東京健安研セ報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 68, 287-293, 217 日本における死因別死亡数の動向予測 池田一夫 a, 石川貴敏 a 東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システムを用いて, 総死亡, 脳血管疾患, 虚血性心疾患, 全がんなど14 種の死因による死亡特性を分析した. その上で本システムを用いて, これらの疾病による日本の死亡者数を23 まで予測した. 予測結果は次のとおりである. 総死亡 : 58 万, 女子 6 万. 脳血管疾患 : 3.1 万, 女子 3.3 万. 虚血性心疾患 : 3 万, 女子 1.8 万. 肺炎 : 5.4 万, 女子 4.3 万. 全がん : 19 万, 女子 16 万. 胃がん : 1.9 万, 女子 1.1 万. 結腸がん : 2 万, 女子 2 万. 肝臓がん : 8.8 千, 女子 4.5 千. 膵臓がん : 1.9 万, 女子 2 万. 肺がん : 5 万, 女子 2.4 万. 白血病 : 4.6 千, 女子 3.5 千. 前立腺がん : 1.2 万. 乳がん : 女子 1.6 万. 子宮がん : 女子 7.5 千. キーワード : 口動態統計, 世代マップ, 総死亡, 脳血管疾患, 虚血性心疾患, 全がん, 肺がん, 子宮がん, 乳がん 研究目的衛生行政の基本的な使命は生活環境の安全性の維持と向上を図ることにある. この使命を達成するに当たり, 地域における生活環境の安全性と地域住民の健康損失の状況を定式的かつ継続的に観測するシステムの構築は非常に重要な意味を持つ. また, 行政施策の効果判定にも定量的な予測値と実測値との比較が欠かせない. 当センターでは, 地域における疾病事象を把握し, 衛生行政を支援するために疾病動向予測システムを開発している. 本論文では, このシステムを用いて日本における主な死因の死亡特性と今後の動向について分析した結果を報告する. 研究方法東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システム 1-7) (SAGE:Structural Array GEnerator) を用いて総死亡, 脳血管疾患, 虚血性心疾患, 全がんなど14 種の死因による死亡特性を分析し,23 までの動向を予測した. 死亡者数の予測にはコーホート変化率法 8) を用いた. コーホート変化率法とは, 齢コーホートごとに今後の死亡率が将来も大きく変化しないと仮定して, 齢別死亡数を推計する方法である. 本論文では,21 から215 までの6 間のデータを前半 3 と後半 3 に2 分し, その変化率から,215 の15 先の23 までの動向を予測した. 623,737 となっている. 今後, 死亡齢のピークは徐々に高齢側に移動し女子では23 には9 歳になると予測される ( 図 1-2). 団塊世代の高齢化にともない, 死亡者数は増加し,22 代には男女とも65 万程度になると予測される. 8, 7, 予測女子 6, 予測 5, 4, 3, 2, 1, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 1-1. 総死亡者数の次推移 12, 予測 1, 女子予測 8, 6, 研究結果および考察 1. 総死亡 ( 図 1-1) 195 における総死亡者数は男女それぞれ467,73 と 437,83 であったが漸次減少し,1963 には 361,469, 女子 39,31 と最小となった. その後 198 頃まで, は36~39 万, 女子は31~33 万程度で推移したが, 198 以降増加を始め,215 には 666,77, 女子 4, 2, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 2-1. 脳血管疾患による死亡者数の次推移 a 東京都健康安全研究センター企画調整部健康危機管理情報課 169-73 東京都新宿区百町 3-24-1
