未承認薬のコンパッショネート使用とEAP

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要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

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審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

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本日の内容 1. 未承認対照薬等の取り扱い別添の 4.(3) ウ.( ア ) 2. 対象疾患の悪化等を評価項目にする試験別添の 7.(3) イ.( ア ) 3. 承認取得者以外の治験国内管理人が治験 依頼者となる場合別添の7.(3) オ. 4. 医師主導治験との情報共有別添の7.(3) カ. 5.

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本発表内容は, 一部演者の個人見解も含まれている可能性があります 演者はファイザー ( 株 ) の社員でありますが, 本演題は製薬協小児治験チームの立場で発表しており, 企業活動とは無関係なものであり, 利益相反もありません 2

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Transcription:

未承認薬のコンパッショネート使用と EAP 第 15 回抗悪性腫瘍薬開発フォーラム 2013.6.15( 土 ) 東京 東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学 津谷喜一郎寺岡章雄 ver.1.1 2013.6.16 1

Randomized Controlled Trial (RCT) population 1) sample 2) random sampling random allocation 1,000,000 1,000 R N D 500 500 statistical analysis interpretation reporting 1) population future patient (generalizability / extrapolation) 2) sample study subject trial participant Tsutani K, 2013

Randomized Controlled Trial (RCT) population random sampling sample random allocation 10,000 100 R N D 50 50 statistical analysis interpretation reporting 1) population future patient (generalizability / extrapolation) 2) sample study subject trial participant Tsutani K, 2013

Randomized Controlled Trial (RCT)? population sample random sampling? random allocation? 100 100 R N D 50 50 statistical analysis interpretation reporting (generalizability / extrapolation) 1) population future patient 2) sample study subject trial participant future patient current patient Tsutani K, 2013

clinical trial 臨床試験 clinical practice 診療 5

寺岡章雄, 津谷喜一郎. 未承認薬のコンパッショネート使用 - 日本において患者のアクセスの願いにどう応えるか -. 薬理と治療 2010; 38(2): 109-50 6

Innovative therapy とは Levine(1978) は intent-based model にしたがえば 診療 となり approval-based model にしたがえば 研究 となるものを innovative therapy (Table の C) と呼び 独自の扱いを求めた 後に innovative practice non-validated practice などとも称された この概念に基づいて 2000 年にヘルシンキ宣言第 32 項が付け加えられた この条項は現在も 2008 年版ヘルシンキ宣言第 35 項として明示されている intentbased model Table Levine による研究と診療の分類 研究 generalizable knowledge 診療 personal care approval-based model 研究 unapproved A: 研究 ( 非治療的研究 ) C: innovative therapy ( 治療的研究 ) 診療 approved B: * D: 診療 *: 金沢大学附属病院無断臨床試験訴訟での被告側の意見 (2003.2 判決 ) 7 津谷喜一郎. Approval の諸相 : リニアモデルからモザイクモデルへ. In: 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金. 地域医療基盤開発推進研究事業. 今後のEBM 普及促進に向けた診療ガイドラインの役割と可能性に関する研究. ( 研究代表者 : 中山健夫 ) 平成 22 年度総括 分担研究報告書 p.36-8.

8

ヘルシンキ宣言 ( ソウル修正, 2008) 第 35 項の日本医師会訳では意味が分かりづらい ある患者の治療において 証明された治療行為が存在しないか またはそれらが有効でなかった場合 患者または法律上の資格を有する代理人からのインフォームド コンセントがあり 専門家の助言を求めた後であれば 医師は まだ証明されていない治療行為を実施することができる ただし それは医師がその治療行為で生命を救う 健康を回復する または苦痛を緩和する望みがあると判断した場合に限られる 可能であれば その治療行為は 安全性と有効性を評価するために計画された研究の対象とされるべきである すべての例において 新しい情報は記録され 適切な場合には 一般に公開されるべきである 9

