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Transcription:

手術説明書 - 急性大動脈解離 この文書は 手術について その目的 内容 危険性などを説明するものです 説明を受けた後に ご不明な点がございましたら 何でもお尋ね下さい (1) 大動脈解離について a. 大動脈解離とは大動脈の壁の内側に裂け目ができ そこから血液が大動脈の壁の間に分け入って流れ込み 大動脈の壁が二層にはがれた状態を大動脈解離といいます 本来の血液の通り道を真腔しんくうといい 新たに出来た通り道を解離腔といいます 解離腔の壁はとても薄いため 突然破裂したり ( 大動脈破裂 ) 大きくふくらんで こぶ状になることがあります ( 解離性大動脈瘤 ) b. 大動脈解離の原因大動脈解離を起こす原因はよく分かっていませんが 症例の 80% 位に高血圧の既往があります c. 大動脈解離の分類 c. 大動脈解離の分類上行大動脈から下行大動脈 さらに腹部大動脈にまで及ぶもの 上行大動脈に限局したもの 下行大動脈から始まり 腹部大動脈に及ぶもの などに分類されています

d. 急性大動脈解離の症状多くの場合に 突然 胸部や背部の激しい痛みが起こります まさに 引き裂かれるような 痛みと訴える患者さんもいます また 解離の進展によりさまざまな臓器の血流障害が生じ 多彩な症状を示します ( 大動脈弁逆流 心筋梗塞 心不全 意識障害 腹痛 下肢痛など ) 一方 発症から時間が経過した慢性の場合は ほとんど症状がありません e. 急性期に手術せずに経過観察した場合 1 大動脈解離を起こした解離腔の壁は非常に薄いため 血圧に耐えられずに大動脈が破裂し ショック状態になります 2 解離の進行による血流障害が いろいろな臓器の虚血 ( 心筋梗塞 脳梗塞 腸管虚血 腎虚血 下肢虚血など ) が出現します 3 薄くなった大動脈から血液が漏れ 心臓のまわりに血液がたまると 心臓は外側から圧迫されて 心タンポナーデという合併症が起こり 血圧が低下します そのまま手術せずに放置した場合 約 70% の患者さんは発症してから 2 週間以内に死亡すると言われています (2) 急性大動脈解離の治療方針 一般的に急性大動脈解離は緊急手術の適応となります 特に大動脈破裂の場合や 心筋梗塞や脳障害を起こす危険性の高い上行大動脈に解離のある場合には 速やかに手術をすることが必要です 一方 下行大動脈から始まる解離では 安静や血圧コントロールなどの内科的治療が優先されます ただし 臓器の合併症を起こしていたり 出血している場合には手術適応となります (3) 手術の目的 臓器の血流障害を改善させ 破裂を未然に防止することです 手術では 血管の内側の裂け目がある部分を含めて 解離している大動脈を人工血管で取り換える人工血管置換術を行います 心臓や脳を守るため 上行から弓部にかけての大動脈を置換することが先決で 解離しているすべての大動脈を人工血管で取り換える訳ではありません

(4) 手術の方法 上行大動脈に解離口がある場合は 上行大動脈を人工血管で置換します 弓部大動脈に解離口があったり 拡大している場合は上行大動脈から弓部大動脈にかけて人工血管で置換します 弓部大動脈を全部取り換える場合は 頭へ行く 3 本の血管も人工血管でつなぎます また 大動脈弁逆流が高度の場合には 大動脈弁を治す手術を加えたり 冠動脈口が裂けている場合には 冠動脈バイパス術を追加します 最終的には 手術中に解離口の部位や大動脈の亀裂範囲をみて 術式を決定します (5) 大血管手術の実際 a. 具体的な方法 (1) (1) 胸の中央を縦に切開 ( 胸骨正中切開 ) し 心臓のまわりを包む心膜を切り開くと心臓がでてきます (2) 腕または足の動脈と心臓の右心房というところに管を差し込み 人工心肺装置という機械に接続し ポンプを作動させて全身への循環と酸素交換を行い 心臓と肺の働きを代行します この装置を使って血液の温度を冷却していき 体温を下げます その後 人工心肺装置を止めて 全身の循環を一時的に停止します 低体温にすることにより 細胞の代謝を抑え 各臓器の機能を保護します (3) このような状態にして初めて大動脈を切開できます しかし これには制限時間があり 特に脳は最も早くダメージを受けるため 特別な回路を使って脳に血液を流します 心臓は心筋保護液という特殊な薬を注入すると心臓は止まります もしこの薬がなければ心臓は数分で心筋梗塞になってしまいますが この薬のおかげで 3~4 時間は心臓を停止させることができます (4) 循環が停止している間に人工血管置換術を行います 人工血管の縫合が終了した後 心臓に再び血液を流し始めると 心臓は自然に動き始めます 心臓の力が十分回復したところで人工心肺装置を停止します (5) 止血を十分確認した後 心臓の周囲にドレーンを留置し 胸骨をステンレスワイヤーで固定し 皮下皮膚を縫い合わせて手術を終了します (2) (3) (4) (5)