288 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 68, 217 図 1-2. 総死亡の世代マップ (216 以降は予測値, 上段 :, 下段 : 女子 ) 図 2-2. 脳血管疾患の世代マップ (216 以降は予測値, 上段 :, 下段 : 女子 ) 2. 脳血管疾患 ( 図 2-1) 脳血管疾患には, 脳内出血, 脳梗塞, くも膜下出血, その他の脳血管疾患が含まれる.195 の死亡数は男女それぞれ42,668 と45,752 であった.215 には 53,576, 女子 58,397 となっている. なお,1995 の急増は国際疾病分類 (ICD:International Classification of Disease) の変更によるものと考えられる. 今後は, 男女とも順調に死亡数の減少が続き,23 には, 男女それぞれ3 万程度になると予測される ( 図 2-2). 5, 45, 4, 35, 3, 25, 2, 15, 1, 5, 3. 虚血性心疾患 ( 図 3-1) 虚血性心疾患による死亡者は,1958 の 9,15, 女子 5,897 から増加を続け,215 には男女おのおの 41,76,3,597 となっている. なお,1993 から1994 にかけての大きな不連続は, 厚生省が死亡診断書を改訂し原死因として 心不全 を原則として認めなくなり, その結果心不全の減少分の一部が虚血性心疾患に移行したことによるものと考えられる 9). 男女とも同齢で比較した死亡率は, 若い世代ほど減少しており, 団塊世代が好発齢に達する時期になっても男女ともに死亡数は減少し,23 には 3 万, 女子 2 万弱になると予測される ( 図 3-2). 4. 肺炎 ( 図 4-1) 肺炎には, 肺炎球菌などの細菌による肺炎とインフルエンザウイルス以外のウイルスによる肺炎などが含まれ, 誤嚥性肺炎は含まれていない. 肺炎による死亡者は,195 の 28,9, 女子 26,79 から緩やかな減少を続け, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 3-1. 虚血性心疾患による死亡者数の次推移 1972 には 12,462, 女子 1,742 となった. この緩やかな減少は, 世代マップ ( 図 4-2) に示されるとおり, 幼児期の死亡減少によるものである. その後, 高齢者の増加につれ死亡者も増加し215 には男女おのおの65,69, 55,344 となっている.1995 の減少はこの時期のICDの変更によるものと考えられる. 団塊世代が肺炎の好発齢に達しても死亡者数は順調に減少し,23 には 5.5 万, 女子 4 万程度になると予測される.
東京健安研セ報,68, 217 289 図 3-2. 虚血性心疾患の世代マップ (216 以降は予測値, 上段 :, 下段 : 女子 ) 図 4-2. 肺炎による死亡者の世代マップ (216 以降は予測値, 上段 :, 下段 : 女子 ) 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 4-1. 肺炎による死亡者数の次推移 25, 2, 15, 1, 図 5-2. 全がんによる死亡者の世代マップ (216 以降は予測値, 上段 :, 下段 : 女子 ) 5, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 5-1. 全がんによる死亡者数の次推移 5. 全がん ( 図 5-1) 全がんによる死亡者数は, では,195 の32,67 が215 の219,58 へと約 6.7 倍に, 女子では, 同様に 31,758 から15,838 へと約 4.7 倍に増加している. 世代マップ ( 図 5-2) で見ると, 死亡の齢ピークはを追うごとに次第に高齢側に移動している. 死亡者数の増加は徐々に頭打ちになり男女とも22 頃にピークに達す
29 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 68, 217 るとみられる.23 頃に間死亡者数は男女おのおの19 万と15 万になると予測される. 6. 胃がん ( 図 6) 胃がんによる死亡者数は,1955 の 22,899, 女子 14,47 に始まり,215 には 3,89, 女子 15,87 となっている. なお,1994 から1995 における死亡者数の不連続な増加は,ICDが変更されたことによるものと考えられる. 今後も間死亡者総数は着実に減少し,23 の間死亡者数は 1.9 万, 女子 1.1 万と予測される. 35, 3, 25, 2, 8. 