東北大学病院高度救命救急センター 研修講義 PCPS と IABP 担当遠藤智之
PCPS と IABP 講義内容 I. 用語解説 II. 初期診療 III. 高次医療機関への転送 IV. 患者管理
I. 用語解説
I. 用語解説 Extracorporeal CPR(ECPR) 蘇生における体外循環装置の呼称は様々 日本では主として PCPS(Percutaneous Cardiopulmonary Support) の名称で親しまれている その他 percutaneous cardiopulmonary bypass emregent portable bypass system extracorporeal bypass など
I. 用語解説 PCPS-Wikipedia より 経皮的心肺補助装置は 主に急性期の心肺補助に使用される人工心肺装置である 大腿動静脈で送脱血を行う PCPS(pericutaneous cardiopulmonary support) と呼ばれる PCPSは その名のとおり注射針のように皮膚を貫いて血管に送血と脱血カニューレを挿入するのが特徴である また 血液回路も非常に単純であるため数分間で準備し装着することができ 心原性ショックの蘇生手段として用いる場合もある 重症冠動脈疾患症例のPTCA 施行時の循環補助や 呼吸不全における呼吸補助 重症心不全症例に対して適応される
I. 用語解説 IABP-Wikipedia より ( 英語版を和訳 ) IABPは 心筋の酸素需要を減らし 同時に心拍出量を増加させるために使用される機器である IABPは円筒状のバルーンで構成される バルーンは大動脈内に留置され カウンターパルセーションを行う カウンターパルセーションとは 心収縮期にバルーンが縮小し 後負荷を減らすことにより順行性血流を増加させ 心拡張期にはバルーンが拡張することで冠動脈への血流を増加させることを言う バルーンはコンピュータ制御下に心電図とリンクすることにより 心拡張期に拡張する バルーンへのヘリウムの出入りはコンピュータ制御下にコントロールされている ヘリウムは粘調度が低いため 長い接続チューブ下でも気体の移動が速やかである
II. 初期診療
II. 初期診療 II-1 PCPS
II. 初期診療 PCPS: 非心停止における一般的導入基準 人工心肺離脱困難 ( 開心術中 ) IABP のみでは補助循環として不足の場合 循環作動薬補助下でも収縮期血圧 80mmHg 以下 循環作動薬補助下でも心係数 1.8L/min/m 2 以下 FiO 2 =1.0 でも PaO 2 60mmHg 以下 心室頻拍 心室細動の頻発 補正困難な代謝性アシドーシスで循環が維持できない場合
II. 初期診療 PCPS: 一般的な除外基準 高度の末梢動脈硬化症最近の脳血管障害のエピソード凝固障害コントロール不能な顕性出血末期患者常温での詳細不明の心停止高度大動脈閉鎖不全症急性大動脈解離
II. 初期診療 PCPS- 院外 CPA: 当センターでの適応 1. 年齢 : 思春期以降 ( 年齢ではなく体格で判断 )~ およそ 70 歳 2. 初期調律 :VF または VT( 卒倒時の目撃は必須ではない ) 3. No CPR Time 15 分 :CPR が卒倒から 15 分以内に開始されている 4. 心原性心停止 ( 虚血性心疾患 肥大型心筋症 心筋炎 不整脈等 ) が示唆される 5. 20 分以上の BLS/ACLS( 病院前を含む ) でも心拍再開を得られない 6. コントロール不能な出血がない 7. 原則的に上記 1~6 のすべてを満たす * 偶発性低体温症 薬物中毒による (or 疑われる ) 心停止 : 上記 1~6 を問わない
II. 初期診療 PCPS- 院内 CPA: 当センターでの適応 1. 年齢 : 事前のADLに応じて上限を設けない 2. 初期調律 : 卒倒時の目撃がある場合 : すべて 卒倒時の目撃者ない場合 :VF/VT PEAに限る 3. 10 分以上のBLS/ACLSでも心拍再開を得られない 4. コントロール不能な出血がない 5. 明らかな予後不良の不可逆性疾患 ( 末期患者 ) ではない 6. 原則的に上記 1~5のすべてを満たす * 偶発性低体温症 薬物中毒による (or 疑われる ) 心停止 : 上記 1 ~5を問わない
I. 用語解説 PCPS ー機器 プライミング Terumo 社製 Capiox 回路のプライミングは取り扱い説明書に沿って行う 約 5 分で可能 プライミングには550mL の輸液製剤が必要 輸液の種類は何でもよいが 一般的には細胞外液透析の回路に比べると 超簡単! フロー測定用の超音波プローブの装着を忘れないこと!
