第 1 章熊本地震の概要 執筆 : 阿部直樹 ( 国立研究開発法人防災科学技術研究所 ) 1-1 熊本地震動の概要 2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分頃 熊本県熊本地方の深さ約 11km を震源とする M6.5 の地震が発生し 熊本県上益城郡益城町において震度 7を観測した また約

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資料1 受援計画策定ガイドラインの構成イメージ

特集大規模自然災害からの復旧 復興 参考 警察が検視により確認している死者数 50 名 災害による負傷の悪化または避難生活等における身体的負担による死者数 106 名 6 月 日に発生した豪雨による被害のうち熊本地震と関連が認められた死者数 5 名建物被害全壊 8,360 棟, 半壊 3

Microsoft PowerPoint 「平成28年熊本地震活動記録(第17報) 案-2.pptx

30 第 1 部現地における災害応急活動 阿蘇大橋付近の被害状況 ( 熊本県阿蘇郡南阿蘇村 ) 熊本城の被害状況 ( 熊本県熊本市 ) 2

平成 28 年熊本地震における対応 平成 28 年熊本地震 ( 前震 :4/14 本震 :4/16) において 電力 ガス等の分野で供給支障等の被害が発生 関係事業者が広域的な資機材 人員の融通を実施するなど 迅速な復旧に努めた結果 当初の想定よりも 早期の復旧が実現 また 復旧見通しを早い段階で提

アンケート調査の概要 目的東南海 南海地震発生時の業務継続について 四国内の各市町村における取り組み状況や課題等を把握し 今後の地域防災力の強化に資することを目的としてアンケート調査を実施 実施時期平成 21 年 11 月 回答数 徳島県 24 市町村 香川県 17 市町 愛媛県 20 市町 高知県

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地震発生後の九州地方整備局の活動 4 月 16 日の夜明け 本震の後に再度調査を実施しておりま す その際は 道路崩壊の調査 土砂崩壊の箇所の調査 被 災地に入るための安全ルートの確認等を実施しております 次に九州地方整備局の活動について紹介させていただき ます まず最初に地震発生後の初動体制につい

☆配布資料_熊本地震検証

平成17年7月11日(月)

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第 1 章実施計画の適用について 1. 実施計画の位置づけ (1) この 南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画 に基づく宮崎県実施計画 ( 以下 実施計画 という ) は 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法 ( 平成 14 年法律第 92 号 以下 特措法 と

01A

4:10 防災科学技術研究所第 2 回災害対策本部会議を開催 各班による状況報告による情報共有等を実施 9:34 防災科学技術研究所第 3 回災害対策本部会議を開催 各班による状況報告による情報共有等を実施 11:50 防災科学技術研究所職員が熊本県庁 ( 熊本県災害対策本部 ) に到着 16:00

多様な入札 契約特集 2. 技術提案 交渉方式について 技術提案 交渉方式は, 品確法 第 18 条の規 定により, 発注者が, 当該工事の性格等により, 仕様を確定することが困難な場合に適用される 今回のケースでは, 北側復旧ルートは 1 日も早い完成が望まれるが, 本トンネルの十分な調査が完了し

平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中

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「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書

<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

00 表紙・目次

市町村支援の状況について

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東日本大震災 (H ) 地震時の情報収集や提供に関する課題 国 地方公共団体などが連携した被災者や物資輸送者への交通関係情報の提供 大震災直後は 各管理者から別々に通行止め情報等が提供されたため 被災地までの輸送ルートの選定が困難な状況 国が集約して提供を始めたのは10 日以上過ぎた3/

.....u..

1 首都直下地震の概要想定震度分布 (23 区を中心として震度 6 強の想定 ) 首都直下地震 想定震度分布 出典 : 中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ 首都直下地震の被害想定と対策について ( 最終報告 ) ( 平成 25 年 12 月 ) 2

大規模災害時における罹災証明書の交付等に関する実態調査-平成28年熊本地震を中心として-

22年5月 目次 .indd

1.1 阪神 淡路大震災環境省は 阪神 淡路大震災 ( 平成 7 年 1 月 17 日発生 ) の際に兵庫県及び神戸市の協力を得て 大気中の石綿濃度のモニタリング調査を実施した 当時の被災地における一般環境大気中 (17 地点 ) の石綿濃度の調査結果を表 R2.1 に 解体工事現場の敷地境界付近に

