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特集 さし木技術の進展と将来展望 さし木増殖と苗の育成 - 少花粉ヒノキ 無花粉スギ 抵抗性マツの研究事例 - 袴田哲司 *,1 はじめに静岡県における林業用種苗の生産は 2014 年に約 82 万本であり スギ ヒノキ クロマツの生産量が多くの割合を占め 一部広葉樹の苗も生産している スギのさし木苗を生産していた時期もあったが 現在ではほとんどが実生苗となっている しかし さし木苗による造林が主体となっている九州地方には 静岡県よりも林業用種苗の生産量や木材生産額の多い県があり さし木苗の生産と造林のポテンシャルは大きいものと考えられる また 大きな社会問題となっている花粉症の林業的側面からの対策は全国的な課題となっているが スギやヒノキの花粉症対策品種で構成された採種園では園外花粉との交配が心配され ヒノキではジベレリンによる着花誘導の難しさも指摘されており 花粉が少ない特性を引き継ぐことのできるさし木増殖の可能性についても検証する必要がある 一方 依然として甚大な被害をもたらしているマツ材線虫病の対策の一つとして 抵抗性クロマツの植栽が全国各地で進められている 東日本大震災以降 抵抗性クロマツ苗の需要が高まり マツノザイセンチュウの接種検定で生存した抵抗性実生苗だけでは需要を満たすことができない中で 抵抗性が確認された個体を母樹としてさし木苗を増殖する方法が試みられるようになり 抵抗性苗の新たな生産方法として期待されている さし木技術については これまでにも多くの研究や技術改良が行われており 育成されたさし木苗によるクローン林業が特定の地域で行われてきた 近年は 森林に求められる機能が多様化しているため 環境保全も含めた林業の再生を目指していく中で 親の形質を引き継ぎ均一性が高いというさし木のメリットを生かした新しい技術展開も必要になってくると予想される そのため静岡県では スギとヒノキでは優良な花粉症対策品種を クロマツに関しては抵抗性品種を対象として 技術改良や優良系統の選抜を進めてきた 無花粉スギのさし木静岡県では スギの花粉症対策として関東育種基本区で選定した 8 品種に 県で選定した 7 品種を加えて花粉の少ない品種とし 県内 2 ヶ所の育種場にミニチュア採種園を造成した この採種園では 2011 年度から種子生産が始まり 2014 年春からは造林地への苗木植栽が進められている 一方 雄性不稔遺伝子を保有する静岡県産精英樹が明らかになったため ( 斎藤 寺西 2014) 農林水産研究高度化事業 スギ雄花形成の機構解明と抑制技術の高度化に関する研究 (2006 ~ 2008 年度 ) において 富山県 神奈川県 東京都とともに 花粉症対策に極めて有効な雄性不稔スギ ( 無花粉スギ ) の開発を進めた この事業の中では 静岡県産精英樹大井 7 号 (Aa) と神奈川県産精英樹中 4 号 (Aa) の交配によって雄性不稔個体を作出し これ以外に神奈川県産精英樹田原 1 号と大井 7 号を交配した雄性不稔個体 ( 神奈川県から譲渡 ) 富山県の不稔系統と東京都産精英樹の F 1 に大井 7 号を交配して得られた雄性不稔個体 ( 東京都から譲渡 ) で採穂園を造成した ( 写真 1 0.06 ha 198 本 2014 年 3 月 25 日指定 ) このうち大井 7 号と中 4 号の雄性不稔個体を対象に 母樹とさし木クローン苗の調査を行い 初期成長や若齢段階での材質に優れる 23 クローンを一次選抜した 23 クローンについて 3 成長期までの調査を行い 相対的な評価を行った結果 偏差値 55 以上であったものが 樹高で 4 クローン 胸高直径で 5 クローン 立木ヤング率で 6 クローンであった * E-mail: tetsuji1_hakamata@pref.shizuoka.lg.jp 1 はかまたてつじ静岡県農林技術研究所森林 林業研究センター 197