I. 用語解説 PCPS- カニュレーション 可能であれば透視下で 送血用カニューレ ( 赤 ) 大腿動脈に挿入する 13.5F or 15F or 16.5F 脱血用カニューレ ( 青 ) 大腿静脈に挿入する 18F or 19.5F or 21F 長い 右心房まで到達させる 非透視下の場合 深さの調節は目測で行うしかない 待機的に行うときは 大腿動脈に人工血管を立てると下肢の虚血を招きにくい ( 血管外科依頼が必要 )
I. 用語解説 PCPS- 遠心ポンプ 人工肺 遠心ポンプの回転はマグネット式酸素は人工肺の上部ポートにつなぐ人工肺の換気能 (CO 2 レベル ) は人工肺の酸素流量で調節 酸素接続部 酸素接続部 流量計測用超音波
II. 初期診療 II-2 IABP
II. 初期診療 IABP- 挿入 バルーンサイズ ( 当院 ):35 40mL 35mL:155~165cm 40mL:165cm 以上可能であれば透視下に挿入超緊急時 (CPR 中など ) は非透視化でも止むを得ない 上縁 : 左鎖骨下動脈分岐の下下縁 : 腎動脈の上非透視化に挿入した場合 ガイドワイヤーの迷入 腹部大動脈の蛇行などがあっても気が付かない 適正な深さに挿入できない
II. 初期診療 IABP- 禁忌 絶対禁忌 エコーなどでできるだけ除外すること 大動脈弁逆流 大動脈解離 胸部 or 腹部大動脈瘤 末期患者 脳死 重篤な血液凝固障害相対禁忌 大動脈 or 大腿動脈の著しい粥状動脈硬化 症候性の末梢血管障害
II. 初期診療 PCPS IABP カニューレ保管場所 PCPS 回路とカニューレ : 重症初療室右奥窓際の棚上 回路 IABP バルーン : 重症初療室右奥壁側 脱血カニューレ 送血カニューレ 35mL 40mL
III. 高次医療機関への搬送
III. 高次医療機関への転送 受け入れる側として 当院は心移植施設でもあり PCPS や IABP の挿入された患者の広域搬送を受け入れている 主として循環器系の患者であるが ヘリによる受け入れの際には 救命センタースタッフによる移送補助が必要である PCPS/IABP はバッテリー駆動可能 PCPS は最悪の場合 マニュアル ( 遠心ポンプを手動で回す ) での動作も可能
III. 高次医療機関への転送 受け入れる側として PCPS のマニュアル駆動 ( 写真 )
IV-1 PCPS
PCPS と抗凝固療法 抗凝固のモニターは ACT で行う 3~4 時間毎 ACT 150~200sec 目標 ヘパリンが一般的に使用される 3000~5000 単位をボーラス IV して その後持続投与を開始 HIT(Heparin Induced Thrombocytepenia) が疑われるときは Nafamostat や Algatroban を使うこともある
PCPS と血行動態モニタリング Swan-Ganz カテーテルが一般的 3 日間以上の留置も止むを得ない 肺体血圧比 (mean AP/mean PAP) が心機能評価の指標となる PiCCO は 体外循環があるときには不適 呼気 CO2 は肺血流の指標となる! 例 : 肺塞栓症で PCPS を回した場合 呼気 CO2 の上昇は肺血栓溶解 肺血流増加を示唆
PCPS と Volume 侵襲による血管透過性亢進が生じ 細胞外液が third space へシフトする ベースの腎機能が正常であれば 大腿動脈送血による逆行性血流が腎血流を増加させ 尿量は増加する 以上を考慮した輸液を行わないと 容易に Hypovolemia に陥る 脱血不良は回路停止の原因となる 脱血不良時は脱血回路が振動する このようなときは 200~500mL の細胞外液を急速輸液して反応を見る
