タイヤのビードアンシーティングに関する研究

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Transcription:

* タイヤのビードアンシーティングに関する研究 井上吉昭 1) Tire Bead Unseating Yoshiaki Inoue When the sidewall of the tire is subjected to large lateral forces during sever turning maneuvers, or curb scrubbing, the tire bead comes off the rim flange, and the inflation pressure within the tire capacity is rapidly released. This bead unseating might result in a serious accident. In this study, to evaluate the ability of the radial tire s bead to remain seated on the rim and retain inflation pressure, static bead unseating test equipment was designed and produced based on JIS. Bead unseating tests were performed under different inflation pressures, tire widths, tire aspect ratios and rim widths. KEY WORDS: Vehicle dynamics, Tire, Bead unseating, 1. はじめにタイヤがリムから外れるビードアンシーティング現象は, 自動車が急旋回時に大きな横力を受けた場合や歩道の縁石などにタイヤのサイドウオールが接触して大きな横力を受けた場合などに発生し, タイヤ空気圧の急激な低下を起こし, 自動車が走行不能になることが多い. しかし, ビードアンシーティング発生のメカニズムについての研究はほとんど見られない. なお, ビードアンシーティングの試験方法に関しては, アメリカの米国連邦自動車安全基準 (FMVSS) の No.109 に規定されている静的なビードアンシーティング試験および試験装置がある. 日本では, これを参考にした JIS 規格 (JIS D4230) が制定されているのみである. 筆者もビードアンシーティングに関する研究は静的試験および動的試験を中心に行ってきた (1),(2). 本研究では JIS 規格に定められている静的なビードアンシーティング試験について, 試験機を製作し, タイヤ空気圧, タイヤ幅など種々の要素の影響について試験を行った. これらの試験結果を基に, タイヤのリム外れについての理論解析モデルを作成し, 試験結果との比較検討を試みた. に力を加える荷重ブロックを示す. この装置はリム径の異なる数種類のタイヤについて試験ができるように, アームの支点位置からブロックの固定位置までの長さ Lが変えられるように設計されている. 図中の表には各種のリム径の呼びによる長さ Lを示している. なお, 荷重ブロックは鉄パイプを組み合わせて製作されている. 2.1. 試験装置 2. 試験装置および試験方法 図 1 は JIS D4230 に規定されている試験装置およびタイヤ *2015 年 8 月 6 日受理. 第 47 回全国自動車短大協会研究発表会において発表. 1) 大阪産業大学短期大学部 (574-8530 大阪府大東市中内 3-1-1) 図 1 試験装置および荷重ブロック

表 1 試験装置の仕様 測定可能なリム径インチ 10 ~ 16 最大荷重 N 垂直荷重 19600 スラスト荷重 9800 ビード加圧方法 パンタリフト拡張方法 大きさ mm 横幅 1000 高さ 950 奥行 600 図 3 タイヤに作用する力 (2) 上述の試験用タイヤを図 2のように試験装置に取り付け, タイヤのサイドウオールに対しパンタグラフジャッキの拡張力で所定の位置にブロックを押し付け, ビードがリムから外れるまで荷重を加える. (3) ビードがリムから外れた時の荷重をビードアンシーティング抵抗値 Fym とする. その時のスラスト力を Fzm とする. (4) この試験をタイヤ外周上の 4 等分した箇所について行なう. 1: 試験用タイヤ 2: 荷重アーム,3: 荷重ブロック, 4: パンタグラフジャッキ,5: 垂直荷重計測用ロードセル, 6: スラスト荷重計測用ロードセル,7: タイヤたわみ量計測用レーザ距離計,8: タイヤ空気圧計測用ゲージ図 2 製作した試験装置表 1は製作された試験装置の仕様を示す. 図 2は製作した装置を写真で示す. なお, 荷重ブロックにかかる荷重は, 図の右上のパンタグラフジャッキにより加えられる. 試験装置では, タイヤにかかる垂直荷重, スラスト荷重, タイヤ空気圧, タイヤたわみを計測した. なお,JIS では試験におけるタイヤ空気圧は 180kPa としている. タイヤにかかる垂直荷重 ( タイヤについては横力 :Fy), スラスト荷重 ( タイヤについては垂直反力 :Fz) の関係は図 3に示す. 2.3. タイヤがリムから外れる経過の様子図 4(a) から図 4(c) はタイヤ 175/65 R14を用いたビードアンシーティングの試験において, タイヤがリムから外れる経過を示している. 図 4(a) は荷重ブロックを所定に位置にセットした状態. 図 4(b) は荷重をかけ, 荷重ブロックがかなりタイヤに食い込んでいる状態. 図 4(c) はさらに荷重を加えて, タイヤがリムから外れ, ビードアンシーティングが発生している状態である. また, 図 5は時間経過によるタイヤたわみ量と垂直荷重 Fy およびタイヤ空気圧 pの変化の様子が示されている. 図中の記号 aからcは図 4(a) から (c) に該当している. 図から垂直荷重 Fy を増加させると荷重ブロックがタイヤに食い込みはじめる. これにより, タイヤが変形し空気圧もわずかであるが増加する. これは荷重増加によりタイヤが変形し, 体積が減少するために, 空気圧が増加せざるをえないためと思われる. リムがタイヤから外れる直前の c 点における Fyの値がこの条件におけるビードアンシーティング抵抗値 Fym となる. 2.2. 試験方法試験は JIS 規格に基づき, 以下の方法により行った. (1) 試験用タイヤの両側のビードを洗浄し, 乾燥してから規定のリムに潤滑剤を用いないで組み付け, 規定の試験空気圧を充填し, 常温で3 時間放置した後, 規定の空気圧に再調整する. 3. 実験結果 3.1. タイヤ空気圧によるビードアンシーティング抵抗値の変化図 6は 175/65R14 および 175/65R15 の2 種類のタイヤについて, 空気圧を 0,50,100,150,180,200,250kPa と変化させた時

