2012 年 4 月 27 日 宇宙惑星探査の新展開 超小型衛星が拓く 新しい宇宙惑星探査 大学院理学研究院宇宙理学専攻 創成研究機構宇宙ミッションセンター 栗原純一 1
自己紹介 宇宙理学専攻宇宙惑星グループ http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~psg/ 創成研究機構宇宙ミッションセンター http://www.cris.hokudai.ac.jp/cris/smc/ 2
今日の講義の概要 衛星とは? 衛星の種類と目的 衛星システムの基本的な構成 超小型衛星とは? 超小型衛星のメリット デメリット 超小型衛星の例 超小型地球観測衛星 雷神 2 雷神 2 のミッション 最先端技術を使った搭載機器 3
衛星 satellite とは? 1. 惑星 準惑星の周囲を公転する天体 月 2. 地球などの惑星や月の周囲を公転する 人工的に作られた天体 人工衛星 探査機 probe との違い 小惑星探査機 はやぶさ (MUSES-C) 金星探査機 あかつき (PLANET-C) 月周回衛星 かぐや (SELENE) 宇宙機 spacecraft との違い スペースシャトル 国際宇宙ステーション (ISS) 金星探査機 あかつき 4
衛星の種類と目的 mission 通信衛星 放送衛星 BSAT-3 1 超高速インターネット衛星 きずな (WINDS) 地球観測衛星 気象衛星 ひまわり (MTSAT) 2 陸域観測技術衛星 だいち (ALOS) 第一期水循環変動観測衛星 しずく (GCOM-W1) 科学衛星 太陽観測衛星 ひので (SOLAR-B) X 線天文衛星 すざく (ASTRO-EII) 3 磁気圏観測衛星 あけぼの (EXOS-D) 1 2 3 その他 GPS 衛星 4 軍事衛星 4 5
衛星システムの基本的な構成 ミッション系 観測などを行う観測機器 電源系 電気を作り出す太陽電池 通信系 地上と通信するアンテナ 姿勢 軌道制御系 姿勢や軌道を変えるアクチュエータ データ処理系 コマンドやデータの処理をするメインコンピュータ 構体系 衛星を支える構造 熱制御系 温度をコントロールする素子や材料 磁気圏観測衛星 あけぼの 6
超小型衛星 micro satellite とは? 小型衛星 大型衛星 small satellite large satellite ピコ ナノ マイクロ ミニ pico nano micro mini 1 kg 10 kg 100 kg 1,000 kg 10,000 kg 質量 1,000 万円 1 億円 10 億円 100 億円 費用 1 年 2 年 5 年 10 年 開発期間 Smaller, Faster, Cheaper: より小さく より早く より安く 7
日経サイエンス 2011 年 9 月号 8
超小型衛星のメリット デメリット メリット 低価格 短期間 少人数で開発できる 大学や中小企業でも開発できる 数を増やしやすい 最新の技術を試せる コンステレーション ( 協調動作 ) が組める デメリット 太陽電池で発電できる電力が小さい 搭載機器の寸法 重量 消費電力の制限が厳しい 地上との通信速度が遅い 部品や技術の信頼性が低いので失敗しやすい 専用の打ち上げロケットが少ない 9
超小型衛星の例 1 鯨生態観測衛星 観太くん (WEOS) 千葉工業大学が開発 2002 年打ち上げ 2008 年運用終了 鯨に装着した発信機からの位置情報などのデータを衛星で受信する計画 鯨に発信機を取り付けることができず かわりにクマなどの陸上動物を観測 10
超小型衛星の例 2 小型科学衛星 れいめい (INDEX) JAXA 宇宙科学研究所が開発 2005 年打ち上げ 運用中 小型衛星技術の軌道実証 オーロラの観測が目的 地上観測と連携しながら オーロラの微細構造観測を行っている 11
超小型衛星の例 3 スプライト観測衛星 雷神 (SPRITE-SAT) 東北大学が開発 2009 年打ち上げ 運用中 高高度発光現象 スプライト の観測が目的 初期運用中に電源系トラブル発生 休眠状態に 12
超小型地球観測衛星 雷神 2 (RISING-2) 北大と東北大が共同開発 雷神 のリベンジと性能のグレードアップ 本格的な地球観測衛星 2013 年 だいち 後継機 ALOS-2 に相乗り打ち上げ決定 13
雷神 2 のミッション 1 スプライトの観測 スプライト : 宇宙と地球を結合する放電発光 巨大落雷に伴って積乱雲の上にも電流が流れる現象 上から水平構造をとらえることがメカニズム解明の鍵 14
スプライトの宇宙観測は世界が注目 激しい国際競争の中で日本がリード 15
雷神 2 のミッション 2 積乱雲の稠密観測 積乱雲の可視 近赤外での高解像度撮影 複数波長での詳細な雲構造と水蒸気分布を記録 ゲリラ豪雨のメカニズム解明および nowcast/forecast のための基礎技術確立 連続撮影 ( ステレオ撮影 ) によって 積乱雲の立体構造を再現 ISS から撮影したアフリカ上空の積乱雲 ( NASA) 3-4 km 16
見たい時にすぐ見ることができる 災害監視への応用 17
