ご説明する内容 1 遺伝子組換え技術について 2 安全性評価の仕組み 3 利用の現状 2

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遺伝子組換え農作物の現状について

ご説明する内容 1 遺伝子組換え技術について 2 安全性評価の仕組み 3 利用の現状 2

1 遺伝子組換え技術について

品種改良とは 私たちの祖先は 野生の植物から選抜 交配による品種改良を行い 栽培種を作り出しました 品種改良の目的 1. 生産性向上 : 多収性 耐病性 早熟性 短茎性 耐寒性 耐塩性 耐倒伏性など 2. 食用部分の品質向上 : 有害成分の低減 / 除去 有用成分の増加 / 付与 食味など 品種改良は現在も行われています 4

例 : 塩害に強い作物の育種収量が多いが塩害に弱い塩害に強いが収量が少ない交配 X 目的の能力を持つものが得られるまで 交配と選抜を繰り返す 収量が多く塩害に強い個体塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩選抜従来の交配による育種塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩 5

DNA 遺伝子 タンパク質 DNAの鎖の所々に 遺伝子 と呼ばれる部分があります 遺伝子には タンパク質を構成するアミノ酸の配 3 塩基が1 個のアミノ酸に対応し タンパク質がつくられる 列を決める所があります 遺伝子 調節領域 構造遺伝子 ターミネーター領域 A T G T G G T T A A G C T A C A C C A A T T C G 転写 DNA( デオキシリボ核酸 ) A U G U G G U U A A G C mrna 翻訳 遺伝子 遺伝子 遺伝子 Met Trp Leu Ser アミノ酸 タンパク質 6

遺伝子組換え技術とは 品種改良の一つの方法として用いられている遺伝子組換え技術とは次のようなものです 1 ある生き物から特定のタンパク質に対応する遺伝子を取 り出し 2 改良しようとする生き物の細胞の中に遺伝子を導入し 3 細胞がタンパク質を合成するようになる 結果として 細胞はタンパク質がもたらす新たな形質を有するようになる あらゆる生き物において 遺伝子 (DNA) タンパク質は共通性の高い化学構造をしているので 理論的には あらゆる生き物の間で遺伝子を組み換えることができる 7

遺伝子組換え作物と元の作物の相違点 遺伝子組換え作物と元の作物との違いは 1 DNA に外来の遺伝子が導入されていること 2 その遺伝子により新しいタンパク質が作られること DNA DNA 元のトウモロコシ 遺伝子組換えトウモロコシ 8

遺伝子組換えの方法 9

遺伝子組換え作物の例 : 害虫抵抗性トウモロコシ 従来のトウモロコシ Bt 遺伝子組換えトウモロコシ 防除しないとオオタバコガによる被害を受ける オオタバコガに抵抗性を示す 10

害虫抵抗性トウモロコシのしくみ 11

遺伝子組換え農作物の例 : 除草剤耐性ダイズ 無処理区除草剤散布区 ( 農業生物資源研究所展示ほ場にて撮影 ) 12

除草剤耐性遺伝子の作用メカニズム 遺伝子組換えではない一般農作物 除草剤を散布しない状態 光合成により作られた糖 除草剤 A を散布した状態 光合成により作られた糖 酵素 α 酵素 α 除草剤 A が酵素 α の働きをブロック 必須アミノ酸 生育 必須アミノ酸 枯れる 13

除草剤耐性遺伝子の作用メカニズム 除草剤耐性遺伝子組換え農作物 除草剤を散布しない状態 光合成により作られた糖 除草剤 A を散布した状態 光合成により作られた糖 酵素 β 酵素 α 酵素 β 酵素 α 除草剤 A が酵素 α の働きをブロック 必須アミノ酸 除草剤 A の影響を受けない酵素 β 必須アミノ酸 生育 生育 14

遺伝子組換え農作物等に対する期待と懸念 期待 遺伝子組換え技術は 医療 工業など様々な分野での利用が期待されていますが 農業分野でも 不良環境でも栽培できる作物 農薬の使用量が少なくて済む作物 環境の修復に役立つ作物などが期待されています 懸念 一方 遺伝子組換え技術によって作り出された農作物は 食べても大丈夫か 野生生物に影響を与えないか などの懸念も出されています 15