図 4 静的なビードアンシーティング試験における リム外れ経過の様子 図 6 タイヤ空気圧によるビードアンシーティング抵抗値 Fym の変化 図 5 タイヤたわみ量と垂直荷重 Fy,Fz およびタイヤ空気圧 pの変化の様子のビードアンシーティング抵抗値 Fym と Fzm の関係を示している. いずれのタイヤにおいても空気圧の増加に伴い, ビードアンシーティング抵抗値も増加することがわかる. これはタイヤ空気圧の増加によりタイヤとリムが接触する圧力が大き 図 7 リム幅によるビードアンシーティング抵抗値 Fym の変化くなるためにリムが外れにくくなり, ビードアンシーティング抵抗値も増加するためと思われる. この傾向はタイヤサイズに関係なく生ずる. したがって, タイヤ空気圧が低くなると, リム外れが起こりやすくなる. ビードアンシーティングを防ぐうえで, タイヤ空気圧のチェックは非常に重要である.

3.2. 使用リム幅による抵抗値の変化一般に使用可能なリム幅は標準リム幅のほかに2~3 種類設定されている. たとえば,175/60R14 では, 標準リム幅が 5インチで, 適用リム幅が5~6 インチになっている. 標準リム幅は適用幅のうち, やや小さめに設定されているのが多い. 図 7はタイヤ幅 175mm,14 インチのリムを使用し, 偏平率が 60,65,70 および 80% の 4 種類のタイヤを幅 5, 5.5 および 6 インチの 3 種類のリムにつけた場合のリム幅とビードアンシーティング抵抗値 Fym の変化を調べたものである. いずれの偏平率のタイヤにおいても, リム幅が大きくなると, ビードアンシーティング抵抗値は小さくなる. この傾向は他のタイヤにおいても同様であった. 3.3. タイヤ幅による抵抗値の変化 JIS D4230 では, ビードアンシーティング最小抵抗値は表 4に示すようにタイヤ幅により 3 種類に分類され, タイヤ幅が広いほど抵抗値も大きくなる. 試験では,155/65R14( リム幅 4.5 インチ ),175/65R14( リム幅 5インチ ) および 215/65R14 ( リム幅 6.5 インチ ) の3 種類のタイヤを用いた. タイヤ空気圧は 180kPa である. 表 4の最下段の欄には, 試験により得られたビードアンシーティング抵抗値を示す. いずれのタイヤについても,JIS の基準値 ( 最小抵抗値 ) を超えていることがわかる. 図 8 タイヤ幅によるビードアンシーティング抵抗値 Fyの変化表 5 タイヤとビードアンシーティング抵抗値の関係タイヤ種類 155/65 175/65 195/65 ビードアンシーティング抵抗値 Fym (kn) 11.6 13.2 14.5 表 4 ビードアンシーティング抵抗値 (JIS 規格による乗用車用タイヤ表示 ) 単位 N 断面幅の呼び 160 未満 断面幅の呼び 160 以上 205 未満 断面幅の呼び 205 以上 基準値 ( 最小抵抗値 ) 6670 8890 11120 測定した タイヤ 155 / 65 175 / 65 215 / 65 試験結果 12670 13590 13960 図 8 はタイヤ幅の異なる 3 種類のタイヤについて, タイヤ のたわみ量とビードアンシーティング抵抗値 Fy の関係を表したものである. いずれのタイヤでもたわみ量の増加に伴いビードアンシーティング抵抗値 Fy の値も増加するが, タイヤ幅 155mm が最初にリム外れは起こる. タイヤ幅 175mm ではたわみは大きくなるが, ビードアンシーティング抵抗値 Fym はタイヤ幅 215mm の値よりも小さい. すなわち, タイヤ幅が広いことはビードアンシーティング抵抗値 Fym の増大につながることを示していると思われる. なお, 図 8ではタイヤ幅が 60mm の差があるために適用リム幅を変えたが, リム幅の影響を除くために, 同一リムを使用してタイヤ幅によるビードアンシーティング抵抗値 Fymの関係を求める実験を行った. 表 5に実験結果を示す. 図 9 偏平率によるビードアンシーティング抵抗 Fym の変化使用リムは外径 14 インチ, 幅 5.5 インチ, タイヤ空気圧 180kPa である. この表 5から図 8と同様にタイヤ幅が大きくなると, ビードアンシーティング抵抗値が増大することがわかる.