写真 1 無花粉スギ採穂園少花粉ヒノキのさし木静岡県の民有林では スギ林の面積 (102,304 ha) よりもヒノキ林面積 (123,006 ha) が大きいことから ヒノキの花粉症対策も重要である そのため 静岡県産精英樹から 4 クローンを少花粉系統として選抜した ( 山本ら 2005) そのうちの 2 クローンは関東育種基本区の花粉の少ない品種となっている ( 河崎 2009) これらとともに 県外産の品種も含めた花粉の少ないヒノキの採種園の造成は 2013 年度から始まっている しかし 少花粉ではないヒノキから飛散する園外花粉との交配や ジベレリンによる着花誘導がスギよりも難しいことなど 採種園形式が十分に機能しないことも懸念されている そのため 農林水産業 食品産業科学技術研究推進事業 花粉症対策ヒノキ スギ品種の普及拡大技術開発と雄性不稔品種開発 (2010 ~ 2013 年 ) で 花粉の少ない性質を母樹からそのまま引き継ぐことのできるさし木増殖の研究にも取り組んだ ( 齊藤ら 2011) 花粉の少ないヒノキ品種がさし木増殖に適するかを 明らかにするため 福島県 埼玉県 岐阜県とともに 関東育種基本区で選定されている 17 品種について発根率を調べ 指数による評価基準を設定した上で ( 表 1 袴田ら 2012a) 発根量の評価も行った さし木品種のナンゴウヒを上回る発根能力を有する品種はなかったものの 好条件で育成すれば すべての品種で事業用に望ましいとされる発根率 71%( 戸田 藤本 1983) を超え 特に長野県産精英樹上松 10 号 静岡県産精英樹富士 6 号などは 発根量の多い個体の割合が 60% 以上と高かった さし床を加温することにより クロマツやヒノキの発根率が向上する事例がある ( 森ら 2004; 塩川 1996) これを応用し 富士 6 号を育苗箱内の用土に 12 月と 1 月にさし付けした後 電熱マット上に置き さし床を加温する試験を行った ( 袴田ら 2012b) 12 月さしの試験では 3 月末までの加温区のさし床温度は平均 17.7 であるのに対し 無加温区では平均 7.8 であった 1 月さしの試験では 加温区で平均 15.9 無加温区で平均 7.7 であった これらの試験において 加温区の発根率は 24 ~ 78% で 無加温区の 0 ~ 6% を大きく上回り さし床の加温効果が大きいことが確認された この試験では 加温区の温度は平均で 15 以上であったが光熱費を抑える観点からは 冬期のさし木において どの程度のさし床温度が発根率の向上につながるかを詳細に調べることも必要である 針葉樹のさし木では さし穂のサイズが発根性に影響することが知られている そのため 富士 6 号または岐阜県産の花粉が少ない精英樹益田 5 号を供試し 5 ~ 20 cm の範囲でさし穂の長さを検討した その結果 両品種ともに長さ 20 cm のさし穂で発根率や発根量が大きかった 富士 6 号では 15 cm のさし穂は 20 cm のさし穂よりも発根率や発根量が大幅に低下したが 益田 5 号は 15 cm でも 20 cm のさし穂よりもやや劣る程度であった 長さ 10 cm 以下のさし穂は発根率が低かった 高知県産精英樹では 35 cm や 45 cm のさし穂では発根率が 表 1 さし木発根量の指数基準指数発根量 0 発根なし 1 1 次根が 1 ~ 2 本程度発根しているが,2 次根はほぼない 2 1 次根が 3 ~ 4 本程度発根し,2 次根が少し発根 3 1 次根が 5 ~ 6 本程度発根し,2 次根が発根 4 1 次根が 7 本程度以上発根し,2 次根が全体的に多数発根袴田ら (2012) を改変 198

低下している ( 種田ら 1994) さし穂のサイズは母樹から得られる穂数にも影響し 大きいさし穂は本数の確保が難しいこともあるため 以上の結果から判断して通常のさし木では 20 cm 前後の穂長が適切であると考えられた さし穂基部の切り返しは 物質の移行や代謝活性を活発にし 水分吸収を高めると考えられており ( 森下 大山 1972) 樹木のさし木では発根促進や活着の安定を図る目的で一般的に行われている しかし ヒノキではその効果が明らかでなく 工程の必要性を検証する必要がある そのため 富士 6 号と千葉県産の花粉の少ない品種である鬼泪 4 号を供試して 返し切り区と水平切り区を設定して発根性を調査した ( 袴田ら 2014) 2 クローンともに発根率 発根量指数別の個体数割合 苗長 基部直径に有意差は認められなかった 軸に対して水平にさし穂を切り取る水平切りよりも 返し切りはさらに表と裏の 2 回の切削作業が必要となる しかし 根量に違いが認められず 発根苗のサイズにも差がなかったため ヒノキのさし穂づくりにおいて 効率性の観点から敢えて手間のかかる返し切りを行う必要はないと考えられた 