びな

特許庁の役割 特許庁の役割は 産業財産権制度を通じて 発明や意匠の創作の奨励 商標の保護により 日本の産業を発展させること IT 技術の進展 TPP 等の経済連携協定等を通じて 企業活動がますます国籍や国境を越え 日本企業の海外進出や 海外企業の日本国内進出が進むことが予想される中 日本を含めあらゆ

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 01.表紙、要約、目次

Microsoft PowerPoint - [WEB掲載用] 【セット】(長官講演資料)2月27日JIPAシンポジウム

< F2D EE888F8288FA48BC E6A7464>

F02 ワシントン D.C. 周辺エリア 米国特許制度および模擬裁判 IPR 等の研修 募集定員 :40 名 2018 年 11 月募集予定 本コースは 米国の知的財産制度及びその関連法を正しく理解し 米国の知的財産権の問題に対し迅速かつ的確に対応できる能力を有する人材を育成することを目的としたもの

スライド 0

<4D F736F F D20352D318FBC8CCB8E738DC58F F5495AA90CD816A5F8F4390B38CE3816A2E646F63>

問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

平成18年度標準調査票

預金を確保しつつ 資金調達手段も確保する 収益性を示す指標として 営業利益率を採用し 営業利益率の目安となる数値を公表する 株主の皆様への還元については 持続的な成長による配当可能利益の増加により株主還元を増大することを基本とする 具体的な株主還元方針は 持続的な成長と企業価値向上を実現するための投

<4D F736F F F696E74202D A B837D836C CA48F435F >

特別 T01 研修会場 : レクトーレ湯河原 (TKP ホテル ) 日本知的財産協会 知財変革リーダー育成研修 募集定員 :15 名 ( 論文選考あり ) 2018 年 5 月募集開始予定 * 詳細は別途ご案内 概要 受講料は 18 万円の予定です 1. 研修目的 経営に資する知財 を自ら提案/ 実

「諸外国の大学教授職の資格制度に関する実態調査」1

< E89BB A838A834C D E786C73>

5. 政治経済学部 ( 政治行政学科 経済経営学科 ) (1) 学部学科の特色政治経済学部は 政治 経済の各分野を広く俯瞰し 各分野における豊かな専門的知識 理論に裏打ちされた実学的 実践的視点を育成する ことを教育の目標としており 政治 経済の各分野を広く見渡す視点 そして 実践につながる知識理論

資料 4 平成 26 年度特許庁実施庁目標 参考資料 2014 年 3 月 28 日

政策評価書3-3(4)

人材育成 に関するご意見 1) 独立行政法人情報通信研究機構富永構成員 1 ページ 2) KDDI 株式会社嶋谷構成員 8 ページ 資料 7-2-1

看護部 : 教育理念 目標 目的 理念 看護部理念に基づき組織の中での自分の位置づけを明らかにし 主体的によりよい看護実践ができる看護職員を育成する 目標 看護職員の個々の学習ニーズを尊重し 専門職業人として成長 発達を支援するための教育環境を提供する 目的 1 看護専門職として 質の高いケアを提供

アジェンダ (1) 実践的 IT 人材育成の取り組み背景について (2) 当取り組みにおける 実践的 地域活性化に向けた産学連携プログラムについて 育成スケジュール カリキュラム概要 カリキュラム詳細 (3) H23 H24 年度カリキュラム成果紹介 郡山駅前活性化に資する活動について 特定業種に向

資料 3-8 知財を巡る国際情勢 2018 年 2 月特許庁

PowerPoint プレゼンテーション

また 営業秘密の取扱いについても 社内の規程を整備することが秘密情報の流出時に法的保護を受ける上で重要であることから 今回の職務発明規程の整備に併せて 同期間 IN PITでは 営業秘密管理規程を含む企業の秘密情報管理体制の構築に関する情報提供や周知活動も積極的に行っていきます ( 本発表資料のお問

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

事業戦略の計画実践を支援する プロジェクト思考開発研修 リーダー研修概要 2004 年 本資料は以下の利用条件を十分ご確認の上ご利用ください 1. 本資料に関する著作権 商標権 意匠権を含む一切の知的財産権は株式会社スプリングフィールドに所属しています 2. 株式会社スプリングフィールドの事前の承諾

