5-(2)-7 イベント時における高濃度窒素流入水への対応について 東部第一下水道事務所有明水再生センター高橋昌史 ( 現森ヶ崎水再生センター ) 丸吉秀次小林克巳 ( 現東部第一下水道事務所砂町水再生センター ) 1. 有明水再生センターの特徴有明水再生センター ( 以下 当水再生センター という ) は 砂町処理区の南西端に位置し 臨海副都心地区の汚水を処理している 当水再生センター処理区域の概要を図 1 に示す 潮風公園 ( 等身大ガンダム公開 ) フジテレビ本社 有明水再生センター フジテレビ ( お台場合衆国 ) Venus Fort ( アウトレット ) 東京ビッグサイト 図 1 有明水再生センターの処理区域 汚水は A2O 法 - 生物膜ろ過処理した後 東京湾へ放流している また 高度処理水の一部は オゾン処理を施し 再生水として臨海副都心地区へ供給している 当水再生センターの処理フローを図 2 に示す また 当水再生センター流入水および放流水の水処理状況 放流水の規制基準値を表 1 に示す -297-
流入 沈砂池 汚水調整池 硝化液循環 第一沈殿池 生物反応槽 嫌気槽無酸素槽好気槽 第二沈殿池 第一沈殿池引抜汚泥 返送汚泥 放流 塩素接触槽 再生水設備へ 生物膜ろ過池 図 2 有明水再生センターの処理フロー 表 1 有明水再生センターの処理状況及び放流水質の規制基準値 放流水の規制基準値放流水の流入水放流水水質汚濁防止法環境確保条例自主管理値水量 [m 3 / 日 ] 13,5 1,38 - - - COD [mg/l] 88 9 16( 日間平均 12) 15 13 全窒素 [mg/l] 39.4 11.6 12( 日間平均 6) 2 15 全リン [mg/l] 4..3 16( 日間平均 8) 1.7 流入水 放流水の水量及び水質は平成 2 年度の平均値 当水再生センターは 分流式であるため 雨水による流入水量の増加は比較的少ない 処理区域内各ポンプ所から圧送された流入水の一部を汚水調整池で流量調整し 生物反応槽流入水量をほぼ一定にして 水処理の安定化を図っていることが特徴である また 処理水の一部を再生水として供給しているため 流入水量と放流水量の差が大きい 通常 A2O 法の処理施設では 硝化液循環を生物反応槽流入水量に対する水量比( 循環率 ) で制御している 当水再生センターの硝化液循環は 循環率制御ではなく 循環量一定で制御している これは 生物反応槽内の水量変動を小さくするためであり 窒素除去ばかりでなく リン除去にも効果を上げている 通常時の硝化液循環量は省エネルギーを考慮して 6~7m 3 / 時 ( 流入水量に対し約 1%) に設定している 当水再生センターの処理施設における窒素除去率は流入水に対して 7% 程度であり 流入水中の全窒素濃度が 5mg/L を超えると 放流水中の全窒素濃度が自主管理値の 15mg/L を遵守できなくなる恐れがある 流入水中の全窒素濃度が高い場合には 硝化液循環量を -298-
全窒素 [mg/l] 全リン [mg/l] 増加させて 脱窒を促し 処理水中の全窒素濃度の上昇を防ぐことにしている 当水再生センターの処理区域内には フジテレビ本社や東京ビッグサイトをはじめ多くの商業施設や行楽施設があり 観光客等の多い時期には流入水中の窒素濃度が上昇し 通常期とは異なった水質になる 例年 お盆と年末の 2 回 東京ビッグサイトで毎日 2 万人以上もの来場者がある大イベントが開催され 当水再生センターでは その対応に追われている 今回は 夏休み期間中の平成 21 年 8 月 14 日 ~ 16 日および年末の平成 21 年 12 月 29 日 ~ 31 日に東京ビッグサイトで開催されたイベント時における高濃度窒素流入水への対応について報告する 2. 平成 21 年 8 月の処理対応について 2.1 平成 21 年 8 月のイベント夏休み期間中である 7 月下旬より 8 月末までフジテレビ本社及びその周辺地区で お台場合衆国 が 潮風公園では 等身大ガンダム公開 と 大きなイベントが 2 件開催されていた また 8 月 14 日 ~16 日の 3 日間 東京ビッグサイトでは コミックマーケット を開催していた 平成 21 年 8 月のコミックマーケット来場者数は 3 日間で約 62 万人であった 通常 東京ビッグサイトのイベント来場者数は最大でも 1 日約 1 万人程度であり コミックマーケットは 他のイベントの 2 倍以上の来場者である 2.2 平成 21 年 8 月の水質平成 21 年 8 月における水質を図 3 に示す 流入水中の全窒素 全リンはほぼ同様の挙動を示していた 放流水中の全窒素濃度は流入水中の全窒素と同様の挙動を示していたが 放流水中の全リン濃度は.2mg/L 程度とほぼ一定であった 6 6. 5 5. 4 4. 3 3. 2 2. 1 1. 8/1 8/6 8/11 8/16 8/21 8/26 8/31. T-N: 流入水 T-N: 放流水 T-P: 流入水 T-P: 放流水 図 3 平成 21 年 8 月の水質 ( 全窒素 全リン ) -299-
