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年次別 主な病原体別の食中毒事件数の推移 * 腸管出血性大腸菌を含む

平成 30 年東京都食中毒発生状況 ( 速報値 ) 平成 30 年 8 月 31 日現在 8 月末までの都内の食中毒の発生状況が 東京都から公表されました 昨年と比較すると 件数では 30% 増 患者数では 46% 減となっています 最近 10 年間の平均と比較すると 患者数はほぼ同じですが発生件数

 

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菌名原因食品及び感染したときの症状特徴 黄色ブドウ球菌 原因食品 : 弁当 おにぎりなど潜伏期間 :1~5 時間症状 : 吐き気 おう吐 下痢 腹痛などの症状が現れます ヒトや動物の化膿した傷口やおできなどに存在し 食品に付着し増殖するときに毒素を作ります 毒素は熱や乾燥に強い性質があります ウエル

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2 食中毒ってなんですか? 飲食物を摂取することによって起きる 急性の胃腸障害を主症状とする健康障害のこと 大部分の食中毒事例は ある種の微生物により発生 ただし 原因 ( 病因物質 ) によっては 主症状が胃腸障害以外のものもある 昔は 食あたり とも呼ばれていた

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(3) 食中毒 ( 感染症 ) の症状 セレウス菌食中毒は その臨床症状から嘔吐型と下痢型の二つに分けられます それぞれ の特徴は 表のとおりです 1), 2) 嘔吐型食中毒 下痢型食中毒 発症菌量 10 5 ~10 8 /g 10 5 ~10 8 /g 毒素産生場所 食品 小腸 潜伏期間 0.5~

はじめに 食中毒とは 食中毒を起こす微生物が付着して増殖した飲食物や 有毒又は有毒な化学物質 ( 自然毒 ) が含まれている飲食物を摂取することによって起こる健康障害です 東京都では 毎年 100 件程度発生する食中毒ですが 食中毒の大部分を占めるのは微生物による食中毒です このたび 食品衛生に関わ

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目 次 1. はじめに 1 2. 組成および性状 2 3. 効能 効果 2 4. 特徴 2 5. 使用方法 2 6. 即時効果 持続効果および累積効果 3 7. 抗菌スペクトル 5 サラヤ株式会社スクラビイン S4% 液製品情報 2/ PDF

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もあるため 調理室内へは持ち込まないようにすることを理解させることが重要である その他 調理室内の網戸の破れによる不適が 26.8% の施設で見られた これは前年度とほぼ同値であり 改善が進んでいない 網戸の破れはハエなどの衛生害虫等の侵入経路になる可能性があるため 早急な補修が望まれる 一方 調理

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その他の病原大腸菌 ( 下痢原性大腸菌 ) 腸管毒素原性大腸菌 (Enterotoxigenic E. coli : ETEC) 腸管侵入性大腸菌 (Enteroinvasive E. coli :EIEC) 汚染源 : 糞便赤痢様大腸炎 : 腹痛 血液や粘液混入の下痢 嘔吐 発熱 寒気 腸管病原性

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写 29 生畜第 50 号平成 29 年 4 月 10 日 一般社団法人日本養蜂協会会長大島理森殿一般社団法人全国はちみつ公正取引協議会会長早川幸男殿 農林水産省生産局畜産部畜産振興課長食肉鶏卵課長 蜂蜜を原因とする乳児ボツリヌス症予防に係る注意喚起について 今般 東京都足立区において 乳児に対し離

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Q&A(各自治体宛)

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胃腸炎による入院患者の管理胃腸炎患者の症状が重くて 入院することがあります 入院患者の管理をしなければいけないことが 病院小児科の特異的なところだと思いますので その点に重点を置いてこれからお話しします 胃腸炎の患者が入院しなければいけない時には多くの患者が脱水になっているため 適切な補液が最も重要

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微生物食中毒の 現状と予防 秋田栄養短期大学栄養学科松本比佐志

食中毒とは? 有害な微生物や, 有毒な化学物質 ( 自然毒など ) を含む飲食物をヒトが口から摂取した後, 比較的急性に起こる嘔吐や下痢や発熱などの疾病 ( 中毒 ) の総称である. 嘔吐 下痢 腹痛 悪寒 発熱 神経麻痺

食中毒の分類 有害な微生物 ウイルス正二十面体構造ノロウイルス, サポウイルス, ロタウイルス, A 型 /E 型肝炎ウイルスなど. 細菌毒素型 : 黄色ブドウ球菌, ボツリヌス菌など. 感染型 : サルモネラ属菌, 病原大腸菌, 腸炎ビブリオ, ウエルシュ菌, カンピロバクターなど. ( 寄生虫, 原虫 ) 統計は2013 年よりアニサキス, 胞子虫類 ( クドア, サルコシスティス ), 横川吸虫, 日本海裂頭条虫など.