b. 心臓大血管手術の特殊性と問題点 人工心肺装置という器械で全身への循環を保つという特殊な状況になるため 全身の臓器や血液に影響が出ます 血液の流れ方も通常と違うため たとえば脳動脈硬化の強い方は脳の循環が悪くなったり 血液が薄まることで全身の臓器が浮腫状態になり 肺の機能が悪くなることもあります また腎臓の血流が不足すると腎不全になり 血液透析が必要になることもあります 心臓手術の最大の特殊性は心臓を停止させるということで 心筋保護液がうまく心臓全体にいきわたらないと心筋梗塞になってしまい 心臓が全く動かないという事態に陥ることもあります また 大血管手術では 血管を流れる血流を完全にストップしなければ 血管を切って人工血管と縫い合わせることはできません そのため 人工心肺装置を一時的に停止して 血液循環を完全にストップします しかし 脳へ血流が流れないとすぐに脳は死んでしまいます そのため 脳へ行く血管に特別な管を挿入して冷却した血液を送ります そうすることで脳を保護し 低酸素状態にならないようにします (6) 手術当日と術後経過の見通し 手術室に入室した後 まず麻酔がかかり深く眠った状態になります 口から気管チューブが入り人工呼吸器につながります 全身麻酔のため苦しさや痛みはありません 入室して1 時間ほどしてから実際の手術が始まり その後人工心肺装置が接続され 大血管手術を行います もしも手術中になにか特別なことがあればお知らせします 手術が終わるとすぐに集中治療室 (ICU) に入ります そこで家族の方の面会があります ただこの時患者さんはまだ麻酔が効いていて意識がありません 3~4 時間もすると麻酔からさめ 意識を確認し自分で十分呼吸ができるようになったら気管チューブを抜きます そうすると話ができ しばらくすると水も飲めるようになります その後食事が開始となり リハビリもはじまり 4~5 日後には病棟に戻れるでしょう その後は 10~14 日間ほどリハビリを進め 創の治りもよく 血液検査や CT 検査等も問題ないと確認できたら 退院になります もしも 退院後の生活に不安な方や もう少しリハビリを希望される方は 当院で引き続きリハビリを進めるか かかりつけ病院へ転院して行うか ご相談します 術後の創の痛みには個人差がありますが 術後 3~4 日過ぎると痛みはだいぶ和らぎ おおむね術後 3 ヵ月位経つと治まってきます 万一痛みが我慢できない時には痛み止めの薬があります 退院後は 手術後 1 ヵ月目に外来受診があり 術後の経過をチェックします

