収益認識に関する会計基準

Similar documents
1 本会計基準等の概要以下の概要は 本会計基準等の内容を要約したものです 本会計基準等の理解のために 本会計基準等の基本となる原則である収益を認識するための 5 つのステップについて 別紙 1 に取引例及びフローを含めた説明を示しています また 本会計基準等と従来の日本基準又は日本基準における実務と

03-08_会計監査(収益認識に関するインダストリー別③)小売業-ポイント制度、商品券

(10) 顧客による検収 80 (11) 返品権付きの販売 工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱い 重要性等に関する代替的な取扱い 91 (1) 契約変更 91 (2) 履行義務の識別 92 (3) 一定の期間にわたり充足される履行義務 94 (4) 一時点で充足される履

(10) 顧客による検収 80 (11) 返品権付きの販売 工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱い 重要性等に関する代替的な取扱い 92 (1) 契約変更 92 (2) 履行義務の識別 93 (3) 一定の期間にわたり充足される履行義務 95 (4) 一時点で充足される履

新収益認識基準に関するFASB及びIASBの改訂案

[ 設例 11] 返品権付きの販売 [ 設例 12] 価格の引下げ [ 設例 12-1] 変動対価の見積りが制限されない場合 [ 設例 12-2] 変動対価の見積りが制限される場合 [ 設例 13] 数量値引きの見積り 7. 顧客に支払われる対価 [ 設例 14] 顧客に支払われる対価 8. 履行義

日本基準基礎講座 収益

できる 105. 前項の取扱いを適用する場合には 次の事項を注記する (1) その旨及び決算月に実施した計量の日から決算日までに生じた収益の見積りが極めて困難と認められる理由 (2) 当連結会計年度及び当事業年度の決算月の翌月に実施した計量により確認した使用量に基づく収益の額 ( この収益の額が 決

(1) 契約の識別契約の識別にあたって 厳密な法律上の解釈まで必要とするのか あるいは過去の商慣習等で双方の履行が合理的に期待される程度の確認で済むのかが論点となります 基本的に新しい収益認識基準では 原則として法的な権利義務関係の存在を前提とします また 業界によっては 長年の取引慣行のみで双方が

開発にあたっての基本的な方針 97 Ⅰ. 範囲 102 Ⅱ. 用語の定義 110 Ⅲ. 会計処理等 114 (IFRS 第 15 号の定め及び結論の根拠を基礎としたもの ) 基本となる原則 収益の認識基準 117 (1) 契約の識別 117 (2) 契約の結合 121 (

IFRS基礎講座 IAS第11号/18号 収益

IFRS_14_03_12_02const.indd

3. 改正の内容 法人税における収益認識等について 収益認識時の価額及び収益の認識時期について法令上明確化される 返品調整引当金制度及び延払基準 ( 長期割賦販売等 ) が廃止となる 内容改正前改正後 収益認識時の価額をそれぞれ以下とする ( 資産の販売若しくは譲渡時の価額 ) 原則として資産の引渡

IFRS 第 15 号の定めの表現の置換え 4. 下表では IFRS 第 15 号の基準本文 ( 適用指針を含む ) の日本語訳を左の列に示し 表現を見直した文案を右の列に示している (1) 表に用いられている色は 以下を表す ( ) は IFRS 第 15 号における項番号を表す 青色 : 企業会

Report

「収益認識に関する会計基準等」インダストリー別解説シリーズ(1)_第1回_メディア・コンテンツ業界─ライセンスの供与

会計上異なる結果が生じる可能性があるとしていま す イセンス付与に関しても 約定の性質の定義に係る ガイダンス等 IASB がの必要なしと決定した論 点についてを加えています 両審議会は 以下の論点については同じ修正を行っています a. 履行義務の識別 b. 本人か代理人かの検討 c. 売上高ベース

平成 26 年 5 月に 顧客との契約から生じる収益 (IASB においては IFRS 第 15 号 ( 平成 30 年 1 月 1 日 以後開始事業年度から適用 ) FASB においては Topic606( 平成 29 年 12 月 15 日後開始事業年度から適 用 )) を公表しました これらの

IFRS_2017_sp_01.indd

平成30年公認会計士試験

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の概要

売上減少か?-「収益認識に関する論点の整理」

ならないとされている (IFRS 第 15 号第 8 項 ) 4. 顧客との契約の一部が IFRS 第 15 号の範囲に含まれ 一部が他の基準の範囲に含まれる場合については 取引価格の測定に関する要求事項を設けている (IFRS 第 15 号第 7 項 ) ( 意見募集文書に寄せられた意見 ) 5.

