Microsoft Word 商法 解説レジュメ docx

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民事系 第 問 [ 商法 ] 川﨑作成解答例 全員の承認があり, 取締役会の承認があったと評価される余地はある しかしながら, 条 項の重要な事実の開示がない 取締役会の承認を必要とした趣旨からすれば, 利益の衝突を来すか否かを判断するに足りる事実, 本件でいえば, 乙の事業の内容, Bの関与の程度

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株主間契約書 投資事業有限責任組合 ( 以下 A という ) 投資事業有限責任組合 ( 以下 B という ) 投資事業有限責任組合 ( 以下 C といいい A B C を総称し 投資者 といい 個別に 各投資者 という ) と 以下 D という ) と ( 以下 D という ) ( 以下 E といい

きる ( 改正前民法 436 条 ) 1 改正法と同じ 2 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる 本条は 負担部分の限度で 他の連帯債務者が債権者に対して債務の履行を拒むことができると規定したものであり 判

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第 5 無効及び取消し 1 法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果について 次のような規律を設けるものとする (1) 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は 相手方を原状に復させる義務を負う (2) (1) の規定にかかわらず

〔問 1〕 Aは自己所有の建物をBに賃貸した

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手続が不要となるため キャッシュ アウト完了までのスケジュールを短縮することができるようになると見込まれています また 全部取得条項付種類株式の取得では新株予約権を強制的に取得することができないのに対し 株式等売渡請求制度では新株予約権をも対象とすることができるため 新株予約権の処理に関して個別の保

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五有価証券 ( 証券取引法第二条第一項に規定する有価証券又は同条第二項の規定により有価証券とみなされる権利をいう ) を取得させる行為 ( 代理又は媒介に該当するもの並びに同条第十七項に規定する有価証券先物取引 ( 第十号において 有価証券先物取引 という ) 及び同条第二十一項に規定する有価証券先

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定     款

イ 株式会社を被保険者とする損害保険契約であって, 役員等が受けたアの損害を被保 険者が補償することによって生ずることのある損害を塡補するもの 1 規律の対象となる 役員等賠償責任保険契約 の定義について試案第 2 部第 1の31アの内容に該当する保険契約については, 程度の差はあり得るとしても,

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2. 改正の趣旨 背景 (1) 問題となっていたケース < 親族図 > 前提条件 1. 父 母 ( 死亡 ) 父の財産 :50 億円 ( すべて現金 ) 財産は 父 子 孫の順に相続する ( 各相続時の法定相続人は 1 名 ) 2. 子 子の妻 ( 死亡 ) 父及び子の相続における相次相続控除は考慮

刑法 設問 1の主要な問題点 1Z が名刺入れを取得した時点で,A はすでに死亡していた可能性がある このことが, Zの罪責にどのような影響を及ぼすか 2 逮捕を免れるために行われた Z による B に対する暴行について, その罪責が, それ以前の事実関係によってどのような影響を受けるか コメント

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定款

点で 本規約の内容とおりに成立するものとします 3. 当社は OCN ID( メールアドレス ) でログインする機能 の利用申込みがあった場合でも 任意の判断により OCN ID( メールアドレス ) でログインする機能 の利用をお断りする場合があります この場合 申込者と当社の間に利用契約は成立し

8. 内部監査部門を設置し 当社グループのコンプライアンスの状況 業務の適正性に関する内部監査を実施する 内部監査部門はその結果を 適宜 監査等委員会及び代表取締役社長に報告するものとする 9. 当社グループの財務報告の適正性の確保に向けた内部統制体制を整備 構築する 10. 取締役及び執行役員は

2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

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ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

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09企業組織法-1

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

新株予約権発行に関する取締役会決議公告

Ver.3.0 受付番号票貼付欄 合同会社設立登記申請書 フリガナ 1. 商号 1. 本店 1. 登記の事由設立の手続終了 1. 登記すべき事項 1. 課税標準金額金円 1. 登録免許税金円 1. 添付書類 定款代表社員, 本店所在地及び資本金を決定したことを証する書面代表社員の就任承諾書払込みがあ

