<4D F736F F D DC58F4994C A5F88E38A D91AE F838A838A815B835895B68F FC189BB8AED93E089C82D918189CD A2E646F63>

Similar documents
<4D F736F F D208DC58F4994C581798D4C95F189DB8A6D A C91E A838A838A815B83588CB48D EA F48D4189C88

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

<4D F736F F D EA95948F4390B3817A938C91E F838A838A815B835895B68F F08BD682A082E8816A5F8C6F8CFB939C F

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

<4D F736F F D A20838A838A815B835895B68F E C89C8816A2E646F63>

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

Microsoft Word - HP用.doc

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

-119-

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

<4D F736F F D DC58F4994C5817A F C A838A815B83588CB48D FC189BB8AED93E089C8816A2E646F63>

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C A838A815B83588CB48D F4390B3979A97F082C882B5816A2E646F6378>

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

学位論文の要約

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

<4D F736F F D A8DC58F4994C C A838A815B C91E5817B90E E5817B414D A2E646F63>


<4D F736F F D208DC58F498F4390B D4C95F189DB8A6D A A838A815B C8EAE814095CA8E86325F616B5F54492E646F63>

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

平成14年度研究報告

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 


Microsoft PowerPoint - 2_(廣瀬宗孝).ppt

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

<4D F736F F D BE391E58B4C8ED2834E C8CA48B8690AC89CA F88E490E690B62E646F63>

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

Untitled

<4D F736F F D E616C5F F938C91E F838A838A815B835895B68F B8905F905F8C6F89C8816A2E646F63>

第6号-2/8)最前線(大矢)

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

H27_大和証券_研究業績_C本文_p indd

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C A838A815B835893EE8D9C F4390B32E646F63>

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

<4D F736F F D FAC90EC816994AD955C8CE38F4390B394C F08BD682A082E8816A8F4390B38CE32E646F63>

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

H26大腸がん

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

Microsoft Word CREST中山(確定版)

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

平成24年7月x日

<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

研究成果報告書

Microsoft Word - HP用(クッシング症候群).doc

頭頚部がん1部[ ].indd

したことによると考えられています 4. ピロリ菌の検査法ピロリ菌の検査法にはいくつかの種類があり 内視鏡を使うものとそうでないものに大きく分けられます 前者は 内視鏡を使って胃の組織を採取し それを材料にしてピロリ菌の有無を調べます 胃粘膜組織を顕微鏡で見てピロリ菌を探す方法 ( 鏡検法 ) 先に述

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

Transcription:

神経ストレスが胃がんの進行を加速させるメカニズムを解明 新たな治療標的に 1. 発表者 : 早河翼 ( 東京大学医学部附属病院消化器内科助教 ) 小池和彦 ( 東京大学医学部附属病院消化器内科 / 東京大学大学院医学系研究科内科学専攻消化器内科学教授 ) 2. 発表のポイント : 胃がんが進行する過程で がん細胞が異常な神経細胞を呼び寄せ 集まった神経細胞からのストレス刺激が増えることで ストレスを受けた胃がん細胞がさらに成長するという 胃がんの発育と神経ストレスの密接な関連とそのメカニズムを明らかにしました 神経ストレスが胃がんに与える影響はこれまで詳しく分かっていませんでした 今回 神経細胞とがん細胞がどのような相互作用を持ちながらがんを形成していくかが詳細に明らかになりました この相互作用を抑えることが 新しい胃がん治療として有効な可能性があります がん細胞の増殖を直接抑える従来の抗がん剤に加えて 神経細胞との相互作用を抑える薬剤を使うことで 胃がん治療の効果を高めることができると考えられます このような薬剤はすでにさまざまな疾患に使用されており 胃がんに対しても早期の臨床応用が期待されます 3. 発表概要 : 人間の神経細胞は脳だけでなく全身に分布しており 中でも胃腸には 1 億個以上のさまざまな神経細胞が存在し 胃腸の動きや消化ホルモンの分泌を調節しています 以前から神経ストレスががんやさまざまな病気の原因になる可能性は指摘されていましたが その理由や重要性についてはよく分かっていませんでした 今回 東京大学医学部附属病院消化器内科の早河翼助教 小池和彦教授らは 米国コロンビア大学などと共同で 胃がんの発育と神経ストレスの密接な関連とそのメカニズムを明らかにしました 早河助教らはマウスの胃がん組織を詳しく観察し 胃がんが進行する過程で がん細胞が 神経成長因子 と呼ばれるホルモンを産生し これに反応した神経細胞ががん組織に集まり そこからの強いストレス刺激を受けることで 胃がんの成長が加速していくことを世界で初めて明らかにしました この 神経成長因子 を抑える薬や 神経ストレスを放出する細胞を除去することで 胃がんの進行を抑えることができました がん細胞の増殖を直接抑える従来の抗がん剤に加えて神経細胞との相互作用を抑える薬剤を使うことで 胃がんに対する効果を高めて未来の治療に応用できると考えられます 実際 神経成長因子を標的にした薬剤はすでに臨床試験や実際の臨床でさまざまな疾患に使用されており 胃がんに対しても早期の臨床応用が期待されます 本研究成果は 日本時間 12 月 16 日に米国のがん研究に関する学術誌 Cancer Cell オンライン版にて発表されました なお 本研究は 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 次世代がん医療創生研究事業 (P-CREATE) 中山がん研究所消化器疾患研究助成金などの支援を得て行われました