Taro-ドラッカー研修上

<4D F736F F D E9197BF A E838B C E9E91E382C982A882AF82E9926D8DE090A CC8DDD82E895FB646F632E646F63>

知創の杜 2016 vol.10

出願人のための特許協力条約(PCT) -国際出願と優先権主張-

システムの開発は 国内において 今後の普及拡大を視野に入れた安全性の検証等に係る研究開発が進められている 一方 海外展開については 海外の事業環境等は我が国と異なる場合が多く 相手国のユーザーニーズ 介護 医療事情 法令 規制等に合致したきめ細かい開発や保守 運用までも含めた一体的なサービスの提供が

034_CW6_AY516D112.indd

基本方針1 小・中学校で、子どもたちの学力を最大限に伸ばします

社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加

P00041

<4D F736F F D A8D CA48F43834B C E FCD817A E

スキル領域 職種 : ソフトウェアデベロップメント スキル領域と SWD 経済産業省, 独立行政法人情報処理推進機構

平成18年度標準調査票

副学長 教学担当 中村 久美 新しい大学づくりに向けた教育の展開 巻頭言 2012年6月に文部科学省が公表した 大学改革実行プラン は 激動の社会における大学機能の再構築を掲げています 教学に関し ては ①学生の主体的な学びの創出や学修時間の拡大化をはじめと する大学教育の質的転換 ②グローバル化に

ITスキル標準に準拠した      大学カリキュラムの改善

監査に関する品質管理基準の設定に係る意見書

各種計画等の指標・目標値・KPI09

ディプロマ ポリシー カリキュラム ポリシー 経営学部 経営学科 経営学部経営学科では 厳格な成績評価にもとづいて履修規程に定められた科目区分ごとの卒業必要単位数およびコース別の履修要件等をすべて満たしたうえで 総計 1 単位以上を修得し さらに経営 流通 マーケティング 情報システム 国際経営など

Microsoft PowerPoint - 商品・役務表示に関する各種データベースの特徴及び検索方法等について [互換モード]

Bカリキュラムモデル簡易版Ver.5.0

「標準的な研修プログラム《

第5回 国際的動向を踏まえたオープンサイエンスの推進に関する検討会 資料1-1

<4D F736F F D E90528DB88AEE8F8095F18D908F915B8FA D25D62>

お客さまのデジタルトランスフォーメーションを加速する「アジャイル開発コンサルティングサービス」を提供開始

九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository 九州大学百年史第 7 巻 : 部局史編 Ⅳ 九州大学百年史編集委員会 出版情報 : 九州大学百年史. 7, 2017

子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案要綱

自己点検・評価表

Microsoft PowerPoint 榔本è−³äººè³⁄挎.pptx

1. 食品安全専門 材育成の 的 1. 品安全管理に関する基礎的な知識 専 的な知識や技能の修得体制をつくる 2. FSMS 監査員の育成体制をつくる 3. 国際的な議論に参画できる 材を育てる 本研究会は主に について 議論を進めている 1

言語切替 4 つの検索モードが用意されている 今回は 複数の検索項目を設定でき より目的に近い検索ができることから 構造化検索 モードを選択 した事例を紹介する 調査目的および調査対象調査対象例として下記の調査目的および対象企業を設定した 調査目的 : 韓国において ある企業の出願動向を確認する調査


4. icd 取組みの効果及び今後予定する効果内容 4.1. 効果のあった項目効果内容 お客様への価値提供に向けた人財在庫見える化 事業 ( 業種 ) 別戦略の高度化 経営の PDCA と連動した人財育成 経営戦略に必要な役割を定義し 人財在庫を見える化することで 経営の意思である お客様への価値提

平成 31 年度 地域ケア会議開催計画 魚津市地域包括支援センター 平成 31 年 4 月

IT活用力セミナーカリキュラムモデル訓練分野別コース一覧・コース体系

経営学リテラシー 共通シラバス (2018 年度 ) 授業の目的経営学部では 大学生活のみならず卒業後のキャリアにおいて必要とされる能力の育成を目指しています 本科目では 経営に関連する最近のトピックやゲストスピーカーによる講演を題材に そうした能力の礎となるスキルや知識の修得を目指すとともに ビジ

[ 指針 ] 1. 組織体および組織体集団におけるガバナンス プロセスの改善に向けた評価組織体の機関設計については 株式会社にあっては株主総会の専決事項であり 業務運営組織の決定は 取締役会等の専決事項である また 組織体集団をどのように形成するかも親会社の取締役会等の専決事項である したがって こ

