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Transcription:

筑波技術大学テクノレポート Vol.18 (1) Dec. 2010 脳性麻痺の科学的トレーニング 脳性麻痺の筋力トレーニングに関する基礎研究 筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻 石塚和重中村直子 要旨 : 脳性麻痺の科学的なトレーニングの観点から 脳性麻痺の筋断面積と筋力と動作速度について調査した さらに タイプ別脳性麻痺の特徴について筋電図を使用して検討した また 脳性麻痺の筋力トレーニング方法のための基礎研究を試みた 結果として 1) 痙直型脳性麻痺者とアテトーゼ型脳性麻痺者では筋力強化の方法は異なる可能性がある 2) アテトーゼ型脳性麻痺者では健常者と同様のトレーニングが可能ではないかと考えられる 3) 痙直型脳性麻痺者では速い動きが困難で測定不可能な被験者がみられ 速い運動では筋出力が十分に発揮できないと考える また 連合反応を考慮して 関節の動きを十分考慮したゆっくりとした抵抗の弱い運動がいいのではないかと考えられる キーワード : 脳性まひ, タイプ別, 筋断面積, 筋力, 筋電図, 筋力トレーニング 1. はじめに我々は脳性麻痺 ( 児 ) 者にも EBM に基づいた科学的トレーニングが必要であると日頃から感じていた 科学的トレーニングについては 従来 脳性麻痺者の筋力や動作速度などの測定は困難で科学的トレーニングは不可能であるといわれてきた 我々は 2002 年度に予備測定として 本研究に対してパラリンピックをめざす脳性麻痺の陸上競技選手 2 名について筋断面積 筋力 動作速度の測定を試みた その結果 パラリンピックを目指す程度の運動能力の高い脳性麻痺者については筋力 動作速度 筋断面積の測定が可能であり 脳性麻痺者の科学的トレーニングについても十分可能性があると考えるようになった その後の研究について紹介し 脳性麻痺者の科学的トレーニングや筋力トレーニングの考え方について述べてみたい 2. これまでの研究成果脳性麻痺の筋力に関する研究において Ayalonら 1) は9 歳から 15 歳の脳性麻痺児 12 名の等速性筋力を測定し 高い相関を持っていたことを報告している Berg- Emonsら 2) は 12 名の痙直型脳性麻痺児の等速性筋力 有酸素パワーについて検討し 軽度から中等度の脳性麻痺児であれば 十分に再現性のある値を得ることができるとしている 脳性麻痺の筋力トレーニング 3) に関しては 1) 痙縮の増大を招く 2) 脳性麻痺者の筋力に再現性がない 3) 脳性麻痺の運動機能障害は中枢性制御の問題であり 筋力増強がパフォーマンスの向上につながらないとする 3つの推測のために積極的に行われていないのが現状である Damianoら 4) ははさみ足歩行の痙直型脳性麻痺児に対して強い抵抗運動で大腿四頭筋の筋力を増加させることができると報告している Mac Phailら 5) は中等度の痙直型両麻痺児に対して 8 週間の角速度 90 /sec の等速性運動を実施したところ 21 ~ 25% の筋力増加が認められたとしている Fowlerら 6) は大腿四頭筋力の最大努力時に痙性の増加は無いことを報告し 筋力の弱さが機能的な問題の一因となっている脳性麻痺者に対して筋力強化訓練することをすすめている 3. 研究紹介本研究では脳性麻痺者のスポーツに着眼し 100m 走での運動能力の差による相違を筋断面積と筋力 動作速度 ミドルパワーについて運動能力別に比較検討した さらに 脳性麻痺者に対する科学的トレーニングについて 日本でトップレベルの選手 1 名について追跡調査し 脳性麻痺者の短距離走に必要な能力について検討を試みた 対象者は本研究の目的 手順等を説明した上で同意を得られた脳性麻痺者で アテトーゼを主徴とする走行可能な脳性麻痺者 3 名 ( 日本選手権参加レベル 2 名 その他 1 名 ) 痙直型片麻痺者 1 名 ( 日本選手権参加レベル ) 走行可能な痙直型脳性麻痺者 1 名 手すり使用で歩行可能な痙直型脳性麻痺者 1 名 ( 日常生活は車椅子使用 ) 歩 116