MOTHER BRAIN MONTHLY REPORT 30 SEPTEMBER 2018 ステップ 5 では まず一定期間にわたって売上を計上すべき取引かどうかを判定します 以下 (1)(2)(3) の要件いずれかを満たす場合は 物品またはサービスに対する支配が一定の期間にわたり顧客に移転するもの

Microsoft Word - M&A会計 日本基準とIFRS 第5回.doc

「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」及び

<4D F736F F D208CDA8B7182C682CC8C5F96F182A982E790B682B682E98EFB897682C98AD682B782E9985F935F82CC90AE979D2E646F6378>

米国会計関連情報 最近の論点 No.14-49

PowerPoint プレゼンテーション

収益論点整理

第 373 回企業会計基準委員会 資料番号審議事項 (7)-2 日付 2017 年 11 月 22 日 プロジェクト 項目 収益認識に関する会計基準の開発 公開草案に寄せられた主なコメントの概要 本資料の目的 1. 企業会計基準委員会は 2017 年 7 月 20 日に 次の企業会計基準及び企業会計

Microsoft Word - 07 資料_3_-4.doc

IFRS_15-01_02_re.indd

Microsoft Word - Applying IFRS - Software and cloud services.docx

CL23 PwCあらた監査法人 平成 28 年 5 月 31 日 企業会計基準委員会御中 PwC あらた監査法人品質管理本部アカウンティング サポート部 収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集 に対するコメント 拝啓時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます さて 貴委員会から

IFRS基礎講座 IAS第12号 法人所得税

1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

目次 このガイドについて 1 概要 2 範囲およびコア原則 4 収益認識モデルの 5 ステップ 5 さらなるガイダンスの分野 14 追加の検討 16 開示 17 経過措置 19 最終的な考察および広範囲の論点 21

第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

IFRS_15-01_02_ls.indd

質問 2 財務諸表作成者の実務負荷及び監査人の監査負荷を必要以上に増大させる契約の分割には反対である その理由は以下のとおりである 当初の取引価格算定時点においては 契約の分割と履行義務の識別という2 段階のステップを経ずとも 履行義務の識別が適正になされれば適正な取引価格が算定可能である 契約の分

IFRS基礎講座 IFRS第1号 初度適用

新しい収益認識基準が収益以外に及ぼす影響

有償ストック・オプションの会計処理が確定

関する IFRS-IC の議論が IASB と FASB により共同で行われている IFRS 第 15 号に関する移行リソースグループ (TRG) における議論と不整合を生じさせる可能性が危惧されたためである 論点の所在 4. 今回 明確化が要請された会計処理に関する主な論点は 銀行がプリペイド カ

ことも認められています 施行日前 ( 平成 26 年 3 月 31 日以前 ) にリース契約を締結し リース資産の引渡しを行ったリース取引についてこの特例により賃貸借処理を行っている場合には 旧税率の 5% が適用されます 3. 資産の貸付け に関する経過措置指定日の前日 ( 平成 25 年 9 月

IFRS基礎講座 IAS第37号 引当金、偶発負債及び偶発資産

Microsoft PowerPoint - ASC 606 New Revenue Recognition in JP

IFRS第15号 顧客との契約から生じる収益

IFRS基礎講座 IAS第21号 外貨換算

日本基準基礎講座 資本会計

第4期電子公告(東京)

リース取引に関する会計基準

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

[2] のれんの発生原因 企業 ( または事業 ) を合併 買収する場合のは 買収される企業 ( または買収される事業 ) のおよびを 時価で評価することが前提となります またやに計上されていない特許権などの法律上の権利や顧客口座などの無形についても その金額が合理的に算定できる場合は 当該無形に配

図と設例による解説 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

リリース

IFRS Global office 2011 年 11 月 IFRS in Focus 注 : 本資料は Deloitte の IFRS Global Office が作成し 有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです この日本語版は 読者のご理解の参考までに作成したものであり 原文については英語