<4D F736F F D20906C8AD489C88A778CA48B8689C881408BB38A77979D944F82C6906C8DDE88E790AC96DA95572E646F6378>

学生確保の見通し及び申請者としての取組状況

PowerPoint 프레젠테이션

県外 海外の企業等に中堅人材を出向させながら研修プログラムが受けられるような支援制度の創設 企業によるプロデューサー人材の発掘 誘致の取組への支援 3 農林水産業 農林水産業を行っている者が自ら商品の企画立案機能を高められるような実践販売する機会の提供など支援する仕組みの充実 経営力 や 仕事の基礎

Microsoft Word - ⑤150831INPIT見直し案.doc

新入社員フォローアップ研修|基本プログラム|ANAビジネスソリューション

寄稿集 表 2 特許調査に影響を与えた経営環境の変化 ( 複数回答 ) n=38 (%) 海外での売上増加 52.6 新規分野への進出 シフト自社製品の模倣品が増加他社との共同研究 事業提携を積極化 39.5 M&Aや事業の売却を行

Taro-全員協議会【高エネ研南】

No_05_A4.ai

<4D F736F F F696E74202D FA8C6F B938C8FD888EA95948FE38FEA8AE98BC6817A81758A4F8D91906C97AF8A7790B682CC8DCC977082C693FA967B8CEA945C97CD82C98AD682B782E992B28DB881768C8B89CA838C837C815B83678DC58F4994C52E70707

授業計画書

Ⅰ. はじめに 近年 企業のグローバル化や事業形態の多様化にともない 企業では事業戦略上 知的財産を群として取得し活用することが重要になってきています このような状況において 各企業の事業戦略を支援していくためには 1 事業に関連した広範な出願群を対象とした審査 2 事業展開に合わせたタイミングでの

CSR(企業の社会的責任)に関するアンケート調査結果《概要版》

17 石川県 事業計画書

況 2 判定制度等の比較研究 3 審判統計情報の交換を含む三庁間の協力等について情報交換及び議論を行いました 図 1 第 1 回日中韓審判専門家会合 供を通じて我が国ユーザーが利用しやすい制度への改善を図るという目的で 第 1 回の 日中韓審判専門家会合 が開催されました 同年 11 月には 特許庁

~明日のコア人材を育成する参加型研修~

大泉町手話言語条例逐条解説 前文 手話は 手指の動きや表情を使って視覚的に表現する言語であり ろう者が物事を考え 意思疎通を図り お互いの気持ちを理解しあうための大切な手段として受け継がれてきた しかし これまで手話が言語として認められてこなかったことや 手話を使用することができる環境が整えられてこ

スライド 1

2. 開催内容開催期間 : 平成 29 年 8 月 21 日 ( 月曜日 )~9 月 15 日 ( 金曜日 ) 開催場所 :( 出張面接審査 ) 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 ( イベント開催場所 ) 仙台市 盛岡市主催 : 特許庁 東北経済産業局共催 :( 独 ) 工業所有権情報

することを可能とするとともに 投資対象についても 株式以外の有価証券を対象に加えることとする ただし 指標連動型 ETF( 現物拠出 現物交換型 ETF 及び 金銭拠出 現物交換型 ETFのうち指標に連動するもの ) について 満たすべき要件を設けることとする 具体的には 1 現物拠出型 ETFにつ

<838A815B835F815B834A838A834C C42E786C73>

PowerPoint プレゼンテーション

44 大分県

特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

20 21 The Hachijuni Bank, LTD.

言語切替 4 つの検索モードが用意されている 今回は 複数の検索項目を設定でき より目的に近い検索ができることから 構造化検索 モードを選択 した事例を紹介する 調査目的および調査対象調査対象例として下記の調査目的および開発技術を設定した 調査目的 : 下記開発技術について 中国における参入企業や技

平成18年度標準調査票

スライド 1

Transcription:

特集 知財における人材育成 審査官の人材育成に関する最近の取組について 特許庁特許審査第四部伝送システム上席審査長森川幸俊 要約企業のグローバル化の進展やビジネスモデルの変容 多様化などにより, 知財人材に求められる人材像も変わりつつある そのような中, 知財人財育成プラン では, 審査官に対して, 新たなニーズに対応した適切な権利の設定のために, 外国語能力の強化, 的確な技術動向の把握, 技術対応幅の拡大, 法的 ビジネス的素養の向上などを求めている 他方, 国際的には, 審査のワークシェアリングを効果的に進める観点から, 研修関連で五庁間の国際的な連携を深める動きが始まっている このように, 審査官の人材育成に関しては, 新たな時代に柔軟に対応できるよう審査官の知識 能力の一層の向上に努めると同時に, 国際的な連携にも適切に対応することが求められている 本稿では, 審査官の人材育成に関する最近の取組について紹介する 目次 1. はじめに 2. 平成 24 年度の人材育成関連の具体的施策の概要 3. 審査の国際化への対応 (1) 審査官の語学能力の向上 (2) 英語による審査実務の情報発信力の強化 4. 中長期的な視野での審査官の人材育成 (1) 若手審査官に対する研修 (2) 上席審査官に対する研修 (3) 管理職に対する研修 5. 五庁間における研修の国際的な連携 (1) 五庁研修相互参加プロジェクトへの対応 (2) 五庁審査官ワークショップへの参加 6. おわりに 1. はじめに企業のグローバル化の進展, 産業構造やイノベーションモデルの変容 多様化, 新興国の台頭などにより, 知財人材に求められる人材像も変わりつつあります このような中, 知的財産推進計画 2012 においては, 我が国の知財システムの競争力を高め, 新たな時代に対応する知財人財を加速的に育成 確保するため 知財人財育成プラン (1) を強力に実行することとされています 同プランの中で, 審査官に対して, 新たなニーズに 対応した適切な権利の設定のために, 審査官の外国語能力の強化, 最新の技術を含めた的確な技術動向の把握, 技術対応幅の拡大, 法的専門性やビジネス的素養の向上などを求めています 他方, 国際的には, 審査のワークシェアリングを効果的に進める観点から, 研修関連での五庁間の国際的な連携を深める動きが始まっています このように, 審査官の人材育成に関しては, 新たな時代に柔軟に対応できるよう審査官の知識 能力の一層の向上に努めると同時に, 国際的な新たな取組にも適切に対応することが求められています そこで, 今回は, 審査官の人材育成に関して, 特許審査部で審査官を育成することを検討しているチーム ( 以下, 人材育成チーム ) の新たな取組を中心に, 最近の活動を紹介いたします 2. 平成 24 年度の人材育成関連の具体的施策の概要特許庁の人材育成 (2) の基本方針である 研修基本方針 ( 平成 21 年 3 月改訂 ) の理念に基づき, 平成 24 年度研修計画 が定められ, それを受けて平成 24 年度の人材育成関連の具体的施策が策定されています 平成 24 年度の具体的施策としては, 次の 5 つの柱から成り立っています Vol. 66 No. 1 75