農林水産省で推進している遺伝子組換えに関する研究開発 新品種開発のための研究 農林水産省では 遺伝子組換え技術は その技術を用いなければ実現で きないものや達成できないものに利用するとの考えのもとに 次に重点をお いて研究開発を進めています 1 将来の国際的な貢献も見据えた 寒冷 乾燥 塩害など不良な生育環境に強い作物 2 カドミウムや残留性有機汚染物質など 土壌中の有害物質を吸収する環境修復植物 3 家畜の飼料用やバイオエネルギー用に使うことを目的とした 病気に強く収量の多い作物 4 健康の増進や病気の予防のための機能性成分や 中性脂肪や血圧を調整する作用のあるタンパク質を多く含む作物など 懸念に対応した研究農林水産省では 遺伝子組換え農作物に対する懸念があることに対応し 実態の確認や花粉が飛散しないイネの開発など 懸念を軽減するための研究開発を行っています 16

医薬品作物の開発 ~ コメの形のスギ花粉症治療薬 ~ スギ花粉症の現状 国民の約 30% が花粉症に罹患 そのための医療費等に毎年約 2,300 億円 治療法は 抗ヒスタミン薬等の対症療法が中心 治癒も期待できる唯一の治療法である減感作療法 ( 患者にスギ花粉アレルゲンのエキスを投与し 免疫寛容を誘導 ) は 以下が問題 長期間 ( 数年間 ) にわたって頻繁に通院する必要 注射の痛み 腫れ 痒みの誘発 まれにアナフィラキシーショックが発生 医薬品作物の開発 コメの形のスギ花粉症治療薬は 現在の減感作療法の問題点を克服 スギ花粉症の主要な抗原ペプチドを白米部分に蓄積させるコメを開発 マウスに経口投与したところ アレルギー反応が低減することを確認 スギ花粉のペプチドは コメのタンパク質顆粒に局在 コメの形のスギ花粉症治療薬 1μm タンパク質顆粒 ( 顆粒中の小さな黒点がぺプチド ) 実用化すれば 患者にとって負担の少ない有効な治療法 17

病害に強いイネの開発 いもち病 : 糸状菌 ( カビ ) 病 白葉枯病 : 細菌病 イネは いもち病や白葉枯病などの病害により収量が低下する 飼料イネは低コスト栽培が必須 複合抵抗性付与により 低コスト栽培と収量増が期待される 抵抗性誘導剤 農薬により作物自身の抵抗性を高め 複数の病害を防除 遺伝子組換え WRKY45 の働きを強化するとイネは様々な病気に強い免疫をもつ 病原菌の感染を認識 サリチル酸 WRKY45 植物の防御応答機構 白葉枯病抵抗性 日本晴 ( 対照 ) いもち病抵抗性 日本晴 ( 対照 ) A, B, C 防御遺伝子群 (>273 個 ) WRKY45 過剰発現イネ WRKY45 過剰発現イネ 病害抵抗性 18

2 安全性評価の仕組み

我が国においては 一つ一つの遺伝子組換え農作物ごとに その用途に応じて生物多様性への影響や 食品や飼料としての安全性について 最新の科学的知見により評価を行い 安全性が確認されたもののみの使用を認める仕組みを導入しています 20

我が国の安全性評価の仕組み 我が国の生物多様性への影響評価競合における優位性有害物質の産生性 交雑性 食品としての安全性評価タンパク質や生産物の毒性アレルギー誘発性など 飼料としての安全性評価家畜に対する安全性畜産物のヒトの健康への影響など 生物多様性への影響とは カルタヘナ法 農林水産省 環境省 食品安全基本法 食品衛生法 食品安全委員会 厚生労働省 飼料安全法 食品安全基本法 食品安全委員会 農林水産省 遺伝子組換え生物の使用などによって生ずる影響であって 野生動植物や微生物の種または個体群の維持に支障を及ぼすおそれなど 生物の多様性を損なうおそれのあること 21

生物多様性への影響とは? 競合における優位性 遺伝子組換え植物 野生の動植物や微生物 遺伝子組換え植物が野生植物を駆逐しない 有害物質の産生性 野生の動植物や微生物などが減少しない 遺伝子組換え植物 近縁の野生の植物 交雑性 近縁種が交雑種に置き換わることがない 資料 : バイテク情報普及協会 22

生物多様性影響評価の流れ ( 農作物等の場合 ) 実験室 温室 特定網室等での試験 ( 国外 国内 ) 隔離ほ場試験の承認申請 隔離ほ場での栽培試験 承認 農林水産省 環境省 学識経験者からの意見聴取 ( 二段階 ) 分野毎の分科会 総合検討会 一般的な使用のための承認申請 食用 飼料用 栽培等の使用 承認 隔離圃場 農林水産省 環境省 学識経験者からの意見聴取 ( 二段階 ) 分野毎の分科会 総合検討会 23

