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東京健安研セ年報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst.P.H., 56, 81-86, 2005 ダイエット健康食品中に含有される医薬品の検索法と健康被害を起こした 天天素清脂胶嚢 への適用 守安貴子 *, 蓑輪佳子 *, 岸本清子 *, 重岡捨身 *, 門井秀郎 * *, 安田一郎 Determination of Drugs in the Dietary Supplements for Weight Loss and Applying to Tentenso Caused Health Damage Takako MORIYASU *, Keiko MINOWA *, Kiyoko KISHIMOTO *, Sutemi SHIGEOKA *, Hideo KADOI * and Ichiro YASUDA * Keywords: 健康食品 dietary supplements, ダイエット weight loss, 食欲抑制剤 suppression appetite, 代謝機能亢進剤 advance metabolism, 瀉下剤 purgative, 利尿剤 diuretic, 薄層クロマトグラフィー TLC, 液体クロマトグラフィー / フォトダイオードアレイ HPLC/PDA, 液体クロマトグラフィー / 質量分析 HPLC/MS, 天天素清脂胶嚢 weight loss capsule tentenso 緒言健康志向の高まりにより, いわゆる 健康食品 の利用は年々増加する傾向にある. 中でもダイエットを目的としたものは, 老若男女を問わず関心が高く, 様々な商品が販売されている. その一方で, 平成 14 年に死亡者 3 名, 総患 1 者数約 700 名を出した中国製ダイエット健康食品被害事例 -3) のように, 医薬品成分が添加された薬事法違反の例は後を絶たない. 平成 17 年 6 月にも, 天天素清脂胶嚢 ( 以下, 天天素 と略す) と呼ばれる製品から, 食欲抑制剤シブトラミン及びマジンドール, 瀉下剤のフェノールフタレイン, 生薬のダイオウが検出される事例があった. このような事例による健康被害の拡大を防ぐためには, 健康食品に含有される医薬品成分を迅速に検索し, 都民に知らせることが重要である. ダイエットを目的とした健康食品に混入される可能性のある医薬品は, 食欲抑制剤, 代謝機能亢進剤, 利尿剤, 瀉下剤等様々である. また, 近年は, 既存の医薬品成分だけでなく, これらを化学修飾した新規化合物が混入される事例も多く, 成分を特定することは難しい. そこで, まず, 薄層クロマトグラフィー (TLC) を用いた一次検索により幅広く検索を行った後, 分離の良い液体クロマトグラフィー / フォトダイオードアレイ (HPLC/PDA) により二次検索を行う方法を検討した. 検出された医薬品はさらに, HPLC/MSで質量スペクトルを標準品と比較し, 確認することとした. 本法を, 健康被害を引き起こした 天天素 に適用し試験したところ, 良好な結果が得られたので報告する. 実験方法 1. 検索対象成分検索の対象とする医薬品成分 20 種はTLC 及びHPLCの試 験結果と共に表 1に示した. 2. 試料健康被害が生じたとして, 薬事監視課より分析依頼のあった 天天素 9 製品とインターネットにより購入した1 製品. 3. 試薬及び装置 1) 標準品及び試薬塩酸エフェドリン, 塩酸メチルエフェドリン, 塩酸プソイドエフェドリン, 塩酸フェニルプロパノールアミン, ニケタミド, 塩酸フェンフルラミン, メフェンテルミンヘミスルフェート, 塩酸フェンテルミン, マジンドール, ビサコジル, ピコスルファートナトリウム, ヒドロクロロチアジド, クロロチアジド及びフロセミドは Sigma 社製, センノシドA 及びセンノシドBは松浦薬業 ( 株 ) 製, フェノールフタレインは和光純薬 ( 株 ) 製, 塩酸シブトラミン (1 水和物 ) は国立医薬品食品研究所分与品, 脱 N-ジメチルシブトラミンは市販製品から単離精製したもの及びN-ニトロソフェンフルラミンは合成品を用いた. アセトニトリルは和光純薬製 HPLC 用を用い, ドラーゲンドルフ試薬は日本薬局方 4) の試薬試液によった. その他は試薬特級品を用いた. 