1 審査官補の着実な育成及びその後のフォローアップ 2 審査官 ( 補 ) として求められる知識 能力の充実 3 審査の国際化への対応 4 中長期的視野に立った人材育成 5 五庁間における研修の国際的な連携このうち,1 及び2については, 従前より継続している施策であり, その基本的内容については, 特技懇誌 ( 特技懇 247 号 (3) ) で詳しく紹介されています なお,2に関連する 技術研修 については, 柔軟な審査体制の構築に向けて, 担当技術分野の変更や拡大の機会が増えていることから, 審査官のニーズに応じた技術研修を一層充実させるとともに, タイムリーに受講できる環境の提供を図っています 3. 審査の国際化への対応英語 PCT の拡充, 国際特許分類の調和プロジェクトへの対応など, これまで以上に審査官 ( 補 ) が英語を使用して審査業務, 審査周辺業務を行うことが多くなっていくことが見込まれることから, 英語に対応できる能力を備えた審査官 ( 補 ) の育成を強化する必要があります また, 中国語を始めとする英語以外の外国特許文献の蓄積が急速に増大しており, 信頼性のある審査結果を他庁に発信するためには, 英語のみならず中国語等にも知識を有する審査官 ( 補 ) を育成していくことも急務となっています これらを踏まえて, 知財人財育成プラン では, 特許庁審査官 審判官 ( 略 ) 業務の国際化に対応するため, 語学研修及び海外留学の積極的活用等を通じて, 実践的な語学力を磨く と明記されています さらに, 国際知財戦略では, アジアの実体審査への協力や新興国審査官の戦略的な人材育成を実施することが, 今後取り組むべき具体策として揚げられています また, 従来から実施されている国際審査官協議に加えて, 五庁プロジェクトにおける 共通トレーニングポリシー による五庁研修相互参加プロジェクト, 五庁審査官ワークショップが実施されていることを踏まえると, 審査官が英語による審査実務についての情報発信能力を身につけることが必要となっています このような状況に対応するため, 以下のような取組を行っています (1) 審査官の語学能力の向上語学力を向上するためには, 地道な自己研鑽が欠かせませんが, 審査官の語学力の向上を支援するため, 特許庁独自に研修計画に基づいて外国語研修を実施しています 外国語研修については, 受講できる言語の種類 (4) が多く, 受講スタイルに応じて, 集合型 通学型 通信教育型の各コースを選択できます また, 通年通塾型のほかに, 短期 (2 日間 4 日間 ) 集中で実施される英語に重点を置いた合宿型の研修メニューも提供されています 平成 24 年度, 特許庁の外国語研修をより充実すべく, 研修内容等について一部変更を行いました その 1 つが 実践的な中国語リーディングコース研修の新規開設 です 中国語リーディングコース研修は, 教材の中に技術的に易しい中国特許文献も取り入れて, リーディングに特化した実践的な研修を実施しています 審査官として, 漢字文化圏の強みをいかしながら中国語の特許文献に最適のリーディングスキルを身につけることを目指します なお, 中国語の基礎文法や辞書の引き方等の初歩的な知識は受講において不可欠ですので, 中国語の初級クラスを修了したレベルの受講者を対象としています ここ数年, 中国語研修の初級クラスを受講する審査官が増加傾向にありますが, 初級クラス修了後, 継続してこのリーディングコース研修を受講して, 審査業務でいかせる実践的なスキルの習得を目指しています (2) 英語による審査実務の情報発信力の強化平成 23 年度より, 我が国審査実務の情報発信力を強化するため, 英語による審査実務の説明能力を高めることを目的に, 実践的な 特許実務プレゼンコース研修 (5) を開設しました このプレゼンコース研修は, 基礎, 応用 の 2つのパートから構成されています 最初の 基礎 編では, 英会話講師から英語を用いた一般的なプレゼンテーションの基礎を習得します ( 週一回 5 週間 ) その上で, 応用 編として, 日米双方の審査実務に精通する専門家から, 特許庁の審査基準 ( 新規性, 進歩性等 ) をテーマにした英語のプレゼンテーションについて専門的な指導を受けます (2 日間 ) 昨年度は, 手探りで作成したカリキュラムで研修効 76 Vol. 66 No. 1

