図 1 マーカー, 電極貼付位置 マーカーは骨盤および下肢の骨指標, 右下肢の大腿, 下腿などに合計 39 個貼付した. 電極は大腿直筋, 内側広筋, 外側広筋, 半腱様筋, 大腿二頭筋に対して SENIAM に準じた位置に貼付した. およびハムストリングス前活動の内外側比率と膝外反角度および膝外反

Similar documents
い膝関節間距離が変化することから, 膝足比率と同 等の意味を有し, 片脚で計測可能な指標であるため, 3D 膝外反角度および 3D 膝外反モーメントを検出 するために有用な二次元的指標の一つになるのでは ないかと考える. 本研究の目的は,DVJ における 3D 膝外反角度お よび 3D 膝外反モーメ

「教員の指導力向上を目的とした授業案データベースの開発」

理学療法科学 23(3): ,2008 原著 片脚および両脚着地時の下肢関節角度と筋活動 Comparison of Knee Kinematics and Muscle Activity of the Lower Extremities between Single and Doubl

ジャンプ動作における動的下肢アライメントと体幹バランスの関連性

Effects of developed state of thigh muscles on the knee joint dynamics during side cutting The purpose of this study was to investigate the effects of

138 理学療法科学第 24 巻 2 号 I. はじめに膝前十字靭帯 (Anterior Cruciate Ligament;ACL) 損傷では, 多くの場合再建術が必要となり, その後スポーツ復帰までに半年から1 年近くを要することがある そのため, 近年その予防の重要性が唱えられるようになってき

膝の傷害予防トレーニング a b a.マーカー貼付位置 測定には 3 次元動作解析システムVICONMX VICON社製 床反力計 AMTI社製 2 枚 サンプリング周波数 100Hzの赤外線カメラ 8 台を用い 直径14mmの赤外線反射マーカーを 22個貼付した b. 片脚着地動作 20cm台の線

146 理学療法科学第 23 巻 1 号 I. はじめに 膝前十字靭帯 (Anterior Cruciate Ligament;ACL) 損傷は, スポーツ外傷の中で発生頻度が高く, スポーツ活動を続行するためには靭帯再建を余儀なくされることが多い 近年,ACL 損傷を予防することの重要性が認識され

00 p01-24

研究論文 筋電図及び筋音図からみた上腕屈筋群及び大腿四頭筋群における漸増的筋力発揮 Muscle activation patterns of Electromyogram and mechanomyogram, during maximal voluntary contraction in elb

医療工学雑誌第 13 号別刷

着地動作における膝関節バイオメカニクスに対する下肢筋張力の影響

<4D F736F F D CA48B8695F18D908F918C639CE496BC9171>

着地動作時の膝関節外反角度およびモーメントに影響する要因の検討 : 膝前十字靱帯損傷予防の観点から

2 / 9. 緒言本研究は身体の安定性が勝敗に直結する柔道競技において 姿勢制御の観点からハイパフォーマンスの実現と下肢の下肢のスポーツ外傷予防に関する知見を得ることを目標とするものである 本報告書ではミズノ財団法人スポーツ学等研究助成により 上記の第 歩として実施した軸足と作用足の非対称性に関する

Effects of conditions on knee joint load during cutting movement The purposes of this study were to clarify the effects of cutting movement conditions

2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

研究報告 国内トップリーグ男子バレーボール選手における一側性トレーニングが 両側性筋力および跳躍能力に及ぼす影響 Effect of Single legged Squat Exercises on Bilateral Strength and Physical Ability in the Top

を0%,2 枚目の初期接地 (IC2) を 100% として歩行周期を算出した. 初期接地 (IC1) は垂直 9) 分力 (Fz) が 20Nを超えた時点, 荷重応答期 (LR) は Fz の第 1ピーク時, および遊脚後期 (Tsw) は IC1 から 10% 前の時点とした 10). 本研究の

グスがうまく働かず 大腿四頭筋が優位でストップしているともいわれています ACL よく起きる足関節捻挫 = 前距腓靭帯 (ATF) 損傷は ACL 損傷と同じ靭帯損傷です しかし 足関節捻挫で手術になったという話はあまり聞かないと思います それは ACLは関節包内靭帯であるのに対して ATFは関節包

<4D F736F F D20837E D8DE092638CA48B8695F18D90985F95B68FAC8A7D8CB42E646F6378>

1 者にはほとんど理解されていないのではないでしょうか 指導者の理解 これがスポーツ現場で 予防トレーニング を広めていく重要なポイントになると思います しかし 指導者は個性的な方が多く いろんな独自理論もあり 理解していただくのに困難もあるのが事実だと思います 私は とくに指導者の方々にスポーツ傷