~ 二次的な被害を防止する ~ 第 6 節 1 図 御嶽山における降灰後の土石流に関するシミュレーション計算結果 平成 26 年 9 月の御嶽山噴火後 土砂災害防止法に基づく緊急調査が国土交通省により実施され 降灰後の土石流に関するシミュレーション結果が公表された これにより関係市町村は

第 5 部 南海トラフ地震防災対策推進計画

熊本地震の緊急調査報告

2 物的支援の実施について 物資については 各避難所への搬送などの課題が指摘されているが 被災自治体には地震発生直後から国や周辺自治体等による物資供給が行われていたため 都など他地域への支援要請は限定的であった こうした状況にあって 都は 区市町村等関係機関との緊密な連携により被災地からの要請に基づ

地震被害予測システムにより建物被災度を予測 また 携帯電話と地図を利用した 被害情報集約システム では GPS 機能と地理情報システムとの連係により 現在位置周辺にある同社施工済物件を検索し 物件や周辺の被害状況を文字 静止画 動画を添付して報告することができる これら被害情報を地理情報システムに集

1. はじめに ➊ 2. 民間賃貸住宅の段階的活用と整理の必要性 ➋ (1) 建物被害に応じて段階的に提供した民間賃貸住宅 (2) 被災者の属性に応じて提供するべき 一時避難生活場所 と 代替住宅 図表 1 ( 一時避難生活場所含む ) と代替住宅 熊本県の例 3. 被災者支援内容の明確化と弾力的な

病院等における耐震診断 耐震整備の補助事業 (1) 医療施設運営費等 ( 医療施設耐震化促進事業平成 30 年度予算 13,067 千円 ) 医療施設耐震化促進事業 ( 平成 18 年度 ~) 医療施設の耐震化を促進するため 救命救急センター 病院群輪番制病院 小児救急医療拠点病院等の救急医療等を担

資料1 第3回災害救助に関する実務検討会における意見に対する回答

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の復旧状況に関する長期的な見通しを可能な限り明らかにしながら 復旧の段階に 応じた役割の分析を行う 5) 交通事業者ヒアリング調査沿線地域に関係する交通事業者 ( 鉄道事業者 2 社 バス事業者 2 社 タクシー事業者 2 社その他 ) に聞き取り調査を行い 定性的な利用特性や地域の公共交通の問題点

第3回検討会_質の向上WG検討状況報告

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ii 8. 河川法と漁港法との調整に関する協定 ( 抄 ) 運輸省港湾局と農林省水産庁生産部とに関連ある港湾災害復旧事業の処理について 76 第 2 漁港関係災害関連事業 Ⅰ 補助金交付要綱 1. 漁港関係災害関連事業等補助金交付要綱 77 Ⅱ 災害関連漁業集落環境施設復旧事業 1. 災

溶結凝灰岩を含む火砕流堆積物からなっている 特にカルデラ内壁の西側では 地震による強い震動により 大規模な斜面崩壊 ( 阿蘇大橋地区 ) や中 ~ 小規模の斜面崩壊 ( 南阿蘇村立野地区 阿蘇市三久保地区など ) が多数発生している これらの崩壊土砂は崩壊地内および下部に堆積しており 一部は地震時に

熊本地震に係る対応について

1 検査の背景 我が国の防災の基本法として災害対策基本法 ( 昭和 36 年法律第 223 号 ) が制定されている 同法によれば 内閣府に中央防災会議を置くとされ 同会議は 災害予防 災害応急対策及び災害復旧の基本となる防災基本計画の作成 その実施の推進 防災に関する重要事項の審議をそれぞれ行うな

した 気象庁は その報告を受け 今後は余震確率の公表方法を改めることとしたという 2. 被害状況 被害要因等の分析 (1) 調査方針本委員会は 以下の調査方針で 被害調査と要因分析を行っている 1 極めて大きな地震動が作用し 多数かつ甚大な建築物被害が生じた益城町及びその周辺地域に着目して検討を進め