一般的なさし木では 発根前のさし穂の腐敗を防ぐため 肥料分の少ない基材をさし床として用いることが多い しかし 発根後は植物体として養分を吸収できる体制が整うため 肥料を与えることで苗の成長促進が期待できる ヒノキのさし木では適する施肥の方法について明確な結論に至っていないため 富士 6 号を用いて施肥時期を検討した ( 袴田ら 2014) 無施肥の状態で 4 月にさし付けし 同月 6 月 8 月に掘り取った場合 それぞれの発根率は 0% 28.6% 88.1% であった このような時期別の発根程度を確認したうえで ( 写真 2) 無施区とともに 4 月 6 月 8 月の施肥区を設定した なお さし木養生中の施肥では さし穂が肥料負けしやすいとの指摘もあるため ( 森下 大山 1972) 緩効性の肥料 ( 窒素 14% リン酸 12% カリ 14% 溶出期間 180 日 ) を用いた 11 月に掘り取り調査を行った結果 発根率は 4 試験区間で有意差が認められなかったが 8 月施肥区では発根量の多い個体が他の 3 試験区よりも多かった また 発根した苗の平均基部直径は 4 つの試験区で有意差は認められなかったが 苗長は施肥した 3 試験区は無施肥区よりも有意に大きかった この試験からは ヒノキを 4 月にさし付けた場合 8 月ならば発根している個体の割合が多いと判断でき この時期に施肥すると 11 月の掘り取り時には根系が十分に発達し 地上部の成長も無施肥区より大きくなることが明らかになった 写真 2 少花粉ヒノキの発根苗したがって ヒノキさし木で緩効性肥料を与える場合は 8 月の施肥が効果的であると考えられた 発根量の少ないヒノキのさし木苗を畑に床替えしても生存率が低いため ( 袴田ら 2012a) 根が十分に発生していない 4 ~ 6 月の施肥は 根量の増加や地上部の成長については有効でないと考えられた マツ材線虫病抵抗性クロマツのさし木環境に配慮したマツ材線虫病の対策の一つとして 抵抗性クロマツの植栽が全国各地で事業的に行われている 抵抗性クロマツの実生苗生産は 抵抗性クローンで構成された採種園由来の種子を播種 育苗し それらにマツノザイセンチュウを接種して健全であった個体 すなわち抵抗性を確認した苗を出荷する しかし 接種検定は夏季の高温下の作業となるうえ 健全率の平均が 50% 前後であり ( 戸田 1999) その結果として苗木の価格が一般の苗に比べて高くなっている また 接種検定する年の環境条件によって健全率が大きく異なることから ( 戸田 2004) 抵抗性の強度が安定しないことも指摘されている これらの問題を改善するため 抵抗性が確認された苗を母樹としてさし木苗を増殖する方法が試みられるようになった クロマツは発根が 199

容易ではないとされていたが ( 森下 大山 1972) 母樹によっては高い発根率が得られることが確認され ( 森ら 2004) 接種検定で生存した苗木由来のさし木苗にマツノザイセンチュウを接種した場合 健全率が高いことも明らかになっている ( 森ら 2006) そのため 苗の抵抗性を確認するために再び接種検定を行う必要がなく 実生苗検定と比較して生産コストが低く抑えられるという試算もあり ( 大平ら 2009) 抵抗性苗の新たな生産方法として期待されている 樹木のさし木発根性には 母樹が持っている遺伝的な特性やさし穂の形状 生理的な状態などが大きく関わっている そこで クロマツのさし木における母樹の家系 母樹樹冠からの採穂部位 さし穂の生重量 冬芽数を取り上げ 発根性に関与する要因を明らかにした (Hakamata et al. 2016) ロジスティック回帰分析の結果 母樹の家系と樹冠からの採穂部位は発根の有無 ( 発根率 ) に有意に関与する要因であった 母樹の家系によって発根率が異なることはこれまでにも明らかにされていたが この試験でも 6 家系の発根率は 34.0 ~ 76.0% の範囲にあり 同様の結果であった 採穂部位は他の要因との交互作用が有意ではなく 独立的に発根の有無に関与しており 母樹の樹冠下部から採取したさし穂の発根率が 74.7% で 上部から取ったさし穂の 34.7% よりも 2 倍以上大きかった 他の造林用の針葉樹でも 樹冠下部から採取したさし穂は上部からのさし穂よりも発根性が高いことが認められている (Foster et al. 1984;Morgenstern 