食中毒の分類 有毒な化学物質 自然毒動物性 : フグ毒, 貝毒, シガテラ毒など. 植物性 : 毒キノコ, ジャガイモの芽や緑変部, 青梅など. 化学物質メタノール, PCB, ヒ素, 鉛, 農薬など. 他に, ヒスタミン ( アレルギー様食中毒 ) など. ( 食物アレルギーはアレルギー疾患に分類される.)

不明 自然毒 食中毒発生患者数 サルモネラ属菌 SRSV ( ノロウイルスが主体 ) 1998~2005 年 平均 :32,826 名 ぶどう球菌 カンピロバクター ウエルシュ菌 腸炎ビブリオ その他の病原大腸菌

不明 自然毒 ノロウイルス ( 旧名 SRSV) 食中毒発生患者数 2006~2013 年 平均 :26,518 名 サルモネラ属菌 ぶどう球菌腸炎ビブリオその他の病原大腸菌 ウエルシュ菌 カンピロバクター 前 8 年間の約 81%

1. ウイルスによる食中毒 代表はノロウイルス : 以前は小型球形ウイルス (SRSV) と呼ばれた (1) 小型球形 (27~38nm) のウイルス. (2) 培養不可能な一本鎖 RNA ウイルスを持つ. (3) 感染ウイルス量 : 極少量 (100 個程度 ) でも感染. (4) ヒトからヒトへ感染する. 感染経路 : 汚染した飲食物の経口感染, 感染者の糞便や吐瀉物の接触感染. 空気感染 ( 汚染飛沫, 塵挨 ). (5) 潜伏期 :24~48 ( 平均 36) 時間. (6) 主な症状 : 吐き気, 嘔吐, 水様性下痢, 発熱. (7) 汚染食品 : カキ等の二枚貝の生食や, 給食や仕出し弁当等. (8) 中心温度 85, 1 分以上の加熱で消毒が可能.

ノロウイルス食中毒 発生日 : 2010 年 2 月 19 日発生場所 : 栃木県栃木市摂食者 :1,661 名, 患者 :469 名 ( 死者 0 名 ) 原因施設 : 飲食店, 原因食品 : 仕出し弁当事件の状況 : 幼稚園の給食, 告別式の参列者に弁当が提供された. 事件発生の原因 : 1 手洗い設備の不備が認められた. 2 納入業者もしくは原材料等に由来するノロウイルスが, 調理従事者 ( 感染者 ) の手指等を介して複数の食品を汚染した可能性が考えられた.

2. 細菌による食中毒 2.1. 細菌 ( 又は毒素 ) の体内への移行 1. 感染侵入型 : 菌が腸管内で増殖して腸管内の細胞に侵入し, 細胞を破壊する. サルモネラ属菌, チフス菌など. 2. 感染毒素型 : 菌が腸管内で増殖して毒素を産生する. 腸管出血性大腸菌, ウエルシュ菌など. ( 生体内毒素型である.) 3. 食品内毒素型 : 菌が食品中で増殖して毒素を産生する. 黄色ブドウ球菌, ボツリヌス菌など.

2.2. 感染侵入型 A. サルモネラ属菌 (1) 通性嫌気性のグラム陰性桿菌. (2) 牛, 豚, 鶏, ネズミ, ペット動物などの腸管内に分布する. (3) 潜伏期間 :8~48 時間. (4) 症状 : 吐き気, 腹痛, 下痢 ( 頻回 ), 高熱, 水様便や粘液便など. (5) サルモネラ エンテリティディスでは極少量 (10 2 ~10 3 個 /g) で食中毒を起こす. (6) 原因食品 : 鶏卵および卵料理, レバ刺し, 焼き肉, 焼き鳥, 弁当類など.

