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第 8 回八光熱の実験コンテスト報告書 生き物と温度の関係を見てみよう!! ~ 酵母の代謝速度へ温度が及ぼす影響の可視化 ~ 返町洋祐 ( 筑波大学大学院生命環境科学研究科負荷適応分子生物学研究室 ) 1. 背景 目的生命活動が温度に大きく影響されることは 草木の生長や自分自身の感覚を通じ 日常的に実感するところである これは 温度が生物の代謝と密接に関わっているためであり その本質は生体反応を触媒する酵素の至適温度にある 典型的な酵素の活性と温度は Fig. 1 に示されているような関係をもっており 活性が最大になる至適温度は 35~40 程度である場合が多い ヒトの体温が 36~37 である理由もここにある 酵素はタンパク質であるため 至適温度を大きく超過すると 卵が目玉焼きになるように本来の状態では無くなり 活性が失われる このような酵素の性質は生物を理解する上で重要な事柄であるものの 一目でこれを理解できる実験装置は これまで製作されていない 高校生物の教科書などでも 低温 適温 高温の 3 通りの実験例を示すのみであり 酵素活性が温度に対して連続的に変化することを視覚的に理解するには不十分である 本研究は 生物の代謝と温度の関係を簡便に可視化できる装置の製作を目的とする 生物材料として パン作りに用いられる酵母 Saccharomyces cerevisiae を用い アルコール発酵に伴って発生する二酸化炭素の定量によって代謝速度を評価する S. cerevisiae はグルコースを栄養源としてアルコール発酵を行い 1 mol のグルコースからエタノールと二酸化炭素を 2 mol ずつ生成する (C6H12O6 2C2H5OH + 2CO2 ) ため 二酸化炭素の発生速度は代謝速度を直接反映している 代謝速度と温度との関係性を視覚的に示す本装置は 直観的な理解を促す道具として教育現場などでの活用も期待できる Fig. 1. 酵素活性と温度との関係性 Fig. 2. 酵母の顕微鏡写真とアルコール発酵の代謝経路 茨城県つくば市天王台 1-1-1 総合研究棟 A515 1 E-mail : s1430340@u.tsukuba.ac.jp

2. 方法と結果 2.1. 実験装置の製作 2.1.1. 装置全体の概略本実験装置は 温度勾配のある環境に固定化された酵母を置き 発生する二酸化炭素を水上置換で捕集して体積を測定し それによって代謝速度の変化を観察するものである この装置は 温度勾配生成器 水上置換部品 固定化酵母 培養液 直流電源から構成される 温度勾配生成器は 両端にペルチェ素子を取り付けたステンレス板を用いた 水上置換部品は 透明アクリル板で櫛状のシリコーンシートを挟み込んだ構造とした 固定化酵母はアルギン酸カルシウムゲルを用いて作製した 培養液は すべての実験で 5% グルコース水溶液を用いた 直流電源は 直流安定化電源装置を使用した 前 3 者の製作については 次項以降詳述する Fig. 3 に 本実験装置の概念図を示す これは応募時点の構想段階のものであるが 基本的な仕組みは同じである Fig. 4. アルギン酸の構造式 Fig. 3. 実験装置の概念図 2

2.1.2. 温度勾配生成器ステンレス板の両端にペルチェ素子を設け 実験時にはそれぞれ逆の温度差を作り出すように通電した ステンレス板の上面には 固定化酵母を保持するためのシリコーン製の枠を乗せた ペルチェ素子は 金属プレートで挟み込むように固定し 同時にシリコーン枠も固定した シリコーン枠を挟み込むことで ステンレス板と固定用金属プレートを熱的に絶縁し 熱損失の抑制を図った 加えて これらの構造により 高熱伝導性シリコーン接着剤を用いずとも 装置を構成できるようになった Fig. 5. 温度勾配生成器の材料 Fig. 6. 温度勾配生成器 上段 : 表面, 下段 : 裏面 3

2.1.3. 水上置換部品 2 枚の透明アクリル板で櫛状のシリコーンシートを挟み込むことで 二酸化炭素の気泡が溜まる容器を作製した アクリル板には シリコーンシートで区切られた各レーンに溜まった気泡の量が測定できるように ml 単位で目盛を設けた 水上置換容器の下部には 気泡を効率的に収集するための漏斗状の構造を取り付けた 材料は柔らかいプラスチック板で これを 2 枚折り曲げて Y 字に取り付けた この水上置換部品は 発酵実験に先立って容器内に水を充填し 気泡が入らないように培養液中に沈めた 漏斗構造とアクリル板との間を 5 mm ほどあけることで 培養液へ沈める際に漏斗構造から容器内へ気泡の混入を防止できる これにより 容易に水上置換部品を使用できるようになった Fig. 7. 左側 : 漏斗構造用のプラスチック板 右側 : 水上置換容器 Fig. 8. 取り付けられた状態の漏斗構造 4