平均株価は 東証が公表する当該企業普通株式の終値の算術平均値を基準とした値とする 調整取引の結果 経済的には自社株を平均株価で取得したのと同様の結果となる 企業は株価上昇時の支払いのために 証券会社に新株予約権を割り当てる ステップ 3 : 株価上昇時は 新株予約権が権利行使され 差額分に相当する株

スライド 1

改正法人税法により平成 24 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度については法人税率が 30% から 25.5% に引き下げられ また 復興財源確保法により平成 24 年 4 月 1 日から平成 27 年 3 月 31 日までの間に開始する事業年度については基準法人税額の 10% が復興特別法人

無断複写 転用 転記を禁じます 国際財務報告基準 (IFRS) 連結財務諸表シリーズ シリーズ <5>IAS 第 31 号 ジョイント ベンチャーに対する持分 ( 平成 22 年 7 月 31 日現在 ) 1. ジョイント ベンチャーの対する持分 ( 総論 ) 本シリーズでは ジョイント ベンチャー

2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

図と設例による解説 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

IFRS 新リース会計基準 公開草案の概要 社団法人リース事業協会 本稿は 国際会計基準審議会 (IASB) 及び米国財務会計基準審議会 (FASB) が 2010 年 8 月 17 日に公表した公開草案 リース ( 以下 リース ED という ) の概要である リース ED の原文は英語であるが

ASBJ「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」の概要

特 別 座 談 会 収益認識に関する 会計基準 案 のポイント 売上計上基準はどう変わるのか 2017年 7月 ASBJより公開草案 収益認識に関する会計基準 案 等が公表されました これは 売上計上に関 する包括的な会計基準の草案です わが国においては収益認識に関する包括的な会計基準が設定されてい

新収益認識基準が企業経営に与える影響の考察~業種別シリーズ 小売流通業~

各位 2018 年 11 月 13 日 会社名株式会社リクルートホールディングス代表者名代表取締役社長兼 CEO 峰岸真澄 ( コード番号 :6098 東証一部 ) 問合せ先取締役兼専務執行役員兼 CFO 佐川恵一 ( 電話番号 ) ( 訂正 数値データ訂正 ) 2019 年

IFRSにおける適用上の論点 第27回

日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

2019 年 3 月期第 2 四半期決算短信 IFRS ( 連結 ) 2018 年 10 月 31 日 上場会社名 アイシン精機株式会社 上場取引所東名 コード番号 7259 URL 代表者 ( 役職名 ) 取締役社長 ( 氏名 ) 伊勢清貴 問合せ先

その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の

本則課税の場合科目等 No. 主な項目チェック摘要 1 課税事業者 H27 課税期間の基準期間における課税売上高を確 の判定 014 認したか H27 事業年度を変更している場合等 前々事業年 015 度が1 年未満の場合の基準期間を確認したか ( 法人の場合 ) H27 基準期間が1 年でない場合

位の決定 ステップ1 2 ②収益の測定 ステップ3 4 ③収益の認識 ステップ 5 を行っていく必要がありますこれまでの収益認識では 単純に契約金額で収益を測 定し その収益がいつ実現したか否かによって収益の期間帰属を決定してきましたしか し新しい収益認識基準では ひとつの契約の中に変動対価や複数の

設例 [ 設例 1] 法定実効税率の算定方法 [ 設例 2] 改正地方税法等が決算日以前に成立し 当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日に成立していない場合の法定実効税率の算定 本適用指針の公表による他の会計基準等についての修正 -2-

営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

本実務対応報告の概要 以下の概要は 本実務対応報告の内容を要約したものです 範囲 ( 本実務対応報告第 3 項 ) 本実務対応報告は 資金決済法に規定する仮想通貨を対象とする ただし 自己 ( 自己の関係会社を含む ) の発行した資金決済法に規定する仮想通貨は除く 仮想通貨交換業者又はが保有する仮想

上場有価証券等書面

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

改正消費税法の実施に先立ち施行日をまたぐ取引の適用税率と経過措置の再確認(その1)

IFRS実務トピックニューズレター ~銀行業~

平成26年度 第138回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

営業報告書

目次 1. 回収可能性適用指針の公表について (1) 公表の経緯 (2) 税効果会計プロジェクトの全体像 (3) 適用時期 2. 回収可能性適用指針の概要 (1) 繰延税金資産の回収可能性の基本的な考え方 (2) 課税所得と一時差異等加減算前課税所得 (3) 企業の分類に応じた取扱い総論 (4) 各