JAHS vol8(1)005

方向の3 成分を全て合成したもので 対象の体重で除して標準化 (% 体重 ) した 表 1を見ると 体格指数 BMI では変形無しと初期では差はなく 中高等度で高かった しかし 体脂肪率では変形の度合が増加するにつれて高くなっていた この結果から身長と体重だけで評価できる体格指数 BMI では膝 O

理学療法科学 20(4): ,2005 研究論文 高齢女性の自由歩行における立脚中の膝屈曲角度, 膝伸展力, 歩行パラメータとの関係 Relationships among Knee Flexion in Stance, Knee Extension Torque and Gait Pa

I. はじめに膝前十字靭帯再建術 (Anterior Cruciate Ligament Reconstruction: 以下,ACLR) 後のスポーツ復帰時の問題として, 再受傷が挙げられる. その再受傷率は, 近年のメタアナリシスでは 25 歳以下でスポーツ復帰したものを対象と

目次第 1 章序章 1 序 2 研究小史 3 本研究の目的 構成 9 第 2 章女子サッカー選手のACL 損傷時の受傷機転 ~ACL 損傷既往歴を持った女子サッカー選手へのアンケート調査 ~ 10 緒言 11 方法 12 結果 14 考察 18 第 3 章ボールに片脚を伸ばすサッカー特有動作の動作解

安定性限界における指標と条件の影響 伊吹愛梨 < 要約 > 安定性限界は体重心 (COM) の可動範囲に基づいて定義づけられるが, 多くの研究では足圧中心 (COP) を測定している. 本研究は, 最大荷重移動時の COM 変位量を測定して COP 変位量と比較すること, 上肢 位置の違いが COP

高齢者の椅子からの立ち上がり動作における上体の動作と下肢関節動態との関係 The relationship between upper body posture and motion and dynamics of lower extremity during sit-to-stand in eld

歩行およびランニングからのストップ動作に関する バイオメカニクス的研究

318 理学療法科学第 19 巻 4 号 I. はじめに前十字靱帯 (anterior cruciate ligament: 以下 ACL) 損傷は, バスケットボール, サッカー, バレーボール, ラグビー, ハンドボール, フットボールなどのコンタクトスポーツで頻繁に発生する 1-5) しかし,

the highest value at the midpoint of the transferring motion when subjects began to twist patient s body to the wheelchair from the bed. And the mean

I. はじめに Activities of daily living ADL 1) Osteoarthritis of the knee OAK Anterior cruciate ligament ACL OAK Open kinetic chain OKC 2) OKC OAK

理学療法科学シリーズ臨床運動学第6版サンプル

(佐々木先生)

仙台大学紀要表紙45-2_表1

61_89

体 幹 筋 機 能 が 膝 前 十 字 靭 帯 損 傷 メカニズムに 及 ぼす 影 響 37 ランプ(LED 型 シンクロナイザPH-105 型,ディエイチ ケイ 社 製 )を 画 像 で 撮 影 することにより 同 期 させた. 反 射 マーカーを 両 側 の 上 前 腸 骨 棘, 膝 蓋 骨 中

Effects of restricted ankle joint mobility on lower extremities joint motions during a stop-jump task The purposes of this study were to examine the e

Table 1 Muscle weight (g) and those ratio (%) in M. quadriceps femoris Table 2 Cross-sectional area (mm2) and those ratio (%) in M, quadriceps femoris

高校女子バスケットボール選手とサッカー選手の傷害発生率米国の高校生アスリートの全傷害パターンをみると 比較的男子が多くの参加率を占める競技において 男子の傷害発生率が高くなるように思われる 例えばフットボール サッカー バスケットボール バレーボール レスリング 野球 ソフトボールにおける重度の傷害

吉備国際大学研究紀要 ( 保健科学部 ) 第 20 号,13~18,2010 閉運動連鎖最大下出力時における下肢筋収縮様式の解析 * 河村顕治加納良男 ** 酒井孝文 ** 山下智徳 ** 松尾高行 ** 梅居洋史 *** 井上茂樹 Analysis of muscle recruitment pa

膝関節運動制限による下肢の関節運動と筋活動への影響


untitled

TDM研究 Vol.26 No.2

その原因は中枢性の疲労と末梢性の疲労の両方が挙げられる可能性が示唆されている [5-7] そこで本研究では神経 筋機構による筋疲労を評価するために 膝蓋腱反射の筋電図 (EMG) と脳波 (EEG) を同時に観測し 筋疲労と中枢神経活動の関係を調べた なおこの研究は 2012 年度公益社団法人全国柔

