回細胞分裂して 1 つの花粉管細胞と 2 つの精細胞をもつ花粉に成熟し その間にタペート層 4 から花粉成熟に必要な脂質を中心とした物質が供給されて完成します 研究チームは 脂質の一種であるステロールが植物の発生 生長に与える影響を調べる目的で ステロール生合成に重要な遺伝子 HMG1 の欠損変異体

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 12 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 DNA の量によって植物の大きさが決まる新たな仕組みを解明 - 植物の核内倍加は染色体のセット数を変えずに DNA 量を増やすメカニズムが働く - 生命の設計図である DNA が 細胞の中で増えたらどうなるので

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

報道発表資料 2006 年 11 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 植物の 硫黄代謝 を調節する転写因子を発見 - 転写因子 SLIM1 が がん予防効果のある天然硫黄成分量を調節 - ポイント 硫黄代謝に異常があるシロイヌナズナの突然変異株を見出す 転写因子 SLIM1 は植物の硫黄代謝全体

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論文の内容の要旨

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

図ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク

66. ウシの有角 無角の遺伝 ( ア ) 遺伝的に異なる 個体間の交配をとくに交雑という したがって, 検定交雑 も正解 ( イ ) 優性形質である無角との検定交雑で, 表現型がすべて有角となることは大学入試生物では ありえない 問 独立の法則に従う遺伝子型 AaBb の個体の配偶子の遺伝子型は,

報道発表資料 2008 年 12 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 葉緑体の活性酸素の除去に必須な 2 つの酵素遺伝子を発見 - 植物に有害な活性酸素を消す スーパーオキシドディスムターゼの新たな機能を解明 - ポイント 鉄イオンを含む活性酸素除去酵素の FSD2 と FSD3 遺伝子は葉緑体形

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

( 図 ) 顕微受精の様子

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

生物時計の安定性の秘密を解明

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

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報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

1 編 / 生物の特徴 1 章 / 生物の共通性 1 生物の共通性 教科書 p.8 ~ 11 1 生物の特徴 (p.8 ~ 9) 1 地球上のすべての生物には, 次のような共通の特徴がある 生物は,a( 生物は,b( 生物は,c( ) で囲まれた細胞からなっている ) を遺伝情報として用いている )

第 20 講遺伝 3 伴性遺伝遺伝子がX 染色体上にあるときの遺伝のこと 次代 ( 子供 ) の雄 雌の表現型の比が異なるとき その遺伝子はX 染色体上にあると判断できる (Y 染色体上にあるとき その形質は雄にしか現れないため これを限性遺伝という ) このとき X 染色体に存在する遺伝子を右肩に

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

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PowerPoint プレゼンテーション

遺伝子組み換えを使わない簡便な花粉管の遺伝子制御法の開発-育種や農業分野への応用に期待-

( 写真 ) 左 : キャッサバ畑 右上 : 全体像 右下 : 収穫した芋

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 7 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 生殖細胞の誕生に必須な遺伝子 Prdm14 の発見 - Prdm14 の欠損は 精子 卵子がまったく形成しない成体に - 種の保存 をつかさどる生殖細胞には 幾世代にもわたり遺伝情報を理想な状態で維持し 個体を

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

< 染色体地図 : 細胞学的地図 > 組換え価を用いることで連鎖地図を書くことができる しかし この連鎖地図はあくまで仮想的なものであって 実際の染色体と比較すると遺伝子座の順序は一致するが 距離は一致しない そこで実際の染色体上での遺伝子の位置を示す細胞学的地図が作られた 図 : 連鎖地図と細胞学

イネは日の長さを測るための正確な体内時計を持っていた! - イネの精密な開花制御につながる成果 -

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

1. 背景ヒトの染色体は 父親と母親由来の染色体が対になっており 通常 両方の染色体の遺伝子が発現して機能しています しかし ある特定の遺伝子では 父親由来あるいは母親由来の遺伝子だけが機能し もう片方が不活化した 遺伝子刷り込み (genomic imprinting) 6 が起きています 例えば

