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Transcription:

海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER 海外ウォッチャー ADB 報告書 Meeting Asia s *1 Infrastructure Needs が示すアジアのインフラ需要予測 アジア開発銀行 (ADB) 日本理事室理事補塚本剛志 1 はじめに 今から 8 年前の 2009 年 アジア開発銀行 (ADB) 及びアジア開発銀行研究所 (ADBI) は Infrastructure for a Seamless Asia( 以下 シ ームレスアジア ) *2 を発表し 2010 年から 2020 年までの 11 年間で アジア太平洋の開発途上国 地域が直面するであろうインフラ需要を約 8 兆ド ル ( 年平均約 7,300 億ドル ) と試算した それは ADB が開発途上加盟国 地域 (Development Member Countries:DMC) とする全 45DMC の うち 32DMC における エネルギー 交通 運輸 通信 水 衛生の4セクターのインフラ需要の見通しを示すものであった そしてその次のディケイドの見通しとして 2017 年 2 月 ADBは新たに Meeting Asia s Infrastructure Needs( 以下 今次報告 ) を発表し シームレスアジアが示した需要予測をアップデートするものとして 2016 年から2030 年までの15 年間の期間 全 45DMC を対象とするインフラ需要予測を新たに提示した そもそも 将来の しかも10 年以上もの長期にわたって ある特定の地域 あるいは国において生じるインフラ需要を正確に算出することは可能なのであろうか 今次報告では 数値化したインフラ需要予測 *3 額は アジア太平洋地域 あるいは個々の国 地域における将来の最適なインフラ投資を見通すもの (forecasts) として意味づけられるものではなく 経済活動 経済構造 人口統計の推移といった多様な仮定に基づき 今後どのようにインフラ需要が推移していくのかについての案内 (guide) であるとしている *4 また あらゆる大型プロジェクトの計画 デザイン ファイナンス 建設は悩みをもたらすものであり 長期に及ぶインフラ投資は一層困難なものとしつつも 将来のインフラ投資需要を見積ることは その取組みの結果が一般的な鳥瞰的視点によるものであったとしても 将来のインフラ開発及び優先順位がいずれに所在するのかを示し 政策決定者の意思決定を助けるとしている 提示された一連の需要予測が案内であるとの性格を考慮に入れつつも 2030 年までの長期的視点に立ち 入手し得る情報及び仮定に基づき算出されるインフラ需要予測額は 大きな示唆を与えるものであることは間違いない 本稿では 今次報告が示した様々な見積りのうち 特に インフラ需要予測額 地域 国別 またセクター別の需 *1)ADB(2017), Meeting Asia s Infrastructure Needs *2)ADB and ADBI(2009), Infrastructure for a Seamless Asia *3) 報告原文では estimate 及び estimating といった単語で インフラ需要額の見積りを示しているが 本稿では同報告ハイライトの日本語版である アジアのインフラ需要に応える Meeting Asia s Infrastructure Needs ハイライト の和訳に従い estimate 及び estimating を予測ないし予測額と訳す *4) 報告原文の該当部分は次のとおり the infrastructure estimates here are not meant as forecasts for optimal infrastructure investments in the future for the region or individual countries. They are instead simply a guide on( 以下省略 ), ADB(2017), p39 ファイナンス 2017.10 25 連載

連載 海外ウォッチャ要予測額に関し シームレスアジアとも比較しつつ概観し 2016 年から2030 年にかけてアジア太平洋が直面するインフラ需要をより深く理解することを目的とする 2 2016 年から 2030 年のインフラ需要予測額 2017 年 2 月に発表され シームレスアジアに続くADBによるインフラ需要予測としてメディア等でも紹介された今次報告は シームレスアジアとは異なり 2 種類の予測額を提示している 一つ目は シームレスアジアに倣った算出手法によるものであるが 2009 年当時より精緻化されたデータ及びADBプロジェクトの経験や最新の文献に従った変数を用いた基本予測額 (baseline estimate) である 基本予測額は 対象地域 国における既存のインフラストックと 今後 インフラサービスの需要と供給に影響を与え得る主要な経済的及び人口的要素との関係に基づき算出されている 