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Transcription:

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年の時を経て 1973 年に Steinman 博士によりプロフェッショナルな抗原提示細胞として 樹状細胞が発見されました LC には抗原提示の機能があることが見出され また 樹状細胞という概念が LC に当てはまったため LC は神経細胞ではなく 樹状細胞の一員として認められることになりました ちなみに Steinman 博士は樹状細胞を発見された業績によりノーベル医学 生理学賞を受賞されています さて 抗原提示細胞のマーカーとして知られる MHC class II で皮膚を染色すると 表皮には多数の MHC class II 陽性細胞が見つかります 表皮を構成する細胞のうち 約 95% は表皮角化細胞ですが LC は表皮の細胞の約 2-3% を占めています それ故 1mm 2 あたり約 1000 個の LC が存在することになります また LC の機能は 2005 年に至るまで in vitro で機能を解析することが中心でした in vitro で LC を取り出して培養すると LC は活性化してしまうため LC は免疫応答において亢進させる機能があると常に考えられてきました ランゲルハンス細胞の現在それでは次に LC の現在について説明します 先ほどお話ししたとおり 以前は LC が皮膚に曝露される外来抗原に対する免疫応答の主役であり 常に免疫を正の方向に誘導すると考えられていました ところが約 10 年前 LC のみを特異的に除去することができる遺伝子改変マウスが作製されました これらのマウスを用いることによって この約 10 年間 LC の in vivo での機能が次々と明らかにされてきました 皮膚に曝露されうる抗原 アレルゲン LC の in vivo での機能の詳細について説明する前に まず 皮膚に曝露されうる抗原 アレルゲンについて説明します 外来抗原 アレルゲンは 大きくハプテンとタンパク抗原の二種類に分類できます

ウルシ 香料 金属などがハプテンの範疇に含まれます 分子量 <1000 の低分子でおもに接触皮膚炎の原因抗原となります また 花粉 ダニ 動物の毛などがタンパク抗原として挙げられます 分子量が 10000 以上の高分子で 主に アトピー性皮膚炎などの原因となることが知られています ハプテンに対する免疫応答における LC の役割それではまず 接触皮膚炎の原因となるハプテンに対する免疫応答における LC の役割について説明します 大きな転機は 約 10 年前となる 2005 年に LC を除去することができるマウスを用いて接触皮膚炎モデルが適用されたことに至ります アメリカ フランス オランダの3つのグループがほぼ同時期に3 つの異なる手法を用いて LC を除去するマウスを作製しました 感作相で LC を除去した際に 接触皮膚炎反応は オランダのグループはこれまでの報告と合致して減弱することを示しました しかしながら フランスのグループは LC を除去しても接触皮膚炎反応は 変わらなかったと報告しました さらに アメリカのグループは LC が除去されることでむしろ接触皮膚炎が増悪すると報告しました すなわち 接触皮膚炎において LC は必須でなく 不要 あるいはむしろ抑制的に作用している可能性すらあることが提示されたことになります この報告は皮膚免疫を行っている研究者にとって大きな衝撃を与えました なぜなら皮膚免疫の主役と考えられてきた LC が接触皮膚炎に不要 あるいはむしろ抑制的に作用している可能性があるためです なぜこのような3つの異なる結果が得られたのか その詳細ははっきりしていません しかしながら 現在のところ 以下の様な考え方が総じて受け止められています ハプテンは低分子のため 表皮から真皮にまで容易に到達することができます そのため ハプテンが関わる接触皮膚炎に於いて LC はなくても真皮樹状細胞が抗原提示細胞としての役割を果たすというものです その後 さらに我々のグループを含め幾つかのグループからこれに関連する実験結果が報告されました 概ね 接触皮膚炎では 真皮樹状細胞が感作相で重要な役割を果たしていることが支持されています 一方 接触皮膚炎の惹起相でも LC は不要であることも 我々のグループは昨年 2014 年に報告しました

亜鉛欠乏による皮膚炎と LC それでは LC はむしろ抑制的に作用しているかどうかについては 現在どのように考えられているのでしょうか? まだこの点に関しましては 結論は出ていませんが 興味深い報告が山梨大学の皮膚科のグループから数年前に発表されました 皆様もご存知の通り 亜鉛欠乏は 皮膚炎をもたらします 山梨大学のグループは 病理学的所見により 亜鉛欠乏による皮膚炎の部位では LC が存在しないことを見出しました また 刺激を受けたときに表皮角化細胞 (KC) が産生する ATP は 炎症を誘導しますが その ATP を LC が分解することで炎症を抑制していることを明らかにしたのです その他にも 紫外線照射による接触皮膚炎反応では免疫抑制を誘導することが知られていますが LC が産生する IL-10 が重要であることが報告されています タンパク抗原の皮膚への曝露に対する LC の役割それでは次にタンパク抗原の皮膚への曝露に対する LC の役割について述べます タンパク抗原は 分子量が大きいため 皮膚に曝露されても主に角層に留まります そしてその角層に留まる抗原を LC が表皮のタイトジャンクションをこえて角層付近まで樹状突起を伸ばし抗原を補訂することを慶応大学のグループが報告しました タンパク抗原が関与する皮膚疾患の代表としてアトピー性皮膚炎 ( 以下 AD) が挙げられます 我々のグループも AD モデルを用いて LC の役割について検討しました LC を除去することにより AD モデルは臨床症状が減弱するのみならず 抗原特異的な IgE の誘導がほとんどみられなくなりました したがって タンパク抗原による AD モデルにおいて LC は必須であることがわかります また タンパク抗原が曝露された場合に 表皮に発現する TSLP という分子が LC に作用して Th2 型の免疫反応である AD を誘導することが明らかになりました その他の LC の生理的役割として 真菌感染や尋常性乾癬における Th17 型誘導を LC が誘導していることも知られています

LC の作用の多様性がどのように生み出されるのかについても近年は多くの知見が得られています 現在最も注目されているのは 皮膚への様々な外的刺激に対して LC の周りに存在する表皮角化細胞の産生するサイトカインなどが LC の機能のベクトルを規定しているということです 現在この領域は自然免疫の発展と共に 大きく進展しています ランゲルハンス細胞の未来 今後の課題以上の様に LC の機能の解明が in vivo でなされてきました しかしながらそのそれらの研究は主にマウスでの解析にすぎません そのため 実際のヒトにおける LC の機能の多くは不明のままです 動物で得られた研究成果がヒトにそのまま当てはまるのか といったことを検証してくことが今後の重要な課題です ヒトでの LC の機能の全貌があきらかになれば 次の課題として LC の機能を操作して免疫応答を操作することも挙げられるかと思います たとえば LC の機能をうまく利用して 抗腫瘍免疫に応用できるかもしれません 現在 メラノーマなどの悪性腫瘍の治療に PD-1 などの免疫に着目した薬剤が注目を集めています LC には抗腫瘍免疫を亢進させる可能性を有していると考えられますので今後に期待したいと思います それ以外にも皮膚免疫を亢進させることによって経皮的なワクチン療法などの開発も考えられます 一方 マウスの実験結果からは LC には 免疫応答を抑制させる機能があることも知られています たとえば紫外線療法の作用機序の一つとして LC の関与が示唆されています 従いまして LC の機能を利用してうまく免疫抑制を誘導することができれば アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患に対する副作用の少ない新規治療法へと発展する可能性もあります 以上の様に 今回のセミナーでは LC の過去 現在 そして未来への展望についてお話 しさせていただきました