161019_発表資料_後日訂正版_HP用

奈良県ライフライン 情報共有発信マニュアル 第 3.3 版 平成 24 年 7 月 奈良県ライフライン防災対策連絡会

3 歯科医療 ( 救護 ) 対策 管内の歯科医療機関の所在地等のリスト整理 緊急連絡網整備 管内の災害拠点病院 救護病院等の緊急時連絡先の確認 歯科関連医薬品の整備 ( 含そう剤等 ) 自治会 住民への情報伝達方法の確認 病院及び歯科診療所での災害準備の周知広報 - 2 -

事務連絡平成 24 年 4 月 20 日 都道府県各指定都市介護保険担当主管部 ( 局 ) 御中中核市 厚生労働省老健局総務課高齢者支援課振興課老人保健課 大規模災害時における被災施設から他施設への避難 職員派遣 在宅介護者に対する安全確保対策等について 平成 23 年 3 月 11 日に発生した東

熊本地震検討WG方向性について(案)

緊急緊急消防援助隊について消防援助隊の概要 目的 地震等の大規模 特殊災害発生時における人命救助活動等を効果的かつ迅速に実施する消防の援助体制を国として確保 創設の経緯等 阪神 淡路大震災での教訓を踏まえ 平成 7 年に創設 平成 15 年 6 月消防組織法の改正により法制化 平成 16 年 4 月

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平成28年4月 地震・火山月報(防災編)

目 次 1 はじめに P1 2 調査研究の経過 P1 3 受援体制の整備に係る調査 P1 4 視察や意見交換等を通して見えてきた課題 P4 5 提言 P4 6 終わりに P5

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防災業務計画 株式会社ローソン

熊本地震における 西原村の現状と今後の対応等

1 視察目的 平成 28 年熊本地震は 観測史上初めて 同一地域において震度 7 の地震がわずか 28 時間の間に二度も発生し 大きな被害をもたらした 後に 前震 とされる平成 28 年 4 月 14 日 ( 木 )21 時 26 分に発生した地震は 熊本県熊本地方の深さ 11 km地点を震源とし

10 地震 火山噴火対策等の推進について 近年 我が国は様々な災害に見舞われている 東日本大震災後も 平成 28 年の熊本地震 本年 6 月の大阪府北部地震及び9 月の北海道胆振東部地震など大規模な地震が発生し 多大な人的 物的被害が発生した 地方公共団体においては 突然発生する大規模自然災害に備え

事務連絡 平成 29 年 10 月 25 日 建設業団体の長殿 国土交通省土地 建設産業局建設業課長 平成 28 年熊本地震の被災地域での建設工事等における 予定価格の適切な設定等について 公共工事の予定価格の設定については 市場における労務及び資材等の最新の実勢価格を適切に反映させつつ 実際の施工

大規模災害対策マニュアル

日本医師会ニュース「平成28 年熊本地震」:情報提供第五報

Microsoft Word - 02.H28秋 重点提言本文【合本】1110.doc

国土技術政策総合研究所 研究資料

目次 はじめに P3 1 災害 緊急の範囲 P3 2 時間と場所を考慮した対応の必要性 P3 3 時間ごとの対応 P4 4 場所ごとの対応 P5 5 デジタルサイネージの提供コンテンツ P6 6 緊急時を意識したデジタルサイネージシステム P6 7 情報の切替 復帰の条件 P7 8 緊急運用体制 P

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4 被災生活の環境整備主な修正概要 避難所毎に運営マニュアルを作成し 避難所の良好な生活環境を確保するための運営基準等を明確にしておく 避難所運営マニュアルの作成 訓練等を通じて 住民の避難所の運営管理に必要な知識の普及に努める 県 DMAT( 災害時派遣医療チーム ) の活動終了以降の医療提供体制

東京事務所版 BCP 実施要領目次応急頁 < 第 1グループ> 直ちに実施する業務 1 事務所における死傷者の救護や搬送 応急救護を行う一時的な救護スペースの設置 運営 備蓄の設置 医療機関への搬送 1 2 事務所に緊急避難してきた県民や旅行者等への対応 避難 一次避難スペースの運営 指定避難所への

人的応援 研修 訓練の実施 県受援マニュアル及び災害時緊急連絡員活動マニュアルを踏まえた研修 訓練の強化 () マニュアルに基づく研修 訓練県が策定する 応援職員における奈良県への受入及び市町村への短期派遣マニュアル 及び 災害時緊急連絡員活動マニュアル に基づき 災害時に役立つ実働的な訓練や研修を