PCPS とカテコラミン PCPS 中は できるだけカテコラミンサポートを減らす 心臓にはできるだけ休息を与える 離脱前には DOA<5μg/kg/min DOB<5μg/kg/min にしておくことが望ましい こうすることで離脱後に増量できる幅を持たせておく
PCPS と心エコー PCPS 中は 頻回に心エコーによる心機能の評価を行う 離脱前には 回転数を落としたときの心機能 右心負荷を評価する 肺塞栓症などの右心負荷の強い病態では 右 左シャント (ASD/ 卵円孔開存 ) もチェックしておく R L シャントによる酸素化悪化 奇異性塞栓症のリスク評価 etc
PCPS 中の観血的手技 PCPS 中は抗凝固療法中であることを肝に銘じ 観血的手技の適応は極めて慎重に判断する 胸腔穿刺 ドレナージ 心嚢穿刺 誤穿刺時に圧迫不能部位からの CV 挿入 etc もしどうしても必要性が上回ると判断される場合でも 必ず他のスタッフと相談し かつ家族に IC を得てから行うこと
PCPS 中の CT バッテリー駆動で可能 かなり大変! 適応 : 予後判定のための頭部 CT etc
PCPS の回路交換 -1 一般的な回路の寿命は 10 日前後? 長期にわたり PCPS を必要とする場合 心移植適応があれば 左心補助デバイス (LVAD/LVAS) への移行を検討 可逆性の病態と考えられるときは 回路交換により時間を稼ぎ 自己心の回復を待つ 急性心筋炎 急性心筋梗塞 (Stunning からの回復 ) 救命の見込みがない場合には適応外
PCPS の回路交換 -2 人工肺の寿命は 原疾患 患者の病態によってまったく異なる 純粋な心疾患単独であれば長寿のことも 敗血症合併では短命 etc 人工肺予備能は その酸素化能 ( 人工肺出口でのAaDO 2 で評価 ) で知り得る 人工肺のガス排出孔から泡が出るときは限界 回路交換は持ち出しのコストがかかる 一時的にPCPSを停止させるため 交換時に急変の可能性がある (ICが必要)
PCPS の回路交換が必要な状態 エアの混入 ガス排気ポートからの泡
PCPS の回路交換 -3 回路交換時に回路内血液を返血しない場合 全血約 500mL が失われる 新回路のプライミングボリューム約 500mL で 置換されるので 全体として急速な Volume Loss にはならない 血液損失分については 輸血を準備しておくことが望ましい
PCPS の離脱 離脱に関する絶対的基準はない 心補助で導入した場合は心機能の回復 肺補助で導入した場合は肺機能の回復が大前提 カテコラミンはできるだけ減らしておく DOA 5γ DOB 5γ ぐらいに IABP が必要であれば挿入する PCPS サポート下限の目安は 1.0L/ 分 PCPS 側の FiO 2 は人工呼吸器の FiO 2 に合わせて下げていくのが一般的 心エコーで 離脱前後の評価を行う 迷ったら専門医 ( 循環器 心臓外科 ) の意見を仰ぐ
PCPS の抜去 事前にヘパリン ( 半減期 90 分 ) を中止 一般的には 2 時間前に中止 抜去前の ACT/APTT をチェック 用手圧迫でも止血は可能とされる 特に静脈は圧迫止血可能 基礎疾患から動脈硬化が強いと判断される場合は 血管外科に相談の上 外科的抜去が望ましいこともある
IV-2 IABP
IABP の典型的圧波形 アシスト比 1:2 で評価するとよい