例えば 古くなったインフラストック 一人当たりGDP 人口密度 都市人口割合 GDPにおける農業及び産業セクター割合などが考慮されている 今次報告によれば 2016 年から2030 年の基本予測額は22 兆 5,510 億ドル ( 年平均 1 兆 5,030 億ドル ) に上り 同予測額は同期間のアジア太平洋 GDP 予測値の5.1% ーに相当する規模となっている ところで 2009 年のシームレスアジアは 2010 年から2020 年の11 年間のインフラ需要予測額を7 兆 9,917 億ドル ( 年平均約 7,300 億ドル ) *5 としており 今次報告の予測額と比べると 対象期間が異なるとはいえ 2016 年以降は年平均需要が2 倍超に増加するなど大幅な違いがある この増加要因に関し いくつかの理由が上げら れている まずシームレスアジアでは 調査の対象が32DMCであったのに対し 今次報告では調査の対象を全 45DMCに拡大している *6 追加された13DMCには 韓国 台湾 シンガポール 香港 ブルネイといった 経済発展状況に鑑み既にADBが支援を実施していない国 地域のインフラ需要予測も含まれる またシームレスアジアでは 2008 年価格に基づいて需要が試算されたが 今次報告は2015 年価格に基づいており 2008 年から2015 年の価格上昇分が予測額の差に反映されている そして2016 年から2030 年のアジア太平洋では シームレスアジアが対象とした期間よりもより一層の経済成長が予想されており それに伴う新たなインフラ需要が加わったとしている したがって 今次報告が示すインフラ需要予測額は 必ずしもシームレスアジアと同じ前提の下で算出されているわけではない点 留意する必要がある しかしながら 今次報告は シームレスアジアとの比較を容易にするため 2016 年から2030 年に予測されるインフラ需要のうちで シームレスアジアが対象とした32DMCのみ また2008 年価格で算定した予測額も提示している それによれば 2016 年から2030 年のインフラ需要予測額は17 兆 4,260 億ドル ( 年平均 1 兆 1,620 億ドル ) であり シームレスアジアがカバーした時期との比較では年平均で50% 以上増加していることが分かる いま一つの予測額は インフラ整備に伴うことが期待される気候変動の緩和と適応のためのコスト ( 温室効果ガス排出軽減 海面上昇や極端な気象現象への強靭性増強のための追加的コスト ) を基本予測額に上乗せした気候変動調整済み予測額 (climate-adjusted estimate) である 同予測額は シームレスアジアでは提示されておらず 今次報 *5) シームレスアジアでは 各国国内のインフラ需要予測額を積算した額 ($7,991,709 million 年平均 $730 billion) と 国境を跨ぐ地域協力案件 1077 件の需要を含めた額を提示している ($8,280 billion 年平均 $750 billion) *6) シームレスアジアで対象とした 32DMC に加え 今次報告にて新たに対象とされた 13DMC は次のとおり トルクメニスタン 香港 韓国 台湾 モルディブ ブルネイ シンガポール クック諸島 マーシャル ミクロネシア ナウル パラオ ツバル 26 ファイナンス 2017.10

海外ウォッチャー海外ウォッチャー 告の主な貢献の一つとされる 2016 年から 2030 年の気候変動調整済み予測額は 基本予測額の 16 % 増である 26 兆 1,660 億ドル ( 年平均 1 兆 7,440 億ドル ) に上り 同期間のアジア太平洋の GDP 予 測値の 5.9% となる 上乗せされる気候変動コスト 3 兆 6,150 億ドルの大半は 電力セクターにおける 温室効果ガス排出軽減コストとされる また気候 変動調整済み予測額は 今次報告の対象である電 力 (Power) *7 交通 運輸 (Transport) 通信 (Telecommunications) 水 衛生 (Water and Sanitation) の 4 セクターに限った予測額であり それら以外にも気候変動コストを伴うと想定され るセクター 例えば 灌漑 食糧安全保障 洪水 管理を含む災害リスク管理 海岸保護などに見込 まれるインフラ需要は含まれていない さらに 今次報告は アジア太平洋の経済成長 が低成長であった場合のシナリオ (2016 年から 2030 年のアジア太平洋の経済成長率 4.3%) と 高成長であった場合のシナリオ ( 同 6.3%) も示しているが 低成長の場合は24 兆 2,570 億ドル ( 年平均 1 兆 6,170 億ドル ) 高成長の場合は28 兆 1,750 億ドル ( 年平均 1 兆 8,780 億ドル ) と見積もられ ( いずれも気候変動調整済み予測額 ) 2016 年から2030 年までのインフラ需要予測額はその範囲内と想定される 3 地域及び国別のインフラ需要見通し 今次報告が対象とするADBの全 45DMCは 東は太平洋諸国 西はコーカサスまで及び 各地域及び各国 地域の経済規模 また経済社会発展の度合いは著しく多様であり 予想されるインフラ需要の規模にも大きな違いがある