位 1/3 左脛骨遠位 1/3 左右外果 左右第二中足骨頭 左右踵骨の計 33 箇所だった. マーカー座標は,200Hz で収集した. (2) 筋電計筋活動の計測のために, 表面筋電計 ( マルチテレメータ. 日本光電社製 ) を用いた. 計測はすべて支持脚側とし, 脊柱起立筋 大殿筋 中殿筋 大腿

ランニング ( 床反力 ) m / 分足足部にかかる負担部にかかる負担膝にかかる負担 運動不足解消に 久しぶりにランニングしたら膝が痛くなった そんな人にも脚全体の負担が軽い自転車で 筋力が向上するのかを調査してみました ロコモティブシンドローム という言葉をご存知ですか? 筋肉の衰えや

国士舘大学体育研究所報第29巻(平成22年度)

<30382D8CB F95B62D8B D468B7690E690B691BC2D3496BC976C2E706466>


どであり, 着衣や体型による影響も否定できない. 本研究の目的は,ACL 損傷患者を後ろ向きに調査し,ACL 損傷に至る特徴をまとめ, 下肢 X 線画像から骨解剖学的危険因子を特定することである なお, 本研究は長崎大学病院臨床研究倫理委員会の承認を得て行った ( 承認番号 : ).

理学療法科学 25(5): ,2010 原著 前十字靭帯損傷者の階段降段動作における膝関節モーメントと膝屈伸筋力の関係 Relation between Knee Joint Moment during Stair Descent and Knee Extension and Flexi

Ⅰ はじめに 臨床実習において 座位での膝関節伸展筋力の測定および筋力増強訓練を行っ た際に 体幹を後方に傾ける現象を体験した Helen ら1 によると 膝関節伸展 の徒手筋力測定法は 座位で患者の両手は身体の両脇に検査台の上に置き安定を はかるか あるいは台の縁をつかませる また 膝関節屈筋群の

2011ver.γ2.0

Microsoft Word - 修論(小平) (4).docx

SwitchCut 手術手技書

のモチベーションを上げ またボールを使用することによって 指導者の理解も得られやすいのではないかと考えています 実施中は必ず 2 人 1 組になって パートナーがジャンプ着地のアライメントをチェックし 不良な場合は 膝が内側に入っているよ! と指摘し うまくいっている場合は よくできているよ! とフ

I. はじめに Anterior Cruciate Ligament; ACL Anterior Tibial Translation; ATT ACL ACL 1,2) 3) ACL anterior shear force Houck 4) ACL ACL Berchuck 5

中京大学体育研究所紀要 Vol 研究報告 方向転換動作を評価するための学習資料の提案 ~ アスレティックトレーナー養成課程における質的分析の教育 ~ 村田祐樹 1) 2) 下嶽進一郎 A proposal for a new material of assessing cutting

走行時の接地パターンの違いによる内側縦アーチの動態の検討 五十嵐將斗 < 要約 > 後足部接地 (RFS) は前足部接地 (FFS) に比し下肢 overuse 障害の発生が多いことが報告されているが, これに関する運動学的なメカニズムは明らかではない. 本研究の目的は FFS と RFS における

Microsoft Word doc

旗影会H29年度研究報告概要集.indb


NODERA, K.*, TANAKA, Y.**, RAFAEL, F.*** and MIYAZAKI, Y.**** : Relationship between rate of success and distance of shooting on fade-away shoot in fe

62_207

新潟医療福祉会誌 17( 2 )43 49 [ 原著論文 ] 着地時に生じる各体節の加速度の伝搬 1),2 杉山久晃 ), 江原義弘 1), 霜鳥大希 3), 笹岡耕陽 4) 5), 神田星衣来 キーワード : 加速度, 着地, 衝撃, 衝撃吸収 Acceleration propagation t

524 理学療法科学第 24 巻 4 号 I. はじめに現在, 公共施設などではバリアフリー化が進められているが, 個人の住環境は様々な家屋構造を持ち, 依然として旧式家屋構造には段差が多く存在する また, 家庭や職場に復帰するためには平地歩行だけでなく様々な環境を想定した応用移動動作能力が要求され

Vol.10 No

H1

...S.....\1_4.ai

中京大学体育研究所紀要 Vol 研究報告 ソフトボールのバッティングにおけるストライド長と外力モーメントの関係 堀内元 1) 平川穂波 2) 2) 桜井伸二 Relationship between stride length and external moment in softb