ヘルシンキ宣言 ( ソウル修正, 2008) 第 35 項の日本医師会訳では treatment と intervention が明確に区別されていないため 意味が分かりづらい ある患者の治療 (treatment) において 証明された治療行為 (intervention) が存在しないか またはそれらが有効でなかった場合 患者または法律上の資格を有する代理人からのインフォームド コンセントがあり 専門家の助言を求めた後であれば 医師は まだ証明されていない治療行為 (intervention) を実施することができる ただし それは医師がその治療行為 (it) で生命を救う 健康を回復する または苦痛を緩和する望みがあると判断した場合に限られる 可能であれば その治療行為 (intervention) は 安全性と有効性を評価するために計画された研究 (research) の対象とされるべきである すべての例において 新しい情報は記録され 適切な場合には 一般に公開されるべきである 10

ヘルシンキ宣言 ( ソウル修正, 2008) 第 35 項で治療 (treatment) と介入 (intervention) を区別した訳 ある患者の治療 (treatment) において 証明された介入 (intervention) が存在しないか またはそれらが有効でなかった場合 患者または法律上の資格を有する代理人からのインフォームド コンセントがあり 専門家の助言を求めた後であれば 医師は まだ証明されていない介入 (intervention) を実施することができる ただし それは医師がそれ (it) で生命を救う 健康を回復する または苦痛を緩和する望みがあると判断した場合に限られる 可能であれば その介入 (intervention) は 安全性と有効性を評価するために計画された研究 (research) の対象とされるべきである すべての例において 新しい情報は記録され 適切な場合には 一般に公開されるべきである 11

未承認薬のコンパッショネート使用 (CU) とは CU とは 命を脅かす疾患などの患者に 例外的に未承認薬のアクセスを可能とする公的制度 CU の名称はこの制度のもつ倫理的 例外的な本質をあらわしている 対象 : エイズ, がん, 希少疾患などに対する薬剤 12

Compassionate とは? 研究社. 英和大辞典第 6 版, 2002 1) 哀れみ深い, 情け深い, 同情ある, 2)( 主に英国用法で )< 手当 休暇など > ( 個人的不幸の理由で ) 情状を考慮して与えられる, 普通法規上ではできない, 特別の 2) の用法例として compassionate allowance 特別手当, 救助金, 遺族扶助料 compassionate leave 特別休暇, 恩情休暇,

CU 対象の属性 色のついた部分が CU の対象 ただし日本版 CU として想定されているのは F G: 日本の local drug H: ゲフィチニブ ( イレッサ ) のように日本が世界初承認の時期 A: 世界的に見捨てられた疾患 (neglected disease ) の薬 寺岡章雄, 津谷喜一郎. 日本で承認されていない薬を安全に使う - コンパッショネート使用制度. 日本評論社, 2011. p.134

欧州 日本 米国における未承認薬へのアクセスプログラム (ver. 1.0 臨床薬理 2013; 44(2): 149-51) ver. 2.0 2013.6.15 規制欧州日本米国 Clinical trial Clinical trial Expanded Access Programme (EAP) 治験追加的治験安全性確認試験 医師主導治験 臨床試験 Clinical trial 法的規制 Compassionate Use / Expanded Access (CU/EA) Nominative Cohort (-) Expanded Access to investigational drugs through three general programs identified as: 1) Individual patients, including for emergency use 2) Intermediate-size patient pop.(less than 100 patients) 3) Treatment IND or treatment protocols for large patient pop.(greater than 100 patients) 当局内規 治験薬の継続提供 治験外提供 なし 個人輸入 1) 太線の枠内は GCP 遵守 (compliance) が必要なもの 2) 日本での治験以外の臨床試験は 臨床研究に関する倫理指針 (2008) 遵守 ( 現在 改訂作業中 ) Tsutani K, 2013

欧州 日本 米国における未承認薬へのアクセスプログラム ver.1.0 津谷喜一郎, 磯部哲. 日本版コンパッショネート使用制度の創設を目指して : 序文. 臨床薬理 2013; 44(2): 149-51 訂正. 臨床薬理 2013; 44(3): 109E 16