1987; 前田ら 1997;Peer and Greenwood 2001) クロマツの試験では 3 年生苗を母樹としており 他の樹種を使った事例よりも若齢でサイズが小さい母樹だと考えられるが このような場合でも他の樹種と同様に 樹冠下部のさし穂は上部のさし穂よりも発根率が高かった この理由は明らかではないが クロマツ以外の針葉樹では さまざまな成長促進物質や発根阻害物質の量的な影響によるものと考えられている マツ類のさし木では 発根しないうちはさし穂の冬芽が伸びて新梢となってもそこから針葉は長く伸びないとされる ( 森下 大山 1972) この現象により 掘り取り前に発根の有無が容易に判別できると言われているが 針葉の伸長時期やその長さと発根性については明確な調査が行われてこなかった そこで 母樹の家系 3 年生母樹の樹冠からの採穂部位 さし穂の生重量 冬芽数に さし床からの掘り取り直前におけるさし穂の新梢から伸びる針葉の長さを説明変数に加え 一般化線形モデルによる解析を行った結果 針葉の長さは応答変数とした発根量に有意に関与する要因であった (Hakamata et al. 2016) そのため 針葉の長さと発根量の関係を解 析した結果 両者間に有意な正の相関があることが明ら かになった ( 写真 3) 別の年に行った試験でも 針葉 の長さと発根量には有意な正の相関が認められている ことから これらの結果は さし穂の新梢から伸びる 針葉の長さは 掘り取りしなくても発根量を予測でき る優れた指標になることを示している さし穂を上方 に引っ張って抵抗があり 根とともに用土が持ち上が るものを発根したと見なす引き抜き法も掘り取らない で発根を判別する手法として有効であるが ( 森 宮原 2002) 新梢からの針葉の伸びで判別すれば さし穂に 負荷を与えることがなく より簡便な判定が可能である また さし穂の養生中に 相対的な発根量を推測する ことができ 掘り取りや移植を適切な時期に行う目安 になるとも考えられる さし木によって得られた苗は根量にばらつきがあり 定植後に根系が十分に発達するか懸念される そこで 発根量の異なるさし木苗を苗畑に植栽して 約 2 年後 に 10 本を掘り取って調査した ( 袴田未発表 ) その結果 直径 5 mm 以上の根 5 mm 以下の根 それぞれの本数 は対照とした実生苗と比べて有意差はなかった また 種苗生産者を含めた 7 名でさし木苗と実生苗の根系を観 察したところ 両者を明確に区別することはできなかっ たことから 苗畑試験では さし木苗の根系は実生苗 と同程度に発達すると考えられた 新梢から伸びた針葉の長さ 写真 3 クロマツさし木苗の新梢から伸びた針葉と発根 針葉の長さと発根量との間に正の相関が認められた (Hakamata et al. 2016) 発根量の定量 発根量 根量は苗の成長に影響するため (Struve et al. 1984) さ し木の試験における発根性について 発根率だけでは 200

不十分であり 量的な評価が必要である これまでは 苗から根系を切断して重量を測定するか 数段階の指数によって発根量を評価することが一般的に行われてきた しかし 根を切断すればその後の育成試験は不可能となり 指数では正確に定量できない 最近では 根系をスキャナで読み取り デジタル画像を解析することで 根の定量化が可能となってきたが 高価な機器や解析ソフトが必要なこと 画像解析に時間がかかること 根が重なりあうことで精度が下がることなどの欠点も予想される そこで スギのさし木苗を用いて Kathiravan et al.(2009) の手法を参考に メスシリンダ内の一定量の水中に根系を沈め 目盛りを読み取ることによる根の体積の定量を試みた その結果 根の体積と乾燥重量に高い相関が認められ 根の定量に有効であることが明らかになった ( 袴田未発表 ) この手法は 多少の手間はかかるものの安価な器具で測定ができ 今後の発根量評価方法として活用が期待される おわりにさし木苗による造林は 病虫害や気象害に対する危険性を含んでいるが 母樹の遺伝的な性質を引き継ぐことができる大きなメリットも有している そのため 均一性と安定性というさし木ならではの特性を生かした 品質管理型林業 も一つの林業形態として進展する可能性がある ( 白石 2012) 効率的なさし木苗生産には 発根性の高い品種や母樹を用いることが重要であり