第 3 章 西洋思想 ニーチェ ( ドイツ ) ツァラトゥストラはかく語りき 悲劇の誕生 善悪の彼岸 キルケゴールと同様に 人々が個性的な本来の自己を失い 欺瞞的で退廃的な生き方をしていることを批判した しかしキルケゴールが 神の前に単独者として立つ ことにより本来の自己を回復する有神論 ( 宗教的 ) 実存主義を唱えたのに対し ニーチェは反キリスト者であるところに真の自己のあり方を見出した ( 無神論的実存主義 ) 1 能動的ニヒリズム (1) デカダンス ( 享楽的 退廃的な傾向 ) の蔓延 既存の価値観を全て否定 = ニヒリズム (2) いかにしてニヒリズム ( 虚無主義 ) を克服するか 度 無意味な人生の悲惨さを直視し 力への意志に従い新しい価値や目的を設定する態 (3) すべての生きとし生けるものは より強くなろうとする意志 ( 力への意志 ) を持 つ (4) ( 人生に目的を失って享楽や絶望に逃避する 受動的ニヒリズム を批判 ) (5) しかし キリスト教に基づく道徳は 力への意志 を悪として否定 抑圧してき た ( 欲望は悪である 人間はすべて平等である など弱者を正当化する道徳 ) 1
第 34 講 2 神は死んだ キルケゴールとは反対にキリスト教の伝統的な価値観を否定 (1) キリスト教は弱者の強者に対する怨念 ( ルサンチマン ) の宗教であるキリスト教の道徳は弱者が強者を妬み 奴隷が主人に復讐する奴隷道徳である (2) 永劫回帰世界は無意味 無目的なことの繰り返し ( しかし神に頼ってはならない ) (3) 運命愛それでも自分の運命を見つめ自己のものとして愛を持って受け入れる (4) 力への意志自己を強化して向上させようとする積極的肯定 (5) 超人伝統的価値観に反抗する ライオンの精神 ありのままの無垢な存在の世界に遊ぶ 子どもの精神 をもって自己自身を超えて力強く成長する主体的人間 すべての神々は死んだ 今や我々は超人が栄えんことを欲する 2
第 3 章 西洋思想 有神論的実存主義 神 超越者という絶対的存在と関わるこ とで自己の主体性を回復する 無神論的実存主義 あくまでも人間の立場に踏みとどまるこ とで主体的な実存の確立をめざす キルケゴール人は絶望を機に あれか これか を主体的に選択することで実存の三段階をのぼる 最終的には絶対的な神の前に単独者として立つことで主体的真理を得ることができる ニーチェ弱者の道徳であるキリスト教的な道徳 ( ルサンチマン ) に基づく価値を批判 永劫回帰を肯定的に受け入れることで新しい価値を創造する主体的な存在である超人となることができる ヤスパース死や苦しみなどを人間が越えられない限界状況とし 自己の有限性を自覚し 絶対的な超越者 ( 包括者 ) の存在に触れることで真の実存に目覚める ハイデッガー人間は日常に埋没したダス = マン ( ひと ) である 人間は死への存在であるので死を直視して自覚することで自分本来の生き方を確立することができる さらに実存的交わり ( 他者との交わり ) サルトル実存は本質に先立つとして 人間を自由な存在と位置づけた しかし各自の選択は全人類に対して責任を負うものであるから 積極的にアンガージュマン ( 社会 3
第 34 講 4
第 3 章 西洋思想 以下に示す文章について 1 2 3 4 に当てはまるものを それぞれ 選びなさい [2004 センター 追試験 ] 19 世紀のヨーロッパにおいて, 実存主義の先駆者とされる 1 や 2 らは, 人々が大衆化して, 不安や孤独感から逃れようとしつつあった当時の時代状況を批判していた 1 は, 当時の世俗的な風潮, 世俗化した宗教と戦いながら, 神の前に 3 として立つことを求めた また 2 は, 神は死んだ という宣言をもって, 伝統的な宗教に集う人々の在り方を批判し, 4 となって新たな価値を創造することを求めた 1 2 に関する選択肢 1 ヤスパース 2 ニーチェ 3 カミュ 4 キルケゴール 5 マルセル 6 サルトル 3 4 に関する選択肢 1 包括者 2 絶対者 3 単独者 4 異邦人 5 聖人 6 超人 5
第 34 講 についての記述として最も適当なものを, 次の1~4のうちから一つ選べ [2002 センター 本試験] 1 人間は, まず生存するために, ついで生きるために, いわば二度誕生し, 心身ともに独立した自己へと成長しなければならない 2 人間は, 意味もなく永遠に反復される人生を積極的に肯定することによって, 現在を真に生きることができる 3 人間は, 知性の能力を駆使して現実の状況における問題を解決することで, 状況に対応した自由を実現していくことができる 4 人間は, 無目的な意志を本質とする世界のなかで, 満たされぬ欲望に苦悩しつつ, 生きなければならない 6