学 位 論 文 着 地 動 作 時 の 膝 関 節 外 反 角 度 およびモーメントに 影 響 する 要 因 の 検 討 膝 前 十 字 靱 帯 損 傷 予 防 の 観 点 から 石 田 知 也 北 海 道 大 学 大 学 院 保 健 科 学 院 保 健 科 学 専 攻 保 健 科 学 コース 20

歩行時の足部外反角度 外転角度最大値ならびに変化量は関連する,3) 歩行立脚期における舟状骨高最低位 (the lowest navicular height: 以下 LNH と略す ) 時の足部外反角度 外転角度は関連することとした. Ⅱ. 対象と方法 1. 被験者被験者は健常成人 20 名 (

スライド 1

Clinical Question 1 ACL 損傷のリスクファクターにはどのようなものがあるか 要 約 Grade B 大腿骨顆間窩幅が狭いこと, 全身関節弛緩性, 月経周期の卵胞期 ( 女性 ) が ACL 損傷のリスクファクターにあげられる. Grade C 大きな脛骨後方傾斜, 膝関節の過伸

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 八木茂典 論文審査担当者 主査 副査 大川淳 秋田恵一 森田定雄 論文題目 Incidence and risk factors for medial tibial stress syndrome and tibial stress fracture in hi

慢性足関節不安定性症例における下肢関節運動および神経筋制御の検討

北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要第 9 号 Bulletin of Hokusho University School of Lifelong Sport No. 9 平成 30 年 3 月 March, 回目の膝前十字靭帯再建術を経験した女子バスケットボール選手における大腿四頭筋とハム

Microsoft Word - 表紙、背表紙(内側) 完成.doc

肉離れ損傷者におけるパルス磁気刺激装置を利用した支配神経伝導速度の評価 鴻崎香里奈 目 次 要約 1 背景 2 方法 3 結果 6 考察 7 結論 9 謝辞 9 参考文献 10 図表 11

Ⅰ. 緒言 Suzuki, et al., Ⅱ. 研究方法 1. 対象および方法 1 6 表 1 1, 調査票の内容 図

The Most Effective Exercise for Strengthening the Supraspinatus : Evaluation by Magnetic Resonance Imaging by TAKEDA Yoshitsugu and ENDO Kenji Departm

<938C8A4395DB8C9291CC88E789C88A772E696E6462>

着地動作における膝関節アライメントの性差について

の測定 リアクティブの測定 リアクティブ 向転換能 Change Of Direction performance <CODp> (Sheppard & Young, 2006) (Henry et al., 2012) 反応課題 ( 単純 選択 専門 ) CODp の測定 ( 直線的 ) 505

国士舘大学体育研究所報第29巻(平成22年度)

要旨一般的に脚長差が3cm 以下であれば 著明な跛行は呈しにくいと考えられているが客観的な根拠を示すような報告は非常に少ない 本研究の目的は 脚長差が体幹加速度の変動性に与える影響を 加速度センサーを用いて定量化することである 対象者は 健常若年成人男性 12 名とした 腰部に加速度センサーを装着し

目次

MRI Gleim Ⅱ. 研究方法 1. 被検者 1 52 Offensive line OL Defensive line DL Line Group LG, n=14 Tight end TE Running back RB

博士学位論文 題目 前十字靭帯再建術後膝に対する機能的ウェアの開発 担当指導教員名年月日専攻名学生番号氏名 小柳磨毅印 2017 年 1 月 31 日医療福祉工学専攻 DL10A607 向井公一印 大阪電気通信大学大学院

対象 :7 例 ( 性 6 例 女性 1 例 ) 年齢 : 平均 47.1 歳 (30~76 歳 ) 受傷機転 運転中の交通外傷 4 例 不自然な格好で転倒 2 例 車に轢かれた 1 例 全例後方脱臼 : 可及的早期に整復

理学療法科学 34(2): ,2019 原著 健常者の片脚スクワット開始時の足圧中心制御について Postural Control for Initiating Single Leg Squats in Healthy Subjects 1) 山中悠紀 2) 浦辺幸夫 3) 大隈亮 2)

スポーツ教育学研究(2013. Vol.33, No1, pp.1-13)

6. Association football players showed highest mean value (8.97 N/cm2) in KES per unit of MQF area among athlete groups. Its value was significantly h

Microsoft Word - 塚本 駿

【目次】

The Stress Roentgenographic Measurement for the Diagnosis of Cruciate Insufficiency of the Knee Joint by Kazuhiko Fukushima and Kosuke Ogata Departmen

本文/02 渡辺        001‐008

Transcription:

着地動作における膝関節周囲筋前活動と膝関節外反角度およびモーメントの関係 生田亮平 < 要約 > 膝前十字靱帯 (ACL) 損傷において, 女性の着地動作中の膝外反角度およびモーメントの増加は損傷リスクとされ, 接地後早期の膝関節運動の制御には接地前筋活動 ( 前活動 ) が重要とされているが, 膝周囲筋前活動と膝外反角度およびモーメントの関係は明らかではない. 本研究の目的は女性の着地動作における膝周囲筋前活動と膝外反角度およびモーメントの関係を検証することとした. 対象は健常女性 17 名とし, 動作課題には drop vertical jump を用い, 三次元動作解析装置を用いて膝外反角度およびモーメントを算出した. また, 筋電計を用いて膝周囲筋の前活動を算出した. 結果は, 大腿二頭筋に対する半腱様筋の前活動比率と, 接地後 50ms 時および着地動作における最大の膝外反角度およびモーメントとの間に有意な負の相関を示した. 大腿二頭筋に対する半腱様筋の前活動比率は ACL 損傷リスクとされる着地動作中の膝外反角度およびモーメントを減ずるために考慮する必要性が示唆された. Ⅰ. はじめに 膝前十字靱帯 (ACL) 損傷は, 主なスポーツ外傷 の 1 つであり, 長期的なスポーツ競技からの離脱, 変形性膝関節症への移行, 経済的負担などの面から 重篤な外傷であるとされている.ACL 損傷は約 70% が非接触型損傷とされ, 他者との明らかな接触 がない着地動作やカッティング動作で生じる 1). 非接触型 ACL 損傷発生率は男性に比べ女性で 2~8 倍高く 2), 女性における非接触型 ACL 損傷リスク の検討が広く行われてきた.Hewett ら 3) は前向き調査によって女性アスリートの drop vertical jump (DVJ) における最大膝関節外反角度 ( 以下, 膝外 反角度 ) および膝関節外反モーメント ( 以下, 膝外 反モーメント ) が ACL 損傷を予測することを報告 した. また,Ford ら 4) は DVJ において, 女性は男 性に比べて最大膝外反角度および膝外反モーメント が有意に高いことを報告している. 女性の着地動作 における膝外反角度および膝外反モーメントの増加 は ACL 損傷リスクとして認識されており,ACL 損 傷発生率の性差の一因であることが示唆されている. ACL 損傷場面の調査より,ACL 損傷は初期接地 (IC) 後 50ms 以内に生じると報告されており, 着 地動作における接地後早期の膝関節運動は ACL 損 傷において重要であることが示唆されている 5) 6). しかし, 膝関節運動の制御を行う筋収縮は, その筋 活動電位が観察されてから 30~50ms 遅れて発生す ることが示されているため 7) 8), 着地動作における 接地後早期の膝関節運動の制御には接地前からの筋 活動 ( 前活動 ) が必要である. 膝関節周囲筋 ( 以下, 膝周囲筋 ) の前活動と膝外 反角度および膝外反モーメントとの関係を検討した 先行研究として,Palmieri-Smith ら 9) は女性の前方 ホップ着地における最大膝外反角度と外側広筋, 大 腿二頭筋前活動との間に有意な正の相関があり, 内 側広筋前活動との間に有意な負の相関があると報告 した. 一方で,Brown 10) らは女性の片脚着地におけ る膝周囲筋前活動と最大膝外反角度および膝外反モ ーメントとの間に有意な相関はないと報告しており, 女性の着地動作における膝周囲筋前活動と膝外反角 度および膝外反モーメントとの関係に一致した見解 は得られていない. 膝周囲筋筋活動に関する先行研究では, 女性は荷 重位での膝屈曲動作や前方ホップ着地において内側 に比べて外側の筋活動が高いことが示唆されている 11) 12). しかし, 着地動作における膝周囲筋前活動の 内外側比率と着地後の膝外反角度および膝外反モー メントとの関係を検討した報告は見当たらなく, 膝 周囲筋前活動の内外側比率に着目することは重要で あると考えられる. 本研究の目的は女性の着地動作における膝周囲筋 前活動と接地後の膝外反角度および膝外反モーメン トとの関係を検証することとした. 仮説は, 外側の 膝周囲筋前活動と膝外反角度および膝外反モーメン トとの間に有意な正の相関を認める, 内側の膝周囲 筋前活動と膝外反角度および膝外反モーメントとの 間に有意な負の相関を認める, さらに, 大腿四頭筋