IABP- バルーン収縮 拡張のタイミング バルーン収縮と拡張のタイミング調整は 1:2 をもとに行う トリガーは 2 種類 大動脈圧波形トリガー ( 好ましい ) ECG トリガー ( ノイズで作動不全になり易い ) VF,Asystole などで強制的に圧を作り出すときは インターナル を選択
IABP- バルーン収縮 拡張のタイミング バルーン収縮 拡張のタイミング調節つまみ
IABP- トリガー / アシスト比 トリガー選択 : 基本は 動脈圧 で 心停止 ( 特に VF 持続 ) のときはこれ タイミング調整は 1:2 で
IABP- インターナル 実例 :Pulseless VT に対する PCPS 駆動下の インターナルモード
IABP の圧波形を読む 理想的な Inflation Dicrotic Notch を目安に 理想的な Deflation Diastolic unloading になるように
IABP の圧波形を読む Early balloon inflation Late balloon inflation ( バルーン拡張早すぎ ) ( バルーン拡張が遅すぎ ) Dicrotic notch の手前 = A 弁が閉じる前になる Dicrotic notch より遅れている
IABP の圧波形を読む Late balloon deflation Early balloon deflation ( バルーン収縮が遅すぎ ) ( バルーン収縮が早すぎ ) Diastolic unloading されていない
IABP のバルーン内圧 アップシュート ショルダー 正常時 ベースライン ベースラインの低下 : ガス漏れ ダウンシュート ショルダー消失 : カテーテルキンク
IABP- 合併症 挿入時 大動脈解離 大腿動脈へのプラークの移動 血管閉塞ポンピング中 下肢の虚血 ガス プラーク カテーテル血栓などによる塞栓症 血小板減少 大動脈破裂 ヘリウム塞栓 カテーテル挿入部の出血 バルーンの拡張 or 収縮不全による血行動態の不安定化 不適切な挿入位置による血管閉塞 ( 腎 鎖骨下 ) 感染
IABP 中の観察など ベッドアップは 30 度までは可 挿入側の下肢血流を足背動脈や内顆動脈の触知 ( マーキング ) ドップラーで確認 トリガーの安定性 (A ライン /ECG モニター ) バルーン拡張 / 収縮のタイミングについて 繰り返し A ライン波形を確認 バルーン内圧波形
IABP の離脱 中止 抜去 離脱 : 血行動態指標 (Swan-Ganz カテーテル /PiCCO モニター ) 不整脈の有無 尿量などから総合的に判断する 方法 1. アシスト比を落としていく 一般的 2. バルーンのボリュームを減らしていく 抜去 : 用手圧迫が基本 困難時は外科的に
IABP の合併症 バルーンリーク 動脈石灰化との接触による磨耗 ねじれ 屈曲による疲労 バルーン内に血腫をつくると外科的摘出が必要になる 下肢虚血 大動脈解離 挿入中に発生し得るので できるだけ透視下が良い 挿入部位の出血 血栓症 適切な抗凝固療法 ( ヘパリン投与 ) を行うこと 感染
サマリー PCPS は比較的低侵襲で 極めて高い呼吸循環補助効果を得ることができる IABP は重症心不全患者の心筋酸素需要減少と冠血流増加をもたらし PCPS 下では自己心拍の変わりに拍動性の血流を作り得る いずれも一過性の補助装置に過ぎない きめ細かな観察 ( バイタルサイン /A ライン 血行動態モニター / 尿量 /ACT/ 血液ガス分析 / 下肢虚血の有無 / 装置作動状態 etc) と調整が必須である