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第 35 回 優秀環境装置 日本産業機械工業会会長賞 株式会社タクマ 1. 開発経過 1.1. 開発の趣旨乙類焼酎 ( いわゆる本格焼酎 ) の生産において 蒸留過程で有機物を含む余剰廃液である焼酎粕が発生する 焼酎粕の利用としては飼料化 肥料化があるが エネルギーを加えて製造したにもかかわらず飼料 肥料は供給過剰になり 現状は未利用のまま廃棄されているものが多い 一方 焼酎製造には蒸留工程等で熱エネルギーを必要とする そこで 焼酎粕に含まれる有機物からバイオガスを回収し エネルギーとして利用することは エネルギー節減 地球温暖化防止および廃棄物処理の面からも非常に有用なシステムとなる ( 図 1-1) 従来のメタン発酵では1 槽で原料をそのまま投入することから長い滞留時間を必要としたが 本システムでは水素発酵槽 メタン発酵槽と微生物の分解過程に応じて最適条件下で発酵を行うことで発酵の効率を高め さらに原料の前処理としてアルカリを投入することで可溶化を促進した その発酵の最適化と可溶化の促進により有機物の分解率が高くなり 従来システム ( メタン発酵単独 ) に比べ エネルギー回収率を 10% 高め さらに滞留時間を 2/3 に短縮することに成功した また 有機物の分解率の向上により 残渣の発生量が従来システム ( メタン発酵単独 ) に比べ 20% 低減するため 最終処分量の減少にも繋がるシステムである また 本システムでは発酵部分にポンプとタンクから構成される簡易なシステムを採用し トラブルの要因となる膜装置 固定床担体など付帯設備を極力削減することで 従来システム ( 膜分離装置等 ) に比べ 必要動力の削減 最小限のメンテナンスとなるものであり さらにエネルギー利用可能量は 30% 多く 二酸化炭素排出量削減効果が大きいシステムである -61-

バイオガス アルカリ水素メタン発酵設備 焼酎粕 蒸気 ボイラ電力 ガスエンジン 焼酎 焼酎蒸留工程 図 1-1 焼酎粕のエネルギー回収システム 1.2. 開発経緯平成 14 年 : ラボ実験により水素メタン発酵方法を確立 ( 模擬ごみを用いて連続水素メタン発酵を実現 ) 平成 16 年 : ラボ実験により前処理としてアルカリを添加することが水素メタン発酵に効果的であることを確認 ( 下水汚泥 おから等を用いてアルカリ水素メタン発酵を実現 ) 平成 17 年 : 焼酎粕を原料としてアルカリ水素メタン発酵方法を確立 平成 18 年 : 鹿児島県いちき串木野市の焼酎工場に アルカリ水素メタン発酵実証プラントを設置し運転を開始 以降 焼酎工場の操業にあわせて連続運転中 -62-

2. 装置説明 2.1. 焼酎粕のエネルギー回収システムの概要焼酎粕のエネルギー回収システムの概念図を図 2-1 に示す 1 原料をアルカリで前処理することにより 可溶化を促進する 2 水素発酵槽へアルカリ前処理後の残渣を投入することで そこに存在する細菌群の最適生育条件となり 水素ガスを含むバイオガスが発生する 3 水素発酵により残渣は有機物が有機酸等へ変換し さらに可溶化が進むため その残渣をメタン発酵することにより高効率に残渣中の有機成分を低減すると同時にメタンガスとしてエネルギーを回収できる 4 回収したバイオガス ( 水素ガスおよびメタンガス ) はボイラにて蒸気に変換し その全量を焼酎蒸留工程など場内で有効に利用する 焼酎粕 2 水素発酵 4 ボイラ 蒸気 1 前処理 アルカリ 3 メタン発酵 有機物濃縮 ろ液 アルカリ水素メタン発酵設備 残渣 図 2-1 焼酎粕のエネルギー回収システムの概念図 -63-