第4回 被災者に対する国の支援の在り方に関する検討会

各府省からの第 1 次回答 1. 災害対策は 災害対策基本法に規定されているとおり 基礎的な地方公共団体である市町村による第一義的な応急対応と 市町村を包括する広域的な地方公共団体である都道府県による関係機関間の総合調整を前提としている を活用してもなお対応できず 人命又は財産の保護のため必要がある

緊急緊急消防援助隊について消防援助隊の概要 目的 地震等の大規模 特殊災害発生時における人命救助活動等を効果的かつ迅速に実施する消防の援助体制を国として確保 創設の経緯等 阪神 淡路大震災での教訓を踏まえ 平成 7 年に創設 平成 15 年 6 月消防組織法の改正により法制化 平成 16 年 4 月

Microsoft PowerPoint - 【確定】資料3-1_110527(避難者外し).pptx

2. 防災拠点の代替施設の指定防災拠点施設が被災し使用不能となれば 災害対策本部等が設置できず 活動体制全体に遅れが生じ 迅速な災害対応を指揮することが困難となるとともに 災害対応以外の業務 ( 通常業務 ) を行うことも困難となるため 代替施設での対応が必要となります そのため 防災拠点施設におい

スライド 1

職員の運営能力の強化 避難所担当職員研修の実施 全庁対象の避難所担当職員研修(5 回開催で約 400 名参加 ) 区毎の避難所担当職員研修 男女共同参画の視点に立った避難所づくり 共助による災害時要援護者支援の取り組みについて説明 各区災害対策本部との連絡 避難所内の課題解決の調整など 地域団体等へ

九州における 道の駅 に関する調査 - 災害時の避難者への対応を中心としてー ( 計画概要 ) 調査の背景等 道の駅 は 平成 16 年 10 月の新潟県中越地震 23 年 3 月の東日本大震災において 被災者の避難場所 被災情報等の発信や被災地救援のための様々な支援の拠点として活用されたことなどか

れました また, 当フォーラムに将来の建設技術者を目指す若い学生が多数参加することを紹介し, 今後想定される大規模災害への備えとして, 災害に強い国作り, インフラの老朽化対策などの国土強靱化を促進する上でも, これらの方々の活躍なくしては成立しない これら若い技術者の方を含めて産学官の連携を深め,

国土技術政策総合研究所 研究資料

日本医師会ニュース「平成28年熊本地震」:情報提供第十報

Ⅱ 取組み強化のためのアンケート調査等の実施 (1) 建設技能労働者の賃金水準の実態調査国土交通省から依頼を受けて都道府県建設業協会 ( 被災 3 県及びその周辺の7 県を除く ) に対し調査を四半期ごとに実施 (2) 適切な賃金水準の確保等の取組み状況のアンケート調査国は 平成 25 年度公共工事



熊本地震災害調査レポート(速報)

2 地震 津波対策の充実 強化 (1) 南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定を踏まえ 地震防災上緊急に整備すべき施設整備 津波防災地域づくりに関する法律 の実効性確保 高台移転及び地籍調査の推進など事前防災や減災に資するハード ソフトの対策を地方公共団体が重点的に進めるための財政上の支援措置を講じ

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(溶け込み)大阪事務所BCP【実施要領】

建築物等震災対策事業について

諸外国の火山防災体制

※本プレスリリースは特定非営利活動法ADRA Japan、特定非営利活動法人難民支援協会、特定非営利活動法人ピース ウィンズ・ジャパンおよび特定非営利活動法人チャリティ・プラットフォームの共同リリースです

【集約版】国土地理院の最近の取組

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2019 年1月3日熊本県熊本地方の地震の評価(平成31年2月12日公表)

宮城県総合防災情報システム(MIDORI)

新規文書1

Transcription:

熊本地震における応援職員派遣の実態と課題 概要版 全国知事会 ( 地方自治政策センター ) では 熊本地震において他自治体からの広域応援がどの ように機能し 効果があり 課題が残ったかなど 主に地方自治体にとっての災害時のマンパワ ーについて明らかにし 結果を今後の災害対応に活用するために調査を実施した 本調査は 熊本地震の支援において 復旧 復興本部を早期に立ち上げ 地震からの復旧にお いて研究機関として大きな役割を果たした 国立研究開発法人防災科学研究所に委託して実施 した 平成 29 年 3 月