日本基準基礎講座 退職給付

Microsoft Word - Q&A 第22回 2892号2008年11月08日.doc

Microsoft Word - 決箊喬å‚−表紎_18年度(第26æœ�ï¼›

念.pwd

1. 国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 抜粋 翻訳 ) 国際財務報告基準に準拠した財務諸表の作成方法について当行の国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 以下 IFRS 財務諸表 という ) は 平成 27 年 3 月末時点で国際会計基準審議会 (IAS B) が公表している基準及び解釈指針に

( 注 ) ( 注 ) リスク分担型企業年金では 標準掛金額に相当する額 特別掛金額に相当する額及びリスク対応掛金額に相当する額を合算した額が掛金として規約に定められるため 本実務対応報告では 規約に定められる掛金の内訳として 標準掛金相当額 特別掛金相当額 及び リスク対応掛金相当額 という用語を

Microsoft Word - 公開草案「中小企業の会計に関する指針」新旧対照表

Microsoft Word 午前角田★RHC-Leases-May2016_日本語版.docx

< D AC48DB C88B BE2836C C888E5A8F B835E2E786C73>

1 区分表示とは 有償発行分 無償発行分が利用者から見て 表示事項やデザインによって明確に区別することが可能であることであり 2 区分管理とは 発行者の帳簿書類上でも区分して管理されていることとなります (GL I-2-1 (3)) なお 従来は区分表示も区分管理もなされておらず ある時点から区分表

参考 企業会計基準第 25 号 ( 平成 22 年 6 月 ) からの改正点 平成 24 年 6 月 29 日 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 の設例 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 平成 22 年 6 月 30 日 ) の設例を次のように改正

第28期貸借対照表

Transcription:

収益認識に関する会計基準 ( 公開草案 ) アヴァンセコンサルティング株式会社 公認会計士 税理士野村昌弘 平成 29 年 7 月 20 日に 日本の会計基準の設定主体である企業会計基準委員会から 収益認識に関する会計基準 ( 案 ) 収益認識に関する会計基準の適用指針( 案 ) が公表されました 平成 29 年 10 月 20 日までコメントを募集しており その後コメントへの対応を検討 協議し 平成 30 年 3 月までに最終基準を公表することを目標としています 1 設定の趣旨日本では 企業会計原則に 売上高は 実現主義の原則に従い 商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る との記載があるほか 収益認識に関して包括的な会計基準は設定されていませんでした これに対して 国際財務報告基準 (IFRS) や米国基準には 共同して開発した収益認識に関する包括的な会計基準がありました そのため 日本でも収益認識に関する包括的な会計基準を設定することになりました また IFRS や米国基準の収益認識基準の適用が 平成 29 年 12 月又は平成 30 年 1 月以後開始事業年度からとなっています 日本の上場会社が適用する会計基準は 現在 日本基準 米国基準 IFRS IFRS の一部を修正した修正国際基準のいずれかを適用することとされており 適用予定を含めると IFRS 適用会社は直近では 150 社を超えてきています 連結財務諸表が IFRS や米国基準の収益認識基準を適用するのに対して 個別財務諸表も同一の会計処理を行いたいとの IFRS 適用会社等の要望もありました そこで 今回の会計基準は 国内外の企業間における財務諸表の比較可能性の観点から IFRS 第 15 号 顧客との契約から生じる収益 の定めを基本的にすべて取り入れ 日本国内の適用上の課題については代替的な取扱いを追加的に定めるようにしている点が 従来の会計基準と大きく異なっています なお 中小企業においては 中小企業の会計に関する指針 中小企業の会計に関する基本要領 が用いられますが 企業会計基準を適用することも妨げられないとされています 2 収益を認識するための 5 つのステップ今回の会計基準は 約束した財又はサービスの顧客への移転を 当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように 収益を認識する ことを基本原則としています そのうえで 次の 5 つのステップにより収益を認識することとされています (1) 顧客との契約を識別する (2) 契約における履行義務 ( 収益認識の単位 ) を識別する (3) 取引価格を算定する 1