システムの特徴 1 焼酎粕からエネルギー回収することにより エネルギー的に自立したシステムとすることができ 焼酎製造工程にエネルギー供給することで焼酎粕 1m 3 あたり 36L の A 重油 ( 化石燃料 ) 削減となり CO 2 も約 100kg 削減できる 2アルカリ水素メタン発酵設備により 従来システムに比べてエネルギー回収率は 10% 以上向上し 可溶化 有機酸生成が進んでいるため従来システム ( メタン発酵単独 ) に比べて発酵時間を 2/3 に短縮でき コンパクトなシステムとなる 3 焼酎粕は 40~90 で発生し 水素発酵 メタン発酵とも中温 (35~37 ) 発酵を採用していることから 発酵には熱エネルギーを投入する必要がなく 本システムから発生するエネルギーの全量を有効利用できる ( 従来システム ( 膜分離等 ) では 高温発酵 (55 ) であり発生するエネルギーの約 20% 以上をプロセスに必要とするため 有効利用可能なエネルギーは 80% 以下となる ) 4 焼酎粕に対し 残渣の処理量を 1/10 以下に低減できることから 焼酎粕のエネルギー利用と処理を同時に達成できる方法である 5 焼酎粕処理においては 焼酎粕の発生しない期間があり発酵槽からの放熱により槽内の温度は低下する 中温発酵では発酵槽休止後の再立上時に必要な熱量も従来システム ( 膜分離等 ) に比べて少ない 6アンモニア阻害に強く 窒素濃度の高い麦焼酎粕を処理する場合に必要な希釈水量は従来システム ( 膜分離等 ) の 40% でよい 7 本システムは発酵部分をポンプとタンクから構成される簡易なシステムを採用しており トラブルの要因となる膜装置 固定床担体など付帯設備を削減することで 必要動力の削減に加え 日常監視項目とメンテナンスを最小限となるようにしている -64-

2.2. 焼酎粕のエネルギー回収システムの構成及び原理 装置の構成 焼酎粕のエネルギー回収システムは アルカリ水素メタン発酵設備 ガス利用設備 発酵残渣処理設備から構成される ( 図 2-2) 2 ガス利用設備 脱硫装置 ガス貯留槽 B ボイラ 蒸気 焼酎粕 1 アルカリ水素メタン発酵設備 3 発酵残渣処理設備 P P P アルカリタンク前処理槽水素発酵槽メタン発酵槽 P M P 助剤溶解装置遠心脱水機 脱水残渣 脱水ろ液 図 2-2 焼酎粕のエネルギー回収システムフロー (1) アルカリ水素メタン発酵設備焼酎粕にアルカリ ( 水酸化ナトリウム ) を添加し 攪拌混合することにより 可溶化を促進する そして その前処理後の基質を水素発酵槽へと移送する 水素発酵槽は完全密封された容器であり 嫌気状態を保持する 水素発酵では一般にアルカリ前処理を行わず水素発酵槽で ph を 5.0~6.5 に調整しているが これと比べアルカリの消費量を低減することができる また 焼酎粕は 40~90 で発生するため槽内の温度を 35 程度に保持するように 冷却あるいは必要な熱量を賄うだけの蒸気を吹き込む 水素発酵槽での滞留時間は約 1 日である メタン発酵槽も水素発酵槽同様 嫌気状態を保持し槽内を均一に混合することで 安定してメタンガスを回収する 水素発酵後の残渣を水素発酵槽残渣移送ポンプでメタン発酵槽へと投入する メタン -65-

発酵は 35 の中温発酵である 原料は水素発酵により酢酸 酪酸などの有機酸へと変換していることから 効率良くメタン発酵可能であり 従来システム ( メタン発酵単独 ) と比べ滞留時間は前処理および水素発酵を含めても 2/3 程度でよい (2) ガス利用設備アルカリ水素メタン発酵設備により得られたガスは脱硫後 ガス貯留槽に貯留 その後ガス昇圧ブロワにより蒸気ボイラに供給され 蒸気として熱回収を行う 蒸気の一部は 本システムの前処理槽 水素発酵槽 メタン発酵槽の各設備に必要な熱量を賄い それ以外は焼酎製造工場に供給 利用される (3) 発酵残渣処理設備メタン発酵後の残渣は脱水機を設けて固液分離し 有機物及び菌体を回収して回収物の一部を前処理槽へ戻し 系内の細菌群を最適濃度に保ってバイオガスの発生効率を高めるとともに 残渣を再循環することで未発酵の有機物もさらに発酵させ全体のエネルギー回収率を高めている アルカリ水素メタン発酵設備の原理 メタン発酵では細菌の共生的な代謝作用によって 有機物中に含まれる炭水化物 タンパク質 脂質が 加水分解過程 酸生成過程 酢酸生成過程 メタン生成過程という段階的な反応を経由して 最終的にはメタンと二酸化炭素へと安定化される ( 図 2-3) 各段階で分解を行う微生物群は異なり また最適環境条件も異なるため 発酵槽全体を完全に混合し単一の環境状態にした場合 最適な環境にない微生物群は有機物の分解効率を最大限に発揮できなくなる そのため 分解過程を大きく分けると可溶化 水素 酸生成段階 およびメタン生成段階の二段階であり 各段階を最適条件で発酵させることができる 前処理 水素発酵 メタン発酵 脂肪 タンパク質 多糖類 長鎖脂肪酸グリセリンアミノ酸短鎖ペプチド単糖類二糖類 揮発性脂肪酸アルコールアルデヒドケトンアンモニア CO 2 水素水 メタン CO 2 水アンモニア H 2 S 可溶化水素生成, 酸生成メタン生成 図 2-3 嫌気性メタン発酵の分解過程 -66-