果がどの程度期待できるのか不安な面がありましたが, 受講生 ( 審査官 8 名 ) (6) の真摯な学習態度に加えて, 米国在住の弁護士 山口洋一郎先生の, 長年に亘る米国での実務経験に基づく実践的な指導もあって, 受講生の英語による審査実務のプレゼンテーション能力は大幅に向上しました 今年度は, 昨年度修了した審査官の多くが, プレゼンコース研修 応用 編に聴衆として参加し, 受講生のプレゼンに多面的な質問や改善提案を行うことで, 山口先生の指導に加えて相互研鑽により研修効果を更に高めています これから, 特許庁として, 英語による審査実務の情報発信力を強化する上で, 特許実務プレゼンコース研修 を用いた人材育成は必要不可欠のものとなるでしょう そして, 特許実務プレゼンコース研修 で培ったプレゼンテーション能力をいかして, 審査官が日本からの情報発信等の新たな業務に携わることになれば, 世界各国の特許制度, 審査実務, 分類等の調和を進めるためにも有益なものとなります なお, 本研修の受講者は, 外国の審査官に対して英語で我が国の審査実務を発信する業務を通じて, 研修の成果を実践でいかしているところです 研修と実際の業務とを有機的に連動させて, 人材を効果的に育成 活用することは, これからの人材育成の重要な柱となっていくでしょう 4. 中長期的な視野での審査官の人材育成審査官としてのキャリアを積んでいく過程でそれぞれの職責 ポストに必要な能力の育成を図るためには, 中長期的な視点に立った計画的な人材育成が必要です また, 審査官補や若手の審査官に対して, 的確な指導 助言を行うことができる人材を中長期的な視点から育成することも必要となります このため, 人材育成チームでは, 審査官の職責 ポストに応じた各種研修を企画 実施して, 中長期的な視点から, 人材育成に取り組みます (1) 若手審査官に対する研修平成 23 年度から始めた研修で, 自己のキャリアパスについて考える機会を提供するため, 審査以外の業務経験者を講師として, 行政官として培った様々な経験や行政官としての仕事の魅力を講義してもらいます 平成 24 年度は, 審査以外の業務経験前の特定の 入庁年次の審査官を受講対象とし, 上半期 下半期に一回ずつ, 各回 2 名の講師を招いて実施しました 若手審査官に対して, 自分の将来設計を真剣に考えるきっかけにするとともに, 審査以外の業務の一般的な心構えなど有益な情報も併せて提供できるよう研修内容を充実していきます (2) 上席審査官に対する研修上席審査官として新たに期待される能力 ( 信頼関係の構築能力, 業務管理能力 及び 人材育成能力 ) について理解を深めるとともに, そのような能力の開発を促進するための研修です 受講対象は, 原則, 新任の上席審査官です 研修では, 審査室の身近な事例を題材として, ワーク主体の実践的な指導を行います 平成 23 年度より, 試行的に開始しましたが, 内容的にはまだ改善の余地があると考えています 受講者や講師の意見を踏まえて研修の質の更なる向上を目指します 平成 24 年度は, 上席審査官の昇任時期に合わせて, 春と秋の年 2 回, 実施しています (3) 管理職に対する研修審査部の管理職は, 審査に対するニーズを踏まえ, 課題を的確に把握し, 審査に対する計画の立案を行うとともに, 審査官に対して適切な指導を行い, その能力開発を行うなど, 審査官の人材育成を行うことが求められています 管理職向けの研修として, 従前から, 主に部下の育成, 組織管理の能力の向上を目的とした管理職研修が実施されています しかしながら, ビジネス戦略に伴う審査ニーズの多様化や, 知財の急激なグローバル化が進展する状況下において, 管理職が審査官の人材育成に適切に対処するためには, 新たな視点での管理職に対する研修を拡充させていく必要があります そのため, 最新の知財マネジメントや諸外国の実情に関する素養を管理職が身につけるべく, 企業の事業戦略と知財戦略に関する研修, 米国の特許実務に関する研修を, 平成 23 年度より実施しています 5. 五庁間における研修の国際的な連携 (7) 五大特許庁長官会合における 10 の基礎プロジェクト の一つに, 共通トレーニングポリシー があります 共通トレーニングポリシー は, 各庁の研修課 Vol. 66 No. 1 77