第 1 章熊本地震の概要 執筆 : 阿部直樹 ( 国立研究開発法人防災科学技術研究所 ) 1-1 熊本地震動の概要 2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分頃 熊本県熊本地方の深さ約 11km を震源とする M6.5 の地震が発生し 熊本県上益城郡益城町において震度 7を観測した また約 28 時間後の 4 月 16 日 1 時 25 分には同地方の深さ約 12km において M7.3 の地震が発生し 熊本県上益城郡益城町および阿蘇郡西原村で震度 7 を観測した 内陸部の同一地域において 28 時間という短期間に震度 7の地震が連続して発生するのは観測史上初めてであった 熊本地震において 14 日に発生した M6.5 の地震を 前震 16 日に発生した M7.3 の地震は 本震 と広く呼ばれている 1-2 被害の概要最大震度 7 を観測した益城町 西原村をはじめ 熊本市 阿蘇市 南阿蘇村など広範囲にわたって多数の家屋倒壊 土砂災害が発生した 特に前震でダメージを受けた建物や斜面に対して 重ねて本震が襲ったことで建物の倒壊や土砂災害が拡大し 多くの被害につながった (1) 人的被害 (2) 建物被害 (3) 土砂災害 (4) 道路被害 (5) 河川被害 (6) 公共交通機関およびライフラインの被害 1-3 適用された法制度等 (1) 災害救助法及び被災者生活再建支援法の適用 (2) 激甚災害の指定 ( 内閣府 ) (3) 特定非常災害特別措置法に基づく 特定非常災害 の指定 ( 内閣府 ) (4) 大規模災害復興法等の適用 ( 内閣府及び国土交通省 ) 法制定後初適用 1-4 影響の試算 ( 内閣府試算 ) 社会資本 住宅 民間企業設備といったストックに対する熊本県と大分県の毀損額は約 2.4~ 4.6 兆円と試算されている 県別には熊本県が約 1.8~3.8 兆円 大分県が約 0.5~0.8 兆円 項目別には建築物等が約 1.6 ~3.1 兆円 社会インフラが約 0.4~0.7 兆円 電気 ガス 上下水道が約 0.1 兆円 他の社会資本が約 0.4~0.7 兆円という内訳になっている

第 2 章 熊本地震における他自治体からの応援職員派遣の全体像 執筆 田村圭子 国立大学法人 新潟大学 2-1 近年の主な地震災害時の職員派遣状況と課題 熊本地震への対応でも 被災地外の自治体が熊本県及び県内被災市町村に対し 多くの職員 が派遣された 都道府県からの短期職員派遣状況を見ても その規模は 2016 年 10 月 31 日現 在 延べ 4 万 6,827 人に及んでいる 自治体職員の派遣による被災地の応援は 熊本地震に限らず 災害が起こるたびに活発に行 われてきたが そのたびに 応援 受援に関する課題が挙げられ 被災自治体側での応援の受け 入れ体制整備の必要性が指摘されるところである 2-2 平成 28 年熊本地震 における他自治体からの応援職員派遣の全体像 これまでの地震災害時と同様 被災地外の自治体から多くの職員派遣が行われ 新たに発生 した災害対応業務や通常業務への支援が行われた 被災県となった熊本県及び県内市町村でも人的 物的資源の応援を受け入れ その資源を活 用しながら災害対応が実施されており 文献等を通じて明らかになっている熊本地震時の職員 派遣の状況について 課題を交えて整理した (1)複数の応援の枠組みによる職員派遣と派遣の形態 (2)派遣規模と派遣状況の変化 (3)応援側の本部及び現地支援組織の設置 (4)支援として実施されている主な業務内容 (5)業務支援に係る課題に関する指摘 2-3 効果的な応援のための準備 災害が発生すると たとえ被害の規模が小さく 影響範囲が限定的であっても 被災自治体に おいては 通常業務の範囲や量を超えて生じる新たな業務への対応が必要となる 被害規模が 大きくなれば求められる対応の内容や量は拡大し 被災地方公共団体単独での対応は 一層困 難になる このような自治体の対応力を超える状況下で不可欠なのが 応援側の自治体からの 派遣職員の受け入れであり 熊本地震では 応援側による積極的な取り組みが実施された この応援 受援において 自治体に対し事前に受援体制の整備をはかることや 受援計画を作 成しておくこと 組織体制 指揮命令系統の整理 業務処理手順 標準的手順 の確立 支援職 員の能力向上 その他 業務に必要な資機材 ツールの整備の必要性がある