3. 成果 3.1. 性能焼酎粕を原料としたとき 従来システムと 本システムによるバイオガス回収とのエネルギー回収量の比較を表 3-1 に示す 焼酎粕は焼酎の原料と蒸留方法により 発生する焼酎粕の濃度 組成が異なる 麦焼酎粕 ( 減圧蒸留 ) の場合 本システムでは従来システムに比べエネルギー回収率が 9% 上昇し 芋焼酎粕 ( 常圧蒸留 ) の場合は 14% 上昇した 表 3-1 従来システムと本システムのエネルギー回収量の比較 運転条件 麦焼酎粕 ( 減圧蒸留 ) 芋焼酎粕 ( 常圧蒸留 ) 原料pH [-] 4.0~4.4 4.2~4.5 固形物濃度 [%] 10.0 5.9 有機物濃度 [%] 9.6 5.4 運転性能 従来システム 本システム 従来システム 本システム 回収エネルギー [kj/l] 1811 2882 3781 4886 2/1 = 109% 4/3 = 114% 3.2. 特許の有無本システムに関する出願済み特許リストを表 3-2 に示す 表 3-2 特許リスト出願番号 出願日 名称 1 2003-179864 2003 年 6 月 24 日 有機性廃棄物からの連続的水素生成方法 2 2004-228960 2004 年 8 月 5 日 連続水素生産方法 3 2004-239745 2004 年 8 月 19 日 有機性廃棄物の処理システム 4 2004-239746 2004 年 8 月 19 日 有機性廃棄物の処理システム 5 2004-301943 2004 年 10 月 15 日 有機性廃棄物からエネルギーを回収する方法 6 2005-232479 2005 年 8 月 10 日 バイオマスの処理システム 7 2005-135018 2005 年 5 月 6 日 バイオマスの処理方法 -67-

3.3. 維持管理 (1) 運転 操作性 特殊な装置がなくポンプとタンクから構成される簡易なシステムであることから 運転 操作が容易であり 専任の運転員が不要である 膜装置などの特別な装置がなく これらの専門知識が不要である (2) メンテナンス性 ポンプとタンクから構成される設備であり 特別なメンテナンスは不要で 定期的なメンテナンスだけでよい また 日常監視項目も少ない (3) 維持管理コスト 従来システム( 膜分離等 ) と比べアンモニア阻害に強く 希釈水量が少ないため後段の排水処理コストも安価となる 麦焼酎粕 1m 3 処理する場合 従来システム ( 膜分離等 ) では 1.2m 3 の希釈水が必要であるのに対し 本システムでは希釈水が 0.5m 3 でよい 中温発酵を採用しているため 加温のための外部からの投入熱量が少なく 焼酎粕処理においては回収したエネルギーのほぼ 100% をシステム外に供給できる また 発酵槽の立上時 ( 試運転時 および休止後の再立上時 ) に必要な熱量も 従来システム ( 膜分離等 ) に比べて少ない 従来システム( 膜分離等 ) で必要な膜を透過させるための動力が 本システムでは不要であるためその分の消費電力が少ない また膜の洗浄用薬品が不要であり 維持管理コストが安い 3.4. 経済性 焼酎粕 1m 3 あたりの従来システムと本システムの物質収支を図 3-1 に示す また 経済性を検討するにあたり 従来システムとのイニシャルコスト ランニングコストの比較を表 3-2 に示す 全体としてランニングコストは従来システムに比べ 4~6% 削減できる イニシャルコストは本システム導入により アルカリ供給装置 水素発酵槽等が付加されるが 発酵槽の容量が 2/3 になるので従来システム ( メタン発酵単独 ) とほぼ同等である 従来システム ( 膜分離等 ) では膜分離等の付帯設備が必要となるため高価となる 電気代はアルカリ供給分 水素発酵分の攪拌およびポンプの動力が増加するが 本システム導入により容量が縮小するので従来システム ( メタン発酵単独 ) とほぼ同等である 一方 従来システム ( 膜分離等 ) では 膜分離等に要する動力が付加されるため上昇する 薬品代は本システムではアルカリ供給分 ガス量増加に伴う脱硫剤使用量が増加するが 分解率が高いため発酵残渣を脱水するための脱水助剤の使用量が大幅に減少し 本システムを導入することで 10% 減少する 本システムと従来システムとの CO 2 排出量削減効果比較を表 3-3 に示す A 重油を燃料に蒸気ボイラで焼酎工場に蒸気を供給する場合 発生したバイオガスで工場に必要な蒸気量の一部を賄う場合 本システムの導入により従来システム ( メタン発酵単独 ) に比べ 10% 多く A 重油使用量を削減できる 一 -68-

