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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし


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第一章自然免疫活性化物質による T 細胞機能の修飾に関する検討自然免疫は 感染の初期段階において重要な防御機構である 自然免疫を担当する細胞は パターン認識受容体 (Pattern Recognition Receptors:PRRs) を介して PAMPs の特異的な構造を検知する 機能性食品は

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

発表内容 1. 背景感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり その進行にはT 細胞が重要な役割を担っています リンパ球の一種であるT 細胞には 様々な種類の分化したT 細胞が存在しています その中で インターロイキン (IL)-17 産生性 T 細胞 (Th17 細胞 ) は免疫反応

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

平成24年7月x日

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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報道関係者各位

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

第6号-2/8)最前線(大矢)

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

研究成果報告書

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾


脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

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石黒和博 1) なお酪酸はヒストンのアセチル化を誘導する一方 で tubulin alpha のアセチル化を誘導しなかった ( 図 1) マウスの脾臓から取り出した primary T cells でも酢酸 による tubulin alpha のアセチル化を観察できた これまで tubulin al

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

本研究成果は 2015 年 7 月 21 日正午 ( 米国東部時間 ) 米国科学雑誌 Immunity で 公開されます 4. 発表内容 : < 研究の背景 > 現在世界で 3 億人以上いるとされる気管支喘息患者は年々増加の一途を辿っています ステロイドやβ-アドレナリン受容体選択的刺激薬の吸入によ

大麦食品推進協議会 技術部会報告 (公財)日本健康・栄養食品協会で評価された   大麦由来β-グルカンの機能性について

博士学位論文審査報告書

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

シトリン欠損症説明簡単患者用

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(1) ビフィズス菌および乳酸桿菌の菌数とうつ病リスク被験者の便を採取して ビフィズス菌と乳酸桿菌 ( ラクトバチルス ) の菌量を 16S rrna 遺伝子の逆転写定量的 PCR 法によって測定し比較しました 菌数の測定はそれぞれの検体が患者のものか健常者のものかについて測定者に知らされない状態で

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

< 研究の背景と経緯 > ヒトの腸管内には 500 種類以上 総計 100 兆個以上の腸内細菌が共生しており 腸管からの栄養吸収 腸の免疫 病原体の感染の予防などに働いています 一方 遺伝的要因 食餌などを含むライフスタイル 病原体の侵入などや種々の医療的処置などによって腸内細菌のバランスが乱れると

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

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第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

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研究成果報告書

細胞膜由来活性酸素による寿命延長メカニズムを世界で初めて発見 - 新規食品素材 PQQ がもたらす寿命延長のしくみを解明 名古屋大学大学院理学研究科 ( 研究科長 : 杉山直 ) 附属ニューロサイエンス研究セ ンターセンター長の森郁恵 ( もりいくえ ) 教授 笹倉寛之 ( ささくらひろゆき ) 研

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

Transcription:

2015 年 8 月 11 日 報道関係各位 東京理科大学東京大学 日常食べている食品がどのように免疫系に影響を与えているのか ~ 低分子 βグルカン摂取により炎症性腸疾患を予防 改善 ~ 昆布などの海藻食品の摂取で炎症性腸疾患や食物アレルギーなどを予防 治療できる可能性を示唆 東京理科大学生命医科学研究所ヒト疾患モデル研究センターの教授岩倉洋一郎 助教唐策 ( トウ サク )( 前東京大学医科学研究所 ) 東京大学大学院農学生命科学研究科の准教授角田茂等の研究グループはデクチン1( 注 -1) を欠損させたマウスは炎症を起こしにくく デクチン1 阻害作用を持つ低分子 βグルカンを摂取することにより炎症性腸疾患の発症を抑制できることを見出し その抑制メカニズムを解明しました これは昆布やわかめなどの海藻食品を摂取する事により 炎症性腸疾患や食物アレルギーなどを予防 治療できる可能性を示しています * 本研究は農林水産省の農食研究推進事業 科学技術振興機構の CREST 文部科学省の科学研究費補助金の補助を受けてなされたものです * 注 : 用語解説 (P-4) 背景 私達の腸管は常に病原体や食品に含まれる様々な物質に曝されており これらの中にはアレルギーを誘発したり 炎症を引き起こしたりする物質も含まれおり 免疫系はどのようにしてこのような有害な物質から身を守っているのか解明されていませんでした 先に当研究グループは デクチン1とよばれる細胞表面上の受容体が カンジダ菌など真菌の細胞壁に含まれるβグルカン ( 注 -2) を認識することによって 真菌感染防御に重要な役割を果たしていることを明らかにしました (Saijo et al., Nat. Immunol., 2007; Immunity, 2010) 今回の研究ではデクチン1は大腸の免疫担当細胞上に強く発現していることから 大腸に於けるデクチン1の機能について検討しました その結果 デクチン1を欠損させたマウスは炎症を起こしにくく また デクチン1 阻害作用を持つ低分子 βグルカンを摂取するこ