2) HPLC/PDA 装置日本分光 ( 株 ) 製 PU-980 型ポンプ, 同 MD-915 型フォトダイオードアレイ検出器, 同 DG-980-50 型デガッサー, 同 AS-950 型オートサンプラー, 同 CO-965 型恒温槽,JASCO-BORWINデータ処理システムにより構成した装置を用いた. 3) HPLC/MS 装置日立製作所 ( 株 ) 製 M-1200Hシステムを用いた. * 東京都健康安全研究センター医薬品部医薬品研究科 169-0073 東京都新宿区百人町 3-24-1 * Tokyo Metropolitan Public Health Research Institute 3-24-1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0073 Japan

82 4. 測定条件 1) TLC 薄層板 :MERCK 社製 Silica gel 60 F 254 (Art No.5715) を105 で1 時間乾燥したもの. スポット量 :5 μl. 検出 : 暗所にて紫外線 254 nmを照射し, 吸収スポットの有無を確認. また, ドラーゲンドルフ試薬噴霧後 10% 硫酸を噴霧し, 橙色のスポットの有無を確認. 展開溶媒 :1クロロホルム / メタノール /28% アンモニア水 (90:10:1), 21-ブタノール / 酢酸 / 水 (7:1:2) 2) HPLC/PDA カラム :Cosmosil 5C 18 -AR-Ⅱ(4.6 mm i.d. 150 mm, 5 μm), カラム温度 :40, 流速 :1 ml/min, 検出 :PDA 200~ nm, 試料注入量 :10 μl, 移動相 :1A 液 -アセトニトリル/ 水 / リン酸 (100:900:1, ラウリル硫酸ナトリウムを10mM 含有 ) とB 液 -アセトニトリル/ 水 / リン酸 (900:100:1, ラウリル硫酸ナトリウムを10mM 含有 ) のグラジェント分析,A 液 :B 液 90:10 30:70(0 分 25 分,35 分まで保持 ).2A 液 -アセトニトリル/ 水 (100: 900, 臭化テトラブチルアンモニウムを3mM 含有 ) とB 液 - アセトニトリル / 水 (900:100, 臭化テトラブチルアンモニウムを3mM 含有 ) のグラジェント分析,A 液 :B 液 100: 0 50:50(0 分 10 分,20 分まで保持 ). 3) HPLC/MS 天天素 の分析条件カラム :Cosmosil 5C 18 -AR-Ⅱ(4.6 mm i.d. 150 mm, 5 μm), カラム温度 :40, 流速 :1 ml/min, 試料注入量 ;10 μl, 移動相 :0.1% 蟻酸溶液 :0.1% 蟻酸含有アセトニトリル (65:35), 検出 :APCI +, スキャンモード, ドリフト電圧 :30 V, マルチプライアー電圧 :1800 V, ニードル電圧 :2700 V, ネブライザー温度 :200, デソルベーション温度 :. 5. 標準溶液の調製いずれの成分もTLC 用は約 1,000 ppm,hplc 用は約 50 ppm のメタノール溶液を用いた. 6. 試料溶液の調製試料は粉末とし, 約 1/2 日用量をはかりとり,70% メタノール30 mlで1 回,15 mlで1 回, 超音波 15 分及び振とう 30 分を行い抽出した 5). 遠心分離後上澄液を合わせ,50 ml にメスアップした. これを0.45 μmのメンブランフィルターでろ過したものをhplc 用試料溶液とした.TLC 用には, HPLC 用試料溶液を40 mlとり, 溶媒留去後メタノール0.5 mlに溶解したものを用いた. 結果及び考察 1. 検索対象成分本法では, これまで健康食品に混入した事例があった医薬品成分を中心に, 基礎代謝亢進, 食欲抑制, 利尿, 瀉下作用のある成分を検索の対象とした. 2.TLC 条件の検討 20 種の医薬品成分をTLCにより完全分離することは, 実際のところ難しい. しかし, 脂質, タンパク質, 糖質, 他 の化学成分など様々な夾雑物を含む健康食品に含有される, 多種類の医薬品成分を検出するには, まず, 幅広い成分検索を行う必要があり, このような場合 TLCは有用である. また,TLCは展開溶媒を変えることで試料溶液中の成分を幅広く検索することができ, 一度に大量の検体を処理できることも第一義的な検索法として適当であると考えられた. そこで, まずTLCにおける各種展開溶媒による分離及び検出条件について検討した. 