(7) 大血管手術に伴って起こりうる主な合併症 a. 脳障害 ( 意識障害 出血 脳梗塞など ) 血管の内側に付いた いわゆる 動脈硬化のカス や血栓 ( 血の塊 ) などが手術中にはがれ血流に乗って脳の血管につまると脳梗塞になります 半身麻痺や言葉が出なくなったり 意識が戻らないこともあります b. 肺合併症 ( 呼吸不全 肺炎など ) 人工心肺の使用によって 肺の機能が弱まったり 肺炎を引き起こすことがあります また肺の外側に空気や血液が貯まったり ( 気胸 血胸 ) 人工呼吸管理が長くなった場合 気管切開を行うことがあります 時に気管チューブの影響でかすれ声になることがあります c. 心臓合併症 ( 心筋梗塞 不整脈 心タンポナーデ 心不全など ) 術前に心機能の悪い方では 心筋梗塞や心不全になることがあります また術後 心臓のまわりに血液などがたまると心臓を圧迫して血圧が下がることがあります ( 心タンポナーデ ) d. 腎不全 ( 透析など ) 腎臓の働きが低下し 尿が出なくなり 血液透析をすることがあります e. 出血出血が予想以上に多い場合には 輸血が必要となります 手術では最終的に出血のないことを確認し閉創しますが 術後血圧の上昇などで再出血することがあり 止血のための手術 ( 再開胸止血術 ) が必要となることがあります f. 肝障害 ( 黄疸など ) 薬や輸血 人工心肺などの影響で肝炎や黄疸になることがあります g. 感染 (MRSA 菌などによる創感染 縦隔炎 菌血症 感染性心内膜炎など ) 皮膚には常在菌が存在していますが 抵抗力がある場合には 通常 手術の創は自然と治っていきます しかし体力が落ち抵抗力が弱くなっている場合には 病原性の弱い菌にも感染しやすくなります 感染の程度によっては抗菌薬で軽快することもありますが 一旦胸骨へ感染が及ぶと 心臓のまわりにも感染が広がります ( 縦隔炎 ) また 血液中に細菌が入り込み ( 菌血症 ) 心臓自体にも感染を起こすことがあります ( 感染性心内膜炎 ) h. 消化器合併症 ( 胃潰瘍 腸閉塞など ) 手術のストレスなどにより 胃や十二指腸に潰瘍ができると食欲がなくなり 黒色の便がでて 貧血になることがあります i. 深部静脈血栓症 肺梗塞静脈に血栓ができた状態です 特に足にできやすく 足全体がむくんではれます この血栓が血流にのって移動し 心臓を経て肺の動脈につまると肺梗塞となり 呼吸困難になります 重篤な場合 血栓を薬剤で溶かしたり 手術で取り除く治療が必要となります j. 大血管手術に伴うもの術中の血流不足や術後解離腔が残っている場合 いろいろな臓器への血流障害が起こる危険性があります たとえば 脊髄が血流不足になると 下半身麻痺 ( 車椅子状態 ) になったり 腸管が血流不足になると壊死を起こし 腸管切除や人工肛門が必要になる場合があります k. その他 ( アレルギーショック 血管損傷など ) アレルギー反応として 気分が悪くなったり 発疹やかゆみがでたり 血圧が急に低下したりします また人工心肺の使用時に 動脈や静脈が損傷することがあります

以上の手術合併症は 必ず起こるという訳ではなく ほとんどの患者さんでは順調に回復し退院されています しかし時に合併症を起こし 予期せぬ事態に陥ることもあります これらは ICU にいる時に起こることが多いのですが 病棟に帰った後に起こることもあり 手術後約 10 日間は入院検査が必要です 万一合併症が発生した場合には 直ちに最善の処置を施すとともに病状の説明をします 合併症の多くは一般的な治療で改善しますが 時に緊急手術などが必要な場合があり その治療のため入院期間が大幅に延長したり 最悪の場合生命の危険に及ぶことがあります 術前に合併疾患がある方では 術後合併症のリスクが上がります 手術の危険性は心臓手術そのものの危険性に加え これらの合併症による危険性が含まれ 手術死亡率は全体で約 10~20% です この率は 年齢 病状や合併症の程度などで変わります なお 麻酔に関する説明 は麻酔科医師が 麻酔術前診察の際に 説明を行う予定にしています (8) 手術の責任医師名 心臓血管外科部長星野竜 (9) 手術等に関する費用 総医療費 ( 概算 ) : 600~700 万円自己負担額 : 5~ 20 万円 ( 限度額適用認定証 や 自立支援医療 が申請できます) 実際の金額に関しては個人差がありますので 詳しくお聞きになりたい場合には 当院のソーシャルワーカーにお尋ね下さい (10) 手術の同意を撤回する場合 一旦同意書を提出しても 処置が開始されるまでは 取りやめることができます やめる場合にはその旨を申し出てください (11) 連絡先 最後に 手術に関してご不明な点や相談事項がございましたら 直接ご説明する機会を設けておりますので お問い合わせ下さい お問合せ先 : 病院代表 (0586)48-0077( 代 ) 一宮西病院心臓血管外科星野竜山口聖次郎金子完真鍋秀明近藤弘史 - 平成 27 年 10 月現在 -

心臓血管手術を受けられる方へ この説明書は 心臓血管手術がどのようなものかについてご説明するものです 説明書をよくお読みになり 心臓血管手術についてのご理解を深めて頂くとともに 担当医への質問の資料にしてください < 患者様の権利 > 1 患者様は 公平で良質 かつ安全な医療を受ける権利があります 2 ご自身の病気や治療について 知る権利と十分な説明を受ける権利があります 3 ご自身の治療について 担当医師から提示された治療法を 選択または拒否する権利があります 4 病院に対して意見 要望を述べる権利があります 5 患者様のプライバシーは常に保護 尊重されます 社会医療法人杏嶺会一宮西病院病院長上林弘和