3.4. タイヤ偏平率による比較 図 9 には, タイヤ幅 175mm,14 インチのリム使用で偏平 率が 60,65,70 および 80% の 4 種類のタイヤについて, 空気圧 を 180kPa とした時のビードアンシーティング抵抗値 Fym を 示している. なお, 図には参考として, タイヤ幅 175mm,15 インチのリム使用した場合の偏平率 60 および 65% の試験結果 も合わせて示す. 試験結果では, 偏平率が小さいほどビードアンシーティング 抵抗値が小さいためにリム外れが起こりやすい. 4. ビードアンシーティング解析用数値モデル 試験結果を検討するために, 解析モデルを酒井による計算モ デル (3) を基に作成した. 図 10 は 175/65 R14 のタイヤに外 側から横力 ( 図の矢印 ) が作用し, 横方向たわみが増えたとき のタイヤの断面形状の変化を示したものである. 拡大図が示す ように横方向たわみが大きくなると, 外側のリムとの接触長さ が小さくなることがわかる. ホイール中心からの距離 (mm) 300 200 175/65 R14 82S 5.0J z 横方向たわみ 0 mm 10 mm 20 mm 100 0 100 タイヤ幅 (mm) y また, 図 11 はリム幅 5,5.5 および 6インチについて, 横方向たわみによるタイヤと内側, 外側のリムとの接触長さの変化を計算した結果である. 外側のリムとの接触長さは横方向のたわみが大きくなるにつれて小さくなり, リム幅が大きくなるほど小さくなっている. 図 7の試験結果では, リム幅が大きくなると, ビードアンシーティング抵抗値は小さくなっている. このことはリムの接触長さがタイヤのリム外れと関係があると思われる. 接触長さが短いとリム外れが起こりやすい. すなわち, ビードアンシーティング抵抗値が小さい. これらについては, さらに詳しく検討する予定である. 5. まとめ JIS に基づく静的なビードアンシーティング試験を中心に, 試験機を製作し, タイヤの様々な要素についての試験結果およびビードアンシーティング用解析モデルの検討を行った結果, 以下のことがわかった. 1. タイヤのリム外れに対する静的なビードアンシーティング抵抗値を求める試験において, リム外れの経過を詳しく観察することができた. また, この試験において, ビードアンシーティング抵抗値, 空気圧の変化の様子がわかった. 2. 試験において, ビードアンシーティング抵抗値に影響を及ぼす要素として, タイヤ空気圧, リム幅, タイヤ偏平率, タイヤ幅などを検討したが, タイヤ幅の影響が大きいことがわかった. 3. 提案したタイヤ解析モデルによるビードアンシーティング抵抗値の算出は, 今後, 各種の要素による実験結果との対応を行うことによりさらに正確なモデルの作成が可能と思われる. 図 10 横方向に力を加えたときのタイヤ断面形状の タイヤとリムの接触長さ (mm) 20 15 10 変化の計算例 5 リム幅内側外側 5.0J 5.5J 6.0JJ 175/65 R14 82S 0 10 20 横方向たわみ (mm) 謝辞おわりに, 本研究の実施にあたり財団法人東京自動車技術普及協会からの研究助成を賜りましたことを感謝いたします. 参考文献 (1) 井上吉昭 : タイヤのビードアンシーティング試験結果の評価に関する一考察, 全国自動車短期大学協会研究発表会誌, Vol.28,pp.24-27 (1999). (2) 井上吉昭他 2 名 : タイヤのビードアンシーティング試験結果の評価に関する一考察 ( 第 2 報 ), 全国自動車短期大学協会研究発表会誌,Vol.35,pp.20-24 (2006). (3) 酒井秀男, タイヤ工学, グランプリ出版,pp.94, 2001. 図 11 リム幅の変化によるタイヤとリムの接触長さ