行不可能で車椅子使用の痙直型脳性麻痺者 1 名 平均年齢 27.4 歳男性 7 名であった その中でアテトーゼを主徴とする走行可能な脳性麻痺者 1 名 ( ジャパンパラリンピック参加レベル ) については 2002 年 12 月から 2004 年 3 月までに 3ヶ月ごとに定期的に以下の項目について検査し 2004 年 3 月に開催される大会の 6ヶ月前からは 1.5ヶ月に 1 回の割合で合計 10 回測定した すべての測定は浜松ホトニクス ( 株 ) スポーツホトニクス研究所にて実施した ( 図 1) 数値は原則として左右合計値を用いて分析した 1 形態 身体組成 ( 身長 体重 体脂肪率 ) 空気置換の全身体密度法による体脂肪測定装置 (BODPOD,LMI 社製 ) を利用し身体密度を測定し Brozek の式により 体脂肪率 除脂肪体重を推定した 2 MRI 画像 ( 大腰筋断面積 大腿部 下腿部筋断面積など ) 磁場強度 0.2T の MR 装置 (Signa Profile,GE 横河メディカルシステム社製 ) を用い 大腿部と腰部の横断像を取得した 大腿部は 大転子上端 大腿骨下端間の 30% 部位 50% 部位 70% 部位に相当する画像から 各筋肉 大腿骨 皮下脂肪の面積を算出し 腰部では第 4 第 5 腰椎間の水平面の横断画像を取得し 左右大腰筋の断面積を算出した 3 動作速度 ( 膝振り上げ速度 膝振り下ろし速度 ) 股関節の伸展 屈曲の動作の速度を Ballistic Master ( コンビ社 ) を用いて評価した 股関節屈曲動作は 股関節伸展位の状態から膝を前方にできる限り素早く振り上げ (Knee-Up) 動作で 股関節伸展動作は 股関節屈曲位より膝をできる限り素早く振り下ろす (Knee-Down) 動作であった それぞれの動作のピーク速度値を評価の対象とした 4 等速性筋力 ( 膝関節 股関節の伸展 屈曲の筋力 ) 等速性最大筋力は Biodex-System 3 (Biodex Medical 社製 ) を用いて 膝関節 股関節伸展 屈曲力を角速度 60 /sec 180 /sec 300 /sec でそれぞれ5 回測定した 5 無酸素性能力 : ドルパワー (30 秒間の自転車エルゴメーター ) 30 秒間の自転車エルゴメーター漕ぎ中に発揮されたパワーの最大値と平均値を測定した 運動終了後 5 分 10 分 30 分後の乳酸値を測定し評価した 4. 結果と考察走行可能な脳性麻痺者 5 名について 100m 走との関 7,8,9,10) 係を調べてみると Pearson の相関係数有意確率 ( 両側 ) が膝振り下ろし速度 ( 両側合計値 )r=-.966(p<0.01) で最も高く 次いで膝関節屈曲力 r=-.945(p<0.05) ミドルパワー r=-.926(p<0.05) であった また 車椅子使用の脳性麻痺者は走行可能な脳性麻痺者に比べ 筋断面積 ( 例 大腰筋断面積 : 身長割値両側合計値走行可能郡平均 17.0 cm 2 /m 車椅子使用群平均 12.4 cm 2 /m- 図 2 3) 筋力( 膝屈曲角速度 180 /sec: 体重割値両側合計値走行可能群平均 1.42Nm/kg 車椅子使用群平均 0.26Nm/kg) 動作速度 ( 例 膝振り下ろし速度両側合計値走行可能群平均 6.04m/sec 車椅子使用群平均 2.67m/sec) で低い値を示した ミドルパワーについて検討してみると ミドルパワーと相関関係が認められた検査項目は 膝関節屈曲角速度 180 /sec r=0.940(n=5 p<0.05) 膝振り上げ速度 r=0.939(n=5 p<0.05) 股関節伸展角速度 180 /sec r=0.920(n=5 p<0.05) 膝振り下ろし速度 r=0.883(n=5 p<0.05) であった 膝振り下ろし速度については 膝関節屈曲角速度 180 /sec r=0.940(n=6 p<0.01) 下腿筋 70% 断面積 ( 身長割値 )r=0.918(n=6 p<0.01) 股屈曲角速度 180 /sec r=0.917(n=6 p<0.05) 股関節伸展角速度 180 /secr=0.847(n=6 p<0.05) と相関関係があった 膝関節屈曲力は 膝振り下ろし速度の他に 股関節伸展力 r=0.961(n=6 p<0.01) と股関節屈曲力 r=0.904 (n=6 p<0.05) に相関がみられた 11,12) 次に動作速度と筋断面積 筋力との関係について検討してみた 速度 とくに振り上げ速度と振り下ろし速度と筋断面積と筋力について Pearson の相関係数有意確率 ( 両側 ) で検討してみた 振り上げ速度と振り下ろし速度とは相関係数 r=.817(p<.01) で有意な相関が認められた 振り上げ速度においては 大腰筋の筋断面積と相関係数 r=.697(p<.01) 大腿四頭筋 50% 部の断面積と r=.572(p<.05) であった 振り上げ速度と股関節屈曲力とは r=.861(p<.01) 膝関節伸展力と r=.869(p<.01) の相関が認められた 次に 振り下ろし速度ではハムストリングス 50% 部の筋断面積と相関係数 r=.905(p<.01) と高い相関を示した ( 図 4) 脳性麻痺者において 動作速度は振り上げ速度と振り下ろし速度とは有意に相関があり 振り上げ速度が速い者は振り下ろし速度も速いという結果になった これは運動能力が高い者ほど動作速度が速いことを示唆していると考える 次に 振り上げ速度は大腰筋の断面積と大腿四頭筋の断面積に比例し 股関節屈筋群の筋断面積が多いほど動作速度が速いことを示している 振り上げ速度と筋力においては股関節屈曲力 膝 117