程及び内容に関する情報を共有し, ベストプラクティスを相互に比較研究することにより, 研修リソースの利用を最大化し, 審査官研修の効率性を高めるプロジェクトです 具体的なプロジェクトとして, 各庁が実施する自国の審査官向け研修に他庁の審査官が一緒に参加する五庁研修相互参加プロジェクト, 五庁審査官ワークショップの開催があります (1) 五庁研修相互参加プロジェクトへの対応五庁研修相互参加プロジェクトは, 各庁が実施する自国の審査官向け研修に他庁の審査官が一緒に参加することで, 各庁の審査実務について審査官レベルでの相互理解を図り, ワークシェアリングを促進することを目的としています 研修相互参加プロジェクトへの特許庁の対応として, 審査官を他庁で実施される研修に派遣するとともに, 特許庁の特定の研修 (8) を開放し, 他庁審査官を受け入れています 平成 24 年度, 新たに 審査官補コース研修 のうち主要な講座を開放したところ,EPO から 1 名,SIPO から 2 名の審査官が派遣され, 新人と一緒に約一か月間受講しました なお, 特許庁で他庁審査官向けに開放している研修は, 当然ながら, 全て日本語で実施しています このため, 他庁の審査官は, 日本語のリーディング及びヒアリングが十分にできないと特許庁の研修にはついていけません この言語の壁の問題は, 非英語圏である SIPO,KIPO についても共通していますが,SIPO, KIPO は, 五庁研修相互参加プロジェクトへの新たなアプローチとして, 英語による他庁審査官向けの研修を平成 23 年度新設しています (2) 五庁審査官ワークショップへの参加五庁審査官ワークショップは, 国際的なワークシェアリングを効率的に推進していくために, 各庁のサーチ 審査手法の把握とベストプラクティスを五庁間で共有することを主な目的としています これまでに, 4 回開催され, 直近の平成 24 年 10 月に中国で行われたワークショップ (9) では, 共通案件の審査に関するワークセッションとして, 機械 化学 電気の3 分野各々について選択された共通案件を審査対象として, 五庁の各分野の審査官による 4 テーマ ( サーチ 先行技術 新規性 進歩性 ) に関するプレゼンテーション 及びディスカッションを実施しました 五庁の審査実務について一度に情報交換をすることができたことから, 審査官協議の一形態として効率的であるとともに五庁実務を相互に深く理解する上でも有意義なものとなっています なお, 平成 24 年 6 月に開催された五庁副長官会合において,USPTO からの提案を受け, 五庁研修担当からなる研修担当チームを設立し, 新たなプロジェクトの内容について議論していくことが決定されています 五庁間での研修関連の連携が模索される中, 今後の特許庁の人材育成の在り方については, 国際的な連携も視野に入れて検討していく必要があります 6. おわりに知財を取り巻く環境が大きく変わりつつある状況において, 法令 基準にのっとった迅速 的確な審査ができる人材の育成という基本原則は堅持した上で, 審査官の人材育成の在り方も見直していく必要があります そのために, 人材育成の重要なツールである研修を必要に応じて見直し, その時代に適したものに作り替えていかなければなりません 知財人財育成プラン では, 知財のグローバル化と変容する知財マネジメントに対応し得る知財人財の育成を主眼としています また, 知的財産推進計画 2012 では 審査 審判の品質を向上する体制の整備 の施策例として 審査品質の管理を行う人財の育成 確保 や 事業起点型の知財戦略に資する特許審査官の育成 等が挙げられています それらに対応できる審査官をどのように育成していくべきか, 試行錯誤を続けています そのような中で, 幾つかの新しいタイプの研修を試行しています その一例が, 管理職を対象として実施している, 企業の事業戦略と知財戦略に関する研修です この研修は, 企業の事業戦略と知財戦略との関連を実例を通じて検証し, ビジネスの視点からみた強い特許についての理解を深めるものです ただ, ビジネスの視点からみた強い特許の実体については, 一朝一夕に把握できるものではなく, そのような強い特許を生み出すために特許庁が果たすべき役割について模索している状態にあり, 研修はまだ試行の域を出ていません これからの審査官の人材育成は, 新たな領域にも踏み込んでいく必要があることから, いろいろな面で試 78 Vol. 66 No. 1

行錯誤があると思いますが, 失敗を恐れず, 時代に適切に対応できる審査官の育成を, 人材育成チームとして積極的に支援していきたいと考えています なお, 本誌に掲載した内容は, 特技懇 266 号を基に修正加筆したもので, 内容は著者の個人的な見解であり, 特許庁の見解を表明するものではありません ( 参考文献 ) (1) 知的財産推進計画 2011 に基づき, グローバル市場を重視したイノベーション戦略に基づく知財マネジメント人財の育成 確保を主眼とし, 中長期的に国として取り組むべき方向性を示す 本プランでは, 人材 (human resource) ではなく, 人財 (human capital) という表記を用いる ( 知財人財育成プラン より抜粋 ) (2) 人材育成 とは, 特許庁が職員に対して行う研修や OJT といった働きかけだけではなく, 職員が行う自己研鑽をも含むものである ( 研修基本方針 より抜粋) (3) 特技懇ホームページ http://www.tokugikon.jp/gikonshi/24 7tokusyu4.pdf (4)( 平成 24 年度 ) 英語, 中国語, 韓国語, フランス語, ドイツ語 (5) 詳細については, 特技懇 266 号参照 (6) 受講対象 : 既に一定レベルの英語力 ( 最低 TOEIC 820 点以上 ) を有する審査官であって, この研修の受講を通じて, 新興国の人材育成や他庁に対する研修の講師等の即戦力となることが期待される者 (7) 五大特許庁 ( 五庁 ): 日本国特許庁 (JPO), 欧州特許庁 (EPO), 米国特許商標庁 (USPTO), 中国国家知識産権局 (SIPO), 韓国特許庁 (KIPO) (8) 審査応用能力研修 2 と 検索エキスパート研修 (9) 詳細については, 特技懇 266 号参照 ( 原稿受領 2012. 12. 5) アハ ート Vol. 66 No. 1 79