8 月 14 日 ~ 17 日頃 流入水中の全窒表 5 有明南その 1 ポンプ所の水質測定結果 素濃度が 5mg/L 以上となった 8 月初 旬から月末まで お台場合衆国やガンダ ム等の大きなイベントが開かれていたに もかかわらず コミックマーケット開催 期間以外の流入水中全窒素濃度は 3~ 45mg/L 程度であった 東京ビッグサイト内にある有明南その 1 ポンプ所 ( P5) の水質測定結果を表 2 に示す 当水再生センター流入水質と比較して 平 成 2 年度平均値でも有明南その 1 ポンプ所 ( P5) の全窒素濃度は高い 特に イベント 開催の影響が現れる 8 月 14 日午後の有明南その 1 ポンプ所 ( P5) の全窒素濃度は 96.4mg/L となり 当水再生センター流入水と比較して極めて高くなっていた そのため 8 月 14 日 ~ 17 日頃の流入水中全窒素濃度の上昇は 東京ビッグサイトのイベント開催による影響が 大きいと思われる 採水日時 8 月 14 日 9: 8 月 14 日 14:4 平成 2 年度平均 全窒素 アンモニア性窒素 [mg/l] [mg/l] 67. 53.5 96.4 67.1 72.5 7.3 平成 21 年 8 月及び東京ビッグサイトのイベント期間中における処理状況を表 3 に示す 水量 COD 全リン濃度は イベント期間中でも月平均値とほぼ同じであった 一方 全 窒素濃度だけは 東京ビッグサイトのイベント期間中 高濃度になる傾向があった 表 3 夏季イベント期間中の水処理状況 平成 21 年 8 月平均 イベント 水量 COD 全窒素全リン 流入水放流水放流水流入水放流水流入水放流水 [m 3 / 日 ] [m 3 / 日 ] [mg/l] [mg/l] [mg/l] [mg/l] [mg/l] 16,43 12,54 8.8 39.4 12.3 3.8.24 8 月 14 日 19,48 14,65 8.6 41.8 12.7 4.1.2 8 月 15 日 18,37 13,96 8.8 44.9 13.9 4.1.22 8 月 16 日 16,9 12,6 9. 5.8 15.2 4.8.25 COD 全窒素 全リンは汚濁負荷量計 (UV 計 T-N 計 T-P 計 ) による測定値 2.3 夏季イベント対応について東京ビッグサイトのイベント期間中における全窒素濃度と硝化液循環量の推移を図 4 に示す イベント初日の 8 月 14 日夜から流入水中の全窒素濃度が上昇し 延べ 36 時間にわたって 5mg/L 以上となり その最大値は 6.4mg/L であった 当水再生センターでは 生物反応槽出口において完全硝化しているため 放流水中の窒素濃度を減少させるためには硝化液循環による脱窒を促進させる必要がある そこで 流入水中の全窒素濃度が高濃度になった場合 硝化液循環量を順次増加させ 最大 99m 3 / 時の循環量で対応した イベント開催期間中 延べ 28 時間にわたって放流水中の全窒素濃度が 15mg/L を超過した しかし このような対応をとった結果 放流水中の全窒素濃度の最大値は 17.2mg/L であり 環境確保条例に定める全窒素濃度 2mg/L を超過することはなかった -3-
8/13 8/14 8/15 8/16 8/17 8/18 8/19 全窒素 [mg/l] 硝化液循環量 [m3/ 時 ] 7 6 5 硝化液循環量 T-N: 流入水 T-N: 放流水 14 12 1 4 8 3 2 自主管理値 ( 全窒素 15mg/L) 6 4 1 2 コミックマーケット 図 4 夏季イベント期間前後における水処理状況 ( 8/13~ 8/19) 3. 平成 21 年 12 月 ~ 1 月の処理対応について 3.1 平成 21 年 12 月 ~ 1 月のイベント年末の 12 月 29 日 ~31 日の 3 日間 東京ビッグサイトで コミックマーケット が開かれた 平成 21 年 12 月のコミックマーケット来場者数は 3 日間で約 64 万人であった また 12 月中旬に近隣の商業施設 ( Venus Fort) が改装オープンし ここへ来た観光客も多かった 更に 12 月 31 日 ~1 月 1 日は フジテレビ本社をはじめ臨海副都心地区内の各所で年越しのイベントが開催されていた 3.2 平成 21 年 12 月 ~ 1 月の水質平成 21 年 12 月 ~ 平成 22 年 1 月における水質を図 5 に示す 全窒素 全リンの挙動は 8 月とほぼ同じであったが 東京ビッグサイトでイベントが開催された前後の 12 月 3 日 ~ 1 月 2 日にかけて流入水中の全窒素濃度が 5mg/L 以上となっていた 東京ビッグサイトでのイベント終了後も流入水中の全窒素濃度が高かったのは 近隣商業施設や行楽施設等へ多数の観光客が来場していたためと考えられる 平成 21 年 12 月及び東京ビッグサイトのイベント期間中における処理状況を表 4 に示す 夏季と同様 イベント期間中は 全窒素濃度が高濃度になる傾向にあった 一方 水量やその他の水質は 12 月の月平均値とほぼ同じであった -31-