図 1 マーカー, 電極貼付位置 マーカーは骨盤および下肢の骨指標, 右下肢の大腿, 下腿などに合計 39 個貼付した. 電極は大腿直筋, 内側広筋, 外側広筋, 半腱様筋, 大腿二頭筋に対して SENIAM に準じた位置に貼付した. およびハムストリングス前活動の内外側比率と膝外反角度および膝外反モーメントとの間により強い負の相関を認めることとした. Ⅱ. 対象と方法 1. 対象健常女性 17 名 ( 年齢 21.6±1.2 歳, 身長 162.0 ±5.3cm, 体重 53.1±5.5kg) を対象とした. 除外基準は下肢の骨折および ACL 損傷の既往を有する者, 過去 6 ヶ月間に下肢の整形外科的な既往を有する者とした. なお, 対象には事前に研究の背景や目的, 考えられる危険性などを説明し, 十分に理解を得てから, 参加に同意が得られた者を対象とした. また, 本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った. 2. 方法 計測は三次元動作解析装置 EvaRT4.4(Motion Analysis 社製 ) を用いて, 赤外線カメラ 6 台 ( Hawk, Motion Analysis 社製,200Hz) と床反力計 2 枚 (Type9286,kistler 社製,1000Hz), 表面筋電計 ( マルチテレメーター, 日本光電社製,1000Hz) を同期させ記録した. 赤外線反射マーカーは骨盤お よび下肢の骨指標, 右下肢の大腿, 下腿などに合計 39 個貼付した ( 図 1). 筋電計の導出筋は大腿直筋 (RF), 内側広筋 (VM), 外側広筋 (VL), 半腱様 筋 (ST), 大腿二頭筋 (BF) とし, SENIAM に 準じた位置に電極を貼付した 13) ( 図 1). はじめに各被験者の最大随意等尺性収縮 (MVIC) 時の筋活動を SENIAM に準じて記録し 13), その後 に動作課題を行った. 動作課題は 30cm 台から着地 後直ちに最大垂直跳びを行う DVJ とした ( 図 2). DVJ での最初の台からの着地の IC から膝最大屈曲までを解析相とし,SIMM6.0.2(MusculoGraphics 社製 ) を用いて各試行における膝外反角度および膝 外反モーメントを算出した. なお,IC は床反力計の 垂直成分が 10N を超えた時点とした. 静的立位姿 勢時の膝関節角度を中間位とし, 膝外反モーメント は各被験者の身長および体重で標準化した. 膝外反 角度および膝外反モーメントは IC 後 50ms 時, 解 析相における最大値をそれぞれ統計学的解析に用い た. 筋電位データは band-pass filter(20-500hz) で処理した後, 全波整流処理を行い,low-pass filter (10Hz) を用いて平滑化した. 処理された筋電位デ ータから,IC 前 50ms 間の積分値を算出し, 各筋の MVIC 時における筋電位により標準化した.MVIC 時の筋電位は 50ms の moving window を用いて 図 2 Drop vertical jump(dvj) 30cm 台から着地後直ちに最大垂直跳びを行う.