サルモネラ食中毒発生年月 : 2011 年 2 月 9 日発生場所 : 北海道岩見沢市摂食者 : 2,658 名, 患者 :1,522 名 ( 死者 0 名 ) 原因食品 : 給食 ( ブロッコリーサラダ ) 病因物質 : サルモネラ エンテリティディス原因施設 : 学校給食施設 ( 共同調理所 ) 事件の状況 : 小中学生が原因施設で調理された給食を喫食した. 事件発生の原因 : 1 殺菌が不十分 ( 調理器具の中性洗剤洗浄および温湯すすぎ洗い ). 2 鶏肉による交差汚染や跳ね水による汚染の可能性. 3 調理後の食品が長時間室温放置された.

2.3. 感染毒素型 : 生体内毒素型 B. 腸管出血性大腸菌 (1) グラム陰性の通性嫌気性桿菌. (2) 5 種類の病原大腸菌のうちの一つ. 動物の腸管内に分布する. ベロ毒素を産生する O157 など. (3) 潜伏期間 : 4~8 日 (4) 症状 : 激しい腹痛と頻回の水様性, 出血性下痢, 発熱は軽度, 続発症として有症者の 6~7% が重症な合併症 ( 溶血性尿毒症症候群 (HUS) または脳症 ) を発症し, 死に至ることもある. (5) 発症菌量は 10~100 個 /g と極めて少ない. (6) 原因食品 : ハンバーガー, サラダ, カイワレ大根, ユッケ等の生肉, 白菜の浅漬け, 井戸水など.

腸管出血性大腸菌 (O111,O157) 食中毒 発生日 : 2011 年 4 月 ~5 月発生場所 : 富山県, 石川県, 福井県, 神奈川県摂食者 : 不明, 患者 :181 名 ( 死者 5 名 ) 原因食品 : ユッケ ( 推定 ), 焼肉, もも肉原因施設 : 焼肉チェーン店 (6 店舗 ) 事件の状況 : 焼肉チェーン店で客が肉を焼く形式でカルビ, レバー, 生食用ユッケが提供された. 事件発生の原因 : ユッケは, 生食用食肉の衛生基準に基づく取扱いがなされなかった. 1 店ではトリミングや器具の消毒などが不足. 2 卸売業者もトリミング等の処理を怠った. 3 と畜場は生食用の出荷実績が無かった.

浅漬けによる O157 食中毒発生日 :2012 年 8 月 4 日 ( 死者発生 :8 月 11,13,28 日 ) 発生場所 : 北海道札幌市, 江別市, 苫小牧市等摂食者 : 不明, 患者 :169 名 ( 死者 :8 名 ) 原因食品 : 白菜浅漬け ( 岩井食品 ( 有 )) 原因施設 : 高齢者関連施設など 事件の状況 : 主に高齢者関連施設の住人が白菜の浅漬け商品を摂食したところ, 食中毒が発生. 原材料の汚染は検出できなかった. 食中毒の原因 : 1 製造者の製造, 管理工程が不十分と断定した. 2 商品は野菜を調味液に漬けただけで, 塩分濃度が低く, 発酵もしていないので菌が生存可能.

C. カンピロバクター 感染毒素型 (1) 微好気性条件を好むグラム陰性らせん菌. (2) 家畜, 家禽, ペット, 野生動物, 野鳥等あらゆる動物の腸管内に分布する. (3) 症状 : 腹痛, 発熱, 数日間持続する下痢 ( 腐敗臭便 ). (4) 潜伏期間 :2~7 日. (5) 少量の菌 (400~500 個 /g) で発症する. (6) 原因食品 : 加熱不十分の鶏肉, 豚肉, 牛肉料理, 学校給食, 仕出し弁当, 飲料水など.

カンピロバクター食中毒 発生日 : 2010 年 4 月 4 日発生場所 : 旭川市摂食者 : 28 名, 患者 :19 名 ( 死者 0 名 ) 原因食品 : 前日に調理提供された牛レバー刺し原因施設 : 飲食店事件の状況 : 職場の宴会にて飲食店で提供された食事を喫食した. 事件発生の原因 : 1 営業者は来客の要望で通常扱っていない牛レバー刺しを提供したこと, また, 加熱用表示を知りながら生食用として提供した. 2 営業者は生食用の危険性を十分理解していなかった.

D. ウエルシュ菌感染毒素型 (1) 偏性嫌気性のグラム陽性桿菌. (2) ヒトや動物の腸管内, 土壌, 下水など自然界に広く分布する. (3) 潜伏期間 :10~12 時間. (4) 症状 : 腹痛, 発熱, 下痢 ( 水様便 ) など, 吐き気, 嘔吐は少ない. (5) 耐熱性の芽胞を形成する. (6) 加熱食品の急速冷却, 又は再加熱が必要. (7) 原因食品 : 食肉調理品 ( ハム, ソーセージ ), 深鍋での調理品 ( シチューなど ), 学校給食, 仕出し弁当など.