全窒素 [mg/l] 全リン [mg/l] 6 6. 5 5. 4 4. 3 3. 2 2. 1 1. 12/15 12/2 12/25 12/3 1/4 1/9 1/14. T-N: 流入水 T-N: 放流水 T-P: 流入水 T-P: 放流水 図 5 平成 21 年 12 月 ~ 平成 22 年 1 月の水質 ( 全窒素 全リン ) 表 4 冬季イベント期間中の水処理状況 平成 21 年 12 月平均 イベント 水量 COD 全窒素 全リン 流入水 放流水 放流水 流入水 放流水 流入水 放流水 [m 3 / 日 ] [m 3 / 日 ] [mg/l] [mg/l] [mg/l] [mg/l] [mg/l] 13,53 1,26 8.6 39.6 11.8 3.9.16 12 月 29 日 15,13 11,64 8.3 4.9 1.3 3.8.16 12 月 3 日 14,54 11,6 8.4 53.3 12.5 4.7.15 12 月 31 日 14,2 1,2 8.6 54.6 16.3 4.7.15 COD 全窒素 全リンは汚濁負荷量計 (UV 計 T-N 計 T-P 計 ) による測定値 3.3 冬季イベント対応について東京ビッグサイトのイベント期間中における全窒素濃度と硝化液循環量の推移を図 6 に示す イベント初日の 12 月 29 日夜から流入水中の全窒素濃度が上昇し 延べ 57 時間にわたって 5mg/L 以上となり その最大値 61.4mg/L であった 流入水中全窒素濃度に対応して 硝化液循環量を 99m 3 / 時まで増加させたが 放流水中の全窒素濃度が 15mg/L 以下に下がらなかった そこで 硝化液循環量を 12m 3 / 時まで増加させるとともに 硝化液を脱窒させる無酸素槽の容量を増加させるため嫌気槽中間にも硝化液を注入することにした ( 図 7 参照 ) 嫌気槽 無酸素槽への硝化液循環注入量は各 6 m 3 / 時である -32-
12/28 12/29 12/3 12/31 1/1 1/2 1/3 全窒素 [mg/l] 硝化液循環量 [m3/ 時 ] 7 6 硝化液循環量 T-N: 流入水 14 12 5 T-N: 放流水 1 4 8 3 2 自主管理値 ( 全窒素 15mg/L) 6 4 1 2 コミックマーケット 図 6 冬季イベント期間前後における水処理状況 ( 12/28~ 1/3) 流入 沈砂池 汚水調整池 硝化液循環を嫌気槽中間へ追加注入 硝化液循環 第一沈殿池 生物反応槽 嫌気槽無酸素槽好気槽 第二沈殿池 第一沈殿池引抜汚泥 返送汚泥 放流 塩素接触槽 再生水設備へ 生物膜ろ過池 図 7 有明水再生センターの処理フロー ( 冬季イベント時 ) 硝化液循環を嫌気槽中間へ追加注入した結果 脱窒効率が高まり放流水中の全窒素濃度が 15mg/L 以下となった その後 流入水中全窒素濃度の低下とともに通常の運転状態へ戻した 年末年始期間中において 自主管理値である 15mg/L を超過したのは延べ 35 時間であった しかし 放流水中全窒素濃度の最大値は 16.8mg/L であり 環境確保条例に -33-
定める全窒素濃度 2mg/L を超過することはなかった なお 嫌気槽へ硝化液循環を注入したことによるリン処理への悪影響はなかった 当水再生センターでは これまでの高濃度窒素流入水への対応をもとに運転対応マニュアルを作成し 運転管理に活用している 4. 今後の課題当水再生センターでは 東京ビッグサイトのイベント開催予定の情報を入手し 水処理施設の運転管理に活用している しかし 近隣にはフジテレビ本社や Venus Fort 等 多数の商業施設 行楽施設があり これらの施設のイベント開催予定や予想来場者数等に関する情報を入手していない 当水再生センターの流入水質の変動は 処理区域内にある商業施設 行楽施設等へ流入する人口に比例して変化しており 安定した水処理を進める上で 各施設におけるイベント開催予定や予想来場者数等の情報を入手する必要がある また 冬季イベント時の対応で実施した 嫌気槽中間と無酸素槽入口の両方へ硝化液循環を注入した場合の水処理への影響について 調査を継続する必要がある -34-