4. 発表内容 : 1 研究の背景ヘリコバクターピロリ菌感染者の減少により 胃がん患者数は減少傾向にありますが 依然として欧米諸国に比べて我が国は圧倒的多数の胃がん症例を有しています しかも 進行胃がんは抗がん剤や放射線の治療が効かないことが多く 5 年生存率は 20% に満たないのが現状です 同じ消化管がんである大腸がんに対しては多くの新しい薬剤が開発され 効果を発揮しているのと対照的に 胃がんにはこうした薬剤の奏功率はそれほど高くありません 従って 胃がんには別の治療標的を持ったアプローチが必要と考えられます 胃がんに薬が効きにくいのは 腫瘍微小環境 ( 注 1) と呼ばれる胃がん細胞のまわりに存在するがん細胞以外の細胞が がん細胞の増殖や生存を助けているのが一因と考えられています 最近がんに対する有効性が明らかになった PD-1 阻害薬は 腫瘍微小環境を構成する免疫細胞に作用することで 抗がん作用を発揮します 腫瘍微小環境には免疫細胞のみならず 線維芽細胞や血管内皮細胞など多数の細胞が存在しておりますが 本研究グループは腫瘍内に存在する神経細胞に着目して研究を重ねてきました 以前の報告で 胃がんを発症するマウスに対して 迷走神経の外科的切除や 神経伝達物質阻害剤であるボツリヌス毒素の局所注射をすることで 発がんが著明に抑制されたことなどから 神経シグナルが胃がんに重要であることを明らかにしています (Zhao CM & Hayakawa Y et al, Sci Trans Med, 2014) しかし その詳細なメカニズムは分かっておらず またこれらの手法は身体への負担や危険性が大きいことから 治療応用の実現には至っておりませんでした 2 研究内容まず 消化管内での神経シグナルの中核をなすアセチルコリンという神経伝達物質がどこから産生されるのかを アセチルコリン産生細胞が緑色に光る特殊なマウスを用いて観察しました すると 胃の幹細胞を取り巻くようにアセチルコリン産生神経細胞が存在するとともに 粘膜細胞の中の刷子細胞 (Tuft cell 注 2) と呼ばれる細胞も アセチルコリンを産生していることが分かりました これらの神経細胞と Tuft cell は マウスの胃発がん過程において徐々に増殖し 組織内にアセチルコリンを活発に産生していくことが分かりました がんの中の神経細胞の量が徐々に増えていくことに着目した研究グループは 増加したアセチルコリンががん細胞に働きかけて 神経を成長させる物質を放出させるのではないかという仮説をたてました すると実際に 胃がん細胞では神経成長因子 (NGF 注 3) というホルモンがアセチルコリン刺激によって高発現することが分かりました 即ち アセチルコリンと NGF を介した神経とがんの相互作用が存在し がんの増殖を加速させている可能性が考えられました そこで 研究グループは NGF を胃内に過剰発現するマウスを新たに作り出しました すると このマウスの胃内には異常な神経が発育し 結果として自然に胃がんを生じることが分かりました アセチルコリンの受容体を欠損したマウスや NGF 受容体阻害剤を投与したマウス アセチルコリンを産生する Tuft cell を除去したマウスでは こうした神経シグナルによる胃がん増殖効果が見られなくなることから アセチルコリンを介した神経ストレスが胃がんの発生に直接関与することを明らかにしました また このストレスシグナルによって影響を受ける分子を詳細に観察したところ YAP 経路 ( 注 4) と呼ばれる転写調節因子がアセチルコリンによって直接活性化されることが分かりました YAP 経路の活性化及び NGF の高発現はヒトの胃がんの半数以上で認められることから 神経ストレスを介した胃がん増殖作用は多くの症例で重要な役割を果たしているものと考えられました