芽胞の構造とその生活環 芽胞の模式図 生育に適さない環境 母細胞 + 前芽胞 ヒートショックなど

ウエルシュ菌食中毒 発生日 : 2011 年 12 月 13 日発生場所 : 堺市堺区摂食者 : 2,569 名, 患者 :1,037 名 ( 死者 0 名 ) 原因食品 : 12/13に調製された昼食または夕食原因施設 : 集団給食施設 事件の状況 : 約 2,500 名の入所者に毎日 3 食とも施設で調製した食事が提供された. 事件発生の原因 : 1 作業区域が明確に区分されていなかった. 2 食材を入れたコンテナが床面に直置きされた. 3 調理後長時間にわたり放置された食品もあった.

2.4. 毒素型 : 食品内毒素型 E. 黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus (1) 通性嫌気性のグラム陽性球菌. (2) 潜伏期間 :0.5~3 時間と短い. (3) 症状 : 嘔吐, 腹痛, 下痢など. (4) 菌は皮膚, 腸内に常在する. 特に傷口等から食品へ移行し, 食品表面で増殖して, 耐熱性の毒素を産生する. (5) 調理加熱程度で毒素を不活化できない. (6) 原因食品 : おにぎり, すし, おつくりなど. (7) 食中毒以外に肺炎, 髄膜炎, 敗血症等の感染症の起因菌でもある.

ブドウ球菌食中毒 発生日 : 2010 年 8 月 6 日発生場所 : 茨城県水戸市摂食者 : 31 名, 患者 :15 名 ( 死者 0 名 ) 原因食品 : 合宿所での調理食品原因施設 : 高等学校合宿所調理場事件の状況 : 部活合宿中に, 生徒は前日調理のサンドイッチ及びおにぎりを喫食し, 嘔吐を発症. 事件発生の原因 : 1 生徒数名が手袋やマスクを着けずに食品を前日に調理した. 2 記録的な猛暑で, 食品が長時間にわたり放置. 3 衛生管理の不備 ( 食材の管理, 調理場の整理整頓, 清掃消毒が不十分 ).

近年の食中毒原因微生物の特徴 微生物 特徴 腸管出血性大腸菌少量の菌数で発症, 致死率高い. ノロウイルス 少量で発症, ヒトからヒトへ伝染. サルモネラ属菌 少量の菌数の発症例が増えた. カンピロバクター 少量の菌数で発症. ウエルシュ菌加熱処理で芽胞が発芽する. 黄色ブドウ球菌 食品中で耐熱性の毒素を産生. 食中毒はヒトが生み出す疾病である. 従って, 適切な対応 ( 衛生管理 ) によっては減少するが, なかなか撲滅できないものである.

細菌性食中毒の発生原因 1. 食中毒菌の大部分が中温細菌である. 従って, 20~45 で栄養状態が良いと菌は増殖する. 2. 温度管理や殺菌が不十分である. a. 少量の菌数で発症する. サルモネラ エンテリティディス, カンピロバクター, O157 など. b. 芽胞菌の温度管理が不十分なため, 発芽して菌が増殖する. ウエルシュ菌 c. 温度管理が不十分なため, 食品中で菌が増殖して耐熱性の毒素が作られる. 黄色ブドウ球菌

食中毒発生の予防有害な微生物 ( 細菌やウイルス ) を, (1) 付けない. 新鮮 良質な原材料を用いる. 清潔な環境で食品を扱う ( 器具類, 手指などの洗浄 ). (2) 増やさない. 温度管理を適切に. 食品は 10 以下に冷却または 60 以上で保温. (3) 殺す ( 加熱殺菌 ) ウイルス :85, 1 分 ( 中心温度 ) 細菌 :75, 1 分 ( 中心温度 ) 芽胞菌 : 食品を急速冷却, 又は再加熱する. 更に, 出来上がった料理は早く食べる.

食中毒発生の予防 食中毒の発生の起源は, 我々ヒトである. (1) 有害な微生物, 有毒な自然毒に対する正確な知識を持つ. (2) 食中毒はいつでもどこでも起こりうることを再認識する. 豊かな食生活を満喫するためにどのような衛生管理が必要かをよく考える. 特に, 多くのヒトに食品 食事を提供する営業者は栄養面のみならず, 衛生面での注意 配慮が強く求められる.