第 3 章 西洋思想 ニーチェは 理性 と 身体 との関係を 次の文章のように捉えている これを読んで 彼の主張の説明として最も適当なものを 下の1~4のうちから一つ選べ [2010 センター 追試験] 身体は一つの大いなる理性である 私の兄弟よ 君が 精神 と呼ぶところの君の小さな理性もまた 君の身体の道具である 自我 と君は言い そしてこの言葉を誇りとしている だが より大いなるものは 君の身体であり 君の身体の大いなる理性である この大いなる理性は 自我を言わないで 自我を行う 感覚と精神とは道具ないしは玩具である それらの背後には さらに自己が横たわっている 自己は感覚の目で探り 精神の耳で聴く そしてまた自我の支配者である ( ニーチェ ツァラトゥストラはこう語った ) 1 根源的な自己としての身体が 自我を主張する精神としての理性を支配している 2 小さな理性としての精神と大いなる理性としての身体は 本来は同一のものである 3 理性と身体とは 自我の背後にある根源的な自己が操る精神と感覚とに対応している 4 理性と身体は どちらが根源的な自己として表層的な自我を支配できるかを争っている 以下の文章について 設問にそれぞれ答えなさい [2006 センター 本試験 改 ] 現代は, しばしばニヒリズムの時代だと言われるが, ニヒリズムとはそもそも何だろうか ラテン語で 無 を意味する ニヒル に由来するこの言葉は, 一般に, 我々個々人の人生や社会生活にとって重要と思われていた価値を無化し, 否定する立場, あるいはそうした価値の喪失状態を指しているものと考えられる 現代ヨーロッパ社会にニヒリズムの到来を予言し, この言葉を広く世間に認知させたのはニーチェであったが, 彼のニヒリズム概念は, プラトン主義およびキリスト教という西洋文 7
第 34 講 化の思想的根幹に関 ( かか ) わるものであった それらは,(a) 生成変化する現実世界を超えた所に永遠の理想的世界があると主張するが, ニーチェによれば, そうした理想的世界は, 結局我々の心理的欲求が描き出す幻影にすぎない そして, この事実が明白になれば, それまで人生に意味を与え, 社会生活を支えてきた価値は失われ, 究極のニヒリズムが訪れるというのである もっとも, ニヒリズムはなにも西洋社会に限ったことではない 洋の東西を問わず, いわゆる先進諸国の人々の多くが, 人生の意味や (b) 社会的理想を見失っていると言われるのは何故だろうか 一つの考え方として, そうした状態に至る原因を科学万能主義の世界的拡大に見ることもできるだろう 今日に至るまでの自然科学は,(c) 自然の原理を解明し, 人類の福祉を向上させてきたが, 人は何のために生きるのか, 人はいかに生きるべきか といった人生の意味や目的に関わる問題を直接の研究対象とはしてこなかった だから, 我々がそれを探し求めようとするときには, 哲学や宗教など科学以外のものにも耳を傾ける必要があった ところが, 目覚ましい発展によって科学への信頼が高じ, 科学がすべてを説明してくれるはずだ という科学万能主義の想定が徐々に行き渡るに従って, 哲学や宗教が社会のうちで占めていた地位は, 随分と低下してしまったように見える こうして, 科学以外の領域における人生の意味の探究は次第にないがしろにされ, そのことが現代のニヒリズムをもたらしているとも考えられるのである それでは, 我々はこのニヒリズムにどのように対応すべきだろうか ニーチェ自身は, A 超人の立場を説いた しかし, 我々はまず, ニーチェが言うように伝統的な形而上学や宗教の主張がすべて幻想にすぎないのかどうか, 慎重に検討してみる必要がある また, 自然科学の価値を十分認めつつ, それが我々の実存に対してもつ意味についてもよく考えてみなければならない 現代においても, 科学的な知とは別の知の重要性を説いたり, 科学技術文明を批判的に考察したりする思想家は少なくないのである 大切なのは, B ではないだろうか 問 1 下線部 (a) に関して, 現実世界の生成変化を捉えた論理を述べたものとして最も適当な ものを, 次の 1~4 のうちから一つ選べ 1 ロックの自然法 3 カントの仮言命法 2 デカルトの演繹法 4 ヘーゲルの弁証法 8
第 3 章 西洋思想 問 2 下線部 (b) の 社会的理想 を主題とする書物として適当でないものを, 次の 1~4 の うちから一つ選べ 1 民約訳解 3 共産党宣言 2 省察 4 日本改造法案大綱 問 3 下線部 (c) に関連する思想家としてフランシス=ベーコンがいるが, 彼の立場をあらわした 知は力なり という言葉の説明として最も適当なものを, 次の1~4のうちから一つ選べ 1 自然を人間の生命と繋 ( つな ) がる生きたものと見る知が, 人類に自然を支配する力を与える 2 種族のイドラなど, 四種のイドラに基づく知が, 人類に自然を支配する力を与える 3 自然に服従することによって初めて発見される知が, 人類に自然を支配する力を与える 4 確実な真理から推論によって必然的に導かれる知が, 人類に自然を支配する力を与える 問 4 文章中の A に入れるのに最も適当なものを, 次の1~4のうちから一つ選べ 1 意味や目的のない世界をあえて引き受け力強く生きる 2 意味や目的のない世界を離れて芸術的創造に癒 ( いや ) しを求める 3 意味や目的のない世界を破壊して理想的社会を建設する 4 意味や目的のない世界を傍観してつねに超然と生きる 9
第 34 講 問 5 本文の趣旨から考えて, 文章中の B に入れるのに最も適当なものを, 次の1~4 のうちから一つ選べ 1 伝統や迷信, 古い学説といったものに囚 ( とら ) われることなく, あらゆる事柄について合理的精神をもって考察すること 2 科学の成果を尊重し, 有効に利用しながらも, 倫理的問題については従来の形而上学や宗教の見解に従って生きること 3 現実についていたずらに悲観的な見方をするのではなく, つねに楽観的な態度で明るい未来社会の実現に向けて努力すること 4 伝統の全面的拒絶や科学万能主義といった行き過ぎを避け, 人生の意味や社会生活を支える理想について問いつづけていくこと 10