1) 展開溶媒の検討展開溶媒としてクロロホルム, ヘキサン, アセトン, アルコールをそれぞれ主に用いた系について検討した. 酸性成分 ( センノシドA,B, ピコスルファートナトリウム, ヒドロクロロチアジド, クロロチアジド, フロセミド ) についてはアルコール系が, 塩基性 中性成分 ( 上記酸性成分以外の成分 ) の分離にはアンモニアを加えたクロロホルム系が良好であった. そこで, クロロホルム系とアルコール系について条件検討し, その結果を表 1 に示した. クロロホルム / メタノール / アンモニア水の組成比を変えた3 条件 TLC1~3( 詳細は表 1の欄外に記載 ) のうち,TLC1は, 分析対象とした塩基性 中性成分のRf 値がいずれも0.48 以上と高かった. 逆にTLC3ではエフェドリン類がほとんど展開せず,Rf 値は0に近い値であった. 一方, TLC2ではRf 値が0.16~0.87と適度に分離したため, 本条件を設定した. アルコール系では, 酢酸を加えた2 条件 TLC4, 5( 詳細は表 1の欄外に記載 ) とも, 分離に大きな差はなかった. しかし, 健康食品などの製品を実際に試験した場合,TLC4の方が, 夾雑物の妨害が少なかったためTLC4を設定した. 2) 検出方法の検討対象とした成分の多くは, 共役する二重結合がその構造にあるので紫外線 254 nm 付近に吸収を持つ. したがって,20 種すべての成分が, 暗所紫外線 254 nm 照射下での検出が可能であった. その他の検出法として, ドラーゲンドルフ試薬,10% 硫酸, ニンヒドリン, ブロモクレゾールグリーン, フタル酸アニリン, リンモリブデン酸,4-ジメチルアミノベンズアルデヒド,2,7ジクロロフルオレセイン, ジニトロフェニルヒドラジン等, 各噴霧試薬による発色を検討した. その結果, ドラーゲンドルフ試薬により発色する成分が最も多く, 構造の中に窒素を持つ塩基性 中性成分 12 種が橙色に発色した. また, この発色は, 更に10% 硫酸を噴霧することにより, 色調が強まることから, これらの成分の検出にはこの組み合わせを用いることとした. 一方, 酸性成分はブロモクレゾールグリーン試薬により黄色に発色したが,TLCの展開溶媒に1ではアンモニア水,2では酢酸を用いていることから, 展開後は, 薄層板全体が塩基性あるいは酸性に偏り, 成分本来の発色を示さなかった. 他の噴霧試薬でも特徴的に発色するものがなかったため, 酸性成分は, 紫外線照射のみによる検出を行うこととした. なお, ほとんどの成分において, 紫外線照射下での検出はドラーゲンドルフ試薬による発色より感度が良く, いずれの成分も500 ng/ スポット以上の検出感度があった. こ

東京健安研セ年報 56, 2005 83 れは, 薬用量が最も低いマジンドールでも, その薬用量 (0.5 mg/ 日 ) の1/5を検出できる感度である. 3.HPLC/PDA 条件の検討 TLCによる検索法は第一義な検索として有用であるが, 医薬品成分 20 種を判別するのは不可能であった. そこで, 医薬品が混入している疑いのあるものの二次検索法として, 分離能の高いHPLC/PDA 法について検討した. カラムにはC18カラムを用いることとし, まず, スルホン酸系イオン対試薬を用いたグラジェント条件 HPLC1,2 ( 条件は表 1の欄外に記載 ) を実施した. 結果を表 1に示したが, いずれの条件も, 酸性成分である, センノシドA 及びB, ピコスルファートナトリウム, ヒドロクロロチアジド及びクロロチアジドの保持が弱く, 別の条件検討が必要であった. 保持された成分についてみると,HPLC1では, エフェドリン類の溶出が早く, ニケタミド,N-ニトロソフェンフルラミン, センノシドA 及びBと保持時間が重なっていた. 