我が国の食品のリスク分析と 食品安全委員会の役割 前内閣府食品安全委員会事務局長独立行政法人水資源機構理事梅津準士
食品安全行政を取り巻く状況の変化 1. 国民の食生活を取り巻く状況の変化 食品流通の広域化国際化の進展 新たな危害要因の出現 (O157 異常プリオン等 ) 遺伝子組換え等の新たな技術の開発や分析技術の向上 2. 食の安全を脅かす事件の頻発 国内初の BSE( 牛海綿状脳症 ) の発生 ( 平成 13 年 9 月 ) 輸入野菜における農薬の残留や国内における無登録農薬の使用等 3. 食の安全に関する国際的動向 リスクの存在を前提に これを科学的に評価し 管理すべきとの考え方 ( リスク分析手法 ) が一般化 O157
これまでの行政対応の問題点 BSE 問題に関する調査検討委員会報告 においては 1) 危機意識の欠如と危機管理体制の欠落 2) 生産者優先 消費者保護軽視の行政 3) 政策決定過程の不透明な行政機構 4) 農林水産省と厚生労働省の連携不足 5) 専門家の意見を適切に反映しない行政 6) 情報公開の不徹底と消費者の理解不足 等が BSE 問題にかかわる 行政対応の問題点 として指摘されている
食品の安全性の確保 世界各国の経験から 下記の考え方や手段が重視されるようになった 考え方 国民の健康の保護の優先 科学的根拠の重視 関係者相互の情報交換と意思疎通 政策決定過程等における透明性の確保 手段 リスク分析 農場から食卓までの一貫した対策 国際食品規格委員会 (FAO/WHO/Codex)
食品安全基本法の制定 BSE 問題に関する調査検討委員会 の報告書において リスク分析手法の導入 リスク評価機能を中心とする新たな行政機関の設置等を提言 ( 平成 14 年 4 月 ) 食品安全行政に関する関係閣僚会議 において 今後の食品安全行政のあり方について として 食品安全委員会の設置等を取りまとめ ( 平成 14 年 6 月 ) 国民の健康保護を最優先とする等の基本理念 関係者の責務 役割 食品安全委員会の設置等を内容とする食品安全基本法の制定 ( 平成 15 年 5 月成立 7 月施行 )
食品安全基本法のポイント 基本理念 1 国民の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下に 必要な措置を実施 2 食品供給行程の各段階において 安全性を確保 3 国際的動向及び国民の意見に十分配慮しつつ科学的知見に基づき 必要な措置を実施関係者の責務 役割 国及び地方公共団体の責務 食品関連事業者の責務 消費者の役割 施策の策定に係る基本的な方針 ( リスク分析手法の導入 ) リスク評価 ( 食品健康影響評価 ) の実施 リスク評価の結果に基づく施策の策定 リスクコミュニケーションの促進等食品安全委員会の設置 措置の実施に関する基本的事項の策定
食品のリスク分析について 危害要因 リスク 健康に悪影響をもたらす原因となる 可能性のある 食品中の物質又は食品の状態 危害要因が引き起こす有害作用の起きる確率と 有害作用の程度の関数として与えられる概念 リスク 分析 リスクを如何にして避けるか あるいは最小化するか検討し 実施すること全体
食品安全へのリスク分析の導入 リスク評価 科学ベース リスク管理 政策ベース リスクコミュニケーションリスクに関する情報 意見の交換 1) 食中毒等の未然防止体制の強化 2) 科学的根拠の重視 3) 政策決定過程の透明化 4) 消費者への正確な情報提供 5) 食品安全規制の国際的整合性の確保等 人の健康に及ぼす影響の大きさ ( 程度と発 生確率 ) を 客観的 中立的 科学的に捉え 情報交換し その大きさに応じた対策をとる
食品安全行政 内閣府 食品安全担当大臣 食品安全委員会 リスク評価 ( 食品健康影響評価 ) リスクコミュニケーションの実施 緊急の事態への対処 情報収集 交換 諸外国 国際機関等 その他関係行政機関その他関係行政機関 評価結果の通知 勧告 評価結果の通知 勧告 厚生労働省 評価の要請 評価の要請 農林水産省 食品衛生に関するリスク管理 添加物指定 農薬等の残留基準や食品加工 製造基準等の策定 食品の製造 流通 販売等に係る監視指導を通じた食品の安全性確保 リスクコミュニケーションの実施 農林水産物等に関するリスク管理 生産資材の安全性確保や規制等 農林水産物等の生産 流通及び消費の改善活動を通じた安全性確保 リスクコミュニケーションの実施 リスクコミュニケーション関係者相互間の幅広い情報や意見の交換 消費者 食品関連事業者 等
食品安全委員会は 国民の健康保護が最も重要であるという認識のもと 食品の摂取に伴う健康への悪影響について 中立公正に科学的評価を行う機関です 食品安全委員会 : 公開で開催 ホームページ等で情報提供企画専門調査会リスクコミュニケーション専門調査会緊急時対応専門調査会 <リスク評価担当専門調査会 > 化学物質系評価グループ ( 添加物 農薬 動物用医薬品 器具 容器包装 化学物質 汚染物質等 ) 生物系評価グループ ( 微生物 ウイルス プリオン かび毒 自然毒等 ) 新食品等評価グループ ( 遺伝子組換え食品等 新開発食品 肥料 飼料等 ) 事務局 ( 委員 7 名 専門委員 171 名 事務局員 54 名 )
