講演 Ⅵ フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して 成田健 東北電力 研究開発センター電源技術グループ主幹研究員 講演内容 1. フライアッシュの利用の現状 2. フライアッシュ普及への課題 3. フライアッシュと建築学会指針 4. 今回の研究 ( 体制, 工程, 内容 ) 5. フライアッシュ (FA) コンクリート ガイドライン ( 案 ) 1コンクリート調合 2アルカリシリカ反応抑制 6. 今後の指針改定 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 1 フライアッシュの利用の現状 1. フライアッシュの一般的特性 [ 利点 ] 流動性の改善 単位水量の低減 水和熱, 温度ひび割れの低減 乾燥収縮, 収縮ひび割れの低減 長期強度の増進 アルカリシリカ反応の抑制 [ 欠点 ] 初期強度の低下 未燃炭素による空気連行性の低下 中性化の増大など 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 2 講 -VI-1
フライアッシュの利用の現状 2. フライアッシュの需給の現状 電気事業 一般産業 合計 発生量 692 万 t 232 万 t 924 万 t 利用量 ( 利用率 ) 550 万 t (79%) 222 万 t (96%) 772 万 t (84%) ( 石炭利用総合センター 2002 年度石炭灰全国実態調査報告書より ) 3. 建築用コンクリートへの適用の現状 建築用コンクリートへの適用は, 原子力発電所, 火力発電所等への使用が主体 一般建築物への適用は少ない 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 3 フライアッシュ普及への課題 フライアッシュが建築工事に使用されない原因は, 1フライアッシュに対する不信感 2レディーミクストコンクリートへの適用の困難性 3フライアッシュの欠点の強調 4フライアッシュの効果のアッピール不足 5 関連技術基準 仕様書類の不備 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 4 講 -VI-2
フライアッシュと建築学会指針 昭和 50 年頃まで, コンクリート用混和材としてフライアッシュを建築工事に用いるコンクリートに広く利用 昭和 50 年代以降, 火力発電所施設, 原子力発電所施設を除いてほとんど使用されない [ 指針関係 ] 1978 年 (S53) フライアッシュセメントを使用するコンクリートの調合設計 施工指針 同解説 刊行 1991 年 (H3) 改定案刊行 1999 年 (H11) JIS A 6201 コンクリート用フライアッシュ改正 1999 年 (H11) フライアッシュを使用したコンクリートの調合設計 施工指針 ( 案 ) 同解説 刊行 6 年が経過し指針の見直しが必要な時期に 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 5 今回の研究体制 委託者 :9 電力会社および電源開発 受託者 : 社団法人日本建築学会 材料施工委員会 RC 工事運営委員会に, フライアッシュコンクリート研究小委員会を設置し, さらに傘下に 4WG を設置 WG1: 基本物性 WG WG2: アルカリシリカ反応 WG WG3: マスコン 高流動 WG WG4: 事例研究 普及 WG 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 6 講 -VI-3
研究工程および内容 工程 : 平成 14 年 7 月 8 日 ~ 平成 17 年 3 月 31 日検討内容 : 1.FAの広範囲的な適用のためのFAコン基本物性把握 2.FAのアルカリシリカ反応抑制効果の実証 3. マスコン 高流動コンへの適用のため技術基盤整備 4.FAコンの普及のための技術基盤整備 フライアッシュを使用するコンクリートの調合設計 施工ガイドライン ( 案 ) の作成 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 7 ガイドライン ( 案 ) 目次 1 章総則 2 章構造体および部材の要求性能 3 章フライアッシュの種類および品質 4 章フライアッシュの選定および使用方法 5 章フライアッシュコンクリートの種類および品質 6 章コンクリート材料 7 章調合 8 章コンクリートの発注 製造および受け入れ 9 章コンクリート工事 10 章品質管理および試験 検査 11 章特殊環境下のコンクリート工事 12 章 ASR 反応抑制対策としてフライアッシュを用いるコンクリート 13 章マスコンクリート 14 章高流動コンクリート 付録付 1 JASS 5T-403 建築コンクリート用フライアッシュの品質判定基準 ( 案 ) 付 2 JASS 5T-404 フライアッシュ用 AE 剤の性能判定基準 ( 案 ) 付 3 JASS 5T-405 建築コンクリート用フライアッシュのアルカリシリカ反応抑制効果判定基準 ( 案 ) 付 4 建築コンクリート用フライアッシュに関する技術資料付 5 フライアッシュコンクリートの施工例付 6 調合計算例および参考調合 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 8 講 -VI-4