まず地域別のインフラ需要予測額を概観する 気候変動調整済み予測額 26 兆 1,660 億ドルの地域別内訳は 東アジア 16 兆 620 億ドル (61%) 南アジア6 兆 3,470 億ドル (24%) 東南アジア 3 兆 1,470 億ドル (12%) 中央アジア 5,650 億 FOREIGN WATCHER 図 1 2016-2030 年地域別の気候変動調整済み予測額 ( 地域 $billion %) 中央アジア 太平洋 46 0% 565 2% 東南アジア 3,147 12% 南アジア 6,347 24% 東アジア 16,062 62% 筆者作成ドル (2.2%) 太平洋 460 億ドル (0.1%) となっており *8 図 1のとおり東アジアの需要が際立っている 次いで割合の大きい南アジアを加える連と 実にインフラ需要予測額の86% が両地域に載集中している ( 後述のとおり 中国とインドが大半を占める ) とりわけ東アジアは 既存インフラストックのメンテナンス 整備のために巨大な投資を必要としている 基本予測額に上乗せされる気候変動調整済み予測額の年平均は2,410 億ドルだが そのうち1,520 億ドルが東アジア 特に中国における気候変動に配慮した発電所 送電及び配電施設にかかる需要として見積もられている 続いてDMC 別の需要予測に関し 今次報告には地域別の需要予測額の積算根拠となるような各 DMCの需要予測額 あるいはその割合に関する詳細な記述はないが 各地域でそれぞれ最大の割合を占める中国 インド インドネシアの3カ国については具体的な予測額の記述があるところ それに従い同 3カ国が占める割合を計算することができる それによれば 中国 15 兆 2,670 億ド *7) シームレスアジアでは Energy(electricity) 今次報告では Power と表記されている *8) 本調査では パキスタン及びアフガニスタンは南アジアに 東ティモールは太平洋に含まれる ファイナンス 2017.10 27

連載 海外ウォッチャ図 2 2016-2030 年国別の気候変動調整済み予測額 ( 国 $billion %) インドネシア 1,229 5% その他 4,518 17% インド 5,152 20% 中国 15,267 58% 筆者作成 ル ( 年平均 1 兆 180 億ドル 58%) インド5 兆 1,520 億ドル ( 年平均 3,430 億ドル 20%) インドネシア1 兆 2,290 億ドル ( 年平均 820 億ドル 4.7%) となっており ( いずれも気候変動調整済み予測額 ) 全インフラ需要予測額のうち 中国及びインドで78% それにインドネシアを加えた3カ国のみで 実に全需要の82.7% を占める ( 図 2) このようにアジア太平洋のインフラ需要予測といっても その分布には 地域 あるいは国に応じてかなりの濃淡があることが分かる ー各地域が示すインフラ需要予測額の対 GDP 比に関しては 予測額の規模が最も小さい太平洋が対 GDP 比では9.1% となり 最大値となっている 続いて南アジア8.8% 中央アジア7.8% 東南アジア5.7% 東アジア 5.2% となっている この傾向は インフラストックが大きい国のインフラ需要は既存インフラのメンテナンス 整備の需要割合が大きく対 GDP 比は低い一方で イン フラストック及び一人当たりGDPが低く今後の成長見込みが大きい国はインフラ需要の対 GDP 比が高くなると説明されている 後者の代表例は太平洋であり 同地域へのインフラ投資は相対的に小額であってもなお それら国々の経済に与えるインパクトは相対的に大きなものになるといえる シームレスアジアが対象とした32DMCにおける2008 年価格で算出された地域別の需要予測額との比較では ( 以下 2010 年から2020 年の需要 2016 年から2030 年の需要 で表記 ) 東アジア3,980 億ドル 6,490 億ドル (63% 増 ) 南アジア2,150 億ドル 3,400 億ドル (58% 増 ) 東南アジア1,000 億ドル 1,450 億ドル (45% 増 ) 中央アジア340 億ドル 260 億ドル (24% 減 ) *9 太平洋 10 億ドル 20 億ドル (100% 増 ) となっており 予測額の絶対的規模から判断すれば やはり東アジアの需要拡大が顕著であることが分かる 4 セクター別のインフラ需要見通し 次にセクター別の需要予測額及びその割合を概観する 今次報告は シームレスアジアと同じく 電力 交通 運輸 通信 水 衛生の4セクターを対象としている 2016 年から2030 年の気候変動調整済み予測額において最も大きなインフラ需要が予測されるセクターは電力であり 14 兆 7,310 億ドル (56.3%) とされる 次いで交通 運輸 8 兆 3,530 億ドル (31.9%) 通信 2 兆 2,790 億ドル (8.7%) 水 衛生 8,020 億ドル (3.1%) となっている *10 今次報告では 同 4 セクター内のサブセクターに関する詳細な記述はないものの シームレスアジアでは 交通 運輸 *9) シームレスアジアとの比較では 中央アジアは年平均の需要予測額が減少している (340 億ドル 260 億ドル ) 理由に関し 筆者が ADB の今次報告担当スタッフに照会したところ 2016 年 ~2030 年までの中央アジアの経済成長予測はシームレスアジアが対象とした 2009 年 ~2020 年期間より減少する見通しであること またシームレスアジアが実施した調査と今次報告が行った調査では 需要予測のベースとするデータが必ずしも同一のものでないことが理由ではないかとの説明があった *10) シームレスアジアでは 交通 運輸セクターのサブセクターの一つである道路が全需要予測額の 29.3% を占めていたが 今次報告ではサブセクターについての見積額の記述がないところ サブセクターレベルの需要予測の推移は不明である 28 ファイナンス 2017.10