肝臓がん ( 図 8-1) 肝臓がんによる死亡者数は,1968 の 5,468, 女子 3,544 から始まり, 単調に増加してでは22 に 23,815, 女子では28 に11,333 のピークを示し, その後は減少に転じている.215 の死亡者数は男女それぞれ19,8,9,881 である. では,192 代後半生まれの世代に特徴的な死亡のピークが存在している ( 図 8-2). 215 の死亡者数のピークは, 男女とも8 歳に位置する. 死亡者数は今後も順調に減少を続け,23 頃に.9 万, 女子.5 万まで減少するとみられる. 3, 25, 予測女子予測 2, 15, 15, 1, 1, 予測女子 5, 予測 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 6. 胃がんによる死亡者数の次推移 5, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 8-1. 肝臓がんによる死亡者数の次推移 7. 結腸がん ( 図 7) 結腸がんによる死亡者数は,1955 の 723, 女子 95 から始まり単調に増加して,215 の死亡者数は男女それぞれ17,63,17,275 である. 215 の死亡者数のピークは, 7 歳代後半, 女子 85 歳になっている. 今後, 団塊の世代がこの齢域に近づくことから, 男女とも今後も死亡者数の増加は続き23 の間死亡者数は男女とも2 万程度になると予測される. 25, 2, 15, 1, 5, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 7. 結腸がんによる死亡者数の次推移 図 8-2. 肝臓がんによる死亡者の世代マップ (216 以降は予測値, 上段 :, 下段 : 女子 )
東京健安研セ報,68, 217 291 9. 膵臓がん ( 図 9) 膵臓がんによる死亡者数は,1955 の 625, 女子 477 から始まり単調に増加して,215 の死亡者数は男女それぞれ16,186,15,68 である. 215 の死亡者数のピークは, 男女とも8 歳に位置する. 今後も死亡者が増加し,23 頃の間死亡者数は, 男女ともおのおの2 万程度になると予測される. 23 頃の間死亡者数は, 男女それぞれ4,6 と 3,5 程度と予測される. 6, 5, 予測女子予測 4, 25, 3, 2, 2, 1, 15, 1, 5, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 11. 白血病による死亡者数の次推移 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 9. 膵臓がんによる死亡者数の次推移 12. 前立腺がん ( 図 12) 215 の死亡者数は11,326 で, 死亡のピークは85 歳に位置している. 今後漸増し22 頃に1.2 万となりその後停滞すると予測される. 1. 肺がん ( 図 1) 肺がんによる死亡者数は,1958 には男女おのおの 2,919 と1,352 であったが, それ以後の増加は単調かつ急激で,215 には 53,28 と女子 21,17 となっている. 男女とも死亡者数は増加を続けるものの増加率は減少し, では22 頃, 女子では23 にピークを迎えるものとみられる.23 の間死亡者数は 5 万, 女子 2.4 万と予測される. 14, 12, 1, 8, 6, 4, 2, 予測 6, 5, 4, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 12. 前立腺がんによる死亡者数の次推移 3, 2, 1, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 1. 肺がんによる死亡者数の次推移 11. 白血病 ( 図 11) 白血病による死亡者数は,215 には 5,14 と女子 3,527 となっており, 死亡のピークは, 男女とも8 歳に位置する. 13. 子宮がん ( 図 13-1) 子宮がんによる死亡者数は,195 には8,783 であったが, これをピークとして以後着実に減少し,197 代後半には5, 台となり,1993 には4,445 まで減少した. しかし,1995 以降は微増傾向を示し,215 には6,429 となっている. 1995 以降, 団塊世代付近の齢域で子宮がんによる死亡が増えており,1947-55 世代に低いピークが出現している ( 図 13-2). 間死亡者数は漸増して,23 頃には.7 万程度になるものと予測される.