MVIC 試技中の 50ms 間積分値の最大値を算出した. さらに, 標準化された各筋の積分値から, 大腿四頭 筋およびハムストリングスの外側に対する内側の前 活動比率 (VM/VL,ST/BF) を算出した. 3. 統計学的解析 統計学的解析は,Pearson の相関係数を用いて, 各筋の前活動積分値および前活動比率 (VM/VL, ST/BF) と,IC 後 50ms 時および解析相における 最大の膝外反角度, 膝外反モーメントとの関係を検 討した.PASW18.0(IBM 社製 ) を用い, 有意水 準は 5% 未満とした. なお, 各被験者データは成功 3 試行の平均値を用いた. Ⅲ. 結果表 1,2 に全被験者の各データの平均値を, 図 3 に全被験者の膝外反角度および膝外反モーメント, 膝周囲筋前活動の平均時系列波形を示す. BF 前活動と IC 後 50ms 時の膝外反角度との間 に有意な正の相関を認めた (R = 0.59,P <0.05). 前活動比率 ST/BF と IC 後 50ms 時の膝外反角度 (R = -0.50),IC 後 50ms 時の膝外反モーメント (R = -0.55) および最大膝外反角度 (R = -0.49), 最大膝外反モーメント (R = -0.54) との間に有意 な負の相関を認めた ( すべて P <0.05)( 図 4). そ の他に統計学的に有意な相関は認めなかった. Ⅳ. 考察 本研究結果は,BF 前活動と IC 後 50ms 時の膝外 反角度との間に有意な正の相関を示した. また, 前 活動比率 ST/BF と IC 後 50ms 時の膝外反角度およ び膝外反モーメント, また, 最大膝外反角度および 膝外反モーメントとの間に有意な負の相関を示し, 仮説は一部支持された. 女性の着地動作における最大膝外反角度および最 大膝外反モーメントは ACL 損傷を予測することが 報告されており 4), 本研究結果から前活動比率 ST/BF は ACL 損傷に関連する可能性が示唆された. また,ACL 損傷は IC 後 50ms 以内に生じると報告 されている 5) 6). 本研究結果から BF 前活動および前 活動比率 ST/BF は IC 後 50ms 時の膝外反角度と有 意な相関を認め,BF 前活動を減じることは ACL 損 傷リスクとされる接地後早期の膝外反角度を減ずる ために重要である可能性が示唆された. 本研究では, 膝周囲筋の各筋の前活動と膝外反角 表 1 膝外反角度およびモーメントの平均値 度および膝外反モーメントとの関係において, どの 筋においても最大外反角度および膝外反モーメント との間に有意な相関を認めなかった. これは女性の 片脚着地における膝周囲筋前活動と最大膝外反角度 および膝外反モーメントとの間に有意な相関がない と報告した先行研究 10) を支持するものである. 一方, 前活動比率 ST/BF と IC 後 50ms 時および解析相に おける最大の膝外反角度, 膝外反モーメントとの間 に有意な負の相関を示した. このことから, 膝外反 角度および膝外反モーメントとの関係において, 膝 周囲筋前活動の内外側比率に着目することは重要で あると考えられる. 平均値 ±SD 膝外反角度 ( ) IC 後 50ms 時 2.8 ± 4.9 最大値 0.2 ± 0.1 膝外反モーメント (Nm/(m*kg)) IC 後 50ms 時 11.4 ± 5.5 最大値 0. 4 ± 0.1 表 2 膝周囲筋前活動の各筋および内外側比率の平均値 平均値 ±SD 膝周囲筋前活動 (%MVIC) RF 31.9 ± 14.9 VM 45.1 ± 22.3 VL 40.1 ± 16.6 ST 24.9 ± 11.0 BF 14.9 ± 6.4 膝周囲筋前活動内外側比率 VM / VL 1.1 ± 0.3 ST / BF 1.8 ± 0.7 また, 前活動比率 VM/VL と膝外反角度および膝 外反モーメントとの間に有意な相関を認めなかった. 過去に, 大腿四頭筋およびハムストリングスは膝内 反 外反モーメントアームを有しているが, ハムス トリングスは大腿四頭筋と比較して, 膝内反 外反 モーメントアームが大きいと報告されている 14) 15). これらの報告から, ハムストリングスの方が膝内 反 外反運動により影響を与えた可能性が考えられ る. そのため, 前活動比率 ST/BF と接地後の膝外 反角度および膝外反モーメントとの間に有意な負の

相関を示し, 前活動比率 VM/VL と膝外反角度およ び膝外反モーメントとの間には有意な相関を認めな かったことが考えられる. Zebis ら 16) は前向き調査によって, 女性の半腱様 筋前活動の低下は ACL 損傷を予測すると報告した. 本研究は大腿二頭筋に対する半腱様筋の前活動比率 の低下は接地後の膝外反角度および膝外反モーメン トを増加させる関係を示し, 半腱様筋前活動の低下 が ACL 損傷リスクであるとする Zebis 16) らの報告 を支持する結果であった. また, 本研究では大腿二 頭筋前活動と接地後早期の膝外反角度との間に正の 相関を認め, 大腿二頭筋前活動の増加も ACL 損傷 リスクに関連する要素の 1 つである可能性が考えら れる. 神経筋トレーニングにより半腱様筋の接地前およ び接地後の筋活動は増加することが報告されており 17), ハムストリングス前活動の内外側比率には介入 図 3 膝外反角度, 膝外反モーメント, 膝周囲筋前活動の平均時系列波形 上図 : 膝外反角度, 膝外反モーメントの平均時系列波形を示す. 下図 : 膝周囲筋前活動の平均時系列波形を示す. 上下の図はともに IC 前 50ms から IC 後 200ms までの変化を示す. 図 4 前活動比率 ST/BF と最大膝外反角度および膝外反モーメントの関係 左図 : 横軸は前活動比率 ST/BF, 縦軸は最大膝外反角度を示し, の余地があることが示唆されている. 以上のことから,ACL 損傷予防においてハムス トリングス前活動の内外側比率は考慮する必要性が 示唆された. 本研究の限界として,1 つ目に筋活動に関する検 討であるため, 実際の動作中にどの程度の筋張力が 発揮されていたかは不明であることが挙げられる. 2 つ目に, 本研究では膝外反角度および膝外反モー メントを結果としているが, 実際に ACL の歪みや 張力にどの程度影響しているかは不明であることが 挙げられる.3 つ目に, 他に膝外反角度および膝外 反モーメントに影響を与えると考えられている因子 ( 股関節周囲筋筋活動, 足部アライメント, 解剖学 的因子など ) を検討していないため, それらの因子 と比較してどちらの影響が大きいかは不明であるこ とが挙げられる. 本研究は, 女性を対象に着地動作における前活動 比率 ST/BF と IC 後 50ms 時および解析相におけ る最大の膝外反角度および膝外反モーメントとの間 に有意な負の相関を示した. 本研究で用いたハムス トリングス前活動の内外側比率に着目することは, 膝外反角度および膝外反モーメントを減じる可能性 が示唆され, 非接触型 ACL 損傷予防の貢献に重要 であると考えられた. 有意な負の相関を認める. 右図 : 横軸は前活動比率 ST/BF, 縦軸は最大膝外反モーメント を示し, 有意な負の相関を認める.