食品安全委員会の役割 1. 食品健康影響評価 ( リスク評価 ) 科学的な知見に基づいて客観的かつ中立公正に評価 2. リスクコミュニケーションの実施消費者 食品関連事業者など関係者相互間における幅広い情報や意見の交換 3. 緊急の事態への対応緊急時において 政府全体として危害の拡大や再発防止に迅速かつ適切に対応するため 事態を早急に把握し 関係各省への迅速な対応の要請や国民に理解しやすい情報の提供等
食品のリスクアセスメント ( リスク評価 ) 人の健康に悪影響を及ぼすおそれがある生物学的 化学的若しくは物理的な要因又は状態であって 食品に含まれ 又は食品が置かれるおそれがあるものが当該食品が摂取されることにより人の健康に及ぼす影響についての評価 その時点において到達されている水準の科学的知見に基づいて 客観的かつ中立公正に実施
生体影響曝露量と生体影響の関係 致死量 ADI( 無毒性量の 100 分の 1) 非可逆的影響量可逆的影響量 NOAEL( 無毒性量 ) 曝露量 実際の使用レベル
= 員会)(リスク管理機関)策の実施リスク管理機関から評価依頼を受けた農薬の場合 = 1 実験動物等を用いた毒性試験結果の検討無毒性量 <NOAEL>の設定リスク評2 一日摂取許容量 (ADI) の設定価ADI: 認められるような健康上のリスクを伴わずに 人が生涯にわたって毎日摂取することができる体重 1kgあたりの量政施策の決定3 想定される摂取量が ADI を超えないように使用基準を設定 リスク評価の例 ( 流れ ) (食品安全委
食品健康影響評価 ( リスク評価 ) の実施状況 専門調査会名既要請品目うち評価終了 添加物 68 34 農薬 156 31 動物用医薬品 77 45 汚染物質 50 1 新開発食品 52 40 遺伝子組換え食品等 41 31 プリオン 10 9 肥料 飼料等 8 8 その他 11 9 合計 473 208 ( 平成 18 年 1 月 19 日現在 )
食品安全委員会が自らの判断で行う 食品健康影響評価 ( リスク評価 ) 日本における牛海綿状脳症 (BSE) 対策について - 中間とりまとめ - ( 平成 16 年 9 月 ) リステリアを含む食中毒原因微生物 第 74 回食品安全委員会会合 ( 平成 16 年 12 月 16 日 ) において評価を行うことを決定 Q 熱の原因菌 食品に含まれるトランス脂肪酸 アルコール飲料の妊婦及び胎児への影響 ファクトシートを公表
緊急時対応 食品安全関係府省緊急時対応基本要綱 ( 平成 16 年 4 月 ) 緊急時対応マニュアルとして 緊急事態等が発生した場合における国の対処の在り方等について定めている 食品安全委員会緊急時対応基本指針 ( 平成 16 年 4 月 ) 食品安全関係府省緊急時対応基本要綱 に即し 食品安全委員会による緊急事態等の対応に関する基本的な事項を定めている 食品安全関係府省食中毒緊急時対応実施要綱 ( 平成 17 年 4 月 ) 危害要因別の緊急時対応マニュアルとして 食品安全関係府省緊急時対応基本要綱 に即し 食中毒による緊急事態等が発生した場合における国の対処の在り方等について定めている 食品安全委員会食中毒緊急時対応指針 ( 平成 17 年 4 月 ) 食品安全関係府省食中毒緊急時対応実施要綱 に即し 食品安全委員会における食中毒による緊急事態等への対応に関する具体的な手順を定めている
リスクマネジメント ( リスク管理 ) アセスメントの結果の検討 利用可能なマネジメント方法の選択と 適切な安全性基準の決定 リスクの程度 コスト - 利益 技術的実現性 安全基準の決定 マネジメントの実施 モニタリングと再評価 ( 健康の保護が最重要 透明性 説明責任 )
食品安全基本法第 13 条 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては 当該施策の策定に国民の意見を反映し 並びにその過程の公正性及び透明性を確保するため 当該施策に関する情報の提供 当該施策について意見を述べる機会の付与その他の関係者相互間の情報及び意見の交換の促進を図るために必要な措置が講じられなければならない
リスクコミュニケーション (~2005 年 12 月 31 日現在 ) 委員会の原則公開 議事録等のホームページへの掲載 食品健康影響評価等に対する国民からのご意見 情報の募集 :113 回食品安全モニター会議 :27 回 意見交換会 :204 回 ( 関係省 自治体等と連携 ) 食品安全委員会委員の各地での講演等 :47 回 消費者団体 食品関連事業者 地方公共団体等と委員との意見交換 :21 回 リスクコミュニケーション担当者会議の実施 : 毎月 2 回程度ホームページ パンフレット 季刊誌 食品安全 食の安全ダイヤル TEL:03-5251-9220 9221 食品安全総合情報システム ( データベース ) の充実
今後の課題ーリスク分析をより生かしていくために リスクの定量的評価化学物質以外についても リスクの定量化に努めるデミニミスという考え方の定着 異なるリスクの相互比較による整合性のとれた安全水準の確保 規制措置を変えた場合のリスクの比較安全とそれ以外の峻別 多用な専門分野からの貢献 疫学 生物統計学等々リスク管理においては生産 流通 加工の分野や経済学等 より分かり易い説明による社会への浸透メディアにおける理解の共有学際的アプローチ