国内で使用等が承認された遺伝子組換え農作物 隔離ほ場での栽培実験の承認イネ トウモロコシ ダイズ セイヨウナタネ ワタ アルファルファテンサイ クリーピングベントグラス バラ カーネーション 10 作物 計 81 件 ( すでに栽培試験を終えたものを含む 平成 25 年 5 月現在 ) 一般的な使用 ( 栽培 流通 加工等 ) の承認トウモロコシ ダイズ セイヨウナタネ ワタ パパイヤ アルファルファ テンサイ バラ カーネーション 9 作物の 118 品種 ( 平成 25 年 5 月現在 ) なお 現在 日本で商業栽培されているのは バラ のみ 24

食品としての安全性評価 基本的考え方既存食品と遺伝子組換え食品を比較することによってその安全性を評価する 実質的同等性 等の概念を基に審査が行われます 食品としての安全性評価 食品としての利用を行うためには 食品安全基本法及び食品衛生法に基づいて 内閣府食品安全委員会による安全性の評価とそれを踏まえた厚生労働省による安全性審査を受けることが義務づけられています その結果 従来の食品と同じように食べても安全であることが確認された遺伝子組換え食品だけが日本での販売や輸入が許可されます 25

何故 実質的同等性で評価するのか? 遺伝子組換え食品を既存の食品と比較して判断 既存の食品は 長い間の経験によって 食べても安全なもの 量 調理方法の知見が蓄積されている 同等と見なされた成分については 安全性は評価されない 同等と見なし得る かどうかについては 以下を検討 1 遺伝的素材 2 広範囲なヒトの安全な食経験 3 食品の構成成分 4 既存種と新品種の使用方法の違い 26

遺伝子組換え作物と従来の作物の相違点 Check 組み込む遺伝子の安全性はどうか? いままでのトウモロコシ 遺伝子組換えトウモロコシ Check アレルギーが起きないか? 毒性はないか? Check 体内に蓄積して悪影響を及ぼさないか? Check 栄養成分に予定外の変化はないか? 27

遺伝子産物 ( タンパク質 ) のアレルギー試験 Check アレルゲンと似たところがないか? Check アレルゲンは胃や腸で消化されにくい 胃や腸で速やかに分解されるか? Check アレルゲンは熱に強い 熱に弱いかどうか? Check アレルゲンの量が増えていないか? 遺伝子を組換える前の食品に もともとアレルゲンが含まれている場合 28

遺伝子組換え農作物の安全性を確保する仕組み 1 生物多様性への影響は カルタヘナ法 2 食品としての安全性は 食品安全基本法 及び 食品衛生法 3 飼料としての安全性は 飼料安全法 及び 食品安全基本法 に基づいて評価を行い 全てについて問題のないもののみが栽培 流通される仕組みとなっています 生物多様性への影響 カルタヘナ法遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 農林水産省 / 環境省 隔離ほ場試験の承認申請 隔離ほ場試験の承認 食品としての安全性 食品安全委員会 飼料としての安全性 農業資材審議会 ( 農林水産省 ) 食品安全委員会 一般的な使用のための承認申請 食用 飼料用としての輸入 流通 使用 栽培等 厚生労働省 食品としての安全性確認 農林水産省 飼料としての安全性確認 食品や飼料の安全性確認との整合性を考慮 ( カルタヘナ法に基づく基本的事項で規定 ) 一般的な使用のための承認 問題のないもののみが輸入 流通 使用 栽培等 29

3 利用の現状

遺伝子組換え食品の承認実績 作物名 承認件数 実際に使用されている主な用途 トウモロコシ 181 液糖 水飴 ダイズ 12 食用油 セイヨウナタネ 18 食用油 ワタ 28 食用油 ( 綿実油 ) パパイヤ 1 生食 アルファルファ 3 - テンサイ 3 - ジャガイモ 8 - 近年 アルファルファ テンサイ ジャガイモの輸入実績はありません 平成 25 年 7 月 19 日現在 31

遺伝子組換えパパイヤ 日本では レインボーは 2011 年 12 月 1 日に承認され 初めて生で食べる遺伝子組換え食品として輸入が開始されました 日本へ輸出する生鮮のパパイヤは 個々の果実に 遺伝子組換え を表示したシールを貼付することが義務づけられています 日本に輸入された遺伝子組換えパパイヤ レインボー 32