3 社会的意義 今後の予定この研究は これまで明らかになっていなかった神経ストレスシグナルが胃がんに与える影響とそのメカニズムを詳細に解明した点で 大きな意義があります 従来の抗がん剤治療とは異なり 腫瘍微小環境を構成する神経細胞を標的とした全く新しい治療法の実現に近づく可能性があります 以前に提唱した迷走神経を切断する手術やがん組織へのボトックス注射によって神経をブロックする方法もがん治療に有効な可能性がありますが 負担や危険性 倫理上の問題から 実現へのハードルは非常に高いと考えられます しかし 抗 NGF 抗体や NGF 受容体阻害剤はすでに他疾患に対する臨床試験で使用され 最終段階の第 3 相試験 (PhaseIII) まで進んでおり 安全性の面ではるかに優れています これらの薬剤を従来の抗がん剤と組み合わせることによる胃がんへの治療上乗せ効果の検証を すぐにでも始めるべきものと考えています また 胃がん以外の他のがんにおける神経ストレスシグナルの重要性についての研究もすすめていく予定です 5. 発表雑誌 : 雑誌名 :Cancer Cell ( 日本時間 12 月 16 日 ( 金 ) にオンライン版に掲載 ) 論文タイトル :Nerve growth factor promotes gastric tumorigenesis through aberrant cholinergic signaling. 著者 : 早河翼, 小西満, 新倉量太, 小池和彦 ( 以上東京大学 ), 崎谷康佑, Samuel Asfaha, Daniel L. Worthley, Timothy C. Wang * ( 以上コロンビア大学 ), 他省略 DOI 番号 :10.1016/j.ccell.2016.11.005 アブストラクト URL:http://www.cell.com/cancer-cell/fulltext/S1535-6108(16)30547-5 6. 問い合わせ先 : < 研究内容に関するお問い合わせ先 > 東京大学医学部附属病院消化器内科助教早河翼 ( はやかわよく ) 電話 :03-3815-5411( 代表 ) 03-5800-8812( 医局直通 ) 内線 ;36900( 早河 PHS) E-mail:yhayakawa-tky@umin.ac.jp < 取材に関するお問い合わせ先 > 東京大学医学部附属病院パブリック リレーションセンター担当 : 渡部 小岩井電話 :03-5800-9188 E-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp <AMED 事業に関すること> 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 戦略推進部がん研究課 100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 電話 : 03-6870-2221 E-mail:cancer@amed.go.jp

7. 用語解説 : ( 注 1) 腫瘍微小環境がん組織の中で がん細胞の周囲に存在する間質細胞の総称 免疫細胞 線維芽細胞 血管内皮細胞 神経細胞など 多様な細胞によって構成され がん細胞の増殖を促進させる ( 注 2) 刷子細胞 (Tuft cell) 消化管粘膜上皮細胞の一種で 管腔内の刺激を受け取ったり 特定のホルモンを分泌したりする細胞集団 がんや前がん病変の中で数が増加することが広く知らているが その働きの詳細は不明 ( 注 3) 神経成長因子 (NGF) 脳神経を含めた神経細胞全般の成長 生存を強力に促すホルモンで 神経組織の構成に極めて重要な分子 いくつかのがんでも高発現していることが知られている NGF は細胞表面の Trk という受容体と結合してその効果を発揮する ある種のがんでは Trk 遺伝子の変異が見られ この変異型 Trk 発現癌症例を対象とした Trk 阻害薬の検討が臨床試験で行われている 抗 NGF 抗体は 疼痛を抑える作用があるとして他の治療が無効な疼痛患者に対する臨床試験が行われている 今回の研究成果から Trk 阻害薬や抗 NGF 抗体の適応をより幅広い胃がん症例に広げて効果を検証すべきものと考えている ( 注 4)YAP 経路多くの転写因子 シグナル伝達経路と相互作用を持つ生体に非常に重要な転写調節因子 炎症 再生 癌など幅広い疾患と関わりがあるとされる

8. 添付資料 図神経関連シグナルががんの成長を促進させる様子胃の幹細胞のまわりには神経細胞と刷子細胞が密集しており がんができる過程でまず刷子細胞が増加し アセチルコリンを分泌して幹細胞を刺激する 進行すると がん細胞から発生する NGF に神経が引き寄せられ さらに多くのアセチルコリンががんの成長を加速させる アセチルコリンは M3R という受容体を介し YAP 経路を活性化させることで がんの進展を起こしていると考えられている