とにより炎症性腸疾患の発症を抑制できることを見出し その抑制メカニズムを解明しました 成果概要 βグルカンは 真菌の細胞壁の主な構成成分としてキノコや酵母などに大量に含まれています 古くから健康を増進する漢方薬として使われ 食品添加物としても利用されています しかし これまで生体でどのようにしてその機能が発揮されるのか解明されていませんでした 今回 唐助教らはβグルカンの受容体であるデクチン1の遺伝子欠損マウスを利用して 人の潰瘍性大腸炎のモデルであるデキストラン硫酸ナトリウム (DSS) 誘導大腸炎 および未分化 T 細胞誘導大腸炎モデルを用い デクチン1を欠損させると大腸炎に耐性となる事を見出しました これは デクチン1シグナルが大腸で抗菌蛋白質の分泌を促し 腸管内の乳酸桿菌の増殖を抑制するのに対し デクチン1シグナルが入らなくなると 乳酸桿菌の増殖抑制が解除され その結果増殖した特定の乳酸桿菌 (Lactobacillus murinus) によって炎症抑制性の T 細胞 ( 制御性 T 細胞 : Treg 注 -3) の分化が誘導されるためである事が分かりました この乳酸桿菌だけを無菌マウスに移入してやると このマウスでも Treg 細胞が増加し DSS 誘導大腸炎に耐性となる事や 未分化 T 細胞を L. murinus の増加したデクチン1 欠損マウスに移植すると Treg 細胞が増えてくる事から L. murinus が Treg 増加に重要な役割を果たしているものと考えられます また 人のクローン病患者では L. murinus と近縁の乳酸桿菌の腸内での数が少ない事も明らかとなりました さらに 海藻に含まれるβグルカンの一つであるラミナリンは通常の βグルカンに比べ分子量が小さく このため デクチン1を活性化せず むしろ酵母やきのこ由来の大きな分子量を持つβグルカンの結合を阻害する事が知られていますが マウスにラミナリンを食べさせると やはりデクチン1シグナルが阻害され L. murinus が増殖し Treg 細胞が増える事によって 腸管炎症が抑制されることがわかりました 今後の展望 この結果 βグルカンが腸内の細菌叢 ( マイクロフローラ注 -4) を変える事によって 腸管の免疫応答性を調節している事が明らかになり 我々が日常摂取している食品成分がどのように腸内の微生物叢に影響を与え それが免疫系や健康にどのような影響を与えるかについて 初めて詳細なメカニズムが明らかになりました また この結果は ラミナリンを多く含む昆布やわかめなどの海藻や短鎖 βグルカンを食品として摂取する事により 潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患 ( 注 -5) や食物アレルギーなどを予防 治療できる可能性を示しており 今後 人での検討を進める予定です