そのためには発根率と発根量の評価が不可欠である また 同じ母樹から採穂しても その年齢や採穂部位の違いがさし木苗の性質に影響を与える topophysis ( 宮島 1989) も得苗率に影響するため さらなる実証的な調査が必要であると思われる さし木苗の成長や材質についても これまでのデータを整理したうえで 品質管理型林業につなげる知見を探っていくことが重要であると考えられる 引用文献 Foster GS, Campbell RK, Adams WT (1984)Heritability, gain, and C effects in rooting western hemlock cuttings. Canadian Journal of Forest Research 14: 628 638 袴田哲司 山本茂弘 近藤晃 (2012a) 雄花着花量の少ない静岡県産ヒノキ精英樹のさし木適性. 静岡県 農林技術研究所研究報告 5: 59 64 袴田哲司 山本茂弘 近藤晃 (2012b) 静岡県産ヒノキ精英樹を用いた挿し木技術の検討. 中部森林研究 60: 17 18 袴田哲司 山本茂弘 遠藤良太 (2014) ヒノキ挿し木における挿し穂基部の切り返しと養生中の施肥の効果. 中部森林研究 62: 3 4 Hakamata T, Hiraoka Y, Yamamoto S, Kato K (2016)Effect of family, crown position, number of winter buds, fresh weight and the length of needle on rooting ability of Pinus thunbergii Parl. cuttings. iforest 9: 370 374 Kathiravan M, Ponnuswamy AS, Vanitha C (2009) Detrmination of suitable cutting size for vegetative propagation and comparison of propagules to evaluate the seed quality attributes in Jatropha curcus Linn. Natural Product Radiance 8: 162 166 河崎久男 (2009) 林木育種の成果シリーズ (5) 花粉の少ないヒノキ - 都府県との連携による成果 -. 林木の育種 233: 44 46 前田雅量 吉野豊 前田千秋 (1997) ヒノキの個体内変異 - 採穂の高さによるさし木の発根と初期成長の違い-. 森林応用研究 6: 183-184 宮島寛 (1989) 九州のスギ. 宮島寛著, 九州のスギとヒノキ,15 143. 九州大学出版, 福岡 Morgenstern EK (1987)Methods for rooting larch cuttings and applications in clonal selection. The Forestry Chronicle 63: 174 178 森康浩 宮原文彦 (2002) クロマツの挿し木増殖における発根条件の検討 (Ⅱ)- 用土 前処理 電熱温床の効果 -. 九州森林研究 55: 134 135 森康裕 宮原文彦 後藤晋 (2004) クロマツのマツ材線虫病抵抗性種苗生産における挿し木技術の有効性. 日本森林学会誌 86: 98 104 森康浩 宮原文彦 後藤晋 (2006) マツ材線虫病抵抗性挿し木苗の生産における採穂個体へのマツノザイセンチュウ接種検定の有効性. 日本森林学会誌 88: 197 201 森下義郎 大山浪雄 (1972) さし木技術の実際. 森下義郎 大山浪雄編, 造園木の手引さし木の理論と実際,169 276. 地球出版, 東京大平峰子 倉本哲嗣 藤澤義武 白石進 (2009) マツ材線虫病抵抗性クロマツのさし木苗生産における密閉ざしの有効性. 日本森林学会誌 91: 266 276 Peer KR, Greenwood MS (2001)Maturation, topophysis and factors in relation to rooting in Larix. Tree Physiology 201

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