関節伸展力とも相関が認められている 振り下ろし速度に関しても同様の傾向にあり ハムストリングス 50% 部の筋断面積及び股関節伸展力と膝関節屈曲力に相関が認められた これらの事から脳性麻痺の動作速度は筋断面積と筋力に依頼している可能性が高く 動作速度を上げるためには筋力の増強が必要であり 筋断面積の増加が必要ではないかと考える 脳性麻痺は相反神経支配の異常による障害といわれているが 筋断面積をアップさせることが筋力や動作速度を改善する一手段になりうるのではないかと推測される 2008 年度になって共同研究者の中村ら 13) が脳性麻痺者 20 名についてタイプ別検討を試みた その結果 痙直型脳性麻痺者では筋断面積と筋力との関係が認められず アテトーゼ型脳性麻痺者では筋断面積と筋力に高い相関が認められた ( 図 5) タイプ別筋断面積と筋力の研究から タイプによって筋力強化の方法が異なることを示唆しているのではないかと考えている 痙直型脳性麻痺者は脳障害から生じた痙性の影響が筋断面積と筋力に大きく影響している可能性が高く 痙直型脳性麻痺者については痙性の影響を考えて筋力トレーニング方法を考える必要があり 負荷強度 運動速度に留意したプログラムが必要になってくるのではないかと推察している 逆にアテトーゼ型は筋断面積と筋力に相関が認められたことから 健常者がトレーニングする筋力トレーニングと同様のトレーニングでも可能ではないかと考えている 脳性麻痺のタイプにおいて等速性筋力測定時における筋電図の波形の相異点について検討した 正常成人 1 名 痙直型脳性麻痺者 2 名 ( 車椅子 1 名 杖歩行 1 名 ) アテトーゼ型脳性麻痺者 1 名 ( 電動車椅子使用 ) について携帯型筋電図計測装置 MYOTRACE 400 を用いて 等速性筋力角速度 300/sec,180/sec,60/sec( 膝の伸展と屈曲動作 ) について大腿直筋と同側の半腱様筋の筋電波形を検出した その結果 正常成人 痙直型脳性麻痺者 アテトーゼ型脳性麻痺者について等速性筋力角速度 300/ sec,180/sec,60/sec について筋電図学的に検討した 正常成人は等速性筋力角速度 300/sec,180/sec,60/ sec において相反神経支配に基づく筋収縮状態を示した 痙直型脳性麻痺者において膝伸展 屈曲時に大腿直筋と半腱様筋に同時収縮が角速度 300/sec,180/sec,60/ sec のどの測定時においても確認された また 膝伸展時直前に半腱様筋の収縮が認められていたという特徴的な所見が得られた アテトーゼ型脳性麻痺者ではおおむね相反神経支配に基づく収縮が認められていた しかし 等速性角速度が少なく抵抗値が高くなると突発的な不随意運動の出現が確認された 等速性筋力測定時において 痙直型脳性麻痺者では相反神経支配に基づく筋の収縮形態 が異なり アテトーゼ型脳性性麻痺者は相反神経支配に基づいた筋収縮が可能であることが示唆された 痙直型脳性麻痺者では動作時に単に同時収縮が生じているのではなく 運動開始前に拮抗筋が収縮して動作のスムーズさを制御している可能性について示唆しているのではないかと考える ( 図 6) 5. 脳性麻痺の筋力強化法について ( 仮説 ) 脳性麻痺の筋力トレーニングについて以下のように考える 1) 痙直型脳性麻痺者とアテトーゼ型脳性麻痺者では筋力強化の方法は異なる可能性がある 2) アテトーゼ型脳性麻痺者では健常者と同様のトレーニングが可能ではないかと考える ( 但し 対称的な動作 正中位動作 重心の位置を十分に考慮する ) 3) 痙直型脳性麻痺者では速い動きが困難で測定不可能な被験者がみられ 速い運動では筋出力が十分に発揮できないと考える また 連合反応を考慮して 関節の動きを十分考慮したゆっくりとした抵抗の弱い運動 (?) がいいのではないかと考える 現時点ではまだわからない 6. おわりに今回の論文では 脳性麻痺者の科学的トレーニング について実際に私が行っている検査内容についての紹介と脳性麻痺者の筋断面積と筋力 動作速度 筋電図を用いて検証してみた 脳性麻痺の科学的トレーニングとは何か? 脳性麻痺の筋力トレーニングとは という問いに対してまだ十分な答えが出ているわけではない 本研究において筋電図に関する研究は平成 21 年度科学研究費補助金 ( 基盤研究 C) にて実施されている 参考文献 [1] Analon M,et al:reliability of isokinetic strength measurements of the knee in children with cerebral palsy. Dev Med Child Neurol 42:398-402,2000. [2] Berg-Emons RJ,et al:reliability of tests to determine peak aerobic power and isokinetic muscle strength in children with spastic cerebral palsy. Dev Med Child Neurol.38:1117-1125,1996. [3] 市橋則明他 : 筋力低下に対する運動療法の基礎 理学療法ジャーナル Vol38.No9:709-716,2004 [4] Damiano DL,et al:effect of quadriceps femoris muscle strengthening on crouch gait in children with spastic diplegia. Phys Ther 75:658-667,1995. 118