参考資料 図の説明 通常腸内では食物中のβグルカンによってデクチン1が活性化され 抗菌ペプチド ( 注 -6) が作られます このため 乳酸桿菌の1 種である Lactobacillus murinus の増殖は抑制されます ところが デクチン1を欠損させたり デクチン1の阻害剤であるラミナリンを摂取したりした場合は 抗菌ペプチドの産生が抑制され その結果 L. murinus の増殖抑制は解除されます L.murinus は炎症抑制性の Treg 細胞の分化を誘導することができるため このマウスではデキストラン硫酸ナトリウム (DSS) などで誘導した炎症が抑制されます 論文タイトル Inhibition of Dectin-1 signaling ameliorates colitis by inducing Lactobacillus-mediated regulatory T cell expansion in the intestine 著者 Ce Tang 1, 2, 3, Tomonori Kamiya 4, Yang Liu 2, 5, Motohiko Kadoki 1, 2, Shigeru Kakuta 2, 6, Kenshiro Oshima 7, Masahira Hattori 7, Kozue Takeshita 8, Takanori Kanai 8, Shinobu Saijo 2, 9, Naohito Ohno 10 1, 2, 3, 4, 7, 9*, and Yoichiro Iwakura 1, 2, ( 唐策 3, 神谷知憲 4 2,, 劉陽 5 1,, 角木基彦 2 2,, 角田茂 6, 大島健志朗 7, 服部正平 7, 竹下梢 8, 金井隆典 8 2,, 西城忍 9 10 1, 2, 3, 4, 7,9*, 大野尚仁 岩倉洋一郎 ) 1 東京理科大学生命医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター 2 東京大学医科学研究所システム疾患モデル研究センター 3 CREST 科学技術振興機構 4 東京大学大学院理学研究科生物化学専

攻 5 現所属 :Renji Hospital Clinical Stem Cell Research Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine, Republic of China 6 現所属 : 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 7 東京大学大学院新領域研究科情報生命科学専攻 8 慶応大学医学部内科学教室 9 千葉大学真菌医学研究センター 10 東京薬科大学薬学部 発表雑誌 Cell Host & Microbe 8 月 12 日号 用語解説 1. デクチン1: C 型レクチンとよばれる一群の膜結合蛋白質の仲間で 細胞外にある糖鎖認識領域でβグルカンを認識すると活性化シグナルを細胞内に伝え 活性酸素種を誘導して真菌を殺す他 IL-1βや TNF IL-17F などのサイトカインと呼ばれる蛋白質の発現を誘導することにより 好中球を遊走させたり抗菌ペプチドの発現を誘導させたりすることにより 真菌に対する感染防御に重要な役割を果たします 2.βグルカン : 多糖の一種で グルコースがβ1,3 結合で直鎖状につながったものに 途中でβ1,6 結合の分岐が見られます キノコや酵母などの細胞壁の構成成分の一つとなっており 分子量 50k 以上の巨大な分子となりますが 海藻に含まれるラミナリンは分子量 3k 以下の低分子のものを含むことが知られています 3.Treg: 制御性 T 細胞とも言い T 細胞の活性化を抑制したり IL-10 や TGF-βを分泌したりすることによって炎症反応やアレルギー応答を抑制する能力を持つ T 細胞のことです 4. 腸内細菌 : 腸内には数百種類 総計 100 兆個 (10 14 ) にも達する細菌が生息していると言われ 我々の健康に重要な影響を及ぼしています これらのものの中には我々に必須の栄養素を作り出してくれる様な有用な微生物や炎症を抑制する様な役割を果たす微生物がいる反面 毒素を出したりして細胞に傷害を与えるような病原体や炎症を促進させる様な機能を持つ微生物まで 非常に多様です これらの細菌の増殖は抗菌ペプチドや腸管に分泌された IgA 抗体によって制御されていると考えられています 5. 炎症性腸疾患 : 炎症性腸疾患 ( クローン病と潰瘍性大腸炎 ) は下痢や血便を伴う 主として消化管の原因不明の炎症性疾患です 我国では 40 年前にはほとんど患者は見られませんでしたが 現在では 17 万人を超え 米国では 140 万人の患者がいると言われています 厚生労働省の特定疾患に指定されており 予防 治療法の開発が強く求められています 6. 抗菌ペプチド : 腸管上皮細胞やパネート細胞などが分泌する蛋白質で 細菌の表面に接着することにより 細菌の動きを止めたり 細胞膜に穴をあけて細菌を殺したりする能力を持ちます S100A8 やαディフェンシン βディフェンシンなど多くの種類が知られており それぞれ特定の細菌群の増殖を阻害することが知られています

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