海外における CU 米国 エイズの大流行を受けて 1987 年に研究用薬の治療使用 (Treatment IND) を法制化 未承認薬の治療 診断への拡大アクセス (Expanded Access) IND 制度の適用, IRB 審議, GCP 準拠を求めている 国内開発薬の治療使用を基本とした制度で開発企業が未承認薬を提供 ( 企業の承認が前提 ) 企業が未承認薬を有償にする場合は FDA の承認が必要 FDA はその際臨床試験計画の提出を求め, 有償とすることが臨床試験実施を阻害しないことを確認 17

海外における CU 欧州 EU 法体系上位のRegulation ( 規則 ) において compassionate use の名称でCUを規定 医薬品承認の中央化とは異なり, CUでは加盟各国に CUの運営をゆだねる形で, 各国のCUはかなり多様 個別患者のCUは加盟 27か国のすべてに存在 患者集団 ( コホート ) のCUは10か国程度に存在 保険償還を含め 患者負担がないところが多い 18

日本における未承認薬の公的供給の経験 日本には公的な CU がまだ存在しないが, 限られた領域では未承認薬の公的供給の経験がある 1. 1980 - 熱帯病治療薬厚労省研究班が供給 1) 2. 1981-2005 ハンセン病治療薬 ( 歴史的事象 ) 1) 3. 1996 - エイズ治療薬厚労省研究班が供給 1) 4. 2005- 追加的治験 安全性確認試験の形での供給 2) * 追加的治験は長期投与試験 ( 長期投与した場合の安全性評価のための試験 ) でカバーされないケースに対し限定的に実施 * 安全性確認試験 ( 承認後の使用実態を想定し前倒し ) 5. 2008- 生活保護医療補助で供給 6. 2008- 保険外併用療養の 評価療養 で供給 1) 寺岡章雄, 津谷喜一郎. 日本で承認されていない薬を安全に使う - 今パッショネート使用制度. 日本評論社, 2011 2) 第 6 回有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会. 2007.4.19 19

CU 導入, 新たなアクセス制度創設をめぐる日本でのこれまでの動き 2007.7 厚労省の 有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会 が CU の検討を求める提言 2007-2008 厚労省が英米独仏の CU の調査を医療経済研究機構に委託未承認使用についての実態調査を実施 2010.4 厚労省の 薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会 が CU の構築を提言. 1) 患者の要望, 2) 患者の安全確保, 3) 臨床試験の実施を妨げない, - の 3 つの過不足のないバランス保持が必要 と指摘. これができるのは国のみ 2011.12 厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会のとりまとめが, CU について さらに丁寧な議論が必要 とした 20

CU の本質 CU の本質とレギュレーション 研究段階にある未承認薬を治療目的に使用 臨床試験 (clinical trial) と診療 (clinical practice) の境界領域 CU のレギュレーション 各国の CU 制度は, すみやかな副作用報告の必要性ではほぼ共通するものの, 患者のセーフガード, 症例記録, モニターの扱いでは差異がある 米国の CU(Expanded Access) は, IND 制度の適用, IRB 審議, GCP 準拠を求めている 欧州などの CU は, 比較的簡単な独自の規則を定め, 先にあげた米国が求めているものはそのほとんどを求めていない 2013 年 5 月の米国のガイダンス案は full IRB 審議を求めることが患者からのアクセスを阻害する可能性について述べ, 他の倫理的観点からの選択肢の必要性について述べている

CU に特化した独自の制度がある意義 1. 未承認薬のアクセスに特化した制度があることは患者にとってわかりやすい 生死にもかかわることで, 制度やその中で発信される情報がわかりやすいことは安心につながる 2. 医薬品の開発は長い期間が必要である 承認を待てない代替薬のない患者が有望な新薬に例外的にアクセスできる制度は, 医薬品にとって基本となる重要な制度 3. CU の創設を通じて, 1) 患者の未承認薬への例外的アクセス, 2) 医薬品を承認する条件 時期, 3) 市販後監視, - という継続して関連する 3 つの課題を整理し, 一環した制度体系として機能せられる 22

薬理と治療 2010; 38(2): 109-50 free access 23

日本評論社, 2011 勁草書房, 2011 24

ご清聴ありがとうございました 25