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商法解説レジュメ 1. 出題趣旨 本問は キャラクターデザインを営む会社の取締役が 会社の業務遂行に必要な動産 (3D プリンター ) や従業員 さらには主要取引先さえも自身の会社に誘導し 実質的に会社を乗っ取ってしまったという事例である 設問 1 について 取締役 B や C の行為が違法であるという結論にはさほど異論はないと思われるが 実際に会社法のどの条文に違反し その効果はどうなのか との点に留意しつつ 忠実義務違反 競業避止義務 利益相反取引 特別利害関係人が決議に参加した場合の取締役会決議の効力等の論点についてバランスよく論ずることが求められる 設問 2 については まず甲社と乙社の代表取締役がともに B であることから B が甲社の代表取締役として乙社に対してプリンターの引渡を請求することが期待できない との点が議論の出発点となる そのうえで 株主総会決議を欠いた事業譲渡の効力について 説得的に論ずることが求められる 2. 設問 1 (1) 設問自体の検討問われているのは会社法上の 損害賠償義務 を負うかどうか であるから 特別背任罪 ( 法 960 条 1 項 ) 等の刑事責任は検討する必要はない また 会社法上の 損害賠償義務について聞かれているので 書き出しにはまず会社法上の損害賠償義務の根拠規定を摘示すべきである 上記は当たり前のことを言っているように思う人もいると思うが 問いに対する答えが書いていなければ いくらたくさん書いても点数はつかないため まず始めに 何を聞かれているのか を十分に検討するクセをつけておこう (2) 善管注意義務 忠実義務違反本問において取締役 B 及び C が甲社に対して責任を負う根拠規定となるのは 会社法 423 条 1 項である 同項は 取締役 は その任務を怠ったときは 株式会社に対し これによって生じた損害を賠償する責任を負う とあり 論述式試験でも繰り返し何度も問われる条項であるが この条文を使いこなすためには その任務を怠ったとき ( 任務懈怠 ) とは一体どのようなときなのか をしっかり押さえておく必要がある 取締役と会社の関係は 委任に関する規定に従うので 取締役の任務懈怠の中核は 会社に対する善管注意義務 忠実義務の違反である 1 ( 法 355 条 法 330 条 民法 644 条 ) 忠実義務とは法 355 条にいう 法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し 株式会社のため忠実に 職務を遂行すべきことをいい 会社の犠牲のもと自己の利益を図る行為はこの義務に違反することとなる 本問において B 及び C が行った行為は 1 新たに乙社を設立 2 甲社の業務に必要不可欠な本件プリンターを時価相当額で乙社に売却 3 甲社従業員に退職するよう働きかけ 退職した従業員を乙社において再雇用 4 甲社の主要取引先の業務を乙社において受注 といったものが挙げられる これらの行為をしっかりと摘示したうえで 忠実義務違反に該当する旨を論じてほしい 1 江頭憲治郎 株式会社法 ( 第 4 版 )437 頁 - 1 -