292 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 68, 217 18, 乳がん 16, 予測 14, 子宮がん予測 12, 1, 8, 6, 4, 2, 195 196 197 198 199 2 21 22 23 図 13-1. 子宮がんと乳がんによる死亡者数の次推移 結論東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システムを用いて, 総死亡, 脳血管疾患, 虚血性心疾患, 全がんなど14 種の死因による死亡特性を分析した. その上で本システムを用いて, これらの疾病による日本の死亡者数を23 まで予測した. 予測結果は次のとおりである. 総死亡 : 58 万, 女子 6 万. 脳血管疾患 : 3.1 万, 女子 3.3 万. 虚血性心疾患 : 3 万, 女子 1.8 万. 肺炎 : 5.4 万, 女子 4.3 万. 全がん : 19 万, 女子 16 万. 胃がん : 1.9 万, 女子 1.1 万. 結腸がん : 2 万, 女子 2 万. 肝臓がん : 8.8 千, 女子 4.5 千. 膵臓がん : 1.9 万, 女子 2 万. 肺がん : 5 万, 女子 2.4 万. 白血病 : 4.6 千, 女子 3.5 千. 前立腺がん : 1.2 万. 乳がん : 女子 1.6 万. 子宮がん : 女子 7.5 千. 図 13-2. 子宮がんによる死亡者の世代マップ 14. 乳がん ( 図 13-1) 子宮がんとは対照的に乳がんによる死亡者数は,1955 の1,572 から215 の13,584 まで8.6 倍の増加を示している. 世代マップ ( 図 14) でみると215 に死亡のピークは団塊世代の6 歳台になっている. 今後も死亡者数は増加の一途をたどり,23 には1.6 万に達するとみられる. 文献 1) 東京都健康安全研究センター :SAGE( 疾病動向予測システム ) ホームページ :http://www.tokyoeiken.go.jp/sage/(216 7 月 14 日現在, なお本 URLは変更または抹消の可能性がある ) 2) 池田一夫, 竹内正博, 鈴木重任 : 東京衛研報,46, 293-299, 1995. 3) 池田一夫, 上村尚 : 東京衛研報,49, 321-328, 1998. 4) 池田一夫, 上村尚 : 口学研究,3, 7-73, 1998. 5) 倉科周介, 池田一夫 : 日医雑誌,123, 241-246, 2. 6) 池田一夫, 矢野一好 : 東京衛安研セ報,57, 395-4, 26. 7) 倉科周介 : 病気のなくなる日 -レベルの予感-, 1998, 青土社, 東京. 8) 金子武治, 伊藤達也, 廣嶋清志, 他 : 口推計入門, 98-11, 22, 古今書院, 東京. 9) 厚生省大臣官房統計情報部口動態統計課 : 死亡診断書等の改訂 ( 案 ) について, 厚生の指標,41(4),2-25, 1994. 図 14. 乳がんによる死亡者の世代マップ
東京健安研セ報,68, 217 293 Future Estimation of the Number of Deaths Attributed to Different Causes in Japan Kazuo IKEDA a and Takatoshi ISHIKAWA a We analyzed the mortality characteristics of 14 causes of death, including all cause, cerebrovascular disease, ischemic heart disease, and malignant neoplasm, using the Structural Array Generator (SAGE) developed at the Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. Using these results, we then estimated the numbers of deaths due to 14 different causes for the year 23 in Japan, using SAGE. The results are as follows: All cause: male 58; female 6, cerebrovascular disease: male 31; female 33, ischemic heart disease: male 3; female 18, ischemic heart disease: male 3; female 18, pneumonia: male 54; female 43, all cancers: male 19; female 16, stomach cancer: male 19; female 11, colon cancer: male 2; female 2, liver cancer: male 88; female 45, pancreatic cancer: male 19; female 2, lung cancer: male 5; female 24, leukemia: male 46; female 35, prostate cancer: male 12, breast cancer: female 16, uterine cancer: female 75. Keywords: vital statistics, generation map, number of death, all of death, cerebrovascular disease, ischemic heart disease, cancer, lung cancer, breast cancer, uterine cancer a Tokyo Metropolitan Institute of Public Health, 3-24-1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-73, Japan