第 3 章 災害時における資源管理の在り方 執筆 田村圭子 国立大学法人 新潟大学 3-1 平成 28 年熊本地震の受援応援の評価 熊本地震に対する派遣職員は 短期派遣 4 万 7,138 人 長期派遣 5 万 3,172 人となっている この数字でわかることは 阪神 淡路大震災以降 被災自治体に対する応援職員の派遣は 自 治体職員を中心に大きな広がりを見せているということである (1)平成 28 年熊本地震の受援応援において特記すべきこと (2)資源管理機能における人的 物的資源の流れ 3-2 資源管理機能の整備 応援 受援に欠かせない資源管理機能について 残念ながらわが国では 体系的な要素 項目 の整理 体系的な理解 標準的な対応手順等が根付いていない 応援受援機能が災害対策本部体 制に明確に位置付けられていないことと相まって その機能は未整備である 地方公共団体のための災害時受援体制に関するガイドライン H29 内閣府 において 都道府県に対し 応援受援機能の位置づけの明確化が要請されている中で 資源管理機能の整 備においても同様に取り組むべき課題である (1)資源管理機能の概括 (2)資源管理計画 (3)資源分類と準備 (4)資源管理機能のまとめ 災害発生前には 地域に想定される災害に必要な資源が記述できる 必要な機関と災害時の資源のやりとりを実施するための協定を結ぶ 必要資源がどこにあって どのように要請すれば手に入るかを目録化 リスト化 する 資源が要請され 配備され 今どのような状況にあるのか把握するシステムをつくる 災害が発生したら 資源管理機能を発動する 必要資源を被災地に配置する 被災地内にどのくらいの資源が配置されているかリアルタイムで 遂次 とりまとめる 資源の必要ニーズの先読みを実施して 資源に早めに要請をかける 必要資源に対し 休息 撤収を実施する 災害が終息したら 資源の活用状況を整理し 報告書 After Action Report にまとめる 必要資源の目録を整理 更新する

第 4 章 熊本地震における土木系職員の応援の実態と課題 執筆 上石 勲 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 4-1 はじめに 大規模災害における被害のひとつに 道路や河川堤防などの公共土木施設や 電気 ガス 水 道など都市インフラの被害があげられる これらの復旧復興には長期化するものも多く 被害 の長期化が生活に長く影を落とすこととなる 公共土木施設の復旧復興業務には多くの専門知識を必要とし 被災自治体の限られた土木系 職員の数だけでは早期復旧復興を成し遂げることは困難であり そのスピードを速めるために 外部からの応援は必ず必要となる 熊本地震においても 公共土木施設や都市インフラの被害が発生し 国や全国各地の地方自 治体から多くの土木系職員が応援派遣され 被災自治体の職員と共に早期復旧復興に取り組ん でおり 熊本県への他の都道府県からの土木系職員の応援の実態と課題を整理した 4-2 熊本地震による土木系被害の実態 熊本地震における熊本県内の公共土木施設等の被害は 布田川断層帯沿いを中心に県内の広 い範囲で確認された また 地震直後の被害だけでなく その後の梅雨前線豪雨等に起因した被 害も発生している 熊本県および熊本県内市町村管理の公共土木施設の被害は おおよそ 5,000 箇所 被害額は約 998 億円にのぼり 県直轄による権限代行施工分を合わせると 1000 億円を 超える被害が査定されている 4-3 緊急点検 応急対策 災害査定 災害復旧といった各フェーズにおける応援 (1)応援要請について (2)緊急点検における応援 (3)応急対策における応援 (4)災害査定における応援 (5)災害復旧工事における応援 4-4 土木系職員の応援および受援の実態 応援職員と応援を受ける受援職員の実態を把握するため 実際に応援を行った地方自治体職 員と 受援側である熊本県職員に対して 聞き取り調査を行った (1)応援職員の派遣規模 実績について (2)ヒアリングによる応援職員の実態