一方 HPLC2では, シブトラミンと脱 N-ジメチルシ 薬効 基礎代謝亢進 食 欲 抑 制 医薬品成分名 表 1.TLC 及び HPLC 試験結果 * TLC Rf 値クロロホルム系アルコール系 TLC1 TLC2 TLC3 TLC4 TLC5 TLC 検出 UV254 ドラーゲンドルフ nm 照射試薬噴霧 HPLC 保持時間 ( 分 ) HPLC1 HPLC2 エフェドリン 0.48 0.18 0.05 0.49 0.40 + + 5.0 19.0 - メチルエフェドリン 0.65 0.34 0.10 0.36 0.35 + + 5.3 19.2 - プソイドエフェドリン 0.50 0.20 0.05 0.45 0.40 + + 4.9 18.7 - フェニルプロパノールアミン 0.53 0.16 0.05 0.56 0.45 + + 4.3 18.5 - ニケタミド 0.80 0.66 0.33 0.63 0.65 + - 3.5 15.3 6.8 フェンフルラミン 0.77 0.62 0.26 0.51 0.45 + + 14.0 23.5 - HPLC3 N -ニトロソフェンフルラミン 0.87 0.87 0.75 0.94 0.90 + + 3.5 22.2 18.4 メフェンテルミン 0.67 0.30 0.08 0.44 0.39 + + 7.8 20.7 - フェントラミン 0.59 0.10 0 0.50 0.44 + + 12.6 22.2 - フェンテルミン 0.71 0.38 0.18 0.63 0.53 + + 7.1 20.0 - マジンドール 0.77 0.43 0.18 0.40 0.39 + + 12.4 22.6 - シブトラミン 0.87 0.85 0.82 0.50 0.47 + + 21.9 27.6 - 脱 N -ジメチルシブトラミン 0.88 0.71 0.55 0.66 0.63 + + 21.1 27.2 - 瀉 下 利尿 センノシドA 0 0 0 0.44 0.39 + - 6.4 3.1 11.0 センノシドB 0 0 0 0.26 0.26 + - 4.5 1.7 10.7 ビサコジル 0.88 0.79 0.69 0.93 0.94 + + 16.1 21.8 16.3 ピコスルファートナトリウム 0 0 0 0.24 0.42 + - 2.1 1.4 13.4 フェノールフタレイン 0.60 0.18 0.07 0.96 0.95 + - 18.1 9.6 11.8 ヒドロクロロチアジド 0.3 0 0 0.88 0.92 + - 3.7 2.4 5.9 クロロチアジド 0.1 0 0 0.83 0.90 + - 3.3 2.3 9.4 フロセミド 0.1 0 0 0.91 0.87 + - 15.2 7.4 12.0 * +: 検出,-: 不検出 TLC1: クロロホルム / メタノール / アンモニア水 (75/25/1),TLC2: 同 (90/10/1),TLC3: 同 (90/5/1) TLC4:1-ブタノール / 酢酸 / 水 (7/1/2),TLC5:1-プロパノール/ 酢酸エチル / 水 / 酢酸 (40/40/3/1) HPLC1:A 液 アセトニトリル / 水 / リン酸 (100:900:1, ヘキサンスルホン酸ナトリウムを5mM 含有 ) B 液 アセトニトリル / 水 / リン酸 (900:100:1, ヘキサンスルホン酸ナトリウムを5mM 含有 ) A 液 :B 液 90:10 55:45(0 分 25 分 ) HPLC2:A 液 アセトニトリル / 水 / リン酸 (100:900:1, ラウリル硫酸ナトリウムを10mM 含有 ) B 液 アセトニトリル / 水 / リン酸 (900:100:1, ラウリル硫酸ナトリウムを10mM 含有 ) A 液 :B 液 90:10 30:70(0 分 25 分,35 分まで保持 ) HPLC3:A 液 アセトニトリル / 水 (100:900, 臭化テトラブチルアンモニウムを3mM 含有 ) B 液 アセトニトリル / 水 (900:100, 臭化テトラブチルアンモニウムを3mM 含有 ) A 液 :B 液 100:0 50:50(0 分 10 分,20 分まで保持 )