謝辞 本稿を終えるにあたり, ご指導いただきました諸先 生方, 本学保健科学院大学院生の石田知也氏, 谷口 翔平氏, 上野亮氏, ならびに被験者を快諾していた だきました本学学生の皆様に深く感謝いたします, 引用文献 1) Boden BP, et al. : Mechanisms of anterior cruciate ligament injury. Orthopedics. 23 : 573-578, 2000. 2) Arendt EA, et al. : Anterior cruciate ligament injury patterns among collegiate men and women. J. Athl. Train. 34(2) : 86-92, 1999. 3) Hewett TE, et al. : Biomechanical measures of neuromuscular control and valgus loading of the knee predict anterior cruciate ligament injury risk in female athletes: a prospective study. Am. J. Sports. Med. 33 : 492 501, 2005. 4) Ford KR, et al. : Valgus knee motion during landing in high school female and male basketball players. Med. Sci. Sports. Exer. 35 : 1745-1750, 2003. 5) Krosshaug T, et al. : Mechanisms of anterior cruciate ligament injury in basketball: video analysis of 39 cases. Am. J. Sports. Med. 35:359-367, 2007. 6) Koga H, et al. : Mechanisms for noncontact anterior cruciate ligament injuries: knee joint kinematics in 10 injury situations from female team handball and basketball. Am. J. Sports. Med. 38(11) : 2218-2225, 2010. 7) Zhou S, et al. : Effects of fatigue and sprint training on electromechanical delay of knee extensor muscles. Eur. J. Appl. Physiol. Occup. Physiol. 72(5-6) : 410-416, 1996. 8) Minshull C, et al. : Effects of acute fatigue on the volitional and magnetically-evoked electromechanical delay of the knee flexors in males and females. Eur. J. Appl. Physiol. 100(4) : 469-478, 2007. 9) Palmieri-Smith RM, et al. : Association between preparatory muscle activation and peak valgus knee angle. J. Electromyogr. Kinesiol. 18(6) : 973-979, 2008. 10) Brown TN, et al. : Associations between lower limb muscle activation strategies and resultant multi-planar knee kinetics during single leg landings. J. Sci. Med. Sport. (13) : 00136-00139, 2013. 11) Myer GD, et al. : The effects of gender on quadriceps muscle activation strategies during a maneuver that mimics a high ACL injury risk position. J. Electromyogr. Kinesiol. 15(2) : 181-189, 2005. 12) Palmieri-Smith RM, et al. : Association of quadriceps and hamstrings cocontraction patterns with knee joint loading. J. Athl. Train. 44(3) : 256-263, 2009. 13) SENIAM : http://www.seniam.org/ 14) Lloyd DG, et al. : Muscle and ligament contributions to the support of varus-valgus knee moments determined by biomechanical modeling and experimental data. Proc. Am. Soc. Biomech. (18) : 119-120, 1994. 15) Buchanan TS, et al. : Muscle activation at the human knee during isometric flexion-extension and varus-valgus loads. J Orthop. Res. 15(1) : 11-17, 1997. 16) Zebis MK, et al. : Identification of athletes at future risk of anterior cruciate ligament ruptures by neuromuscular screening. Am. J. Sports. Med. 37(10) : 1967-1973,2009. 17) Zebis MK, et al. : The effects of neuromuscular training on knee joint motor control during sidecutting in female elite soccer and handball players. Clin. J. Sport. 18(4) : 329-337, 2008. ( 指導教員 : 山中正紀 )