4-5 応援 受援の課題 (1)担当業務のマッチングについて (2)コミュニケーションの重要性 (3)応援職員の交代 引継ぎ (4)応援職員の職務 生活環境など (5)情報通信機器の活用 (6)今後の備え 4-6 まとめ 災害に対する土木系の業務については 被災調査 応急対策 災害査定 復旧工事という流れ がある程度定まっている 熊本県地震において各フェーズにあった応援受援がなされてきてい るが 受援側のニーズと応援側のシーズのミスマッチなどいろいろな課題も残っている 土木関係の応援は 6 月初旬と発災後 1 ヶ月以上経過してから本格的に始まっており 応援職 員のニーズとその必要な人数もある程度想定できる可能性がある 災害経験を活かし それぞれのフェーズにあった土木系職員応援 受援についての標準化や マニュアル等の整備も今後の災害対応には必要であると考えられる

第 5 章 派遣職員の技能と応援業務の適合の実態と課題 執筆 島崎 敢 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 5-1 応援派遣の調整を行った職員に対するインタビュー調査 大規模災害における被災地外からの応援職員の派遣とその業務は 困難でありながら迅速さ 適切さが求められるため 実際に発生した災害で そこに居合わせた職員がどのように対応や 調整にあたったのかを記録 分析することにより 今後発生する災害に向けた備えや初動期の 対応に役立つ資料とするため 熊本地震において 応援職員派遣に関連する調整がどのように 行われたのかを 実際の調整に当たった職員を対象にしたインタビュー調査から明らかにする と共に 派遣先での業務内容や平時の業務との類似性 派遣職員がどの程度の能力を発揮でき ていたか等について 実際に派遣された職員を対象とした質問紙調査から明らかにし これら に係る課題を整理した 5-2 熊本に派遣された職員に対する質問紙調査 派遣された職員の中には 過去に災害対応の経験があり 災害対応に必要な知識やスキルを 持っていた人も多かったが 彼らの知識やスキルが現地で十分に活かされなかったという事例 報告が散見されている しかし これらの報告はいずれも定性的な情報であり 実際に派遣職員 がどの程度自分の知識やスキルを活かせたと感じているのか 平時の仕事や 過去の災害対応 で行なった仕事の専門性はどの程度か また 平時の仕事や過去の災害対応で行った仕事と熊 本での仕事の類似性はどの程度か等について定量的な調査は行われておらず また 上記変数 間の相関や因果関係も検討されていないことから これら実態を明らかにするために質問紙調 査を行なった

結果のまとめと考察 平時の仕事と熊本での仕事は類似性があまり高くない 過去の災害対応と熊本での仕事の類似性は中程度で 災害対応経験職員は知識やスキルを 活かせていた 多くの職員が熊本で知識やスキルを獲得し 次の災害に活かせそうだと感じていた 人員 情報 食料 物資 PC などが不足し 移動や宿泊が困難で 指揮命令系統が混乱し ており チーム体制や引き継ぎ体制の確立が必要であると考えられていた 医療健康系の職員は平時の仕事と災害対応での仕事の内容に共通性があり 知識やスキル を活かせていた 危険度判定等の仕事は他の災害との共通性が高く 過去に災害対応経験がある職員は知識 やスキルを活かせていた 避難所運営業務は職員によって捉え方が異なっていた 災害間での業務内容はある程度共通しており 災害対応経験のある職員は他の災害でも知識 やスキルを活かせていた したがって 熊本に初めて派遣された職員が熊本で十分に能力を発 揮できなかったとしても そこで得られた経験や感じたこと 考えたことなどは次の災害で活 かされる可能性が高い したがって 人的資源に余裕がある自治体は 将来的に自地域で発生する災害に対応できる 職員を育てるためにも 可能な範囲で積極的に職員を派遣するべきであり 派遣される職員に 対しても そう言った視点での説明や動機づけを行うべきであると言える 応援職員派遣の本来の目的は 派遣先の自治体を助けることであるが それだけではなく 派 遣された職員のスキルアップもできることが望ましい これにより 全国の自治体職員の災害 対応能力が向上し 日本全体の防災力が高まれば 応援職員の派遣は二重に意義のある取り組 みであると言える