84 ブトラミンとの分離が難しいものの, その他は良好な分離を示したため, 本条件を採用した. HPLC2では分析できない酸性成分は, アミン系のイオン対試薬を用いたグラジェント分析 HPLC3( 詳細は表 1の欄外に記載 ) で良好に分離したため, これらの成分についてはHPLC3を設定した. この条件では,HPLC2で分析できたフロセミド, フェノーレフタレイン, ニケタミド, ビサコジル,N-ニトロソフェンフルラミンも分析可能であった. HPLC2と3のクロマトグラムを図 1に示した. 図 2に各成分の紫外部吸収スペクトルを示した. エフェドリン類, フェンフルラミン, フェンテルミン, メフェンテルミンは吸収に起因する骨格が等しいため, 紫外部吸収スペクトルも同一であった. また, シブトラミンと脱 N-ジメチルシブトラミンも同様であったが, その他の成分については, それぞれ特徴的な吸収スペクトルを示し, 定性の上で有用であった. uau 1.5E+05 1.0E+05 5.0E+04 B D G M E A F H N O C P J K Q R I L Ⅰ S uau 1.5E+05 1.0E+05 5.0E+04 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 min H E G Ⅱ D C B F A O P 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 min 図 1. 標準品の HPLC クロマトグラム Ⅰ:HPLC2 のマックスプロット,Ⅱ:HPLC3 の 240nm プロット ( 分析条件は表 1 に記載 ) A: ピコスルファートナトリウム,B: センノシド B,C: クロロチアジド,D: ヒドロクロロチアジド,E: センノシド A,F: フロセミド,G: フェノールフタレイン,H: ニケタミド,I: フェニルプロパノールアミン,J: プソイドエフェドリン,K: エフェドリン, L: メチルエフェドリン,M: フェンテルミン,N: メフェンテルミン,O: ビサコジル, P:N- ニトロソフェンフルラミン,Q: マジンドール,R: フェンフルラミン,S: シブトラミン及び脱 N ジメチルシブトラミン 0.09 0.08 D 0.06 Abs 0.04 0.02 A B C E 0 0.15 J 0.1 Abs 0.05 H I -0.01 Wavelength [nm] 0.12 F 0.1 G 0.05 0.01 0.5 0.4 0.3 0.2 M 0.1 L K 0 Wavelength [nm] 図 2. 標準品の紫外部吸収スペクトル A: エフェドリン類, フェンフルラミン, フェンテルミン, メフェンテルミン,B: シブトラミン, 脱 N- ジメチルシブトラミン,C: N- ニトロソフェンフルラミン,D : ニケタミド,E: マジンドール,F: センノシド A,G: センノシド B,H: ピコスルファート,I: ビサコジル, J: フェノールフタレイン,K: フロセミド,L: クロロチアジド,M: ヒドロクロロチアジド

85 2) HPLC/PDAの結果 HPLCのクロマトを図5に示した 4 健康被害を起こした 天天素 の分析 図3に示した 天天素 は インターネットを中心に TLCの結果同様 マジンドール シブトラミン フェノー ダイエットを目的とした健康食品として全国規模で販売 ルフタレインと保持時間が一致した 天天素 ではマジ されていた しかし これを摂取していた都内の女性が亡 ンドールとフェノールフタレインの含有量が100倍近く異 くなり 天天素 との因果関係が疑われた その後 日 なり クロマト上ではマジンドールが極小ピークとなるが 6) 紫外部吸収スペクトルをみると 標準品と完全に一致し に上った 含有されていた成分のうち マジンドールは向 確認が可能であった その他の2成分も同様に一致した 精神薬に指定されており 医師の指示の下で厳密に使用さ クロマトの上で特に妨害となるピークは認められず 良好 れるべき医薬品である また シブトラミンも欧米で使用 な試験結果であった 本全国でこれによる被害が報告され その被害者は123名 されている医薬品であるが 入手には医師の処方箋が必要 uau である フェノールフタレインは発ガン性が強く 現在は 8.0E+05 使用が禁止されている このような作用の強いあるいは有 4.0E+05 害な成分が健康食品に含有されていたのは 大変 危惧さ れるべき事である A C B 0.0E+00 1.2E+06 この 天天素 の試験に 本法への適用を試みた Ⅰ 8.0E+05 Ⅱ A 4.0E+05 B C 20.00 [min] 0.0E+00 5.00 10.00 15.00 図5 天天素清脂胶嚢のHPLCクロマトグラム Ⅰ 標準溶液 Ⅱ 天天素清脂胶嚢 A:フェノールフタレイン B:マジンドール C:シブトラミン 分析条件 HPLC2 詳細は表1に記載 3) HPLC/MSによる確認 本法では多成分の一斉検索を目 的としているため 検索対象成分すべてについて 