[5] Mac Phail HE,et al:effect of isokinetic strength training on functional ability and walking efficiency in adolescents with cerebral palsy. Dev Med Child Neurol 37:763-775,1995. [6] Flower EG,et al:the effect of quadriceps femoris muscle strengthening exercises on spasticity in children with cerebral palsy.phys Ther 81: 1215-1223,2001. [7] 石塚和重 : 脳性麻痺者の科学的トレーニングの可能性について 上田法治療研究会会誌 Vol19(2):46-50,2004. [8] 石塚和重 : 脳性麻痺者の科学的トレーニングの可能性について ( 第 2 報 ) 運動能力別検討 上田法治療研究会会誌 Vol16(2):47-58,2004. [9] 石塚和重 : 脳性麻痺の科学的トレーニングについて - 陸上競技を中心として 聖隷クリストファー大学紀要 : 12-33,2005. [10] 石塚和重 ; 脳性麻痺のスポーツ - 科学的トレーニングの可能性について 理学療法ジャーナル 医学書院第 39 卷第 4 号 335-345,2005. [11] 石塚和重 : 脳性麻痺者の筋力と筋断面積について ( 第 1 報 ) 上田法治療研究会会誌 Vol17(3):101-104, 2006. [12] 石塚和重 :. 脳性麻痺者の筋力と筋断面積について ( 第 2 報 )- 動作速度と筋断面積 筋力に着目して 上田法治療研究会会誌 Vol19(2):46-50,2007. 119

体脂肪率 動作速度 等速性筋力 図 1 測定場面 スポーツホトニクス研究所において 図 2 MRI による筋断面積と各種筋名 図 3 トレーニング者 左 と車いす使用者 右 の筋断面 図 4 振り下げ速度とハムストリングス断面積との相関 r=.915,p<.01 120

痙直型 r=.078 アテトーゼ型 r=.831(p<0.01) 図 5 大腿四頭筋 50% 部筋断面積と膝伸展力 ( 角速度 60/sec) 大四筋 : 大腿四頭筋 50% 筋断面積 痙直型脳性麻痺者 ( 上 ) ( 角速度 180/sec) アテトーゼ型脳性麻痺者 ( 下 ) ( 角速度 180/sec) 図 10 等速性筋力測定時における筋電図波形 ( 上図 : 大腿直筋下図 : 半腱様筋 ) 121

National University Corporation Tsukuba University of Technology Techno Report Vol.18 (1), 2010 Scientific Taining in Cerebral Palsy Basic research on the role of muscle training in the scientific training of cerebral palsy patients Kazushige Ishizuka, Naoko Nakamura Tsukuba University of Technology Abstract: From the viewpoint of scientific training of cerebral palsy patients, the muscle crosssection area affected by cerebral palsy, muscular power and working speed are examined. Moreover, type of cerebral palsy is identified using an electromyogram, and the effectiveness of the method of muscle training of cerebral palsy patients is verified. A possibility that the method of muscular power strengthening changed with types of cerebral palsy as a result was suggested. By a athetoid type cerebral palsy person, if the same training as a healthy person is possible, it thinks. Spastic cerebral palsy patients find it difficult to make a quick movements and have the impression that a line output cannot be fully demonstrated by making quick movements. Spastic type of cerebral palsy thinks that the muscle training in slow movement is necessity. Keywords: cerebral palsy, type, muscle cross-section, muscle power, electromyogram, muscle training 122