海外ウォッチャーセクターは空港 / 港湾 / 鉄道 / 道路 通信セクターは携帯電話 / 固定回線 水 衛生セクターは水 / 衛生のサブセクターにそれぞれブレイクダウンした積算の記述があり ( 電力はサブセクターに分けられていない ) 今次報告が示すセクター別の需要予測額もそのカテゴリーに倣った積算の結果と考えられる 最大の割合を占める電力セクターに関し 今次報告は 温室効果ガス軽減のための需要増が見積もられ その割合が大きくなっていると説明している 基本予測額に上乗せされる気候変動コストは3 兆 6,150 億ドル ( 年平均 2,410 億ドル ) であるが 同コストのセクター別内訳は 電力 3 兆 420 億ドル 交通 運輸 5,570 億ドル 水 衛生 150 億ドルであり ( 通信はごくわずかであり数値化されていない ) 気候変動コストの84% が電力セクターの需要である なお電力セクターに次いで大きな需要が予測される交通 運輸セクターにおける気候変動コストに関し 今次報告は 温室効果ガス排出の少ない移動手段への転換 ( 自家用車から公共交通機関など ) を通じ大きく貢献し得るとしつつも 同転換はインフラ投資よりむしろ当該国の交通 運輸政策や適切な規制の導入によって取り組まれるべきものとしている 今次報告では 2016 年から2030 年までに予想される新規インフラ需要とメンテナンス 整備需要の比率を 基本予測額で4:3(57%:43 %) 気候変動調整済み予測額で3:2(60%: 40%) としている 2009 年にシームレスアジアが示した2010 年から2020 年における同比率は 68%:32% であったことを踏まえれば メンテナンス 整備需要が相対的に大きくなっていることが分かる 同比率の推移と同じように 今次報告は 将来のインフラ需要は 新規インフラ建設からメンテナンス 整備にその重点が移行してい FOREIGN WATCHER 海外ウォッチャーくとの見通しを示し 既に交通 運輸 通信 水 衛生セクターではメンテナンス 整備の需要が新規インフラ建設のそれを上回っているとしている 今後 各国 地域においてインフラ整備が進みインフラストックが増加していくに連れて より一層 メンテナンス 整備への投資需要の割合が大きくなっていくと予測される 5 おわりに以上のように 断片的ではあるものの Meeting Asia s Infrastructure Needs が示すアジア太平洋のインフラ需要予測を概観した シームレスアジアが扱った2010 年から2020 年の期間と比べ 今次報告が示した2016 年から2030 年のアジア太平洋のインフラ需要予測額は より多くの DMCを対象としていること 2008 年から2015 年への価格上昇コストが含まれることを考慮に入れてもなお 同地域のインフラ需要が引き続き存在し また気候変動コストを含めればなお一層増加する見通しであることが分かった さらにイン連フラ需要の特定の地域及び国への集中度合いにつ載いても示唆を得ることが出来た 本稿では紙面の関係から取り上げていないが 今次報告は インフラ需要予測額の他 現在の投資規模と今後必要な投資規模の差を示すインフラ投資ギャップ *11 公的資金の効率的な動員や PPPに代表される民間資金呼び込みを可能とする *12 ための施策などについても議論を展開しており 多くの示唆を得ることができよう ( なお 本稿で示した見解は筆者個人に帰属するものであり 所属先組織の公式見解を示すものではない ) プロフィール 塚本剛志 ( つかもとごうし ) 2001 年外務省入省 中南米局 国際協力局等を経て 2016 年 7 月から現職 ( 出向 ) *11) 今次報告では 2016 年から 2020 年の 25DMC( 統計データ入手可能な国 中国除く ) のインフラ需要予測額を 5,030 億ドルと見積もった上で 現在の同地域へのインフラ投資額を公的セクター 1,330 億ドル 民間セクター 630 億ドルとしている その差 ( 投資ギャップ ) を埋めるためには 公的セクターから 1,210 億ドル 民間セクターから 1,870 億ドルの投資が必要とし 民間資金動員の必要性を述べている (ADB(2017), p59) *12) 政府による資金調達を強化する革新的な方法として Land Value Capture による資金調達の可能性などが議論されている (ADB(2017), p60-62) ファイナンス 2017.10 29