方 従来システム ( 膜分離等 ) ではシステムの加温に発生ガスの約 20% を熱利用するため A 重油使用量は従来システム ( メタン発酵単独 ) よりも 20% 減少する したがって CO 2 排出量削減量も A 重油削減量と同等の比率となる 表 3-2 本システムと従来システムとの経済性比較 従来システム従来システム本システム ( 膜分離等 ) ( メタン発酵単独 ) イニシャルコスト 105 100 100 ランニングコスト電力 105 100 100 薬品 100 100 90 計 102 100 92 従来システム ( メタン発酵単独 ) を 100 とした時の相対評価 表 3-3 本システムと従来システムとの CO 2 排出量削減効果比較 従来システム従来システム本システム ( 膜分離等 ) ( メタン発酵単独 ) 工場 A 重油削減量 80 100 110 CO 2 削減量 80 100 110 システムを設置した場合の焼酎工場全体の A 重油使用量削減効果として評価 従来システム ( メタン発酵単独 ) を 100 とした時の相対評価 -69-

従来システム ( メタン発酵単独 膜分離等 ) 本システム メタン発酵単独の場合 -70- バイオガス発生量 34m 3 熱量 768MJ 膜分離等の場合 蒸気ボイラ蒸気量 272kg 蒸気ボイラ蒸気量 272kg システム加温 A 重油使用削減量 22L A 重油使用削減量 18L バイオガス発生量 38m 3 熱量 844MJ 蒸気ボイラ蒸気量 300kg A 重油使用削減量 24L 芋焼酎粕 1m 3 有機物 5.0% 発酵残渣有機物 1.5% 芋焼酎粕 1m 3 有機物 5.0% 発酵残渣有機物 1.2% メタン発酵 脱水助剤 100 水素発酵 メタン発酵 脱水助剤 77 固液分離装置 固液分離装置 脱水助剤は従来メタン発酵システムを 100 としたときの使用量比較 図 3-1 焼酎粕 1m 3 あたりの従来システムと焼酎粕エネルギー回収システムの物質収支比較

3.5. 将来性 本システムは 従来のメタン発酵槽に アルカリ供給設備と滞留時間が約 1 日の水素発酵槽を導入するだけで エネルギー回収率 10% 向上 滞留時間が 2/3 に短縮されるため 焼酎粕のエネルギー回収システムとして 焼酎工場のエネルギー使用量削減 廃棄物発生量削減が可能となる有用なシステムである 膜分離装置などがなく タンクとポンプによるシンプルな機器構成であるため メンテナンス等が少なく 焼酎製造工程の多くの人員を割くことなく導入が可能である 本システムの導入により 工場の化石燃料使用量削減に繋がることから 工場の地球温暖化防止に貢献できる 3.6. 独創性と効果本技術は 膜等の特殊な装置を使用することなく焼酎粕等のバイオマスをアルカリ前処理して水素とメタンの 2 相発酵を行うことにより 安定連続運転を可能にし また従来システム ( メタン発酵単独 ) に比べてエネルギー回収率の向上と発酵時間の短縮 残渣量の削減を達成できるシステムであり これまでにない新しい技術である 3.7. 今後の規制に対する対応策 (1) 環境負荷としての CO 2 排出量規制強化 焼酎粕等のバイオマスをアルカリ水素メタン発酵することにより バイオガスとして回収できるエネルギー量が従来システム ( メタン発酵単独 ) に比べて約 10% 向上し 焼酎粕の持つエネルギーの 70% 以上を回収できる ( 図 3-2) このバイオガスを燃料として発電あるいは蒸気として利用することで 電力や燃料 ( ガス 油等 ) の節減となり 麦焼酎粕 1m 3 あたり 98kg 芋焼酎粕 1m 3 あたり 62kg の二酸化炭素削減に繋がる 投入電力 2.78 麦焼酎粕 100 発酵 焼酎粕脱水残渣 エネルギー回収効率 バイオガス焼酎粕 + 投入電力 = 70.6% 発酵残渣 バイオガス 72.6 回収エネルギーの A 重油換算量 36L-A 重油 /m 3 - 焼酎粕 (98kg-CO 2 /m 3 - 焼酎粕 ) ボイラによる蒸気変換の場合 図 3-2 麦焼酎粕のエネルギー収支 -71-

(2) 廃棄物削減と循環型社会への寄与 焼酎粕等のバイオマスをアルカリ水素メタン発酵することにより 最終的に処分が必要な量は約 10 分の 1 となることから 廃棄物削減に貢献できる 回収したバイオガスを燃料として 電気 熱などに利用することで 資源循環型システムを構築できる 4. 応用分野本技術の確立により焼酎粕だけでなく おから ジュースの絞り粕等 含水率の高い食品製造工場廃棄物 家畜糞尿 下水汚泥 高濃度排水等 従来エネルギー利用されていなかった廃棄物からエネルギー回収し CO 2 削減に繋げることができる -72-