スライド 1

平成14年度研究報告

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

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クローン ES 細胞を利用したクローンマウスの作出方法

Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

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のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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報道発表資料 2008 年 3 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 花粉と葉緑体の形成に働く重要な遺伝子を発見 - 花粉の拡散防止技術や斑入り園芸植物の開発に期待 - ポイント 植物のステロール生合成遺伝子 CAS1 は 減数分裂後の花粉形成過程に必須 CAS1 遺伝子の働きを弱めると斑入りに 破壊すると花粉ができない 開花時に CAS1 遺伝子の働きを抑制すると花粉拡散防止が可能に 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は 植物のコレステロール様物質として知られているステロール 1 の生合成遺伝子 CAS1 が 花粉形成と葉緑体形成に働くことを世界で初めて明らかにしました 理研植物科学研究センター ( 篠崎一雄センター長 ) 多様性代謝研究チームの村中俊哉チームリーダー 鈴木優志研究員と フランス 国立科学研究機構 (CNRS カトリーヌ ブレシニャック理事長 ) の Hubert Schaller( ヒューベルト シャラー ) 博士 ベルギー ゲント大学の Marc Van Montagu ( マーク ヴァン モンタギュ ) 教授らとの共同研究による成果です 植物が花粉を作ることができない現象として 雄性不稔 2 という形質が知られています これは 親世代の異常が原因で正常な花粉を作ることができないという形質で 自然界ではまれに見られますが 遺伝子組換え植物の花粉が環境中に拡散するのを防いだり 作物のハイブリッド種子 3 を作成したりすることを可能にするため 実用技術としてさまざまに利用されています 植物が花粉を作ることができないもう 1 つの現象に 雄性配偶体致死 2 があります これは 花粉自体の異常で 正常な花粉ができないという形質です 研究チームは これまでに ステロール生合成に重要な役割を果たす HMG1 遺伝子の欠損変異体 hmg1 が 雄性不稔形質を示すことを見いだしていました 今回 この HMG1 遺伝子より下流で働く CAS1 遺伝子の機能を調べる目的で CAS1 遺伝子の遺伝子破壊株を単離 解析したところ 完全な破壊株では雄性配偶体致死形質を示し 弱い破壊株では茎が白い 斑入り となることがわかりました また この遺伝子が これまで全く知られていなかった葉緑体形成に一役買っていることを世界で初めて明らかにしました CAS1 遺伝子の複数の機能を解明し この遺伝子機能をさまざまなタイミングで狙った程度に制御することができると 花粉を作ることのできない作物や斑入りの新種の園芸植物の開発が期待できます 本研究成果は 米国科学アカデミー紀要 (Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS) の 2 月 26 日号に掲載され 雑誌の表紙を飾り ステロール生合成に関わる CAS1 遺伝子が葉緑体の形成に働くとは驚きである と称されました 1. 背景植物の花粉は 葯 ( 雄しべ ) 内の花粉母細胞から減数分裂により生じた小胞子が 2

回細胞分裂して 1 つの花粉管細胞と 2 つの精細胞をもつ花粉に成熟し その間にタペート層 4 から花粉成熟に必要な脂質を中心とした物質が供給されて完成します 研究チームは 脂質の一種であるステロールが植物の発生 生長に与える影響を調べる目的で ステロール生合成に重要な遺伝子 HMG1 の欠損変異体 hmg1 を単離 解析し hmg1 が雄性不稔の形質を示すことを見出していました (Suzuki et al. 2004 Plant Journal, 37, 750-761) 今回の研究では 花粉形成に働く脂質成分を絞り込むために HMG1 遺伝子より下流で働く多くの遺伝子のうち 特にステロール骨格を形成する酵素遺伝子である CAS1 遺伝子の機能を解析しました 2. 研究手法と成果モデル植物であるシロイヌナズナには 多くの遺伝子欠損株が存在し 系統保存されてきています それぞれの変異株は 同一遺伝子内に変異が生じている場合でも その変異の入り方により 変異の程度 ( 遺伝子の働きの強さ ) が異なります 研究チームは cas1 変異株のうち 完全に遺伝子が働かなくなっている遺伝子破壊株 (cas1-2) を取り寄せ 形質を調べましたが cas1-2 ホモ変異体 5 は単離できませんでした そこで cas1-2 ヘテロ変異体 5 の野生型への戻し交雑実験を行ったところ 野生型シロイヌナズナに cas1-2 ヘテロ変異体の花粉を掛け合わせたときには cas1-2 変異は遺伝せず cas1-2 ヘテロ変異体に野生型の花粉を掛け合わせたときだけ cas1-2 変異は遺伝しました ( 図 1) このことは CAS1 遺伝子が花粉形成に必須であることを示しています一方 共同研究者のシャラー博士らは cas1-2 よりも変異の程度が弱い ( 遺伝子が弱く働いている )cas1 変異株 (cas1-1) の単離に成功しました 興味深いことに この変異体は 茎の上部が白化するという斑入り形質を示しました ( 図 2) 斑入りになった部分ではクロロフィル 6 やカロテノイド 7 といった葉緑体色素の量が減少し 葉緑体も不完全な形態を示しました ステロールやクロロフィル カロテノイドといった イソプレノイド 8 と呼ばれる化合物群は 共通の前駆物質のイソペンテニル二リン酸 8 から生合成されますが ステロールは細胞質で クロロフィルやカロテノイドは葉緑体の中で生合成されます cas1 変異体の多様な形質から 細胞質と葉緑体におけるこれらの物質の生合成が複雑に相互作用していることがわかりました 3. 今後の期待これまでも イソプレノイド化合物の生合成に関する遺伝子はたくさん発見されていました ステロールなどの細胞質イソプレノイドの生合成に関わる遺伝子の変異体は 矮性や花粉形成の異常 ( 雄性不稔や雄性配偶体致死 ) などの形質を示しました また クロロフィルなど葉緑体のイソプレノイド生合成に関わる遺伝子の変異体は 白化するアルビノ形質を示すことがわかっていました 研究では ステロール骨格を形成する酵素遺伝子である CAS1 遺伝子が 花粉の形成だけではなく 葉緑体の形成に重要な働きを示すことがわかり 非常に興味深い結果となりました 具体的には CAS1 遺伝子は 完全に破壊すると花粉を形成できなくなり 働きを弱くすると 葉緑体の形態が不完全になり白化します 特に 幼植物の時点で CAS1 遺伝子の働きを抑制すると 新しく生じる葉が白化するという結果を初めて