成分 個々のHPLC/MSによる確認試験の検討は行っていない し 図3 天天素清脂胶嚢の外観及び内容物 かし 検索により製品から成分を検出した場合は 精度の 高いHPLC/MSなどによる確認試験を通常行っている そこ 1) TLCの結果 天天素 のTLCの結果を図4に示した で 天天素 について HPLC/MSを用いた確認を行った マジンドール シブトラミン フェノールフタレインとRf その結果 m/z 285 マジンドール 280 シブトラミン 値が一致するスポットが得られ マジンドール及びシブト 319 フェノールフタレイン いずれもM H を検出し ラミンはドラーゲンドルフによる発色も同様であった ま TLC及びHPLC/PDAの結果を裏付ける結果が得られた た 展開溶媒①はアルカリ性であるため フェノールフタ 4) 試験結果 天天素 10検体の結果を表2に示した レインと思われるスポットは 展開中淡赤色を示し 標準 含有量は マジンドール1.2 1.7mg/カプセル シブトラミ 品の挙動と一致した ン5.6 8.8 mg/カプセル フェノールフタレイン97 126 Ⅰ mg/カプセルであり これらはいずれも薬効を現すのに充 Ⅱ 分な量であった このように 合成医薬品は比較的検出量 ① ② ① ② に大きな差はなかったが 製品の中には生薬のダイオウを 検出するものがあり 製品の成分組成は不統一であった マジンドールとシブトラミンはどちらも食欲抑制剤であ り フェノールフタレインとダイオウも同様に瀉下剤であ る このように 同じ薬効を示すものが重なって含有され ていたことにより 作用が大変強力となり 健康被害につ ながったものと推測される A BCD ABCD ABCD ABCD 図4 天天素清脂胶嚢のTLCクロマトグラム Ⅰ 紫外線照射 Ⅱ ドラーゲンドルフ試薬噴霧 ① TLC2 ② TLC4 分析条件は表1に記載 A:シブトラミン B:天天素 C:マジンドール D:フェノールフタレイン

86 * 表 2. 天天素清脂胶嚢の試験結果 マジンドール シブトラミン フェノールフタレインダイオウ 検体 1 1.5 7.0 123 検出 検体 2 1.5 6.9 119 検出 検体 3 1.7 7.6 126 検出 検体 4 1.3 5.9 106 不検出 検体 5 1.3 5.6 101 不検出 検体 6 1.5 7.0 117 検出 検体 7 1.5 6.7 111 検出 検体 8 1.6 7.3 125 検出 検体 9 1.7 8.8 118 検出 検体 10 1.2 6.7 97 検出 * 単位 :mg/ カプセル 結論ダイエット健康食品中に含有される可能性が高い医薬品の検索法について検討したところ, 以下のことが明らかとなった. 1.20 成分のうち塩基性 中性成分 14 種については, クロロホルム / メタノール / アンモニア水系による分離が良好であった. それ以外の成分については, ブタノール / 酢酸 / 水系を用いたTLC 分析を実施することとした. この2 条件を組み合わせることにより,20 成分の検索が可能であった. 2.HPLC/PDAを用いた検索法では, ラウリル硫酸ナト リウムと臭化テトラブチルアンモニウムをイオン対にそれぞれ用いたグラジェント分析を組み合わせることにより,20 成分の検索が可能であった. 3. 天天素 について本法を適用したところ, マジンドール, シブトラミン, フェノールフタレインを検出し, その含量は1カプセルあたり, マジンドールが1.2~1.7 mg, シブトラミンが5.6~8.8 mg, フェノールフタレインが97~ 126 mgであった. 文献 1) 厚生労働省医薬局監視指導 麻薬対策課報道発表資料 : 中国製ダイエット用健康食品による健康被害事例等, 2003 年 5 月 30 日 2) 守安貴子, 岸本清子, 蓑輪佳子他 : 東京衛研年報,54, 69 ~73,2003 3) 厚生労働省医薬局監視指導 麻薬対策課報道発表資料 : 中国製ダイエット用健康食品 ( 未承認医薬品 ) に関する調査結果,2003 年 2 月 12 日 4) 厚生労働省監修 : 第十四改正日本薬局方,155,2001 5) 浜野朋子, 瀬戸隆子, 塩田寛子他 : 東京衛研年報,52, 43 ~47,2001 6) 厚生労働省医薬局監視指導 麻薬対策課報道発表資料 : 中国製ダイエット用健康食品による健康被害事例等, 2005 年 7 月 6 日