(4) 契約における履行義務に取引価格を配分する (5) 履行義務を充足した時 ( 一時点 ) に又は充足するにつれて ( 一定の期間 ) 収益を認識する 設例でみていきましょう 当期首に製品 A の販売と 2 年間の保守サービスを提供する 1 つの契約を顧客と締結したとします この契約の対価は 15,000 千円と契約書に記載されています 当期首に製品 A を顧客に引き渡し 当期首から翌期末まで保守サービスを行います これを 5 つのステップに当てはめていきます ステップ 1: 顧客との契約を識別します 設例では顧客と締結した 製品 A の販売と 2 年間の保守サービスを提供する 契約です ステップ 2: 製品 A を引き渡す という履行義務と 2 年間の保守サービスを提供する という履行義務を識別します ステップ 3: 取引価格は契約書に記載されている対価 15,000 千円と算定します ステップ 4: 取引価格 15,000 千円を各履行義務に配分します ここでは 製品 A の取引価格が 12,000 千円 2 年間の保守サービスの取引価格が 3,000 千円であったとします ステップ 5: 履行義務の性質に基づき 履行義務の充足時点 ( 収益の認識時点 ) を決定します 製品 A の販売は引渡時 すなわち履行義務を充足した一時点で収益を認識します これに対して 保守サービスの提供は当期と翌期の 2 年間にわたって履行義務が充足されますので 一定の期間 ( 当期と翌期の 2 年間 ) にわたって収益を認識します ステップ 1: 契約の識別 ステップ 2: 履行義務の識別 ステップ 5: 収益認識 製品 A の販売と 2 年間の保守サービスを提供する 契約 取引価格 15,000 千円 製品 A を引き渡す履行義務 2 年間の保守サービスを提供する履行義務 取引価格 12,000 千円 取引価格 3,000 千円 製品 A の販売は引渡時 すなわち履行義務を充足した一時点で収益を認識 保守サービスの提供は一定の期間 ( 当期と翌期の 2 年間 ) にわたって収益を認識 ステップ 3: 取引価格の算定 ステップ 4: 取引価格を履行義務に配分 これが今回の収益認識の基本原則です 2

3 主な留意点 (1) 契約の結合 契約変更今回の会計基準では まず契約を識別しなければなりません 従って 同一の顧客と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について 一定の場合には 複数の契約を結合して単一の契約とみなして処理することになります また 契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格の変更があった場合には 一定の要件にあてはめ 独立した契約として処理するのか 既存の契約を解約し新しい契約を締結したものと仮定して処理するのか 既存の契約の一部であると仮定して処理するのかを決定します 従来にはない概念ですので 留意が必要です (2) 財又はサービスに対する保証財又はサービス対して保証するというのはよくある話です これについては 財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証であるか 顧客にサービスを提供する保証 ( 保証サービス ) であるかによって 会計処理が異なります 前者であれば保証については引当金として処理し 後者であれば保証サービスを履行義務として識別し 取引価格を当該履行義務に配分します (3) 本人と代理人の区分従来の会計基準では明確なものがありませんでした 今回の会計基準では 約束の履行に主たる責任を有しているか 在庫リスクを有しているか 価格設定について裁量権を有しているか等に着目し 財又はサービスを自ら提供するのであれば 本人に該当し 収益は総額表示します これに対して 他の当事者による財又はサービスの提供を手配しているのみであれば 代理人に該当し 収益は純額表示します 小売業における消化仕入は影響を受けることになります (4) 自社ポイントの付与自社ポイントを付与し 次回以降ポイントを使用するといった取引はよく行われています 現行は将来に使用されるであろうポイント費用を引当金として計上する実務が多かったと考えられます 今回の会計基準では ポイントの付与を履行義務として識別し 商品の販売とポイントに取引価格を配分することになり 引当金処理は認められなくなります (5) 一時点で収益認識するか 一定の期間にわたり収益認識するか財又はサービスに対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転することとなる要件に該当していれば 一定の期間にわたり収益を認識します 具体的には 次の 3 つの要件のいずれかを満たす場合となります 該当しなければ 一時点で収益を認識します 3