トウモロコシとダイズの輸入先国と当該国における栽培状況 トウモロコシ 米国における遺伝子組換えトウモロコシの栽培率 88% ダイズ 米国における遺伝子組換えダイズの栽培率 93% 我が国の輸入状況 (2011 年 ) ( 単位 : 千トン %) 生産国輸入量シェア 米国 11,124 74.7 ブラジル 1,837 12.3 アルゼンチン 993 6.7 その他 938 6.3 合計 14,892 100.0 我が国の輸入状況 (2011 年 ) ( 単位 : 千トン %) 生産国輸入量シェア 米国 1,762 64.6 ブラジル 545 20.0 カナダ 376 13.8 その他 44 1.6 合計 2,727 100.0 資料 : 財務省貿易統計 ISAAA 33

ナタネとワタの輸入先国と当該国における栽培状況 ナタネ カナダにおける遺伝子組換えナタネの栽培率 98% ワタ オーストラリアにおける遺伝子組換えワタの栽培率 100% 我が国の輸入状況 (2011 年 ) ( 単位 : 千トン %) 生産国輸入量シェア カナダ 2,332 96.8 オーストラリア 76 3.2 ルーマニア 0 0.0 その他 0 0.0 合計 2,408 100.0 我が国の輸入状況 (2011 年 ) ( 単位 : 千トン %) 生産国輸入量シェア オーストラリア 109 94.3 米国 6 4.9 ギリシャ 1 0.4 その他 0 0.4 合計 116 100.0 資料 : 財務省貿易統計 ISAAA 34

遺伝子組換え農産物とその加工品の表示制度 遺伝子組換え農産物 またはそれを原材料とする加工食品 遺伝子組換えが分別されていない農産物 またはそれを原材料とする加工食品 従来のものと組成 栄養素 用途などが著しく異なる農産物 またはそれを原材料とする加工食品 分別生産流通管理が行われた非遺伝子組換え農産物 またはそれを原材料とした加工食品 表示義務 遺伝子組換え などと表示します 遺伝子組換え不分別 などと表示します ダイズ ( 高オレイン遺伝子組換え ) などと表示します 表示義務はありません ただし 遺伝子組換えでない などと任意表示ができます ダイズ油 醤油など DNA やたんぱく質が残っていない食品 表示義務はありません 35

遺伝子組換え農作物の意図せざる混入の許容混入率 非遺伝子組換え農産物を分別しようと最大限に努力した場合でも その完全な分別は現実的に困難です 我が国では 分別生産流通管理が適切に行われている場合には 5% 以下の意図せざる混入を認めています ( 消費者庁 : 食品表示に関する共通 Q&A より ) 36

世界の遺伝子組換え作物栽培状況 2012 年 遺伝子組換え作物栽培国 世界における遺伝子組換え作物の栽培国は 28 カ国 栽培面積は 1 億 7,030 万 ha( 世界の栽培面積約 15 億 ha の 11%) 資料 : 国際アグリバイオ事業団 (ISAAA) 37

世界の遺伝子組換え作物栽培面積の推移 ( 万 ha) 18,000 16,000 14,000 世界の栽培面積 :1 億 7,030 万 ha その他 100 ナタネ 920 ワタ 2,430 12,000 10,000 トウモロコシ 5,510 8,000 6,000 4,000 日本は 1996 年に輸入許可 ダイズ 8,070 2,000 0 日本の農地面積 455 万 ha 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 資料 : 国際アグリバイオ事業団 (ISAAA) 38

主な遺伝子組換え農作物の栽培面積とその割合 73% (7,540 万 ha) (10,299 万 ha) ダイズ 70% ワタ (2,470 万 ha) (3,522 万 ha) 遺伝子組換え農作物商業用栽培面積 24% 作物別の栽培面積 (820 万 ha) (3,365 万 ha) ナタネ 30% トウモロコシ (5,100 万 ha) (17,040 万 ha) 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 ( 単位 : 万 ha) 出典 : ISAAA/FAOSTAT(2011) 39

遺伝子組換え農作物に関する情報 農林水産省遺伝子組換え技術の情報サイト http://www.s.affrc.go.jp/docs/anzenka/index.htm 厚生労働省遺伝子組換え食品 Q&A http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/qa/qa.html 消費者庁食品表示に関する共通 Q&A ( 第 3 集 : 遺伝子組み換え食品に関する表示について ) http://www.caa.go.jp/foods/qa/kyoutsuu03_qa.html 環境省バイオセイフティークリアリングハウス http://www.bch.biodic.go.jp/ 40