フライアッシュの使用目的とその種類, 効果 使用目的 (1) 単位水量低減 推奨できる種類 Ⅰ 種 Ⅱ 種 Ⅳ 種 (2) 流動性の増大 (3) 乾燥収縮ひび割れ抑制 (4) 水和熱の低減 - (5) アルカリシリカ反応抑制 (6) 細骨材の粒径 粒度の改善 [ 注 1] : 非常に効果がある, : 効果がある [ 注 2] Ⅰ,Ⅱ 種は結合材として用いる場合,Ⅳ 種は結合材として用いない場合をいう 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 9 フライアッシュの使用方法 ( 基本 ) W C S G 1フライアッシュを全て結合材とみなす場合 W C F S G 2フライアッシュの一部のみを結合材とみなす場合 W C F S G 3フライアッシュを結合材とみなさない場合 W C F S G 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 10 講 -VI-5
耐久性を確保するための調合に関する規定 1 フライアッシュを結合材とみなす場合 計画供用期間の級 水結合材比の最大値 長 期 45 % 標 準 50 % 一 般 60 % 2 フライアッシュを結合材とみなさない場合 計画供用期間の級 水ホ ルトラント セメント比の最大値 長 期 50 % 標 準 55 % 一 般 65 % 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 11 フライアッシュコンクリートの調合強度式 一般式 F Fa =a (C+Fa)/W+b 提案式 F Fa =a(c+kfa)/w+b ここに, F Fa : フライアッシュコンクリートの調合強度 (N/mm 2 ) C: 単位セメント量 (kg/m 3 ) Fa: 単位フライアッシュ量 (kg/m 3 ) W: 単位水量 (kg/m 3 ) k: フライアッシュの強度寄与率 a,b,a,b : 工場の実験定数 (N/mm 2 ) [ 注 ] フライアッシュの置換率は 30% 以下 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 12 講 -VI-6
e 2005 年石炭灰有効利用シンポジウム 強度寄与率 k と単位セメント量 フライアッシュ種類, 材齢別の関係 2.0 1.5 after 28 days standard curing Type II 2.5 2.0 after 91 days standard curing Type II k valu k valu e 1.0 0.5 0.0-0.5 100 200 300 400 500 600 The portland cement content (kg/m 3 ) 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 after 28 days standard curing Type IV -0.5 100 200 300 400 500 600 The portland cement content (kg/m 3 ) 1.5 1.0 0.5 0.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 100 200 300 400 500 600 The portland cement content (kg/m 3 ) aft er 91 days standard curing Type IV 100 200 300 400 500 600 The portland cement content (kg/m 3 ) 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 13 強度寄与率 k の推奨値例 1FAⅡ 種の使用箇所別の推奨値 使用部位 基礎 CFT 壁 材齢 28 日の k 値 0.2~0.5 0.2~0.4 0.1~0.3 材齢 91 日の k 値 0.5~0.8 0.5~0.7 0.4~0.5 2FAⅣ 種の使用箇所別の推奨値 使用部位 基礎 CFT 壁 材齢 28 日の k 値 0~0.5 0~0.4 0~0.3 材齢 91 日の k 値 0.4~0.5 0.3~0.4 0.2~0.3 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 14 講 -VI-7
アルカリシリカ反応 (ASR) アルカリシリカ反応とは 反応性シリカ鉱物を持つ骨材が セメント等からのアルカリ分と水の存在下で長期にわたり反応し コンクリートに膨張ひび割れやポップアウトを生じさせる現象 化学反応の例 SiO 2 +2NaOH+8H 2 O Na 2 H 2 SiO 4 8H 2 O 被害の経緯 1930 年代にアメリカで発見 その後 ヨーロッパを初め 世界各地で同様の現象が報告 日本では 1950 年代と 1960 年代にそれぞれ 1 例ずつの報告その後 しばらく報告がなく わが国には ASR はないとされてきた 1982 年 阪神地区で ASR 被害事例が確認 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 15 ASR の被害事例 柱 梁のひび割れの例 腰壁のひび割れの例 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 16 講 -VI-8