得たため さまざまな生長段階で CAS1 遺伝子の働きを抑制することにより いろいろな斑入り園芸植物の開発につながることが期待されます さらに 開花直前に CAS1 遺伝子の働きを抑制することにより 花粉を作ることのできない作物の開発につなげられる可能性があり 花粉飛散防止対策を講じる必要がある遺伝子組換え植物や 作物のハイブリッド種子の作成に有効であると期待できます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所植物科学研究センター多様性代謝研究チームチームリーダー村中俊哉 ( むらなかとしや ) Tel : 045-503-9651 / Fax : 045-503-9492 研究員鈴木優志 ( すずきまさし ) Tel : 045-503-9652 / Fax : 045-503-9492 横浜研究推進部企画課 Tel : 045-503-9117 / Fax : 045-503-9113 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 ステロール動植物に含まれるイソプレノイドと呼ばれる脂質の一種 真核生物の細胞膜の一部を形成したり その機能を調節したりする 動物由来のものではコレステロールが有名 植物特有のもので シトステロール スチグマステロールなどがある 2 雄性不稔 雄性配偶体致死どちらも花粉を作ることのできない形質だが その原因が異なる 雄性不稔は 花粉を作ることのできない原因が親個体にあるが 雄性配偶体致死では 花粉そのものに原因があって正常な花粉を生ずることができない 3 ハイブリッド種子交配した第 1 世代の F1 と同義 異なる特性を有する近交系を交配した雑種第 1 代 (F1) は 雑種強勢 ( ヘテロシス ) から 純系の両親より生育 生産力 耐病性などの特性が優れたものになる ハイブリッド種子作製のためには交配する必要があるので その省力化のため雄性不稔が利用される

4 タペート層花粉 ( 小胞子 ) を含む葯室を取り囲む一層の細胞層 花粉成熟に必要な物質を供給する 動物で例えると 胎児に対する胎盤の関係に類似している タペート層は花粉成熟がある程度進んで不要になると プログラム細胞死を引き起こす このときに細胞内の脂質に富んだ成分が花粉の周囲に付着する 5 ホモ変異体 ヘテロ変異体それぞれ純系と雑種に同義 注目している遺伝子について両親から同一の遺伝子型を受け継いだものを ホモ変異体 異なる遺伝子型 ( 片親からは正常な遺伝子を もう片親からは破壊された遺伝子 ) を受け継いだものを ヘテロ変異体 という 6 クロロフィル葉緑体に含まれる色素 光合成に重要な役割を果たす この色素が赤および青紫の光を吸収し 緑の光は吸収しないために植物は緑色をしている 7 カロテノイド広く動植物に含まれる赤や黄色の色素 ニンジンの赤はこの色素の色である 抗酸化作用をもつことが知られている 8 イソプレノイド イソペンテニル 2 リン酸 イソプレン と呼ばれる C5 化合物を基本骨格とする化合物群を 総称してイソプレノイドと呼ぶ イソペンテニル 2 リン酸はイソプレンに 2 つのリン酸基がついた C5 化合物 イソプレノイドはすべてこのイソペンテニル 2 リン酸が重合 修飾されることによって生合成される イソプレノイド化合物にはステロール クロロフィル カロテノイドの他に 天然ゴムやいくつかの植物ホルモンなど多くの化合物がある

図 1 雄性配偶体致死形質を示す cas1-2 変異体 (A) cas1-2 ヘテロ変異体に野生型シロイヌナズナの花粉を掛け合わせた実験 次世代は野生型と cas1-2 ヘテロ変異体が 1:1 の割合で現れる (B) 野生型シロイヌナズナに cas1-2 ヘテロ変異体の花粉を掛け合わせた実験 花粉に異常がなければ次世代は野生型と cas1-2 ヘテロ変異体が 1:1 の割合で現れるはずだが 野生型個体しか得られなかった

図 2 野生型と斑入りになった cas1-1 変異体 (A) 野生型シロイヌナズナの花茎 (B) 斑入りになった cas1-1 変異体の花茎 ( 写真提供 :Schaller Disdier 両博士 )