ⅰ. 契約における義務を履行するにつれて 顧客が便益を享受すること ⅱ. 契約における義務を履行することにより 資産が生じる又は資産の価値が増加し それにつれて顧客が当該資産を支配すること ⅲ. 次の要件のいずれも満たすこと a) 契約における義務を履行することにより 別の用途に転用することができない資産が生じる又はその価値が増加すること b) 契約における義務の履行を完了した部分について 対価を収受する強制力のある権利を有していること (6) 出荷基準等の取扱い日本では商品等の販売について 出荷した時点で収益認識する出荷基準を採用している企業も多く存在します この点について 今回の会計基準では 国内の販売において 出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合は 出荷時や着荷時に収益を認識することができるとされています なお 日本では割賦販売において 割賦金の回収期限の到来日又は入金日に収益認識することも認められていましたが 今回の会計基準では 商品又は製品の販売時に収益を認識することとされており 割賦基準は認められません (7) 顧客により行使されない権利 ( 商品券等 ) 発行した商品券等 顧客から企業に返金が不要な前払いがなされた場合 現行の日本基準では一定期間経過後に一括して未使用部分を収益として認識している例が多かったと考えられます 今回の会計基準では 非行使部分について 企業が将来において権利を得ると見込まれる場合には 顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識します また 権利を得ると見込まれない場合には 顧客が残りの権利を行使する可能性が非常に低くなった時に収益を認識します (8) 返金不要な取引開始日の顧客からの支払 ( 入会金等 ) 返金を要しない入会金等を収受した場合 現行の日本基準では一括して収益を認識する処理と契約期間で按分計上する処理が見られました 今回の会計基準では 支払を受けた時点では収益を認識せず 将来の財又はサービスを提供する時に収益を認識します (9) ライセンスの供与ソフトウェア 特許権 フランチャイズ等のライセンスについて ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利の提供であれば 一定の期間にわたり収益を認識します これに対して ライセンスが供与された時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の提供であれば 一時点で収益を認識します 4

(10) 買戻契約 返品権付きの販売企業が商品又は製品を買い戻す義務を有するか 企業が商品又は製品を買い戻す権利を有する場合には 収益認識は認められず リース取引又は金融取引として処理します これに対して 企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務を有する場合には リース取引 金融取引又は返品権付きの販売として処理します 有償支給取引は影響を受けることになります 返品権付きの販売については 現行の日本基準では 収益認識し 返品が見込まれる分について返品調整引当金を計上する処理が多いと考えられます 今回の会計基準では 企業が権利を得ると見込む対価の額で収益認識し 返品されると見込まれる商品又は製品の対価は収益認識しません (11) 第三者のために回収する額 ( 消費税等 ) 現行の日本基準では 消費税等の会計処理について 税抜方式と税込方式が認められています 今回の会計基準では 収益の額には第三者のために回収する額は含まれないとされており 消費税等は収益認識しません (12) 変動対価今回の会計基準では 顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分について 変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に 解消される時点までに計上された収益の著しい減額は発生しない可能性が非常に高い部分に限り 取引価格に含めるとされています 変動対価の収益認識は慎重に行う必要があります (13) 契約における重要な金融要素今回の会計基準では 契約において重要な金融要素が含まれる場合 金利相当分の影響を調整します なお 収益認識時から入金時までの間が 1 年以内であると見込まれる場合には 金利相当分の影響を調整しないことができるとされています (14) 顧客に支払われる対価顧客に対してキャッシュバックや値引き等が行われる場合 現行の日本基準では対価を支払う際に収益から減額する処理と販売費を計上する処理が見られました 今回の会計基準では 顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き 取引価格から減額します 販売費を計上する処理は原則認められません 4 適用時期 今回の会計基準は 平成 33 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首か 5

ら適用します 約 3 年の準備期間がありますので システム対応を含め会計処理を検討する必要があります また 今回の会計基準は IFRS 適用会社の個別財務諸表上の会計処理を連結財務諸表上の会計処理と合わせる目的がありますので 平成 30 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用を認めています また 12 月決算会社等も考慮して 平成 30 年 12 月 31 日に終了する連結会計年度及び事業年度から平成 31 年 3 月 30 日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表からの早期適用を認めています 5おわりに今回の会計基準は IFRS 第 15 号を基礎に作成されていますので 基準をよく理解し 企業としての会計処理を慎重に検討していく必要があります また 今回の会計基準の制定による税務の動向にも今後注意が必要です 公開草案は以下のホームページより入手できますので ご参考にしてください https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2017/2017-0720.html 6