ASR の抑制対策 建築指導課長通達 安全と認められる骨材の使用 高炉セメント B 種 C 種混合材を混合したセメント 高炉セメント B 種 C 種フライアッシュセメント B 種 C 種 低アルカリ形セメントの使用 抑制効果のある混合セメント等の使用 コンクリート中のアルカリ総量の抑制 高炉セメント B 種ベースセメントの R 2 O が O.8% 以下スラグ混合比 40% 以上その他のときスラグ混合比 50% 以上 フライアッシュセメント B 種ベースセメントの R 2 O が O.8% 以下フライアッシュ混合比 15% 以上その他のときフライアッシュ混合比 20% 以上 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 17 実験概要 目的 FAをセメントの一部または細骨材の一部と置換して使用した際のASR 抑制効果を把握し, ガイドライン作成の基礎資料を得る 実験方法 対象としたFA:Ⅰ 種,Ⅱ 種,Ⅳ 種実験の構成 : 共通実験 ( モルタルバー ), 個別実験, 補足実験 (FAの品質試験) 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 18 講 -VI-9
膨張率 (%) 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 骨材のアルカリシリカ反応性の比較 全国反応性骨材調査結果 BS 川砂川砂川砂川砂川砂川砂川砂川砂川砂川砂川砂利川砂利川砂利川砂利川砂利川砂利川砂利川砂利砕石砕石砕石砕石チャート ZD1 安山岩 ZD2 安山岩 ZD3 砕石 100 砕石 50 砕石 M100 砕石 M30 砕石 H100 砕石 H30 FA FA 今回 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10111213141516171819202122232425262728293031 骨材の種類 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 19 実験結果 ( フライアッシュの種類, 銘柄 ) 膨張率 (%) フライアッシュの種類と膨張率 ( 建材試 ) 0.6 置換率 15% 0.5 Ⅱ 種 0.4 Ⅳ 種 0.3 0.2 Ⅰ 種 0.1 膨張率 (%) 各種フライアッシュの膨張抑制効果 0.3 置換率 20% 0.2 置換率 25% 0.1 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 比表面積 (cm2/g) 0.0 1 4 8 10 13 16 フライアッシュ Ⅱ 種の銘柄 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 20 講 -VI-10
ASR 抑制を考慮したフライアッシュの最低置換率 使用方法の原則 セメントの一部と置換 細骨材の一部と置換 セメントおよび細骨材の一部と置換 [ 併用 ] Ⅰ 種 15% 10% 10% Ⅱ 種 15% 15% 15% Ⅳ 種 - 20% - 備考反応性の高い骨材をペシマム条件等で使用する場合, 膨張を抑制できない場合があるため, モルタルバー法の材齢 6ヶ月の膨張率が0.3% 以上の場合, または試験を実施していない場合は,JASS 5T-405による 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 21 今後の指針改定 これらの研究成果をうけて 現行の フライアッシュを使用するコンクリート調合設計 施工指針 ( 案 ) に反映させるため 本年度からフライアッシュコンクリート施工指針改定小委員会を設置し 2007 年度発刊を目標に指針改定作業を行っている 今後, フライアッシュの有効利用は, 混和材として広く一般のコンクリートに使っていただけるように宣伝と実績を積むことが肝要である 皆さんのご協力宜しくお願いします 2005/12/21 - フライアッシュコンクリートの利用拡大を目指して - 22 講 -VI-11
なりた たけし 氏名成田健 東北電力 研究開発センター ( 電源技術グループ ) 役職 主幹研究員 主要経歴 1980 年 3 月 東北工業大学工学部建築学科卒業 1980 年 4 月 不二コンクリート工業 入社 1982 年 5 月 同社 退社 1982 年 6 月 東北大学工学部建築学科奉職 1993 年 3 月 同大学 辞職 1993 年 4 月 東北電力 電力技術研究所入社 1995 年 6 月 改組により研究開発センターとなり現在に至る 主な業務内容 1993 年 4 月の入社以来, 一貫して石炭灰利用技術研究に従事している 現在までの主な研究は, 石炭灰砂 ( ファイヤービーズ ) 開発, 厚層基盤材開発, 盛土 材開発, アスファルトフィラー, 石炭灰を利用した高流動コンクリート等に及ぶ 更に, コンクリート構造物のライフサイクル, 凍害等に関する研究にも従事している 今回, 講演する日本建築学会, 土木学会, 日本コンクリート工学協会等の各種委員 会に委員として活動している なお, 石炭エネルギーセンターの主催する石炭灰利用 委員会等の委員も勤めている 講 -VI-12