(3) 競業避止義務 利益相反取引 ( 法 356 条 ) 会社法 423 条 1 項に基づく任務懈怠責任の成立を論じるだけであれば 善管注意義務 忠実義務違反を指摘するだけで十分と思われるかもしれないが ここではさらに 競業避止義務違反 及び利益相反取引についても検討してもらいたい すなわち 取締役の競業行為や利益相反取引に基づき会社が損害を被った場合 会社法は当該損害賠償に関し特別な効果を与えている ア競業避止義務会社法 356 条 1 項 1 号は 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引 ( 競業取引 ) をしようとするときは 当該取引につき重要な事実を開示し その承認を受けなければならず 当該規定に違反して競業取引を行ったときは 任務懈怠による損害賠償責任を負うのみならず 当該取引によって取締役や第三者が得た利益の額が会社の損害と推定される ( 法 423 条 2 項 ) 本件において B 及び C は 乙社を通じて甲社の主要取引先を乙社に誘導し 甲社において従前行っていた業務を乙社において行っていることから 競業取引に該当することは明らかと思われる イ利益相反取引また 本件プリンターの譲渡は甲社と乙社の間で行われているところ 甲社及び乙社の代表取締役はともに B である このように 甲社の取締役 ( 代表取締役である必要はない ) である B が 取引の相手方である乙社の代表取締役として甲社と取引を行うとき かかる取引は 法 356 条 1 項 2 号の 取締役 (B) が自己又は第三者 ( 乙社 ) のために株式会社と取引をしようとするとき に該当し 競業取引同様 当該取締役は重要事実を開示したうえで 取締役会の承認を得なければならない 2 また 利益相反取引によって会社に損害が生じた場合 当該取引を行った取締役 (B) のみならず 当該取引について取締役会の承認の決議に賛成した取締役 (C) についても 任務を怠ったものと推定される ( 法 423 条 3 項 1 号 3 号 ) なお 競業取引の場合の法 423 条 2 項と異なり 利益相反取引の場合は取締役会において有効な承認を得ていたとしても 任務懈怠の推定の効果が生じることに注意しよう (4) 取締役会決議の有効性本問では 競業取引や利益相反取引について 平成 29 年 4 月 29 日付けで取締役会が開催され 全会一致で承認されている そこで 当該取締役会決議の有効性についても論ずる必要がある この点については 特に 1D が出席しておらず B 及び C のみが出席している点について検討する必要がある ア特別利害関係取締役会の決議は 原則として議決に加わることができる取締役の過半数を以て行い 当該決議について 特別の利害関係を有する取締役 は議決に加わることができない ( 法 369 条 1 項 2 項 ) 本件取締役会当日 D は海外出張中であり参加できず B 及び C のみで決議が行われているが B 及び C は ともに譲渡相手先である乙社の取締役乃至代表取締役であるから 本件取締役会の決議には参加できないと考えられる 3 2 なお Cについては 乙社の平取締役にすぎず 乙社を 100% コントロールできる立場で甲社と取引を行っているわけではないことに照らせば Cについては利益相反取引に該当しないとの見解もありうるが 本件においてはBとC はともに一体となって乙社を使って甲社の乗っ取りを画策しているという側面があり Cにとっても利益相反取引となるとの認定も十分あり得ると考えられ 結論はどちらでもよい ただ 前述のとおりBにとって利益相反取引に該当する行為についてCが取締役会で承認している以上 Cに対しても法 423 条 3 項に規定する任務懈怠の推定が及ぶこととなるため この点を深く論ずる実益は少ない 3 注釈 1 と同様の考え方から Cについては乙社の平取締役に過ぎないため 特別利害関係がないという論述もあり - 2 -

イ監査役への招集通知監査役設置会社においては 取締役会の招集通知は監査役にも送付する必要がある ( 法 368 条 1 項 ) 本件では B らは A に対して招集通知を発送しておらず この点において法令違反が認められる ウ取締役会における手続違反と決議の効力取締役会の招集手続や決議の方法が違法である場合 当該取締役会においてなされた決議の効力については 株主総会決議のような特別の訴えの制度を用意していないので 一般原則により決議は無効となるものと考えられている 4 5 (5) 事業譲渡該当性本件プリンターの譲渡は それのみを捉えれば 単に動産を時価で売却したのみであるとも考えられそうである しかしながら 当該プリンターが甲社の営業に必要不可欠なものであることや Bらは本件プリンターを乙社に売却するのみならず 甲社の従業員を退職させて乙社において新たに雇用したり 甲社の取引先を乙社に誘導するなどの行為を行い 結果として甲におけるキャラクターデザイン事業そのものを乙社に譲渡しているものとも考えられる この点について 法 467 条 1 項 2 号にいう 事業の重要な一部の譲渡 に該当するとすれば 甲社において株主総会の特別決議による承認を得なければならないが 本件においては甲社において株主総会は開催されていない 株主総会の特別決議を要する事業譲渡とは何かについて 法律上の定義はないが 最高裁の大法廷判決は 平成 17 年の会社法改正前の事案 ( 当時は法文上 営業譲渡 との用語が使われていた ) において 一定の営業目的のため組織化され 有機的一体として機能する財産 ( 得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む ) の全部または重要な一部を譲渡し これによって 譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ 譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法二五条に定める競業避止業務を負う結果を伴うもの をいうと定義している この定義には 一定の営業目的のため組織化され 有機的一体として機能する財産の譲渡 営業の承継 譲渡会社による競業避止義務の負担 の 3つの要素があるが このうち 競業避止義務については 事業譲渡に該当する場合の効果であって 事業譲渡該当性を検討するための要件ではないと解する学説が有力である 本件においては 本件プリンターという動産を譲渡するのみならず 実質的に従業員や主要取引先との間の取引関係までをも乙社が引継ぎ 従前甲社において行っていた業務を乙社が遂行している点を捉えれば 一定の営業目的のため組織化され 有機的一体として機能する 甲社の財産を譲渡し 乙社が甲社の 営業を承継 しているものとして 最高裁の定義によっても事業譲渡に該当すると考えられ そうである以上これらの行為を甲社が行うには株主総会の特別決議が必要となり これを得ずに事業譲渡を実行したB 及びこれに賛成したCには法令違反が認められる 得るが その場合でも 決議に参加できないBが決議に参加している時点で取締役会決議は違法との結論となり得る 4 神田秀樹 会社法 ( 第 19 版 )220 頁 5 事業譲渡該当性の議論については B 及びCの会社法上の損害賠償責任を基礎づけるものとして論じているが Bと Cが会社法上の損害賠償責任を負うかどうかとの観点からは忠実義務違反や競業避止義務違反 利益相反取引の点のみ論ずれば足りるとの考えもあり得るところであり 設問 2において 株主総会決議を欠く事業譲渡の効力として論ずるということでもよい - 3 -