RISING-2 搭載理学機器 新規開発ユニット 高解像度マルチスペクトル望遠撮像系 (HPT) [HPC-B] 撮像用 CCD [HPC-G] 撮像用 CCD [HPC-R] 撮像用 CCD [HPC-M] 撮像用 CCD ダイクロイックミラーで光を分離 [LCTF] 液晶波長可変フィルター [HPT] 高解像度望遠鏡 ( 新素材 ZPF ミラー ) 口径 10 cm 焦点距離 1 m 地上分解能 5 m [WFC] 理学観測用魚眼 CCD カメラ 視野角 134 180 [LSI-1] 理学観測用 CMOS カメラ 1 (740-830 nm) 視野角 29 29 [LSI-2] 理学観測用 CMOS カメラ 2 (762 nm) 視野角 29 29 [VLFR] 理学観測用 VLF 受信機 [BOL] 理学観測用ボロメータアレイ ( 中間赤外 ) 視野角 32 24 18
地球観測の応用分野と 要求される地上分解能 (GSD) ハイパースペクトル 水文 海洋 農業 森林 マルチスペクトル 環境監視資源監視 情報収集 交通 都市開発 パンクロマチック 地形 GSD 5m 小型衛星による地球観測において 地上分解能 5 m は最も応用範囲が広い 19 (Sandau et al., 2010)
地上分解能の達成に必要となる 衛星搭載光学系の口径 軌道高度 800km の場合 紫外 地上分解能 可視 赤外 GSD 5m 地上分解能 5 m を達成するには 光学系の口径が最低 10 cm は必要である 口径 20 (Guelman and Ortenberg, 2009)
従来のマルチスペクトル観測機器 POLDER-3 / PARASOL 重量 :32kg / 120kg バンド数 :15 地上分解能 :6 7 km フィルターホイール方式はバンド数を増やすとホイールが大きくなる ホイールを回転させるための駆動部が必要 装置寸法 重量 費用が大 フィルターホイール方式による観測の模式図 CNES 21
RISING-2 搭載 高機能マルチスペクトル望遠撮像系 (HPT) 北大 東北大が共同開発する 50 kg 級超小型衛星 RISING-2 に搭載する高機能マルチスペクトル望遠撮像系を開発 RISING-2 の主ミッションである地上 5 m 分解能の高解像度地球観測を目指す 新素材 ゼロ膨張セラミックス (ZPF) を用いた高剛性反射鏡 液晶波長可変フィルタ (LCTF) による超多波長マルチスペクトル撮像 22
RISING-2/HPT による 地上分解能 5m 撮像 高度約 700 km の太陽同期軌道から地球撮影 目標地点をコマンド設定 全地球の任意地点を撮影可能 解像度 : 5m / pixel @ 700km (659 494 pixel = 3.2 2.4 km) 北大キャンパスを撮影した場合 2.4 km (494 pix) Google 3.2 km (659 pix) 23
HPT の構造 カセグレン式反射望遠鏡 ( 口径 10 cm 焦点距離 1 m) CFRP 製鏡筒 液晶波長可変フィルター 重量 : 約 3.4 kg ZPF 製主鏡 副鏡 ( 株 ) ジェネシア 24
HPT の搭載位置 EM FM 25
ゼロ膨張セラミックス (ZPF) ミラー セラミックスの高剛性を保ちながら 低熱膨張ガラスと同等の低熱膨張性を持つ画期的な新素材 研削 + 磁性流体研磨 (MRF) による鏡面加工 ZPF セラミックス (ZPF-N) 低熱膨張ガラス (Zerodur ) 熱膨張率 (10-6 / K) -0.03~+0.01 (@ 20-26 ) 0±0.02 (@ 0-50 ) ヤング率 (Gpa) 150 90 比重 2.5 2.5 熱伝導率 (W/m K) 5 2 主鏡 副鏡 26 ( 株 ) 日本セラテック ( 株 ) ナガセインテグレックス
液晶波長可変フィルター (LCTF) 多層液晶セルによる波長可変の干渉フィルター 波長範囲 650~1050 nm において 1 nm 刻みで中心波長を制御 400 バンド バンド幅 (FWHM): 10~30 nm 平均 20.8 nm 遷移 ( スキャン ) 時間 : 39~259 msec 平均 138 msec 重量 80g 消費電力 0.5W 以下 LCTF 本体 LCTF の透過率特性 27 ( 財 )21 あおもり液晶先端技術研究センター ( 現 アスミタステクノロジー株式会社 )
超小型衛星による地球観測における 液晶波長可変フィルターの優位性 電気的なバンド選択により駆動部不要 超多波長マルチスペクトルのため 分析バンドを自在に組み合わせ可能 高い姿勢安定度 データレートが要求されるハイパースペクトル観測機器に比べ 重量面においても優位 液晶波長可変フィルターのラインアップ 用途 波長範囲 平均バンド幅 備考 (FWHM) 近赤外用 650~1050 nm 20 nm RISING-2で世界初の宇宙応用 可視用 420~700 nm 20 nm 航空機搭載 レッドエッジ用 650~720 nm 4 nm 植生観測に特化 28
まとめ 人工衛星は現代社会の様々な面で役立てられている 超小型衛星は より小さく より早く より安くを目指して開発され 世界中で急速に広まっている 2013 年に 北大は東北大と共同で 最先端の観測機器を搭載した超小型衛星を打ち上げる予定である 29