2.1.4. 固定化酵母酵母の固定化にはアルギン酸カルシウムゲルから成るビーズを用いた 酵母は 市販の製パン用ドライイーストをそのまま使用した ゲルビーズは以下のように作製した イースト 1 g を精製水 2 ml に懸濁し ここに 10% アルギン酸ナトリウム水溶液を 10 ml 加えて混合した 調整したイースト懸濁液を シリンジを用いて 2% 塩化カルシウム水溶液に滴下した これにより アルギン酸ナトリウムの Na + が Ca 2+ と置換され アルギン酸分子同士が架橋されることにより アルギン酸カルシウムのゲルビーズが生成される このゲルは 糖などの低分子を透過させつつ 酵母を閉じ込めることが出来る なお アルギン酸は海藻から得られる多糖類であり 食品の増粘剤としても使用されている安全な物質である このように作製されたビーズは 温度勾配生成器のステンレス板上に敷き詰められ その上からプラスチック網によって押さえつけられる形で発酵実験に供された 当初の計画では 固定化酵母は板状のアルギン酸カルシウムゲルを用いる予定であった しかし 板状ゲルは発酵実験で使用した際に ステンレス板とゲルとの間に気泡が蓄積し ゲルが剥離する 温度勾配が効果的に形成できなくなる 気泡の発生に偏りがある などといった大きな問題があった この問題は ゲル素材を寒天などに変更しても同様であった 今回 ゲルを板状にすることに拘泥せず 多量のビーズで代替したことはブレイクスルーであった Fig. 9. 上段 : ゲルビーズの作製 下段 : 作成されたゲルビーズ Fig. 10. 上段 : 敷き詰められたゲルビーズ 下段 : 発酵実験時の状態 5

2.2. 発酵実験 2.2.1. 酵母の発酵速度への温度の影響使用しているドライイーストの発酵速度が 培養液の温度から受ける影響を評価するため 気泡の発生速度を測定した 酵母が固定化されたゲルビーズを 2 ml 分 プラスチックチューブに入れ ここに 5% グルコース水溶液を 8 ml 加えた 10 分ほど発酵させて安定したのち チューブにゴム栓をはめ込み さらにシリンジを刺し込んだ これを所定の温度に加温または冷却し それぞれの気泡発生量と 要した時間を測定した 気泡発生量は シリンジの目盛で読み取った Fig. 11. 発酵速度測定の様子 Fig. 12. 培養液温度と発酵速度 2.2.2. 酵母の代謝速度へ温度が及ぼす影響の可視化プラスチック製水槽に 5% グルコース水溶液 900 ml を入れ ここに固定化酵母を保持した温度勾配生成器を設置した ここで 各ペルチェ素子に 3.2 A 通電し 温度勾配を作り出した 10 分間静置し 発酵速度が安定してきたところで 水上置換部品を設置した この時点から 5, 10, 15, 20 分後の水上置換容器内の気泡の量を記録した Fig. 13. 左側 : 実験装置の全景 右側 : 温度勾配生成器の近影 6

測定の結果 企図していた通り 水上置換容器内の中間のレーンに最も多く二酸化炭素が蓄積し 山なりのピークを描くグラフを作製することができた これは 本実験装置が 生物の代謝と温度との関係性を簡便に視覚化する という本研究の目的に適うことを示す結果である 高温 レーン番号 低温 1 2 3 4 5 6 5 分 10 分 15 分 Fig. 14. レーンごとの気泡蓄積量の推移 20 分 3. 総括本研究では 生物の代謝速度と温度との関係性を簡便に視覚化することを目的に 酵母による発酵を温度勾配のある条件下で行うことができ なおかつ発酵で生じた二酸化炭素の量を測定できる装置を製作した 実験の結果 製作した装置は期待通り 二酸化炭素の気泡の量を見るだけで 温度の高低によって酵母の代謝速度が いかに影響を受けるかということを実感できるものであることが示された この装置は 簡単に組み立てることができ また 発酵実験に要する時間は 15~20 分ほどで良い こういった点においても 簡便に 視覚化できているといえる コスト的にも 電源装置を除けば 2,500 円程度である 酵素活性について学習する際に利用できれば 非常に直観的に理解できる使い易い教材に成り得ると考えられる 4. 謝辞本研究は 株式会社八光電機からの助成金によって実施されたものです 熱の実験コンテストでの実験実施テーマとして 本研究をお選びくださいました社員の皆様方 殊にコンテスト事務局の上原明様に この場を借りて厚く御礼申し上げます 7