3 設問 2 (1) 設問自体の検討問われているのは A や D から相談を受けた弁護士の立場から 乙社のプリンターを甲社へ返還するよう求める方法である 株主総会 ( 又は有効な取締役会 ) の決議を欠く事業譲渡行為の有効性という典型論点について論ずるだけであれば 単に 甲社が乙社に対してプリンターの返還を求めることができるか という問いであれば足りるはずであるから 設問 1 以上に 何を問われているのか について吟味する必要がある このような目で問題文を見ていくと 問題文第 7 項の文言が目に留まるであろう 甲社は取締役会設置会社であり取締役は 3 名以上が必要である ( 法 331 条 5 項 ) との点に気付けば 役員に欠員が生じた場合の権利関係や 株主 監査役の A や平取締役 D の立場で甲社の代表者を変更する方法についてどのような方法があるのかを論ずるところまで行きつけると思う 予備試験では必ずしも典型的な論点ではないため 大半の受験生は株主総会 ( 又は有効な取締役会 ) の決議を欠く事業譲渡行為の有効性について論ずるところで止まってしまうかもしれない しかしこの種の会社乗っ取りの事案に限らず 実務上 会社間の訴訟においては訴状を作る段階で代表者が誰であるかを検討することは必要不可欠であるため 本問を機に確認しておきたい (2) 甲社における提訴権者まず A は甲社の株主ないし監査役にすぎず本件プリンターを所有しているわけではないし 甲社の平取締役にすぎない D も同様であるため 乙社に対して本件プリンターの引渡を請求できるのは 甲社のみである そのうえで 甲社が乙社に対してプリンターの引渡を請求する場合 甲社の 誰が 甲社を代表するのかについて検討する 会社法 349 条 4 項は 代表取締役は 株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する と規定していることから 原則は 代表取締役 である しかし このような結論は大きな不都合がある すなわち 甲社の代表取締役は B であるところ B は辞任届を既に提出し 甲社には姿も見せていない 加えて 会社法 346 条 1 項により 法定の員数を欠く場合には 辞任した役員は 新たに選任された役員が就任するまで なお役員としての権利義務を有するとされていることから B と C が辞任届を提出しただけで後任が選任されていない現時点においては B と C はなお甲社の取締役としての権利義務を有することとなる そもそも甲社の本件プリンターを乙社に譲渡したのは他ならぬ B であることに鑑みれば B が任意に甲社の代表取締役として乙社に対して本件プリンターの引渡を求めることは考え難い この点 会社法 353 条は 第三百四十九条第四項の規定にかかわらず 株式会社が取締役 ( 取締役であった者を含む 以下この条において同じ ) に対し 又は取締役が株式会社に対して訴えを提起する場合には 株主総会は 当該訴えについて株式会社を代表する者を定めることができる と規定している しかしながら 本問は甲社が取締役 (B) を相手方として訴えを提起する場面ではないため 同条を適用するのは困難である また 監査役設置会社が取締役に対して訴えを提起する場合 監査役が監査役設置会社を代表することとされている ( 法 386 条 1 項 1 号 6 ) しかしながら 本問は甲社が乙社を相手取って訴えを提起する場面であるため 同条を適用するのはやはり困難である 6 公開会社でない株式会社においては 定款の定めによって監査役の権限を会計監査に限定することができ そのような場合には法 386 条 1 項 1 号の適用はない ( 法 389 条 6 項 ) ただし本問における甲社は公開会社である - 4 -

結局 本件においては 1A が株主の立場で株主総会決議を行い 新たに 2 名の取締役を選任するか 2 同様に A が株主総会決議により 取締役会を廃止し 取締役の員数を 1 名以上とする定款変更を行う という方法が現実的なように思われる 2 の場合 公開会社である甲社はそのままでは取締役会を廃止できないため ( 法 327 条 1 項 ) 甲社の普通株式の全部または一部について定款による譲渡制限をつけることも必要である 1 も 2 も A が 100% 株主である状況であれば実現可能であるが 現実に株主総会を招集する場合 原則として招集の決定にあたり取締役会の決議が必要となり ( 法 298 条 4 項 ) 株主による招集手続には時間がかかり また裁判所の許可も必要となることから ( 法 297 条 ) 株主による議案の提案及び総株主の同意により株主総会の決議があったものとみなされる法 319 条 1 項所定の方法によるのが最も簡便と考えられる (3) 株主総会決議を欠いた事業譲渡の効力上記のとおり役員交代等によって甲社として乙社を提訴する段取りが整ったら 次に検討するのが どのような法律構成で乙社に対して本件プリンターの返還を請求するか である 訴訟物は何か と言い換えてもよいかもしれない 本件においては 本件プリンターの所有権がなお甲社にあることを理由として 所有権に基づく引渡請求を訴訟物とするのが一般的であろう 本件プリンターは 甲社と乙社の間の譲渡契約によって乙社に引き渡されたものであるため 当該譲渡契約が有効である場合には乙社は有効に本件プリンターの所有権を取得することとなり 甲社の乙社に対する請求は認められない そこで 甲社としては 当該譲渡契約が無効であると主張していくことになる では無効事由は何か 既に設問 1 で検討したとおり 本件は単にプリンターという動産の売買ではなく 甲の従業員や取引先関係をも含めたキャラクターデザイン事業の譲渡であることに着目すれば 当該譲渡に関し株主総会の特別決議が得られていないことに気づくことができる 株主総会の特別決議を欠く事業譲渡の効力については 競業避止義務の負担等により事業譲渡が譲渡会社の経営にとって重要な意義を有することや かかる重要性に鑑みれば譲渡の相手方において株主総会決議の有無を確認させる等により慎重な対応を求めたとしても必ずしも不合理ではないこと等を理由として 無効と解するのが通説である 7 4 終わりに会社法の問題は 一つ一つの条文に対する複雑な解釈論を要する問題は少なく ( 刑法などはそういうジャンルの問題である ) 幅広い 横断的な条文知識と それを設問に適切に当てはめることのできる能力が問われる試験である 普段から条文をこまめに引いて一つ一つ条文知識を身に着けていくとともに 類似の論述式問題を数多くこなしていき 条文をどのような場面で適用するのかの勘所を習得することを意識しながら 勉強を進めていってほしい 5 参考文献 参考判例脚注記載のもの 以上 7 なお 有効な取締役会決議 ( 利益相反取引 競業避止義務 ) を欠く動産の譲渡という視点から論じていく方法もあり得るが その場合は判例である 93 条類推適用説 ( 最判昭和 40 年 9 月 22 日民集 19 巻 6 号 1656 頁 ) を押さえておこう 乙社代表取締役もBであり甲社において取締役会決議に瑕疵があることについて悪意という認定を経れば やはり譲渡は無効との結論を導ける - 5 -